ルイズとトモモは羽扉を開き、店の中に入っていく。
店の中は薄暗く、ランプの明かりが揺らめいている。
壁には剣や槍、甲冑などが並べられている。
店の奥に店主と思われる五十前後のおやじが、入ってきた二人を胡散臭そうに見つめた。
そして、ルイズの紐タイ留めの五芒星に気が付く。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
ルイズが店主と何か話している間、トモモは周りの剣や槍を横目で見ていく。
……質が、あんまりよくない。
トモモが一番初めに抱いた感想はそれだった。
武器に特別詳しいわけではないのだが、今まで色々な金属を見てきた。
主の屋敷にある自分の部屋に置いてある刀や剣と比べると、どうしても見劣りしてしまう。
店に置いてある剣は、微妙に剣先が刃こぼれしていたり、厚さが一定でなかったりとあまりいい印象がない。
また、鉄と何かの金属を混ぜたような合金を使っているようだが、その混ぜ方が均一に混ぜっていないのか、ムラができてしまっているようだ。
そんなことを考えていると、ルイズと店主の話が終わったようで、店主が店の奥から一本の細剣を持ってきた。
ハンドガードのついた、細身のレイピアだ。
細やかな飾りと、煌びやかな装飾が目を引く。
「昨今は宮廷の貴族の方々の中で、下僕に剣を持たせるのが流行っていましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
「なかなかいいわね」
ルイズはレイピアを手に取る。
トモモの背丈から考えると、このくらいが丁度いいのかもしれないわね。
ちょっと、私が思っていたのとは違うけど……。
「ねえ、トモモ。これにしない?」
「……えと、もう少し大きめの物にしませんか? ちょっと、華奢な感じがします」
そう言われて、ルイズは思い出す。
トモモの力の強さは、こんな剣で活かされるものじゃないわね。
それに、主である私を守るときにこんな細い剣じゃ物足りないものね。
ルイズはコホンと一度咳払いをして、レイピアを店主に渡す。
「もっと大きめのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってものがございます。若奥さまの使い魔とやらにはこの程度が無難かと」
「もっと大きめのがいいと言ったのよ」
「へえ」
店主は一度頭を下げると店の奥に戻っていく。
その時にしっかりと“この素人が!”と呟いている。
ルイズには聞こえてないようだが、トモモの耳にはしっかりと聞こえていた。
う~ん、僕ってやっぱり小さく見られてるよね……。
もっと重くて大きめの剣でも楽に扱えるのに、グスン。
少しして、店主が持ってきたのは一メイル半はあろうかという大剣だった。
どうやら両手持ちのようで柄が横に幅広く、なかなか立派な拵えだ。
所々に宝石がちりばめられ、鏡のように光る刀身がそれなりの業物であることを示しているようだった。
「店一番の業物でさあ」
「そうそう、これくらいじゃないとね」
ルイズは満足そうに頷く。
「それで、おいくら?」
「何せこれを鍛えたのは、かの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿。魔法がかかっているから鉄でも一刀両断でさあ。おやすかあ、ありませんぜ」
「私は貴族よ」
それなりの高値が付くことは予想していたルイズは胸を張ってそう言った。
店主は淡々と値段を告げる。
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」
ルイズの表情が固まった。
「ルイズ、それってどれくらいの価値になります?」
「立派な家と、森つきの庭が買えるくらいよ」
「た、高い……」
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだらやすいもんでさあ」
トモモは、少し考える。
確かに店主の言っていることは間違いではない。
それほど名剣という物は価値がある。
ただ……、あの剣にそれほどの価値があるのかなぁ。
「ちょっと、手に取ってみてもいいですか?」
「じっくりとみておくんな」
トモモはじっと剣を見る。
水平に持ち刃の部分を見たり、そっと指ではじいてみたり、腕を伸ばして構えてみたり……。
そして、ゆっくりと店主にその剣を返した。
「ルイズ、あの剣は……ちょっとやめておきましょう」
「どうして? そりゃ、確かに高くて手が出ないけど……」
「その、値段に釣り合ったほど、というわけではなさそうなので……」
その発言を聞いて店主は少しムッとした表情になる。
何もわからないような小娘に、店一番の業物をあっさりと突き返されたのだ。
「言っちゃ悪いが、この剣に匹敵する剣はそうはないですぜ。何が気に入らなかったんで?」
トモモは店主の方に向き直る。
そして、ふぅと一度ため息をついてから、ゆっくりと話し始める。
「まず一つですけど、剣にそれほど装飾品はいりませんよ。切ってこそ、薙ぎ払ってこその大剣です。その宝石のせいで価値が上がってしまっているなら、それは剣としてではなく、飾り物としての価値です。僕が必要としているのは、あくまでも剣であって、装飾品ではないですから」
ルイズはその一言に感心した。
確かに、必要なのは実用性よね。
私が使うわけじゃないんだし、それほど装飾品はなくてもよかったわね。
「次に、使われている合金なんですけど……。たぶん、鉄と鋼の合金に、粗金を張り付けたようなものです。魔法で切れ味を上げたとしても、防いだ時にすぐに折れてしまいます。大剣は両手で扱うんですから、攻守両面で使えないと意味がないんです」
