一見してその計画は完璧だった。実行者だってそう思った。
しかしそれは確かに完璧であった。もちろん完璧な失敗という意味において。

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リハビリかつ息抜き企画。あるいは既に誰かが書いていそうな展開。


紳士な吸血鬼のお話

 

 

 

「痛ェッ!」

 

ほんの些細なことが少し異なる未来を呼び込む。

それは例えば蝶の羽ばたきであったり、一陣の風であったりする。

今回はそこらに転がる小さな石ころがそうであった。

 

「ぎゃははははは!」

「おい、笑うんじゃねえよッ!」

 

ある港町の路地で一人の男が足元の小さな石に躓いて転んだ。

横に並んだ彼の相棒はその様子を見て笑う。その唐突さがどことなく面白かったためであった。

 

そしてそんな二人組の横を、

 

「ふん」

 

ある青年が両者を見下しながら通り過ぎたことに二人は気付きもしなかった。

こんな未明に酒瓶片手にふらつきながら歩く――もしかしたら浮浪者二人組より怪しいかもしれない身なりのいい――その青年は、そのまま二人組など気にも止めずに去っていった。

 

男が転ばなければ、あるいはその青年とぶつかっていたかもしれない。そして何かしらの言いがかりをつけていたかもしれない。

しかし実際にはそんなことは起こらず、ただ一人の男が転び、もう一人の男がそれを見て笑い、声をあげていただけであった。

転んだ方の男は多少手のひらを擦りむき、笑うだけで助けもしない相棒に腹が立って最初は怒っていたが、相棒の笑い声を聞くうちにどうでもよくなり遂にはつられて彼も笑い始めた。

 

なんてことはない。酒を飲んだ彼らは機嫌がよかったのだ。

 

そして、それはそう悪いことではなかった。

少なくとも、その二人組にとっては幸運なことであった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

下らないものを見た。

 

その青年――ディオにとって先ほど見た男たちとはまさに嫌悪する対象そのものであった。

無様を晒しながらも恥もなく、そして終いには記憶すらも失う。容易に想像できるそんな姿は、かつて彼が幾度となく見たものであり、父と呼ぶのもおこがましい存在が晒し続けた姿でもあった。

 

あいつはそうやって母を殺した。だから毒を薬と言って殺してやった!

思い知らせたのだ、あのクズに! 最期の時も俺にすがりつきながら泣くその姿を笑いながら踏みにじってやったのだ!

 

「ハッ」

 

……そうだとも、殺してやるのさ。そして奪ってやる。

あいつの置き土産というのは癪だが、ジョースターという一族すべてを奪いつくしてやる。あいつではできなかったことを……あいつとは違うことを証明するやるためにも。

 

だが今の自分はなんだ? 何もせずに、腹が立つからと飲んだくれてふらつき歩く。

それは、今の自分がかつてのあいつ(・・・)のような……嫌でも血の繋がっていることを証明しているようで、

 

「くだらんッ!」

 

手にした酒瓶を叩き割る。安っぽい音が響く。

残ったのは酒のベタつきと、しかしそれ以上に嫌悪、ただただ自身に対する嫌悪であった。

 

こんなことになったのはなぜか? そうとも、あの(・・)ジョジョに屋敷で隙を見せたからだ。今もなお自身の迂闊さに腹が立つ。

 

しかし……ならばどうする? こんなところで呑気に、策も講じず自身の破滅を待つだけか? その姿はあいつとどれほど違う?

 

「クソがッ! ……ああそうだとも、こんなことをしている場合ではないのだ」

 

いつ帰るとも知れないジョジョを待つ、それは確かに苦痛であり、無為なことかもしれない。あるいは既に奴は殺されたか野垂れ死んでいるかもしれない。

 

しかし仮に……仮にあの食屍鬼街(オウガーストリート)から戻ったとなればヤツのことである。忌々しいことにも毒薬の手がかりを掴んでいるかもしれない。

 

ならばそれに備えて手はずだけでも整えておかねばなるまい。切るべき手札は確保してあるが万が一ということもある。ならば油断すべきではないのだ。少なくとも……奴の死の確証が得られるまでは。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

