先程まで3人の少女が立っていたフィールドの中心に、今度は2人の男が立った。
蒼い鎧を身に纏ったミツルギ。蒼いコートをなびかせるバージル。距離を空け、睨み合う2人の蒼きソードマスター。
その様子を少し離れた場で見守っているのは、先程まで戦っていた少女、ゆんゆん。
「(先生から魔剣を貰ってて、師匠と呼んでるあの人……変わった名前と髪色を見る限り、恐らくカズマさんと同じ『勇者候補』……一体どれほどの実力を……)」
彼女は立ったまま、息を呑んで2人を見る。様子を窺っているのか、まだどちらも動く素振りは見られない。
とその時、彼女に近付いてくる者が2人。さっき自分と戦っていたミツルギの仲間、クレメアとフィオだった。フィオはゆんゆんに近寄ると、両手に持っていた瓶を差し出す。
「ハイ、ゆんゆんちゃん。回復ポーション。それと魔法職に必須な魔力回復ポーションも」
「あっ……あ、ありがとうございます……そ、それと……さっきはあんなことして、す、すみません……でした……」
万年ぼっちであるが故に、こういうやり取りにすら慣れていなかったゆんゆんは、ぎこちない動きでポーションを受け取りつつ、尻すぼみな声で2人に謝る。
その、先程までの戦闘とはまるで違うゆんゆんの姿を見ておかしく思ったのか、隣にいたクレメアはプッと吹き出した。
「謝る必要なんかないわよ。勝負なんだし。ていうかアンタ、アークウィザードなのに接近戦が滅茶苦茶強いわね! アークウィザードって皆そうなの!? それとも紅魔族だから!?」
「い、いや、あの、それは、た、体術が得意だったのもありますけど、だ、大部分は授業の賜物といいますか――」
「ねぇねぇゆんゆんちゃん! もしよかったらさ、私達のパーティーに入らない!? ソードマスター、ランサー、盗賊に加えてアークウィザード! 防御面が若干不安だけど、それを補えるほど攻撃に長けたパーティーになれると思うの! あっ、でもキョウヤは渡さないからね!」
「えぇっ!? あっ、あっ、で、でも、わ、私はまだまだ未熟者というか、先生の授業を受けなきゃいけなくて――!?」
まだ日は改まっていないが、昨日の敵は今日の友とばかりに接してくる2人の圧を受け、ゆんゆんは酷いパニック状態に陥っていた。
パーティーに誘われたのは心底嬉しいのだが、今はまだ応えられない。喜んでと言いたい気持ちを必死に抑え、小さい声で言葉を返す――とその時。
「っと……勧誘の話は後にしましょうか。どうやら始まるみたいよ」
「えっ? あっ……!」
クレメアがそう告げたのを聞いて、ゆんゆんは慌ててバージル達に視線を戻す。
バージルはいかなる戦いを見せるのか。弟子と名乗る男は、バージル相手にどこまでやれるのか。彼等の動きを自分の糧とするべく、ゆんゆんは2人の戦いを見守った。
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ミツルギは浅葱色の大剣を両手で持ち、自身の前で構える。対するバージルは、構える素振りを一切見せない。いや、あれが彼のスタイルというべきか。
バージルが微動だにしない傍ら、ミツルギは力を溜めるように体勢を低くすると――。
「――フッ!」
一気にバージルへ向かって駆け出し、肉薄したところで大剣を振り下ろした。が、バージルは瞬時に刀を抜いてそれを防ぐ。
初撃を防がれたミツルギは、距離を取らずに攻撃を仕掛ける。ただがむしゃらに大剣を振り回すのではなく、2撃、3撃目を念頭に置きながら、かつ相手の動きも見て。
無駄な力を込めず、時には軽く振ってすぐに切り返し、時には剣の勢いを殺さず攻撃を繋げる。これまでの冒険で学んだ剣術をいかんなく発揮し、攻撃を加えていった――が。
「Humph……流石に、あの頃よりは幾分かマシになっているようだな」
ミツルギの攻撃を全て防いでいたバージルは、刀を振る中で瞬時に逆手持ちへ変えるとそのまま突き出し、柄頭をミツルギの腹部へ押し当てた。
「うぐっ……!?」
鎧越しでも痛みが伝わるほどの衝撃。それをモロに受けたミツルギは後方へ飛ばされる。
下手にブレーキをかけず、地面を転がりながらもミツルギは立ち上がり、バージルを見る。彼は追撃を狙おうとせず、逆手で持っていた刀を持ち直して鞘に納めた。
