†ボンゴレ雲の守護者†雲雀さん(憑依)   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。最近、執筆活動への体力というか、情熱が全盛期と比べて著しく落ちているような気がします。感想を返すペースもすっごく落ちてますしね。数年前までは感想をもらったら24時間以内に返信するというマイルールをしっかりこなしていたというのに。理由はきっと、私の趣味と合致する、興奮する音楽と最近全然出会えてないからでしょうね。私は執筆したり感想に返信したりする時、大概その作品と相性の良い、勢いのある曲をガンガンかけながら行いますので。ということで、何かテンション上がりそうな曲があったら是非とも教えてくださいませ。感想でも一言メッセージでも良いですので。

 閑話休題。前回の39話にて描写ミスがあったので、修正しました。修正前は雲雀さんはミルフィオーレのボンゴレ強襲部隊の皆さんから雲のリングは奪っていませんが、修正後は雲のリングもいくつか見繕って奪ったことにしています。その理由は、うん。あの展開のためです。お察しください。



風紀40.†術士を嵌めて風紀を守ろう†

 

 

 幻騎士はミルフィオーレファミリーに属する、霧のマーレリング保持者にして、ミルフィオーレのボスたる白蘭の懐刀である。白蘭の奇跡の御業により、己の不治の病を治してもらってからというもの、幻騎士は白蘭を神と崇め、白蘭の命は何だって遂行した。

 

 いや、厳密には遂行できなかった命もある。ジッリョネロファミリーを裏切り、ファミリーを皆殺しにしてマーレリングを回収し、白蘭に献上する。その命だけは、ジッリョネロファミリーのボスことユニに、己の翻意を見抜かれた動揺から失敗してしまった。

 

 しかし、だからこそ幻騎士は二度とそのような失態を犯してなるものかと、より徹底して白蘭の啓示に忠実であろうとする。それが幻騎士の存在意義であり、生きる理由なのだ。

 

 今回、幻騎士が白蘭から授かった命令は『入江正一に歯向かう輩は誰であろうと斬れ』というもの。ゆえに、幻騎士は全力で命令を遂行する。メローネ基地に潜入した1人である、ボンゴレ雨の守護者の山本武を、幻術を用いた罠に嵌めて勝利した幻騎士は、その場に気絶して倒れる山本の首を落とすべく、剣を上段から振り下ろそうとする。

 

 

「……!」

 

 が、その時。幻騎士と山本武のいる匣兵器実験場の側壁が粉々に打ち砕かれた。幻騎士は遥か想定の埒外の事態に思わず山本へのトドメの一撃を中止し、派手に破壊された壁を凝視する。壁の破壊時に発生した粉塵が徐々に晴れる中、現れたのはーーボサボサの黒髪に、肩に羽織った学ランに、『風紀』と書かれた左腕の腕章が特徴的な人物だった。その背後には、匣兵器実験場の壁をいともたやすく破壊したであろう、無数の針を携えた巨大な球体型の匣兵器が存在感を放っている。

 

 

「あぁ君……ちょうどいい。白く丸い装置は、この先だったかな?」

「貴様は……ボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥か?」

 

 幻騎士に不敵に微笑みかける闖入者に対し、幻騎士はその正体を推測して問いかける。幻騎士は雲雀恭弥の姿を知っている。だが。今現在、幻騎士の眼前にたたずむ雲雀恭弥は、幻騎士の知る雲雀恭弥の面影こそあれど、随分と幼い。ゆえに、目の前の人物が雲雀恭弥であると確信しきれないのだ。

 

 

「先に聞いたのは僕だよ。質問に質問で返すのは感心しないな」

(いや、愚問だったか。この男は10年前の雲雀恭弥で間違いない……)

 

 闖入者は背後の匣兵器を一旦匣に仕舞いつつ、しかし幻騎士の問いには答えない。が、一方。幻騎士は目の前の闖入者を雲雀恭弥だと断定した。闖入者の右手の中指に嵌められた雲のボンゴレリングこそが10年前の雲雀恭弥の証だからだ。

