どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード   作:黒崎ハルナ

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残存世界のグロリア
そんな仕事になったわけ


 俺の持つ〈世界〉が他者よりも稀有なものだったから。

 ランキング三百位の俺が千葉首席及び次席の護衛役を任せられている理由は、簡単にいうとそういうことだった。

 といっても俺の持つ〈世界〉は厨二病末期な東京首席さんの〈世界〉のように色々と使い勝手がいいとか、神奈川首席である人外天然娘みたいに周囲を更地にするくらいのバ火力があるわけではない。

 では何故護衛役を任せられているのかと訊かれたら、半分くらいはウチの首席さんの職権乱用が原因。そしてもう半分は、俺の〈世界〉がまともに使える場所がそこくらいしかなかったのが理由だった。

 俺の意見をガン無視して、ついでに何の相談も説明もないまま唐突に首席ご本人からそう言われた時はさすがに一言申したい気持ちが出たが、それだって俺の微妙な現状を考えてくれてのことだと知ってしまえば文句は言えない。

 とにかく突然なことだったので驚きはしたが、護衛役自体には特別不満はなかったのだ。

 だからといって、まったく問題がなかったのかといえばそういうわけでもない。

 第一に俺自身の知名度の低さ。任命されてしばらくの間は、みんな口を揃えて、誰だこいつ? と首を傾げられたものだ。さらにいえばランキング三百位という実績も問題だった。

 ランキングとは文字通り強さの証明だ。ランキングの優劣が強さに直結していると言っていいだろう。

 防衛都市を束ねる存在である首席。

 そんな貴重な人材を守る盾がこんなへっぽこだと知れば、誰だって異を唱える。まあそれはもう一つの問題が解決すると同時になんとかなったからいいだろう。

 どちらかといえば、もう一つの方が問題だったのだ。

 もう一つの問題、それは護衛役を明確な役職として扱った実例が過去に存在しなかったことだった。

 首席とは文字通りその都市の最強を意味するし、その補佐たる次席も必然的にある程度の実力が要求される。

 ようするに、そんな二人に副官的な立ち位置の人材ならともかく、危険から身を守る護衛役なんていらないだろうというわけだ。

 至極もっともな意見だった。

 なにしろ俺はランキング三百位の落ちこぼれで、護衛対象の千葉首席様はランキング二位の超エリートなのだ。いくら首席が決めたことだからって、突然そんな話を聞かされて直ぐに周囲の人間全てが納得できるほうがどうかしている。

 千葉首席・千種(ちぐさ)明日葉(あすは)

 千葉次席・千種(ちぐさ)(かすみ)

 苗字から察せるとおり千葉の代表二人は兄妹で、更にいえば俺はそんな二人の幼なじみだったりする。兄妹が代表という事実に加えて、護衛役として推薦されたのが兄妹の幼なじみだと知れば、誰だって首席が身内贔屓をしたと考える。実際そうだし。

 では何故そんな状況で護衛役なんて特例が認められたのか。

 決め手となったのは、隣接する他の防衛都市内で起きた内部問題だった。

 詳しい事情は知らないが、神奈川では首席の暗殺を企てた事件があったらしく、東京は東京で記録的な惨敗によって当時の東京首席が負傷したり、その惨敗のせいで味方同士の同士討ちがあったそうだ。

 そんな状況だからこそ、千葉のトップ二人は絶対に自分たちを裏切らない護衛役を欲したらしい。そこに白羽の矢が立ったのが俺というわけだ。

 幼なじみという都合のいいポジション、保有する〈世界〉、そして俺自身に対する首席や次席の評価。全ての理由が俺を護衛役へと後押しし、とんとん拍子で正式に護衛役が認められた。ちなみにこれが明日葉が首席へと着いて一週間後のことである。

