この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第5章 おいでませ堕女神様
第39話「この蒼い悪魔に問答を!」


 太陽が雪をより白く輝かせる冬の昼下がり。普段ならバージルはギルドでの食事を終え、クエストに行くか自宅で依頼人が来るのを待つのだが、今日は違った。

 現在彼がいるのは、自宅とは正反対な石造りの一室。部屋の中心と隅にポツンと置かれた木の机と椅子、それら以外は何もない質素な部屋だ。

 ここは――アクセルの街で荒くれ冒険者がお世話になる警察署。その中にある取り調べ室だった。

 

 突如、多くの騎士を引き連れて冒険者ギルドに現れた王国検察官のセナ。彼女は『重要参考人』として、バージルに同行を求めてきた。

 身に覚えがなければ騎士もろとも蹴り飛ばすところだったが、今回は察しがついていた。その為、バージルは特に抵抗せず彼女と、囚われたカズマも一緒に警察署へ向かった。

 カズマが牢屋にぶち込まれる傍ら、バージルはセナに案内されて別室――取り調べ室に移動した。その際、武器となる刀と両刃剣は警察に没収された。流石にベオウルフは奪われず、というか気付かれなかったが。

 

 バージルは両目を閉じ、腕を組んで静かに椅子へ座っている。ここで待っていろと言われてから30分は経っただろうか。まだかと思いつつも彼は待ち続ける。

 と丁度その時、部屋の外からカツカツと規律正しい足音が聞こえてきた。それが部屋の近くまで迫ってきたところで、バージルはおもむろに目を開く。

 軽くノックする音が三回鳴った後、ゆっくりとドアが開かれた。現れたのは、彼をここへ案内した女性検察官、セナ。背後に部下らしき女性を1人侍らせている。

 

「お待たせ致しました。すみません、少々準備に手間取ってしまったもので……」

 

 セナはバージルへ謝罪し、ドアを閉じてこちらに歩み寄る。その手には白い羽と黒い羽を象り、真ん中にベルが取り付けられた、何やら見たこともない道具が。

 

「……それは何だ?」

「これは、嘘を見破る魔道具です。我々検察官は取り調べや裁判において、この魔道具を重宝しております。試してみますか?」

「……あぁ」

 

 セナは道具を机の上に置き、バージルの対面に座る。嘘発見器らしき魔道具の効果を知りたかったバージルは、素直にコクリと頷いた。

 部下の女性がバージルの後方の、隅に置かれた椅子に座って準備を終えたところで、セナは自身の眼鏡をクイッと上げてバージルに告げた。

 

「では試運転も兼ねて、今から私が三つほど質問致します。それに対し、貴方は全て肯定してください。まず1つ目……貴方は女性ですか?」

「あぁ」

 

 指示通りにバージルが答えた瞬間、机に置いてあった魔道具からチリーンと音が鳴った。嘘を吐いた、という知らせなのだろう。

 

「2つ目。貴方の冒険者としてのクラスはソードマスターですか?」

「合っている」

 

 次の質問に答える。魔道具は鳴らず。正しい答えだと鳴らないようだ。

 

「3つ目……攻めか受けかと言われたら、貴方は受けですか?」

「……? そうだ」

 

 最後はどういう意味かわからない質問だったが、バージルは先の2つと同じくYesで答える。すると魔道具からはまたチリーンと音が鳴った。嘘と判定されたようだ。

 

「予想通りこの人は攻め……となると我々が勝手に妄想で男性化させているクリスさんは必然的に……」

「(フム……興味深い魔道具だ)」

 

 部下が素早くペンを走らせ、セナが何やらブツブツと呟く傍ら、バージルは興味深そうに魔道具を見つめる。

 元の世界にも嘘発見器はあったが、必ず対象の身体のどこかに線を繋げる必要があった。しかしこの魔道具は線も何も無しで嘘を見破っている。流石は、魔法が当たり前のように存在する世界というべきか。

 