「……流石ですね、師匠」
あの頃と違い、自分は必死に剣術を磨いてきた。だからこそか、彼が蒼白のソードマスターたる所以を、前よりも強く実感していた。
自身の手で剣を振っている筈なのに、相手に踊らされているような錯覚に陥ってしまう。彼の剣術は、これまでに出会ってきたどのソードマン、ソードマスターの中でも群を抜いていた。
バージルの強さを再確認したミツルギは、ゆっくりと呼吸を整える。もう一度突っ込んでも、同じように返されるだけ。ならば――。
「次は――本気で行きます!」
そう言って、ミツルギは魔剣を左手に持つと、空いた右手で腰元の両刃剣を抜いた。
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「二刀流……でもそれだけじゃ、先生には……」
クルセイダー、ソードマスターが持つスキル『二刀流』――文字通り二刀流で剣を扱えるようになるもの。しかし、それだけでは到底彼に敵わない。
バージルの力を知るゆんゆんは、小さくそう呟く。それが聞こえていたのか、横にいたクレメアとフィオが自慢げにこう言ってきた。
「まぁ見てて。二刀流だけが、キョウヤの本気じゃないのよ」
「きっとゆんゆんちゃんも驚くわよ?」
「えっ?」
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「……力を貸してくれ、ベルディア」
『俺の望んでいた再戦だ。是非もなし!』
3人の女性が見守る中、ミツルギはベルディアと短く言葉を交わす。ゆらりと左手を上げると、魔剣を水平に構え――。
「『ソウルリンク――
目を見開き、剣に宿る魂――ベルディアの魔力を解放した。瞬間、ミツルギの身体にベルディアの魔力が流れ込んでくる。
魔剣の支配に抗い続けた末、身に付けた固有スキル『
しかし、それを保つにはかなりの集中力が必要となる。使い始めた当初は1分と持たずに解除されていたのだが……今では自分から解除しない限り、この状態を保ち続けられるようになった。
因みに、ベルディアと普段から会話できるようになったのも、このスキルを習得したのがきっかけだった。
「……ほう」
大幅に上がったミツルギの魔力を見てか、バージルは少し関心を示す。その傍ら、ミツルギは再び体勢を低くすると――先程とは一線を画す速度でバージルに迫った。
「ハァッ!」
ミツルギは左手の魔剣で斬りかかるが、バージルは再び刀で防ぐ。それを見て、ミツルギは素早く右手の剣で2撃目を狙う。
が、バージルは防いでいた魔剣を刀で弾くと、すぐさま2撃目も防いできた。しかしミツルギは引き下がらず、バージルに攻撃を与え続ける。
剣が2本に増えた上に、底上げされた身体能力。それから繰り出される連撃は目を見張るものがあり、バージルはミツルギの攻撃を受けながらも後退していた。
「……チッ」
するとバージルは、ミツルギの攻撃を防ごうとせず、瞬時に姿を消してかわした。そして、先程よりも遠のいた場所に移動する。ゆんゆんの見せた瞬間移動と同じものだ。
彼が瞬間移動も使えることを、既にベルディアから聞いていたミツルギは特に驚きもせず、再びバージルへ詰め寄って魔剣を振り下ろす。
対するバージルは、攻撃が当たる直前にまたも姿を消した。先程とは違い、前方の視界にバージルは映っていない――が。
「見えてますよ!」
「ヌッ……!」
ベルディアの力を得たことで、背後に回り込まれていたのも見えていたミツルギは、咄嗟に魔剣を後ろへ振り、バージルの攻撃を防いだ。
そして、もう片方の剣でバージルの横腹を狙う。しかしバージルはすぐさま後方へ飛び退き、カウンターは回避された。が、ミツルギは手を緩めずに攻撃を続ける。
「行け!」
彼は、前方にいるバージルへ狙いを定めると、右手に握っていた剣を――投げた。それはバージルに剣先を向けたまま、一直線に飛んでいく。
と同時に、左手に握る魔剣へ既に魔力を溜めていたミツルギは、魔剣を逆手に持ち――。
「オマケにもう1つ!」
地面を抉るように剣を振り、地を這う『
2連続の飛び道具に対してバージルは、まず最初の剣を軽く避けると、後から迫る剣撃を刀で斬り伏せた。それを見たミツルギは、右手で手招く動作をする。