そうしてその青年は急いでジョースター邸へ帰宅することにした。

途中ですれ違った二人の男。それは確かに路傍の石に過ぎなかったが、ともすれば彼らのように躓いて転ぶこともあるのだ。特に彼――ディオの場合は致命傷と言うべきものであった。

 

彼が考えたのは、ある重要な前提を一つ失って実行される計画である。

――いかなる秘密、もとい古代人の目的があろうとも仮面に仕込まれた骨針が頭に食い込めば即死は当たり前。そしてこの仮面をどこかの誰かが研究しており、更にそれが過ちとして実行され事故死する。

 

普通に考えればそれは当然のことである。

死を前提とした狂気の実験など行われなかったのだからそうとしか結果を予測できない。結果、そうした当然の推論を前提に計画が練られた。

 

 

一見してその計画は完璧だった。実行者だってそう思った。

しかしそれは確かに完璧であった。もちろん完璧な失敗という意味において。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

食屍鬼街(オウガーストリート)で毒薬の証拠を掴み、邸へ帰ってきた僕を出迎えたのはディオだった。

その穏やかな表情には、彼が為したであろう非道のことなど少しも浮かんでいなかった。

 

彼は、かつて過ごした貧民街がどれほど酷い場所かを語り、それゆえ僕のことが心配でたまらなかったという。

事情を知らなければ彼の口にする通り、その姿は僕たちの無事の帰還を喜んでいるようにしか見えなかった。

 

……しかし、今となってはそうした姿は全て欺瞞だということがわかってしまった。

 

「解毒剤は手に入れたよ……つまり証拠をつかんだということだよディオ……。彼から、この東洋人から君はあの毒薬を購入したんだろう?」

「ッ……」

 

スピードワゴンが連れてきたその東洋人を見て、ディオはわずかに反応した。それを見逃さなかった僕は、遂にディオに対する確証を持つことになった。ただ、それでも、

 

「ディオ……僕は気が重い……。仲がよかったとは言えないが、兄弟同然に育った君をこれから警察につき出さなくてはいけないんなんて」

 

それはとても残念としか言いようのないことだった。

……しかし、父を守るため、そしてジョースター家を守るためにも行うべきことは行わなければならない。それがたとえ彼が相手であっても。

 

僕の言葉を聞いたディオは、近くの椅子に腰掛けて深く息を吐き、腰掛けた。そして、一息置いてから答えた。

 

「ジョジョ……君は、そういうやつさ……その気持ち、君らしい優しさだ。理解するよ」

 

そういって彼はうなだれた。

今、彼が何を考えているのか。それが未だに僕にはわからなかった。

もっと言うと、目の前の兄弟と呼べるほどに同じ時間を過ごした相手がこのようなことをしでかしたなど、未だに信じられない。彼の何を信じればいいのか……それとも、何も信じられないのだろうか。そんな僕の懸念とは別に、ディオは話を続けた。

 

「ジョジョ……勝手だけど頼みがある……最後の頼みなんだ。

 僕に機会をくれないか。父さんに、僕の罪を告白する機会を!

 それが終わってから……すべてを明らかにしてから僕は自首をするつもりなんだ!」

 

罪の告白。それは意外なことであった。

僕は、ディオがこんな態度を取るなんて思っていなかった。てっきり追い詰められた野獣のごとく必死の反撃に出ると警戒していたのに。

 

「ジョジョ! 僕は悔いているんだ、今までの人生を!

 貧しい環境に生まれ育ったんで、くだらん野心を持ってしまったんだ!

 バカなことをしでかしたよ、育ててもらった恩人に毒を盛って財産を奪おうなんて!」

 

「その証に自首するためにジョースター邸で待っていたんだよ。

 逃亡しようと思えば外国でもどこへでもいけたはずなのに! 罪の償いをしたいんだ!」

 

た、たしかに。涙ながらに語られるその言葉の数々に納得してしまった。

顔を合わせたとき、なぜあのように穏やかな顔で僕たちを迎えられたのか? それは彼の口にする通り……ある種の決意の上だったからじゃないだろうか?

