この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第36話「この戦いに乱入者を!」

 ゆんゆん、バージルとの勝負を終えたミツルギパーティーは、2人も連れて再び洞窟へと向かった。

 ミツルギ、クレメア、フィオ、そしてゆんゆんは先の勝負で消費した体力と魔力をポーションで回復済。ミツルギはバージルにもポーションを渡そうとしたが、彼は「必要ない」と断ってきた。思ったとおり、ほとんど消費していなかったようだ。

 そこからミツルギを先頭に、フィオが『敵感知』を使いつつ、クレメアがバージルを睨みながら進み、その後ろをゆんゆんとバージルがついて歩いた。

 洞窟の中は、予想と反して一本道であり、道中でフィオの『敵感知』に反応が出ることはなかった。もしかしたらここにファイヤードレイク達が住んでいたのかもしれない。

 とにもかくにも警戒は怠らずに5人は進んでいると、洞窟の先に光が見えた。と同時に、ようやくフィオの『敵感知』に反応が。彼女曰く反応したのは1体のみ。もしかしたらと予感を覚えながらも、ミツルギ達は警戒心をより高めて光の先に出る。

 

 その瞬間――前方斜め上から、大きな火球が飛んできた。

 

「ッ!『ウインドカーテン』!」

 

 向かってくる火球を見たミツルギ達は避けようとしたが、先にゆんゆんが動いた。彼女は前に出ると風のバリアを作り、飛んできた火球を防ぐ。

 

「っ……手荒い歓迎ですね……!」

 

 前方からの熱気に見舞われたゆんゆんは顔を歪ませ、火球が飛んできた方向を見た。ミツルギ達もそちらに目を向ける。

 そこには、宙に浮かんでこちらを観察する――甲殻と鱗は赤く、翼膜は淡い緑色。頑丈そうな肉体には似つかわしくない扇を模したような淡い緑の尻尾と、鎌のような長く鋭い角を持った飛竜(ワイバーン)がいた。

 飛竜が出入りする用なのか、天井は丸く空いており、地上の奥には飛竜の巣らしき藁がしかれている。周りを見ると、フィオの言っていた通りモンスターは飛竜1体しかいなかった。

 

 空からの奇襲を防がれた飛竜は、翼をはためかせて地上へ降りてきた。ミツルギ達はすかさず戦闘体勢に入る。

 ミツルギは背中の魔剣を抜いて両手で持ち、ゆんゆんは短剣を、クレメアは槍を、フィオはダガーを構える。そしてバージルは――構えようとせずその場から離れ、適当な岩壁に背を預けた。

 

「ってちょっと!? アンタ何寛いでんのよ!?」

「俺はここで、ゆっくり見物させてもらう」

「ハァッ!?」

 

 元々彼は、ゆんゆんの授業として飛竜をぶつけるつもりでいた。つまり、最初から飛竜と戦うつもりはなかったのだ。

 一応洞窟へ入る前に言ってはいたのだが、覚えていなかったのかクレメアは信じられないとばかりに驚く。しかしバージルは気にしない。

 

「ク、クレメア! 喧嘩してる場合じゃないよ!」

「あぁーもうっ! アイツほんと大っ嫌い!」

 

 思わず突っかかりそうになったがフィオに止められ、クレメアはやり場のない怒りを抱えながらも再度飛竜に目を向ける。

 丁度その時、飛竜は風圧を起こしながら着地すると、対峙するミツルギ達を捉え――耳を塞ぎたくなるほどにつんざく咆哮を発した。

 

「フィオ! 君はそこで罠の準備を! ゆんゆんは魔法で牽制しつつフィオを守ってくれ! クレメアは僕と一緒に突撃するぞ!」

「了解!」

「は、はいっ!」

「こうなったらアイツに怒りをぶつけてやるわ!『身体強化』!」

 

 リーダーのミツルギは、咆哮が終わったところでメンバーの3人に的確な指示を出し、クレメアと共に飛竜へ突っ込む。

 対する飛竜は、突撃してくる2人に向けて口から火球を放つ。クレメアより先を走っていたミツルギは魔剣を振り、真正面から火球を断ち切った。

 その傍ら、クレメアはブレーキをかけることなく走り続け、飛竜から5メートルほど近付いたところで踏み切り、飛び上がる。

 

「『雷光の槍(ライトニング・スピア)』!」

 

 空中でランサースキルを使い、飛竜の頭目掛けて突っ込んだ。見るからに厄介そうな角を狙っての攻撃だったが――。

 

「っ……硬っ……!?」

 

 見た目に反して、その強度は中々のものだった。最初の一撃で飛竜の角をへし折ることはできず、クレメアは顔を歪ませながらも飛竜の顔を足蹴にし、後方に飛んで距離を取る。

 先手を打たれた飛竜は、クレメアを狙おうと彼女に身体を向ける――が、そこにミツルギが迫り、飛竜の身体を斬った。

 

「大丈夫だ! 今ので十分に角へダメージは与えられた! 焦らず体力を削らせて、隙があれば角を狙っていこう!」

「わかったわ、キョウヤ!」

 

