どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード   作:黒崎ハルナ

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組み分けは平等に

 横暴と言えば横暴、自業自得と言えば自業自得な理由でアクアラインの警護を命じられた俺たちは、とりあえず海ほたる駅へと向かうことにした。

 人工島『海ほたる』は旧時代、それもまだアクアラインに鉄道が併設されるよりも遥か昔から同ハイウェイの中継点として運用されている歴史ある人工島だ。とくになんの詳細も説明もされず、漠然とした理由でアクアラインに向かった俺たちが、漠然とこの場所へ赴いたのはある意味自然な流れだろう。

 

「面倒な……今日の予定が全てパァだ」

 

 駅のホームに降り立つと、壱弥は面倒そうに呟いた。後ろに控えるカナリアが「まあまあ」と壱弥を宥める。

 

「あんなの、わざわざアクアラインを攻撃したやつのせいだろうが」

 

 壱弥の背後から、珍しく霞が同調するような声を発した。

 人間は共通の敵を見つけると、たとえお互いが嫌い合っていても共闘ができるらしい。

 

「珍しく意見が合うな。一体全体どこのアホ娘がぶっ壊したんだろうな」

「人類を守るとかいつも言ってるアホ娘だろ。貴重なライフラインを破壊してたら世話ないな……」

 

 壱弥の視線は霞を無視して神奈川首席(アホ娘)を射る。霞の視線はあさってな方向へと向いているが、その嫌味混じりな言葉が壱弥と同じ人物へ放たれていることは明らかだった。

 

「しゅん……」

 

 紛れもない、弁護のしようがない正論に舞姫は涙目で肩をすぼめる。肩にかかった軍服が舞姫の気持ちを代弁するかのように、小さく下がった。

 

「まぁ、あれだ。あんま気にすんなよ」

 

 それの様子があまりにも可哀想になった俺が、ぶっきらぼうにそう励ましの言葉を贈ると、途端に舞姫は元気を取り戻した。だが、励ましたのが自分のうっかりで大変な目にあった俺だとわかると、罪悪感からか舞姫は再びしゅんと落ち込んだ。

 

「なんだ? 三百位はアホ娘を弁護するのか」

「殺されかけたのによく許せるな……」

 

 露骨に不満そうな表情を浮かべた霞と壱弥に変な誤解をされたくない俺は、慌てて補足する。

 

「別にいいじゃねぇか。結果的には無事だったわけだし」

 

 ふーん、とますます怪訝な顔になる二人。そんな中で、さりげなくほたるが舞姫の肩を優しくぽんと抱く。

 

「ヒメは、正しいことをしたんだ」

 

 その言葉に舞姫がすがるように顔を上げれば、凛堂(りんどう)ほたるはとても優しい表情を浮かべ、聖母の様な優しい声でわりと酷いことを続けた。

 

「あれ以上戦闘が続いていたら、虫ケラの同士討ちがあったかもしれない」

「ほたるちゃん……」

 

 ほたるの言葉に舞姫は感動する。しかし、その言葉はわりと容赦なかった。

 

「誰が虫ケラだ!」

 

 案の定、虫ケラ呼ばわりされた壱弥は激昂し声を荒らげる。

 

「おまえだよ……」

「なんだと!」

 

 霞が呟くと、壱弥の苛立ちはさらに増加した。そんな壱弥に霞はやれやれ、と肩をすくめる態度で挑発する。

 

「貴様ら全員だバカ者」

「なん……だと……」

「ってか俺もかよ……」

 

 ほたるがぴしりと言い放って、霞はショックで固まった。

 舞姫をフォローしたはずの俺まで虫ケラ扱いされてたことに、ちょっとだけ俺もショックで固まった。

 

「お兄ぃ……なんでマジにショック受けてんの……」

 

 明日葉はそんな兄に呆れるような声を出す。ついでに「どんまい」と肩を軽くポンポンと叩かれる俺。少し泣きたくなった。

 

「だめだよ、ほたるちゃん! そんなこと言っちゃ! 悪者探しは何も生まないよ!」

 

 いがみ合う仲間たちを見ていられなくなったのか、舞姫は何か力説し出した。だけど、悪者のおまえにだけは言われたくない。

 

「おまえが言うな!」

「天河には言われたくないんだよなぁ……」

「うぐっ!」

 

 もっともだった。

 助けを求めるようにして舞姫がこちらを見てきたので、首を横に振って助けを断ると、また泣きそうな顔になっていた。

 

「ヒメに責任を押しつけるな虫ケラども!」

 

 どさくさに紛れて舞姫を抱きしめていたほたるが、俺たちの反論など聞く耳を持たないと言わんばかりの超都合の良い主張をしてくる。だんだん面倒くさくなってきた。

 