 

そして、それはもしかしたら……。

 

「ジョースターさん……気をつけろ! 信じるなよそいつの言葉を!」

「ヌムッ!?」

 

そんな僕を引き止めるように、声がかけられた。

そうして、僕と貧民街から同行した男――スピードワゴンはディオの印象について話した。

彼いわく、ディオは生まれついての悪であり、一欠片たりとも信じることなどできないと断言した。そしてそもそもディオの話になど耳を傾けるべきではないとも言い切った。

 

「ジョースターさん早えとこ警察に渡しちまいな!」

「待ってくれ、ジョジョ! 僕の……僕の罪を知ってほしいんだ! 本当に最後になるかもしれないから父さんに謝罪をしたいんだ! 許してもらおうなんて思っちゃいない!」

 

二人が僕に決断を迫る。

ディオをこのまま警察へと引き渡すか、それとも父の前で最後の告白の機会を設けるか。

 

きっとディオの言葉よりもスピードワゴンの忠告の方が正しいのだろう。有無を言わさずディオを警察に引き渡すことが正解なのだろう。しかし……、

 

「僕は……彼の謝罪を認めようと思う」

 

やはりどうして彼がこんなことをしでかしたのか、それが気になったのだ。

これでも7年間を彼と共に過ごしたのだ。最後になるだろうから少しでも彼のことを理解して別れたかった。

 

「っち、碌なことになんねぇと思うんだが……でも、俺はそういう甘さも含めてあんたを気に入ってるんだ、仕方ねぇか」

 

僕の我儘にスピードワゴンはそう返し、ディオはというと、

 

「ありがとう、ジョジョ……ぅぅ」

 

人目を前にして泣いていた。あの誇り高い彼が!

……やはり、先ほどの言葉は彼の本心だったのだろうか? いや、まだ信じることなどできない。スピードワゴンの言う通りなら、油断すべきではないのだ。

 

「ディオ、最低限の条件として君の腕を縛らせてもらうよ」

「……そうか、しかしそれも当然だな」

 

そう言ってディオは両腕を差し出し、僕はスピードワゴンに渡されたロープで彼の両腕を縛った。……それにしても、先ほどから気になっていたのだが、

 

「そういえばディオ、腕はどうしたんだい?」

「ああこれか? ちょっと手を切ってしまったんだ。大したことじゃないさ」

 

そういって包帯を巻いた腕を少し振るディオ。彼の言う通り大した傷ではないのだろう。

 

「そんなことよりもジョジョ、君は早く父さんのところへ行ったほうがいい。僕が言えたことじゃあないけど、早く薬を飲ませるに越したことはない」

 

……言い返したい気持ちが喉につっかえかけたが、その通りであった。

ディオの容疑の証拠をつかむこともそうだが、それ以上に父を救うことが目的でもあったのだ。一刻も早く解毒剤を飲ませなければならない。既に東洋人自身にその薬を毒味させているので、少なくともその安全性は証明してある。

 

「それじゃあディオを頼んだよ、スピードワゴン」

 

こうして僕は父の部屋へ向かった。解毒剤を飲ませるため、そしてディオの告白以前に掻い摘んだ事情を説明するためだ。

 

「あの男……簡単につかまりやせんよ……まだ諦めておらん……」

 

途中、東洋人の男が何か言っていたように聞こえたが、そんなことよりも、僕は一刻も早く父さんの寝室へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ジョナサンが去った後でも、ディオとスピードワゴン、二人の話は続いていた。

 

「ジョースターさんはあんたの最後の言葉ってことで信じるみてえだが、俺は信じられねぇ。いや、信じるなんて無理だ。当然だな。あんただって同じ立場ならそう思うハズだ。自分が信用に足る人物かどうかなんざ誰かに聞くまでもねえことだろう」

 

それはお前が一番よく知っているはずだ、とスピードワゴンはディオに対して語る。対するディオは、それを裁きの前の罪人の如く粛々と聞き流す。

 

「差し当たって、俺たちを待ち構えていたんだ、凶器を隠し持っているかもしれねぇ」

「……そんなことするものか。調べたければ調べるがいい」

「フン、俺を相手に取り繕っても何の旨味もねえぜ?」

 

