この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第55話「この温泉街に再来を!」

 バージル達がアルカンレティアへ発った日の、住民も冒険者もこぞって昼食を取り始める頃。

 

「はぁ……」

 

 盗賊のクリス、もといエリスは肩を落としながら街中を歩いていた。

 久々にバージルを神器回収に誘おうとデビルメイクライへ出向いたのだが、生憎彼は外出中だった。ギルドに赴き彼を見ていないか職員に尋ねたが、誰も見ていないとのこと。

 別に一人でもこなせる難度だが、彼がいればぐっと楽になる。望み薄だが街を練り歩きながら探していた……が、一向に見つからず。ため息のひとつも吐きたくなる。

 

 思えば、仮面の悪魔と出会った頃から彼と疎遠になっているようなと、エリスは考える。結論を言えば気のせいなのだが、あの道化悪魔が嫌がらせで呪いでもかけたのかと、彼女は被害妄想を膨らませた。

 彼も来ていたというアルカンレティアへの旅行──タナリスのお誘い。こんなことなら受ければよかったと考えたが、行けばアクシズ教徒に絡まれて観光どころではなかっただろう。彼もそうだったに違いない。

 アルカンレティアでなかったら喜んで行ったのにと、エリスは独り呟く。とそんな時、見覚えのある建物が目に入り彼女は足を止めた。

 

「ここは……」

 

 視線の先にあるのは、人ならざる者ことウィズが、ひっそりと経営している魔道具店。そして、あの仮面の悪魔が働いている店でもある。

 バージルは、この店の主とも交流がある。テレポート水晶もここで買ったと聞いていた。店から彼の魔力は感じないが、足を運んでいた可能性はある。

 またあの悪魔に会わなければならないのかと、入る前からウンザリするエリス。彼女はため息を吐きながらも、魔道具店の扉を開いた。

 

 

「へいらっしゃい! ウィズ魔道具店へようこそ! 通な僕がオススメ商品を紹介するよ!」

「なにやってるんですかぁああああああああ!」

 

 店の制服であるピンクのエプロンを身に着け、元気よく働いていた先輩女神に迎え入れられたエリスは、怒り混じりにツッコんだ。

 その様子をカウンター越しに見ていたバニルは、感心するように独り唸る。

 

「即時対応でツッコミを入れられるとは大したものである。あの宴会女神とコンビを組み、漫才を始めてみてはどうだ? 冒険者より稼げるやもしれぬぞ?」

「女神を芸人扱いしないでください! それよりも仮面の悪魔! 先輩を引き入れて、何が目的なんですか!?」

「事情も聞かず我輩を悪者扱いか。其奴がこの店でバイトしたいと持ちかけてきたので、臨時店員として迎え入れただけである」

 

 敵意剥き出しで構えるエリスに、バニルは呆れながら言葉を返す。視線をタナリスへ向けると、彼女は後頭部で手を組んで陽気に笑っていた。

 

「前々からここで働いてみたくってさー。魔道具を店員割引で買えるようになったし。給料は少ないけど」

「ねぼすけ男と進めている商売が上手くいけば、収入は激増する予定である。しばし我慢せよ」

 

 仕事場での同期のように言葉を交わす二人。彼女の、誰にでも歩み寄れるコミュニケーション能力は流石であるが、悪魔と仲良くなるのは女神的にマズイのではとエリスは思う。

 もっとも、タナリスも周りの問題児同様、言って聞くような人ではないのだが。

 

「ところでエリス……おっと、今はクリスか。お買い物ってわけじゃなさそうだけど、どうかしたのかい?」

「現在、店主は絶賛外回り中である故、女神の名でもよかろう。逐一周りを確認して呼び方を変えねばならんとは、その点でいえば粗暴女神より面倒であるな」

 

 いちいち癇に障る発言をするバニルを、エリスは目を細めて睨む。彼の好物である悪感情が溢れているが、女神の悪感情は好みでないのか、仮面の顔が嫌そうに歪んでいた。

 

「バージルさんを探しているんですけど、先輩は見ませんでしたか?」

「いや、今日は見てないよ。カズマ達なら見たけど」

「カズマさん?」

 

 タナリスへ尋ねると、彼女から意外な者の名前が出てきた。バージルは彼等のお隣さんだ。何かしら情報が得られるかもしれないと、エリスは耳を傾ける。

 

