どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード 作:黒崎ハルナ
あ、ちなみにNTRじゃないよ。
久しぶりにみんなで集まることになった。
〈アンノウン〉との戦争が終結して早数年。それぞれの都市の復興作業に精を出していた俺たちは、その忙しさを理由にお互いが顔を合わせる機会も徐々に減っていった。月に一度か二度程度の定例会議を除けば、プライベートでの集まりなどこの数年の間でただの一度だってない。
そんな中で、久しぶりに元・三都市代表が集まろうというお誘いがあったのだ。しかも主催者は
「東京も随分と賑やかになったもんだ」
並び建つビルを見上げて、俺は感心するように呟いた。
実際、戦争が終結してからの復興速度や都市開発は東京がぶっちぎりだ。神奈川が復興を後回しにしてでも身寄りのない子供たちの保護を積極的に行っていたり、
「ねぇ、まだ着かないの?」
後ろから気怠げに訊いてくる声に俺は苦笑。もう少しだから、と振り向けば、明日葉が不機嫌そうにこちらを見ていた。
「お兄ぃが行きたくないってゴネなければもうちょい早く着いたのに」
「冤罪だからね、それ」
数年前から変わらないポニーテールが猫の尻尾よろしく左右に揺れる。その先には我らが千葉の苦労人、人生の社蓄こと霞がいた。
「や、ほんとじゃん。お兄ぃ、最初は行く暇ないから無理とか言ってたし」
「それは、何故か明日葉ちゃんの分の仕事も俺のとこに回ってくるからなんだよなー」
「え? 間違ってないでしょ」
「お願いだから疑問に思って」
「でもお兄ぃって、仕事ちょー好きじゃん。だからあたしの分もあげようかなって思ったの」
「ワー、ウレシイナー」
死んだ魚の目で笑う姿が痛ましい。そろそろ本気で霞は悟りの境地にたどり着くのかもしれない。
「おっ、着いたぞ」
そんな事を考えていたら、目的の場所にたどり着いていた。
待ち合わせ場所に指定されたのは、東京のとある居酒屋だ。構えは小さいが、どうやら戦争終結後に東京校に在籍していた生徒の一人が出したお店らしい。
ほどよい感じに落ちついた店内の雰囲気は、騒がしさを苦手とする俺にはありがたかった。店内へと入れば、そこには見知った、懐かしい顔ぶれが並んでいる。
「あっ! おーい、こっちだよー!」
右手をぶんぶんと元気よく振り回す女性を見て、俺と霞は呆れたような溜息を溢す。いい歳した大人な筈の彼女は、数年前と変わらない、純粋無垢な笑顔を浮かべている。
同じように右手を軽く上げて応じれば、早く早く、と急かすように席へと案内された。
「久しぶりだな。
「うん! 久しぶり、かぐらん!」
「その渾名、まだ有効なんだ……」
当然だよ! と胸を張る女性──
「おヒメちんは元気だねー」
「というか、二十代であのテンションはどうなのよ」
方や小さい笑みを浮かべ、方や身近にいる五十代の女性を思い出してげんなり顔の幼馴染。そして、
「ああ、ヒメは今日も可愛いな」
ぽつりと鼻血を流しながら呟いたのは、若干危険度が数年前よりも増した男装麗人。スラリと伸びたジーパンにシンプルなワイシャツの
神奈川校元・主席、元・次席のコンビは相変わらずの仲良しみたいで安心する。
とそこに、
「はいはーい。皆さん本日は急なお集まり、誠にどーもっす」
ぱんぱんと手を叩いて意識を集めるチャラ男の登場に、この場に居合わせていた全員の視線が集中する。今回の集まりの主催者にして、元・東京校主席の懐刀を勤めている
だが、その軽そうな口調とは裏腹に、なんだか真面目そうな空気を匂わせているのが気になる。
コウスケはテーブルに腰掛け、突然ゲンドウポーズを決め込み出す。逆立てた髪と、やたらジャラジャラと鳴らすシルバーアクセの所為で全く威圧感を感じないゲンドウポーズに俺たちは呆れ顔だった。しかし、そんな冷たい眼差しなど気にも留めないで、コウスケは俺たちを席に座るようにと促す。
「えー、本日はぶっちゃけ同窓会的なノリで集まってもらったわけなんですが、その前に皆さんと話し合いたい案件がありまして、先にそっちを片付けたいと思います」
話し合いたい案件? なにやら真面目そうな空気で、気になることをコウスケが口にするものだから、俺たちも無意識に真面目な顔つきに──なるわけがなかった。ポチポチと端末を弄る明日葉と、寝不足で欠伸を漏らす霞。舞姫は頭にハテナマークを浮かべ、ほたるにいたっては真面目な表情で、
「それは……ヒメよりも重要な話か?」
「おまえの中で舞姫よりも重要な話ってあるのか?」
「貴様、馬鹿か? 常識的に考えて、そんなものあるわけないだろ」
「あれー、常識ってなんだっけ……」
そもそもな話で即答するくらいなら何で訊いたんですかね、ほたるさん。
コウスケはそんな態度の俺たちを前にしても、臆する事なく話を切り出した。
「実は……ウチのトップ二人についてなんすが……」
話の始まりはそんな感じだった。
コウスケが言うトップ二人とは、間違いなくこの場に不在の
「カナちゃんとすざくんのこと? なんだろ?」
「どうせくだらん話だろ。ヒメの貴重な時間を無駄にするな──ゴミが」
容赦ないほたるにドン引きする俺と霞。
しかし、ほたるの言い分もわからんでもない。
霞がこの場にいる者の気持ちを代弁するように言った。
「なに、また二人で無意識に桃色空間展開してるとかって話? いい加減学べよ。あの二人、特にクズ雑魚さんは常識とかを全部どっかに忘れてんだからさ」
「ウケる。お兄ぃが常識語るとか。一番この中で非常識なのにね」
「明日葉ちゃんにだけは言われたくないかなぁ……」
予想外の攻撃にぐったりする霞に、コウスケは一言、違います、と否定の言葉を口にする。
「違うんすよ。いや、桃色空間を展開しまくってるのは違わないんすけど、とにかく違うんす」
空を仰ぎ見るように、コウスケが言う。その表情と声色には、かなりの真剣味と、どうしようもない現実を直視した絶望感が漂っている。やがて、意を決したようにコウスケは口を開く。
「みなさん……落ち着いて訊いてください……」
ノロケ話か、或いは式場の相談か。どうせそんなところだろう。はいはい、と俺を含む全員のどうでも良さげな視線がコウスケへと集まる。
「……あの二人、
沈黙が生まれた。
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………………えっ?
「……とりあえずさ」
時の止まった世界からいち早く帰還した俺は、震える唇で尋ねる。
「ごめんコウスケ。ちょっと何言ってるのかわかんない」
「ですよねー」
あ、ありのままに起きた事を話すぜ。俺はクオリディアの本編を書いていたと思っていたら、何故か手元には番外編の原稿があったんだ。しかも前後半の。な、なにを言っているのかわからないと思うが、俺も何を言っているのかわからねぇ……
というわけで続きます(笑