 

 

「まぁいいさ。君は白くて丸い装置のことを知っているようだから、さっさと咬み殺して、嫌でも僕の問いに答えてもらうとするよ」

「ボンゴレ最強の守護者だとの噂は聞いているが……10年前の小童では話にならんな。貴様もすぐにそこの山本武と同様に屠ってやろう」

「……山本武を倒して調子に乗っているようだけど、その程度で舞い上がってるなんて、底が知れるね」

「む?」

「いい機会だ。己の身の程を忘れて驕り高ぶる草食動物に、肉食動物の恐ろしさを刻み込んであげるよ」

 

 雲雀は匣に雲のボンゴレリングの炎を注入し、放出されたトンファーを装備する。対する幻騎士も匣に霧のマーレリングの炎を注いで幻海牛を起動させ、幻海牛に幻術を構築させる。無数の幻海牛は四方八方に飛び、元々の無機質な匣兵器実験場を幻騎士の戦いやすい、木々の生い茂る世界へと塗り替える。白蘭の命を完璧に全うするため、雲雀を完膚なきまでに倒すための措置だ。

 

 

「ふぅん、君は幻術使いなんだ。けど、残念だったね。僕に幻術は通用しない」

「なに?」

 

 幻騎士の幻術を目の当たりにした雲雀の言い放った内容に、幻騎士はつい動揺の声を漏らす。そのような情報は聞いていないからだ。本当なのか、ただのハッタリなのか。わからないが、雲雀の発言の真偽は、戦闘の中で自ずと明らかになるだろう。幻騎士は一部の幻海牛を透明状態のまま雲雀へと飛ばす。幻海牛はそれ単体が破壊力を持った誘導兵器であるため、命中すれば雲雀であろうとただでは済まないだろう。

 

 

「ーー行くよ」

 

 が、当の雲雀は前方へと駆け出す形で幻海牛の突撃を回避する。幻海牛が地面と激突して発生した爆発のことなど気にもせず、そのまま前方へと、雲雀を迎撃するべく剣を構える幻騎士に攻撃するべく駆ける。が、ここで。雲雀は立ち止まり、新たに雲の炎を注入した匣を真上に向ける。雲雀が匣を向ける先には、両手にそれぞれ剣を持ち、真上から雲雀を襲撃する予定だった、本物の幻騎士の姿。

 

 

(まさか、本当に俺の幻術を見破っているのか!?)

 

 幻術で透明になった幻海牛の攻撃も、幻術で作られた囮の幻騎士も、当然のように看破し対応してくる雲雀の様子から、先の雲雀の発言が真実だと判断した幻騎士は驚愕に目を見開く。そんな幻騎士目がけて雲雀の匣兵器が襲いかかる。雲ハリネズミの球針態の突撃に、幻騎士はとっさに両手の剣で防ぐのが精一杯だ。だが、防いだはいいものの、球針態の勢いを殺すことはできず、天井まで吹っ飛ばされる。雲ハリネズミはそんな幻騎士を球針態で潰すべく追撃を駆けるも、両手の剣に霧の炎を纏わせた幻騎士の強烈な斬撃により、球針態は消し飛ばされた。

 

 

「へぇ、今ので無傷なんだ」

「なるほど。確かに貴様には幻術を見破る能力があるようだ。ならば、こうだ」

 

 幻術で構築された蔓を天井から生やし、己の両足をぐるぐる巻きにさせることで、己を天井にとどめさせた幻騎士は、ここで無数の幻海牛を一斉に雲雀へと突撃させる。四方八方から迫り、雲雀の逃げ場を消し去る幻海牛の群れ。雲雀は匣に雲の炎を注いで2匹の雲ハリネズミを召喚し、2つの球針態を雲雀の周囲にグルグル展開させる。幻海牛が雲雀に接触する前に球針態をぶつけて爆発させる。結果、雲雀の周囲は激しい爆発によって形成された白煙で支配される。

 

 

(匣兵器はいつまでも展開し続けられるものではない。事前に注入した炎エネルギーの分しか活動できないからだ。幻海牛の突撃がいつ途切れるかを雲雀恭弥が知り得ない以上、奴は防戦一方に終わらずに、必ずどこかで幻海牛の包囲網を突破しにかかるはず。そこを叩く!)

