第10話「このソードマスターにスキルを!」
アクセルの街から少し離れた森林地帯。ここらに強いモンスターはおらず、道沿いに進めば無傷で森林地帯を抜け出せる。
だが、あくまで『道沿いに進めば』の話である。
ひとたび森の中へ入ってしまえば、猪型モンスターの縄張りに侵入してしまい、容赦ない突撃攻撃を食らう羽目になる。
下級モンスターであるが、多勢に無勢。中堅の冒険者であっても、猪軍団には苦戦を強いられる。好き好んで自ら森の中へ入るのは、余程痛めつけられたい変態か命知らずの死にたがりであろう。
もしくは、下級モンスター軍団を物ともしない実力者か。
「おっと危ない!」
猪の突撃をひらりとかわし、手に持っていた短剣で敵の身体を斬りつける。口では危なげなく言っているが、とても楽しそうに笑っている。
余裕を見せながらも華麗に立ち回っているのは、透き通った肌をこれでもかと露出しているラフな格好の銀髪盗賊、クリス。
「鬱陶しい奴等だ」
そんなクリスとは対照的な冒険者がもうひとり。猪の突撃を片足で止めると、天色の鞘から刀を抜いて、敵の身体を真っ二つに切り裂いた。
サラリと人間離れした技を見せたは、銀髪オールバックに青コートが特徴の新米冒険者であり、蒼白のソードマスターと呼ばれる男、バージル。
彼は視線を横に向けると、突撃するチャンスを伺っている猪が数匹。残る敵はあれで全部だろうと睨むと、剥き出しになっていた刀を一度鞘にしまい構える。左手に持つ天色の鞘から青白い光が輝き出すと──。
「ハァッ!」
バージルは、勢いよく刀を横へ振り抜いた。と同時に、刀身から青白い雷を纏う斬撃が目にも止まらぬスピードで飛び出した。
彼らのような下級モンスターが対応できる筈もなく斬撃を受けると、猪達はたちまち真っ赤な血しぶきを上げ、胴体は水平に真っ二つとなり息絶えた。
殲滅を確認したバージルは、静かに刀を鞘に納める。
「流石だねバージル! 君がいるとどんなモンスター相手でも心強いよ!」
「やかましい。さっさと宝を回収しろ」
喜びを分かち合おうとするクリスであったが、バージルに冷たくあしらわれる。ノリの悪い彼を見て、クリスは不満そうに頬を膨らましながらもお宝を探し始めた。
バージルがこの世界に来てから、既に一ヶ月が過ぎようとしていた。
クリスと協力関係を結んでいたバージルは、契約通りお宝探しに付き添いつつこの世界について学んでいった。
元いた世界にはなかった技術、種族、文化。どれも興味深いもので、気付けばこの世界の知識を得ることをひとつの楽しみにしていた。
そんな彼を見て心を許し始めていると感じたのか、クリスは以前よりもバージルに絡んでくるように。正確には、初めてお宝探しに出向いた日からか。
もっともバージルは心を開いているつもりは微塵もないので、今回のように軽くあしらっているのだが。
「あったあった! お宝はっけーんっ!」
掘った地面から目的のお宝を見つけ、クリスは喜びを表すように天へ掲げる。
土で汚れているものの、傷つけないよう綺麗にすれば高くつきそうな、手のひらサイズの虹結晶。彼女は軽く土を払い、結晶を両手に乗せて笑う。
「駆け出し冒険者の街から遠く離れていない近郊に宝が埋まっているとはな」
「ここへ隠すために埋めたけど回収する前に死んじゃったか、隠した場所を忘れたかってところだね。どっちにしても、アタシの盗賊スキルがあれば行方不明のお宝もなんのその! 土の中だろうと海の中だろうとすぐ見つけちゃうよ!」
「『スキル』か……本当に便利だな」
「バージルのだってそうだよ。さっきの敵に向かって飛ばしたソードビーム。あれってソードマスターのスキルだよね? いつの間に習得してたの?」
先の集団戦闘でバージルが猪達に放った『飛ぶ斬撃』
