この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

52 / 103
Secret episode4「このパーティーと因縁の対決を!」

 ある晴れた日のこと。便利屋デビルメイクライの訪問客が少ない朝と昼の境目にあたる時刻。店内には、主であるバージル以外に三人の女性がいた。

 一人は顔なじみのクリス。一人は珍しくシフトが入っていないタナリス。そして、独りモジモジと手を動かすゆんゆん。過去に一度だけパーティーを組んだ四人が集まっていた。

 

 ことの始まりは朝。バージルが食事所で朝食を取っていた際、偶然にもクリスとタナリスが訪れ、同席してきた。

 ウィズ魔道具店で色んな魔道具を買ったというタナリスの話を聞きながら、バージルは静かに食事を取っていると、更にそこへゆんゆんが現れた。

 彼女は勇気を振り絞り「三人にお話があります」と伝え、頭を下げてきた。食事所では人が多いため、ひとまずバージル達は朝食を食べ終えてから場所を移動。そして現在に至る。

 

「で、話って何っ? もしかして君もタリス教に入信かい?」

 

 タナリスはソファーに座り、茶化しながら尋ねる。普段どおりバージルは扉から真正面に位置する席で、クリスはその横に立ち、耳を傾ける。

 そんな中、机越しにバージルと向かい合った状態で立っていたゆんゆんは深く息を吸うと、声を張って用件を伝えた。

 

「も、もう一度だけでいいので、私とパーティーを組んでください!」

 

 勢いよく頭を下げたゆんゆんが告げたのは、二度目のパーティ―結成希望。しかしパーティーを組む際、バージルは一度だけという条件を提示し、ゆんゆんもそれを呑んでいた。であるのに何故彼女はこうやって頼んできたのか。向かい合っていたバージルは眉をひそめる。

 

「言った筈だ。パーティーを組むのは一度きりだと」

「ま。まぁまぁ。何だか訳ありみたいだし、まず話だけでも聞いてあげようよ」

 

 叱るように告げるバージルだったが、横にいたクリスが宥めてくる。彼女の声を聞いて、バージルはため息を吐いてから寄せていた眉を戻し、ゆんゆんを見つめる。

 理由を話してもいいと判断したのか、ゆんゆんは顔を俯き加減にしてバージル等と目を合わせず、人差し指をツンツンしながら訳を話した。

 

「昨日の夜……めぐみんと一緒に夕食を食べていた時に、先生達とパーティーを組んでクエストに行ったことを話したんです」

「あぁ、ジャイアントスネークのクエストかぁ。最後は爆発オチになっちゃったヤツ」

「そしたらめぐみん、なら自分のパーティーとどっちが強いか勝負しようって話を持ちかけてきて……折角めぐみんから誘っ……挑んできた勝負を拒むわけにはいかないと思って……つい、パーティーを組むのは一度きりだったことを忘れて、オーケーしてしまって……」

「ありゃま」

「しょ、勝負するのは今日の昼過ぎで……お、お願いします! 今日だけでいいんです! 私とパーティーを組んでください!」

 

 タナリスが相槌を打つ横で、ゆんゆんは再度頭を下げる。ちょっぴり変わっているが、根はとても優しい女の子。そんな彼女の頼みを、女性陣2人は断る筈もなかった。

 

「僕は全然構わないよ。今日は休みだし、何より友達の頼みだからね」

「アタシもいいよ。バージルは?」

 

 すぐにゆんゆんへ返答するタナリスとクリス。友達の頼みというタナリスの言葉にゆんゆんが感動を覚えている前で、クリスはバージルの言葉を待つ。

 こういった時、普段の彼ならまず呆れるようにため息を吐いて断るのだが、今回は違った。ゆんゆんの話を聞いたバージルは、口に手を当てて考える仕草を見せている。

 

「(めぐみんのパーティー……つまり、奴等との対決か)」

 

 自分達と相対するは、めぐみんとその仲間──カズマ、アクア、ダクネス。そして、十中八九ダクネスが自分に一対一の戦いを挑んでくるだろう。この世界で培った彼の勘がそう告げていた。

 ダクネス──全ての痛みを快楽へと昇華させるドMクルセイダー。二度彼女と勝負する機会はあったが、一度目に当たる墓場での戦闘は、バージルが避け続けただけで勝負にすらなっていない。二度目はダクネスが仮面の悪魔に操られていた。彼女自身と勝負し、白黒つけることは未だ叶っていない。

 デビルメイクライ初めての依頼で植え付けられたトラウマ。それを克服するためには、彼女と戦い──打ち勝つ必要があった。

 

 

*********************************

 

 

「ほほう、まさか本当に連れてくるとは。ゆんゆんのことですから、パーティーを組んだのは一回こっきりで、連れてこられなかったと泣き喚くものかと思ってましたよ」

「そ、そそそそそんなわけないじゃない!」

 

 場所は変わり、お隣にある屋敷の2階。暖炉のある応接間らしき広い部屋に、めぐみんパーティーとゆんゆんパーティーの計8人が集まっていた。絨毯が敷かれた場所の中心でめぐみんとゆんゆん、両者立ったまま向かい合っている。

 

「まぁ確かに、バージルさんも来るとは思ってなかったな。こういうの断りそうだし」

「アタシも同感。絶対ノーって返すだろうなって思ったら、いきなりOK出したんだもん。ビックリしたよ」

 

 部屋の窓際にもたれかかっていたカズマとクリスが言葉を交わし、その横で聞いていたバージルは小さく鼻を鳴らす。更に彼の隣で、上下黒の私服を纏ったダクネスがバージルに期待の眼差しを向けていたが、彼は決して視界に入れようとしなかった。

 またアクアとタナリスは、対面になるよう机越しにソファーへ座し、喫茶店で寛ぐかのように野菜スティックを摘みながら雑談を交えている。その様子を見てカズマは、ファーストフード店でポテトを頼むJKみたいだなと独り思った。

 

「パーティー対決のルールですが、お互いに1人ずつ戦い、計4戦で勝ち数の多いパーティーが勝利。2勝2敗になったら、パーティーの中から1人選出して最後の勝負へ。勝負する内容は、一個前の勝負で負けた側が決める。こんなところでどうですか?」

「わ、私は構わないわ!」

 

 四対四の団体戦におけるルールをめぐみんは取り決め、異存はないとゆんゆんは応える。早速ルールが決まったところで、次は初戦の組み合わせ決めに。

 

「では、始めるとしましょうか。先に私が行きましょう。カズマ、いいですね?」

「おう。頑張れよー」

「め、めぐみんが出るなら私も出るわ! クリスさん! 私に行かせてください!」

「そういえば、アタシが一応リーダーだったね。頑張って。ゆんゆんちゃん」

 

 お互いにリーダーの許可を得たところで、めぐみんとゆんゆんは再度向かい合う。初戦のカードは、めぐみん対ゆんゆん。

 

「勝負内容はそっちが決めていいですよ。何でもどうぞ」

「い、いいの? それじゃあ……えっと……」

 

 どうやって勝負するか考えろと言われ、ゆんゆんは口に手を当てて考える。しかし、めぐみんとは学生時代に何度も勝負している故か、新しい勝負方法が中々思いつかない様子。

 

「なら、自分のパーティーメンバーの良い所をどれだけ言えるかで勝負、ってのはどう? パーティーの絆を深めるのも兼ねてさ」

 

 とそこへ、ゆんゆんの様子を見兼ねてかタナリスが助け舟を出してきた。それを聞いたゆんゆんは、話を聞く時にタナリスへ向けていた視線を反らして、めぐみんへと向き直る。

 