 そこから、ミツルギとクレメアはコンビネーションを取りつつ、飛竜を相手に立ち回っていった。

 流石は飛竜というべきか、並大抵の攻撃ではビクともしない。が、ノーダメージというわけではないようで、何度か攻撃を受けたところでよろめく動きも見られた。

 飛竜の攻撃を避けつつ、2人が硬い鱗と甲殻を地道に削っていく中――入口付近にいたフィオは戦況を伺いながら、ゆんゆんに作戦を話していた。

 

「――という流れで仕掛けるから。いい?」

「は、はい! わかりました!」

「よし、それじゃあ行くわよ……いち……にの……さんっ!」

 

 フィオの合図に合わせ、ゆんゆんは飛竜に向かって走り出した。そこから、ゆんゆんを追いかけるようにフィオも駆け出す。

 しかし、彼女等の動きを見過ごしていなかった飛竜は、ミツルギ達から攻撃を受けながらも、2人に向かって火球を放った。

 

「『ファイヤーボール』!」

 

 ゆんゆんは、すかさず『ファイヤーボール』を放って相殺。火球同士がぶつかったことで、飛竜とゆんゆんの間に爆炎が広がる。

 そのタイミングでフィオは『潜伏』を発動。爆煙で視界を遮った間に気配を消した彼女は、気付かれることなく飛竜の足元に接近する。

 

「ちょっとの間、痺れてなさい!」

 

 その流れで盗賊スキル『罠設置』を使い、飛竜の足元にシビレ効果のある罠を手早く置いた。少し間を空けてから罠は発動し、途端に飛竜の身体が痺れ出す。

 

「今だ! 一気に攻めるぞ!」

「ありがとフィオ! 今度こそ、アンタの角をへし折ってやるんだから!」

「わ、私、ちゃんとパーティーっぽく戦えてる……! え、援護します!」

 

 チャンスを得たところで、ミツルギは飛竜の身体を、クレメアは角を狙って攻撃を仕掛けていった。

 万年ぼっちだったゆんゆんは、久方ぶりにパーティーの一員っぽくなれていることに感動を覚えながらも、遠距離魔法で攻撃を加えていく。

 しかし、飛竜もやられっぱなしでは済ませない。身体の痺れが消えたところで、飛竜は扇形の尻尾を回すように、その場で横に一回転する。

 飛竜の麻痺が取れたのを見て、ミツルギとクレメアはすぐさま距離を取ったが――それでも届くほどの突風が、飛竜を中心として発生した。

 

「うわっ!?」

 

 まともに立ってられない風を受け、ミツルギ、クレメアの2人は吹き飛ばされ、地面を転がる。

 2人が転がりながらも体勢を立て直す傍ら、飛竜はクレメアの方を向くと、まだ破壊することのできていなかった角に風を纏い出した。

 そして、首を器用に使って前方を斬るように角を振る――と、クレメアに向かって風の刃(かまいたち)が飛んでいった。

 

「ぐぅっ……!?」

「クレメア!?」

 

 クレメアはすかさず横に跳んだが、避けきることはできず、右足に幾つか切り傷を負う。

 そこから、追い打ちとばかりに飛竜が突進してきた。それを見たミツルギは走り出し、突進の直線上に立って魔剣を盾のように構える。

 しかし、飛竜はそのまま突進することはせず急ブレーキをかけ、後方に飛ぶと同時に火球を放ってきた。防いでいたものの、火球を真正面からモロに受けたミツルギは顔を歪ませる。

 

「クレメア! 大丈夫!?」

「だ、大丈夫よこんぐらい……ちょっと掠っただけ……だからゆんゆんも、そんな心配そうな顔をしない」

「で、でも……!」

 

 その後ろで、すかさず駆け寄ってきたフィオとゆんゆんに、クレメアは安心させるように話す。

 このパーティーには回復役(ヒーラー)がいない。故に、回復手段はポーションしかないのだが、数に限りがあるため無駄遣いはできない。先のゆんゆん、バージルとの勝負で想定した以上に消費してしまったので尚更だ。

 本音は今すぐにでも回復させてやりたいが、傷を受けた本人が大丈夫だというなら信じよう。ミツルギは剣を構え、威嚇するように口から火を吹いている飛竜と対峙する。

 

「流石に、一筋縄じゃいかないか……」

『フム、たかが飛竜と甘くみていたが、中々どうしてやるではないか。どうするミツルギ? リンクするか?』

「あぁ、まずはいつも通りLv1で!」

 

 ベルディアと言葉を交わし、ミツルギは『魂の共鳴(ソウルリンク)Lv(レベル)1』を発動。傷を負ったクレメアの分まで、自分が飛竜に接近戦を仕掛けて翻弄する作戦だ。

 それを伝えるべく、ミツルギは飛竜から目を逸らさないまま、後ろにいるクレメア達に指示を出そうとする。

 

 

 その瞬間、飛竜の身体が斬り刻まれた。

 

「……っ!」

 

 余程のダメージだったのか、突然の斬撃を受けた飛竜は身体から血を噴き出してよろめいた。ミツルギは目を見開いて驚く。

 そして束の間、自分の頬に一筋の血が流れていたことに気付いた。もしやと思い、彼は後ろを振り返る。

 

