どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード 作:黒崎ハルナ
東京校首席・朱雀壱弥を筆頭に、今回の『超巨大型〈アンノウン〉・リヴァイアサン級』の討伐作戦は行われる。
東京校の飛行部隊を指揮するのは、防衛ランキング四位の朱雀壱弥。
共同戦線として、ランキング一位及び三位を有する神奈川とランキング二位を戦力として持つ千葉が東京の指揮下に加わった、今までに例を見ないほどに大掛かりな作戦となっている。
本来なら先発隊として、地上の千葉が先行するのだが、今回は違う。
今回の作戦での千葉の役割は、何時もとは大きく異なったものだった。
東京湾上空を飛ぶ東京校の飛行部隊を車両窓から見送り、隣に居る霞に伝える。
「始まったな」
「だな」
先行していた東京校が指定ポイントに到着したのを確認した俺たち千葉は、列車の速度を速めた。
アクアライン線路上を走る砲塔列車に揺られながら、海ほたるを目指す俺たち千葉校に、三都市共有回線を通して東京校首席・朱雀壱弥の声が響く。
『作戦通り東京は第一陣として海ほたる周辺に展開している小型〈アンノウン〉を叩く。
テキパキと指示を飛ばす壱弥。
その指揮官ぶりに舌を巻くと同時に、ちょっと引く。
『お兄ぃ、神楽、キモい。東京の人キモい。まともなこと言ってる。引く』
「それな。ほんとそれ」
「なんか悪いもんでも食ったんじゃないか、ってくらいにヤバイな」
と通信に紛れ込む白けた声にも壱弥は何も言い返してこなかった。言い返している時間すら惜しいのか、はたまた彼が大人になったのか。
ともあれ、東京が作戦通りにことを運ぶのなら、俺たちも急がないといけない。
列車を走らせながら窓を覗けば、既に戦闘が始まっていた。
数回の威嚇攻撃の後、リヴァイアサン級を守ろうとするかのように、小型〈アンノウン〉の大群と、トリトン級の数隻が東京校の遊撃に出てくる。
しかし、それは想定内。遊撃はむしろ好都合と言えた。
東京校の小隊は壱弥の指示によって、的確に小型〈アンノウン〉を撃ち落とし、トリトン級の破壊までこなしていく。
元より空を得意とする彼ら東京校の生徒と、小型〈アンノウン〉とでは、戦力に大きな差がある。通常通りに戦って、〈アンノウン〉側に勝機などありはしない。
その差を埋めようと、リヴァイアサン本体が動き出した。
こっから先は
『お兄ぃ、作戦通り、ちっさいのは東京の方と戦ってるぽい』
「はいよー」
やたら気の抜けた兄妹の会話に苦笑しつつ、眼前に目標ポイントが写ったのを確認する。
アクアライン線路上は現在、東京校が激しい空中戦を繰り広げている為に、すっかり〈アンノウン〉の警備が手薄になっていた。
その隙を突いて、俺たちは砲塔列車を戦闘区域へ走行させる。狙いは敵の懐。通常通りの戦闘だったら、間違いなくここまで接近はできなかっただろう。
千葉の主力兵装は銃火器などの飛び道具だが、地上戦を前提とした装備の為、どうしても射程という壁が邪魔をする。
故に、海に居座るリヴァイアサン級と戦うには、自然と敵近くまで特攻するしかなくなるわけだ。
指揮車両内で明日葉の通信を受けた俺と霞は、ホログラムモニターの各データをチェクしながら、車内放送のスイッチを入れる。
「はい、千葉の皆さんお待たせですー。出番ですよ。段取りとか大丈夫? ちょっと危ない手なので、こちらの指示に従い、タイミングに注意してムリしないようによろしくどうぞ」
およそ緊張感とは無縁な、むしろやる気を削ぐような霞の放送を合図に、今作戦が実行される。
霞は口調とは間逆に、冷徹な眼差しでホログラムモニターを見やっていた。タイミングと指示が相当シビアなのだろう。いつになく真剣な表情だ。
俺は俺で霞の指示に従って、リヴァイアサン級の想定索敵範囲のマッピングを続ける。
そうしてホログラムモニターの赤い輪に、リヴァイアサン級の想定索敵範囲に砲塔列車が突入した。
「……じゃ、やりますか」
霞の指示で俺は砲塔列車を更に加速させる。それに反応したリヴァイアサン級が迎撃の熱線を放ってきた。