「なんでも紅魔の里に行くみたいで、店主さんにアルカンレティアへテレポートしてもらってたよ。僕もついていきたかったけど、生憎バイトが忙しくってね」

「バージルさんもそこへ行く……みたいな話はなかったですか?」

「僕は倉庫の魔道具を整理しながら覗いてただけだから、カズマ達が何を話してたかまでは聞いてないなぁ。紅魔の里うんぬんは店主さんから聞いただけだし」

 

 が、思いとは裏腹にバージルの足取りは掴めず。そうですかとエリスは返し、独り俯いてため息を吐く。

 今日の神器回収もソロでするかとエリスが考えていた時──彼女の耳に、バニルの憎たらしい声が入ってきた。

 

「バージルと最近話せなくて寂しい、と思っておるな」

「ッ!」

 

 瞬間、エリスは腰元のダガーを抜いてバニルに剣先を向ける。対するバニルは全く動じておらず、それどころか首を傾げてエリスを見ていた。

 

「何の罪もない悪魔に刃物を突きつけるとは、貴様もとんだ蛮族女神であるな」

「よくそんなに堂々と嘘が吐けますね。私を見通して、悪感情を得て満足ですか?」

「だから何もしていないと言っておるであろう。ゲテモノな女神の悪感情を得る為に、苦痛を伴ってまで貴様の直近の過去を見通す変態悪魔がどこにおる」

「じゃあ今の声は誰なんですか? 私にはハッキリと、貴方の厭味ったらしい声に聞こえたのですが」

 

 そう尋ねられたバニルは、ピッと彼女の後ろを指差す。視線を外した瞬間に逃げ出す魂胆であろうが、承知の上でエリスは振り返る。

 後ろにいたのはタナリス。彼女は目が合ったところで、めぐみんがよく見せるようなポーズを取って口を開いた。

 

「我輩は、仮面の悪魔と共に魔道具店で働く堕女神、タナリスである!」

「……えぇっ!?」

 

 彼女の口からバニルの声が発せられたのを耳にして、エリスは驚愕した。その反応を見て、タナリスは悪戯っ子のように笑う。

 

「いやー面白いね、宴会芸スキル。アクアに半ば強引に取らされたけど、意外と実用性高そうなものが多くてビックリだよ」

「何やってるんですか先輩達は……」

 

 アクアどころかタナリスにまで、宴会芸が広まっていたようだ。種明かしを受けて、何故自分の先輩はこうも変わり者が多いのかとエリスは本日何度目かわからないため息を吐く。

 

「といっても真似るのは声だけで、見通す力なんて持ってないから当てずっぽうだったけど……今の反応、もしかして当たりかな?」

「……はいっ!?」

 

 そんな時、タナリスから想定外の切り口で尋ねられ、エリスは思わず大声を上げる。しばし固まっていたが、やがて顔を赤らめて反論した。

 

「ち、違います! そんなこと思ってませんよ! むしろ逆です! 協力関係結んでるのに全然協力的じゃないから不満で不満で──!」

「声を荒げて言い返す辺り、大当たりのようであるな。悪魔嫌いと名高い女神が、半人半魔と会えずしょんぼりしている姿は実に滑稽である」

「貴方は黙っててください! 本当に消滅させますよ!?」

 

 

*********************************

 

 

 時間は遡り、早朝。

 

「そんなに久しぶりでもないアルカンレティア! 空気の美味しさは相変わらずね!」

 

 アクセルの街からテレポートしたバージル達は、アルカンレティアの噴水前に降り立った。長旅をしてきたかのようにセシリーはグッと伸びをし、街を見渡す。

 バージルも辺りを確認してカズマ達を探す。が、彼等の姿は街のどこにも見当たらない。

 

「奴等はまだ来ていないか」

「あ、あの、先生。そのことなんですが……」

 

 彼の呟きを聞いて、ゆんゆんが話しかけてくる。セシリーに聞かれないためか、ゆんゆんは耳打ちでバージルに伝えた。

 

「カズマさんとアクアさんが寝坊してるみたいで……お昼頃になりそうだから、先に行っててくれってめぐみんが……」

「……Humph」

 

 彼等の生活習慣が、ここでも仇になったようだ。ベッドで昼まで寝こけている二人の姿が容易に想像でき、バージルは呆れてものが言えなくなる。

 先に行ってしまう選択肢もあったが、それではセシリーをカズマへ押し付けることができない。故に、ここで暇を潰す選択肢しか取れなかった。

 普段なら面倒に思う場面であるが……今回ばかりは、彼にとって好都合だった。

 