「……Humph」

 

 壁にもたれていた筈のバージルが、刀を構え立っていた。いや、既に納刀した後なのだろう。

 彼は刀から手を離すと、右手で背中の剣を抜きつつ逆手持ちに変え、姿勢を低く構える。その間、剣は徐々に白い光を帯びていき――。

 

Go(行け)

 

 一瞬光が強まったタイミングで剣を振り、先の勝負でミツルギが見せた地を這う『ソードビーム(ドライブ)』を放った。氷属性なのか、白い光を放つそれが通った地面は凍り、一筋の氷道を描いていく。

 更にバージルは剣を背中に戻して氷の道に飛び込むと、斬撃を追いかけるように氷の上を滑り出した。巻き添えを食らうと思ったミツルギ達は慌てて横に避ける。

 ミツルギ達を横切った斬撃とバージルは、飛竜を目指して一直線に進む。しかし、それを黙って見てる筈もなかった飛竜は、斬撃を打ち消すべく火球を放った。

 

 するとバージルは氷の地面を蹴って飛び上がり、火球と斬撃がぶつかり発生した爆発から逃れ、飛竜の真上を通った。

 そのまま飛竜の後方へ移ると、空中で体勢を変えつつ刀を抜き、飛竜の扇型の尻尾を容易く断ち斬った。

 切り離された尻尾が地面に落ちる傍ら、前方へ倒れてしまった飛竜は2本の足で踏ん張り、バージルがいる場所に顔を向けつつ立ち上がる。

 バージルは既に刀を納め、特に構えることもせずゆっくり歩いてきていた。それを見た飛竜は、角に風を纏わせかまいたちを放とうとするが――。

 

「どこを見ている」

 

 バージルは急激に速度を上げ、飛竜の足元を通りつつ居合(疾走居合)を繰り出した。とても目では追えない速さ。それでいて深く斬り込む剣撃を受け、硬い鱗と甲殻で覆われている飛竜の身体がまたも斬り刻まれる。

 仕舞いには、自慢の角も真っ二つにへし折られた。尻尾に続いて角も失った飛竜を見て、バージルはバックジャンプで距離を取る。着地した先にはミツルギ達がおり、怪我をしている筈のクレメアは怒り心頭でバージルに突っかかった。

 

「ちょっとこの超自己中銀髪男! ゆっくり見物させてもらうとか言ってたくせに、何いきなり飛び入り参戦してんのよ!?」

「気が変わった」

「ハァアアアアアアアアーッ!?」

 

 飛竜如きに苦戦している自分達を見ていられなかったからか、思ったよりできる飛竜を見て自分もひと狩りいきたくなったのか。

 どちらにせよ身勝手すぎるバージルを見て、クレメア以外の3人は苦笑いを浮かべる。もしオンラインゲームでこんな行動をしたら、即キックからのブロック、通報の3コンボをお見舞いされること間違いなしだろう。

 

「ギュオオオオオオオオッ!」

 

 とその時、尻尾と角を切られた飛竜が、怒りを表すように咆哮を発した。ミツルギ達はバージルに向けていた視線を飛竜に戻す。

 そして飛竜は口に火を溜め込むと――今まで放ってきた中で1番大きな火球を撃ち出してきた。斬り伏せるつもりなのか、バージルは刀の柄に手をつける。

 

「でやぁっ!」

 

 が、それよりも先にミツルギは動いた。『ソウルリンク』していた彼は右手に魔力を溜めると、火球に向かって魔弾(メテオ)を放った。

 ベルディアの剣と同じ色の魔弾は真っ直ぐ飛び、火球とぶつかり相殺される。大きさは魔弾の方が断然小さかったが、込められた魔力量は同程度だったようだ。

 先程よりも身体能力の増したミツルギと、得体の知れないバージル。2人を同時に相手するのは無理だと判断したのか、火球を防がれた飛竜は翼をはためかせて空に浮かぶ。向かう先は、飛竜用の出入り口と思わしき空いた天井。

 

「逃がさん」

「逃がさない!」

 

 逃走を図る飛竜を見て、ミツルギとバージルは同時に駆け出した。対する飛竜は、近付かせまいと2人に向かって空中から火球を放つ。

 

「フッ!」

 

 が、ミツルギとバージルは地面を強く蹴り、左右に跳び別れて火球を避けた。そのまま勢いに任せ、2人は突き当たりの岩壁に着地する。

 そして再び足に力を入れると岩壁を蹴り、空中にいる飛竜に向かって飛び出す。

 

「貫け!」

 

 2人は背負っていた剣を使い、同時に突き(スティンガー)を放った。両側から勢いを乗せて迫ってきた剣は、飛竜の身体に深く突き刺さる。

 そして飛竜から剣を引き抜くと、ミツルギは片足に力を込め、バージルは両足に光る装具(ベオウルフ)を着け、飛竜の背中にかかと落としを当てた。

 衝撃に耐えられず、飛竜は地面に落とされる。大きな音を立てて地面に身体を打ち付けたのを見て、2人は剣を両手で持ち――。

 