あれは、バージルが元々持っていた技ではない。ソードマン及び上位職のソードマスターが覚えられるスキル『ソードビーム』である。
その名の通り、剣による飛び道具。剣に魔力を込めて振ると、斬撃となって前方に飛ばすことができる。魔法が存在する異世界に行って剣を握った者なら、誰もがやってみたい技第一位といっても過言ではないだろう。
ソードスキルの中では魔力消費が多いスキルであり、魔力の高い者なら連発も可能だが、ソードマン及びソードマスターに就く者は平均的に魔力が低い。
そして、この世界のスキルには『レベル』がある。『熟練度』と言ってもいいだろう。
単に敵を倒して経験値を集めれば上がるレベルと違い、身体に染み込ませるように何度も使用するか、スキルを覚えるために必要な『スキルポイント』の消費、そしてスキルアップポーションの使用で上げられる。
が、スキルポイントやポーションよりも、何度も使う方法でスキルレベルを上げ、その過程で溜まったポイントで新たなスキルを覚える方が断然お得である。
スキルレベルを上げれば、そのスキルはより強力なものとなる。威力上昇、範囲拡大、効果時間延長、付与人数増加等、それはスキルの種類によって様々。
『ソードビーム』ならば威力上昇は勿論のこと、斬撃の飛距離増加、速度上昇といたところ。使いこなせば、その場その場において様々な斬撃を繰り出すことも可能となるであろう。
「三日前だ」
「そんな最近!? いやでも、それにしてはやたら自然と出していたような……スキルレベルはいくつ?」
スキルレベルを尋ねられたバージルは、口で説明するより見てもらった方が早いと、懐から冒険者カードを取り出してクリスに見せる。彼女は顎に手をじっくり見つめる。しばらくして顔を上げると、怪訝な表情で再度尋ねてきた。
「ねぇ、本当に最近習得したの? 駆け出し冒険者とは到底思えないスキルレベルなんだけど」
「修羅の洞窟に潜り、使い続けただけだ」
「……あぁ、なるほどね」
「どうやって痩せたんですか?」という質問に「運動した」と一蹴するような簡潔過ぎる答え。クリスはただただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
修羅の洞窟では、不思議なことに一度クリアしても翌日には最深部のドラゴンを除いて道中のモンスターが復活している。
仕組みはわからないが、これに目をつけたバージルは幾度も修羅の洞窟に潜り、現れる敵を全て『ソードビーム』で倒すことで重点的にスキルレベルを上げていたのだ。
先も話した通り、消費は多いが魔力が高ければ魔法使いのように連発することは可能。
加えてバージルの魔力は、無尽蔵と言っても過言ではない。なので魔力の心配などせず、休む間もなく修羅の洞窟に潜り、一日一周という驚異的なペースでクリアし、スキルの使い方も覚えながらレベルをガンガン上げていた。スキルレベルが異常なまでに高いのはその為である。
因みにバージル本人のレベルは比例せず上がっていない。どういうわけか、修羅の洞窟に現れるモンスターは経験値を与えてくれなかったようだ。
「あれ? よく見たらソードマスターのスキルがコレしかないね。他のスキルは習得しないの?」
「このスキルを徹底的に上げておきたかった」
「どうして?」
「ひとつ、試したいことがある」
毎度毎度規格外な真似をする彼が、一体何をしでかすつもりなのか。気になったクリスは首を傾げながら再度尋ねる。バージルは彼女の質問に答えようとしたが──。
「──ッ!」
「ど、どうしたの?」
刹那、高まる魔力を感じ取り、バージルはクリスから目を離して魔力を感じた方向を見た。クリスは不思議そうに見つめている中、バージルはじっとその方向を睨み続ける。
すると──少し間を置いて、巨大な爆発音と共に突風が真正面から吹いてきた。
「わっ!?」
