どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード   作:黒崎ハルナ

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不公平で残酷な真実

 求得考案によるサプライズパーティーは盛況のうちに幕を閉じ、食欲も自尊心も満たされた工科生たちは士気高々に足並みを揃えてそれぞれの持ち場へと進軍していった。

 そんな中、上機嫌に現場へと戻る工科生徒たちを見送った俺たち南関東選抜アクアライン臨時警備隊の面々は、彼らと同じ作業現場ではなく、海ほたる駐車場跡地に向かった。求得に軍令で招集されたからだ。

 求得は約束の時間から五分遅れて、愛離と青生を連れて招集場所に現れた。依然としてビーチスタイルな求得に、そろそろ露出趣味でもあるのではないのかと疑い始める。アロハの前を全開にしてなかなかに鍛え上げられた筋肉と如何にも武勇伝ありげなでかい傷跡を見せびらかしているところから、実はヤンキー気質なんじゃないかと思う。

 

「さて、腹もふくれたところで。おまえたちには次の任務を与える」

 

 やたらと唐突に求得が言った。

 

「作業はまだ残ってるよ、ぐとくさん?」

「みんなで手伝わなくていいんですか?」

 

 舞姫とカナリアがさりげなく求得に異議を唱える。どさくさに紛れて分隊の再編成を要求する者も約二名ほどいた。ちなみに要求したのは霞とほたるだった。マジで午前中に何があったのだろうか。

 しかし求得の意思は変わらなかった。

 

「ここからはおまえらにしかできない仕事だ」

 

 そこはかとなく都合の良い言葉を言いながら、求得が俺たちの前に中身の詰まった紙バックを並べた。見覚えのあるってレベルじゃない。紙バックに印刷されたマークは、千葉の生産科が作った千葉ブランドのマークだった。

 

「何だこれは」

「水着だ」

 

 壱弥の問いに求得が耳を疑うような答えを即答してきた。よく見なくても、色とりどりにカラフルな水着たちが紙バックに詰められている。それはまごう事なき水着たちだった。

 

「は?」

 

 隣に立つ霞が眉をしかめると、求得はサングラスを外して声のトーンを下げる。

 

「言ったよな、工事中に〈アンノウン〉を見た生徒がいたって。あれは本当の話だ。今のところ表立った被害は出てないが、管理局として放置は出来ない」

 

 語気が強かった。それだけで俺たちは求得が今からするのは真面目な話なのだと理解した。

 

「でも、〈アンノウン〉が出現するときって〈ゲート〉が」

 

 手をあげたカナリアに、いい質問だとばかりに求得が頷く。

 本来なら〈ゲート〉の出現によって〈アンノウン〉が現れる座標を推測、撃墜するのだが、今回はそれに当て嵌まらないということなのだろうか。

 

「そのとおりだ。青生」

「はい」

 

 少し離れた場所に控えていた青生が、求得たち管理官と俺たちの間に進み出た。その右手に握られていたのは飛び出し式のカッターナイフにも見えたが、やがてその刃の部分が青く光り出す。つまり、あれは八重垣青生の固有出力兵装なのだろう。

 

「何をする気だ?」

 

 問い、というよりは壱弥の独り言に近かった。だが、それはこの場にいる面々の代弁でもあった。

 ほたるが独白のように説く。

 

「青生の〈世界〉だ。他人の視覚や聴覚といった情報や主観イメージをスキャニングしたり、それを他の人間へと受け渡すことができる。再生は大人数でも問題ない」

 

 瞑目する青生の手元で彼女の〈世界〉が立ち上がっていくのを見た壱弥は、素直に感心した。

 

「ほぉ……。有能だな。覚えておこう。名前は?」

「いっちゃん!」

 

 先ほど自己紹介をしたばかりだというのに、壱弥は青生の名前を忘れていた。それをカナリアがたしなめるのと重なり、ほたるが唐突に告げる。

 

「まぁ、おまえたちは覚悟しておけ」

 

 何を、と訊きかけた瞬間、視覚が電気を消したようにフッとブラックアウトする。そして、暫くすると目蓋の裏に何かが浮かびあがった。

 濃緑色の空と、海? 