「「Be gone(終わりだ)!」」

 

 上空から『兜割り(ヘルムブレイカー)』を放ち――飛竜の首を切断した。

 切られた先から血を噴き出し、飛竜はピクリとも動かなくなる。バージルの協力もありながら、無事飛竜を討伐することができた。

 

「……フゥ」

 

 ミツルギは安堵し、ベルディアとのリンクを切る。その傍ら、バージルは懐から取り出した自分の冒険者カードを見ていた。

 が、しばらくするとバージルは顔をしかめ、ミツルギに視線を移してきた。視線が合ったミツルギはどうしたのかと疑問に思ったが、もしかしたらと思い、自分の冒険者カードを取り出して討伐したモンスターの一覧を見る。

 そこの1番上に『炎嵐の飛竜(フレイムストームワイバーン)』――今し方倒した飛竜の名が載っていた。運の差か、飛竜はミツルギが倒した扱いになっていたようだ。お陰でレベルも上がっている。それを見たミツルギは、バージルに視線を戻す。

 

「……チッ」

「アハハ……」

 

 最終的に横取りされたのが気に触ったのか、バージルは不機嫌そうに舌打ちをし、ゆんゆん達がいる方へ歩いて行った。

 元々は自分達が受けていたクエストで、そこにイレギュラーな形でバージルが参加したため、横取りしようとしたのはむしろバージルの方なのだが……そんなことを言える筈もなく、ミツルギはただただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 ミツルギは、バージルの後を追うように仲間のもとへ向かう。すると、前方にいた女性陣3人の中からクレメアが飛び出してきた。彼女は、すれ違いざまにバージルへガンを飛ばしながらもミツルギに駆け寄り――。

 

「キョウヤー!」

「わっ!?」

「かっこよかったわ! さっすが私のキョウヤね!」

 

 飛び込むように、真正面から抱きついてきた。ミツルギは後ろに倒れそうになるのをなんとか踏ん張り、クレメアを受け止める。回復ポーションを飲んだのか、足の傷は癒えているようだった。

 

「なるほど……空中に逃げた相手は、牽制を避けつつ壁を蹴って一気に接近……っと」

「えっ? まさかゆんゆんちゃん、さっきの動きを真似するつもり?」

 

 その後ろでゆんゆんが何やら呟きながら、いつの間にか取り出したメモに書き込んでいる。

 メモを覗き込んでいたフィオが戸惑いを見せる中、彼女達の横を通ったバージルが口を開いた。

 

「もうここに用はない。さっさと最寄りの街に戻るぞ」

「えっ? 師匠も街に行く予定なんですか?」

「飛竜は貴様に横取りされたが、その前に雑魚を何匹か倒していた。ギルドに報告すれば、幾ばくかのモンスター討伐報酬が出るだろう」

 

 バージルの話を聞いて、ミツルギは洞窟入口前に倒れていたファイヤードレイク達のことを思い出す。恐らくアレのことだろう。

 「横取りしようとしたのはアンタでしょ!」とクレメアが声を荒らげている中、ミツルギは行き先が一緒ならばと、懐から1つのアイテムを取り出しつつバージルに提案した。

 

「なら、この『テレポート石』で一緒に行きましょうよ。登録先は街の入口にしてあるので、すぐに戻れますよ」

 

 『テレポート石』――1つだけ登録した場所に転移できる、1回しか使えない消費アイテム。主にダンジョンから入口までの移動に使われる『ワープ結晶』を元に開発されたもので、レベルの高い冒険者が集まる街で売られている。

 素材の高さと、テレポート屋や魔法使い職の存在価値を鑑みてか、価格は高めの50万エリス。もっとも、ボスとの激戦で疲労困憊になった後、ダンジョン奥地から街まで命の危機に晒されず移動できると考えたら安いものだろう。

 同じく結晶を素材として作られた『テレポート水晶』もあるが、そのお値段はなんと『テレポート石』の100倍。それなら『テレポート石』を10個買った方が断然お得だ。『テレポート石』を無視して『テレポート水晶』を買うなど余程お金が余っているか、騙されやすい馬鹿だけだろう。

 移動アイテムの中でも便利な物として扱われるアイテム――だが、いくら商品改良を重ねてもテレポート特有の制限は破れないようで。バージルは振り返りながらミツルギに言葉を返す。

 

「ここにいるのは5人。どうやって全員移動させるつもりだ?」

「……あっ!?」

 

 テレポートで移動可能なのは4人まで。それを忘れていたミツルギは思わずハッとする。

 しかし ここにはアークウィザードのゆんゆんがいる。彼女ならテレポートを覚えているのではと思い、ミツルギは彼女に視線を送るが……。

 

「す、すみません……わ、私、テレポートは覚えていますが、あの街は登録してなくって……」

「だよね……いや、謝ることはないよゆんゆん。登録できる移動先は5つまでなんだ」

 