「アホ娘に責任がないような言い方をするな! ア保護者が!」

 

 すごくもっともだった。ついでにちょっと上手いとも思った。

 

「一緒にしないでくれる? 割と本気で傷つく」

「なんだと!」

 

 さっきまでの共闘はどこにいったのやら。何時も通りな言い争いを始める二人。到着早々に帰宅したくなった。

 

「もう! もう! ケンカ禁止!」

 

 いよいよ収集がつかなくなってきたころ、ここまでひたすらあわあわしていたカナリアが腕をぶんぶん振り回して仲裁に入ってきた。

 そして、この場にいた全員の視線を独占したカナリアはくるっと一回転し、

 

「みんな笑顔! 困ったときは──笑顔、だよ!」

 

 時が止まった。

 一瞬、俺が〈世界〉を使ったのかと勘違いするくらいに周りの空気が止まった。

 しかもカナリア本人は、わりと決まったと言わんばかりに得意げだ。きゅぴんとあざとい笑顔に、旧時代のアイドルばりにわざとらしいポーズ。さらには彼女の代名詞たるダブルピース。

 コメントに困ったみんながじっとカナリアを見ていた。

 そのとき、沈黙を破るように駅のホームに電車が着いた音が鳴り響いた。

 

『海ほたるー、海ほたるー。作業工科生徒は班ごとに分かれて担当区域へと移動してください。休憩所は三階オープンテラス並びに四階モールです。着替えのロッカー室は──』

 

 渾身の、気合いの入ったラブ・アンド・ピースな笑顔だよポーズ。絶好なタイミングで修復工事に来た工科の生徒たちがぞろぞろと降りてくる。ものすごく他人のフリをしたくなった。

 

「おー」

 

 舞姫一人がパチパチと拍手喝采する中、各都市の工科生が列を為して無言で通り過ぎてゆく。誰一人として例外なく、肩を震わせ口元を押さえていた。俺は笑うこともできずに軽く唇を引きつらせる。

 いっそ陽気に笑い飛ばしてあげるべきなのだろうか。

 一部押さえきれずにくすくす笑う生徒を見て、そう思った。極力にしろこちらを眺めないように気を使う生徒たちの優しさが余計に痛い。

 霞は、そんなカナリアに呆れていた。

 明日葉とほたるは見事に他人のフリを決め込んでいた。明日葉はぽちぽちと携帯端末を弄り、ほたるは拍手喝采する舞姫にそっと他人のフリをするように進めている。どいつもこいつも酷かった。

 そしてなにより、そのアホな空気の中で誰もフォローの言葉を発さない事実が、俺をいたたまれない気分にする。

 

「バカナリア……」

「はう〜……」

 

 結局のところ、壱弥のストレートな罵倒こそ、カナリアには救いに思えた。地獄に仏的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 誰が言ったわけではなかったが、可哀想な子を気遣って誰からともなく駅から離れた俺たちは、とりあえず海ほたる人工島内のモニュメント広場に再集合することにした。

 

「修復って言ってたけど、実質はメンテナンスと並行で行うらしいぞ」

 

 道中で千葉の工科生徒から得た情報を俺が口にすると、数名が「は?」と露骨に眉をひそめた。

 ここでいうところのメンテナンスとは、保全を目的とした定期的に行われてきたアクアライン全域の補強工事を意味する。つまりその分布範囲は件の破壊された場所に限定されず、東京湾に架かった長大な建物の端から端までにいたるということだ。

 

「じゃあ別に先日の壊れたウンヌンは関係ないじゃないか。朝凪のやつめ……」

 

 みんなの気持ちを代弁するように壱弥は北西の空、管理局のある方角を恨めしく仰いだ。

 逆に自らの過失が招いたことと自分を責めていた舞姫だけはかえって士気が上がっていた。名誉挽回のチャンスだと、やたら張り切っている。またなにか壊さないか少々不安だ。

 

「神奈川と千葉の両側から中央に向かって作業してるみたいだね。見回りも兼ねて、私たちも手伝おうか!」

 

 ほたるから追加の情報を聞き出した舞姫の提案に、誰も意を唱えなかった。

 次いで舞姫は跳ねるように爪先立って、小さな身体を目一杯広げて左右を示す。神奈川方面と千葉方面で分かれようということらしい。

 

「それじゃあ、三人と四人で二手に」

 

 その意見を建設的に受け止め、誰よりも先に一歩を踏み出したのは霞だった。ただし踏み出したのはいずれの現場方面ではなく、愛しい妹方面だった。

 

「それが賢明だろうな」

 

