この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第33話「このソードマスターと邂逅を!」

 季節は冬。雪の降る場所も目立ってきた頃。

 

「――ハァ」

 

 街の大きな屋敷に住むクルセイダー、ダクネスは欲求不満だった。おわかりだろうが、男に飢えているわけではない。

 彼女はここ最近、バージルの罵倒を聞いていない。いつもはお隣のデビルメイクライへ出向き、時には問答無用に締め出され、時には乱暴に蹴り出されるなど、嬉しい対応を受けていたのだが――現在、デビルメイクライは閉店続き。当然だ。主のバージルがいないのだから。

 彼は、生徒のゆんゆんを引き連れて街の外に出かけていた。1日2日も経てば帰ってくると踏んでいたが、まだ帰ってきていない。かなり遠出しているのだろう。

 教師と生徒という大変羨ま……けしからん関係の2人が、長い間どこでナニをしているのか。彼女はとても気になっていた。

 

「(帰ってきたら、今度は私にも同じプレイをしてくれと頼み込むか……家の前に24時間居座り続ければ、流石のアイツも折れるだろう。仕事の邪魔になると、足蹴にされてゴミ箱に捨てられるのもアリだな……無視され続けるのもそれはそれで美味しい……んっ……)」

 

 ベッドに腰掛け、常人には到底理解できない妄想を膨らませるダクネス。彼が帰ってきた後の予定を決めた彼女は、机の下に目を移す。

 そこに、隠すように置かれた大きめの箱。彼女の実家から送られてきた『高級霜降り赤ガニ』が入ったものだ。

 

「(今日の晩御飯の当番は、私だったな……よし、これをふんだんに使ったものにするか!)」

 

 マゾい欲求は満たせないが、代わりに食欲を満たすとしよう。そう決めて独り意気込む。

 とその時、自室の扉がバンッと音を立てて開けられた。ダクネスは少し驚きながらも、前方に視線を移す。

 

「ダクネス! 私とボードゲームで勝負してください!」

 

 そこにいたのは、畳まれたボードゲームの台と駒が入った箱を持つ、淡い赤色のパジャマを着ためぐみん。彼女の誘いを受けたダクネスは、困惑しながらも言葉を返す。

 

「別に構わないが……どうした? ボードゲームをするにしては、やけに意気込んでいるようだが……」

「以前バージルに負けたのが悔しいんです! エクスプロージョンを撃てずに負けたあの雪辱を晴らしたい! だからダクネス! 私の練習相手になってください!」

「そ、そこまで引きずってたのか……まぁいい。練習相手ならいくらでもなってやるぞ。言っておくが、私は子供の頃からそれで遊んでいた。そう簡単に倒せるとは思わんことだな」

「ほほう、それだけ豪語するほどの実力がおありと……いいでしょう! 相手にとって不足なし!」

 

 臆さないめぐみんに対し、ダクネスは不敵に笑うと、今着ている黄色いパジャマのままベッドから立ち上がる。

 ダクネスの自室からリビングに場所を移すと、アクアがソファーでグッスリ眠っている横で、めぐみんとの勝負を開始した。

 そしてこの後、ダクネスは滅茶苦茶エクスプロージョンされた。

 

 

*********************************

 

 

 アクセルの街から馬車で1日、更に別の街で乗り換えて1日、そして着いた街から歩いて3日はかかるほど離れた場所――駆け出しを卒業した中堅冒険者が訪れることの多い、岩山のダンジョン。

 冬だというのに気温は高く、草も生えていない。火山とまではいかないが、薄着でも汗をかくほど暑いこの道中に、ダンジョンの奥地を目指す3人の冒険者がいた。

 

「キュルルルルルルッ!」

 

 ここら一帯に生息するトカゲ型のモンスター『ファイアードレイク』は、口から火を吹き出して相手を威嚇する。

 そのモンスターが対峙しているのは――槍を構える、緑色のポニーテールの少女。

 

「中級モンスターにしては中々やるわね! でも――」

 

 少女がそう口にした瞬間、ファイアードレイクの身体が縄で締め付けられた。突然のことにモンスターは困惑する。

 そんなファイアードレイクの背後に立つのは、今し方モンスターを盗賊スキル『バインド』で捕えた、赤髪三つ編みの少女。

 

