ゼロの使い魔 並べられた数字の少年   作:TomomonD

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十一召喚目 幼い吸血鬼

トモモが村の中心にある広場へと移動する。

既に日は地平線の向こうに隠れようとしている。

 

「どう?」

「向こう……からですね」

トモモが指差した方向をタバサが見る。

それは、意外な方向だった。

「村長の屋敷?」

タバサが怪訝な表情を浮かべる。

「あれ? でも、あっち側から、懐かしい感じがするんだけどなぁ」

指差したトモモ自身もよくわかっていないのか、不思議そうな表情をした。

「……とにかく行ってみる」

 

 

トモモとタバサがあまりにも早く戻ってきたので、イルククゥが驚いて外に出てきた。

「随分と早かったのね」

「う~ん、ちょっとね……」

そう言ってトモモが村長の屋敷に入る。

二階の客間には襲われるかもしれない村の女性たちをかくまっている。

そのため、もし吸血鬼がこの屋敷にいるとなると大惨事になりかねない。

 

「おや、騎士様のお連れの方でしょうか?」

この村の村長だろうか、年老いている割にがっしりとした体格の老人が話しかけてきた。

広場での打ち合わせで、騎士の手伝いをする存在という事なっているトモモは頷く。

「ガリア花壇騎士、シルフィード殿の手伝いをするトモモという者です。此度は、相手が吸血鬼という妖魔。御一人では不慮の事故が起こるとも限りません。故に、守り手としてこちらに参りました」

そう言って、トモモはチャッと音をならし、礼をする。

立派な騎士の礼であり、村長も疑うことなく頷いた。

周りで見ていたタバサとイルククゥも、驚いたように息をのんだ。

 

「それで、吸血鬼の事なのですが」

そこで一度、ふぅと一息ついてトモモが話し始める。

「この館の近くにいることは確かです」

「な、なんですと!」

村長が驚きの声を上げる。

トモモが軽く右手を挙げ、それを静止させる。

「安心してください。すでに手は打ってあります」

「おお、それは心強い」

スタスタとトモモはイルククゥとタバサの前に行く。

 

「村のはずれにある家から不吉な気配が漂ってきている。もしや、この屋敷の近くにいるのは吸血鬼が操る存在、屍人鬼かもしれない。屍人鬼ならば私でも対処することができる。ならば騎士殿には、吸血鬼がいる可能性が高い、村はずれの家に行ってもらいたのだが……よろしいか?」

イルククゥがタバサを見る。

タバサは少し考えたようだが、一度頷いた。

「わかったのね」

「そこの従者も騎士殿と一緒に向かってほしい。いざという時は二人いたほうがいい」

「わかった」

トモモがイルククゥにそっと手を差し出す。

「御武運を」

「安心しているといいのね」

イルククゥがその手を握る。

そして、そのまま二人は屋敷の外に出ていった。

 

 

「お姉さま。トモモがこれを」

「?」

外に出たタバサにイルククゥが一枚の紙を渡した。

どうやら、握手の時にそっと渡したようだ。

しかし、いつの間に書いていたのだろう。

そんなことを思いながらタバサが紙を開く。

 

そこには次のように書かれていた。

『村はずれのあばら家から少し変わった気配がしました。たぶんですが、屍人鬼だと思います。先にそちらを退治、もしくは行動不能にしてください』

それを見て、タバサは驚く。

吸血鬼の気配だけでなく、屍人鬼の気配まで察知できるのかと。

一体……何者?