「ゴホンッ……ご協力ありがとうございます。魔道具が故障していないのも確認できました。では次に、貴方のプロフィールの確認をさせていただきます」

 

 と、3つの質問を終えたセナは、仕切り直すように一度咳き込むと再度眼鏡を上げ、真面目な顔つきを見せた。後ろで書記を担当していた女性が近寄り、セナに紙を1枚渡す。セナはそれを片手で受け取ると、紙に視線を落としたまま言葉を続けた。

 

「名前はバージル。年齢は19歳で、職業は冒険者兼便利屋……クラスは先程確認した通りソードマスター……出身地は不明となっておりますが、これは?」

「言葉通りの意味だ。自然に囲まれた場所であったのは確かだが、どの国に位置していたのかは覚えていない。住んでいた屋敷も跡形もなく壊れてしまったので、確認のしようもなくてな」

「……そうでしたか……冒険者になる前は、主にどのような仕事を?」

「……悪魔を狩っていた」

「――ッ!」

 

 彼の言葉を聞き、セナはピクリと眉を動かす。机に置かれた魔道具から音は鳴らない。書記が静かにバージルの発言を記していく中、セナは自分を落ち着かせるように再び咳き込む。

 

「お答えしてくださり、ありがとうございます。それでは……ここから本題に入らせていただきます」

 

 いくつかの質問を経て、ようやく話が本筋へ。バージルは机の下で足を組み変えながら、彼女の話を黙って聞き続ける。

 

「既にお察しかもしれませんが、貴方をここにお連れしたのは……街の前に現れた、謎のモンスター達についてです」

 

 再び書記がセナに近寄り、今度は紙の束を渡す。セナはそれを手に取ると1枚紙をめくり、記されている内容を目で追いながら話し続けた。

 

「数日前に行われた、デストロイヤー迎撃作戦……サトウカズマ指揮のもと、デストロイヤーの結界を破り爆裂魔法で足を破壊。自爆段階に入ったデストロイヤーを止めるべく冒険者達が要塞に乗り込み、動力のコロナタイトをサトウカズマの指示によりランダムテレポートで転送。そして要塞から出た後、謎のモンスター達が現れた……ここまでの事実に間違いはありませんか?」

「さあな。俺はその迎撃作戦とやらに参加していない。テレポートでこの街に帰ってきた時、既に要塞は足を失い、奴等は姿を現していた」

 

 バージルがそう答える中、セナは嘘発見器の魔道具へ視線を移す。が、音は鳴らない。真だと判断した彼女は、再び紙に目をやる。

 

「目撃証言によると、多くのモンスターはフードを被り、鎌を持っていた。更には、デストロイヤーを乗っ取り生物の足を生やした個体もいたと聞いております……そして、青髪の女性がそれらのモンスター達を総じて『悪魔』と呼んでいた」

 

 セナはバージルに視線を移し事実の確認を再び求めてきたが、バージルは口を開かず。その黙秘を肯定と見たのか彼女は紙を机に置き、バージルと目を合わせる。

 

「青髪の女性は自らを女神アクアだと名乗る、特に頭のおかしいアクシズ教徒として有名なので、妄言の可能性は大ですが……今回は悪魔だと仮定して話を進めさせていただきます。悪魔に乗っ取られたデストロイヤーは再び街に向かってきましたが、それを貴方は要塞の足を斬って止めた……人外の姿となって」

「……あぁ」

 

 バージルは短く答える。置いてある魔道具から音は鳴らない。緊迫した雰囲気が漂い始める中、セナはバージルにこう切り出してきた。

 

「デストロイヤーの消滅後、貴方が姿を変えたことに困惑する冒険者へ、彼だけが持つ固有スキルだとサトウカズマは主張していたそうですが……よろしければ、冒険者カードを見せていだだけませんか?」

 

 セナはバージルに右手を差し出し、手のひらを見せる。やましいことが何もなければ問題ないだろうとばかりに。

 ここで渋れば怪しまれること間違いなし。バージルは懐から冒険者カードを差し出し、セナに渡す。彼女はカードを受け取るとそれに目を落とし、少し間を置いて今回の議題に当たるスキルを読み上げた。