「私達の敵じゃない!」

 

 赤髪の少女が自信満々に断言する中、ファイアードレイクは横から気配を感じ、視線をそちらへ向ける。

 そして、既に宙へ飛び上がり、浅葱色の大剣を振り下ろさんとする――蒼い鎧を纏った男を見た。

 

「これで――トドメだ!」

 

 御剣(ミツルギ)響夜(キョウヤ)は大剣を振り下ろし、ファイアードレイクの身体を横から真っ二つに切断した。

 機動力のあるクレメアが敵を引きつけ、フィオが『潜伏』を使いつつ陰から敵を捕らえ、攻撃力の高いミツルギが確実にトドメをさす。お互いの特色を生かしたコンビネーションで敵を討伐できたミツルギは、白目を向けるファイアードレイクを見てフゥと息を吐く。

 

「キョウヤキョウヤ! さっきの私、結構頑張ってたでしょ!? 褒めて褒めて!」

「あっ!? わ、私も頑張ったもん! クレメアだけずるいよ!?」

 

 すると、ミツルギのもとにクレメアとフィオが近寄り、何かを期待する眼差しを向けてきた。

 強いモンスターを協力して倒した後、2人はいつもこうして詰め寄ってくる。また、その対応に慣れていたミツルギは、やれやれと心の中で呟きながら大剣を背負う。

 

「うん、2人ともよく頑張ったよ。いつもありがとう」

「「えへへー」」

 

 2人の頭に手を乗せて優しく撫でてやると、どちらも顔を綻ばせた。2人の幸せそうな顔を見て、ミツルギは実家で飼っていた犬を思い出す。

 

 女神から授かった『魔剣グラム』を失ったあの日。ミツルギは、師から譲り受けた新しい魔剣と、あの日を忘れないようにと、師と戦った時に使った物をもとに改良された剣を手に、アクセルの街から冒険をやり直した。

 自分はいかに魔剣頼りだったか、いかに無力であったかを2人に話し「そんな自分についてきてくれるのなら、一緒に冒険をしたい」と告げると、彼女等はこっちが驚く程に「ついて行く」と即答してくれた。

 心機一転し、リスタートとなった3人の冒険。今度はレベルだけでなく、武器を扱う技術、スキルレベルも高めていった。時には独学で、時にはベテラン冒険者から教わり、そして実戦の中で学んでいった。

 

 その冒険の中――師から忠告されていた通り、魔剣に身体を支配されかけることもあった。しかし、大切な者を守るために戦うという、強い意志を捨てることのなかったミツルギは、魔剣の支配に抗い続けた。

 クレメアとフィオに助けられた時もあれば、自分で押さえ込んだこともある。そうやって何度も魔剣に抗い、争っていく内に――。

 

『まーた頭を撫でるだけか、このヘタレモヤシ男。いっそのことディープなキスの1つでもしてやればいいだろうに』

「べ、ベルディア……2人とも女の子なんだ。ファーストキスは、大事な人のために取って置いているんだよ。僕なんかがそれを奪ったら、一生恨まれる」

 

 魔剣に宿っていた魂『ベルディア』と、こうして言い合う仲にもなれた。

 彼は元々、魔王軍幹部の1人だったのだが、バージルと戦い敗北し、剣に己の力と魂を宿して魔剣となった。そして、バージルからミツルギに渡された。

 以前まで、彼と話せるのは魔剣に支配されそうになる時だけだった。しかしある日を境に、こうして普段からも会話できるようになった。因みにこのベルディアの声は、魔剣に触れている者にしか聞こえない。また、ベルディアはミツルギの目、耳を通し、景色を見ることも音を聞くこともできる。

 魔剣に触れていない者から見たら危ない人と思われそうな、独り言を話すミツルギの前、彼がベルディアに返した言葉を聞いていたクレメアとフィオは、同時にため息を吐いた。

 

「えっ? 2人とも、なんでそんな呆れた顔で僕を見るの?」

『ホンットにお前という奴は……乙女心というのをまるで理解していないな』

「えぇ……?」

 