 

 幻騎士は雲雀がどの方面から幻海牛の猛攻を突破してきても瞬殺できるように、眼下に展開される白煙をじっと凝視する。そして、10秒後。幻騎士の狙っていた瞬間が訪れた。厚い白煙をかき切るようにして、雲雀が空中へと飛び出したからだ。

 

 

(身動きの利かない空中へ逃れるとは、愚かな)

「これで終いだ」

 

 幻騎士は幻海牛の突撃をやめつつ、両足に巻きつく蔓を断ち切り、天井を足場にして一気に地上へと飛び込む。そうして、幻騎士は一息に雲雀との距離を詰め、両手の剣でX斬りにする。雲雀は幻騎士の斬撃への防御が間に合わず、為すすべもなく両断された。が、この瞬間。幻騎士は強い違和感を覚えた。剣に、雲雀を斬った感触を欠片も感じなかったからだ。今しがた斬った雲雀から霧の炎の気配を感じたからだ。

 

 

(これは、匣兵器で作られた雲雀恭弥の偽物か!?)

「騙すのは君だけの特権じゃないよ」

 

 雲雀の偽物にまんまと釣られてしまったことに気づいた幻騎士が地上に着地した刹那。幻騎士の背後から本物の雲雀が声をかける。弾かれたように振り返った幻騎士が目撃した光景は。未だ白煙が立ち込める中、雲雀が左手の中指と薬指に計3つの雲のリングを嵌めて炎を灯し、匣に無理やり炎をねじ込んでいる姿。

 

 

「……何をしている?」

「君の作った戦場に飽きたからね。場所を変えるよ」

(場所を、変える?)

 

 雲雀が何を画策しているかが全く読めず、幻騎士が雲雀への警戒心をググンと跳ね上げる中。3つの雲のリングの炎を一斉に注がれた際にヒビの入った匣から、紫の膜に包まれて白く輝く雲ハリネズミが現れる。雲ハリネズミは見る見るうちに球状のドームを形成する。雲雀と幻騎士のみをドーム内に取り込み、2人以外の一切をドーム外に弾き出す。雲雀の匣兵器も、幻騎士の匣兵器も、戦闘不能の山本武もドーム外へと追いやり、雲ハリネズミはドーム状の戦場を完成させた。

 

 

「……」

「無駄だよ。密閉度の高い雲の炎で作られたこのドームは頑丈にできているからね。君の匣兵器の力ごときじゃ、外側からは絶対に壊せない」

「ほぅ?」

「ここは、裏・球針態。戦う人間以外は匣兵器だろうと全て排除する、絶対遮断空間。僕に背を向けてドームに攻撃を加えない限り、君は決してここから脱出できないよ。そして、裏・球針態の生成と維持のために、内部の酸素は急速に減り続ける。この空間から酸素がなくなるまで、数分とかからないだろうね」

 

 無数のトゲがびっしりと敷き詰められたドームの内側に閉じ込められた幻騎士は、ドームの外側の幻海牛を操作してドームの破壊を試みるも、まるで効果がない。そんな中、雲雀は幻騎士の疑問を氷解させるべく、懇切丁寧に裏・球針態のことを説明する。確かに。雲雀恭弥が話している間にも、ドーム内部の酸素の濃度が薄まっているように幻騎士は感じた。

 

 

「……貴様、何が目的だ。ここで俺と心中するつもりなのか?」

「まさか。強者を道連れにして一緒に死ぬだなんて、そんな弱者の戦いの真似事を僕がするとでも? ……僕はね。君と匣兵器なしの、純粋な勝負がしたいんだ。何せ君は、草食動物の中ではかなり咬み殺し甲斐があるようだからね」

