ルイズに案内され、授業が終わるまでは部屋にいるように言われた一十百。
十二畳ほどの部屋に、アンティークと思われる、タンスやベッド、テーブルが置いてある。
他にもランプなどの小物もあるようだ。
「う~ん、ただ待つというわけにはいきませんよね」
そう言って一十百はポケットから箒を取り出す。
どう見ても普通のポケットなのだが、そのポケットから箒が出てきた。
箒と言っても、羽箒のような小型のものではなく、地面を掃くような大きなものである。
一体どうやって入っていたのかは分からないが、とにかく、その箒が取り出された。
他にも、布巾や埃落とし、バケツと、次々掃除用具が出した。
「よしっ! では、ルイズが帰ってくるまでに、お掃除しておきましょう!」
授業が終わり、ルイズは自分の部屋に戻る。
少しでも使い魔であるトモモの事を知ろうと思っていた。
ただの平民ではない、という事だけしかまだわかっていない。
これでは、主としてどうかと思う。
使い魔とはいえ、トモモの事をもう少しくらい詳しく知っておくべきだと、そう思った。
そんな事を考えながら自分の部屋の扉を開けた。
「………えっ?」
ついさっき見た自分の部屋とは全く違う部屋がそこにはあった。
古い木材を使ったテーブルは、木材とは思えない光沢があり、自分の顔が映る程、磨かれていた。
留め金が黒ずんできていたタンスは、新品同様、それ以上に立派なものになっていた。
留め金は本来の金色を取り戻し、それに合うように赤茶色の木で作られた引き出しは、テーブルと同じように磨かれている。
ベッドにはしわ一つなく、床もしっかり水拭きされており、埃一つ見当たらない。
ランプや他の小物も埃がしっかりと取られており、その本来の明るさを保っている。
もしも、ここに玉座のようなものがあれば、王宮の一室ではないかと勘違いするほどだ。
そして……。
「お帰りなさい、ルイズ」
微笑みながらペコリと一十百がお辞儀をした。
間違いなく、トモモの仕業よね……、コレ。
「ト、トモモ。この部屋って……」
「はい。ルイズが授業を受けている間にお掃除しておきました」
「そ、そう……」
掃除って……こういう事をいう物だったかしら?
違うわよね……。
なんて言えばいいのかと、ルイズは悩む。
別に、掃除をするなという事ではない。
むしろ、これだけの事をしてくれたのだから、お礼をしてもいいくらいだ。
けれど、これを掃除というトモモの神経がちょっと……。
そんな事を考えていると、一十百が少し心配そうな表情になって尋ねてきた。
「あの、何かご不満な点でもありました? 掃き残し、拭き残しの無いように丹念にやったつもりだったんですけど……」
「えっ? えっと、そういう事じゃないわ。むしろ、よくやってくれたわ」
「えへへ。そう言ってくれると、うれしいです」
ニコッと一十百が微笑みを浮かべた。
「それじゃ、一応使い魔としての仕事を説明するわ」
ゆっくりと椅子に腰かけてルイズが話し始める。
ルイズの前には紅茶が入れられている。
一十百が注いだものである。
気が付いたときには注がれていたようなものだった。
始めは驚いたが、この掃除をこの短時間でやってのけたんだからと、納得することにしたようだ。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
ぴんと人差し指を建ててルイズがそう言った。
「それって、僕が見ている物をルイズが見たり、僕が聞いていることをルイズが聞いたりするってことですか?」
「ええ、そうよ。でも、ダメね。何も見えないもん」
軽く紅茶を飲んでふぅとため息を吐いた。
「次に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。たとえば……秘薬とかね」
「秘薬……ですか」
「簡単に言うと魔法に必要な触媒の事よ。植物の根とか、鉱石とか…」
「魔力媒体に使うようなものですか? それなら、できます! でも、僕のいたところと同じようなものがあるかは、わからないですけど……」
ふ~ん、そう言う物の知識はあるのね。
やっぱり、ただの平民じゃないわね。
「そして、一番重要なのは……、使い魔は主人を守る存在である事! 使い魔としての能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも……、トモモじゃ無理よね」
「あ、相手にもよりますけど……」
いや、それは確かに人間相手なら何とかできるかもしれないけど、ドラゴンやグリフォンとかじゃ、話にならないでしょ。
そんな事をルイズは考える。
トモモの姿を見ると、人間相手でも厳しい。
何せ、背丈は自分と変わらない程度。
体格がいい方ではなく、少女のような容姿。
これでは、ただの平民にも負けるだろう。
それで、敵から守れと言っても……。
「まあ、たぶん無理だと思うから、それは別にいいわ」
ふぅ、とため息を吐いた。
「だから、出来そうなことを頼むことにするわ。掃除、洗濯、その他雑用」
「任せてください≧▽≦/」
トモモが元気よく片手をあげる。
……何か、嫌な予感がするわね。
だ、大丈夫かしら?