 実を言うと、任命された直後ぐらいまでは護衛役になったことを俺は密かに喜んでいた。

 なにせ、千葉首席の千種明日葉は贔屓目抜きにして美少女だ。

 赤っぽい茶髪に気怠げな瞳は何処か猫を連想させ、細身な体躯とミニスカートから覗くすらりと伸びた美脚は芸術品と言っていい。

 期待しなかったといえば嘘になる。

 記憶にある幼い彼女とは違って、女としての成長を始めている幼なじみ。しかも美少女。そんな人と護衛役として四六時中一緒に過ごす。期待しないほうがどうかしている。

 甘かった。というか忘れてた。

 今でもはっきりと思い出せる。新しい職場に挨拶と、ついでに幼なじみたちとゆっくり再会を楽しもうと鼻歌まじりに向かった執務室。

 そこで俺を出迎えてくれたのは、歓迎のクラッカーでも明日葉からの激励の言葉でもなく、死んだ魚の眼をした次席の姿だった。

 千葉生徒の証である黒の制服に身を包んだ霞は、そのやる気の無い半眼の下にたっぷりと隈をこさえて俺を出迎えてくれた。

 この段階で俺はようやく忘れていたことを思い出したのだ。思い出して、無意識に後ずさった俺はきっと悪くない。

 霞はそんな俺を逃すものかと、俺の両肩に自分の手を添えてガッチリとホールド。なんとか脱出を試みたが、どこにそんな力があるんだといいたいくらいの握力によって阻止された。

 

 ──ああ、忘れてた。

 

 千葉の学科はブラックな職場環境がデフォルトなのだ。

 なら、そのトップたる首席と次席の仕事が楽なはずがない。引きつった笑みを浮かべる俺に霞は言った。

 

「ようこそ。俺はおまえを待っていたよ、親友」

 

 邪な考えを持って仕事に望んではいけないと、俺は心底反省する。

 その日、俺の役職が護衛役兼都市運営補佐になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところでそんな職場環境なのに文句はないのかと訊かれたら、俺は文句はないと即答するだろう。

 ランキング三百位な俺の待遇は控えめに言って悪い。花形の戦闘科なんて夢のまた夢で、使い道のない〈世界〉のせいで他の科を転々としていたからか、陰口だって少なくなかった。まあ、しょうがない。だって本当のことだし。

 それでも現状に満足してたかと訊かれたら、そんなわけはない。戦闘科に興味はなかったが、そこに幼なじみたちがいたとなれば話は別だ。

 やっぱり会いたいし、昔みたいに一緒にいたい。

 だから戦闘科に転属もでき、昔みたいに幼なじみたちと一緒に過ごせる護衛役としての現状や役職に不満はないのだ。年下の、それも女の子の七光りだとか、その兄貴で親友の男の子の腰巾着とか他人に言われても気にしない。気にしないったら気にしない。

 首席の明日葉は言う。

 

「今さらなに言ってんだか、って感じだよね」

 

 次席の霞が言う。

 

「いやいや、本当のことでしょ」

 

 たしかにそのとおりだな、と自分でもそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 改めて語るまでもないが、千葉を纏める最強の称号たる首席の座に着いているのは千種明日葉という少女である。

 まだ高等部に上がりたての十五歳の女の子だが、その強さは文字通り別格。ランキングも三百位の俺と違って堂々の二位。まさに千葉の誇りといっていい。

 そんな首席と俺の関係は簡単に説明するなら、幼なじみという立ち位置になる。

 といっても幼なじみとして一緒にいた時期よりも離れ離れになっていた時期の方が長いので、記憶の中での自分が知る明日葉から今の美少女明日葉になるまでになにがあったのかを俺は知らない。はたしてそんなやつが幼なじみだと言っていいのかは微妙なとこだ。

 ともあれ。

 俺はそんな明日葉の、ついでにその兄貴である霞の護衛役を任されている。

 護衛役とはつまりは二人を守る役職だ。

 外敵から身を挺して守る。なんてかっこいい響だろう。

 

 ──そう考えてた時期が俺にもありました。

 

 かたかたとキータッチの音が狭い室内に響く。

 

