この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第31話「この女神達と交流を!」

 アクアがモンスターに捕食されかけたのをクリスは救出したが、アクアの粘液まみれは回避できず。

 そこから先に進み、道中で同じモンスターを見かけたアクアがリベンジを果たそうとするも再び食われかけ、更に粘液まみれになってしまった。

 ベトベトなアクアを連れながらもバージルとクリスは進み、今回の依頼を寄越した者がいる、小さな村に辿り着いた。

 

 アクセルの街を出た駆け出し冒険者が最初に訪れることの多い、所謂始まりの村。宿屋、武器屋、酒屋など施設は揃っているが、村人は少ない。冒険者もここで休憩を取ったら、長居することはせず村を出て行く者がほとんど。

 ひとまずベトベトのアクアが目立つため、クリスを同伴させて風呂のある宿屋へ。その間バージルは今回の依頼主、村長のもとへ向かった。

 住人に村長の家を聞き、木でできた1番大きい建物内にいた村長と出会うと、彼から依頼について詳しい話を聞いた。

 

 討伐対象の名は『初心者殺し』――黒い体毛に覆われ、鋭い牙と爪を持つ大きな猫型のモンスター。

 ゴブリンやコボルトといった、駆け出し冒険者が標的にする下級モンスターの近くに潜み、それらを討伐する冒険者を狙う狡猾さを持っている。

 モンスターとの戦闘で疲弊していたところを狙うのが主なスタイルだが、かといって戦闘能力が低いわけではない。正面からの戦闘は駆け出し相手なら勿論のこと、中堅冒険者でも苦戦を強いられる。

 とはいえ、ベテラン冒険者ならば取るに足らない相手……なのだが、今回標的となっている初心者殺しは一味違う。

 

 その個体は長いこと生き延び、通常の個体よりも獰猛で狡猾。ベテラン冒険者でも手に余るほどの強さを持つ。その特異個体が、村の近くにある森に現れたのだ。

 1番近い冒険者ギルドはアクセルの街にあるものだが、駆け出しではどうにもできないクエストのため、自ら受けようとする者はいないだろう。しかし中堅やベテランがいる街のギルドに出したくても、こちらが出すべき報酬金やクエスト受理の手数料が高く、とても今の資金では難しい。

 なので、まだアクセルの街にいるベテラン冒険者が受けてくれる可能性に賭けて、村長はクエストを出そうとしていたのだが、風の噂で『アクセルの街に、駆け出しでありながら魔王軍幹部をソロで倒した蒼白のソードマスターが、便利屋をやっている』と耳にする。これしかないと思った村長は、噂の便利屋――デビルメイクライへ依頼を寄越したのだった。

 

 話を聞き、特異個体の初心者殺しに興味を引かれたバージルはこれを受ける。初心者殺しは夜に出没することが多いため、夜になるまでこの村で待機することにした。

 村長との話を終え、バージルは行動を別にしていたクリスとアクアを探すことに。広い街なら苦労しただろうが、ここは小さな村。おまけに探し物は常に騒がしいので、見つけるのは容易いことだった。

 

 

*********************************

 

 

「これもいいわね……あっ! こっちの方がセンス良いかも! いやでもこれも捨てがたい……」

「……」

 

 1つの建物に入ると、探し物のアクアがいた。既に風呂は済ませたのか、粘液でベトベトだった身体も服も元通りになっている。

 いくつかの商品を手にして鑑定士のように品定めをしているアクアを、付き添いで一緒にいたクリスが壁にもたれ、ここの主らしき若い黒髪の男がカウンターの向こう側で見守っている。

 バージルには目もくれず鑑定を続けるアクア。一方、クリスはバージルの視線に気付いて彼を見た。

 

「あっ、バージル。もう話は聞いてきたの?」

「あぁ。で、貴様等はここで何をしている?」

「バージルが帰ってくるまで暇だから、村を探索してみようってアクア先輩が言って……このお店に……」

 