「丁度いい。この街には用があった。奴等が来る前に済ませるか」

「えっ? あっ、先生!?」

 

 ゆんゆんの呼び止めも聞かず、バージルは独り街の中へ歩いていく。すぐに追いかけるべきか迷ったが、ひとまずセシリーに声を掛けるべくゆんゆんは彼女のもとへ。

 

「あ、あの、セシリーさん」

「んっ? どうしたのゆんゆんさん? もう紅魔の里に出発する?」

「いや、その……私達以外にも里に行く人がいて、お昼頃まで待っておかないと──」

「その人って、もしかしてめぐみんさん!?」

「は、はい。あとめぐみんのパーティーメンバーも──」

「あぁもう今日はなんてついてるのかしら! ゆんゆんさんだけでなくめぐみんさんにも会えるなんて! 感謝します、アクア様!」

 

 ゆんゆんからの朗報を聞いて、セシリーは人目も気にせずその場で膝をつき、女神へ感謝の祈りを捧げる。巻き込まれる形で多くの住民から見られ、ゆんゆんは羞恥を覚えて顔を真っ赤にする。

 早くバージルのもとへ向かいたい彼女であったが、そこでセシリーは勢いよく立ち上がり、興奮冷めやらぬ状態でゆんゆんに詰め寄った。 

 

「じゃあめぐみんさんが来るまで、お姉ちゃんと一緒にこの街を回りましょ! 前は観光どころじゃなかったし!」

「えっ!? で、でも先生が──!」

 

 バージルがどこかへ行ったと伝えたいゆんゆんだったが、彼女は聞く耳持たず。ゆんゆんはセシリーに手を掴まれ、バージルとは別方向へ連れ去られていった。

 

 

*********************************

 

 

 ゆんゆん、セシリーと別れたバージル。ほどなくして彼女等がついてきていないことに気付いたが、好都合だったのでそのまま足を進めた。

 街では相変わらずアクシズ教徒が蔓延っており、宗教勧誘と唾吐きと受けたが、ひたすら無視することで乗り切った。多少耐性がついたのか、初回来訪時よりは怒りを鎮めることができていた。

 そうして彼が辿り着いたのは、アクシズ教団本部でもある大聖堂。中に入ると、以前と同じプリーストが独り箒で床を掃いていた。目が合った彼女は自らバージルに声を掛ける。

 

「貴方は確かおに……ゴホンッ。邪なるエリス教徒から貰ったアミュレットを得意げにぶら下げている半エリス教徒野郎が何の御用ですか?」

「勝手に信者扱いするな。ゼスタはどこにいる?」

「ゼスタ様は外出されております。数日は帰ってこないでしょう」

 

 バージルの問いに、プリーストは淡々と答える。掃除を再開させたプリーストを尻目に、バージルは大聖堂の中を見渡す。

 しばらくして、バージルはおもむろに歩き出した。しかし彼の行く先は出口ではなく、横の神廊を通った先にあった扉。

 

「ちょっと! そっちは関係者以外立入禁止ですよ!?」

 

 プリーストの喚起も届かず、バージルは扉を開ける。先にあった部屋を抜け、廊下を歩く。その足取りには一切の迷いがない。

 やがて、彼は一つの扉の前で足を止めた。彼は下から上へと目線を動かし扉を見つめ、二歩下がって扉から距離を置く。

 

 

 彼は、何の躊躇もなく扉を蹴り開けた。

 木の激しく軋む音が立ち、扉は切り離されて部屋の奥へ飛んでいく。バージルが部屋へ足を踏み入れると、視線の先には半分に折れた扉と、巻き込まれ傷んだ大机が。

 ほどなくして、扉の陰から薄っすらと青い光が漏れる。すると机上に乗っていた扉が動き、その下からある人物が姿を現した。

 

「実に乱暴なお客さんだ。ノックは優しくするようにとパパかママに教わらなかったのですかな?」

 

 アクシズ教団最高責任者、ゼスタ。彼は修道服にかかった埃を払い、呆れた目でバージルを見る。プリーストは不在だと言っていたが、どうやら居留守を使っていたようだ。

 また、一切ダメージを負っていないように見えるが、先程の青い光から察するに『ヒール』をこっそり使ったのだろう。一々鼻につく男だと思いながらも、バージルは懐から一枚の紙を取り出し、ゼスタへ見せつける。

 

「山中にあった門の費用は払おう。だが、温泉の賠償金まで負担する筋合いはない」

 