 

「おッ? おお……、なんか凄いな」

 

 不思議な感覚だ。まるでモニター越しの映像を見ているような感覚だった。

 おそらくは夜なのだろう。緑がかった景色が動く。自分の意思と関係なく視点が変わるそれは、さながらゲームのキャラを操作している気分だ。……これは、誰かが見た夜の出来事だろうか。

 夜の海に視点の主が一人立っている。やがて、待ち合わせでもしていたのか、もう一人の男子生徒がやって来た。

 会話までは聞こえない。おそらくはプライベートなどを考慮して、青生が意図的に遮断したのだろう。二人はいくつかの会話を交わすと、視点の主がそっと男子生徒の肩を掴んだ。

 そしてそのままゆっくりと近づき、そっと男子生徒が瞳を閉じた──て、ちょっと待て! 

 叫んだ俺だったが、そこに自分の意思など介入できるはずもなく、男子生徒の唇は徐々に近づき、

 

「ぐおおぉ……」

 

 なに! なんなの! なんの罰ゲームだこれは! 

 必死に目を閉じようと抵抗してるのに、目蓋の裏側から無理やり野郎とのキスを体感させてくるとか、拷問だろ。

 

「視覚だけだ。慣れろ」

「慣れるか! こんなもん!」

 

 しれっとほたるが視覚外から言ってくるが、慣れるわけもないし、慣れたらあかん。

 

「武田くんと樋口くんだよね。何してんだろ?」

 

 舞姫の言葉に絶望度がさらに増す。カップルじゃなくてホモップルだった。神奈川にまともな恋愛感を持っている人間はいないのか。

 しかもまだ映像は続いている。顔を赤らめるんじゃないぞ、そこの画面越しの男子生徒。

 

「……これ、か?」

 

 視界の端っこ。沖の向こう。水面に何かがいる。かなり大きな物体が光った。

 映像はそこで終了する。視界が元に戻り、眼前には求得がいた。精神が限界だったので、反射的に求得の隣にいる愛離を凝視。意図を察してくれたのか、愛離は気遣うような笑みを浮かべた。

 しかし、あの化け物はどこから来たのだろう。映像を見せられる前にカナリアが言っていた言葉を思い出す。〈アンノウン〉は〈ゲート〉の向こう側からやってくる。が、海中に〈ゲート〉が開いたなんて話は聞いたことがない。

 

「他にも数名、それを目撃した者がいるが、全て同じように海から出現し海中に逃げてしまっている。速やかに海中を捜索し、潜んでいる〈アンノウン〉を片付けてほしい」

 

 数時間前と同じ任務内容だが、求得はあえて獲物の実在を確証させた上で再び命じている。

 そして険しい表情のまま、今一度例の千葉ブランドの紙バックをずずいと押し出してくる海パンおやじ。

 ああ、それで水着なのか。見れば俺以外の面々も似たような表情になっていた。

 おやじ(求得)は白い歯を見せて、これ以上ないほどに満点笑顔。殴りたい。

 

「得意だろ、こーいうの」

 

 

 

 

 

 

 ──なんとなく、なんとなくだが気に入らない。

 

 女子更衣室で水着を選びながら、明日葉はぼんやりと胸の中でもやもやしている感情を考えていた。

 あえてこの感情を分類するなら、なんかよくわからないが気に入らない、だろう。だが、そこまでわかっているのに、一体全体何が気に入らないのかが明日葉本人にもいまいちわからないでいる。

 否、なんとなくではあるが、明日葉もわかってはいた。

 

(いやいや、ありえないでしょ……)

 

 しかし、明日葉はそれを認めたくないのか、頭を振ってその可能性を否定する。

 むむむ、と眉間に皺が寄って、妙な居心地の悪さを感じることが今日だけで何度もあった。例えば、舞姫が神楽と一緒に行動したいと言ったときやカナリアが午前の作業中に神楽と話していた時。そして、つい先ほど霞が神奈川の女子生徒の八重垣青生をさりげなく助けた時にも明日葉はそんなよくわからない感情を抱いた。

 例えるならお気に入りの玩具を他人に勝手に使われたような感覚に似ている。

 なんというか、凄い独占欲だった。明日葉は自分自身のことだというのに、その結論に至ると自分自身にドン引いた。

 

「なんだかなぁ……」

 

 なんとも言えない感情に、明日葉はため息を漏らす。

 なんとなく舞姫たちの方を見れば、仲睦まじく水着を選んでいた。自分もあれくらい素直になるべきなのだろうか、と一瞬とはいえ考えてしまう。

 

