どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード   作:黒崎ハルナ

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ここが〈世界〉を守る最前線

 血のように赤く染まった空が俺の眼前に広がっていた。

 それは自らの持つ〈世界〉が正常に発動したことを意味する。顕現した〈世界〉が赤い空とはなんと皮肉な話だろう、と少し自虐。

 三十年前に起きた〈アンノウン〉の襲来を思い出させるような赤い空に、俺は毎度のことだが吐き気を覚える。とはいえそれは、〈アンノウン〉に対してではない。

 

 ──〈アンノウン〉(おまえたち)がいた所為で、俺たちは普通の日常を失ったんだ。

 

 なんて、もっともらしい理由は俺にはなかった。

 憎悪ではない。憎しみによって動く感情は、とうの昔に削ぎ落とした。あるのは、ちょっとした八つ当たり。これだけの〈世界〉を持っているのに、何もできない無力な自分に対する八つ当たりだ。

 

「うわ、デカいな……」

 

 視界を埋める赤の中にいる自己主張の激しい物体。目と鼻の先と言っていいくらいに間近にある光の柱を見て、俺はそう呟いた。

 その呟きに反応する者は、()()()()()()()()()

 赤い〈世界〉では、俺以外の全てが停止していた。それと同時に赤い空以外の色も全て失っている。

 これが俺の、日下神楽の持つ〈世界〉。

 全ての時を止める〈世界〉の力だ。

 ただしこの〈世界〉、他人が思っている以上に使い勝手が悪い。

 一回で止められる時間は最大で五秒程度。おまけに一度〈世界〉を使ったら、最低でも一時間近くのインターバルを要求するので、連続の使用も不可能。さらにさらにで、時を止めれるだけ、つまりは明日葉や舞姫たちと違って碌に攻撃手段を持たない俺の〈世界〉は〈アンノウン〉を倒すことができないときてる。正に宝の持ち腐れな〈世界〉なのだ。

 とはいえ、そこは腐っても時を止める〈世界〉。

 赤い空の下で迫り来る光の柱も、隣を走る霞も、波も、風も、自分以外の全ての動きが止まっていた。

 

「やれやれだよ……」

 

 言って、俺は霞を抱えて再び走り出す。残っていた僅かな命気(オーラ)を振り絞り、全速力でこの場からの離脱を図る。時間にしてほんの三秒ほど。しかし、強化された肉体によって、走った距離は百メートル前後。ありったけの、文字通り最後の一滴まで絞り出した命気(オーラ)のおかげでなんとか光の柱から完全に離れることに成功する。

 それと同時に、赤い空に亀裂が走った。ビキビキとステンドガラスがひび割れるような音が空間内に鳴り響く。

 その直後、ガラスを叩き割ったような音がした。

 途端、全ての色が戻る。そして、止まっていた全ての動きが再開した。

 そして──、

 

「うわぁ……」

 

 耳をつんざくよいな爆音。

 振り向いた先、ついさっきまでいた場所は、舞姫の馬鹿力をモロに受けて悲惨なことになっていた。

 紫色の光の柱が舗装されたコンクリートの橋を、まるで豆腐でも切るかのように一刀両断。圧倒的な質量に物を言わせた一撃だった。

 瓦礫と化して海中へと崩れ落ちていくアクアライン。

 その惨状を近くで見ていた俺の背中が冷たい汗で濡れる。

 

 ──あれが直撃していたら、間違いなく死んでいた。

 

 おそらくは死体も残らないんじゃなかろうか。あれだけいた〈アンノウン〉の群れを正しく一撃で一掃した舞姫の実力は相変わらず頭がおかしい。光の柱に飲み込まれた〈アンノウン〉は、残骸すら残っていなかった。

 これだけ豪快なフレンドリーファイアもそうはないだろう。

 人類最強に殺人前科が付かなかったことに安堵し、

 

「だからアホに刃物を持たせたらいけないんだ」

「同感……」

 

 もくもくと立ち上る粉塵を見ながら、俺と霞は深い溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 平穏を取り戻した東京湾内は、夕暮れ時特有の茜色に染まっていた。

 遠くから聞こえてくるウミネコの鳴き声をBGMに、夕日の光と潮の香りを全身で感じることができる。穏やかな、戦いの後の静けさというやつだ。

 しかし現在のアクアライン上は、それらを満喫できる空気ではなかった。

 

「貴重なインフラであるアクアラインを壊せ──俺出してないよな、そんな命令。……なんでだかわかるか?」

 

 眉をひくひく、肩をふるふると震わせる求得の前には、本日の戦闘で起きた重大なミスを追求される、各校首脳の六人に俺を加えた合計七名の問題児集団の姿があった。

 命気(オーラ)切れからくる疲労から、なんだか校則を破ったのを見つかって先生に叱られている生徒みたいだな、とか場違いなことを考えながら現実逃避を試みる。視線を戻せば、変わらず噴火数秒前な求得。駄目だった。