「むぅ……」
店主は目の前の少女が剣に対する素人ではないことに気が付く。
自分の目論見が崩れていくのが分かる。
「そして最後、これがとても重要なんですけど……。剣の骨ともいえる芯の部分が歪んでいるんです。この芯が歪んでいたり、途切れてしまっていたり、太さが均一でなかったりすると、剣としての質は大きく落ちてしまいます。たぶんですけど、この剣だと正面からの強い打撃で折れてしまいます」
トモモはふぅと一度息を吸い込み、そして真っ直ぐな目で店主を見た。
「もし、僕がその剣を買い取るとするならば……、そうですね……。宝石の価値を入れても、エキュー金貨で四百、新金貨で六百、といったところです」
「なあっ、それはいくらなんでも、安すぎってもんだ」
「ええ、ですから、やめておくと言ったんです」
「うぐ……」
ルイズはただ唖然とトモモの話を聞いていた。
私には全然わからないけど、トモモがあれ程自信を持って言うんだから、間違いないわね。
危うく、なまくらを掴まされるところだったわね。
ルイズはうんうんと頷いた。
その時、店の飾り棚の所から声が響いた。
「ただの素人の小娘かと思ったが、なかなか見どころがありそうじゃねえか」
「ふぇっ! だ、だれ?」
驚いてトモモが周りを見回す。
店主が面倒臭そうに頭を抱えた。
「こっちだ」
トモモが声のする方に歩いていくと、乱雑に積み上げられた剣の中の一つが声を発している。
「剣がしゃべってる!」
「それって……インテリジェンスソード?」
ルイズは困惑したような声を上げた。
物自体に意志を持たせた存在。
インテリジェンスアイテムと呼ばれるもの。
数も少ないため、あまりお目にかかることは少ない代物である。
「そいつはデルフリンガーとか言うたいそうな名前を持っているんですけど、口は悪いわ、お客様にケンカを売るわでこちらも困り果ててまして」
トモモはその言葉を聞きながら目の前のデルフリンガーというインテリジェンスソードを見る。
これって……。
そして、何かを決心したように一度軽く頷くと、店主の方に向きなおった。
「さすがに何も買わずに帰るのは少し気が引けていたところでしたので……。厄介ばらいを兼ねて、新金貨九十でこれを売ってくれませんか?」
「えっ、そんなの買うの? もっと別のにしない?」
「いえいえ、これでいいんです。錆びてますし、あまり人気もなさそうなので、店としても引き取ってくれた方がいいのでは?」
コテンとトモモが首を軽く倒す。
「ああ、それなら九十で結構でさあ。厄介払いも兼ねてますし」
「ありがとうございます。ルイズ、その、お願いします」
ルイズは怪訝そうな表情をしたが、仕方ないように新金貨九十でその剣を買い取った。
トモモはルイズの手を引いて足早に城下町の入り口まで戻ってきた。
「ト、トモモ。どうしたのよ、そんなに急いで」
「あっ、いえ。急いでいた訳ではないんですけど、なるべくあの武器屋からは離れたくて」
「そんなに気に入らなかったの、あの店?」
「いえいえ。そういうわけじゃないんですよ。ただ……」
「ただ?」
ルイズは疑問に思って聞き返す。
「この、デルフリンガーを新金貨九十で買えたので、店主の気が変わる前になるべく離れたかったんです」
「そのボロ剣を新金貨九十で買えた?」
「おい、ボロ剣はひでえな。貴族の娘っこ」
「ボロ剣はボロ剣でしょ」
まあまあ、とトモモが二人を止める。
「このデルフリンガーは、新金貨九十じゃ到底買うことができないほどの名剣ですよ」
「えっ! この、ボ・ロ・剣が?」
「だから、ボロ剣じゃねえよ!」
「えと、ですね。まず、使われている金属なんですけど、芯の部分はたぶん、ダマスカス鋼かそれに酷似したほど強靭で固い金属が使われていると思います。刀身は……オリハルコーンと精霊銀の合金です」
「ダマスカス? オリハルコーン? 精霊銀? なにそれ…」
「あれっ、ここでは有名じゃないんでしょうか? えと、ダマスカス鋼は重く、固く、錆びない金属で、鉄なんかとじゃ比べ物にならないほど強靭な金属です。オリハルコーンは魔法を跳ね返す金属です。精霊銀は繋ぎの金属としても、そのままの金属としても使える希少金属の一つです。ミスリル銀を精霊銀という事もありますけど、それとは全く別物の、希少金属ですね」
「そ、そんな金属があるの!? 聞いたこともないわよ」
「でも、こうして、目の前にありますから」
「それで……、どれくらいするの?」
トモモはデルフリンガーを構え、目を閉じた。
そして、重さをはかるように、少し振ってみる。
「そうですね……。もし、デルフリンガーを全部金属として扱うなら……、新金貨九千…いえ一万から一万五千といったところでしょうか」
「高っ!!」
恐ろしいほどの金額飛び出したルイズは思わず叫ぶ。
それを、たった新金貨九十で買ったの……?
す、すごすぎるじゃない!
「今のは金属としての価値です。これを剣として鍛えたなら……その数倍くらいはしますよ。しっかりとした芯、均一に混ざった合金、釣り合いのとれた刀身。間違いなく、名剣です」
「ほぅ、いってくれるねぇ」
デルフリンガーが嬉しそうにカシャカシャと柄を鳴らす。
「でも、錆びてるわよ?」
「この錆なんですけど……、まるで剣の刀身の上に浮いてるように錆が付いてるんです。これくらいなら、簡単に落とせます」
トモモは右手でデルフリンガーを握る。
そして、大きく薙ぎ払った。
ぶわっと強い風が舞った。
~今回の結果~
店の品定めに成功:経験値25
名剣デルフリンガーを手に入れた:経験値60
合計 経験値85
「僕が次のレベルになるまで 85/170 です!」
現在の称号:不思議な使い魔 Lv4