「そ、その勝負方法でどう!?」

「……まぁいいでしょう。先手はどうしますか?」

「そっちから先でいいわ!」

 

 勝負の内容を聞いて、めぐみんは少しむくれた表情だったものの承諾。先攻後攻を決めたところで、早速2人の勝負が始まった。

 

「わかりました。では──まずダクネスから」

「むっ?」

 

 最初にめぐみんの口から出たのは、ダクネスの名前。彼女の声を聞いて、バージルに烈々たる視線を向けていたダクネスは我に返り、めぐみんを見た。

 

「ダクネスは、秀でた防御力でいつも私達を守ってくれています。私が爆裂魔法を発動する時はよくお世話になってます。やたらと実った2つの果実をこれでもかと揺らしてアピールする姿を見る度にイラッとしますが、私のパーティーにとって無くてはならない存在です」

「お、おぉ……何だか、こうして褒められるとむず痒いな……2つの果実とやらが何なのか気になるが……」

「ウッソだろお前。あんな晒したがりなのにそこ気付いてないの?」

「晒しっ……!? ご、誤解を招くようなことを言うな! 私は、自ら晒すことで悦ぶような露出狂ではない! 誰かに無理やり剥がされるシチュエーションが好きなだけだ! それに、私だって生まれたままの姿を見せる相手は……選……ぶ……」

「どちらにしろ変態だからな? そして自分で言いながら恥ずかしがってんじゃねぇよ。お前の中の羞恥の基準はどこにあんだよ」

「さぁ、次はゆんゆんの番ですよ」

 

 カズマとダクネスが言い合っているのを横目で見て、めぐみんは少々苛立ちを覚えながらもゆんゆんに催促する。対してゆんゆんは、チラリとバージルを見てからめぐみんに視線を戻し、深く息を吸ってから言い放った。

 

「な、なら私は先生について話すわ! 私の先生は、とても強くてスタイリッシュな剣士で、私に色々な剣術や戦い方を教えてくれて、時々話し相手にもなってくれるの! 私にとって無くてはならない人よ!」 

「慕われてるね。バージル」

「……フンッ」

 

 ゆんゆんの素直な気持ちを聞いて、自分のことのように嬉しく思ったクリスはバージルに微笑みかける。一方バージルは彼女等から目を背け、独り鼻を鳴らしていた。

 

「一人目は同点といったところですか。では二人目……私はアクアについて話しましょう」

「えっ? 私?」

 

 めぐみんとゆんゆんによる、パーティーメンバー紹介対決の一人目が終了。勝負は二人目へと移行し、先攻だっためぐみんはアクアの良い所について話し始めた。

 

「体力回復魔法に状態異常を解く魔法。呪いの解除に宴会芸……アクアは、私が知る限りのアークプリーストでは随一と言っていいでしょう。ダクネスの呪いを解いてくれたこと、カズマを生き返らせてくれたこと……今でも感謝しています。自称女神をいつまでも名乗る頭のおかしさはアレですが」

「め、めぐみんったら……普段はツンとした態度を見せてるけど、心の中ではそう思ってくれていたのね。嬉し……あれ? ねぇねぇめぐみん。最後の方に自称女神がどうとかって聞こえた気がするんだけど──」

「ゆんゆん。貴方のターンですよ」

 

 最後の一文だけ腑に落ちないアクアが尋ねてきたが、それを無視してめぐみんはゆんゆんに二人目の紹介を促す。ゆんゆんはタナリスに一度視線を送ると、再び深呼吸をしてから告げた。

 

「な、なら私はタナリスさ……ちゃんで! タナリスちゃんは、まだ会って間もない私を友達と言ってくれた優しい人で、いつも私の話し相手になってくれるの! タナリスちゃんは、私にとって大切な友達よ!」

「嬉しいねぇ。忘れずちゃん付けしてくれてるようで感心感心」

 

 ゆんゆんの紹介を聞いたタナリスは、両腕を組んでウンウンと頷く。本人に直で聞かれているこの状況下が恥ずかしく思えてきたのか、ゆんゆんはほんのりと顔を赤らめていた。

 しかし、そんなゆんゆんをめぐみんはジト目で睨むと、先程の紹介について指摘してきた。

 

「話し相手というのが被ってますよ。今回は認めますが、次は無しですからね」

「うっ……」

 

 この紹介勝負で、内容が被っていては勝負にならない。めぐみんはまた同じ内容を言わないようゆんゆんへ釘を刺す。

 ゆんゆんは痛い所を突かれたように唸るも、その注意事項を聞き入れるように頷いた。それを確認しためぐみんは、勝負を決する三人目の紹介へ勝負を移す。

 

「では最後に……カズマ」

「おっ、いよいよ俺か。よしめぐみん。遠慮しなくていいぞ。自分の気持ちに正直になって、俺の魅力的な所を余すこと無く皆に伝えてくれ」

 

 めぐみんが紹介するのは、残ったカズマ。普段は自分に対しつんけんしているめぐみんの本心が知れると、カズマはワクワクしながら言葉を待つ。

 いずれ、彼女が自分に対し辛辣な態度を取ったら、この勝負でめぐみんが明かした本心を持ち出してやろうと彼が画策する中、めぐみんはカズマに目を向けず、口を開いた。

 

 

「カズマは、お金に余裕があればクエストにもバイトにも行かず楽しようとするダメ人間で、更に女性のパンツを問答無用でスティールしては振り回す変態で、オマケにかなり年下の女性の胸に欲情して鼻息を荒くするロリコンです」

「おうこらめぐみん。勝利を自ら放棄してまで俺のことを貶そうとするその勇気は褒めてやるが、それなりの覚悟はできてんだろうな?」

 

 出だしから非難の嵐となっためぐみんの紹介文を聞いて、カズマはスティールか初級魔法をかけるつもりか右手をワキワキさせながらめぐみんに近寄る。

 しかし、彼を止めるようにめぐみんは少し大きめな声で「でも」と告げると、そこでようやくカズマに目を向け、小さく微笑んで言葉を続けた。

 

「なんだかんだで私達の面倒を見てくれて、ピンチの時は慌てながらも解決策を考える。やる時はやってくれるカズマのことは……ちょっとだけ信頼しています」

「……お……おう」

 

 思わぬめぐみんのデレを間近で受け、こういった女性の切り返しにリアルでは慣れていなかったカズマは、思わず赤面してめぐみんから目を逸らす。めぐみんも、少し顔を赤くしてカズマから目を背けた。

 そんな二人を見てクリスは両手で口を抑え、ゆんゆんは衝撃的シーンを見てしまったが如く目を見開いていた。色恋沙汰に興味津々な若い女子が見たら思わず声を上げてしまうような、どことなく甘酸っぱい雰囲気。

 

「見て見てタナリス。あれが、年下の女の子がちょっぴり褒めてくれただけでその気になっちゃう童貞ヒキニートという生物よ。アンタもカズマのことを褒めたりしたら、もれなくアイツの脳内でハーレム要員に入れられちゃうから、気を付けてね」

「ほうほう。カズマは恋愛にウブなチェリーボーイくんか。見てる分には楽しいね」

「な、ななななってねーし!? ロリコンじゃねーし!? めぐみんのことは単なる小さな子供としか思ってねーし!? あとチェリーボーイ言うな! それ絶対街で流行らすなよ!?」

「さ、私は言い終えましたよ。次はゆんゆんの番ですよ」

 

 それをぶち壊すのが()女神クオリティ。アクアとタナリスの会話を聞いて、カズマは慌てて否定しつつツッコミを入れた。また、めぐみんに名前を呼ばれたことでゆんゆんはようやく我に返る。