その瞬間、バージルの後方へ飛んでいった剣が、物理法則を無視して急ブレーキをかけ、回転しながらミツルギの方に戻ってきた。
ソードマスターの持つスキル『コマンドソード』――手元から離れた剣を、自在に動かすことのできる技。それを巧みに使い、ミツルギは自身と飛ばした剣によって、バージルを挟み撃ちする形に持ち込んだのだ。
剣がバージルの背を狙って飛ぶ中、ミツルギはバージルに向かって走り出す。
「甘い」
挟み撃ちを仕掛けられたバージルは、咄嗟に背後を振り返ると、背に向かってきていた剣を刀で弾いた。弾かれたそれは、あらぬ方向へ飛んでいく。
そして、剣を防いだ流れを乗せたまま再度振り返ると、背後に迫るミツルギを狙って刀を横に振る。
が――それを読んでいたミツルギは上に跳び、バージルの刀を避けた。そのまま、宙にいるミツルギは魔剣を両手で持つと魔力を込め――。
「今だっ!『ヘルムブレイカー』!」
ソードスキル『
ほんの短い間に繰り広げられた、幾つもの攻防。それを凌ぎ続け、ようやく掴んだ僅かなチャンス。それを逃さまいとミツルギは剣を握る力を強め、全力で振り下ろす。
――が。
「
「ッ――!」
バージルは、背中に負っていた剣を瞬時に左手で抜くことで、それを防いだ。
渾身の一撃を止められたミツルギは追撃を狙わず、後方に跳んで距離を空ける。その傍ら、弾かれて地面に突き刺さっていた剣は独りでに動き、ミツルギのもとへ飛んできた。ミツルギはバージルから視線を外さないまま、右手でそれをキャッチする。
その一方、バージルは白い剣を一旦背中へ戻すと、右手に持っていた刀を腰元に固定されていた鞘へ納め、ミツルギを見る。
そして、瞬時にミツルギの眼前へ接近した。
「なっ……!?」
バージルは背中の剣を再び抜き、攻撃を仕掛けてくる。ミツルギは驚きながらも、すかさず両手の剣で防御の姿勢を取った。
下手に反撃すれば逆にカウンターを喰らう。ミツルギは防御に徹し、バージルの攻撃を防ぎ続ける。それに対して、流れるように攻撃を繋ぎ、自身の周りを薙ぐように剣を振ったバージルは――。
「
「うぐっ……!?」
ミツルギへ、目にも止まらぬ
攻撃を差し込める隙などあるはずもなく、ミツルギは剣で防ぎ続ける。しかし全てを防ぎ切ることはできず、自身の頬や腕に剣が掠められ、一筋の血が流れる。
疾く、そして圧のある攻撃を繰り出してきたバージルは、最後に強く一突きした。剣で防いでいても消せない衝撃を受け、ミツルギはまたも後方に吹き飛ばされ、地面に仰向けで倒れる。
「どうした。まだやれるだろう?」
そしてバージルもまた追撃を狙おうとせず、剣を背中に戻してミツルギにそう言った。視線の先にいたミツルギは、剣を杖代わりにして立ち上がる。
「
「っ……ははっ……」
彼の挑発とも取れる言葉を聞いて、ミツルギは思わず笑う。どうやら彼にはお見通しだったようだ――自分が、まだ全力を出していないことに。
しかしその全力は、文字通り「持てる全ての力を使って戦う」ことだ。今の「自分の力を最大限に引き出せる状態で戦う」ことではない。
彼は、魔剣から引き出せる全ての力を制御し切れていなかった。引き出すこと自体は可能だが、コントロールが上手くいかず、あっという間に力を使い果たしてしまうだろう。だから――。
「ベルディア……もう一段階上げるよ」
『やるのか? まだ試したことはないだろう?』
「あぁ、だからぶっつけ本番さ。師匠にあれだけ言われたんだ。ここでやらずにいつやるって言うんだ」
ミツルギは小声で、ベルディアと言葉を交わす。ベルディアは心配するように尋ねてきたが、既にやる気でいたミツルギはハッキリとそう答えた。
『……意識を今よりも集中させろ。それが少しでも途切れたらリンクを外す。いいな?』
「……僕の身体を支配しないのか? 絶好のチャンスだろ?」
『ここで貴様の身体を奪えば、バージルに貴様もろとも消されるリスクが高い……勘違いするなよ、たわけ』
「フッ……そうか。そうだな。お前が言うなら、そういうことにしといてやるよ」
素直じゃないベルディアの言葉を聞き、ミツルギは小さく笑う。そして、左手に握る魔剣を再び水平に向け、目を閉じた。
より深く、暗い深海へ潜るように。魔剣に宿る魔力、ベルディアの魂へ意識を集中させる。魔剣から自分へ、自分から魔剣へ、身体を流れる血の如く魔力が循環するのを感じながら――ミツルギは目を開き、叫んだ。
