ゼロの使い魔 並べられた数字の少年   作:TomomonD

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四召喚目 ゼロの主の実力

がらりと教室の扉が開き、先生と思える人が入ってきた。

紫のローブに身を包み帽子をかぶっている、中年の優しそうな女性だ。

 

 

一通り教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、さまざまな使い魔を見るのが楽しみなのですよ」

そんな風に教室を見回すと、一十百の姿が目に入った。

「おやおや。変わった使い魔を召喚しましたね。ミス・ヴァリエール」

少しとぼけた風にそう言うと、教室内がどっと笑いに包まれた。

「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」

ルイズはムッとした表情で立ち上がる。

「違うわ! きちんと召喚したわ! それに……」

 

そこで、すっと息を吸い込んで、よく響く声で笑っている人に叩きつけるように言った。

「その辺にトモモみたいのが歩いてたら、いろんな意味で大変なことになるじゃない」

「あぅ……、なんか、ひどい……」

 

笑っていた人たちもその一言を聞いて、一十百をまじまじと見た。

見た目は……少女のような容姿だ。

特になんてことはない平民に見える。

「なんだ、ただの平民じゃないか」

「ただの平民が、バグベアーだの、スキュアだの、サラマンダーだのと話ができると思うの?」

その一言で教室ざわつく。

 

今、ルイズが言った種類は、基本的に話せない。

たとえ使い魔として召喚されても話せるようにはならない。

主の言葉を使い魔が理解するのが簡単でも、使い魔の言葉を主が理解するのは難しい。

故に、意志疎通は一方通行になってしまいやすい。

それと話せるというだけで十分すぎるほどの能力だ。

 

しかし……、それを信じてもらえるかは別である。

「何を言ってるんだ、ゼロのルイズ。言葉を話さないバグベアーとどうやって話すんだよ?」

「嘘じゃないわ! さっき話してたもの!」

「それは話してるじゃなくて、急に連れてこられて精神的に辛かったから、現実逃避しているだけだろう」

誰かがそんなことを言う。

それを聞いて、教室の誰もが頷く。

 

その時、教室にパンパンと手を打つ音が響いた。

「はい、みなさん、授業を始めますよ」

シュヴルーズの声が教室に響いた。

 

 

コホンと一度、重々しい咳をすると、杖を振った。

すると教卓の上に小さな石が三つほどあらわれる。

「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」

そう言われて、教卓の近い位置に座っていた金髪のぽっちゃり体型の青年が立ち上がった。

「はい。ミセス・シェヴルーズ。『火』、『水』、『風』、『土』の四系統です」

シュヴルーズは頷く。

「失われた系統である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです」

 

シュヴルーズの講義を一十百は集中して聞いていた。

元の主がいた世界にも魔法という物は存在していた。

また、他の世界に行ってしまった時にも、魔法使いに出会った。

なので、一十百は魔法についてはかなり詳しい部類に入る。

本人に魔力がないため、魔法を使うことはできないが、知識だけなら他の生徒に並ぶ程だ。

 

ここでは、エレメントの基礎の四系統が主な魔法みたいですね……。

ルイズはどの系統が得意なんでしょうか……。

一十百は講義を聞いているルイズを見る。

魔法を使っているところは実際見ていないが、自分を召喚したのだから魔法使いであることは確かだ。

そうなると、呼び出した使い魔である自分がどの系統に近いかで、主人であるルイズの系統も分かる。

 

たとえば、サラマンダーを呼び出したキュルケなら、間違いなく『火』の系統を得意とするのだろう。

そこまで考えて、一十百は自分の事を考えた。

僕って……、どの系統っぽいんだろう?

青い光が灯ってる、って前に言われたことがあるけど……、『光』なんて系統はないし……。

 

う~ん、と一十百が悩んでいると、講義を進めていたシュヴルーズが杖を振り上げて、教卓の石に向かって振り下ろすのが見えた。

すると、何の変哲もなかった石がキラリと光る金属に変わったように見えた。

その光景を見て、一十百は少し驚く。

あれって……、物質の構造を変える、錬金術かなぁ。

便利な魔法だけど、確か素になるものが結果の素材に近くないと、それほど上手くいかないはずじゃ……。

 

そんな事を考えていると、キュルケが身を乗り出してシェヴルーズに尋ねた。

「ゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」

「違います、ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」

シュヴルーズはそこまで言うと、勿体つけるようにコホンと一度咳をした。

「『トライアングル』ですから……」

 

『スクウェア』に『トライアングル』と聞いたことのない単語が出てきた。

一十百は、その単語を聞いて考える。

『スクウェア』は正方形、『トライアングル』は三角形だから……、魔法の基礎を足せる数の事なのかな?

つまり、あの先生は三つまで魔法の基礎を足せる……ってことでいいのかなぁ。

確か、錬金術は、土の精霊であるノームの加護によって生み出された、富と繁栄を象徴する魔法。

えと、だから、『土』系統を三つ足して、今の錬金を使ったのかなぁ。

あれ、でも、確か構造変化には熱のエネルギーが必要だから、『火』の系統も使った方がより強力になるはず。

という事は、『土』系統二つと、『火』系統一つで、今の石を真鍮に変えた……はず。

 

何もわからないところから、ここまで推測で思いつく一十百。

この考えを他の貴族が聞いていたら、間違いなくただの平民である、という考えから外れるはずだ。

推測はいえ、一通り理解できた一十百は一度頷いた。

 

その時になって、ふと疑問が一つよぎる。

ルイズって……、いくつ系統が足せるのかなぁ?

一つ……、ううん、たぶん二つくらい足せるのかな?