そういってスピードワゴンは、ディオの懐や裾の中を調べた。

 

「確かにねえみてえだが……ん? なんだこれ?」

 

上着のポケットから、石でできた仮面のようなものが出てきた。

 

「ああそれか。この館で過ごしていてどうしても気になっていたんだよ。最後になるだろうから購入した本人に詳しく話が聞きたかったのさ。それに……ジョジョもこうしたものについて詳しそうだからね」

「ふーん……まあそれくらいは許してやらぁ」

 

たかが仮面であるのだから。そう思ってスピードワゴンは許可したのであった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

父さんに解毒剤を飲ませ、一息ついたあと、

 

「父さん、話があるんだ。とても残念な……だけど大切な話が」

 

そう切り出して僕はディオの罪の一端を話した。

そして最後に、なぜこのようなことをしたか説明する機会を許してほしいという彼が述べていることを話し、父はそれを許した。

 

こうして、腕を縛られたディオとそれを連れたスピードワゴン、そして毒薬の証人として東洋人の男らが寝室を訪れた。父はディオの痛ましい姿に悲しげな目をしながらも、彼に話すように促した。

 

そうしてディオの話がはじまった。

まず、最後にこうした機会を設けてくれたことに感謝するという言葉を告げ、話は幼少の頃、彼の母を失った当時のものから始まった。

 

それらの原因となったのは、僕の父の命の恩人であったはずのダリオ・ブランド―氏であり、彼について語る言葉の節々にはダリオ氏に対する恨みに伺えた。それはいつか、父へ対する誓いなどできないと僕に激高したことを思い出させた。

 

僕は、ディオにそんな過去があったなんてことは知らなかった。

話してくれなかったというのもあるが、それ以上に僕が彼のことを知ろうともしなかったのだ。

唯一わかっていたことは、彼が父の恩人の息子ということで引き取られたこと、そして最近、ダリオ氏の手紙を読んで知り得たこととして、それがダリオ氏の遺言であったという程度のことだ。

 

加えて、ディオがかつて過ごしていたという貧民街。それは、僕が訪れた食屍鬼街(オウガーストリート)のような場所も多いと聞く。

そのような場所で、今とは異なり、幼かったであろうディオのような子供が生き残るためにはどうするか……いや、どうしなければならなかったのか。

 

簡単だ、人など信用しないことだ。いや、これはできないと言ったほうがいいかもしれない。

 

そう思えば、僕がディオと会ったばかりのころの態度も納得が行く。

彼はきっと、奪うことでしか生きていけなかった。父から与えられた、ジョースター家の一員という立場だってそうだ。僕にとって当たり前のそれは、彼にとってあるいはいつ失ってもおかしくないものだと感じていたのかもしれない。

 

人に対する信用が持てない世界、そこでいったいどうやって生きていくというのか。

……なければ奪って自分のものにする。そうだとも、すべてを奪うのだ。そうしなければ安心できない。そしてそれは同時に、ディオが父さんのことを信じきれなかったことを意味していた。

 

「本当にすまないことをしたと思っている……ぅぅ」

 

その後、ジョースター家の一員となるも、失う不安からか父や僕を信じきれなかった自分を悔いて今回のような出来事に至ったと述べ、最後にディオは泣き崩れた。

 

僕は……ディオのことを知ったつもりでいたが、その実何もわかっていなかった。貧民街のことだってここ最近になって知ったばかりだ。わかっていたのは彼の外面、大学や家で僕と対応するときの彼の姿だけだ。

 

その内面は――もしかしたら出会ったばかりの頃の行動がそうだったのかもしれない。しかしそれらは次第に鳴りを潜め、大学へ入学するころになると影すら見えなかった。人を信じ切れないディオ、僕が彼との間に友情を感じなかったのはきっと、そのためだ。

 

どうして……いや、彼だってこんな状況にでもならない限り話すこともなかったのだろう。彼は人に弱みを見せない、そういう人間だ。そして僕はそんな彼に、彼の性質に気づけなかったというだけのことだ。