 クリスはそう答えて、建物内を見渡す。木の壁や陳列棚へ飾るように置いてあるのは、いくつもの顔……を模したお面だ。

 お面の種類は数多く、白い顔をした人間、犬や猫などの動物から、ドラゴンやジャイアントトードなどのモンスターまで、幅広く網羅している。

 村を歩く中ですれ違った村の子供は、お面を付けている者が多かった。きっとこのお面屋は、村の名物の1つなのだろうと、バージルは推測する。

 

「……んっ? あっ! お兄ちゃん!」

 

 店内にある数々のお面を観賞していると、バージルの視線に遅れて気付いたアクアが声を上げ、バージルに駆け寄ってきた。

 彼女の手には、いくつかのお面が。彼女が言わんとしていることを既に察していたバージルは、小さくため息を吐く。

 

「お兄ちゃん! これ買って!」

「断る」

 

 案の定、アクアはバージルへお面を見せながらおねだりしてきた。当然バージルの答えはNO。

 

「買って買ってー! 買ってよー! おーねーがーいー!」

「いくら頼もうと無駄だ。諦めろ」

 

 諦めの悪いアクアが粘り強くねだるのに対し、バージルは頑なに断り続ける。ここから先は持久戦だ。

 普段ならしつこいアクアに根負けしてバージルが折れるのだが、今回ばかりは彼も退くつもりはなかった。もしここで許してしまえば、ねだれば買ってもらえると学習し、同じことを続けてしまうと懸念していたからだ。

 スーパーで泣いて喚いて抗議する子供を教育するように、バージルは1歩も譲らない。クリスもそれをわかっているのか、今回は口を挟もうとしなかった。

 そして、今にもアクアが仰向けで床に寝転がりそうになった時――。

 

「まぁまぁお兄さん。そのくらいにしてやんな。妹さん、アンタ美人だから特別に1個くれてやるよ」

「えっ!? ホント!?」

 

 終わりの見えない戦を止めに入ったのは、お面屋の店主だった。彼の救いの言葉を聞き、アクアは目を輝かせる。

 

「……オイ……」

「ありがとうお面屋さん! 親切な貴方なら、慈悲深い立派なアクシズ教徒になれるわ! もしその気があれば、アルカンレティアって街に行って――」

「そ、それは遠慮しておくよ……無宗派だからさ」

 

 言葉に甘える気満々のアクアをバージルは睨みつけるが、店主の許可を得たアクアはそんなものに屈さない。

 ついでにアクシズ教へ勧誘したが、店主は苦笑いを浮かべて断った。

 

「んー、残念。私の可愛い信者が1人増えると思ったのに……。まぁいいわ。じゃあこれとこれとこれと――」

「……1個だけって言ったんだけどー……」

 

 ちゃっかり条件を無視して、いくつもお面を取るアクアに店主は声をかけるが、楽しそうな彼女を見てか、彼は声を大にして止めようとはしなかった。

 結局、アクアの望む方向に事は進んでしまったが、ここでアクアからお面を取り上げればもっと面倒なことになりそうだったので、バージルも特に何も言わず、お面屋から出ようとする。

 

 が――それをクリスがバージルの袖を引っ張ることで止めてきた。

 

「……まさか、貴様も欲しいなどと抜かすつもりか?」

「えーっと、結論から言ってしまえばそうなんだけど……ちゃんとした理由もあるから安心して。お金も私が出すし」

 

 クリスはそう言うと、バージルの袖から手を離して、店主の立つカウンターの向こう側を指差す。バージルも振り返り、クリスが指している方へ目を向ける。

 その先にあったのは、壁にかけてあるボロボロのお面。犬のお面だったのだろうか、白い口周りに対し鼻、目元、額の部分は黒く、他は青色のデザインだったが、色はくすみ、鮮やかさを失っている。

 とんがった耳も片方は折れ、顔の部分も所々欠けている。年季が入っていると言えば聞こえはいいが、とてもお面として被れたものではない。

 

「あのお面、私の『宝感知』が強く反応してる。多分神器だよ」

「……ほう」

 

 それがクリス曰く神器だと聞き、バージルは興味を持った。

 よく見れば、飾ってある様々なお面とは違い、そのボロボロのお面だけは僅かに魔力が宿っているのを感じる。

 それを知ったバージルは、自ら店主にそのお面について尋ねてみた。

 