 今の紹介文は、この一帯の空気を変えてしまうほどによくできたものだった。現在のめぐみんとカズマの関係が非常に気になったが、今は勝負の最中。負けてはいられないとゆんゆんは自身を鼓舞し、三人目の紹介を始めた。

 

「じゃあ最後は……クリスさん!」

「(そういえば、ゆんゆんちゃんから見たアタシってどんな感じなのかな……)」

 

 彼女が紹介するのは、カズマ同様最後に残ったクリス。ゆんゆんの目にはどういった姿でクリスは映っているのか。これを機にもっと仲良くなりたいと思いながら、クリスは自分の紹介を待つ。

 

「クリスさんは、よく話し相手になってくれて──」

「それはバージルとタナリスの紹介で言いました。なので却下です」

「えっ!?」

 

 が、出だしから先の二人と同じ内容。先程めぐみんが決めたルールに触れているものだった。

 その為めぐみんは認めず。いきなり自分の紹介文を否定されて慌てたのか、そこからゆんゆんは思い悩んだ表情を見せ始める。

 

「え、えっと……えっと……と、とっても優しくて……」

「それから? まだ一個しか言えてませんよ?」

「く、くくくクリスさんは、えええええっとえっとえっと──!?」

「大丈夫だよ! 落ち着いて! 深呼吸してゆっくり言えばいいからね!」

 

 何とか一つ言えたゆんゆんへ、めぐみんは急かすように次を促す。その声を聞いて、ゆんゆんは更に慌てふためく。

 彼女がテンパって言葉が出なくなっていることに気付いたクリスは落ち着くよう呼びかけたが、今の彼女は周りの声を聞き取れない。

 もはや目が泳ぎ始めるほどにゆんゆんは慌てふためいていたが──ふと、何かを思い出したかのように顔を明るくすると、自信満々に大声で言い放った。

 

 

「胸がコンパクト!」

「ゆんゆんちゃん!?」

 

 まさかの紹介内容がゆんゆんの口から出て、クリスは思わず声が出てしまうほどに耳を疑った。

 正面にいためぐみんも目を丸くして驚いていたが、やがて不機嫌な表情に変わると、窓際にいたカズマへ声を掛けた。

 

「カズマ。今のはどう判断しますか?」

「あー……俺の主観だけど、それを言われて大概の女性は良い思いをしない……と思う。多分」

「私も同感です。今のは褒め言葉ではありませんよ。むしろ侮辱と捉えるでしょう」

「えぇっ!?」

 

 言った本人は侮辱したつもりなど毛頭無かったのか、ゆんゆんは酷く驚く。しばらくして彼女はクリスに顔を向けると、その赤い両目に涙を浮かべた。

 

「く、クリスさんっ……ごめっ……ごめんなさっ……!」

「な、泣かないでゆんゆんちゃん! ちゃんと紹介文を用意してたけどスタートで躓いて、他に言おうとした言葉が頭から飛んじゃって慌てたんだよね! アタシはわかってるし気にしてないから大丈夫だよ!」

 

 泣きじゃくるゆんゆんを、クリスは姉のように優しく慰める。クリスについての紹介ができなかった時点で、この勝負はもう決していた。

 勝者になったというのに不機嫌そうな顔を見せていためぐみんは、フンと鼻息を鳴らしてカズマ達のいる窓際へ歩み寄る。

 

「胸がコンパクト……私は立派な褒め言葉だと思うのだが……」

「ダクネス。それ以上口にしたらその胸がしぼむまで揉みしだきますよ」

「よしダクネス。それが褒め言葉だという理由を詳しく聞かせてくれ」

「お、お前はっ……! 私が胸を揉まれる姿を見たいだけだろう!」

「ねぇゆんゆんちゃん。もし言いにくくなかったら……どうして最後の言葉が咄嗟に出てきたのか、アタシに教えてもらえるかな?」

「えっと……前にギルドの酒場で、ダストさんが仲間の人とクリスさんについて話しているのを耳にして……胸のコンパクトさならこの街一番って──」

「ありがとう。後でダストに詳しく聞いてくるよ」

 

 ゆんゆんから最後の褒め言葉の由来を聞き、クリスは笑顔で礼を告げる。しかしその笑顔は、男にとっては背筋が凍るようなものだった。

 選択を間違えれば串刺しの未来が待っていそうなダストへ送るように、カズマは独り合掌した。

 

 

*********************************

 

 

「さて、最初の勝負は終わったみたいだし、次は僕がいかせてもらうよ」

「女神には女神を! タナリスが出るなら私も!」

 

 めぐみんとゆんゆんの勝負が終わったところで、タナリスはソファーから腰を上げる。同じくアクアも立ち上がると、二人は先程までめぐみんとゆんゆんが立っていた場所へ移動した。

 

「確か、勝負内容は一個前の勝負で負けた側が決めていいんだったよね? それじゃあ……手っ取り早く二問先取の早押しクイズでどうだい?」

「構わないわ! かかってきてらっしゃい!」

「じゃあクリス。出題よろしく」

「えっ? アタシですか?」

「君なら色々と知ってそうだからね。地名、人物、歴史、魔道具、なんでもいいよ」

「はぁ……わかりました。じゃあアタシが問題を出すので、2人は手を上げて答えてください」

 

 タナリスはクリスに出題者の任を押し付けると、クリスと向き合うように胡座をかいてその場に座る。アクアも彼女の隣に近寄ると、女の子座りで絨毯の上に座り込んだ。

 クリスは一歩前に出てアクア達の前へ。その後ろでは、何かを悟ったようにカズマがため息を吐き、窓の日差しにあてられたのか女神の勝負に興味はないのか、バージルは壁にもたれたまま目を閉じていた。

 窓際に移動しためぐみんとゆんゆん、出番待ちのダクネスも見守る中、駄女神と堕女神が答え、盗賊兼女神が出題する女神だらけのクイズ対決が始まった。

 

「第一問。五人の冒険者がジャイアントトード討伐のクエストに行きました。無事クエストをクリアし、一匹五千エリスのジャイアントトードを三匹買い取り。報酬金と買い取り金を合わせた金額を平等に分けて、冒険者の手取りはそれぞれ二万三千エリス。さて、クエストの報酬金額はいくらでしょう?」

「えっ!? ちょっ、ちょっと待って!? クイズってそんな計算問題も出るの!?」

 

 出だしから想定外の問題だったのか、アクアは問いを聞いて酷く焦る。その後、数少ない知性を働かせて指を折り始めたが──。

 

「えーっと、一人二万三千で人数が五人で、買い取り金額が合計一万五千だから……オーケーわかった」

「はいどうぞ、タナリスさん」

「クエストの報酬金額は十万エリス。どう?」

「正解です」

「す、凄い! 凄いよタナリスちゃん!」

「計算はバイトで鍛えられてるからね」

 

 アクアよりも遥かに早く計算を終え、タナリスが正解を導き出した。ゆんゆんに賛美を送られ、タナリスは自慢げに笑う。

 先制点を取られたアクアは、タナリスを恨めしそうに見つめてから、正面に立つ出題者のクリスをキッと睨む。

 

「計算問題が出るなんて聞いてないわよ! そういう難しい問題は無し! それと、問題を出す前にどんな系統の問題かを言って!」

「早速出題者にイチャモンつけ始めたぞこのクレーマー女神。それに、さっきの問題も全然簡単──」

「カズマは黙ってて! これは私とタナリスの勝負なの!」

 