 それは、アルカンレティアから寄せられた多額の請求書。悪魔との戦闘で彼が壊してしまった門と、アクアがハンスを消す際に力を使ったせいで温泉の質が変わってしまった賠償だった。

 前者は自身の過失であるため理解できる。しかし後者は本来アクアが払うべきもの。共に添えられていた手紙には『我らがアクア様にお支払いを請求するのは神への冒涜に値するので、お兄ちゃんである貴様に払っていただく』と記されていた。

 

「何をおっしゃっているのやら……貴方は、アクア様から直々にお兄ちゃん役として選ばれた。妹の面倒を見るのが兄の役目。むしろ支払えることを光栄に思うべきでは?」

「貴様こそ何を言っているのか理解に苦しむ。まだ年端もいかない子供ならまだしも、奴は自身で働き金を稼ぐ術を得ている大人だ。この請求書は、然るべき者に届けてもらおう」

「一緒に入れていた手紙を読んでいないのですか? 崇める神に金を請求する信者がどこにいると?」

 

 アクアへ送り直すよう要求したが、ゼスタに意見を曲げる様子は見られない。やはり話し合いは無駄かと、バージルは嘆息する。

 

「では、踏み倒させてもらう」

 

 彼は請求書を両手で持つと──ゼスタの前で、破り捨てた。

 

 

*********************************

 

 

 一方、アルカンレティアの街中。バージルと別行動を取っていたセシリーとゆんゆんは、歩を合わせて街を歩いていた。

 

「んー、気持ちよかったぁ。アクア様のおかげで還ってきた温泉は最高ねぇ。ゆんゆんさんの裸体も拝めた上にお胸も堪能できたし」

「や、やめてください! こんな街中で……恥ずかしい……」

「いいじゃないの。減るもんじゃないんだし。手に残る柔らかな感触、羞恥に溺れるゆんゆんさんの表情……どれも最高だったわ! そういえばゆんゆんさん、ふともものつけ根についてた変な模様って──」

「やめてください。三度は言いませんよ」

「すみません。もう弄らないから、怖い目で睨みながら剣を抜こうとしないでください」

 

 すぐさま謝ったセシリーを見て、ゆんゆんは短剣から手を離す。前はこんな子じゃなかったのにとセシリーが嘆く傍ら、ゆんゆんは辺りを見渡す。

 観光しながらもバージルを探していたが、未だ見つからない。そろそろめぐみん達も来るかもしれないので、早く合流したいところ。

 一度噴水広場に戻るべきかと思っていると──ふと、前方が騒がしいことに気付いた。目を凝らして見ると、住民達の多くが一方向へと駆け出している。セシリーも気付いたのか、不思議そうに前を見つめていた。

 

「あっちの方角って、確か教団本部があったような……」

「な、何か事件でもあったんでしょうか?」

「きっとまた、ゼスタ様が何かして捕まったのよ。挨拶ついでにからかいに行ってやりましょ!」

「えぇっ!? あっ、ちょっと──!」

 

 教団トップが捕まることを微塵も心配していないセシリーは、再度ゆんゆんの手を引く。

 ゆんゆんは戸惑ったが、もしかしたらバージルも騒ぎを聞きつけて来るかもしれない。そう考えた彼女は身を任せ、セシリーと共に大聖堂へ向かった。

 

 

*********************************

 

 

 その頃、アクシズ教団本部──バージルとゼスタの戦いは、今もなお繰り広げられていた。

 

「滅せよ!」

 

 ゼスタは前方へ手をかざし『セイクリッド・エクソシズム』を何度も放つ。床に魔法陣が浮かび上がり、天高く光が昇るが、バージルはそれらを全て避ける。

 戦闘の余波か、聖堂内にあった座席は隅の方へ追いやられ、壁も半壊状態。二人を見守るように建っていた女神像は両腕を失っていた。ここに御本人がいれば大激怒していただろう。

 

「『セイクリッド・レイン』!『セイクリッド・アロー』!」

 

 ゼスタは立て続けに神聖属性の魔法を唱える。すると、バージルの上から光の雨が降り注ぎ、前方からは雨に劣らない量の光の矢が飛んできた。

 バージルは横に避けて光の嵐から逃れるが、彼を追うように雨を降らす魔法陣は動き、ゼスタもかざしていた両手を動かして矢の照準を調整する。

 次第に大聖堂の隅へ追い込まれるバージル。仕留めるチャンスだと、ゼスタは嬉しそうに顔を歪めて魔力を高める。

 刹那、バージルの姿が消えた。突然のことにゼスタは目を見開く。彼を探そうとした時──背中に強い衝撃を覚えた。

 