禍々しい真紅の輝き、壱弥すらカナリアの強化なしでは防ぎきれなかったと言っていた光が俺たちに迫る。だが、俺は砲塔列車に急ブレーキを掛けた。まるで、その一撃を甘んじて受けるかのように。
「……ほっ。計算通りだ」
迫り来る光の塊を見つめながら、俺は安堵の息を吐いた。
直撃コースの熱線をアクアライン上の防壁が盾となり、砲塔列車の着弾を阻む。
霞に言われて調べたこの場所は、この戦闘区域内で唯一アクアライン上の障壁だけでリヴァイアサン級の砲撃を防ぐことができるスポットだった。
〈アンノウン〉側からすると死角になり、こちらからすると敵側が良く見えるギリギリの位置。それがこのポイントだ。
「あら、残念。そこからだと、このポイントには当てられないんだよなぁ。ブラインドスポットって概念ご存知ない?」
狙い通りに事が運んでいるからか、霞は何時もよりも口数が多い。
そんな霞とは裏腹に、俺の心臓はバックバクだった。なにせデータ上では安全は保証されてたとはいえ、実際に試したのは、今が初めて。ぶっつけ本番の一発勝負は心臓に悪いなんてもんじゃない。
『お兄ぃ、独り言うるさい話長いキモい。っていうかこっちも射程足りないんですけど』
辛辣な明日葉の文句に、霞の目元がちょっとだけ震えていたのは見なかったことにしよう。
しかし、明日葉が言う通り、この場所は確かに安全地帯ではあるが、一方的に攻撃ができるナイススポットというわけではない。
ギリギリで
が、俺は知っている。千種霞は妹の頼みなら常識すらもひっくり返す男だ。
「工科さーん? よろしくどうもー」
霞か通信を入れると同時に、列車から飛び出したのは工科の生徒だった。……何故か全員が瞳をやたらキラキラさせている。激しく嫌な予感がした。具台的には碌でもない発想という意味で。
工科の連中は素早く先頭車両へ走ると、手慣れた様子で杭打ちやら何やら細工を施して、車輪と路線を固定した。手際が良いってレベルじゃない。というか、あれって設置型の爆弾だったような……
『準備できました。いつでもいけます』
「んじゃいってみよーか。明日葉ちゃんも準備して」
『はえ?』
おそらくは何も知らされていないであろう明日葉の間の抜けた声を聴いて、俺は確信する。
──あ、これ絶対ヤバいやつだ。
「おい、霞。準備って何を──」
「ぽちっとな」
「──のわあぁぁ!」
心の準備もなにもできなかった。無慈悲に霞が右手に持っていたボタンを押す。元工科の俺には、それが設置型の爆弾の起爆スイッチだと直ぐにわかった。
そして鳴り響く轟音。
霞がボタンを押した直後、先頭車両を除く全車両の外側底部で一斉に爆発が起きる。
まったく予想していなかった出来事に、インカム越しから千葉生徒たちの悲鳴が響く。衝撃の少ない先頭車両にいる俺ですら悲鳴を上げているのだ。衝撃をモロに受けている明日葉たち戦闘科のいる車両は尋常でない揺れが起きているに違いない。
「うそーん……」
そう言って、俺は口をあんぐりと開けて、眼前の光景を見つめていた。窓の外には常人の想像の遥か斜めをいく事態が起きていたのだ。
今の爆発によって砲塔列車は俺たちのいる先頭車両を基点に、円を描くように脱線していた。横滑りに壁を薙ぎ払い、アクアラインに対してほぼ直角に位置するように、車両が海上へと大きく迫り出す。
何処の世界に列車を固定して、強引にジャックナイフ現象を起こす馬鹿がいるだろうか。おそらく霞以外に、誰も想像できないであろうブッ飛んだ作戦に、俺は呆れて言葉を失う。たいがいわかっていたつもりだったが、相変わらず発想が無茶苦茶だ。
「はい、撃って」
しれっと車内放送で戦闘科の生徒に指示を飛ばす霞。
『うわ、高けぇー』
『今のは怖ぇよ!』
『うっ……気持ち悪ぃ…………』
『あんなの有りかよ……』
インカム越しに聞こえる戦闘科連中の不満の声。事前に知らされていなかった上にこの仕打ち。むしろ不満がない方がおかしい。
そして、基本的に千葉の連中は馬鹿である。
『あいつか……あいつが悪いのか!』
『殺す、絶対に殺す!』
彼らは口々に何かを叫んでいるが、要約すると一言だけ。