 カズマが白い目で見ながらアクアの要望を指摘してきたが、彼女は聞く耳を持たない。ジッと睨みつけてくるアクアの視線を受け、クリスは思わず苦笑いを浮かべる。

 

「アハハ……じゃあ、次は地名の問題を出しますね」

「地名ね! どうか私の知ってる地名でありますように!」

「うーん、この街以外の地理は詳しくないから、僕不利かも」

 

 アクアの要望通り、まずは問題の系統を伝える。アクアが手を合わせて祈り、タナリスが不安そうに頬をかく中、クリスは二問目を出題した。

 

「第二問。めぐみんちゃんやゆんゆんちゃんのように、生まれながらに魔法の扱いに長けた、赤い目を持つ種族を紅魔族と言いますが、その紅魔族が生まれ育つ場所は何という名前でしょう?」

「紅魔族の……待って! 確か聞いた覚えがあるわ!」

「僕も耳にしたような気がするけど……何だったっけ?」

 

 二問目を受け、アクアは思い出そうと自身のこめかみに人差し指を当てて考える。タナリスも腕を組んで考える様子を見せているが、両者とも答えは中々出ず。

 しばらくかかりそうだと観戦するカズマ達が思ったその時、アクアは思い出したかのように目を見開くと、素早く手を挙げて答えた。

 

「ハイハイハイ! 紅魔の里!」

「正解です」

「よっし! これで同点!」

「あぁ、紅魔の里か。そういえばゆんゆんから聞いたことがあったね。ド忘れしてたよ」

 

 二問目はアクアが正解を勝ち取った。追いついたと喜ぶアクアの横で、タナリスはようやく思い出したように呟く。

 

「では最終問題です。次は人名クイズですよ」

「じ、人名……いいわ! かかってらっしゃい!」

 

 クイズ勝負はいよいよ大詰めへ。人の名前を覚えることにはあまり自信がなかったのか、アクアは不安を抱きながらも出題を待つ。

 二問先取した者が勝利。勝負を決する最終問題が、クリスの口から放たれた。

 

「第三問。ギルドの受付嬢の中で1番人気のある金髪の受付嬢の名前は?」

「うぐっ……! ギルドでよく会うから顔はわかってるんだけど……名前って何だったかしら……!?」

 

 覚えていそうで覚えていない範囲の人を出題され、アクアは狼狽えながらも思い出そうと頭を働かせる。

 しばらく悩みに悩んでいた彼女だったが、答えと思わしき名前が頭に浮かんだのか、勢いよく手を挙げて言い放った。

 

「ハイ! 名前は確か……セナ!」

「残念。セナさんは黒い髪と眼鏡が特徴的な、カズマ君の裁判にもいた検察官の人ですよ。覚えてあげてくださいね」

「嘘っ!?」

「あっ、思い出した。ルナさんだ」

「はい、タナリスさん正解です」

「えっ!?」

 

 アクアが答えを外して驚いた直後、タナリスがふと思い出したように答え、見事正解。これでタナリスは二問正解。二人のクイズ対決が、早々に勝敗を決した。

 

「やったー! タナリスちゃん凄い凄い!」

「それほどでも。クリスも打ち合わせ通りでナイス出題だったよ」

「盗賊として演技には慣れてるので」

「……えっ? ちょっと待って! 打ち合わせって何っ!?」

 

 タナリスが勝ったことを自分のように喜ぶゆんゆんへ、タナリスは手を軽く振って返しながらクリスと言葉を交わす。

 が、会話の中に聞き逃がせない言葉が。すかさずアクアが突っかかると、彼女等の声を聞いていたカズマが横から入ってきた。

 

「やっぱな。そういうことだったか」

「ど、どういうことよカズマ!」

「多分、タナリスはお前とのクイズ勝負を見越して、クリスと事前にどんな問題を出すか決めてたんだろう。要するに、最初からタナリスは問題と答えを知ってたっつーこと」

「流石だねカズマ。君なら気付いていると思ったよ」

「まぁな。でも、二人とも良い演技だった。素直な奴なら簡単に騙せそうだな。コイツみたいに」

「最初から演技だったのか……全然気が付かなかった……」

 

 アクアが理解できるように、カズマはタナリスが仕込んでいたトリックを説明する。彼の話す通りだったのか、タナリスは否定せず悪戯な笑みを浮かべた。

 彼女の作戦と演技に関心するように、ダクネスは独り呟く。しかし、これを聞いて負けず嫌いなアクアが黙っていられる筈もなかった。

 

「ちょっと待ちなさいよ! それってインチキじゃない! イカサマよ! 勝負の取り消しを要求するわ!」

「その要求が、勝負の最中だったなら受け入れたんだけどねぇ」

「そうだぞアクア。イカサマは見抜けなかった方が悪いんだ。つーか、出題者が敵チームのクリスだった時点で気付けよ」

「ぐぎぎぎぎ……!」

 

 アクアはやり直しを求めるが、タナリスどころか自チームのカズマからもその要求は通せないと断られた。

 他の者も同じ意見なのか、何も言わずアクアを見つめる。味方のいなくなったアクアは、悔しそうに歯ぎしりする。

 

「……フンッ! まぁいいわ! 今回は負けを認めてあげる! でも今度はそうはいかないわよ! タナリス! 次は私とボードゲームで勝負しなさい!」

「えーっと、それはパーティーメンバー対決と関係なく、僕と君の勝負ってことだね。いいよ。ここじゃ邪魔になりそうだし、一階に場所を移そうか」

 

 しばらく唸った後、やり直しが無理なら再戦だとアクアはタナリスを指差して言い出した。その挑戦を受けたタナリスは快く承諾。勝負の邪魔にならないようにと、二人はそのまま部屋から出て行った。

 二人の足音が遠ざかり、一階に移動したと思ったところで、今度はゆんゆんが自信を取り戻したようにめぐみんを指差す。

 

「こ、これで同点よめぐみん! まだ勝利を確信するには早いからね!」

「アクアが負けることは想定内です。本当の勝負はここから……さぁ、三人目といきましょう」

 

 そして、パーティー総当たり戦は三人目へ。残すはカズマとダクネス、クリスとバージルのみ。目は閉じていたものの声は聞いていたのか、ようやくバージルは目を開く。

 

「んじゃ、次は俺が行くとするかな。で、クリスさんと勝負させてくれ」

「えっ? アタシ?」

 

 すると、誰よりも先にカズマが自ら三人目として名乗り出て、対戦相手を希望した。自分の対戦相手がカズマだと聞いたクリスは、露骨に嫌そうな顔を見せる。

 

「えぇー……勝負内容は君が決められる時点でやりたくないんだけど……バージル、代わりに行ってくれない?」

「断る。貴様が行け」

「うへぇ……」

 

 クリスは交代してくれないかとバージルに頼むが、突っぱねられた。いよいよ逃げ場がなくなったクリスは独り嘆息する。

 

「フフフ、つまり自ら私と勝負したいと……これは次の戦いが楽しみだな……!」

 

 一方で、バージルの言葉を聞き逃さなかったダクネスは、彼の隣で期待に胸を膨らませる。しかしバージルは彼女に顔を合わせず無視。

 

「わかったよ。行けばいいんでしょ行けば。それじゃあバージル。アタシとカズマが戦ってる間は、目を閉じててくれないかな?」

「……? まぁいいだろう」

 

 彼女の頼みを聞いたバージルは、不思議に思いながらも素直に応じて再び目を閉じる。それを確認したクリスは、決心するように一呼吸をすると窓際から移動し、真正面にいるカズマを見た。

 