「店主、そこに飾ってある物は?」

「んっ? あぁ、このボロボロのお面かい?」

 

 尋ねられた店主は、壁にかけてあったそのお面を降ろし、カウンターの上に置く。

 近くで見ると、黒い目元の真ん中には赤い目がついている。バージルがお面と向かい合っていると、店主がお面について話し始めた。

 

「これは、俺のひいじいちゃんが持ってた物らしくってね。なんでもひいじいちゃんの憧れてた英雄になりきれるそうなんだ。といっても、気分だけだろうけどね。俺が被っても何も変わらないし」

「やっぱり……店主さん、アタシこのお面が欲しいんだけど……売ってもらうことってできるかな?」

 

 そのお面には能力があったが、元々の持ち主以外は使用不可。もしくは何かしらの条件を満たさないと使えない。神器と同じ特徴だと知り、確信したクリスは前に出て、財布を出しながら店主に尋ねる。

 家族の残した物ということで、そう簡単には譲ってもらえないと彼女は思っていたが……。

 

「んー、このお面は非売品なんだが……アンタにはタダで譲ってやるよ」

「えっ!? タダでって……いいの!? ひいおじいちゃんの形見なのに――」

「そのひいおじいちゃんを俺は知らねぇからなぁ。そもそもこれ自体、俺が倉庫の掃除をした時に偶然見つけて、じいちゃんに聞いたら今まで倉庫にしまってたのを忘れてたぐらいだし」

 

 意外なくらいあっさりと譲ってくれたのを受け、クリスは驚きながら再確認する。対して店主は、そこまで形見として大切にされていない物だったと答えると、そのまま言葉を続けた。

 

「インテリアとして飾ってみたけど薄気味悪いし、丁度捨てようかと思ってたところだったんだ。男のわりに可愛い顔してるアンタが欲しいってんなら、喜んでくれてやるよ」

「……アタシ、れっきとした女なんだけど……」

「……えっ?」

「お兄ちゃん見て見て! このブルードラゴンのお面! 強大な魔力を持つ私にはピッタリじゃない!?」

「分不相応だな。貴様にはこの鶏で十分だろう」

「ちょっと!? それってどういう意味!? せめて可愛げのあるひよこちゃんにしてよ!」

 

 

*********************************

 

 

「……今の私、そこまで男に見えるのかなぁ……」

 

 場所は変わり、村の食事所。夜も近付き夕食の時間となったため、彼女等はここで食事を取っていた。

 しかし、とても食事にありつけない気分だったクリスは両手で頬杖をつき、ポツリと呟く。余程店主の言葉が効いたのだろう。

 

「まぁ確かに、クリスって身体も性格も男っぽいところあるわよね。銀髪も相まって、お兄ちゃんの弟みたい」

「……私、あんなクレイジーな弟さんじゃない……」

「?」

 

 そこへ、肉を食べながら口にしたアクアの追撃を食らい、クリスは机に突っ伏した。

 クリスの言葉にアクアが首を傾げる中、その隣に座っていたお兄ちゃんことバージルが口を挟む。

 

「そう言う貴様もだ。仮にも女神なら、もっと品性のある振る舞いをするよう努めろ」

「仮にもじゃなくて、本物の女神よお兄ちゃん!」

「認めて欲しいのなら、まずその汚い食べ方を直せ。女神以前に女として疑わしい」

「食事は楽しむものよ! マナーを気にしてたら楽しめるものも楽しめないわ! ほらっ、お兄ちゃんもこれ食べて楽しく食事をしましょ。はい、あーんっ」

「食べかけの物を食わせようとするな。汚らわしい。貴様の菌が移る」

「いくらお兄ちゃんの半分がアレだからって、女神の私を病原菌扱いするのは言い過ぎじゃないかしら!?」

 

 バージルは食事の手を進めながら、アクアは手に持っていたナイフとフォークを机に置き、食事のマナーから発展した言い争いを始める。

 その二人の対面に座っていたクリスは顔を上げ、周りの目を気にせず口論をし続ける二人をジッと見つめる。

 

「(……あっ……まただ……)」

 