「『ソウルリンク――
瞬間、ミツルギの持つ魔力がより大幅に増大した。魔力を解放した途端、彼を中心として突風が吹き荒れる。それを、バージルが表情を変えず見ているのとは対照的に、ミツルギは表情を歪ませていた。
ベルディアの言った通り、少しでも集中を途切れさせたら、身体を巡る魔力が溢れ出してしまいそうだ。こうやって抑え込むだけでも精神を削らされる。
それと同時に、内から溢れる高揚感が、闘争心がどんどん高まっているのを感じていた。果たしてこれはベルディアのものか、自分のものか。
ミツルギは両眼でバージルを捉えると、両手にある剣を強く握り締め――。
「さぁ……行くぞ! バージル!」
強く地面を蹴り、バージルに向かって駆け出した。その速さは、ベテランの冒険者が見ても姿を消したと錯覚するほど。
しかし、それすらも捉えていたバージルは、勢いの乗ったミツルギの剣を刀で防ぎ、左手で背中の剣を抜きカウンターを狙う。
ミツルギはもう片方の剣でそれを防ぐと、そのまま2本の剣でバージルに攻撃を仕掛けていった。リンクレベルをもう一段階上げたことで、更に高められた身体能力から繰り出される剣撃は、高い戦闘能力を持ったモンスターだろうと見切ることは不可能。
一方が距離を離せば、一方が瞬時に追いかける。一度目を離したらいつの間にか場所を移動しているほど、目で追うことすらままならない速さの剣撃が、繰り広げられていった。
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「キョウヤ……行っけー! そのまま押し切れー!」
「頑張って……キョウヤ……!」
もはや自分達では視認することはできないが、必死に戦っているのは確か。2人はミツルギにエールを送る。
「(っ……あれが……ミツルギさんの力……!)」
その傍ら、2人の戦いを見守っていたゆんゆんは、ミツルギの全力を見て衝撃を受けていた。
今の、魔剣から感じる魔力とミツルギ自身から感じる魔力がほとんど同化している彼の動きは、常軌を逸している。下手すれば、あの冬将軍に引けを取らないレベルだ。
まさしく勇者候補。そう認めざるを得ない力だ――しかし。
「(でも、かなり無茶をしてる……恐らく、あの状態を保っていられるのもままならない筈……)」
彼の持つ魔力量は、人間が持つにしては大きすぎる。魔法に長けた紅魔族さえも超えるほどだ。それを、勇者候補といえどただの人間が御しきれるとは思えない。
決着は――早々に着くだろう。
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「ぐぅっ……!」
攻撃をする度、受ける度に途切れそうになる集中をなんとか保ったまま、バージルとの攻防を続ける。
発動する前からわかっていたことだが、この『
なので一気に攻撃を畳み掛けたいが、そのチャンスを中々作り出せずにいた。ミツルギは一度後退し、バージルから距離を取る。
するとバージルは、距離を詰めることはせず刀を鞘に納めると、両手で剣を握り締め――。
「
「ッ!」
こちらに向かって、手にある両刃剣を投げてきた。放たれた剣は宙で横に回転し、真っ直ぐミツルギ目掛けて飛んでくる。バージルの、よりレベルの高い『
それを見たミツルギは、剣で弾き防ごうと両手を上げ、剣を構えようとする。
――とその時、向かってくる白い両刃剣を追い抜く形で、8本もの
「あぐっ――!?」
白い剣に注意が向いていたがために防ぐことができず、8本の剣は鎧を貫いて身体に突き刺さり、彼は体勢を崩す。故に、続けて飛んできた白い剣を防ぐこともできず、剣は独りでにミツルギの周りを飛ぶと、彼の鎧と顔に傷をつけていった。
しばらくして、突き刺さっていた剣がガラスのように割れ、白い剣がミツルギのもとから離れていった。ミツルギは痛みを堪えながらもバージルを見る。
その瞬間――更にダメ押しと言わんばかりに、ミツルギの身体が斬り刻まれた。
「ガハッ……!? こ、これは……!?」
その技を、
バージルの容赦ない連続攻撃。しかし、身体能力が大幅に上がった今のミツルギにとっては、このくらいのダメージはまだ許容範囲内。