 ゆんゆんも、最寄りの街に移動することはできなかった。謝るゆんゆんに、ミツルギは優しく言葉を返しながらも対策を考える。

 このアイテムは今回受けたクエストの帰り用として買ったため、残念ながら1つしか持っていない。こうなれば、テレポートは諦めて徒歩で帰るべきだろうか。そう思った時――。

 

「……貴様等は先に帰っていろ。俺は1人で帰る」

「えっ? あっ、師匠!」

 

 バージルが踵を返しながらミツルギにそう告げ、独り洞窟の出入り口に向かって歩いて行った。ミツルギは呼び止めようとしたが、バージルは足を止めることなく歩いていく。

 

「先生……」

「大丈夫よ、ゆんゆんちゃん。きっと何か移動する手段があるんだと思うよ?」

「ならいいじゃん! アイツのことは気にしないで、私達はさっさと帰りましょ!」

「……そうだね。じゃあ3人とも、僕の肩に掴まって」

 

 ミツルギはバージルを追いかけようか迷ったが、彼がああ言ったのだ。恐らく大丈夫だろう。クレメアに急かされたのもあってか、ミツルギは3人にそう話す。

 そして、3人とも自分の肩に手を置いたのを確認したミツルギは、テレポート石を天に掲げ――その場から姿を消した。

 

 

*********************************

 

 

 街に戻ったミツルギ達は、早速街のギルドにてクエストクリアの報告を済ませた。途中でゆんゆんが合流し、既にファイヤードレイクを複数匹討伐していたこと、飛竜討伐に参加したことを話すと、ギルドはゆんゆんにも飛竜討伐報酬を分配。ファイヤードレイクについては死体が確認でき次第、日を改めて渡すと告げられた。

 日が経ったらゆんゆんは街を出るため、ギルドにファイヤードレイクの報酬はアクセルの街にあるギルドへ送ってもらうことを頼んだ。その後、夕食と寝床を得るために宿を探したが、何故か(主人公補正で)どこも4人同室の部屋しか空いていなかったので、仕方なく4人部屋で1泊することに。

 また、夕食後に入った風呂で、ミツルギはゆんゆんとお互い一糸まとわぬ姿で遭遇してしまうハプニングを引き起こし、パニックに陥ったゆんゆんから上級魔法を撃たれそうになったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

 そして翌日――ミツルギはため息を吐きながら、独り街を歩いていた。

 

「ハァ……やっぱ僕から謝るべきかな……いやでも、僕が入ってたところに彼女が来たんだから、僕は何も悪くない……いやでも……」

『俺や一般男性から見たら、貴様は存在自体が罪だ。このラッキースケベ製造男。それよりも、だ! 見たんだろう!? あの女子のあられもない姿を! どんなだった!? あの年端もいかない小娘なのに、どこかの爆裂魔と違ってやたら生育のいい紅魔族の姿は!? あの服の下はどうなっていた!?』

「そしてお前という奴は……よく見えなかったよ」

『嘘をつくなぁああああっ! まさか、女のプライバシーを守るように都合よくタオルや湯気がガードしていたわけではあるまい! さぁ教えろ! 貴様だけ独り占めするのは断じて許さん!』

 

 王都ほどではないが、人通りが多く発展した中世の街を歩く中、変態騎士化しているベルディアからしつこく彼女の恥ずかしい姿の開示を迫られたが、本当に見えなかったものを教えられるわけがない。見えていたとしても教えるつもりはなかったが。ミツルギはベルディアの声を無視し続ける。

 昨日の夕食時、ゆんゆんは「先生が帰ってくるまでここで待つ」と言っていた。そして、飛竜のいたダンジョンからここまで行くのに徒歩で3日はかかる。つまりあと2日か3日、彼女はあの宿で泊まるということ。

 あのハプニングを再び起こさないためにも、自分は別の宿で泊まるべきかと考えながら、ミツルギはお昼時の街を見渡しつつ歩く――と、前方に何やら見覚えのある人物が。

 自分と同じく、街を見ながら歩いている――どこにいても目立つ蒼コートと銀髪の男。

 

「……んっ? あれ!? 師匠!?」

「……ムッ」

 

 まだ移動中かと思っていたバージルが、何故かもう街にいた。ミツルギは驚きながらも、すぐさま彼に駆け寄る。向こうも気付いたのか、足を止めてこちらを見た。

 

「師匠! もう街に来たんですか!?」

「あぁ。今日の朝方には着いた」

「朝!? 最低でも3日はかかる距離ですよ!? 一体どうやって――」

「走ってきた」

「……えぇ……?」

 

 たとえ休憩無しで走っても、半日で辿り着くのは逆立ちしても無理な距離だが……バージルの並外れた身体能力なら、それすらも可能なのかもしれない。

 ミツルギは深く考えようとせず「バージルだから」という結論で済ませる。すると、バージルが辺りを見渡しながらミツルギに尋ねてきた。

 

「ゆんゆんはどこに?」

「ゆんゆんですか? 彼女なら、僕の仲間と宿屋にいますよ。案内します」

 

 正直、昨日の一件で彼女と顔を合わせるのはまだ小っ恥ずかしいのだが、横にバージルがいれば少し紛れるだろう。そう思いながら、ミツルギはバージルを宿屋に案内するべく、踵を返した。