 

「……デビルトリガー……」

 

 セナの呟きを聞き逃さず、バージルの背後にいる書記はペンを走らせる。その一方、セナは元々鋭い目を更に鋭くさせ、バージルに尋ねた。

 

「この固有スキルはどのような効果を持つのか、具体的に教えてくださいますか?」

 

 話の核心に迫る質問。後ろから聞こえていたペンの音も止まり、バージルの返答を静かに待っている。

 ここは選択肢を間違えないようにと、慎重に言葉を選ぶべき場面なのだが……大胆にもバージルは呆れるようにため息を吐き、彼女に言葉を返した。

 

「随分と回りくどい聞き方をする……貴様等は、俺が悪魔の力を持っていて、かつ奴等を呼び寄せたのだと疑っているのだろう?」

 

 バージルの持つ未知の固有スキル。そして未知のモンスター。ほぼ同時に目撃された未知の物に恐怖を抱き、それらの関連性を疑う者が現れてもおかしくはない。

 無駄話を嫌うバージルは、セナへ率直に尋ねる。すると彼女は、バージルの鋭い眼光に負けず睨み返したまま答えた。

 

「サトウカズマ並びに街の冒険者からは、貴方が固有スキルを持っているのは『勇者候補』だからと伺っております……が、貴方の容姿と名前は『勇者候補』の条件に一致しない……まぁこれには例外もありますので、恐らく貴方もその内の1人なのでしょう」

 

 あの時、カズマが説得材料として口に出した『勇者候補』――ミツルギのような、異世界から特典を持って転生した冒険者を指す言葉。

 その多くが『日本』と呼ばれる国から転生した者だったからか、聞きなれない6~7文字の変わった名前と平べったい顔に黒髪か茶髪というのが『勇者候補』の条件として広く認知されている。

 といっても転生者全てが日本人というわけではなく、数は少ないがバージルのような西洋人もいたため、容姿は当てはまらずとも強力なスキルを持った『勇者候補』も過去にはいた。

 

「問題は、そのスキルの効果。迎撃作戦に参加した者の中で、40にもなる独身ベテランアークウィザードがこう言っておりました。変身した後の彼が放っていた魔力は――上位悪魔にも匹敵する、と」

 

 セナは、一層警戒心を強めた様子でバージルに話す。それを聞いた彼はこの部屋の入口に視線を向け、納得したように呟いた。

 

「成程、部屋の外に騎士を待機させているのはその為か」

「……質問に、正直に答えてください」

 

 話を逸らすなと、セナはバージルへ回答を強要する。返答次第、もしくは魔道具の音が鳴った途端、部屋の外で息を殺して待つ騎士達が流れ込み、バージルを捕獲しにくるのだろう。

 もっとも、騎士数人がきたところで彼を捕えることはできないのだが……バージルは一度目を閉じると少し間を置き、おもむろに瞼を開いて答えた。

 

 

「あの場で俺が使ったのは、正真正銘悪魔の力だ。しかし俺は、故意に奴等を呼び寄せたつもりはない」

 

 強き魔は部下を従わせ、指示を出すことも可能となる。しかしバージルは、そのような行為をした覚えは一切無い。

 なら彼等はバージルの強い魔に引き寄せられたのかと言うと、それも違う。彼がアクセルの街に戻った時には既に、彼等は土足で踏み込んできていたのだから。

 バージルの返答を聞き、セナは視線を魔道具に移す。が――魔道具から音が鳴ることはなかった。

 

「……つまり、貴方はあの場に現れた悪魔側の者ではないと?」

「悪魔を味方だと思ったことは一度たりともない」

「魔王軍に寝返ることも?」

「だったら、冒険者を続けてはいない」

 