木々に止まっていた鳥達は逃げるように木から飛び立つ。突然の爆発音にクリスは思わず耳を塞ぎ、吹いてきた風に飛ばされまいと身を屈める。それとは対照的に、バージルは毅然として巨大な爆発が起こった先を見つめていた。
しばらくして吹いてきた風は止み、荒く音を立てていたバージルのコートが落ち着きを取り戻す。すると彼は、黙って爆発音が聞こえてきた方向へと歩き始めた。
「えっ? あっ、置いてかないでよー!」
自分を置いて先へ歩こうとするバージルを見て、クリスは慌てて彼の後を追いかけていった。
「(さっきの爆発音って、もしかして──」
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「今日の爆裂は中々良かったぞ。骨身に染み渡るほどの音響。絶妙なタイミングで遅れてやってくる爆風と振動。そして何より爆炎の形と大きさ。80点ってところだな。ナイス爆裂だ、めぐみん!」
「カズマも、爆裂魔法を見る目が良くなってきましたね。ナイス……爆裂」
辿り着いた先にいたのは、遠くの崖に立つ古城を見ながら評論家らしい口ぶりを見せるカズマと、地面に突っ伏してサムズアップをする魔法使い、めぐみんであった。
魔力の高い敵が現れたのかとバージルは思っていたのだが、蓋を開けてみればこの二人。別段カズマやめぐみんのことは嫌ってはいないのだが、彼はあのキャベツを見た時と似たような、何とも言い難い残念感を覚えていた。隣のクリスもカズマたちを発見し、呆れ顔でため息を吐いている。
「……んっ? ってうおぁっ!? バージルさん!? それにクリスまで!?」
「おや……そこにいるのは我が同族の、バージルではありませんか? 貴方も我が爆裂魔法を見に来たのですか? しかし残念ながら、今日はもう撃ってしまったので、また今度に……」
「やーっぱりめぐみんだったかぁ」
「知っていたのか」
「アタシ、めぐみんの爆裂魔法一回見たことあるんだ。キャベツ収穫イベントが終わった後、半ば強制的に付き合わされてね。一日一回爆裂魔法を撃たなきゃ夜も眠れないって言われてさ」
「何故付き添う必要がある?」
「それは──」
爆裂魔法を撃つだけなら同行は必要ない。モンスターもいない安全な道なら護衛も必要ないだろうとバージルは思いながら尋ねると、クリスは苦笑いを浮かべて視線を再びめぐみんへ移す。
「ではカズマ、いつものお願いします」
「ハイハイ」
「あの娘、一発撃ったら動けなくなっちゃうから」
「……
視線の先には、カズマにおんぶをされているめぐみん。これにはバージルもそう言わざるをえなかった。
身の丈に合わない爆裂魔法を習得し、あまつさえそれを毎日放っては魔力切れを起こし、人の手を借りなければ歩くことすらできない木偶の坊に。
あの時出会った四人の中ではカズマと並んでまともな部類かと思っていたが、見当違いだったようだ。
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めぐみんの日課を済ませ、後は帰るだけだったカズマとめぐみん。クリス達も帰る予定だったので、一緒にアクセルの街へ戻ることに。
道中で駆け出し冒険者では相手にならないモンスターともし遭遇することになっても、こちらにはバージルがいる。用心棒としてこれ以上無い頼もしさであろう。
カズマは二人に頭を下げると、めぐみんをおんぶして帰路を歩き出した。クリスも彼を追うように歩き始めようとしたが、バージルが足を止めていたことに気付く。
「どうしたの? 早く行こうよ」
クリスが呼びかけても、彼はじっと一方向を見つめたまま。視線の先はめぐみんが爆裂魔法を撃ち込んでいた古城。
気になることでもあったのだろうかと思っていると、バージルは依然黙ったまま古城から背を向け、クリスのもとへ歩いてきた。