「そんじゃ早速、前と同じくスティール対決と行こうか。俺はマントを、クリスはマフラーを奪われたら負け。先攻は、さっき勝負に負けた俺達側からで」

「だろうね。絶対そうだと思ってた。まぁ別に構わないよ。アタシに拒否権はないみたいだし」

 

 カズマから勝負内容を聞いて、クリスは呆れるようにため息を吐きながらも勝負を受けた。先攻を許されたカズマは不敵に笑うと、右手を後ろに引く。

 

「奪う物はただひとつ!『スティール』!」

 

 そして、パンチを繰り出すように右手を前へ突き出しつつ手のひらを広げ『スティール』を繰り出した。

 カズマの右手が眩く光り、見ていた者は思わず目を細める。やがて彼の発した光が消え──その手に握られた物を映し出した。

 

「狙い通り」

「ホンットに君は遠慮も性懲りもなくやるよね……そして着てた物が突然消えるこの感覚に慣れそうになってる自分が恥ずかしい……」

 

 彼が奪ったのは、クリスが愛用する純白のパンツ(秘宝)。足を入れる穴に人差し指を入れ、彼は得意げにクルクルと回す。

 故に、クリスが今下に履いているのはホットパンツとスパッツのみ。慣れかけているとは言ったもののやはり恥ずかしいのか、彼女は羞恥に耐えるように両手を強く握りしめていた。

 あまりにも破廉恥な場面。観戦していたゆんゆんは悲鳴を上げた後、このプレイを見せてはいけないと思ったのか、バージルの前に立って背伸びをしつつ、両手で彼の目を隠そうと試みる。が、彼は目を閉じているので特に意味はない。

 

「クリスはこの真っ白パンツがお気に入りのようだな。それとも、俺に奪われて欲しくて履いてきたのかな?」

「いい加減にしないと後で殴るよ。それに、調子に乗るのもそこまでだからね。アタシの運、舐めてもらっちゃ困るよ」

「そっくりそのまま返すぜクリス。俺は、ジャンケンという運に全てを委ねる究極のゲームで無敗の記録を持っている。ほんのちょっぴり運のステータスが高いだけじゃあ甘い甘い」

 

 もう既に勝つでいるカズマにクリスは不敵に笑うが、それでもカズマの自信たっぷりな態度は揺るがない。

 互いの物を奪い合うスティール対決。長引けば恐らく自分が大変なことになると、クリスの勘が告げていた。狙うは、短期決戦。

 

「これで決める!『スティール』!」

 

 意を決して、クリスはカズマに向けて手のひらをかざした。同じように、彼女の開いた手が光る。

 間を置いて光が弱まったところで、クリスは自身の手にあるカズマから奪った物を見た。

 

 

 脱ぎたてホヤホヤの、臭いが染み付いたトランクス──カズマのパンツを。

 

「いやぁああああああああああっ!」

「あぁああああああああああーっ!?」

 

 クリスは悲鳴を上げ、両手でそのパンツを縦に引き裂いた。自分のパンツを目の前で破られ、カズマも悲痛な叫びを上げる。

 

「お前なんてことすんだよ!? 仕返しとばかりにパンツを奪った挙げ句、ビリっと引き裂きやがって! 俺と共に世界を渡ってきた歴史的遺物を返せよ!」

「こんな汚い物を世界の遺産扱いしないでよ! ホントに何なの!? なんで君と関わるともれなくパンツが絡んでくるのさ!?」

 

 目の前で自分のパンツを破かれる悲しみと、男のパンツを握らされる屈辱。果たしてどちらの悲しみが大きいのか。

 お互いに言い合うカズマとクリス。そんな二人を見兼ねたのか、めぐみんが自らカズマに優しく声を掛けた。

 

「カズマ、そんなにあのパンツが大事なら、後で私が縫ってあげますよ。ダクネスはコッソリとパンツに顔を埋めて臭いを嗅ぎそうなので」

「んなっ!? 誰がそのような変態極まりない行為をするか! 私を何だと思っているんだ!」

「刺激欲しがりのド変態だろ。それとめぐみん、気持ちはありがたいけど自分で直すよ。お前に任せると炭になって返ってきそうだし」

「なにおうっ!?」

 

 折角の親切心を、遠回しに裁縫スキルを馬鹿にされつつ拒否されたことにめぐみんは怒ったが、カズマはスルーしてクリスを見る。

 大切なパンツを破かれた悲しみは深かったが、彼はいつまでも過去を引き摺らず、未来に目を向ける男。クリスが目を合わせてきたところで、カズマは不敵な笑みを浮かべた。

 

「それよりも……残念だったなクリス。お前は一回目で勝負を終えることができず、俺に手番を回してしまった」

「っ……!」

「それが何を意味するのか……今すぐわからせてやる!『スティール』!」

 

 嫌な予感を覚え、身構えるクリス。しかしこの勝負で防御は無意味。カズマは問答無用に手をかざし『スティール』を放った。

 再び眩い光が部屋を満たす。瞼の向こうで何度も光を感じてバージルは鬱陶しそうに眉を潜めるものの、指示通り目は開かない。

 ランダムである筈なのに、狙ってパンツを奪えるほどの豪運を持つカズマ。そんな彼が次に狙ったのは──。

 

 

 クリスが下に履いていた──ホットパンツだった。

 

「ひぃやぁああああああああああああああああっ!?」

 

 見えていないものの、クリスは悲鳴を上げて隠すようにその場にしゃがみ込む。

 こうなるのも無理はないだろう。彼女の大事な所を守っていた下着、ホットパンツは盗まれ、残るはスパッツのみ──俗に言うノーパンスパッツになってしまったのだから。

 

「良いぞ! 実に良い光景だ! 欲望を掻き立てる薄い黒地が、その下に隠された秘部をくっきりと映し出す! 運が良ければ後一回で、クリスの禁断の花園が見えちゃうかもしれないなぁ?」

「ひっ……!?」

 

 興が乗ってきたのか、カズマはとても楽しそうに顔を歪ませ、羞恥心に埋もれたクリスをまじまじと見つめる。彼の変態極まりない発言、行動、顔を目にしてめぐみんとゆんゆんはドン引き、無論ダクネスは目を輝かせていた。

 彼は右手を差し出し手のひらを上に向けると、何故か官能的に見える滑らかな動きで手をこまねきながら、ネットリとした声でクリスへ告げた。

 

「だが安心しろ。俺は優しい人間だ。すぐに下を剥ぐことはしない。まずは上から……マフラー以外の物を一個ずつ剥がしていき、最後の最後にスパッツを剥がす。その先にあるのは、透き通った肌と一つの布が織りなすコントラスト。美しき非日常──裸マフラーだ!」

「いやぁああああああああああああっ! スティイイイイイイイイイイイイールッ!」

 

 今まで経験してきた中で最大であろう身の危険を感じ取ったクリスは、しゃがみ込んだままカズマに全身全霊の『スティール』を放った。

 心なしか数段眩しくなった光に二人は包まれる。しばらくして光が収まり、彼から奪ったものがクリスの手に現れる。

 

 それは──願ってやまなかったカズマのマントだった。

 

「なっ!?」

 

 奪われたマントを見て、カズマは仰天する。このスティール対決でカズマが提示した敗北条件は、クリスはマフラーを、カズマはマントを奪われること。

 そう、今クリスがマントを奪ったことで、予想外にもこの勝負はクリスの勝利で幕を閉じたのだった。

 

「そんな、馬鹿な……この俺が……運勝負で負けた……だと……?」

「ハイアタシの勝ち! もういいよね!? 早くアタシから盗った物を返して! 今すぐに!」

「あ、あぁ……」

 