 念を押すように尋ねられ、バージルは短く答える。再びセナは魔道具を見たが、音は鳴らない。

 バージルが、あの悪魔達をアクセルの街に呼び寄せたわけではないことと、冒険者側にいてくれていると判明したところで――セナは、安堵するようにホッと息を吐いた。

 

「はぁ……良かった」

「……ムッ?」

 

 先程までのキツイ表情から一変、緊張が和らいだようにセナは表情を緩める。バージルは不思議そうに彼女を見た。

 あの悪魔達を召喚してはいないと証明できたが、同時に悪魔の力を所持していることも彼女に知られた。そこは警戒しないのかと疑問に思っていると、セナは再びバージルと目を合わせてこう話した。

 

「何故、貴方がそのような力を持っているのかは気になりますが、冒険者側に立ってくださるのであれば、それを咎めることも、追求も嫌悪もしません。もしここがアルカンレティアのようなアクシズ教徒が集まる街だったら、大変なことになっていたと思いますが……」

 

 その口ではっきりと、バージルの固有スキルについて深く調べることはしないと約束したセナ。これが普段の顔なのだろうか、彼女は柔らかな表情のまま言葉を続けた。

 

「『正体が人間でなくとも、味方でいてくれるのなら受け入れよ』と、冒険者ギルドと上の者から承っておりますので」

「……そうか」

 

 バージルのように特殊な力を持っている者がいると知ったら、通常は怪しみ、その者に刺客を向けて捕えてくるだろう。もしくは排除か。

 だが、ここが人間以外の種族も当たり前のように存在し、中には共存関係を築いている者もいる世界だからか、人間の味方である限り、たとえ悪魔の力を持っていたとしても、そこまで警戒しないようだ。もしかしたら、半人半魔と明かしても結果は同じだったかもしれない。

 今思えば、めぐみんやダクネスも自分が半人半魔だと知って逆に食いついてきた。元の世界だったらあの反応は異常だ。自分は異世界にいるのだと再認識しながらも、バージルは静かに相槌を打った。

 

「私は最初から、味方だと答えてくださると信じていましたけどね……推しの1人でもありますし……」

「(……推し?)」

 

 物静かな部屋だったが故にセナの小さな呟きも聞こえたが、試運転の質問にもあった、バージルには意味の通じない言葉だったので彼は首を傾げる。

 とその時、書記をしていた女性が再びセナに近寄り、彼女へ耳打ちをしてきた。それを受けたセナは思い出したような顔を見せると、再びバージルへと向かい合う。

 

「失礼、もし貴方がこちら側の味方であると判明した場合の、貴方への伝言を2つほど預かっておりました」

「……何だ?」

 

 バージルは机の下で再度足を組み替え、内容を尋ねる。仕事モードではついつい目がキツくなるのか、彼女は目を鋭く、されど先程よりは警戒心を解いた様子で伝言を告げた。

 

「まず1つは、冒険者ギルドからの伝言です。あの時、突如現れたモンスター達……彼等について知っていることがあれば教えて欲しい、とのことです」

 

 冒険者達の前に現れた未知のモンスター。ギルド側としては、モンスターの危険性や討伐する際の難易度を定める為に、情報を知っておかねばならない。

 そこで最初の情報源として選ばれたのが、あの場でモンスター達を、慣れたように斬り倒していたバージルだったようだ。

 

「先程貴方は、冒険者になる前は悪魔を狩る仕事をしていた、とおっしゃっていました。あのモンスター達が本当に悪魔なのだとしたら……もしかしたら、貴方は既に彼等も見たことがあるのでは?」

「察しがいいな。確かに、奴等には見覚えがあった。狩ったこともある。だが奴等はどのようにして人間界に現れたのか……そこが不透明だ」

「……? ただ単に、魔界から人間界に現れたのではないのですか?」

「普通に考えるならそうだ。しかし……あの時、あの場にしか現れなかったというのが引っかかる」

「なるほど……貴重な情報をありがとうございます。このことは冒険者ギルドに伝えておきます」

「あぁ……で、2つ目は何だ?」

 