 

 

*********************************

 

 

「……師匠、いくつか質問してもいいですか?」

「……何だ?」

 

 宿屋へ戻る道中、人気の少ない裏路地を歩きながら、ミツルギは自分の少し後ろを歩いているバージルに声を掛ける。

 バージルが質問する許可をしたのを聞いて、ミツルギは一度ゴクリと息を呑んでから、彼に尋ねた。

 

「ベルディアから聞いたんですが……師匠は本当に、半人半魔なんですか?」

「……あぁ」

「……僕と同じで、異世界から来たというのも?」

「そうだ。貴様のように、俺は女神から二度目の生を受け、この世界に来た」

 

 とても人前では明かすことのできない秘密。他人に聞かれてはいけない内容だったからこそ、ミツルギは道がわかりやすい大通りではなく、狭い裏路地を敢えて通っていた。

 それをバージルも察していたのか、ミツルギの質問に隠す素振りもせずハッキリと答えた。

 

「……その事実を知っているのは?」

「半人半魔については貴様とゆんゆん、貴様がアクセルの街で会った男、サトウカズマと仲間の女3人、俺の協力者である盗賊の女。転生については貴様、カズマ、アクアの3人のみだ」

「……なるほど……佐藤和真もやはり知ってたか……」

『俺はノーカウントなのか……まぁ死んだ扱いになってるし……今は魔剣だからなぁ……』

 

 バージルから彼の正体を知る者について聞いたミツルギは、ベルディアのちょっと悲しそうな声を無視しながら呟く。

 

「……どうやら、そこまで驚いていないようだな」

「えっ? あっ、いや……ベルディアから聞いた時はかなり驚きましたよ。師匠、姿はどっからどう見ても人間ですし」

 

 意外だと言うかのように話すバージルに、ミツルギは小さく笑いながら言葉を返す。

 ミツルギの言う通り、初めて知った時は大層驚いていた。それに、バージル本人から事実を認める発言を聞いた今でも、未だ信じきれていないところはある。しかし――。

 

「でもまぁ、悪魔だろうと人間だろうと、僕の師匠に変わりはないので。これからもよろしくお願いします」

「……フンッ」

 

 バージルの方へ振り返りながら、ミツルギは笑顔を見せてそう告げる。気に食わなかったのか照れ隠しなのか、十中八九前者だろうがバージルは鼻を鳴らしてミツルギから目を逸らした。ミツルギは視線を前方へ戻し、裏路地を進み続ける。

 

「(……本当はもう1つ聞きたいことがあったけど……今はいいか)」

 

 それは、ベルディアがバージルと戦う最中、彼から聞いた1人の悪魔の話。

 自分がそういう類に詳しくなかったのもあるが、元いた世界では名前すら聞いたこともなかった。魔界の手から人間界を救ったという、英雄と呼ぶに相応しき存在。

 詳しく尋ねてみたかったのだが、長い話になりそうな予感がしたので今はやめておいた。またいつか、ゆっくり話せる機会があればその時に尋ねてみよう。

 その者は、バージルとどのような関係だったのか――バージルにとって、どういう存在だったのかを。

 

 

*********************************

 

 

「……そういえば、あの飛竜の素材はどうするつもりだ?」

 

 もうそろそろ目的の宿屋に着きそうな辺りで、今度はバージルから話題を振られた。ミツルギは歩きながら答える。

 

「あのモンスターは火と風、2つの属性を持ってたので、それを生かした武器にしてもらおうかなーと思ってます……実を言うと、先程師匠に会うまで鍛冶屋を探しながら街を歩いていたんですが、中々見つからなくって……」

「なら、アクセルの街にいるゲイリーという鍛冶屋に作らせるといい」

「アクセルの街? そこに、そんな名前の鍛冶屋さんなんていたかな……?」

「変わり者だが、腕は確かだ。俺の刀と剣も、ソイツに作らせた」

「えぇっ!? ほ、ホントですか!?」

 

 バージルの言葉に食いついたミツルギは、思わず足を止めて身体をバージルに向ける。彼の技と力についていける武器を作れる鍛冶屋だ。興味を惹かれないわけがない。

 

「レベルがそれなりに高くなければ門前払いされるが、貴様なら問題ないだろう……それより、宿屋にはまだ着かんのか?」

「あっ、すみません! もうちょっと歩いたら着きますので!」

 

 バージルにジト目で睨まれ、足を止めていたことに気付いたミツルギは慌てて案内を再開させる。ミツルギの言っていた通り、そこまで時間をかけることなく宿屋に辿り着くことができた。

 

「ありました! あそこです……って、あれ?」

 

 目的の宿屋を見つけたミツルギは、そこを指差してバージルに話す――と、宿屋の前にクレメア、フィオ、ゆんゆんがいることに気付いた。

 彼女等は誰かを探すかのように、キョロキョロと辺りを見回している。しばらくしてクレメアがこっちに気が付くと、パァッと顔を明るくしたが、一緒にいるバージルを見てか、すぐさま嫌そうに顔を歪ませた。