 負けるとは微塵も思っていなかったカズマは、敗北した現実が受け入れられない様子。そんな彼へ、奪った衣類を返してもらうようクリスが大声を出して命令した。

 カズマは酷く狼狽えながらも右手にパンツとホットパンツを握り、ちゃっかり温かみを感じながらもクリスに差し出す。それをクリスは乱暴に奪うと、すぐさまホットパンツだけその場で履き、純白パンツを握りしめて部屋の外へ向かって駆け出す。

 

「クリス? どこへ行くんですか?」

「トイレ! ここで着替えられるわけないでしょ!」

 

 めぐみんの問いかけに対しクリスは乱暴に言い放つと、勢いよく扉を開けて部屋から出ていった。

 未成年にはあまりにも激し過ぎたスティール対決。カズマをよく知るめぐみんは冷ややかな目を向けるだけだったが、ゆんゆんは酷く怯えた様子でカズマを見ていた。

 

「こ、これが鬼畜のカズマさん……まさかここまで鬼畜だったなんて……」

「流石はカズマだな。何の躊躇も感じさせない己を貫いた良いプレイだった。後で私にもしてもらおう」

「えっ」

「……終わったか?」

 

 廊下を走るクリスの足音が聞こえなくなった辺りで、バージルが目を開けた。彼の声を聞いてようやく我に返ったカズマは、そこであることに気が付いた。

 カズマによる、カズマのためのセクハラスティール。その場にバージルが立ち会ったのは今回が初だ。目は閉じていても耳は塞いでいなかったので、何が起こっていたかは声で想像できただろう。

 オマケに、今回被害に遭ったのは比較的交流のあるクリス。もしかしたら怒っているのではないだろうか。カズマは恐る恐る彼を見る。目を合わせたバージルは、カズマの心境を察してるかのように彼へ告げた。

 

「貴様がどんな嗜好を持とうと、誰を辱めようと構わんが、次からは俺のいない所でやれ。貴様もろとも変態扱いされるのは御免だ」

「あっはい」

 

 彼にとっては、クリスの尊厳よりも自身の保身が大切だったようだ。バージルの警告を聞き、カズマは内心ホッとする。

 その一方で、ダクネスと絡んでいる時点で、世間から変態扱いされないのはもう叶わぬ願いなのではないだろうかと彼は思った。

 

 

*********************************

 

 

 紅魔族二人の会話がきっかけで発展したパーティー対決も、いよいよ大詰め。初戦はめぐみんが勝ったものの、二戦目はタナリスが、三戦目はクリスが勝利を収めた。現時点の戦績は、めぐみんパーティーが1勝。ゆんゆんパーティーが2勝。

 次の戦いでバージルが勝てば──パーティー対決の勝敗を決することとなる。

 

「さて、最後の勝負だ。来い」

「いよいよか……待ちわびていたぞ!」

 

 既に所定の位置に立っていたバージルは、窓際にいるダクネスを手招く。待ってましたと言わんばかりにダクネスは声を張り上げると、すぐさま窓際から離れてバージルの正面に立った。

 

「ルール通り、勝負内容は貴様が決めろ。何でも構わん」

「言ったな? 今何でもいいと言ったな? 確かに聞いたぞ! 聞いたからな!」

 

 勝負内容決めを託してきたバージルへ、ダクネスは再三確認を取る。きっと彼女の脳内では、とても健全たる少年少女には見せられない卑猥(R指定)な妄想が広がっていることだろう。

 欲望丸出しな表情で「あれも良い」「これも良い」と零しつつ、最後に「やはりこれしかない」と口にして独り言を終わらせたダクネスは、顔を上げてバージルを見──。

 

「ちょっと待ったダクネス。勝負内容は俺に決めさせてくれないか?」

「何っ!?」

 

 勝負内容を告げようとした瞬間、窓際にいたカズマが横から入ってきた。ダクネスはカズマへ顔を向けると、怒り心頭な様子で彼に突っかかる。

 

「カズマ! 私とバージルの激しいプレッ……真剣勝負を邪魔する気か!?」

「忘れんな。これはチーム戦だ。俺が負けた以上、お前には勝ってもらわないと困るんだよ。それに、勝負内容を決めるのは一つ前の勝負で負けたチームであって、なにも勝負する本人が決めなくてもいいだろ?」

「ぬぐっ……!」

 

 勝負自体は個人戦ではあるが、これはあくまで勝ち数の多い方が勝者となる団体戦。そうカズマに念押しされたダクネスは、不満を抱えているもののそれ以上反論はしなかった。 

 大人しく従ってくれたダクネスを見たカズマは、次にバージルへ顔を向けると、彼に肝心の勝負内容を伝えた。

 

「バージルさん。ダクネスとの勝負は……追いかけっこでどうですか?」

「追いかけっこ?」

「ルールは簡単。ダクネスはバージルさんを一瞬でも捕まえたら勝ち。バージルさんは、ダクネスに捕まらず屋敷の入り口から外に出たら勝ち。どうですか?」

「おいカズマ! 何故私が追いかける側なんだ! 追われる側をやらせてくれ!」

「そしたら5秒も経たない内に終わるだろうが。言っただろ。俺達はお前に勝ってもらわないと困るって」

 

 再びダクネスが文句を言ってきたが、バージルが追いかける側だった場合、ダクネスが勝てる見込みは万に一つもない。そうカズマは言いつける。

 その一方で、ルールを聞いたバージルは顎に手を当てて考える素振りを見せると、正面にいるダクネスを見据えて口を開いた。

 

「つまり……捕まりさえしなければ、ここでコイツを黙らせてから外に出ても構わないということか」

「ッ……! フフッ……そうだろうな。お前ならそうしてくれると思っていたぞ!」

 

 バージルの言葉を聞いて、彼の考えていることを悟ったダクネスは変態的な笑みで顔を歪める。

 同じくバージルの言いたいことを理解し、ダクネスは勝つことを第一と考えない姿勢のままだと見たカズマは、諦めるように息を漏らす。

 めぐみんもダクネスが勝てる未来が見えていないのか、焦りを表すようにチラチラとゆんゆんを見ている。ゆんゆんはというと、勝利を目前にしてドキドキしてきたのか、両手を握りしめ固唾を呑んで見守っていた。

 

「それじゃあダクネス対バージルさん……よーい、はじめ!」

 

 そして──パーティー対決の勝敗を決するかもしれない第四戦が、カズマの合図によって始まった。

 

「(真正面から襲いかかるのは愚策。奴の耐久力は侮れん)」

 

 バージルは正面にいるダクネスを睨み、思考を働かせる。この勝負は追いかけっこの筈だが、捕まえる側のダクネスは動こうとしない。

 彼女の耐久性は、二度対峙したことで把握した。武器を持っていないこの状況、素手で彼女を殴り倒そうとしても、そう簡単には倒れないだろう。

 なら、彼女を倒せる方法は一つ──虚を突くことだ。

 

「(死角から襲い、一撃で沈める!)」

 

 作戦をまとめたバージルは、両手を握り拳にして構える。それを見たダクネスは、期待に胸を膨らませたキラキラとした表情で身構えた。

 互いに睨み合うバージルとダクネス。窓際で見ていた三人が息を呑んで見守るが、バージルはまだ動かない。

 

 

 否──動けなかった。

 

「(この女……前よりも遥かに……っ!)」

 

 戦いに長けた者であれば、相手の呼吸、筋肉の動き、目線、その他目に見える物で相手の動きを予測し、二手三手先を読むことができる。人間なりの、未来を見通す力とも言うべきか。