「死ぬ……マジで死ぬ」

「おー、死ぬ死ぬ言ってるうちはまだ大丈夫だ」

 

 疲労からテーブルに突っ伏している俺に同い年の親友兼次席の霞が気怠げな声色で追い打ちを叩き込んでくる。鬼か、と俺が答えると、悪魔だと返してくれた。やべぇ、超殴りたい。

 

「……ちなみに根拠(ソース)は?」

「生産科営業開発部のパイセンたち」

「あそこかー」

「俺、人間辞めるのにあそこほど適した場所はないって断言できるわ」

「昔の古巣をよくまあ、そんな遠慮なくディスれるよな」

 

 口を動かしながら俺も霞もキーボードを叩く手は止まらない。個人的にはすっごく止めたいのに、自分の意思とは関係なく指がキーボードから離れてくれないから困る。これが社畜の第一歩なんだろうか。俺はまだ人間でいたいんだけど。

 ちなみに元生産科営業開発部の霞曰く、営業開発部ではこの仕事量が当たり前なんだそうだ。こけた頬を震わせて、隈ができた瞳をキラキラと輝かせ、涙と悲鳴が混ざった笑顔が絶えない職場だったらしい。

 なんてアットホームで明るく愉快な職場なのだろう。できることなら絶対に行きたくないし、関わりたくない。

 

「いや、でも神楽が来てくれて仕事の効率上がったから助かるわ。……代わりに仕事の量も増えたけど」

 

 おう。レイプ目で言うのやめーや。日に日に仕事量が増えてるのは気のせいじゃなかったんかい。

 

「俺の仕事って護衛役のはずなんだけどなー」

「俺の護衛してるじゃん」

「俺の知ってる護衛役って、都市運営の資料作ったり、経費出したりする仕事はないんですけど」

「うちはあるんだよ。諦めろ」

「ファック」

 

 ふと思い出す。自分が護衛役になるきっかけの日を。

 新しい首席が決まってしばらくして、俺の住んでいた男子寮に明日葉が訪ねてきた。

 就任したての新しい首席がカビ臭い男子寮に来たとなって、ちょっとした騒ぎにもなった。しかも要件は俺を首席の護衛役として任命したいというお願い。

 当時の俺には自分が護衛役として選ばれる理由が思い浮かばなかったのだが、その後の説明での好待遇な条件に気づけば首を速攻で縦に振っていた。

 首席と次席が参加する会議には必ず同席すること。また、勤務時間中はどちらかの、できれば二人の側から離れないこと。可能な限り首席たちの仕事を補助すること。

 ざっくりといえば俺の仕事内容はそんな感じだった。

 そんな仕事内容に対して、戦闘科への転属や新しい寮の部屋の提供、そして今までとは比較にならない高時給。正直な話、詐欺を疑うレベルの待遇の良さだ。

 断る理由が見つからない。結果的に騙されたけど。

 

「神楽」

 

 成長して再会した明日葉に名前を呼ばれたのは、思えばそのときが最初だった気がする。

 再会してからずっと苗字で日下(くさか)さん呼ばわりだった。それは明日葉が大人になったからと言い聞かせて、自分の中の寂しさを無理やり誤魔化していた。

 だからそのときの明日葉は普段よりも幼く見えたし、逆に大人びても見えた。綺麗だと思った。懐かしくて涙を流しそうになった。

 明日葉はそっと手を伸ばして、

 

「ついてきて」

 

 その一言で俺は明日葉の手を取った。

 

 

 とまあ、そんな感じで俺は二人の護衛役になった。

 明日葉が首席の仕事を全くしない代わりに、霞が首席と次席の仕事全てを引き受けていたことを知ったのはそれから直ぐのことである。




なんか明日葉がヒロインっぽい立ち位置に見える不思議。

おまけ
本編裏話 護衛役が生まれるきっかけ
霞「仕事終わんない」
明日葉「神楽に手伝ってもらえば?」
霞「明日葉ちゃん。それ採用」

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