どうでもいい世界を守るためにークオリディア・コード 作:黒崎ハルナ
南関東管理局中央塔。〈アンノウン〉からの侵略を守護している防衛三都市を束ねているこの場所は、本当の意味で人類の牙城である。その中枢である管理センターでは、入電とそれに対応する人々の怒声で溢れかえっていた。
事態の異常性を示す計測器は鳴くことをやめず、オペレーターの緊迫した声が飛び交い、関係各所へと走る人々の出入りがひっきりなしに続いている。
そのオペレーターたちよりも一段高い位置にある司令席で、
「ごめんなさい! 通して!」
鋭い声が人垣を分かつ。
カツカツとヒールを鳴らして、
「愛離、無事だったか」
東京が突如〈アンノウン〉によって襲撃され混乱状態になった時、愛離は運悪く東京に居た。その為、愛離も突然の戦火に巻き込まれる形となってしまっていたのだ。報告では戦闘科の生徒たちが非戦闘要員の生徒や教師たちを優先して離脱させたと訊いていたが、正直その姿を確認できるまで求得の心境は不安で一杯だった。
「ええ、何とかね……。それよりも状況は?」
笑顔で返したのも一瞬、直ぐに愛離はモニターへと視線を向ける。
「正直良くはない。ガタガタだ」
同じくモニターに映される赤い光点を見つめる求得の苦い返答に、オペレーターたちが続く。
「どうやら成層圏からの直接攻撃によって東京上空の障壁に直径約五百メートルの穴が開いてしまったようです! 敵はそこから奇襲を……」
「現時点で千葉神奈川に散発した〈アンノウン〉の侵攻及び海ほたるでの戦闘は依然として継続中。加えて、東京上空の敵部隊も未だ……。非戦闘要員の退却は完了したものの、上空からの増援が止まりません」
それらの報告を受けながら、愛離は苛立ちを押し殺すように歯噛みした。
「愛離……。更に悪いことがある」
愛離だけに聞こえるような声量で、求得がさらなる状況の悪化を告げる。
「
「黒い〈アンノウン〉って……まさか!」
「そのまさかだ」
途端、愛離の表情が真っ青に染まった。
──何故。どうして今になって。
そんな不安が胸の中で渦巻く。
「……現在、千葉の日下神楽が単身で対応しているが……正直、あまり時間は残されていない」
「求得!」
普段の彼女からは想像がつかない程の叫び声が、管理センター内に木霊する。声につられて振り返る職員たちの視線を無視して、愛離はじっと求得を睨んだ。
「わかってるでしょ! あれは舞姫や壱弥でも勝てるかどうかわからないような相手なのよ! それをたった一人で……」
「仕方ないだろ! 俺だって退避命令を出した! だけど……」
感情に任せて叫び合う最高責任者の豹変に、その場に居た全員が不安そうな眼差しを二人へ向けていた。
このままではいけない。不安や恐怖というものは伝染する。特にこういったイレギュラーな事態が連続して起きている場合は余計にだ。
愛離は自分の失態に気づいて、すっと息を吐き出した。
「……障壁の回復は?」
「中央装置が破壊されてしまったので早急には……」
オペレーターからの呻く様な報告を聞いた愛離は、自らコントロールルームに向かう。
「私がやるわ。千二百秒で終わらせる。それまでみんなは敵を抑えて、破壊された連絡網の再構築を」
「はっ!」
何枚も同時に展開したホログラムパネルに、愛離は素早く指を這わせて破壊されたプログラムを再構成していく。
目にも留まらぬ手捌きであったが、ふと一つのパネル上で動きが鈍る。
それは、目下交戦中にあるコード利用者の一覧表──新宿区において名が記載されているのは、天河舞姫ただ一人。
東京の強襲により退避を余儀なくされた生徒たちを護るために、舞姫は自らの意思で殿を引き受けた。それがどういうことを意味しているのかを、舞姫本人が一番理解している。
おそらくは、海ほたるで戦っている神楽も最悪を覚悟している筈だ。
愛離は奥歯を強く噛む。
ただ、大切な人と過ごす日常を護りたい。そんな小さな想いで自ら死地に向かう神奈川と千葉の二人の生徒。それをどうすることもできない自分たちの弱さが嫌になる。
取り留めない後悔が胸の奥底から流れるが、そんな考えを愛離は一度捨てた。言い方は悪いが、そんな暇はない。
「舞姫、神楽……」
理不尽に抗う二人を祈る様な呟きが漏れて、パネルを弾く愛離の指は再び加速する。
その時だった。
「海ほたる海岸にて巨大な反応アリ!」
焦った声でオペレーターが叫んだ。中央塔室内に設置された計器が煩いくらいに警報を鳴らしてくる。突然の出来事に困惑しながら、愛離は叫んだ。
「解析を急いで!」
「はいッ!」
まさか、ここに来て新たな敵影が現れたのか。最悪の事態を想定した愛離の表情が歪む。
「解析出ました! これは……千葉所属の日下神楽です!」
オペレーターからの報告を、愛離は素直に信じられなかった。隣にいる求得も同じだろう。
映し出されたホログラムには、日下神楽の身体データが表示されている。
バイタルは危険域に突入し、生きているのが不思議なくらいの出血や怪我をしているのが一目でわかった。
だが、それら全てをどうでもいいと切り捨てられる情報が一つ。
「これは……」
求得が信じられないものを見る目で呟いた。
「神楽の
その数値は、以前の神楽を知る者からしたら比較するのが馬鹿らしくなる程の増幅量だった。
「いったい……
ノイズによってほとんど映らないカメラからの映像を見ていた求特が呟いた疑問に答える術を持つ者は、残念ながらこの場には居なかった。
ただいま。
正直、メモリアと次回の救済のパラノイアに神楽を絡ませるのが不可能な所為でめちゃくちゃあっさり終わりそうな予感。
本編裏話 頼もし過ぎて使えない手札
愛離「海ほたるに増援は送れないの?」
求得「送れるには送れる」
愛離「ならっ!」
求得「千葉の……工科が、新兵器の荷電粒子砲を使いたいから行かせろって」
愛離「……障壁の再展開作業に戻るわ」
求得「ああ、頼んだ」
仮に行かせたら、間違いなく海ほたるが更地になる模様。