 異世界の悪魔だという事実は知らせず、バージルは現時点で判明していることをセナに教えた後、もう1つの伝言について尋ねる。

 後ろの書記の走らせているペンの音が止まるのを待ってから、セナはバージルと視線を合わせて次の伝言を告げた。

 

「2つ目は上の者からです。アクセルの街から王都に場所を移し、我々に力を貸して欲しい……とのことです」

 

 それは、王都側からの勧誘だった。警戒するしないはバージルの返答次第で変わっていたが、興味はどちらにせよ持たれていたようだ。

 

「王都は凄腕冒険者が集う、ここベルゼルグ国の首都。アクセルの街とは比較にならないほど発展しており、快適な暮らしも約束されております。悪くない話だと思いますが……」

 

 セナは優しい物言いで、バージルに王都への移動をオススメしてくる。彼女の言う通り、王都ならば今よりも充実した生活を送り、少しは歯ごたえのあるモンスターとも戦えるだろう。だが――。

 

「断る」

「なっ!?」

 

 それを、バージルはキッパリと断った。まさか断られるとは思っていなかったのか、セナは驚いた表情を見せる。

 

「勘違いするな。敵ではないと答えたが、国の犬になるつもりはない」

 

 念押しするように、バージルはセナを睨みつけて自分の意志を話す。これに対しセナは何か口を挟もうとしたのだが――。

 

「この街は、少し気に入っている。もしここを脅かす輩が現れた時は、俺も剣を抜く……たとえ、貴様等が相手でもな」

 

 バージルが続けて話した言葉を聞いて、セナはその口を閉じた。魔道具から、一切音は鳴っていない。

 

「……わかりました。では、上の者にもそう伝えておきます」

「頼んだ」

 

 ここは自ら引き下がるべきだと判断したのか、セナは息を吐いてバージルの意見を受理した。もう話すべきことはないだろう。そう思い、バージルは自ら席を立ったが――。

 

「あっ、す、すみません! 実はもう1つ貴方にお話がありまして!」

「……まだ伝言があるのか?」

「いえ、貴方自身の件ではなく……サトウカズマについてです」

 

 少し面倒臭そうにするバージルへ、セナは申し訳なさそうに頭を下げながらも彼に別件を話した。バージルは足を止め、彼女の話を聞く。

 

「この後、サトウカズマの尋問を行う予定ですが、その内容次第では、数日後にサトウカズマの裁判を執り行うことになると思います。その裁判において検察官である私は、サトウカズマがいかに極悪非道な男であるかを証明しなければなりません。そこで……もしサトウカズマについての悪評や悪行について知っていることがあれば、私に伝えてください」

「情報提供か」

「はい。有益な情報であれば、証人として裁判にも参加していただく所存です。もし教えてくださるのであれば、裁判が行われる日までに私のもとへ来てください。基本私はこの警察署におりますので」

 

 セナの話を聞き、バージルは顎に手を当てて考える。証人という言葉を聞いて面倒に思ったが……この世界の裁判はどのように行われるのか、少し興味もあった。

 

「……考えておこう」

「ありがとうございます。お伝えすべきことは以上です。長々と付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。預かった武器は警察署を出てからお返しします」

 

 バージルの保留の応えを聞き、セナは軽く頭を下げて用件が全て済んだことを伝えた。特に残る理由もなかったバージルは、扉に向かって歩く。

 が――彼はドアノブを持ったところで動きと止めると、振り返らないままセナに告げた。

 

「女……上の連中にこう伝えておけ」

「? はい?」

「飼い慣らしたければ、力で服従させてみせろ」

 

 バージルはドアを開いて、セナの返す言葉も聞かずに取調室から退室した。

 

 

*********************************

 

 

 警察署を出て、帰路を辿っていくバージル。郊外にある家へ着く頃には、空がほんのりと赤くなり始めていた。

 カズマ宅の屋敷前を通り過ぎ、隣にある家へ。そして、玄関前に見知った3人の女性――クリス、ゆんゆん、ダクネスが立っているのに気付いた。

 