 表情のわかりやすい彼女を見て、ミツルギは苦笑いを浮かべる。その傍ら、クレメアがこちらに駆け寄ってきた。

 

「キ、キョウヤ……なんでアイツもうここに来てんの? 少なくとも3日は掛かる筈じゃなかった?」

「走ってきたんだって」

「……えぇ……?」

 

 ミツルギの簡潔な説明を聞いて、クレメアは困惑した表情を見せる。しかし、ミツルギと同じように深く考えてはいけないと察したのか、頭を横にブンブン振ると、少し怒ったように話し出した。

 

「それよりもキョウヤ! なんで黙ってどこか出ちゃうのよー!?」

「ご、ごめんよクレメア……ゆっくり街を散策したかったんだ」

「ゆんゆん、昨日のこと謝りたいって言って探してたわよ! ほら、さっさと行ってあげて!」

「えっ? ゆんゆんが? ってわわっ!?」

 

 クレメアはそう言ってミツルギの手を掴むと、ゆんゆんとフィオがいる宿屋の前に引っ張っていった。

 こちらが近付いてきたことに気付いたゆんゆんとフィオがこちらを見ると、ゆんゆんは顔を赤くし、フィオの後ろに隠れる。同じくミツルギも、忘れようとしても忘れらない昨日のゆんゆんの姿が頭に浮かび、小っ恥ずかしくなる。

 が、ゆんゆんは何やら独り意気込むと、自らフィオの後ろから出て、ミツルギと対面する。恥ずかしさか人見知り故か、ミツルギと目を合わせることなく話し始めた。

 

「き、昨日は……すみません……でした……元はといえば、わ、私が確認もせずに入ろうとしたのが原因なのに……上級魔法を撃とうとしちゃって……」

「あっ……いや、謝ることはないさ。飛竜討伐で疲れてたんだし、確認不足になるのは仕方ないよ」

 

 勇気を振り絞って謝るゆんゆんを見たミツルギは、未だ悶々としていた自分を恥じると、いつものように笑って言葉を掛けた。

 2人のわだかまりが解消されたのを見て、クレメアとフィオが笑顔を見せると、ゆんゆんを挟む形になるよう寄ってきながら話しかける。

 

「そういえばゆんゆんちゃん、前に話したパーティー加入の件だけど……どうかな?」

「えっ!? あ、あの……お、お誘いはスッゴく嬉しかったんですけど、まだ私には早いかなって……せ、せめてもう3年経ってからじゃないと……」

「うーん、となるとゆんゆんちゃんはその時には16歳かぁ……楽しみだねぇ」

「えっ? な、何が――」

「そのいやらしい身体つきよ! まだ13歳なのにこの胸の大きさは何なの!? このっ!」

「ひぁあっ!? ちょっとやめっ……!?」

 

 ニヤニヤしながらフィオが話した話題を皮切りに、クレメアはゆんゆんの胸を憎たらしそうに触り始めた。そこは弱いのか、ゆんゆんは官能的な声を出す。

 街行く男達が思わず立ち止まって見続けたり、我が子の目を母が思わず隠すほど、青少年には大変よろしくない絵面だったのだが――。

 

『……ファッ?』

「(……えっ? 13……えっ?)」

 

 ミツルギとベルディアは、今のゆんゆんの姿がよく見えないほど、サラリと告げられた彼女の年齢に衝撃を受けていた。

 確かに、自分より年下だとは感じていた。それでも1、2歳ぐらい下……丁度自分が高校2年生なら、1学年下ぐらいだろうと。

 しかし、その実態はまさかの13歳。日本の基準で言うと中学2年生――下手すれば中学1年生(去年までランドセル)だったと。

 

『ミツルギ……昨日、貴様が悶々として寝られなかったことは黙っておいてやる。その代わり、俺がさっき貴様に話していたことは忘れろ。OK?』

「……あぁ、わかってるよ。ベルディア」

 

 女子3人が前でキャッキャしている傍ら、2人の男は固い約束を交わした。

 

「……雑談は終わったか?」

「あっ、ハ、ハイ!」

 

 とその時、背後からバージルが現れ、4人の中に入ってきた。ミツルギは慌てながらも顔をそちらに向けて声を返す。

 バージルの姿を見てゆんゆんとフィオは驚いていたが、彼のとった移動手段を伝えると、案の定自分やクレメアと同じ反応を見せた。半人半魔だと知っていたゆんゆんは、どこか納得しているようだったが。

 

「クレメア、フィオ。実はこれから、久々にアクセルの街へ戻ろうと思ってるんだ」

「えっ? 今更駆け出しの街に何の用があるの?」

「そこに、腕の良い鍛冶屋さんがいるんだ。その人に、討伐した飛竜の素材をもとに武器を作ってもらおうと思ってね。素材はアクセルの街にあるギルドに、この街のギルドから送って欲しいって伝言をするつもりだから大丈夫だよ」

「へー、あの街にそんな鍛冶屋さんがいたんだ……ま、私はキョウヤが行くならどこにでもついて行くわよ!」

 