「ぐふぁっ!」

 

 ゼスタは女神像が建つ方向へ飛ばされ、土煙を立てて女神像に突っ込む。彼がいた場所には、バージルが右足を上げて立っていた。

 しばらくして、土煙の中からほんのりと青い光が見え、煙が晴れると未だピンピンしているゼスタの姿が。女神像もまだ倒れてはいない。ゼスタは息を吐きながら肩を軽く回す。

 

「やれやれ……最近の若い者は年長者を敬う心を忘れてしまっている。おっと美少女なら話は別。このクソジジイがと罵られて蹴られて束縛されて、徹底的にぞんざいに扱っても構いません。むしろ望む所です」

「貴様のようなアクシズ教団随一の奇人を敬う者がいれば、世も末だな」

「ほほう、おまけに口答えもするときた。これは本格的に……おしおきが必要ですな!」

 

 ゼスタは両手を胸先に持っていく。瞬間、魔力の高まりを表すように風圧が巻き起こった。彼の手には、閃光走る青白い光の玉が。

 流石に悪魔をなぶり倒してきただけはあると、のんきに感心するバージル。一方でゼスタは両手を腰元へ引き、力を溜め──。

 

「消えてなくなれ!『セイクリッド・ハイネス・ライトボール』!」

 

 両手を前へ突き出し、光の玉を放った。目まぐるしい速度で身廊を駆け抜け、バージルめがけて突き進む。

 対するバージルは避ける素振りも見せず、背中の魔氷剣に手を添えると──。

 

「フンッ!」

 

 たたっ斬るのではなく刃の側面で受け止め、そのまま振り抜きゼスタへ打ち返した。

 

「ぬうっ!? ならば『リフレクト』!」

 

 これにはさしものゼスタも驚いたが、すぐに反射魔法を唱えて光の玉を跳ね返す。再びバージルのもとへ向かってきたが、彼は再度剣で打ち返す。

 バージルの剣と、ゼスタの『リフレクト』──光と闇、相反する魔力の間で打たれ続けた光の玉は、ゼスタが放った際よりも強い魔力を宿していた。

 

「ぐっ!」

 

 しばらく打ち合いは続き、反射するのも厳しくなってきたのか、ゼスタの『リフレクト』で跳ね返された光の玉はあらぬ方向へ。

 このままラリーは終了──かのように思えたが、バージルは『エアトリック』で移動し、光の玉を華麗に拾ってゼスタへ打ち返した。

 ゼスタは慌てて『リフレクト』で返したが、玉の勢いに押された結果打ち上げてしまう。

 

「しまった!」

 

 高く打ち上げられた光の玉は向こう側へ。落ちてくる光の玉を捉えたバージルは、狙いを定め──。

 

This is the end(これで終わりだ)

 

 力を込めて剣を振り、スマッシュを放った。今までの打ち合いとは比べ物にならない速度で、光の玉はゼスタのもとへ飛んでいく。

 

「ぬぉおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 ゼスタは『リフレクト』で先程よりも分厚い光の壁を生成し受け止める。しかし玉の勢いは凄まじく、反射できないまま押され続ける。

 やがて壁にヒビが入り、ガラスが割れたような音を立てて砕け散った。光の玉はそのままゼスタのみぞおちに当たり、彼ごと女神像へと突っ込んだ。

 女神像は前方へと倒れ、土煙を上げながら崩れ落ちる。バージルは剣を納めて様子を伺うと、再び煙の中で淡い光が見える。

 しばらくして煙は晴れ──何故か服は破れ、顔に似合わない筋肉質な上半身を見せつけるゼスタが姿を現した。

 

「フー……ようやく身体が温まってきましたな」

 

 先の攻撃など取るに足らないとばかりに、ゼスタは首を鳴らす。対するバージルも、不敵に笑って言葉を返す。

 

「貴様の魔力も無限ではない。回復魔法が使えなくなるまで、とことん付き合ってやろう。その虚勢がいつまで続くか見ものだな」

「最後に正義は勝ち、悪は滅ぶもの。悪魔の力を利用している上にエリス教徒から貰ったと聞くアミュレットを持った闇の勢力に、光の守護者たるアクシズ教徒の私が負ける理由など、万に一つもありませぬ!」

 

