ボロボロになった服を着替えて、ルイズはゆっくりと椅子に座った。
「それで、気になったことって何?」
「はい。ルイズの使った『ライト』の事なんですけど……。ちゃんと成功しているように見えたんです」
「……どこが?」
少し前まで爆煙が充満し、机が倒れ、椅子が吹き飛んだ状態になった魔法のどこが成功したと言うのだろうか。
一般的な貴族が見れば、間違いなく失敗だと言うだろう。
「確かに、その、爆発はしました。けれど、その前に確かに強い光が杖に灯っていました」
「爆発する前に起こる光じゃないの?」
「いえ、それとは明らかに違う光でした。一度、教室で爆発を見ているので間違いないです」
トモモはそこまで話すと、じっとルイズの事を見た。
その瞳に淡く青い光が宿る。
その淡く青い光にルイズは驚くも、見入ってしまう。
吸い込まれそうな光……、きれい……。
「ルイズ?」
「えっ、あっ……、な、何?」
「やっぱりルイズには不思議な力があるんですよ。その力のせいで、魔法が上書きされてしまうみたいな感じですね」
「そう……なのかしら? 自分じゃわからないわ」
軽くルイズが首を横に振った。
ニコッと、トモモが微笑む。
「きっと、いつか自分でもわかるときが来ると思いますよ」
「それで、ルイズ……」
「なに?」
「せっかくですから、秘薬の材料でもとってきましょうか?」
トモモが秘薬の本を片手にそう言う。
掃除に洗濯は朝のうちに終わらせてある。
デルフリンガーの錆び落としも終わり、やることがなくなってしまったというのも確かだ。
ならば、使い魔に秘薬の材料を探させに行かせるのも悪くはない。
「確かに集めてきてくれるならうれしいけど……。今の私に得意な系統はないわよ?」
「はい。ですから、ポーションの材料になるものを中心に集めてきます」
ポーションとは水系統の秘薬の総称。
触媒の良し悪しがそのまま生かされる秘薬の一つでもあり、同時に高値でも取引されやすいものでもある。
また、あまり魔法に頼らずとも秘薬として精製しやすい。
つまり、今のルイズでも作ることのできる秘薬の一つだ。
「まあ、それなら……」
ルイズもなるほどと、一度頷いた。
「それで、どのあたりまで行くつもり? トモモの事だから、迷うってことはないと思うけど、一応聞いておくわ」
「そうですね……」
トモモがパラパラとページをめくっていく。
そして、ぱたんと本を閉じた。
「だいたい、ここからずっと南に行ったところにある、ガリアという国のあたりまで」
「ガリア!! なんで他国まで行くつもりなのよ!!」
「ガリア地方には火竜山脈という大きな山脈があるんです。そのため、そこに色々と秘薬に必要な触媒が群生しているらしいです。たぶん、二日ほどお暇をいただければ戻ってこれますよ」
国境を越えて、なおかつその南端の方にある火竜山脈まで行って……二日?
普通の人間にはとてもできることじゃないけど、トモモにはできるの?
国境を越えるのは簡単だろう。
しかし、火竜山脈には文字通り火竜が住みつきとても危険なところである。
さらに、ガリアの国面積は広大であり、そのため亜人たちが多いと言われている。
そのことを考えると、止めるべきなのだが……。
そっとルイズがトモモの事を見る。
何も恐れてはいない、ただ秘薬の材料を集めて帰ってくる、そんな雰囲気が纏われているような気がした。
散歩気分で行くつもりなのかしらね。
ただの使い魔なら止めただろう。
けれど、トモモを見て安心したルイズは、ふっと息を一つ吐いて頷いた。
「わかったわ。まあ、二日くらい。いえ面倒事とかに巻き込まれることを考えて四日くらいで戻ってくること。いいわね?」
「はい」
トモモは大きく頷くと、デルフリンガーを持って部屋から飛び出していった。
トモモは平原を駆け抜けていく。
南に、ずっと南を目指して駆け抜ける。
そこらの馬程度じゃ話にならない速度だ。
「相棒、そんなに飛ばして大丈夫か?」
「えっ?」
「いや、バテないかと思ってな」
「それほど速く走ってないから、問題ないよ。このペースでなら、あと二日くらいは大丈夫かな」
軽くトモモがそう言う。
カシャと驚いたように鍔の部分が鳴る。
「今度の相棒はすごいな。いや、ほんとに」
ガリア地方に入ってみると、小さな村が至る所に点在していた。
目的の火竜山脈はまだまだ南。
更にトモモは駆け抜けていく。
その時、一瞬懐かしい気配を感じた。
トモモが足を止める。
「どうした、相棒」
「いま……確かに」
辺りを見回す。
周りは平原と、森しかない。
森の方向から白い煙が上がっているのが見える。
どうやら村があるようだ。
あっちから、かな……。
トモモが走る向き真南から南東へと変える。
「火竜山脈ってのは真南じゃなかったのか?」