曰く、「殺す」。
本来なら実行者の霞に向けられる殺意が、代わりに眼前に居座る敵に向けられる。
『対空じゃないこいつの威力を喰らえぇ!』
『死にさらせぇぇ!』
「うわあぁ……これは酷い」
怒りと殺意の呪詛を撒き散らしながら、バスーカ砲やハンドガンや自動銃といった火力の塊をぶっ放す我らが戦闘科の皆さん。極め付けには、何処から持ってきたのかRPGなどのミサイル擬きや工科自慢の砲塔列車からの砲撃。
明らかに過剰なまでの火薬の暴力。千葉の総力を懸けた集中放火がリヴァイアサン級の巨体に直撃し、尋常でない大爆発を巻き起こした。
膨れ上がる爆炎によって、その巨体を揺らすリヴァイアサン級。そのリヴァイアサン級が煙の中から赤いエネルギーを収束させているのが見えた。
「っツ! マズい、霞!」
『お兄ぃ! また来る!』
気づけば明日葉とほぼ同時に叫んでいた。
現在砲塔列車はアクアラインから大きく迫り出してしまっている。これではシールドの恩恵には与れない。直撃すれば全滅は免れないだろう。
狼狽える俺たちをリヴァイアサン級は待ってなどくれず、反撃のエネルギー波を容赦なく放ってきた。
──が、
「ぽちっとな」
一人、冷静でいる霞が、今度は左手に握っていたボタンを押した。
すると再び車両の底部が爆発し、その爆風の勢いで列車は元の路線の位置に戻る。先ほどまで砲塔列車が迫り出していた空間を、リヴァイアサン級のエネルギー波が通り過ぎていく。荒技にもほどがある回避方法に、もはや俺を含む千葉生徒たちは閉口する他なかった。
そんな俺たちを知らん顔で、霞は再び車内放送を入れる。
「はいもういっちょいくよー」
鬼かこいつは。
ただでさえ下方気味な千葉生徒たちの霞への好感度が急降下で下がっていくのを確信した。
ひたすらに不満と絶叫の声がインカム越しに聞こえるのが良い証拠だ。
『……お兄ぃ、絶対殺す。あと神楽も』
「えっ、俺も! おい、霞! おまえの所為で俺まで──」
「ぽちっとな」
「話を聞けぇぇ!」
風が裂き、火花が散り、爆炎が舞う。鉄の塊がコンパスよろしく、ぶんぶん回り、火薬と生徒の絶叫と呪詛が飛ぶ。
圧倒的なワンサイドゲームにリヴァイアサン級が咆哮を上げた。
至近距離で、防衛都市・千葉の全火力を集中させた一斉掃射。その威力は天河舞姫の一撃にだって負けていない。
だが、この策には大きな穴がある。
そもそも千葉は陸戦部隊であり、東京や神奈川と違って海上を自由に行き来できるわけではない。故に海上にいる敵に対して、限界射程というどう足掻いても覆らないハンデがある。
つまり、
「霞! あいつ、逃げるぞ!」
あんなのを真面に相手にできるか、とリヴァイアサン級がその巨体を揺らし、この場からの離脱を図る。
「まぁ、そうなるわな。離れなきゃ詰むだけだし」
霞は戦術データリンクを見ながら、ふっとほくそ笑んだ。まるで、予定通りだと言わんばかりに。
釣られる様に俺もデータリンクを見て、霞の笑みの理由を知る。
「……けど、悪いな。そっちに行っても詰みだ」
霞の言葉には絶対的な信頼が込められていた。理由は単純だ。
──怨敵の行く先には、剣の王国が待ち構えているのだから。
『今だ! 天河!』
はるか上空でリヴァイアサン級の進行ルートを注意深く観察していた壱弥が合図を出した。この海域に居ない筈の天河舞姫に……。
直後、神奈川の巨大空母が海中から海を割る様に浮上した。
千葉「車輪固定してローリング」
神奈川「重り付けて空母で海底に潜るよ」
これが子供の自由な発想ってやつかぁ……(白目)
というわけでリヴァイアサン級との戦闘開始。
この作品の千葉工科はみなさま知っての通り、変態の集まりなので、原作以上の火力でリヴァイアサン級に打つかってます。
本編裏話 没ネタ・たぶんこれが一番早い。
霞「じゃあ、工科さん準備してー」
工科「マイクロウェーブ、照射! いつでもいけます!」
霞「ぽちっとな」
工科「サテライトキャノン発射!」
神楽「もうやだ、こいつら……」
ここの工科ならたぶん〈世界〉との併用で再現できそう。