(あほらし……)

 

 再びため息を漏らし、さっさと着替えてしまおうとグレーのブラウスのボタンの一つに指を掛けてぷつりと外した時だ。隣のロッカーから嘆くような呻き声が聞こえてきた。

 

「はう〜」

 

 声の主はカナリアだった。なんだろうと小首を傾げた明日葉は、ひょいとロッカーの上から顔を出す。

 

「なに恥ずかしがってるの?」

「ひょわっ!」

 

 妖怪か覗き魔にでも出会ってしまったかのような悲鳴をカナリアが上げ、しどけなく必死に自分の身体を隠そうとする姿を見て、明日葉は言葉を失う。カナリアの水着姿は色々と豊満だった。というかムチムチだった。

 明らかに水着の面積で隠しきれなさそうなバストとヒップ。だというのに、その腰のくびれは芸術品の域に達しているのではないかというくらいに細い。

 方や、明日葉。明日葉は自分の胸元へと視線を下ろす。そこには特に谷間と呼ぶべき谷間もないくせに、普段から緩めにしている襟元から薄い紫色のブラがちらついている。今見たカナリアのプロポーションと比べると、もはや逆にこの中途半端にアピールしている感が恥ずかしくなった。なまじちょっと大人びた下着を着ていた所為で虚しさが際立つ。そうした無駄な自意識は兄である霞と似通っている部分が明日葉にもあった。

 というか、あの乳は反則だ。きっとあれで千葉(ウチ)護衛役(神楽)を誘惑したに違いない。と明日葉は謎の敗北感に打ちのめされた。

 だが、しかし、と明日葉は兄譲りの自己暗示で自らを奮い立たせる。カナリアは父方が北欧系の人だったと聞いた覚えがある。仕方ない。国際基準と日本基準は違うのだ。比較対象が違うのだがら、比べるのがそもそも間違いなのだ。

 そう自分に言い聞かせた明日葉は同じ日本人に狙いを定めた。

 

「やっぱりおヒメちんがナンバーワン!」

「わきゃ!」

 

 鼻歌を歌いながら楽しそうに着替えている舞姫に背中から抱きついてみると、可愛らしい悲鳴があがる。そして、またもや明日葉は言葉を失った。

 

「えっ……」

 

 自分よりもずっと小柄な舞姫。その身長に見合わないそのたゆんたゆんとたゆたう胸に、明日葉はしばし現実から逃避すべく指先でたゆんたゆんと弄ぶ。

 

「……ねぇ、おヒメちん」

「ん?」

「おヒメちんって何カップあるの?」

「んーと……D……だったかなぁ」

「なぁ……」

 

 なんの恥ずかしもなくあっさりと語る舞姫に明日葉は再び謎の敗北感に打ちのめされた。やはり胸か、胸なのか? と明日葉は悟った。

 

「何をしている?」

 

 明日葉の奇行に水着に着替え終わったほたるが声をかける。それはそれで大きくはないが、剣術によって鍛えられたバランスの取れたモデル体型だ。気がつくと、明日葉も舞姫も「ほー……」と見とれていた。

 その視線にほたるが首を傾げる。しかし、首を傾げたいのは明日葉だった。もはや何度目になるのかすら数えたくない敗北感。何故に神はこんなにも残酷なのだ。どうして自分は身長も、胸の大きさも、全てが中途半端なのだろうか。

 明日葉は悔しそうに呟きを漏らす。

 

「この裏切り者……」

「えっ! なに?」

 

 なんのことだと首を傾げる舞姫に、明日葉の機嫌は更に悪くなったのだった。




公式によると舞姫は145センチの身長に対して80のDカップらしいですよ。それゃあたゆんたゆんですよ。
お気に入りが240超えました。皆さんありがとうございます。

本編裏話 男子更衣室
神楽「なぁ、霞」
霞「なんだ?」
神楽「俺の見間違いじゃなければ、この水着のラインナップってやたらブイパン多くね?」
霞「間違いなくあのおっさんのチョイスだな」
神楽「というか、女子たちの水着も求得さんが選んだのか」
霞「いや、さすがにそれはない。……と信じたい」

結局普通の水着をブイパンの山から発掘した二人。尚、女子の水着は愛離が選んだ模様。
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