 

 雲雀は改めて両手のトンファーを構え直し、極上の獲物を決して逃さないと言わんばかりに獰猛な笑みを貼りつける。だが、幻騎士にはわかった。いくら隠そうとしても、詐術に長けた幻騎士の目はごまかせない。雲雀恭弥は明確に何かを企んでいる。その企みの委細まではわからない。が、『純粋な勝負がしたい』などという雲雀恭弥の物言いを素直に受け入れるのは危険だ。

 

 

「制限時間ありのデスマッチということか。いいだろう。奥義・四剣(しけん)

 

 ゆえに、一刻も早く雲雀恭弥を殺すべきだ。己の剣技を十全に発揮して雲雀を殺す方針を固めた幻騎士は、ここで新たに両足にも剣を装備した。両手に装備した剣と、足の親指と人差し指で挟んだ両足の剣による圧倒的な手数で、敵を容赦なく切り刻む。これが幻騎士の、剣士としての本気の戦闘スタイルだ。

 

 

「俺を本気にさせたことを後悔しながら死んでいけ、雲雀恭弥!」

「へぇ、面白い曲芸だね」

 

 幻騎士は両足の剣で地面に穴を開けながら雲雀へと迫り、右足を振り上げる。右足の動作に付随して振り上げられる剣を、雲雀はその場にしゃがんで回避する。雲雀の眼前には、右足を思いっきり上げたがために、無防備な体勢を晒す幻騎士。だが、雲雀は反撃できない。幻騎士の右足に装備した剣のリーチは雲雀のトンファーよりも圧倒的に長く、それゆえに幻騎士に隙があろうと、幻騎士の懐に入り込むだけの猶予を得られないのだ。

 

 幻騎士は振り上げた右足を戻しつつ、上段にて交差させた両手の剣を雲雀へと振り下ろす。幻騎士が両足に剣を装備しているがゆえに、雲雀の遥か上空から振るわれた幻騎士の二剣。雲雀は右手のトンファーを頭の上へ掲げて幻騎士の二剣を止めようとして、とっさに左手のトンファーも頭部へと動かし、トンファー二本で幻騎士の二剣を受け止めた。この時、幻騎士は悟った。10年前の雲雀恭弥と幻騎士とは筋力の面で明確に差があり、匣兵器の使えない裏・球針態の戦いは、むしろ幻騎士に有利に働いていることを。

 

 

「くッ……」

(だからこそわからない。なぜ雲雀恭弥はわざわざ己を逆境に追い込む真似をした?)

「この程度か、雲雀恭弥?」

 

 幻騎士の二剣を歯を食いしばって必死に受け止める雲雀の様子に幻騎士は内心で困惑しつつも、左足の剣を雲雀に振るう。両手の使えない雲雀の胴体を横薙ぎに断つための剣。が、それよりも早く。雲雀は学ランの内側に隠し持っていた、10年前から持ち込んでいた愛用のトンファーを敢えて足元に落とし、蹴り飛ばす。瞬間、嫌な予感が幻騎士の全身を駆け巡り、幻騎士は左足の剣による雲雀への攻撃をキャンセルし後方へと跳んだ。

 

 

「ッ!?」

「次は僕の番だよ」

 

 直後。トンファーから号砲が轟き、幻騎士の頰を銃弾が掠める。どうやら今しがた雲雀が蹴り飛ばしたトンファーには特殊な仕込みが施されていたようだ。標的を失ったトンファーがあらぬ方向へと吹っ飛んでいく中。今度は雲雀から幻騎士に攻撃せんと距離を詰めていく。幻騎士はどこまでも油断ならない雲雀を凝視する。どのような攻撃をするつもりなのか。どう迎撃するのが正解か。それらの最適解を導き出すため、幻騎士の心は瞬時に研ぎ澄まされる。が、その時。幻騎士の体が唐突にガクリと揺らいだ。慌てて幻騎士が右足を見やると、右足の指で挟んでいた剣が、剣先から剣身の半ばにかけて消失していることに気づいた。