 しばらく二人を――正確にはアクアを見つめていると、彼女は以前も感じたあのモヤモヤを、再び胸に抱いた。

 今回、バージルを手伝いに来たのもそうだ。天界で仕事をしていた時、雪精討伐帰りのアクア、ゆんゆんがバージルと仲良くしているあの情景がふと頭に浮かび、モヤモヤが沸いてきたからだ。

 すると、何故か自分は焦りを覚え、気付いたらバージルのもとに向かっていた。このモヤモヤの正体は何なのか。彼女は未だ解明することができていない。

 今もモヤモヤの正体を考えていたが、答えは出ず。わからないことを考えていてもしょうがない。クリスはモヤモヤを振り払うように頭を横に振る。

 

「と、ところでさバージル。今回の依頼はどんな内容なの?」

 

 仲良くしている二人の間に入るように、クリスはバージルへ話題を振った。

 クリスの声を聞き、ピタリと言い争いを止めるバージルとアクア。バージルは自分を落ち着かせるように水を飲むと、彼女の質問に答えた。

 

「森に潜むモンスターの討伐だ。決行は今日の夜。食事の後、少し休憩を取ってから目的地の森へ向かう」

「夜の森かぁ……ここらの森なら駆け出しでも狩れるモンスターばかりだろうけど、油断は禁物だね。アタシも敵感知や暗視でサポートするよ」

「どんな相手か知らないけど、クリスの厄介な盗賊スキルと、私の神聖なる力があれば朝飯前よ!」

 

 バージルの話を聞いて、やる気を見せるクリスとアクア。しかしバージルは1人でも十分だと判断し、手伝いは不要だと告げようとするが――。

 

「……いや、今回はその方が手間は省けるか。では頼むぞ」

「任せといて! で、私と先ぱ……アクアさんは何をすればいいの? それと、どのモンスターを倒せばいいのかも教えてくれないかな?」

 

 少し考える素振りを見せると、バージルは二人にも手伝ってもらうことにした。それを受け、自信ありげにポンと胸に手を当てたクリスは、自分達の役割と敵について尋ねる。

 モンスターによって対策は異なるが、捜索なら敵感知と暗視、千里眼を組み合わせ、捕まえるのなら潜伏を使う。脳内でシュミレーションしながら聞くクリスに、作戦など立てなくても楽勝なのか、呑気に食べながら話を聞くアクア。

 そんな2人に、バージルは何の躊躇いもなく役割を与えた。

 

 

「貴様等は、初心者殺しの餌になってもらう」

「「……えっ?」」

 

 

*********************************

 

 

 日は既に沈み、チラホラと星が見える夜空の下。村の近くにあった森の中心部。

 

「……ごめんやっぱりもう無理! 私帰る! もう初心者殺しは嫌ー!」

「待って待ってアクアさん! いつ襲ってくるかわからない状況で走り出すのは危険ですよ!?」

「まだ敵感知には反応してないんでしょ!? 近くにいないんでしょ!? だったらロックオンされる前に逃げるが勝ちよ! もう頭をかじられたくないの!」

「頭かじられたんですか!? って逃げようとしないでください! 森に入る前は初心者殺しにリベンジしてやるって意気込んでたじゃないですか!」

「そうだけど、今は怖いの! 初心者殺しが私の頭をモグモグしてきたトラウマが蘇っちゃったのよ!」

「モグモグされちゃったんですか!?」

 

 泣いて逃げ出そうとするアクアを、クリスが必死に引き止めていた。

 バージルから討伐対象モンスターは初心者殺し、それも特異個体だと聞かされ、アクアは村から逃げ出そうとしたが、彼女はバージルの言葉に反対してついてきた身。バージルはアクアを無理矢理森へ連れて行った。

 そこでバージルと別れた後、こうなりゃやってやると臆する自分を鼓舞し、アクアはクリスと共に森を進んでいたが、以前カズマがダストとパーティーメンバーを入れ替えた時に出会った初心者殺しのトラウマが拭えず、こうして再び逃げ出そうとしていた。

 バージルからアクアと二人でいるようにと言われていたクリスは、絶対に逃がさまいとアクアの腕を引っ張り続ける。

 

 