 壱弥は何故か偉そうな態度で腕を組み、その隣でカナリアがあわあわと周りを見ている。

 本日一番の問題児にしてMVPの舞姫はうつむいてぷるぷると震え、反対にほたるは凛とした無表情で前を向いている。

 俺と一緒に全力疾走で走って疲労した霞は面倒そうに、明日葉に至っては平然と求得の前で携帯端末を弄っている。

 横並び一列に座らされている俺たちだが、その大半は反省や責任なんてものを感じちゃいない。と言うか、俺に関しては被害者なんですけど。

 そんな俺たちの態度が求得の神経をいい感じに逆撫でしたらしく、夕暮れのアクアラインに求得の叱声が飛んだ。

 

「壊されちゃ困るもんだからだよ! どうしてこうなった⁉︎」

 

 むしろ俺が聞きたいです。

 求得の叱声の後、即座に俺、霞、壱弥の男性陣三名の視線が一斉に原因の人物へと向く。全員が内心で、おまえのせいだよ、とツッコむ。

 

「……あのー、ぐとくさん」

 

 すると、視線に耐えきれなかったのか、戦犯の舞姫が瞳をうるうるとさせながら、おずおずと手を挙げて名乗り出ようとする。

 が、それを邪魔するようにほたるが舞姫を優しく自分の懐に招き入れ、彼女の瞳を左手で塞いだ。視界を奪われた舞姫がほたるの腕の中で「おおっ? 急に世界が闇に!」などと驚いている隙に、ほたるはしれっと壱弥を空いている右手で指差し、

 

「あいつがやりました」

「はあ?」

 

 まさかの濡れ衣に眉をひそめ、勢いよく立ち上がる壱弥。

 俺や霞ではなく、このメンバーの中で舞姫の次くらいに火力が出せる〈世界〉を持っている壱弥を指名するあたり、ほたるも抜け目ない。

 

「あー、そう、それそれ。素直に撃たれなかったいっちゃんさんが悪い」

 

 便乗して霞も壱弥を指さす。撃たれなかったって、凄い理由だな。

 言われも覚えも無い発言のオンパレードに、決して長くない壱弥の我慢が爆発した。

 

「なるほど……貴様らまとめて海に沈みたいようだな」

「あ? 二対一なんですけど、っていうか神楽もいるから実質三対一なんですけど。なに、クズ雑魚さん、算数苦手なの?」

 

 味方がいるからか、ここぞとばかりに強気な霞。

 しかし、

 

「私はヒメを慰めるのに忙しいので二人でやれ」

「久しぶりに〈世界〉使って疲れたからパスで。霞、がんばれー」

 

「えっ……」とあっさり味方から裏切られ、霞は言葉を失う。

 

「──仲間同士で争うのはよくないなって僕思います」

 

 あっさり手のひらを返すあたり、流石霞と言わざるおえない。千葉の生徒たちから、フライパンと手のひら返させたら右に出る者はいないとまで言われた男だ。いっそ清々しいレベルで手のひらクルックルだった。

 

「つーか、あたし関係ないなら帰っていい? シャワー浴びたいんすけど」

 

 俺も汗掻いたから気持ちはわかるが、明日葉はもう少し周りの空気を読んでくれ。

 壱弥、霞、ほたる、明日葉の反省のしなさっぷりに、ひくひくと動いていた求得の眉やこめかみの動きが早くなった。噴火を堪えている火山みたいだ。

 それを見たカナリアが、慌てて場をとりなおそうとする。

 

「あ、あの……み、みんな仲良く……みんなでやったことなので、えーと……」

 

 だが、悲しきかな。カナリアはこういった争いの場を納めるのには、絶望的に向いていなかった。ついでに言うと、やったのは闇に視界を奪われた舞姫(アホ娘)だと声を大にして言いたい。

 そして、

 

「困ったときは、笑顔! です!」

 

 言うに事欠いて、カナリアがかましたのは渾身のスマイルダブルピース。

 ザ・練習しました感のありまくりな、あざとい笑顔に空気が固まる。恐るべし残念美人。

 ぶちっとなにかが切れる音を立てて、とうとう求得の堪忍袋の緒が切れた。

 

「バッカモーン! 連帯責任だ! おまえら、明日からしはらく休みがあると思うなよ!」

 

 ──あの、だから俺は被害者なんですけど。

 

 ささやかな俺の抗議の声は、海の上でみゃあみゃあと鳴くウミネコの鳴き声と一緒に海に溶けて消えたのだった。




ようやく、ようやくアニメ一話分が終了。
一話で十話ってことは最終回には余裕で百話超えるね!(白目
できることなら最終回までお付き合いできたら幸いです。
ちょっと二話はオリキャラ絡ませ辛いから構成考える都合で何時もより遅れるかもしれないです。すみません。
最後に、UA、評価、お気に入り登録、感想といつもありがとうございます。今後とも「どうでもいい世界を守るために」をよろしくお願いします。

本編裏話 壱弥と神楽
壱弥「時を止める〈世界〉か」
神楽「まぁ、攻撃手段ないから宝の持ち腐れなんだけどね」
壱弥「時を止める、いや、さしずめ【時を喰うもの】――タイムタイラントと言ったところか」
神楽「ヤメロ壱弥」無言の手刀。

このやり取りを本気で本編に組みこもうとしたのはナイショ。
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