 

そうやって僕が考えていること、それは父も同じことを思ったはずだ。父もまた、僕と同じようにそんなディオの思いに気づくことすらできなかった。しかも毒薬を用いるほどに追い詰められていようなどとは思ってもみなかったはずだ。そのことの無念さ、それはきっと僕が想像する以上のものだろう。

 

そして、そんなディオをせめて最後に一度くらいは抱きしめようと父は彼へと近づいた。

許してくれとは言わなかった。だってディオは自分の罪を認めているのだ。仮にその罪が許されたとしても、彼自身がそれを求めるはずがないのだ。誇り高い彼のことだ、きっと自分で自分を許せないだろう。

 

そんな思いを汲みとったのか、ディオも父に応じた。腕を縛られていて難しかったが、それでもなんとか父さんと抱擁を交わした。

 

これが最後になると思うと、少しだけ寂しさがこみ上げてくる。こんなことになってしまったとはいえ、家族だったのだ。別れのその光景が辛くて、僕は少しだけ目をそらした。

 

 

しかしそうやって目を離したのがいけなかったのか、唐突に、彼は抱きついていた父さんを羽交い締めにしたのであった!

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「な、どうしてだ! ディオ! なんでッ!? さっきの告白は嘘だったのか!」

「……いくらかは本心さ。こればっかりは話したくなかったが、そうでもしないと信じてもらえなさそうだったからな」

 

そう呟くディオの姿は、ジョースター卿の影に隠れておりその表情は知れない。

 

「デ、ディオ、こんなことはやめなさい。こんなことをしても……」

 

ジョースター卿は苦しげにディオに語りかける。

 

「俺とてこんなことは……」

 

ディオは彼の言葉に応えるように小さく呟く。

そして、それを彼の後悔と捉えたジョジョもディオを説得する。

 

「そうだとも! そんな無意味なことはやめるんだ! それに君のその行動は……君の父親と何が変わるっていうんだ!」

「黙れッ! 俺はあのクズとは違うッ!」

 

ジョジョの言葉がディオの逆鱗に触れた。ディオは、遂に我慢しきれずその本性を露わにしたのだった。

それは今までジョジョが見たことがない彼の一面であり、その歪んだ表情に思わず言葉が詰まる。

 

しかし、

 

「ジョースターさん! これがヤツの隠していた本性だッ!」

 

スピードワゴンだけは元よりそうしたディオの本性を見抜いており、ジョジョに注意を促す。一方、ディオはそんな彼に対し恨みがましく述べる。

 

「おっとぉ、お前が一番邪魔だったんだよジョジョの友人君。お前さえいなければこんな下らない茶番はせずともジョジョを殺せたというのに!」

「茶番だとッ?」

「そうとも、すべては余計なことを知ってしまったそこのボンクラを消せば済む話! こんな下らない……それに今後も更に面倒事が待っているのだ。これを茶番と呼ばずしてなんと呼ぶッ!」

 

すべてが些事だと語るディオに対し、理解しきれない彼の行動に純粋な疑問を覚えたジョジョが尋ねる。

 

「……どうしてだディオ? なぜこんなことを?」

「“どうして”だと? なんだそれは? そもそもお前に理解なんか求めちゃあいない。それになぁジョジョ、じきに俺の心配などしている場合ではなくなるさ」

「なんだって……?」

 

そう言ってディオは器用にも、懐から石仮面を取り出すのであった。

 

「な……それは……!」

「あの仮面はさっきの……」

 

それは先ほどスピードワゴンが目にした石仮面であった。しかし、それがなぜこの場面で仮面が出てくるのかとスピードワゴンは怪訝な目で仮面とディオを見つめる。

 

「さぁてジョジョ、この状況がどういったものかわかっているか?」

「ディオ、なぜ……なぜ君がそれを……いや、なぜそれがここにあるんだ!?」

「持ち込んだ理由か? それは当然、最後にやりたいことがあったからさ」

「やりたいこと……まさか!」

 

目の前で捕らえられている父と、彼が取り出した石仮面を結びつけジョジョは息を呑む。一方、未だ理解の及ばないスピードワゴンがジョジョに尋ねる。

 

