どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード 作:黒崎ハルナ
──真面目な話で、物事全てが悪い方に向かっている気がする。
そう断言してしまうくらいには、ここ最近良くないことばかりが起きている。自分は確実に引き際を見極めていた筈なのに、どういうわけか身の回りの環境がぐるぐると変わるのだ。危ない山は素通り、見ないふりの精神でスルーしてたし、大人の言うことを素直に訊く良い子を演じていたつもりだった。なのに、俺の仕事は増えていくし、挙げ句の果てには知り合いに不幸が起きる始末。
たぶん、原因は珍しく気の迷いでいらんお節介を焼いたことだろう。ちょっと周りに反抗したり、友情を育みたいお年頃なのだ。多少のやんちゃには目を瞑って欲しかった。それでもだ、こんな状況になるようなことを自分はしたのだろうか。しかし、それを嘆く時間はない。
弔い合戦なんてガラではないが、それでも俺たちがやっているのは戦争という命をチップにしたゲームなのだ。どちらかが死んで、殺して、初めてこの
だから、俺は銃を手にする。
大切なものを奪われない為に。
大切なものを喪わない為に。
人類防衛の城塞にして最前線の海ほたる。
開戦の狼煙は既に上がり、銃声と爆風が空気を震わせ、肌を撫でる。
大量の〈アンノウン〉を出迎えたのは、やっぱりというか当たり前というか、千葉の至宝こと明日葉だった。
〈アンノウン〉の群れにショッピングにでも行くかのような足取りで飛び込み、その両手に握る二挺の愛銃の引き金を引き、〈アンノウン〉を射抜く。後ろから、
そもそも明日葉に常識は通用しない。普通に考えれば、あれだけの数に飛び込むなんて発想はしないだろう。だが、明日葉はだからこそ当然のように危険な場所に飛び出すのだ。
何故と訊かれても困る。それが千種明日葉という女の子なのだ。
だからこそ、
洋上に弾道が奔り、軌道上の〈アンノウン〉が爆散していく様子を確認し、俺は声を張り上げた。
「よしっ! 次!」
珍しく前線に立ち、ハンドガンの引き金を引く。支給された銃ではなく、工科が最近開発したらしい試作型の銃。果てしなく不安ではあるが、今は武器も人員もケチっている場合ではない。
後方の霞の護衛をしている余裕がない、という理由から久しぶりに前線へ出ることになったのだが、中々にキツいものがある。目に入りそうになった汗を拭う暇すら惜しかった。
既に撃墜数は二桁を超えている。普段の戦闘では考えられないくらいの戦果だが、それを素直に喜べる余裕は今の俺にはなかった。
〈アンノウン〉の進撃は、まったく弱まる様子がない。
元々守備強化の為に俺たちは海ほたるに配属されていた。
当然、迎撃態勢は十二分に整っており、〈アンノウン〉の出現を確認して直ぐに放たれた一斉掃射によって撃墜数を順調に稼げてはいる。しかし、現状の戦力は普段の迎撃戦に必要な人員の半分以下しかいない一小隊だけ。人数で言えば三十にも満たない数だ。ローテーションや人員不足が原因で、この場には本隊から割いて派兵してきた僅かな戦力しかない。結果、戦線は段々と悪くなっていく。
戦闘が始まって、どれくらいの時間が経過したのか、それすらわからない。一時間? 或いは三十分? もしくはそれ以上?