 クレメアとフィオだけでなく、ベルディアからも呆れられたミツルギはその理由がわからず、ただただ困惑する。

 しばらく彼なりに考えた結果「意中の相手が中々現れず、ナイーブになっているのかも」という答えに行き着き、街に戻ったら知り合いの男性を紹介しようという結論に至ったところで、彼はひとまず先へ進むことにした。

 

 

*********************************

 

 

「……あっ! 待って2人とも! 今『敵感知』に反応が出た!」

「「ッ!」」

 

 岩場の多い複雑な道を進んでいた時、フィオが声を大にして警告を発した。ミツルギとクレメアは足を止め、すぐさま武器を構える。

 地図によれば、この先は拓けた場所になっている。もしかしたら、そこにモンスターが待ち構えているのかもしれない。

 ――だが。

 

「……あれ? 消えた? さっきまで確かに反応があったのに……」

「えっ?」

 

 フィオの感じ取っていた敵感知が、気付いた時にはもう消えてしまっていた。

 謎の現象を前に困惑するフィオ。敵感知を欺くことができるのか、もしくは誰かが……と、ミツルギが予想を立てていると、ベルディアの声が脳内に響いた。

 

『……この魔力は……』

「? どうしたベルディア?」

『先に進め、ミツルギ。もしかしたら、久しい出会いが待っているかもしれんぞ』

 

 何やら予言めいたことを口にするベルディア。ミツルギは不思議に思ったが、先に進まなければいつまで経っても目的地に辿り着けない。

 警戒心は解かないまま、ミツルギ達は武器を手に岩陰から外に出た。

 

 地図の通り、そこから先は拓けたフィールドとなっており、前方にはダンジョンの奥地に続く、洞窟の入口らしきものが。ミツルギは数歩進んで、そこにあった情景を目の当たりにする。

 まず目に入ったのは、地面に仰向けで倒れている『ファイアードレイク』の集団。身体が小さいのを見る限り、先程自分達が倒した奴の子分だろうか。あれだけの大群を引き連れられていたら、自分達は危なかったかもしれない。そう思いながら、視線をモンスターが倒れている中心に向ける。

 そこに立っているのは、短剣を手にした黒髪の少女。戦闘を終えたばかりなのか、息が上がっている。彼女は懐から回復ポーションらしき物を飲むと一息吐き、クルッと横を向いた。

 彼女の視線の先にいたのは――青いコートを纏った、白い剣を背負い天色の刀を持つ、銀髪の男。

 

「し――師匠っ!?」

「……ムッ?」

 

 ミツルギの師、バージルがそこにいた。

 

 

*********************************

 

 

 バージルと久々の再会を果たしたミツルギ。相手もミツルギのことは覚えていたようで、名前を間違えられることはなかった。また、クレメアとフィオは未だあの日のことを根に持っているのか、ミツルギの背後に隠れ、フィオは子犬のように怯え、クレメアは子犬のように唸ってバージルを睨んでいる。

 冒険の途中に「アクセルの街で蒼白のソードマスターなる者が便利屋をやっている」との噂を聞いていたミツルギは、本人にその真偽を尋ねると、バージルは隠すことなく肯定した。ならばここにいるのは便利屋として依頼を受けたから、もしくは冒険者としてクエストを受けたからなのかと尋ねると、彼は首を横に振り「生徒に授業をつけるためだ」と答えた。

 

「生徒? とすると……その子は……」

 

 バージルの返答を聞いたミツルギは、そう口にしながらバージルの隣に立つ少女を見る。

 視線が合った瞬間、彼女は明らかに落ち着きを失い、行き場のなさそうに目を泳がせていたが、やがて意を決した表情を見せると――顔を赤らめながらキマっているポーズを取った。

 

「わ……我が名はゆんゆんっ! バージル先生の教えを請う随一の生徒であり、いずれ紅魔族の長となる者!」

「「「……あっ、うん……」」」

 

 彼女なりの自己紹介を聞いた3人は、思わず苦笑いを浮かべる。容姿を見た時点で紅魔族なのは薄々察しており、前の冒険で紅魔の里に行った時、散々紅魔族流の自己紹介を聞いていたのだが、こう突然見せられると、どうしても反応に困ってしまう。

 ただ、彼女のように恥ずかしがりながらする者は見たことがなかったので、同時に変わった子だなとミツルギ達は感じていた。

 