「ジョースターさんッ! この状況からヤツにどうこうできるとは思わねえが……一体ヤツは何をしようとしているんだッ!?」

 

そうした彼らの反応に満足したらしいディオは話を続ける。

 

「青ざめたなジョジョ、理解したようだな……だが一応説明しておいてやろう。事の顛末というやつをな」

 

そう言ってディオは怪我をしていると言っていた腕の包帯を取る。

そこには、「大したことない」とは言えないほどの切り傷が刻まれていた。

 

「そうとも、俺は抵抗した。抵抗したからこそ、この傷を負って逃げ延びたんだ。……まったくジョジョ、酷いやつだな。それにお前の学者としての知識欲は狂気じみているなぁおい」

 

「なにを……なにを言っている?」

 

「お前にとって身近な実験材料とは俺かこいつか、もしくは執事たち使用人だろう。まさか動物で実験するわけにはいくまい。……しかしそうなると、何の恨みもないし可哀想だが使用人も何人か殺しておくかな。フフフ」

 

これまでの態度とは一変して、彼は誰に言うでもなく、さも楽しげに語る。

 

「僕は、昔からあのジョジョという男には粗暴な、いつも恐ろしく感じていた一面がありました。とくに彼が研究室にこもって何かの研究をしているときにいっそう……それがまさかこんなことになるなんて……」

 

努めて真面目そうな口ぶり、しかしそれはジョジョが知るディオという男そのものであった。

 

「……とまあ、そんな風に供述してやるから安心するといい。いつかやると思っていました、とも言ってやろうかな」

 

「すべて演技だったというわけか、ディオッ!」

「そうとも、いまさら気づいたのかマヌケめ!」

 

ひとしきりジョジョを嘲笑したのち、彼は再び語り始めた。

 

「事件の筋書きはこうだ。

 今夜、このジョースター邸でとても奇妙な事件が起きる。家長であるジョースター卿の変死体が見つかり、使用人も幾人か殺された。しかし一人の青年が逃げ延び、後にこの事件の犯人とその真意について語る。

 彼は語る。犯人はジョースター卿の一人息子ジョナサン・ジョースター! 今夜の出来事のすべては彼の狂気によるものだと。……そうとも、今からここで起こることはそういうこと(・・・・・・)になるのさ!」

 

「そんなでまかせに人々は惑わされたりはしないッ! 真実は君が毒薬を父さんに盛ってジョースター家を乗っ取ろうとした! それが真実だ!」

 

「っは、何を言うかと思えば毒薬? それに真実? おいおいそんなでっち上げを法廷は信じるかな? なあおい?」

 

スピードワゴンの傍らにいる、今まで無言を貫いていた東洋人に彼は問いかけた。

 

「……そんなものは知りませぬな」

「なッ、てめぇ!」

「フッ、もはや覆しようがないのさジョジョ! その熱意が仇になったな! 研究者の狂気ってのは人を殺す動機としては十分だと思わないか!?」

 

「ジョジョ、お前は知らぬうちに殺意をも飛び越え実験と称して人を殺した! ここで起こったことはそういうこと(・・・・・・)になる!」

「物的証拠はまず、お前の凄まじい熱意を込めて記されている研究結果さ! そこには人を殺す拷問器具について延々と書かれている! それを見た人々はきっとこう思うだろう。『これほど調べているのならば、実際にどうなるか知りたかったはずだ』とな!」

「そして、既にお前のご大層な研究成果は大学に送ってある。今さらその証拠をどうこうすることもできない! それはお前が証拠だと口にする、苦し紛れのありもしない毒薬と比べてその信憑性は果たしてどちらが上かな? いずれにせよ父殺害の容疑を俺になすりつけようなどと見苦しいことよッ!」

 

未だ生きている父を前にして、のうのうと殺害後の予定について語るディオに対しジョジョは静かに答えた。

 

「……ディオ、すべてが君の言う通りに動くと思っているのかい? そんな虚実を誰が信じる? 真実は決して揺るぎはしない」

「っは、真実なんてものはなァ、法廷で認められたもののことをそう呼ぶんだよォ!」

 