 

 何が起こったのか。答えは簡単だ。雲雀はトンファーを蹴り飛ばし発砲させるという奇を衒った攻撃により、幻騎士の意識を雲雀自身へと引きつけた上で、幻騎士の右足の剣へとこっそりムチを振るったのだ。そのムチの先端に取り付けられていた溶解さくらもちが、雲雀のムチごと巻き込んで、瞬時に幻騎士の剣を溶かしたがために、四剣モードの幻騎士はバランスを崩したのだ。

 

 

「貴様、どうやって我が剣を折った!?」

「これでお得意の四剣は使えないね」

「ッ――」

 

 まさか裏・球針態では匣兵器は使えないとうそぶき、何らかの匣兵器を使って攻撃しているのではないか。幻騎士が狼狽のままに雲雀に問いを投げかけるも、対する雲雀は意味深に微笑みを貼りつけ、今が好機だとトンファーを振るってくるのみだ。雲雀恭弥に踊らされている。それも、10年前の小童のはずの雲雀恭弥に踊らされ、バカにされている。そのことに幻騎士は怒りを募らせ、しかし戦い方に一切精彩を欠くことはない。幻騎士は左足の指で握っていた剣を足場にして雲雀の背後へと跳躍する形で、雲雀のトンファーを回避する。

 

 

「貴様など、わざわざ奥義・四剣(しけん)を使わずとも、二本で十分だ」

「君は一々吠えないと気が済まないのかい? 弱い人間は苦労するね」

「――舐めるなぁ!」

 

 幻騎士は双剣の状態で雲雀と切り結ぶ。幻騎士の鋭い斬撃は時折雲雀の体をかすめ、雲雀の体に切り傷を刻んでいく。対する雲雀の攻撃は幻騎士に命中しない。雲雀のトンファーが幻騎士の体を貫く前に、幻騎士はトンファーを防ぎ、かわし、雲雀から一度も有効打を喰らうことなく立ち回る。剣を1本失ったとはいえ、戦局は幻騎士優勢だ。2本の剣を用いた正面からの戦いでも、十分に雲雀を圧倒できている。しかし、幻騎士は焦っていた。まだまだ大して戦っていないはずなのにもがくように荒々しい呼吸を繰り返していることが、幻騎士の焦りの理由だった。

 

 

「ふぅ。……そろそろ、タイムリミットが、近いね」

「……なぜだ。なぜ、そうも余裕でいられる。このままだと、貴様も、死ぬのだぞ!?」

「面白いことを、言うね。君と違って、酸欠ごときじゃ、僕は死なないよ」

 

 裏・球針態から今にも酸素が消失しようとする中。幻騎士と同じくらいに荒く呼吸を行っていながらも平静を保ったままの雲雀に、幻騎士はたまらず半ば叫び声に近い口調で問いかける。が、雲雀の答えは相変わらず幻騎士を小馬鹿にするものだった。

 

 狂っている。この男は狂っている。こんな狂人と一緒に死んでたまるか。ここで死んでしまったら、俺はもう、白蘭様の命を果たせなくなってしまう。白蘭様の啓示を耳にする幸福を失ってしまう。白蘭様の目指す世界を共に見つめる機会を逸してしまう。ダメだ、そんなことはあってはならない。この俺が、白蘭様の懐刀が、こんなところで終わるわけにはいかない。幻騎士の内奥で猛き覚悟の炎が燃え上がった。

 

 

「おおおおおおおッ!!」

 

 幻騎士は雄叫びとともに、霧の炎を纏わせた双剣で渾身の一撃を雲雀に放つ。今までとは明らかに速さの次元の違う幻騎士の神速の一撃を、雲雀は間一髪、真横に跳躍することで回避する。が、雲雀の跳んだ先を読んだ幻騎士は、雲雀の腹部に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ふぐッ!?」