「……あっ! バージル帰ってきた!」

 

 バージルの帰りを待っていたようで、クリスは彼の姿を見るや否や駆け寄ってきた。遅れてゆんゆんとダクネスもこちらに近づく。

 

「せ、先生! 大丈夫でしたか!?」

「変なことされなかった!? まさか追放されるなんてことにはなってないよね!?」

「なんともない」

 

 心配そうに尋ねてくるゆんゆんとクリスに、バージルは短く答える。そのまま2人の間を通って家に入ろうと思ったが、ふとセナから頼まれたことを思い出し、バージルはそれについて彼女等に話した。

 

「そういえば……近々行われるらしいカズマの裁判で、証人になって欲しいと言われたな」

「さ、裁判!?」

 

 まさか彼の件が裁判まで発展しているとは思っていなかったのか、バージルの言葉を聞いてゆんゆんは驚いた様子を見せる。とその横で、ダクネスは何か考え込むように呟いた。

 

「そうか……となると、バージルに弁護人を頼むのは無理だな……」

 

 どうやらダクネスは裁判が行われるのを見越して、バージルにカズマの弁護人を頼もうとしていたようだ。もっとも、バージルはそれを引き受けるつもりなどなかったのだが。

 

「……すっかり聞き忘れていたが、何故あの男は国家転覆罪で捕まえられた?」

 

 とそこで、カズマが捕まった罪状は知るものの原因を知らなかったことに気付き、ダクネスに尋ねる。するとダクネスは思考するのを一旦止め、バージルに事の経緯を話した。

 

「デストロイヤー迎撃作戦の際、自爆しそうになったデストロイヤーのコアになっていたコロナタイトを、ウィズのランダムテレポートで転送したのだが……運悪く、ここら一帯の領主であるアルダープの屋敷に出現してしまってな。屋敷は木っ端微塵になってしまったそうだ。幸い、主も使用人も出張らっていたため、死者は出なかったが……」

「危険物のランダムテレポートは法で禁じられているからね。で、住処を奪われた領主がカンカンになった結果、カズマ君に国家転覆罪の容疑がかけられたってわけ」

「ほう……あのアルダープのところに、か」

 

 カズマ逮捕にアルダープも関わっていたと聞き、バージルは興味深そうに彼の名前を口にする。

 

「確かにあの男は、薄着のまま屋敷内をうろついている私を、舐めるような視線でコッソリ眺めるどうしようもない男だが、故意に犯罪を犯せる度胸を持った危険人物ではない」

「……カズマ君もカズマ君だけど、こんな寒い時期に敢えて薄着になるダクネスもどうかと思うよ?」

「それを証明するべく、弁護人を探していたが……仕方ない。ここはパーティーメンバーとして私とアクア、めぐみんの3人で弁護人を務めよう」

「えっ……大丈夫なのかな? めぐみんが裁判中に爆裂魔法撃たないか凄く心配なんだけど……」

 

 ダクネスが意を決し、そんな彼女をクリスとゆんゆんが不安げに見つめる傍ら、バージルは再び顎に手を当てて考える。

 今回行われるらしい裁判。もしそれがアルダープが自ら引き起こしたもので、彼も裁判へ顔を出すのなら――あわよくば、尻尾を出す瞬間を見られるかもしれない。

 

「(証人か……なってみるのも悪くはないな)」

 

 セナに頼まれた証人の件を前向きに考えながら、バージルは独り不敵に笑った。

 

 

*********************************

 

 

 ――それから数日後、雲一つない晴天の昼時。

 

「ではこれより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める!」

 

 街の郊外にあった処刑場の前で、カズマの人生を決める裁判が執り行われた。

 

 




裁判所はアニメ準拠の、処刑台直通になっている青空裁判所です。
また、残念ながらカプコン繋がりの逆裁ネタは原作未プレイのため挟めません。

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