が――切らせるには十分過ぎた。
「(っ!? しまった……ソウルリンクが……!?)」
身体が急激に重くなったのを感じ、ミツルギは保ち続けていた集中が途切れ、ベルディアとのリンクが切れてしまったことを瞬時に理解した。
慌ててもう一度リンクしようとするが、
「
「ッ――!」
鞘を納めていたバージルは、右手に持つ白い剣を水平に構えると――地面を滑るように
リンクが切れた上に動くこともままならなかったミツルギは、これをよけられる筈もない。気付けば、バージルは目の前まで迫り――。
「……及第点、と言ったところか」
ミツルギの脇の下へ、剣を突き出していた。もしこれが心臓に向けられていたとしたら、今頃自分の心臓は貫かれ、風穴を空けられていただろう。
バージルはそう呟くと、剣を引っ込んで背中に負う。それを見たミツルギは、勝負を始めてからずっと保っていた緊張がほぐれ、ドッときた疲れを感じ、その場に座り込んだ。
「はぁ……やっぱ敵わないかぁ……」
『当たり前だ。本気を出した俺でさえ、手も足も出なかったのだぞ?』
「そっか……確かにそうだよな」
ため息混じりに呟いたミツルギの言葉に、ベルディアが反応する。
あの頃よりも、自分はより強くなれた。剣術を身に付け、戦闘経験を学び、全てではないが魔剣の力も会得できていた。しかしそれでも、バージルには遠く及ばなかった。
きっと彼は、本気のほの字も出していない。その証拠に、今の自分とは対照的にバージルは息1つ上がっていなかった。消費した体力も魔力も微々たるものだろう。
結果は前回と同じく、完敗。しかしミツルギは、どこか満足そうに笑って空を見上げ、ポツリと呟いた。
「でもまぁ、今回は背中の剣を使わせることができたし、良しとするかな」
ほんの少しかもしれないが、前よりもバージルの力を引き出すことができた。それだけでも、十分進歩したと言えるだろう。
ベルディアも、それに対して何か言おうとはせず黙ってくれていた――が、この男は一言申したいようで。
「図に乗るな。貴様の頭上からの攻撃も、刀で防ごうと思えば容易く防げていた」
「……ははっ……」
少しムッとしたバージルの言葉を聞いて、ミツルギは小さく笑う。とその時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「「キョウヤー!」」
この勝負を見守っていた仲間のクレメア、フィオだ。その後ろからは、ゆんゆんも走ってきている。
クレメア、フィオの2人が駆け寄ると、すかさずミツルギを挟むように屈み込んだ。余程心配していたのか、どちらも涙ぐんでいるようだった。
「キョウヤ! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよフィオ……これくらいの傷なら回復ポーションで治るさ」
「ちょっとそこの銀髪鬼畜男! いくらなんでもやりすぎじゃない!? 特に最後! アレ絶対殺す気でやってたでしょ!? あっ!? ちょっと!?」
ミツルギを傷つけられて我慢ならなかったクレメアは、バージルに怒りの矛先を向けたが、相手にするつもりはないのか、バージルは何も言わずに洞窟の方へ歩いて行く。
「ゆんゆんからも何か言ってやってよ! アイツ、アンタの先生なんでしょ!?」
「そ、そう言われましても……わ、私も先生の授業を受ける時、これぐらいコテンパンにされる時もあるので……」
「ハァッ!? アイツ、こんないたいけな少女にまでそんな鬼畜極まりないことしてんの!? もう我慢ならない! ミツルギ、ちょっとベルディア貸して!」
『ぬおっ!? お、おいやめろ馬鹿! 俺を奴に向かって投げようとするな!? 修復不可能なレベルまでバラバラにされる!?』
「ク、クレメア! キョウヤが傷付けられて怒るのはわかるけど、流石にそれはヤバイって!?」
バージルへ怒りの
そんな中、未だ地面に座り込んでいたミツルギは、先を行くバージルの背中を見て、小さく呟いた。
「でも……使う気には、なってくれたんですよね」
自分の『ヘルムブレイカー』を防ぐため、バージルが背中の剣を抜こうとする直前――小さく笑っていたのを知っていたがために。
ミツルギageという、このすば二次では暴挙に近い行為だけど許して。