「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 幻騎士の強烈な蹴撃に雲雀の体は軽々と吹っ飛び、転がり。雲雀の体は裏・球針態の壁に張り巡らされているトゲの1つに突き刺さりそうになるも、雲雀はすんでのところでトンファーを振るってトゲを壊すことで、どうにかトゲに体を貫かれずに済んだ。そんな雲雀へと幻騎士は瞬時に迫り、双剣を振り下ろす。対する雲雀は幻騎士の両腕をトンファーで殴り、幻騎士の双剣の軌道をそらす。結果、雲雀を真っ二つに両断するはずだった幻騎士の双剣は、雲雀の代わりに裏・球針態を斬りつけ、そのまま裏・球針態を破壊した。

 

 

(息が、できる……!)

 

 ドームを構成していた裏・球針態の残骸が粉塵と化して幻騎士に降り注ぐ中。幻騎士は息を整えるべく激しく呼吸を行う。戦闘中に無防備なことこの上ないが、酸欠状態だったのは雲雀恭弥とて同じ。ゆえに、少しだけならば呼吸に集中しても何も問題ないと幻騎士は判断した。

 

 

 

 

 ――その判断こそが、雲雀の待ち望んだ瞬間だった。

 

 

「があッ!?」

 

 刹那、幻騎士は唐突に潰された。裏・球針態の残骸に紛れて降ってきた巨体に、幻騎士はのしかかられた。

 

 

(何が、起きている……!?)

 

 意識が混濁している幻騎士が吐血する中。巨体が床に着地した影響で、匣兵器実験場が大きく揺れる。そして、さも当然のように。巨体を中心として半径2メートルの空間の地面が抜けて、幻騎士は己の上に乗る巨体とともに穴へと落下していく。この時。幻騎士の視線の先に、穴の底にいたのは、無数の雲アリ。次いで、幻騎士が上を見上げた時、己を見下ろしていたのは、雲カバ。ここまでの情報を得たのを最後に、幻騎士の体は穴の底に衝突し、無数の雲アリに襲われるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 一方その頃。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……上手くいったっぽい、かな」

 

 酸欠状態の雲雀は仰向けに倒れた体勢で、数体の雲アリに運ばれる形で、幻騎士の落ちた穴から離れている最中だった。

 

 

 雲雀の対幻騎士戦の作戦は、単純明快。雲ハリネズミの裏・球針態で時間を稼ぎ、その間に雲カバと雲アリに幻騎士を倒す準備をしてもらうというものだった。そのために、幻騎士がけしかけた無数の幻海牛を雲ハリネズミの球針態で防いだタイミングで雲ケムリを用いてさらっと煙幕の量を増やし、煙に紛れて雲雀は一気に行動した。雲アリと雲カバを召喚して一旦幻騎士の視界外に退避してもらいつつ、霧シラスで己の分身を作って幻騎士へと突撃させる。そして、幻騎士が霧シラスを攻撃したタイミングで、これ見よがしに3つの雲のリングを使って裏・球針態を作ろうとする光景をさらす。これにより、雲雀は自分が雲アリと雲カバの匣兵器を開匣したことを幻騎士に気づかせないまま、裏・球針態へと幻騎士を誘ったのだ。

 

 その後、裏・球針態にて雲雀が幻騎士と戦って時間稼ぎをしている間。裏・球針態の外側で雲カバと雲アリはそれぞれの役目を果たすべく動いた。雲カバは裏・球針態の外壁を登って幻騎士の真上にスタンバイする。雲アリは、雲カバから随時雲の炎をもらって増殖しつつ、裏・球針態の床部分を掘り、落とし穴を用意する。そして。十分なサイズの落とし穴が完成したら、雲アリは雲雀運搬用の数匹以外は皆、落とし穴の底で待機する。

 