 無論バージルも同じ。ダクネスの背後、首、急所を狙えるパターンを、既に十を軽く超えるほど考えついていたのだが──行き着く先は全て、ダクネスが気を失わず嬉々とした表情で次を期待している未来だった。

 そう、バージルは仕掛けることができなくなっていた。バニルに操られていた時は難なく攻撃できたというのに、目が見えているだけでここまで違うのかと、バージルは震慄する。

 キャベツ収穫祭の時と比べ、気迫を更に増し、格段に成長しているダクネス(HENTAI)を見たバージルは──。

 

 彼女に背を向け、扉へと向かって走り出した。

 

「あっ!」

 

 ダクネスの声が聞こえたが、彼は無視して扉から廊下へ飛び出し、逃げるようにひた走る。

 この勝負は、ダクネスに捕まらず屋敷の正面扉から外に出られたら決着となる。が、バージルはそこへ向かおうとはしなかった。外へ出るのは、ダクネスを自身の手で沈めてから。そこで初めて、バージルはダクネスに打ち勝つことができたと言えるのだから。

 これは逃げではない。戦略的撤退だと強く自分に言い聞かせながら、バージルは屋敷の中を走り続けた。

 

 

*********************************

 

 

「どこにいったバージル! 貴様も戦士だろう! 隠れてないで正々堂々私と戦え!」

 

 場所は変わり、屋敷2階にある書庫。ダクネスは声を張り上げてバージルを呼びつつ探し回る。

 しかし、追いかけっこで鬼に呼ばれて飛び出す馬鹿はいない。ダクネスが書庫の奥へと進む中──バージルは息を潜めて、本棚の影に隠れていた。

 

「(……この狂人が)」

 

 自分を探しているダクネスを見て、バージルは心の中で悪態を吐く。

 ここへ来るまでに、バージルは幾度となくダクネスを一撃で仕留めようと試みた。が、彼女はすんでのところで気付き、バージルを捕まえようとしてきた。

 それだけには飽き足らず、バージルの思考を読んでいるかのように、彼女はバージルの征く先々で待ち伏せしていることもあった。スイッチが入ってしまったダクネスだからこそできる所業であろう。

 キャベツ収穫祭後にも同じような目に遭ったが、あの時はクリスの助太刀によってダクネスを沈められた。しかし今回彼女はいない。もっとも、今回はバージル自ら沈めようと動いているのだが。

 どうすれば今のダクネスを不意打ちで倒せるのか。キョロキョロと辺りを見回してるダクネスを、バージルが静かに見つめながら考えていた──その時。

 

「何してるの?」

「ッ!」

 

 不意に、彼の耳に幼い子どもの声が入ってきた。ダクネスに意識を向け続けていたため、他者の接近に気付けなかったバージルは驚き、声が聞こえた背後へ振り返る。

 そこにいたのは、肩より下まで伸びた金髪に碧眼を持ち、片手に西洋人形を抱え、ドレスに身を包んだ少女が一人。この屋敷に住む幽霊、アンナだった。

 

「ねぇ、何して遊んでるの? 私にも教えてよ」

 

 ダクネスと遊んでいると思ったのか、アンナはバージルにそう尋ねてくる。しかし、今はダクネスにバレないよう身を隠している。当然声を出すわけにはいかないので、バージルは彼女から顔を背け、再びダクネスの様子を窺った。

 

「さっき私に気付いたよね? どうして無視するの? ねぇねぇ?」

 

 アンナは続けて尋ねたが、バージルは無視を貫く。彼女の鬱陶しさに若干苛ついていたが、ダクネスにバレるよりはマシだと我慢する。

 彼女の声掛けはしばらく続いたが、やがてそれも収まった。ようやく静かになったかと思いながら、バージルはダクネスの様子を見守る。

 

 とその時──幾つもの物が落ちたような騒音が、彼の背後で鳴り響いた。

 バージルは咄嗟に背後を振り返る。目に入ったのは、棚から落ちて床にばら撒かれたであろう幾つもの本。そして、落ちた本の傍に立って悪戯な笑みを浮かべている、アンナ。

 

「私を無視したお返し。あの人に捕まらないよう、頑張ってね」

「そこかぁ! バァアアアアジルゥウウウウッ!」

You little punk(悪ガキが)……!」

 

 静かな部屋で響き渡った騒音。当然、同じ部屋にいたダクネスに聞こえない筈もなく。

 彼女の悪戯で窮地に落とされたバージルは、今すぐアンナを刀で切って浄化してやりたい衝動に駆られながらも、急いで書庫から脱出した。

 

 

*********************************

 

 

 屋敷内の、一階に続く階段。なんとかダクネスを振り切ったバージルは、疲れつつも警戒は怠っていない、鬼気迫った表情のまま階段を降りる。

 未だ彼女を仕留めることは叶っていないが、バージルは屋敷の正面入り口に向かって廊下を進む。と、前方にある食堂へ続く扉が開かれた。

 

「おーねーがーいー! もう一回! もう一回だけ勝負させて!」

「その言葉、もう五回目だよ? それに君、三回連続同じパターンで負けてたことに気付いてる?」

「えっ!? 嘘っ!?」

「気付いてなかったのかい。そりゃ簡単に勝てるわけだ……おや?」

 

 そこから出てきたのは、パーティー対決の途中で席を外したアクアとタナリス。ボードゲームで勝負していたのか、アクアはもう一度とタナリスに縋っていた。

 流石にもう付き合いきれないのか、タナリスは少々面倒臭そうに言葉を返す。とそこでバージルが廊下を歩いているのに気付いたのか、二人は彼に目を移してきた。

 

「あっ、お兄ちゃん。もう勝負は終わったの?」

「その真っ最中だ。貴様等は黙っていろ」

 

 アクアが話しかけてくるも、バージルは少し怒りの混じった声で返す。一体どうしたのかと二人が首を傾げる中、バージルは左側にあった扉を開き、玄関へ。

 正面にあるのは、外へと続く扉。これを開けて外に出れば、バージルの勝利となる。しかし今の彼にとって、ダクネスを一度も沈めずに外へ出ることは逃げ。敗北でしかなかった。

 彼は玄関扉の前で足を止めると、その場で両目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。

 

「(背後に気配……奴が近付いて来る……)」

 

 半人半魔故に並み外れた五感、幾多の戦闘を経て鍛えられた察知能力をフルに使い、接近するダクネスの気配を感じ取る。

 彼女は忍び足で近付いて来ている。しかし消しきれない彼女の荒い息が、自然と場所を教えてくれた。少しずつ、少しずつ彼女が近寄り──。

 

「──フッ!」

 

 背後に立たれたその瞬間、バージルは両目を開くと、今は手元にない刀を抜くように、瞬時に振り返って腕を振り、背後にいるダクネスへ裏拳を放った。

 が、後ろに彼女の姿は無かった。しかしそれも想定済。避けられると判断していたバージルは、勢いを殺さず腕を水平に回し、一回転する形で正面に向き直りつつ裏拳。

 

 だがしかし──そこにも彼女はいなかった。

 

「(馬鹿なっ!?)」

 

 確かに彼女の気配は感じた。背後に近付き、こちらが動くタイミングに合わせて裏回った彼女の気配を。だが、バージルの裏拳は虚しく空を切っただけ。

 彼女は一体どこへ──そう考えた時には、もう遅かった。

 