 ――そんな二人から、100メートルほど離れた場所。

 

「グルルルルルッ……」

 

 前方にいる2人の女を見据えながら、暗い森の中を歩く、身体にいくつもの古傷を持った黒き獣――特異個体の『初心者殺し』がいた。

 夜でも鮮明に見えるほど発達した視力で、今よりも遠い場所から2人を視認して近づき、しばらく様子を伺っていた初心者殺しは、2人が自分よりも格下の存在だと断定し、今は2人を狩るために進んでいた。

 数々の冒険者と戦い、勝利し、生き抜いてきた彼は、2人の身なりを見て彼女達の戦い方を予想していた。杖らしき物を持っている青髪は、回復魔法か攻撃魔法を得意とする者。腰元にダガーをつけている軽装な銀髪は、気配を消して奇襲を仕掛けたり、罠を設置し捕えることを得意とする者。

 この2人の内、注視すべきは後者だ。ああいった者は必ず、いち早くこちらの存在に気付くことができる。そういう技術があることも、そして感知できる範囲も知っていた彼は、その中に入らないよう気をつけながら歩を進める。

 

 2人が他モンスターとの戦闘で疲弊したら一気に近付き、まず厄介そうな銀髪を仕留める。次に森の木々や草を使ってかく乱し、青髪を狩る。

 狩りの流れを決めた彼は、まずじっくりと2人が疲弊するのを待つべきだと判断。近づける範囲まで近づこうと、音を立てないようゆっくり歩く。

 

 

 ――とその時、背後から殺気を感じた。

 

「――ッ!」

 

 危ない。そう考えた時には既に身体が動いていた。彼は瞬時に真上へ飛び上がる。

 すると、彼の前方にあった木々が倒れ、大きな音を立てて地面に横たわった。何かで斬られたのか、倒れた木は全て綺麗な断面を見せている。もしあそこで動かなかったら、自分はあの木々のように断面を晒すことになっていただろう。

 彼は空中で方向転換をしながら、殺気を感じた背後に身体を向ける。その先にいたのは、天色の鞘を左手に、雷の走る細い剣を右手に持った、背中に剣と思わしき物を背負う銀髪の男。

 

「ほう、これを避けるか。噂通り賢いようだな」

 

 先程の攻撃はこの男が放ったのか、無傷の初心者殺しを見ると嬉しそうに笑みを浮かべる。

 あの殺気を感じるまで、誰かが近づく気配は一切なかった。気配を消して近付いてきたのだろう。そして剣を抜き、あの剣の長さではとても届きそうにない場所を斬った。

 一瞬だが体感した男の剣技、そして男が今放っている威圧感を見て、只者ではないと判断した彼は、より一層警戒心を高め、牙をむき出しにする。

 しかし男は、怯える様子を一切見せずに剣を鞘に納めると、青いコートの中に手を入れ――。

 

「これを試すには、うってつけの獲物だ」

 

 懐からボロボロのお面を取り出し、顔に当てた。怪しい動きを見た初心者殺しは、いつ襲われてもいいように身構える。

 男は、その場から高く飛び上がると、空中で1回転しつつ身体から光を放った。初心者殺しは強い光に目を細めるものの、前方から目を逸らさない。

 そして、男が重力に従って地面に着地した時――先程までの男の姿は無かった。

 

 代わりにあったのは、抜き身の白い剣と、先程の雷を纏う剣が納められた天色の鞘を交差させるように背負い、4本足で地面に立つ、銀色に輝く長いたてがみと青い毛で覆われた――狼。

 

「Ahwoooooooo!」

 

 蒼き狼の遠吠えが、夜の森に響き渡った。

 




手に入れた物はとりあえず試せ、で成功した例。
作中で言ってたのは、あの作品の凡人英雄さんです。
元々は「あの英雄の狼姿になれる」神器でしたが、持ち主が死んでしまったことで「大量の魔力(だいたい爆裂魔法1回分)を注ぎ込むことで、つけた者に相応しい獣になれる」神器になりました。
バージルの場合、姿はまんま英雄さんだけどたてがみが銀色で、身体が青色の狼に。ぱっと見サマイクルの方が近い。

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