「そうなんですけど、今、懐かしい感じがしたんで」
「懐かしいって、相棒はこのあたりの出身だったのか?」
「いえいえ、そう言うのじゃなくて……」
一十と呼んでくれた主、運命を導いた赤い館の当主、そして、七色の宝石の羽の友達……。
彼女たちと似たような気配を感じたのだ。
この世界にも、いるのかなぁ……。
トモモがたどり着いたのは少し寂れたような村。
日も落ち始めて空が夕焼け色に染まるころだ。
そこで気が付く、誰も外に出ていない。
いくら暗くなってきたとはいえ、誰も外にいないと言うのも不思議な光景だ。
水を汲んだり、ただ外で遊んだり、畑仕事のためであったり……。
何かしらの理由で外に人がいるのは当たり前のはず。
しかし、まったく人がいないのである。
「おかしいですね……。誰も外に出ていません」
「そうか? たまにはそういう事もあるんじゃないのか」
「そうかもしれないんですけど……。それにしては、どこか、鋭い雰囲気がします」
周りの家からは、どこか他者を退けるような、そんな雰囲気が漂っている。
仕方がないので、トモモはゆっくり村の中を歩くことにした。
すると、段々畑が続く道の先に一軒の家が建っている。
他の家より少し大きい。
「村長さんがいるんでしょうか?」
トモモがその家の前まで行き扉を叩く。
「すみませ~ん」
しばらくすると、扉が開き、青い長い髪の女性が現れた。
長い杖と、五芒星の紐タイ留めがその女性は貴族であることを示していた。
しかし、トモモはその女性の瞳と青色の髪に見覚えがあった。
魔法学院で知り合った、一匹の竜。
人の言葉を話す由緒正しき竜『韻竜』。
何でもとても優秀なメイジのお姉さまに召喚された、と言っていた。
確か名前は……。
「イルククゥ、だっけ?」
「きゅいっ!? えっ、何で私の名前を……って、あああっ!!」
イルククゥも思い出したのか、ビシッと指を突き付けて叫んだ。
「トモモっ! 桃色おこりんぼさんの使い魔のトモモ! どうしてここに?」
「秘薬の材料を取りに来たんだけど、その途中でちょっとね。イルククゥはどうしてここに?」
「え、そ、それは、いえないのね」
困ったように視線をずらす。
トモモは少し考えて、そっと呟いた。
「ああ、なるほど。お姉さまのお手伝いか~」
「きゅぃい!! な、なんで、知ってるの!?」
「うん? 知らなかったよ」
「えっ? ……だ、だまされたー! きゅいー!!」
ポカポカと持っていた杖でトモモを叩く。
そんなことをしていると、屋敷の奥から一人の少女が出てきた。
空を映したような水色の髪、トモモより少し小柄な体格。
マントこそ羽織っていないものの、その身にまとった雰囲気は間違いなく高貴な存在であるとトモモにはわかった。
つまり……、彼女がイルククゥの主さんかぁ。
「何やってるの?」
「トモモが来たのね!」
「トモモ?」
水色の髪の少女がトモモの方を見る。
そして、一瞬ハッとした表情になる。
「どうしてここに?」
「秘薬の材料を集める途中で、少し気になることがあって」
「そう……」
何か納得したのか、無表情に戻る。
「タバサお姉さま、トモモにも手伝ってもら……」
イルククゥがそこまで言おうとすると、ギュゥとタバサと呼ばれた少女が背中をつねった。
「いたい、いたい」
「これは、他言無用」
キョトンとした表情のトモモに向かって、タバサはそう言った。
何か事情があるのだろう。
そう思ったトモモは一度頷く。
そして、思い出したようにトモモは尋ねた。
「えと、その聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「……すこしなら、構わない」
「このあたりに、吸血鬼っていう存在がいない?」
「「!!」」
タバサとイルククゥの表情が驚きの物に変わる。
「どうしてそのことを」
「やっぱり。懐かしい雰囲気がしたから、もしかしてと思って」
懐かしいと言う部分は気になったが、タバサの中に一筋の光が駆け抜けた。
もしかして、目の前にいる存在なら……。
タバサがじっとトモモの事を見る。
「えと、何?」
「あなたは、吸血鬼と人間を判別することができる?」
「わかりますよ。吸血鬼と人間じゃ、明らかに違いますから」
「牙を見なくても?」
「もちろんです。雰囲気が全然違いますから」
そこまで話を聞いて、タバサは一度頷いた。
そして一言、静かに告げた。
「……手を貸して」
~今回の結果~
ルイズの未知なる力の片鱗を見る:経験値10
秘薬探しのため二つの国を跨ぐ:経験値25
吸血鬼の気配を感じ取った:経験値5
イルククゥの主、タバサに出会う:経験値5
合計 経験値45
「僕が次のレベルになるまで 45/150 です!」
現在の称号:優秀な使い魔 Lv1
会得称号:不思議な使い魔 LvMAX