かなり不安は残るものの、使い魔に何もさせないというわけにもいかない。
何事も起こらないことを祈ってルイズは一度伸びをした。
「さてと、一通り説明したら眠くなったわ」
そう言ってルイズは軽くあくびをした。
「そろそろ、お休みになりますか?」
「そうね……。で、トモモは……、そこらへんで寝て」
ルイズが指差したのは何もない床。
しかし、一十百は不満そうな表情をせずに一度頷く。
「それじゃ、そこのタンスに着替えが入ってるから、取って着替えさせて」
「はいっ」
その瞬間、ルイズの目の前に一瞬何かが通り過ぎたような気がした。
「今……えっ?」
トモモの方を見ると今まで私が来ていた制服が持たれていた。
驚いて自分の服装を見ると、いつの間にか着替えてる……。
「ト、トモモがやったの?」
「はい。お休み前に時間をかけるわけにはいきませんからね」
「そ、そう。じゃ、それは洗っておいて」
「はい!」
パチンとルイズが指を鳴らすと、ランプの明かりが消える。
部屋に夜のとばりが訪れた。
月明かりがとても幻想的だ。
ルイズがベッドに入り、目を閉じる。
その時、トモモがどんなふうに眠るのか気になって、チラリの視線を動かす。
すると……。
「す~、す~……」
壁を背にして、立ったまま、しっかりと寝息を立てていた。
……器用ね。
何だか、使い魔がいるだけで疲れたわね。
そんな事を思いながらルイズも眠ることになった。
そして、月が沈み始め、地平線の向こうに太陽の影が見えてきた。
「……う~ん、はっ!」
壁に寄り掛かりながら眠っていた一十百が起きる。
一瞬、いつもの部屋と違うことに驚く。
そして、すぐに思い出す。
「あっ、そう言えば、使い魔として召喚されたんでした」
一度伸びをすると、一十百は昨日ルイズが着ていた制服を持って外へ出ていった。
朝早い……と言うよりも、まだ夜が明けていないため、外には誰もいない。
一十百の草を踏みしめて歩く音だけが聞こえる。
「洗い物をするところは……、あれかな?」
魔法学院の隅に湧き水が出ている水汲み場がある。
その水をそっと手ですくった。
朝早いのもあるが、湧き水はとても冷たい。
「あう~、冷たい! さて、それじゃ、洗濯を始めましょう!」
一十百のポケットから洗濯板が出てくる。
箒、布巾、埃落とし、バケツに続いて、洗濯板まで入っているポケット。
他の人が見たら、“どうやって入っているのか”と尋ねるよりも、“なんでそんなものを入れてるんだ”と先に尋ねられるだろう。
とにかく、その洗濯板を使って洗濯を始めた。
しかし……、何かが違う。
明らかに洗濯をしているときに出る音ではない音が聞こえてくる。
主に、ヒュン、という風を切るようなそんな音が、断続的に聞こえてくる。
洗濯と言っても、一日分、それもルイズひとり分の洗濯物の量だ。
いままでに洗濯をしてきたところでは、もっと量が多かった。
抱えるほどの洗濯物の籠が半分埋まる程であったり、ログハウスに住んでいる住人全員分であったりした。
つまり、たった一人分の洗濯をするくらい、どうってことないのである。
そして、水汲み場に着いてから十分たたずに洗濯は終わっていた。
ピッと水を切り、洗濯物を洗濯籠に入れる。
「あっ、そう言えば、顔を洗う水もここの物を使うんでした」
ゴソゴソと一十百がポケットの中に手を入れ、何かを探す。
そして、取り出したのは、木で作られた桶。
それに湧き水を汲み、片手に持ち部屋に戻っていった。
朝日の光が部屋に差し込む。
「そろそろ起こしますか……」
一十百はそっとルイズのベッドを叩く。
「ルイズ、起きてください。朝ですよ」
「むにゃ……朝? ……誰?」
「昨日、使い魔として召喚された一十百です」
「あ、そうだったわね……」
どうやら、ルイズは朝に弱いようで、まだ夢の中にいるような表情をしている。
「それじゃ、ルイズ。少し目を閉じていてください」
「?」
何をするのかわからなかったが、眠くてそれどころではない。
そう言う意味でも、ルイズはそのまま目を閉じた。
一十百はルイズが目を閉じたのを確認すると、木の桶からそっと水をすくい、ルイズの顔を洗う。
「んっ!!」
ルイズは一瞬冷たい水に驚くが、心地いい冷たさの水で目が覚める。
そして、ゆっくりとタオルでルイズの顔に残った水滴をふき取った。
「目が覚めました?」
「おかげでしっかりね。それじゃ、服」
そう言った瞬間、一十百の手には今まで自分の着ていた服が持たれていた。
……あれ?
なら、私が今着てるのって……。
ルイズは自分の服を見る。
いつの間にか制服に着替えていた。
「……さすが、トモモ」
驚きと呆れが混在して、その一言しか出てこなかった。
いえいえ、と一十百がニコッと微笑んだ。
「それじゃ、身だしなみを整えるので、少し立ってください」
「わかったわ。 ……って、今どうやって座ったまま着替えさせたのよ?」
「慣れれば簡単ですよ?」
完全に呆れた表情でルイズが立ち上がる。
一十百がポケットから茶色い小箱を取り出す。
中には櫛や脂取り紙や、毛玉取りのようなものが入っている。
その道具を手に持つ。
ヒュン、と風が吹き抜けた。
「はい、これで終わりました」
「えっ?」
鏡に映った自分を見る。
桃色の髪はしっかりと梳かされ、跳ねの一つもない。
制服も、無駄なしわ一つ、毛玉一つなく、煌々と首の下のメダリオンが輝いていた。
最後に一十百が灰色の手拭でルイズの靴を磨く。
「これで、準備ができました」
「授業に行くだけなんだから、ここまでしなくてもいいのに…」
そういうわけにもいきませんよ、と微笑みながら一十百が部屋の扉を開けた。
~今回の結果~
異世界に来てからの初めての掃除に成功:経験値10
使い魔の仕事を理解した:経験値15
異世界に来てからの初めての洗濯に成功:経験値10
ルイズが授業に行くための用意をした:経験値15
合計 経験値50
一十百はLvUP!
「僕が次のレベルになるまで 0/140 です!」
現在の称号:不思議な使い魔 Lv2