 彼が感じたのは、背面の腰元に何かが当たっている感触。そして、下腹部より少し下に当たる熱い息吹。それらを感じ取ることで確かに抱いた──恐怖。

 見たくはない。しかし見なければならない。バージルは恐る恐る自分の足元へ目線を下ろす。

 

 

「つ か ま え た」

 

 そして──バージルの腰元へ手を回し、荒い息を当て、歪みに歪んだ満面の笑みで見上げるダクネスを見た。

 

「──ッ!」

 

 彼女を見て総毛立ち、戦慄を覚えた彼の行動は早かった。バージルは即座にダクネスの髪を掴むと無理やり引っ剥がし、容赦なく腹に蹴りを入れて扉ごと彼女を蹴り飛ばす。

 壊れた玄関扉と共にダクネスは屋敷の外へ吹き飛ばされ、地面に仰向けで倒れる。バージルも外に出ると、出口の近くで踏み切って飛び上がり、ダクネスの腹部目掛けて渾身の蹴り(流星脚)を放った。

 

「ハァッ!」

「ぐふぁっ……!」

 

 流石にベオウルフは装備していないが、それでも彼の蹴りの威力は相当なもの。それも一発だけではない。彼は何度もダクネスの上(エネミーステップ)で蹴りを入れ、十回ほど叩き込んだところでバージルは彼女を踏み台にし、前方へと飛ぶ。

 ダクネスと距離を離したバージルは、決して後ろを振り返ることなく、全力疾走で屋敷から離れていった。

 

「ぐっ……クフフ……! いいぞバージル……だがまだだ……! まだ足りん! もっと……もっと刺激を……痛みを……!」

 

 一方で、鎧を纏っていない上であれだけ攻撃を受けてもなお立ち上がったダクネスは、履いていたハイヒールを脱ぎ捨て、欲望に歪んだ表情のままバージルを追いかけていった。

 嵐のように去っていったバージルとダクネス。そんな彼らを、タナリスとアクアはポカンとした表情で見ていた。

 

「──っと、いたいた。なぁ二人とも。バージルさんとダクネス見なかったか?」

「……あっ、カズマ」

 

 するとそこに、めぐみんとゆんゆんを引き連れカズマが現れた。彼の声で我に返ったアクアとタナリスはそちらに顔を向けると、カズマの質問に答えた。

 

「二人なら、今さっきここで色々争って外に行ったわ。ダクネスがお兄ちゃんを掴んだと思ったらダクネスを外に蹴り飛ばして、お兄ちゃんも外に出て行ったの」

「えぇっ!?」

「あのダクネスの動きは見ものだったねぇ。彼女って、身体能力はすこぶる高いのかな?」

 

 アクアの言葉を聞いたゆんゆんは、信じられないとばかりに声を上げた。タナリスがダクネスの人間離れした動作に感心する傍ら、カズマとめぐみんは二人の話を整理する。

 

「アクア、ダクネスがバージルさんを掴んだ時、まだバージルさんは外に出てなかったんだな?」

「んー……そうね。二人とも扉の前で争ってたもの」

「とすると、二人の勝負は──」

「バージルが外へ出る前に一瞬だけ捕まえることができた、ダクネスの勝利ですね」

「そ、そんな……」

 

 ダクネスの勝利条件は、バージルが屋敷を出るまでに一瞬でもいいから彼を捕まえること。現場を見てはいないが、アクア達の証言を聞くにダクネスが捕まえることができたのは間違いないだろう。

 まさかバージルが敗れると思っていなかったのか、ゆんゆんは酷くショックを受ける。

 

「ダクネスはバージルを追いかけていったみたいだけど……気になるなぁ。僕見に行こうかな」

「ダメよタナリス! まだ私との決着が着いてないわ! ほら! もう一度勝負よ!」

「薄々思ってたけど、君勝つまでやる気だね」

 

 タナリスも外へ出ようとしたが、再戦を望むアクアに連れて行かれる形で再び食堂へ。一方、タナリスの話を聞いたカズマは腕を組んで少し考えると、ため息を吐いてめぐみんに告げた。

 

「悪いめぐみん。俺ちょっと二人の様子見に行ってくるわ。一応、バージルさんとはダクネスの暴走を止めるって契約で協力関係結んでるからさ。俺が行かないと後で怒られそうだ」

 

 カズマはそう伝えて屋敷の外に。また、庭に転がっている扉を見てようやく玄関が壊されていることに気付いたのか、独り大声を上げていた。

 

「さて……これで二対二。同点となりましたね」

「うっ……!」

 

 カズマを見送っためぐみんは、笑みを浮かべてゆんゆんと向き合う。この勝負に引き分けという文字はない。ゆんゆんは苦しそうな声を出しながら、めぐみんと目を合わせる。

 

「四人の勝負で決着が着かなかった場合、最後はお互いのパーティーから代表を一人決めての勝負になりますが……バージル、ダクネス、カズマは外出。クリスは未だトイレに。アクアとタナリスはボードゲームの真っ最中。なので、残った私達で勝負としましょうか。ルール通り、勝負内容は貴方が決めてください」

「い、いいわ! ここまで来たんだもの! 最後は私の得意な組み手で勝負よ!」

 

 意を決したゆんゆんは、指示通り勝負内容を決めると外へ駆け出す。庭の中心辺りで彼女はめぐみんのいる方向へ振り返ると、彼女を誘うようにその場で構えた。

 

「さぁ! どこからでもかかってきなさい! めぐみん!」

「やはりそうきましたか。いいでしょう。ならば私も、持てる全ての力を使って貴方を倒しましょう」

 

 それを見ためぐみんはゆんゆんのもとへ歩み寄り、彼女の真正面に立つ。そして片手で顔を隠す格好いいポーズを取りながら、めぐみんは声高らかに唱えた。

 

「我が征くは覇王の道。世界を統べる覇者とならん。全ては我が勝利の為に。来たれ! 漆黒を纏いし我が使い魔よ!」

 

 周りに召喚魔法の魔法陣が浮かびあがっていると錯覚するような気迫で、めぐみんは召喚魔法らしき詠唱を発した。

 が、その場に電撃を帯びてモンスターが召喚されるわけでも、地面から悪魔が現れるわけでもなく、その場へ姿を現したのは──。

 

「なーお」

 

 場違いなほど呑気な声で鳴いた、ちょむすけだった。ちょむすけは玄関前で小さく欠伸をすると、可愛らしくトコトコと歩き出す。

 そしてめぐみんの足元へ歩み寄ると、猫特有の高い跳躍力を生かしてめぐみんの身体を登り──彼女の頭で鎮座した。

 

「さぁ、始めましょうか。組み手が得意な貴方なら、ちょむすけに怪我をさせないよう落とすことなく私を倒すぐらい、造作もないでしょう?」

「ひ、卑怯! ちょむすけちゃんを使うなんて!」

「言ったはずです。我が全ての力を持って貴方に挑むと。使い魔も私の力の一つです。来ないのならこっちから行きますよ!」

「ま、待って! せめてちょむすけちゃんを頭から下ろして──あぁっ! ちょむすけちゃん危ない! 落っこちちゃうから早く降りてー!」

 

 バランスよく頭にちょむすけを乗せたまま、ゆんゆんへ突っ込むめぐみん。別にちょむすけを落としても勝敗に関係しないのだが、ゆんゆんは律儀にそれを守って戦う。そんな彼女が、本気で攻撃できる筈もなく。

 今日もまた、めぐみんの手帳に丸印が付けられた。

 




このすばの世界感に1番合いそうなの、いい年こいてバイクかっ飛ばしてテンションしてたDMC5のダンテおじいちゃんだなと、初報PV見て思いました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。