 ゼスタが身構えたのを見て、バージルも刀に手を添える。このまま聖堂崩壊待ったなしの第二ラウンドへ突入する……と思われた時、不意にゼスタは発していた魔力を納めた。

 どうしたのかとバージルが不思議に思っていると、ゼスタはバージルの後方を覗き込むように顔を動かした。

 

「そこにいるのは……もしやセシリーさん? アクセルの街に向かったのではなかったのですか?」

 

 聞き覚えのある名前を聞き、まさかと思いバージルは入り口へ振り返る。開かれた扉の前にはいつの間にやら野次馬が集まっていた。

 野次馬の先頭には、別行動をしていたセシリーの姿が。気付かれた彼女は息を吐き、二人のもとへ。そして彼女の背後から、ゆんゆんも姿を現した。

 

「おおおおっ! ゆんゆんさん! ゆんゆんさんではありませんか! まさか貴方とも会えるとは! めぐみんさんとはあれから仲良くやっておりますかな?」

「ヒィッ!?」

 

 ゆんゆんを見た瞬間、ゼスタは旧友と再会したか如く喜び彼女のもとへ駆け寄った。めぐみん同様、ゆんゆんとも面識があったようだ。

 がしかし、ゆんゆんは迫りくる半裸のゼスタを見るやいなや悲鳴を上げ、そそくさとバージルの後ろに隠れた。

 

「どうしたのですかゆんゆんさん!? 何故その男の背後に隠れるのですか!?」

「上半身裸で息を巻きながら迫られたら、年頃の女の子にとっちゃ怖いに決まってるでしょうゼスタ様! けど、そっちに隠れるのは私も納得いかないわ! さっきの戦いを見てなかったのゆんゆんさん! そいつは危険だわ! 私の背中に隠れた方がずっと安全よ! なんなら股の下に隠れてもらっても構わないから!」

 

 ゼスタとセシリーから迫られるゆんゆんであったが、鼻を鳴らして迫る姿はより危険人物に見えたのだろう。バージルの服を掴み、頑なに陰から出ようとしない。

 一方で、置いてきぼりをくらったバージルはどうしたものかと考える。賠償金踏み倒しの魂胆で始めた争いだったが、ゼスタはゆんゆんに夢中で戦う気が見られない。

 もっと物分りの良い人間と話をつけるべきかと思案していると、どこからともなくバージルを呼ぶ声が聞こえた。

 

「おに……バージルさん」

「ムッ」

 

 声が発せられた方へバージルは顔を向ける。そこには、聖堂内を清掃していたプリーストが。

 周りの者達も気付いたようで、同じくプリーストに目を向ける。注目が集まったところで彼女は一度咳き込むと、バージルに告げた。

 

「要望通り、貴方に請求していた温泉の賠償金は取り消させていただきます」

「なっ!? 勝手に何を言っているのですか!」

「見込み通り、温泉の質が変わって以降は収益が以前より増加しております。賠償金の請求は必要ないでしょう」

 

 息巻くゼスタをあしらいながら、プリーストは取り消し承認の意を伝える。同じアクシズ教徒であったが、ゼスタと違い話のわかる人間だったようだ。

 ここでの目的は達成した。ゼスタと戦う意味もない。さっさと噴水広場に戻ってカズマ達を待つべく足を進めようとした時──プリーストは懐から一枚の紙を取り出し、バージルに渡しつつ言葉を続けた。

 

「その代わり、先程の戦闘で半壊してしまった大聖堂の補修費をお支払い願います。まさか、自分から壊しておいて嫌だとは言いませんよね?」

 

 渡されたのは、新たに発行された請求書であった。それも、温泉の賠償金と然程変わらない金額の。

 思わず渋い顔になったバージルは、プリーストへ目を移す。その意味は何なのか、プリーストは何も言わず目を細めて微笑み返した。

 彼女の言う通り、壊したのは紛れもなくバージル本人。プリーストに野次馬と、目撃証言もある。アクシズ教徒側からすれば、至極真っ当な要求だ。

 結局、彼に届いた請求書は理不尽なものから正当なものへと変わり、支払わざるを得なくなってしまったのだ。

 

「そうだそうだ! 貴様のせいで、大聖堂はこの通り滅茶苦茶! 修復にどれほどの人手と時間を要するのか考えたくもない! この落とし前はキッチリつけていただかねばな! いやはや愉快愉快! ハハハハハハッ!」

「ゼスタ様にも支払っていただきますよ」

「えっ」

 




DMC5でも被害総額がとんでもないことなりそうだなぁ……。

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