時計の一つでも確認すれば直ぐにわかるが、今はそんなことをする余裕がない。
「っやべ! 一匹抜かれた!」
振り向き、俺は叫ぶ。
僅かな弾幕の隙間を狙われ、撃ち漏らした〈アンノウン〉が霞のいる最終防衛ラインの目と鼻の先にまで接近して来た。
上陸を許すと、非常に面倒なことになる。都市内部には非戦闘の生徒が大勢いるのだ。都市内部での戦闘だけは、絶対に有ってはならない。そう思考して、それでもこの位置からでは対処が間に合わない事実に体が固まる。
「──ッツ!」
直後、炎弾が接近していた〈アンノウン〉を貫いた。
持ち前の身軽さで戦場を自在に駆ける明日葉が、〈世界〉を使って敵の上陸をギリギリで止め、眼前の〈アンノウン〉へと銃弾を叩き込んでいたのだ。アクション映画のワンシーンでも見ているかのように錯覚してしまう。それほどまでに明日葉の動きはデタラメだった。
「ちっ、抜かれてるよ! 気引き締めて!」
「は、はいっ!」
部下たちに活を飛ばし、明日葉は再び最前線に飛び出す。明日葉は小さく唇を舐めて、〈アンノウン〉に向けて銃を構える。
並ぶように俺も明日葉の後ろを追いかけた。轟音と爆風の中を突き進みながら、明日葉はちらりとこちらに振り返る。
「悪い、助かった」
「久しぶりの前線だからってもうバテたの?」
「運動不足を痛感してるとこにトドメさすなよ」
明日葉の揶揄うような皮肉に皮肉で返しながら、ポケットに入れていた命気クリスタルを銃に
爆発する様を確認する暇もなく明日葉の作った氷の足場に着地して、俺は愚痴を零した。
「まあ……正直言うと、ちょっとキツい。騙し騙しでなんとかなってるけど……」
「うわ、ダサっ」
「辛辣! 普通、そこは心配とかする場面だろ!」
「してほしいの? 心配?」
「冗談!」
無駄口を動かしながら、俺は再び引き金を引く。
戦況を見るに、現在の戦力だけでは目の前の〈アンノウン〉の大群を殲滅するのは難しい。かと言って、こちらには神奈川の舞姫みたいな広範囲高火力の攻撃方法が存在しないので、必然的にちまちまと〈アンノウン〉を撃ち落としていくしか方法がない。
「神楽、応援はあとどんくらいで来そうな感じ?」
「まだ時間が掛かるらしい。東京と神奈川の両陣営の指揮を天河一人でってなるなら、当然だけど」
俺からの報告に、明日葉が舌打ちを一つ落とす。
その間に〈アンノウン〉が再び前線を抜けようとする。先に気づいた俺が銃を構えるよりも早く、明日葉がノールックで引き金を引いて、それを阻止。直後に背後で爆風が生まれる。
「気緩めない!」
「す、すまん」
今のところは目立つほどの被害は出ていない。
だが、問題なのはこの数だ。
目の前の〈アンノウン〉の数が減った様子はまるで見られない。むしろ増えているのでは、と錯覚してしまう。
遊撃部隊の明日葉や俺が撃ち落とし、撃ち漏らした敵を後方の霞たちが叩くという連携を繰り返しているのだが、撃破数と増加数の比較では圧倒的に後者の方が上だ。
「……キリがないな、ほんと」
この場の最善手は応援の到着を待ってから、一気に攻勢へ出ることだ。火力不足や人員不足といった問題が解決すれば、眼前の敵はさして脅威ではない。
だがそれは即ち、現状は防戦が精一杯であることを意味していた。
「せめて、あの東京主席が働いてくれたらなぁ……」
「ってか、なんで動かないの? カカシ? つか、マジに何しに来たの」
「さあな。俺が知りたいくらいだ」
ちらりと後ろを振り返れば、海ほたる上層で棒立ちする壱弥がいた。
一応、兵装のガントレットこそ展開しているものの、先ほどからずっと、戦闘に参加する気配すらない。せめて、せめて壱弥が前線に出てくれたら、戦況は変わるというのに。
と、その時だ。
海の向こう側の湧き出てくる〈アンノウン〉の群れの中から、クラーケン級が姿を見せる。問題は、その切っ先にエネルギーの塊を溜め込んでいたことだ。その光景を見た俺は、反射的に叫ぶ。
「明日葉! 退がれ!」
俺の言葉に従うように、最前線にいた明日葉は身を翻す。その直後、血の色にも似た赤い閃光が空を裂き、明日葉がいた場所を通過し、海ほたる本館の上層階部を貫いた。間一髪で直撃を避けたことに安堵し、貫かれた場所を見て、俺は絶句する。
「って! まてまて! あそこって、確か……」
溶けてく砕けたコンクリートの瓦礫が、雨霰のように降り注いだ場所──そこは俺の記憶違いでなければ、開戦してからずっと棒立ちで呆けていた壱弥のいる場所ではなかっただろうか。
「うっわ! やばっ! お兄ぃ! 東京の人、生き埋めになっちゃった!」
『……へ⁉︎』
さすがの明日葉もこれには唖然としたらしく、慌てて兄へと通信を入れ、通信を受けた霞も妹同様に声を上擦らせたのだった。
神奈川の、舞姫とほたるのレズシーンと暴君舞姫のお話は犠牲になったんや。シーン省略と作者のヤル気の犠牲にな!
先日、最終巻を買いました。ネタバレ阻止の為に多くは語れませんが、一言。
表紙のアフターらしきショッピングする女の子達の絵が可愛かった。特に明日葉が!
本編裏話 開戦の狼煙を上げよ
工科「ふははは! 工科自慢の最新兵器、ソーラ・システムを喰らえぇぇ!」
神楽「すげぇ……〈アンノウン〉が塵になった」
工科「…………あっ!」
神楽「? どうかしたか?」
工科「あー……すまん、システムというか、発射パネル含めた全部が壊れた」
神楽「えぇ……。戦闘科のみなさん、そこの馬鹿共を安全地域まで退避させて。代わりに俺が出るから」
そんなシーンがあったとかなかったとか。