「(しかし……生徒か……)」

 

 が、それよりも気になったのは、彼女がバージルの生徒だということ。

 バージルは先程、授業をつけにここへ来たと言っていた。いつからか知らないが、彼女はずっとバージルの授業を受け続けてきたのだろう。彼から直々に教わる形で。

 

「(……羨ましいな……)」

 

 自分が師と慕う人物から戦う術を学んでいるゆんゆんを、羨ましく思うと同時に、彼女は自分にとってのライバルになる予感を覚えていた。

 しかし、それはそれ、これはこれ。ミツルギは1歩前に出てゆんゆんに近寄ると、自ら彼女に手を差し伸べる。

 

「ゆんゆん、か。可愛らしくて良い名前だと思うよ。僕は御剣響夜。気軽にキョウヤって呼んでくれ。後ろにいる緑髪の子はクレメア、赤髪の子はフィオだよ」

「あ、は、はい……よ、よろしくお願いします。ミ、ミツルギさん……」

「そんなかしこまらなくてもいいって。名前もキョウヤで……ってイタタタタッ!? 急にどうしたのさ2人とも!?」

『素でこれだからな貴様は……うむ、俺もムカッ腹が立ってきた』

「ベルディアまで!?」

 

 背後の女性陣2人から同時に腕の肉を捻られたミツルギは、苦痛に悲鳴を上げる。

 別に彼が嫌いというわけではなく、初対面でまだ仲も深めていない人を呼び捨てで呼ぶのは失礼だと思っていたゆんゆんは、ベルディアという名前を聞いて首を傾げる。その一方、バージルは少し感心するように口を開いた。

 

「ほう、まだ魔剣に喰われていないどころか、対話も可能にしていたか」

「あっ、ハイ! 師匠の言っていた、支配するとは違いますが……師匠から譲り受けたこの魔剣に宿る魂と、対等な関係を築けています!」

『何を勘違いしている、鈍感すけこましムッツリ変態男。俺は貴様を対等だと認めた覚えは一切ないぞ。なんなら今ここで貴様を乗っ取っておほうっ!? おい後ろの女子共! 何故今俺の美しい刃に傷をつけた!? ちょっやめっ痛い痛い痛いっ!? 助けて! 助けてミツルギ!』

「キョウヤの後ろに隠れて、魔剣に触れてた私達にはアンタの声が丸聞こえなのよ! 前半は否定しないけどムッツリ変態は撤回して! キョウヤはそんなことに興味がない、汚れを知らない聖人なのよ!」

「あと、どさくさに紛れて乗っ取ろうとしたわよね!? そんなことは私達がさせないんだからっ!」

 

 唐突にミツルギの背後で喧嘩――というより、一方的なリンチを始めたクレメアとフィオ。ベルディアのヘルプを聞いて、ミツルギは苦笑いを浮かべる。助ける気はないようだ。

 突然喧嘩を始めた彼女等に面食らっていたバージルは、呆れたようにため息を吐く。

 

「(先生から魔剣を!? う……羨ましい……!)」

 

 そんな中、ゆんゆんは彼が背負っている物が魔剣だった事実より、その魔剣がバージルから譲り受けたものだったことに驚くと同時に、ミツルギに羨望の眼差しを向けていた。

 

 

*********************************

 

 

「で、貴様等は何故ここに?」

 

 クレメアとフィオの気が済むまで叩き、終盤にはベルディアが悦びの声を上げるリンチが終わった後、今度はバージルがミツルギにそう尋ねてきた。

 

「あっ! そうだった! 僕達、この先にある洞窟へ入ろうとしていたんです」

「……とすると、貴様も奥に潜む飛竜(ワイバーン)を?」

「ハイ! ここから1番近い街でクエストを受けて、それで……って、貴様もって、まさか……」

「授業の一環で、コイツにその飛竜をあてがおうと思ってな」

「えっ!? ちょっと先生!? それ今初めて聞いたんですけど!?」

 

 偶然にも目的が同じだと知り、ミツルギは驚く。ゆんゆんの方が驚いていたようだったが。

 