一度、タバサは振り返る。

 

「お姉さま、どうするの?」

「……彼女なりの考えがある。私たちは村はずれの家に向かう」

「彼女?」

「トモモ」

「えっ、トモモは男だったと思うけど……」

「!!」

 

 

そんなやり取りが外で行われている頃、トモモは自分の勘……、つまりは懐かしい気配をたどって移動する。

てっきり二階の客間に紛れ込んでいると思っていたのだが、その勘が導いたのは全く別の部屋だった。

 

「相棒、ここか? 二階じゃないのか?」

「うん。たぶんここだと思う……」

コンコンと扉を叩く。

「だれ?」

幼げな少女の声が聞こえてきた。

「騎士殿に手伝いを頼まれた者です」

「騎士さまに?」

カチャリと扉が開く。

 

そこには十歳くらいだろうか、金色の髪の少女が立っていた。

トモモはその少女を見て微笑む。

「こんばんは」

「こ、こんばんは」

「僕はトモモです。よろしく」

「エルザです」

ペコリとお辞儀をする。

「騎士殿から、君がさみしくないように少しお話をしてあげて、と言われたので。お邪魔していいかな?」

「うん!」

お話してもらえるのが嬉しいのか、エルザは大きく扉を開いた。

 

 

月明かりが差し込む中、トモモはベッドに横になったエルザの隣の椅子に腰かけた。

そっと、扉を閉める。

「それで、どんなお話をしてくれるの?」

「そうだね……」

ふっ、と一度笑みを浮かべると、デルフリンガーを壁に立てかけた。

 

「じゃあ、ちょっと不思議なお話をしてあげる」

ベッドに入ったエルザは、キラキラした瞳でトモモの事を見る。

「小さな村で起きた本当のお話だよ」

「小さな村?」

「そう。平原と森に囲まれた村に、そっと暮らしている吸血鬼さんのお話」

吸血鬼という単語を恐れたのか、エルザは布団をかぶって震えだしてしまった。

しかし、そんなことを気にせずトモモは話をし始めた。

 

「その吸血鬼さんは、人を欺くのがうまくて、どんな立派な騎士も歯が立たなかった。でも、ある時、変わった来客が訪れた。その来客は剣を背負って、真っ直ぐに吸血鬼のもとに向かった。そして、月明かりの元、不思議な話をしている……」

その瞬間、エルザの震えがピタリと止まった。

そして、布団から顔を出す。

「それって……」

「来客の名前はトモモ。吸血鬼さんの名前はエルザ」

軽くトモモが微笑む。

「本当に起こった出来事だよ」

 

エルザの瞳に物騒な光が宿る。

そして、きらりと光る牙がその口から見える。

「その話、最後はどうなるか教えて?」

「どうなるかな。屍人鬼は騎士さまが止めてる。後は、エルザと呼ばれた吸血鬼さん次第かな?」

「………」

エルザがじっとトモモの事を見る。

そして、ニヤリと笑った。

 

「お兄ちゃん、甘かったわね。眠りを導く風よっ!」

ふわっと、トモモの周りの空気が生暖かいものに変わる。

普通の人間なら一瞬で眠ってしまう、『眠り』の先住魔法だ。

「あれ……、急に眠く……」

「相棒! 寝るな! 寝たら終わりだぞ!!」

デルフリンガーの声も届かずトモモは椅子に寄り掛かるように眠ってしまった。

小さな寝息が漏れる。

エルザは笑みを大きくした。

「まさか、一日もかからず、私にたどり着くとは思えなかった。でも、惜しかったね」

そう言いながら、エルザがトモモに近づく。

そして、少し驚いた表情をする。

「初めはお姉ちゃんかと思ったけど、やっぱりお兄ちゃんみたいだね。でも、とっても美味しそう」

ゆっくりとエルザの牙がトモモの首筋に近づく。

 

しかし、その牙が触れるか触れないかの瞬間、エルザの動きが止まった。

「……お兄ちゃん。起きてる、でしょ?」

「……すぅすぅ」

「………」

「……あれ? 結構うまく寝たふりをしたつもりだったんだけどなぁ~」

ぱちっとトモモが目を開けた。

エルザはそのまま姿勢でゆっくり話しかける。

「どうして、抵抗しないの?」

「別に吸血されるのには慣れてるから。たぶん、何ともないと思うよ」

「慣れてる? まあいいよ。抵抗しないなら、一滴残らず吸い尽くしてあげる」

エルザの牙がトモモの首に突き立てられる。

そして、ゆっくりとその血を啜っていく。

 