 そうして、裏・球針態が壊れた直後。裏・球針態の残骸がまき散らす粉塵に紛れて数匹の雲アリが雲雀を回収して幻騎士から逃げ。雲カバは重力のなすがままに落下して幻騎士を踏み潰し。その衝撃で落とし穴を起動させ、幻騎士を落とし穴の底に控える無数の雲アリの餌食にさせる。これが、雲雀に憑依した凡人が平凡な頭を必死に絞って考えた、幻騎士を倒す方法だった。

 

 

雲カバ(メルカバ)に思いっきり踏み潰されて、無数の雲アリ(メルエム)に一斉に咬まれる。普通ならこれでオーバーキルになるはずだ。でも、相手はあの幻騎士。これだけやっても幻騎士を戦闘不能にできたとは思えないから、今の内に山本くんとラル・ミルチさんを拾ってさっさとここから離れよう)

 

 呼吸を整え終えた雲雀は、雲アリに背中を預けて運ばれていた状態からその場に立ち上がる。そして、裏・球針態生成の際に弾かれた己の匣を回収して、雲カバたちを匣兵器の中にしまうと、付近に転がる山本とラル・ミルチの両名を担いで、いそいそと匣兵器実験場を後にするのだった。

 

 




雲雀恭弥→本作の主人公、かつボンゴレ雲の守護者。本名は雲雀恭華。今は凡人が憑依している。この度、持てる手札を使えるだけ使い、雲ハリネズミの暴走なしで幻騎士を倒すことに成功した。
幻騎士→ミルフィオーレのブラックスペルかつ、6弔花かつ、霧のマーレリング保持者の男性。優れた剣技と霧の幻術を巧みに用いて戦闘を上手に立ち回る様は、未来編前半のラスボスポジションに相応しいといえる。が、今回は雲雀さんの奇抜な戦い方に翻弄されまくったために、あまり上手く立ち回れなかった模様。

 というわけで、40話は終了です。連載休止している間はこの幻騎士戦を、恭華さん&山本くんや、恭華さん&クロームとで共闘する展開などなど、色々考えてはボツにしてを繰り返していたのですが、結局は恭華さんには幻騎士と1対1で戦ってもらうことにしました。さて。幻騎士戦は終わりましたが、未来編前半のメローネ基地突入編はあと2、3話くらい続きます。ここからは少々オリジナル展開を混ぜ混ぜしますので、ね。

 ところで。私の知らぬ間にハーメルンにアンケート機能なるものが搭載されているようではありませんか。ちょっと興味があったのであとがきの1番下に用意してみます。もしよければ回答をよろしくお願いします(このアンケート機能の使い勝手の良さ次第では、ルート分岐系のストーリーに活用できそうな辺りに、ただいま私はワクワクしております)

 〜おまけ(幻騎士と戦う直前の凡人憑依者の思考)〜

恭華(しっかし、あれだね。改めて見ると、幻騎士の強者オーラが半端じゃないね。空気がビリビリしてるのが肌でわかるよ。山本くんが初めて幻騎士と相対した時にゾクッとした気持ちがとても理解できる。でも、今はこんなに強敵感を出してる幻騎士も、あと10日もすれば、山本くんの噛ませ犬になってしまうのだから、パワーインフレ著しいリボーン世界は本当に怖いよね、うん。……なんてことを考えてたら、何だかリラックスできたみたい。戦闘前に期せずしてマインドリセットできたのは幸運だ。僕は所詮、雲雀さんの威を物理的に借るファッション強者でしかなく、その頭脳は凡人だ。その凡人がない頭を一生懸命捻って生み出した作戦が、本物の強者にも通じるか否かーーいざ、尋常に勝負!)

Q.今回の幻騎士戦において、恭華さんの匣兵器の中でMVPを決めるならどれ?

  • 『雲ハリネズミ』こそが原点にして頂点
  • 『雲カバ』だとワイトも思います
  • やっぱり『雲アリ』がナンバーワン
  • 『雲ケムリ』のことも忘れないでください
  • 『霧シラス』を選ばないやつおりゅ?

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