「そうだったんですか……あっ! それなら僕達と一緒に行きませんか? 人数は多い方がいいですし」

「……ふむ。まぁいいだろう」

「あの、先生……授業内容が鬼畜なのはもうツッこむ気もないし文句を言うつもりもないんですが……どんなモンスターを相手にするか一切明かさず、目的地へ行くのはやめて欲しいというか……私にも心の準備とかが必要で――ってあっ!? 無視して先に行かないでください!」

 

 ミツルギの提案に、バージルは渋ることもなく受け入れる。邪魔になるからと追い払わなかったのは、討伐するのが自分ではなくゆんゆんだからだろう。

 控えめなゆんゆんの文句には一切反応せず、バージルはミツルギ達に背を向けて歩き出した。その後ろを、ゆんゆんは慌てて追いかける。

 

「えー……アイツもいるのは私的にNGなんですけど……」

「で、でも、強いのは確かだし……私もまだ、あの人は怖くて苦手だけどさ……」

「大丈夫だよ。師匠は2人に危害を加えるようなことはしない。もし何かあったとしても、その時は僕が2人を守るさ」

「っ……キョ、キョウヤがそこまで言うなら……」

「わ、私達も頑張って……我慢するよ……はうぅ……」

 

 未だバージルへの暴力的なイメージが拭えなく、ミツルギの提案に反対気味な様子のクレメアとフィオだったが、ミツルギの純度100%な言葉を聞いて、頬を赤らめ意見を変えた。これぞイケメンのなせる技。

 仲間2人を説得?したとこで、ミツルギはバージルを追いかけようとする――時、ベルディアが話しかけてきた。

 

『ミツルギ……1つ頼みがあるのだが……』

 

 さっきまでと違い、どこか真剣みが感じられる声。ふざけた頼みでないのは確かだろう。

 そして、伊達にベルディアと関係を築いていないミツルギは、彼が言わんとしていることを既に理解していた。

 

「わかってるよベルディア。頼まれなくても、そのつもりさ」

 

 ベルディアにだけ聞こえるよう、ミツルギは小さな声で言葉を返す。そして、前方を歩くバージルに駆け寄ると、自ら彼に声を掛けた。

 

「バージルさん」

「なんだ」

 

 バージルは歩みを止めず、振り返らないまま応える。横でバージルに抗議していたゆんゆんはそれを止め、ミツルギに視線を向ける。

 後方から、仲間の2人が駆け寄ってくる足音が聞こえる中、ミツルギは意を決するように唾を飲み込み、言葉を続けた。

 

 

「洞窟へ入る前に……ここで今一度、僕と戦ってくれませんか?」

「「キョウヤ!?」」

 

 バージルへの申し出を聞いて、後ろにいたクレメアとフィオは同時に驚きの声を上げた。

 ゆんゆんも彼の大胆な発言に驚き、様子を窺うようにバージルへ目を向ける。ミツルギの願いを聞いたバージルは足を止めると、振り返ってミツルギを見つめてくる。

 更に鋭くなった彼の目を見て、ミツルギは少し怯えるものの、それを表に出さないようバージルから目を逸らさない。やがて、ミツルギの目を見て思うところがあったのか根負けしたのか、バージルは自ら口を開いた。

 

「……いいだろう。ただし条件がある」

「条件?」

「ゆんゆんと、そこの女2人を戦わせろ」

「ふぇ!?」

「「えぇっ!?」」

 

 まさか自分も巻き込まれるとは思っていなかったゆんゆん、クレメア、フィオは、バージルの出した条件を聞いて驚いた。

 飛竜ソロ討伐ができなくなった分、ここでゆんゆんに授業をつける気なのだろう。彼の返答を聞いたミツルギは、振り返って背後にいる仲間を見る。

 

「2人とも……いいかな?」

「うぐっ……そ、そんな顔で言われたら、断れるわけないじゃない……」

「か、回復薬も余ってるし、私はいいわよ! ゆんゆんちゃん、かかってきなさい!」

 

 決して狙ったわけではなく、ミツルギは2人に微笑みかけて頼むと、彼女等はアッサリと承諾してくれた。2人の言葉を聞いてミツルギがニコッと笑うと、彼女等は更に顔を赤く染める。クレメアとフィオの承諾を得たとこで、ミツルギは再びバージルと向き合う。