そうディオは叫んで、話は終わりとばかりによりきつくジョースター卿を締め上げた。

 

「さぁてジョジョ、お前のせいで追い詰められたが、しかしお前のおかげでなんとかなりそうだ」

 

そう言ってディオは手に持っていた石仮面をジョースター卿へと装着した。

 

「そこでお前の知りたかったことを代わりに実験してやろう。なぁに、お前が長年抱えていた下らない疑問はこうして実験をすれば一瞬にして解けるというもの。結果は……まあ想像通りになると思うがね」

 

「ディオ! よせ!」

 

ディオは、そんなジョジョの静止の言葉も聞かず、最後にジョースター卿へと語りかける。彼自身、目の前で繰り広げられる会話を前にしてすでに自分の行末を理解しているようであった。

 

「さよならだ、ジョースター卿。俺の……あのクズと違ってあんたはいい父親だったよ」

「ディオ……」

「都合のいい、な」

「やめろォッ!」

 

どうにかして目の前の惨劇を止めようと、ジョジョはディオへ飛びかかった。

 

……だがもう遅かった。

 

傷口が仮面へ近づき、そして血液が石仮面に付着した。

ディオの思惑通り、そしてジョジョの想像通りに石仮面の機構は発動し、ジョースター卿の頭部に骨針が食い込んだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……。

奇妙な光とともに、紳士な吸血鬼が誕生した。

それはもちろん誰しも想定外の出来事であった。

 

…………。

この物語はそんな彼と不思議の都イギリスに潜む摩訶不思議な人々の織り成す奇妙な冒険である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「な、なにィィ!」までがテンプレだけどつづかない(断言)
展開に無理がある? ジョナサンがチョロすぎる? ディオはこのあとどうやって脱出?
特に最後のあたり突っ込みどころ満載ですが、そこらへんは書いてて自分も思った……というか結局思いつかんかった、すまぬ。彼の脱出の手段がなんとかならんものか。そこいらの細かい話……解説?は活動報告のほうに載せてあるのでよかったらそちらもどうぞ。

ともかく、吸血鬼化縛りという詰み状態から卿と対面する&石仮面を持ち込むという展開に持っていくのが難しく、ことさらスピードワゴン周りがひどい結果に。彼なら「こんな怪しいモン回収してやる!」でしょうし、最後の四人くらいの対話場面も難しすぎて彼を上手く登場させられませんでした。口調も多分掴めてない。





以下その後のIF

ディオは混乱に乗じて命からがら逃げ出す。
先の現象、つまり吸血鬼化の真相はわからず、更に石仮面を回収し忘れるという凡ミス。

そうしてしばらくは追跡の手にビクビクする日々を過ごす。酒! 飲まずには(ry
ただしそのうち、ジョジョたちの追求がどうにも温いと感じたディオは探りを入れてジョースター卿の不穏さ、そして石仮面の真相を知ることになる。

その後ディオはジョースター卿を貶める社会的キャンペーンを開催。
彼は、非道な吸血鬼に育てられた可哀想な被害者として振る舞い始める。
それはジョジョのみならず、ジョースター家全体を吸血鬼の一族として中傷するものであった。
ディオは、自身の非道はうっちゃってすべてを邪悪な吸血鬼に押し付けることにしたのであった。
たとえばジョジョの食屍鬼街訪問を怪しげな石仮面研究のためとしたし、あるいは自身が毒薬を用いたことを認めたにしても、それは強大なる吸血鬼に対抗するためだった等と供述する。

そしてそのうち噂を聞きつけてツェペリさん登場。案外ディオが波紋を習う奇妙な物語が始まるかもしれない。
その結末は不明だが、うまくやり過ごして一段落してもストレイツォよろしく憧れの吸血鬼化してしまう更なる凡ミス。そして柱の男登場という最悪なルートへ。
これは波紋以外に対抗策なし、しかし自身はもはや波紋を使えないという詰み状態である。

……こうしてディオの被食者としての運命に抗う物語が始まった。抗え、最後(ry

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