少し様子が気になったが、特に何も聞かずカズマの後を追った。
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「今気付いたけどカズマ君、服を新調したんだね。冒険者らしくなったって感じ?」
「この前のキャベツ収穫で稼いだ金を使って、装備を整えてみたんだ」
「その剣もか」
「えぇまぁ、駆け出し冒険者の街で売ってる安物ですけどね」
「最初は誰しもそんなものだよ。お金を稼げるようになったら、バージルみたいに武器を作ってもらったら?」
「元からそのつもりだ。俺、いつかバージルさんが持ってるようなカッコイイ刀を作ってもらうんだ!」
「その時は私が、魔王の首を取るに相応しき名前をつけてあげますよ」
「やめろ。絶対にやめろ。お前の名前からでもわかるネーミングセンスだと、絶対名乗るのも恥ずかしい名前をつけられる」
「おい! 私の名前に言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」
街までの道中、バージル達は雑談を交えながら帰路を歩く。
クリスとしか関わっていない上に最近は洞窟にこもりっぱなしだったバージルは、街の現状やカズマの身の回りについて色々と教えてもらった。
アクセルの街は現在。駆け出し冒険者の街であるにも関わらずギルドの掲示板に張り出されているのは高難易度クエストばかり。最近、アクセルの街付近に魔王の幹部らしき者が古城に住みつき、近隣の下級モンスターは皆怯えて隠れてしまっているのだとか。
それを聞いてバージルは不敵な笑みを浮かべ、クリスはチラチラと後方を確認して冷や汗を流していたのだが、カズマとめぐみんは知る由もなかった。
まだレベルの低いカズマ達が高難易度クエストを受けられる筈もなく、各々自由に行動していた。
ダクネスは実家に帰って筋力トレーニングに励み、アクアは日雇いのバイトへ。めぐみんは一日一爆裂できたら満足するので、毎日カズマを連れてあの古城に爆裂魔法を放っていたのだった。
クリスも最近はバージルと一緒にお宝探しをしていたことをカズマに話し、バージルの活躍を自慢気に語っていた。大量に蔓延っていたコボルト相手に無双したことや、襲ってきた山賊を見事に撃退したこと、お宝を守っていたボスを一刀両断した等。二人は興味津々に聞いていたが、バージルは特に横槍を入れず黙って歩いていた。
やがて、もう少しで森の道を抜け出せるところまで来た、その時であった。
「なぁクリス、あれって──」
「敵モンスターだよ。でも一体だけみたいだね」
カズマ達が歩く先に、野犬のようなモンスターが1匹立ち塞がっていた。敵一匹に対しこちらは四人。否、未だ行動不能のめぐみんを除いて三人。
相手は下級モンスター。カズマでも時間をかければ倒せるレベルであろう。クリスは腰元に下げていた短剣を握り戦闘態勢に入る。
「待て、俺がやる」
「えっ?」
が、ここでバージルが自ら前に出てきた。
「珍しいね。君が下級モンスターを自分から狩りにいくなんて」
「試したいことがあると言っただろう。丁度いい機会だ」
『ソードビーム』を重点的にレベル上げしていた理由のことであろう。覚えていたクリスは納得した表情を見せると、短剣を鞘に戻して後ろへ下がった。
「えっ? バージルさんどうしたんだ?」
「試したいことがあるんだって」
「もしや、バージルも爆裂魔法を──!?」
「それは絶対ない。第一あの人ソードマスターだから魔法覚えられないだろ」
ギャラリーの三人が見守る中、バージルは黙って鞘に結ばれた下緒を解く。数メートル離れた位置にいるモンスターは、バージル達に気付いている筈なのだが、警戒しているのか唸り続けているだけで近づこうとしない。対するバージルは視線を敵に向け、静かに構える。