 それを見たバージルは、隣にいるゆんゆんへ顔を向けた。その視線は、お前はどうだという意味か、拒否権はないぞという意味なのか。

 

「(ま、まさかこの人達と戦うことになるなんて……でも、先生以外との対人戦はしたことなかったから……良い機会かもしれない)」

 

 バージルの視線を受け、しばらく戸惑っていたゆんゆんだったが、やがて意を決したように独り頷くと、前方にいるクレメア、フィオと向き合った。

 

「よ……よろしくお願いします!」

 

 

*********************************

 

 

 元はファイアードレイクの縄張りだった、洞窟前の岩場地帯。空は一面雲がかっているが、隙間から見える太陽はまだ頂点を超えていない。

 モンスターの死体を退け、フィールドの中心に立つのは3人の少女。槍を持った少女クレメアと、ダガーを構えるフィオ。そして彼女等と対面するように立つ、腰元に短剣を据えたゆんゆん。

 ミツルギとバージルは、相対する彼女等から離れ、見守るように立っている。ミツルギは彼女等に聞こえるほどの声量で、3人に声を掛けた。

 

「回復薬があるから傷の心配はいらないけど、当然致命傷は負わせないこと。刃を突きつけられたり、身動きが取れなくなったら負けを認める。そこから反撃したりしないように」

 

 彼がルールを話すと、クレメアはわかってると答えるようにミツルギへ軽く手を振る。

 

「しっかし、いくらアークウィザードとはいえ、2対1で戦わせるなんてねぇ……やっぱ私、あのスカした銀髪鬼畜サディステック男大っ嫌い。私達のこと舐めくさってる」

 

 聞こえないのをいいことに、バージルの悪口を呟いたクレメアは、器用に片手で槍を回すと、穂先をゆんゆんへ向けた。

 

「そして、2対1でも構わないって思ってる、まだ20もいかない子供なのにやたら胸が大きくて、私へ当てつけるように胸元を見せびらかしてるあの子も!」

「ク、クレメア……多分あの子は、わざと見せてるつもりはないと思うよ?」

 

 胸が豊満な女性には嫌悪感を剥き出しにするタイプなのか、彼女はゆんゆんを、正確にはゆんゆんが持つ憎き巨乳を睨みつける。

 私情ダダ漏れなクレメアを見て、苦笑いを浮かべるフィオ。クレメアは槍を両手に持つと、姿勢を低くして構えを取った。

 

「わざとかどうかは関係ない! 巨乳は悪よ! 巨乳滅ぶべし!」

「あっ、ちょっと!?」

 

 フィオの呼び止める声に耳を貸さず、クレメアは槍を構えたまま走り出した。その先にいるゆんゆんは、短剣を抜くこともせず、迫り来るクレメアを待ち構えている。

 

「先手必勝! 私の突きを喰らいなさい!」

 

 そして、クレメアは勢いを乗せたまま、ゆんゆんへ槍の一突きを放った。 が――その攻撃は空を切る。

 

 

 ゆんゆんが、その突きを跳んでかわし、槍の穂先に立ったがために。

 

「んなっ――!?」

 

 予想外の避け方をされてクレメアが驚く中、ゆんゆんは槍を踏み台にして跳び上がると、クレメアの頭上を越え、彼女の後方に着地する。

 近くにいたフィオは、警戒するように後ろへ跳び退いてゆんゆんと距離を空ける。クレメアもすぐさま振り返り、槍を構え直してゆんゆんを見る。

 2人から警戒されている中、ゆんゆんは腰元の短剣を左手で抜くと逆手で持ち、刃を水平に構え――。

 

「(これは先生の真似。これは先生の真似……これは先生のリスペクト!)」

 

 決して、紅魔族独特のセンスからくる恥ずかしいことではないと、自分へ言い聞かせながら、2人へ告げた。

 

「さ、さぁ――踊りましょう!」

 




作中では一切描写しませんが、ミツルギ達は舞台裏で王道なイベントを経験したんだと思っていてください。
あとクレメアは漫画版じゃ胸あるけど、そこはアニメデザイン準拠ということで。あと職業も戦士(文庫版、アニメ版準拠)からランサー(web版、漫画版準拠)にジョブチェンジしました。

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