まるでその疑問を聞き取ったかのように、シュヴルーズがルイズの名前を呼んだ。

「ミス・ヴァリエール。前に出て錬金をやってみてください」

「えっ、わ、私ですか?」

「そうです。この石を望む金属に変えてみてください」

 

指名されたのだが、ルイズは立ち上がらない。

少しうつむき、困ったようにもじもじするだけだ。

「ルイズ、呼ばれていますよ」

「わかってるわよ。わかってる……」

なにか、前に出ることを躊躇っているようだ。

注目されるのが苦手なのだろうか。

 

そんな事をしていると、キュルケが困ったような声で言った。

「先生。その……、やめておいた方がいいと思います」

「どうしてですか?」

「危険です」

キュルケはきっぱりとそう言った。

それに同意するように、教室の中にいる生徒がほぼ同時に頷いた。

 

「危険? 錬金はそれほど危険な魔法ではないですよ?」

「その、ルイズを教えるのは初めてですよね」

「そうですけれど、彼女が努力家である事は聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール」

「ルイズ、やめて」

キュルケの顔色がさぁっと青くなる。

そこまで危険なのだろうか?

とはいえ、ここまで言われて、やめます、と言える貴族は少ない。

その例にもれず、ルイズもキッとした表情で立ち上がった。

「やります」

そう言って、教卓の前に立った。

 

 

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

一度頷くとピッと手に持った杖を振り上げた。

かなり集中しているのが教室の後ろの一十百にもわかった。

心の中でルイズを強く応援する。

その時になって、教卓に近い生徒たちが椅子の下に隠れているのに気が付く。

なんで、椅子の下に?

あれじゃ、まるで、ルイズの位置からくる爆風とか衝撃を避けるために見える。

そういえば、僕が召喚された時も、爆煙が舞ってたような……。

そこまで考え付いた瞬間とほぼ同時にルイズは杖を振り下ろした。

そして、直後に机もろとも、石が大爆発を起こした。

 

その爆発に驚いた使い魔が暴れ出す。

キュルケのサラマンダーがいきなり起こされたことに腹を立て、天井に向けて炎を吐く。

驚いたマンティコアがガラスを突き破り外に逃げ出した。

スキュアが爆風から身を守るために机をひっくり返しつつ、両足を上げる。

犬や猫、カラスなどが暴れまわり、それを見た大蛇がカラスをぱくりと飲み込んだ。

一十百は教室の一番後ろにいたため、爆発の衝撃が来る前に伏せることができた。

そのため、無傷である。

 

「だからルイズにやらせるなって言ったのに!」

「もう、魔法使わせるなよ」

「俺のラッキーが蛇に食われた! ラッキーが!」

「机が上から降ってきたぞ! 重い、どかしてくれ!」

阿鼻叫喚の大騒ぎになっている。

 

爆煙の中心でルイズがゆっくりと起き上がる。

煤で顔が真っ黒になり、ブラウスはところどころ破れ、スカートが裂けてしまっている。

「ちょっと……、失敗したわね」

「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」

「成功確率なんてほとんどゼロじゃないか!」

 

一十百はグッと足元に力を入れる。

そして、強く床を蹴る。

教室の後ろから一瞬でルイズの元にたどり着いた。

そして、ほぼ入れ違うと同時に、一十百の手が素早く動く。

爆煙が晴れると、そこには朝と同じ姿をしたルイズがそこにいた。

 

破れていたブラウスはしわ一つなく、裂けていたスカートも元に戻っている。

煤だらけになったはず顔も汚れ一つない。

爆風でぐしゃぐしゃになったはずの髪もしっかりと梳かされていた。

爆煙で周りからはルイズの様子がほとんど見えなかったため、爆発の中、無傷だったように見えた。

しかし、その状態に驚くよりも、荒れ放題の教室の事で手一杯となってしまっているため、あまり驚かれなかったようだ。

 

 

その後、ルイズの横にいたシュヴルーズは気を失っていたが、二時間後に目が覚め、すぐに授業に復帰した。

しかし、その日は『錬金』の講義は行われなかった。

どうやら、トラウマになったようだ。

ルイズは罰として教室の片付けを命じられた……が。

 

「はい。これで終わりです」

あれだけの悲惨な状況になったはずの教室が、三十分足らずで完全に元に戻っていた。

崩れた机、へこんだ床、粉々になったガラス、穴の開いた壁……、その他もろもろ。

それが、三十分で元に戻っている。

確かに名のあるメイジが数人がかりでなら、終わるかもしれない時間だ。

 

しかし、それをやってのけたのは、たった一人の平民、一十百だった。

どうやって、教室を元に戻したのかは、ほとんどの生徒が理解できなかった。

それは一旦、別の教室を使って講義を行うことになっていたからである。

その間に、ルイズと使い魔である一十百が元の教室を掃除するという事になった。

 

一十百はルイズに一人で掃除をするので安心してほしいと言い、講義に出るように勧めた。

さすがにルイズもそれでは悪いと思ったのか、一緒にやると言ったのだが……。

「安心して講義に出てください。掃除はできても、講義はできませんから」

微笑みながら、そう言われてしまったので、ルイズは講義に出ることにした。

そして、三十分くらいして、一十百が講義をしている部屋に戻ってきたのだった。

誰もが、諦めたと思った。

しかし、一十百の一言でそれはあっさりと覆されたのであった。

「掃除、おわりました!」

 

この時より、ルイズの使い魔である一十百は、貴族であるメイジからも、主であるルイズからも、一目置かれる存在となったのだった。

 




~今回の結果~

この世界の魔法の基礎について理解した:経験値20
ルイズが暴発させた教室を元に戻した:経験値70

合計 経験値90

「僕が次のレベルになるまで 115/140 です!」

現在の称号:不思議な使い魔 Lv2
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