やがて、彼の刀が青白く光始め──。
「──フッ!」
光が強まった瞬間、彼は刀を引き抜いた。
刹那、前方にいた敵の身体が切り刻まれ、血飛沫を上げながらその場に倒れた。
「「「……はっ?」」」
あまりにも短い出来事。気付けばバージルは刀を鞘に納めており、いつもの無表情で手元の刀に目線を落としている。斬られたモンスターは立ち上がる様子すら見せない。
「何をしている。さっさと帰るぞ」
「「「いやいやいやいやいやいやいやいやいやっ!?」」」
さっさと歩き出そうとするバージルであったが、ふと我に返ったカズマ達は慌てて駆け寄りながらバージルを呼び止めた。
「今の何っ!? ていうか何したの!? 全っ然見えなかったんだけど!?」
「ヤツを斬っただけだ」
「いや斬るにしても遠すぎるでしょうよ!? 明らかに刀が届かない位置にいたんですけど!?」
「そうですよ! 魔法を唱えたようにも見えなかったのに、一体どうやったら離れている敵を攻撃できるのですか!?」
バージルが持つ刀の刀身では絶対に届かない場所にいた敵を、刀を引き抜いたのとほぼ同時に斬った。まるで、直接そこを刀で斬ったかのように。
詰め寄ってくる三人を面倒に思うバージルであったが、説明しなければしつこく食い下がってきそうだと思い、懐から冒険者カードを取り出してカズマ達に見せた。
「冒険者カードがどうかしたんですか?」
「そこにソードマスターのスキル『ソードビーム』があるだろう」
「はい、確かにありますね。スキルレベルが異常に高いですが」
「それを使った」
「……はい?」
バージルは正直に話したが、それでもカズマとめぐみんには理解できず、頭にハテナを浮かべている。
そんな中、彼が何を言いたいのかわかったクリスが、頭を抱えながらバージルに質問をしてきた。
「つまりバージルは、斬撃を出してモンスターを斬ったってことだよね? でもアタシ達には斬撃のざの字も見なかったんだけど?」
「貴様等には見えていなかっただけだ。俺はあの時、確かに斬撃を飛ばして敵を斬った」
「えっ? つまりそれって――!?」
そこまで聞いてようやく、カズマ達はバージル何をしたのかを理解した。
もっともそれは、常識の範疇を超えた、とても人間には真似できない芸当なのだが。
『ソードビーム』は、剣の振り方次第で様々な形を見せる。遅く振れば速度の遅い斬撃が。速く振れば速度の速い斬撃が。強く振れば遠くまで飛ぶ斬撃が。軽く振れば飛距離の短い斬撃が。溜めた魔力を一気に出して強力な斬撃を出したり、魔力放出を小分けにして連続で斬撃を出すこともできる。
では──もし常人には見えない速度で剣を振れば、斬撃はどうなるか?
答えは単純。速く振れば比例して斬撃も速く飛ぶ。
剣を振ったことすら見えない速度ならば、目で追うことすら叶わない神速の斬撃と化す。
人間には不可能な技。しかし彼にとって、神速で剣を振りつつ溜めた魔力を小分けにして斬撃を飛ばすなど、造作もないことだったのである。
「(予想通りだ。これならば、次元斬の代わりになりうる)」
驚きっぱなしの三人から目を外し、バージルは手元の刀に目を落とす。
彼は『ソードビーム』の効果を知った時、使い方によっては次元斬の再現も可能なのではないかと考えていた。だからこそスキルレベルを徹底的に上げつつ、使い方を身体に染みこませていたのだ。
そしてある程度上がりきり、使いこなせるようになってから試してみると──結果はご覧の通り。模擬次元斬の完成である。
「もう、君がこれからトンデモ行動をしても驚かないことにするよ」
「私の目をもってしても見抜けぬ居合とは……し、しかし! 派手さやカッコ良さでいえば、我が爆裂魔法の方が勝っています! そうですよねカズマ!?」
ため息を吐きながら話すクリスの横で、狼狽えた様子のめぐみんはカズマに同意を求める。