 霞の指示を全面的に肯定したほたるは、悠然たる行軍を始める。ただし行軍は舞姫の側に辿り着いたところで終わった。

 合理的な発言とは裏腹に、明らかに感情的な組み合わせを目論む千葉と神奈川の次席の姿に、さすがの俺も苦笑いだ。あの壱弥ですら声を荒げる気力を無くしていた。

 

「まぁ、護衛役()としてはその方がいいか」

 

 なにより無駄な争いごとか起きないのはいいことだ。

 ここは千葉組と神奈川・東京組で分かれてもらおうと、みんながいるほうに向き直ったときだ。何故か舞姫が俺の左手を取っていた。

 

「……あの、何か?」

 

 返答代わりにぶんぶんと握った手を振ってにこやかスマイルな舞姫。意味がわからなかった。

 

「せっかくだし、かぐらんと一緒がいいな」

「はい?」

 

 余計に意味がわからなくなった。ついでに言うと、舞姫の後ろで控えているほたるの殺気が怖い。誰か助けてと哀願したら、なんでか明日葉に脛を蹴られた。

 いつのまに神奈川首席様の俺に対する好感度が高くなっていたのか。疑問に思った俺に舞姫は「私さ、考えたんだ」と言って、その真意を話す。

 

「この前ドーン! ってした時にかぐらんも巻き込んじゃったからね。だから今日は私がかぐらんと一緒に入ればドーン! ってしても巻き込まれないよ!」

「そもそもドーン! ってしなければいいんじゃあ……」

 

 先日の反省を舞姫なりに活かした考えのようだが、そこに俺の人権を少しだけでも考慮して欲しかった。本人的には名案だと思っているみたいだが、正直それは迷案でしかない。しかし悲しきかな、お人好しな神楽さんはその手を振り払えなかった。決して舞姫の手がとても柔らかくて離したくなかったとかではない。

 

「いやいや、神楽は千葉の護衛役なのよ。アホ娘が一緒にいる意味ないでしょ」

 

 言って霞が俺の右手を掴んだ。男と手なんて繋ぎたくなかったので容赦なく弾いたら、また明日葉が隠れて脛を蹴ってきた。いい加減ちょっと痛い。

 

「えー!」

 

 舞姫が不満気な声を上げる。その後ろで「ヒメが男なんかに興味を……」と、うわ言のようにして呟くほたるがいた。控え目に言って怖い。

 ──なに、このカオスな状況。

 

「じゃあ、グーパーでもする?」

「そうしよう。むしろそうしてくださいお願いします」

 

 見かねたカナリアからの、いかにも彼女らしい子供っぽい提案に、俺は直ぐ様乗っかった。この状況をなんとかできるのなら、この際手段などどうでもいい。

 

「それでいーじゃん。お兄ぃもたまには妹離れしてよ」

「え……」

 

 俺に続いて、明日葉もカナリアの提案に賛同した。妹に拒否られた霞は魂を抜かれたように放心した。

 そして舞姫に至っては、誰に頼まれるでもなく無邪気に前へ躍り出て仕切り始めた。その間も彼女は手を離してくれない。もう好きにしてくれと、俺は色々諦めた。

 

「よし! グー出した人はグーなので、グー組で、パー出した人はパーだからパー組だ! 準備はいーかな? 行っくよー? グッとパッ!」

「なに、その頭悪い音頭……」

 

 俺の細やかなツッコミなど知らんとばかりに、舞姫の高らかな号令に応じて突き出された七つのハンドサイン。

 ちなみにどうでもいいことだが、明日葉曰く俺はジャンケンの類いで最初にパーを出す癖があるらしい。意識していない部分なので、指摘された当初は地味に驚いたものだ。

 そんなわけで俺は今回もパーを出していた。そこに深い理由はない。

 大らかに広げられた(パー)が俺を含めて四つ。強く握りこまれた(グー)が一つ。禁断の最強手グチョパを使うアホが二つ。

 こうして南関東選抜アクアライン臨時警備隊は、パー組四名とパー組じゃない組三名とに再編成されたのだった。




ちなみに作者は友人に「おまえグーばっかだな」と言われた過去があったりします。
女神サイドにしたのはカナリアと舞姫の二人に神楽を絡ませたかったから。次回はカナリアと絡ませる予定。
何時もながらたくさんのUAやお気に入り登録ありがとうございます。


本編裏話 あったかも知れない世界線
その一 パーじゃない組編
ほたる「ヒメニウムが足りない……ヒメニウムが足りない……」
壱弥「俺一人で十分だ」
神楽「ちょー帰りたい……」
霞「同感……」

纏めようとして、結局諦めた千葉二人の図。

その二 千葉組編
霞「じゃあ、あっちの方よろしく」
神楽「そこの鉄骨のボルト緩んでるぞ」
明日葉「がんばれー」
神楽「いや、働けよ!」

神楽と霞に丸投げしてサボる明日葉の図。
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