 念のため仲間にこれからの予定を話すと、2人とも許諾してくれた。クレメアはバージルがいるせいで不満げだったが。

 アクセルの街を登録しているテレポート屋はない。なのでまずは、アクセルの街行きの馬車を探すべきだと考え、ミツルギが動こうとした時、ゆんゆんが声を大にして伝えてきた。

 

「あ、あの、アクセルの街だったら、先生の家の前を登録してるので、テレポートできますよ! 先生も同じ場所を登録したテレポート水晶を持ってるので、今回は皆一緒に移動できます!」

「ホントかい!? ていうか師匠、テレポート水晶なんて持ってたんですか!?」

「値は張ったが、買えないほどではなかったからな」

「買えないほどではって……いやでも、ベルディア討伐の報酬を独り占めしてたのなら買えるのか……ともかくそれなら話は早い! 早速行きましょう!」

 

 ここにいる全員、次なる目的地にすぐ移動できると聞いたミツルギは、2人にテレポートの準備を促した。

 人の通りの邪魔にならない場所へ移ると、バージルは懐から水晶を取り出し、ゆんゆんは魔法陣を展開させる。その傍ら、ミツルギはバージルの肩に、クレメアとフィオはゆんゆんの肩に手を置く。

 

「では移動します!『テレポート』!」

 

 ゆんゆんがそう言い放った瞬間、5人は街から姿を消した。

 

 

*********************************

 

 

 テレポートの間、自分達をまばゆい光が覆っていたが、しばらくして光が収まると、目の前に見覚えのある建物が立つ場所へ移動していた。

 大きな屋敷の隣に立つ、2階建ての木造建築。バージルの家だ。何のトラブルもなく、ミツルギ達はアクセルの街に移動することができた。郊外に位置する場所だからか、やけに静かだ。

 

「デビル……メイ……クライ? ねぇフィオ、これってどういう意味?」

「うーん……なんだろう?」

「悪魔も泣き出す……か。ははっ、師匠らしいや」

 

 ミツルギ、クレメア、フィオは、バージルの家の入口上に掛けられた看板を見上げる。内装も気になるところだが、それよりも鍛冶屋だ。ミツルギは後ろを振り返り、バージルを見る。

 

「……? 師匠?」

 

 しかしバージルは、街の南方をジッと見つめたまま動こうとしなかった。隣にいるゆんゆんも、バージルと同じ方向を見て動きを止めている。

 一体どうしたのかとミツルギが疑問を抱いていると、今まで黙っていたベルディアがポツリと呟いた。

 

『この魔力……微妙に違う気もするが、これは……』

「えっ?」

 

 ベルディアの声が聞こえてきたミツルギは彼に聞き返すが、返答は来ない。

 するとその時、立ち止まっていたバージルが南方へ向けて走り出した。僅かに遅れてゆんゆんもそちらへ駆け出す。

 

「あっ!? クレメア! フィオ! 僕達も行くよ!」

「う、うん!」

「えっ!? ちょっ、いきなり何なのよ!?」

 

 2人を追いかけるように、ミツルギ達も南の方角へ走り出した。

 

 

*********************************

 

 

 街中を走る途中、ミツルギの姿を見た街の住人は喜びミツルギの名を叫んでいた。そして彼等は、何やら避難の準備をしているようだった。

 一体何が起こっているのか。焦る気持ちを抱えながらも南へ走り、街の最南端である正門に辿り着く。

 

 そして――信じられない光景を目の当たりにした。

 

「あ、あれは……」

 

 正門を出て、門前に陣形を組んでいた冒険者達の間を通ったところで、前方にあったものを見てミツルギは言葉を失う。クレメア、フィオ、ゆんゆんも同様だった。

 そこにあったのは――黒く輝く装甲、細くも頑丈な8本の足と、8つもの目を持った、破壊を体現せし存在――『機動要塞デストロイヤー』

 何者にも止められぬ災厄が――8本の足を失った姿で、地面に倒れていたのだ。装甲は徐々に赤く、熱されるように染まり始めている。

 見た目からして危険な状態にあるとわかるデストロイヤー。それ故か冒険者達はこちら側に駆け寄ろうとしていたのだが、その足を止められていた。

 

 

 デストロイヤーと正門の間にいた『奴等』によって。

 

「……ね、ねぇキョウヤ……アレって何っ?」

「な、なんか怖いんだけど……」

「僕にもわからない……ただ、味方じゃないってことは確かみたいだ」

「あそこで戦っているのは……クリスさん?」

 

 ミツルギ、ゆんゆん、クレメア、フィオは、見慣れないものを見て言葉を交わす。

 中心にいるのは、ダガー1本で戦う銀髪の女性。見事な立ち回りで倒しているが、その度に彼等は、地面の砂から次々と生まれ出る。

 見たこともない者達を前にしてミツルギ達が固まっている傍ら、バージルは左手に持つ鞘から少し刃を出し、独り呟いた。

 

「……こんなところまで追いかけて来るとはな」

 

 黒色のフードを被り鎌を持った、赤い目を光らせる何体もの骸骨を睨んで。

 

「――Devils(悪魔共が)

 




次回、シリアス(にしたかった)回です。

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