「めぐみん、ちょっと邪魔だから降ろさせて。えーっとソードビームソードビーム……あった! 見てたからやっぱ俺も覚えれるようになってる! スキルポイントは3……よし、習得完了!」
「なっ! 私の爆裂魔法を散々見ておきながら、そっちを真っ先に覚えるとはどういうことですか!? 私と共に爆裂道を歩む約束は忘れてしまったのですか!?」
「結んだ覚えもないし、結んでいたとしても即刻破り捨ててやるわそんな約束! こっちの方が実用的だし、俺だって剣を使って戦いたいんだよ!」
どうやらカズマのお気に召したようだ。めぐみんを降ろし、カズマは冒険者カードを取り出して『ソードビーム』を習得する。
「話には聞いていたが、本当に冒険者という職業は他者が使用したのを見ただけでスキルを覚えるのか」
「普通に覚えるよりポイントが少し増えちゃうのが難点だけどね。その代わり、職業なんて関係なしに全てのスキルを覚えられるよ。冒険者唯一の利点といってもいいかもね」
バージルとクリスが冒険者のクラスについて話す傍ら、カズマは適当な細い木を睨み、腰元にある剣を鞘から抜いて構える。
「(コレだよコレ! こういうのを待ってたんだよ! 主人公が必殺技にするような、王道ファンタジー感溢れる技を!)」
カズマが求めていた、ファンタジーらしさ満点の技。心の中で喜びながらも集中力を高める。
漫画やゲームで飽きるほど見た斬撃を飛ばすシーンを頭の中で反芻すると、柄を握っていた手に力を込め──。
「ソードビィイイイイイイイイームッ!」
スキル名を叫び、力強く横へ薙いだ。
「……出たには出たけど、飛距離がほんのちょびっとしかなかったね。しかも木に届かなかったし」
「しょっぱっ!?」
剣から放たれたのは、1メートル飛んだかすら怪しい飛距離だった緑色の斬撃。剣から放たれたソレは狙った木に当たることなく空中で消滅。
それも当然のことだろう。カズマは習得したばかりなのでスキルレベルは1。加えてカズマは剣の扱いに慣れていないド素人。筋力も優れておらず、魔力も多くない彼が使っても、しょぼい斬撃にしかならなかった。
だがそれでも、ソードマンやソードマスターが扱う『ソードビーム』に変わりはない。
そして忘れているかもしれないが、このスキルはソードスキルの中でも魔力消費が激しい。
「あっ、ちょっと待て……これダメだわ」
魔力の量もコントロールも知るかと言わんばかりに、ありったけ込めた剣を思いっきり振ってしまったことで、先程の斬撃で魔力を全部使ってしまった。カズマは爆裂魔法を放っためぐみんのように、仰向けで倒れた。
「たった一発で魔力をスッカラカンにするなんて情けないですね。素直に爆裂魔法を覚えないからそうなるんですよ。ざまぁみやがれです」
「お前にだけは言われたくねぇよ……あと爆裂魔法は覚えないから」
カズマに降ろされて地面に乙女座りで座っていためぐみんは、勝ち誇った笑みを浮かべる。しかし今のカズマには鋭いツッコミを入れる気力も残されておらず、元気のない声で言葉を返す。
「ところで、カズマが倒れてしまったら誰が私を運ぶのですか? 少しずつ回復はしていますが、私まだ歩けませんよ?」
「あっ」
めぐみんの指摘を受け、カズマは思わず固まる。今の彼にはめぐみんを背負うどころか、一人で歩く気力もない。この状態でどうやって街まで帰るのか?
カズマは、凄く申し訳なさそうな顔でクリスとバージルを見た。
「めぐみんはアタシが背負うから、バージルはカズマをお願いね」
「……仕方がない」
カズマとは協力関係を結んでいる。ここで野垂れ死んでは困る。クリスがめぐみんを背負う横でバージルはカズマを片手で担ぎ、アクセルの街を目指して歩を進めた。
つまり何が起こったかというと、次元斬の見た目と仕様が3から4SE仕様になりました。