エルザはトモモの血を口にして驚く。

ここまで透明感を持つ血は口にしたことがなかった。

まるで、乾いた体に自然と染み渡るような、とても飲みやすい血だ。

味こそほとんどしないが、血としての純度が高く、吸血鬼の為にある様な血ともいえるようなものだ。

「すごい……。こんな血があるなんて……」

一度で飲みきってしまうのがもったいなく思える。

でも、私がここでお兄ちゃんを殺さないと、私が殺されちゃうからなぁ……。

 

そんなことを考えながら血を啜っていると、パリポリと何か音がする。

エルザが横目で見ると、トモモが何かを食べている。

よく見えないが、黒い丸薬のようなものだ。

「……お兄ちゃん。それ、何?」

「これ? 増血剤」

「ぞ、ぞうけつざい?」

「血を増やす丸薬かな。普通のと違ってすぐに効果があるんだよ。水と一緒に飲むのが効果的なんだ」

そう言ってトモモは銀製の水筒のようなものをポケットから取り出し、飲む。

「お、面白いね。でも、そんなものじゃ、干からびちゃうよ?」

「それは、やってみないとわからないよ?」

 

 

そして……二十分くらいがたった。

「ま、まいりました……。もう飲めない……」

口とお腹を押さえてエルザがベッドに倒れこんだ。

「エルザちゃん。大丈夫?」

「も、もう無理」

「相棒……。かなりの量を飲まれてたみたいだけど、どれくらいだ?」

「う~ん、二十五人分くらい?」

デルフリンガーは唖然とするしかなかった。

 

 

それからしばらくして、部屋にタバサとイルククゥが入ってきた。

「あ、お帰りさない」

トモモは何事もなかったかのように、微笑む。

「……その子が、吸血鬼?」

タバサが冷たい瞳でエルザを見下ろす。

血を飲みすぎたエルザは動くことができない。

諦めたように目を閉じる。

 

「それが……、僕の勘違いでした」

「えっ?」

トモモが申し訳なさそうに眉を下げる。

その言葉を聞いてエルザから驚きの少しだが声が漏れた。

 

「たぶん僕がイルククゥに渡した手紙の所に行っても、屍人鬼はいなかったのでは?」

「……いなかった」

「大柄の男の人と、お婆さんが寝てるだけだったのね」

あの時、エルザは屍人鬼を目覚めさせてはいない。

目覚めさせなければただの人間と区別はつかないのだ。

故に、タバサとイルククゥの二人には見分けがつかなかったのだった。

「僕の勘では、二階の誰か……だと思ったんですけど、それも違うみたいでした。念のため、明日、二階の人たちを外の日の当たるところに連れて行ってください」

「……そう」

静かにタバサは頷いた。

 

「それで、ここで何をしていたのね?」

「エルザちゃん……でしたか。吸血鬼が恐ろしくて眠れないようだったので、少し昔話をしていたところですよ」

そう言ってトモモはエルザの頭を軽く撫でた。

「とにかく、明日、もう一度調べてみましょう」

「わかった」

一度頷いて、タバサとイルククゥは部屋から出ていった。

トモモは、ほっと息を吐く。

 

 

「ねえ……。なんで、私をかばったの? 私を助けても何の得もないことくらい、お兄ちゃんなら分かるでしょ?」

エルザが本当に不思議そうに尋ねる。

トモモはちょっと考えるように、目を閉じ顎の下に手を当てる。

そして、軽く手を合わせ、目を開いた。

 

「なんとなく、かな?」

「な……なんとなく!?」

 




~今回の結果~

吸血鬼の居場所を特定する:経験値15
吸血鬼退治の作戦を練る:経験値20
吸血鬼エルザに会う:経験値5
エルザをかばう:経験値10

合計 経験値50

「僕が次のレベルになるまで 95/150 です!」

現在の称号:優秀な使い魔 Lv1

会得称号:不思議な使い魔 LvMAX

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