Re:ゼロから始める素晴らしいオーバーロード! 作:梶本 楓
ところで、秋アニメには、なろう産の異世界転生系の作品は無いんですね。
冬には『この素晴らしい世界に祝福を!』第二期が始まりますが、この作品に出てくる三作品が全てヒットしましたので、アニメ業界も虎視眈々と狙っていそうでは無いですか?
そうなると、作者の好きな他作品もアニメ化しないかなぁとか思ったり...。
日暮れの差し掛かった貧民街に、一人の女が現れた。
大きく胸元が開かれた黒い衣装を身に付ける、妖艶な雰囲気を漂わせる黒髪の美女である。
それを目撃したカズマは、心の内で鼻の下が伸びるのを止められそうも無い。
(うぉー!巨乳のお姉さんだぁぁぁ!異世界さいこぉぉぉぉぉぉ!)
あまりにも場違いなテンションのカズマを余所に、その美女はゆっくりと歩みを進める。
「銀髪の...ハーフエルフ...これはツイてるかしら」
口元を隠して笑う美女を前に、サテラは警戒心を高める。それは、その女から漏れる異常性と、生命の危機を感じたからだ。
パックがサテラを庇うように現れ、周囲に漂う。
(リア、この女の人...とんでもない殺気を感じる!)
(うん、分かってる。ねぇパック、後どれくらい顕現していられそう?)
(もっても数分...それ以内に片付けないと勝てないかもしれない...)
(分かった。出来るだけすぐ倒すわよ)
(了解!)
精霊と精霊術師の間に交わされるテレパシーで連絡を取り合った二人は、即座に戦闘体制に入る。
黒ずくめの美女も、懐から何かを取り出――――――そうとして、その瞬間に金髪の変態ことダクネスが剣を降り下ろした。
軌道を描き近付く剣は、見当違いの方向に落ちたが、ダクネスは再び剣を構えると、他の全員を守るように立ちはだかった。
「貴様...腸狩りのエルザだな!」
剣を女に向けながら、ダクネスは叫ぶ。
「あらあら、物知りさんかしら?」
腸狩りのエルザと呼ばれた女は、少し意外そうな顔をした後、探るような目付きでダクネスを見る。
「戯れ言を...!今までの行いを省みてみろ!そして殺した罪無き者達に懺悔を送れ!」
「ふふふっ...どこまでも愚直で、本当に救いようがないわね。クルセイダーと言うのは」
「貴様っ...!それ以上の侮辱は許さんぞ!」
小馬鹿にしてきたエルザを、ダクネスは強く睨んだ。
その両者のピリピリした空気を見計らい、全員が適した位置に移動―――正確にはパックが誘導―――した。
エルザと対面で向き合うダクネスの後ろにサテラ、パックが着き、カズマ、スバル、アクア、めぐみんは更に後ろで待機の命令を出された。
エロいお姉さんがピンチとあってソワソワしているカズマだが、流石にこの女に何かがあるのを感じ取り、じっと谷間を見つめて待機していた。
そうとも知らず、スバルはめぐみんに質問する。
「なぁめぐみん、あのエルザって人、有名なのか?」
「さぁ...私は冒険者として情報収集等はしていませんでしたからね。他の方は知らないのですか?」
「残念ながらこのアクア様と、このバカズマは何も知らないわよ」
「だーれがバカズマだ!この駄女神が!」
「何よ!このっ―――むぐぅ!」
今にも騒ぎだそうとした二人を、スバルとめぐみんの二人で止める。向こうでは真剣なやり取りが繰り広げられているのに、余りにも場違いだと感じたからだ。
カズマを自慢の筋肉で押さえ付けているスバルは、ダクネスを見ながら一人ごちる。
「くそ、何であの金髪女...さっきの残念な雰囲気と正反対に真面目な空気出てるんだよ...」
「クルセイダーとは誇り高き騎士の中でも、特に正義や秩序、慈愛を絶対としますからね。きっと、その琴線に触れる行為をあの女がしたのでしょうね」
スバルの一人言に答えためぐみんは、小柄ながらもアクアに関節技を決めている。
スバルは、ダクネスの正義感からダクネスへの評価を上方修正した後、めぐみんに質問をした。
「皆!俺達も支援できるように準備しよう!めぐみんはアークウィザードなんだろ?何か出来ないのか?」
スバルはめぐみんを見る。すると、めぐみんは待ってましたと言う顔をした後、片手を眼帯に当ててニヤリと笑う。
「ふっふっふ、私こそ、最強の魔法―――爆裂魔法を操りし魔法使いですよ!」
「さ、最強の魔法か!なら万が一にも負けな
「まぁ、撃ってしまえばこの街が消えます」
「絶対に撃つなよ!振りじゃないからな!」
唐突に物騒な事を言い出すめぐみんに驚愕したスバルは、慌てて止めに掛かる。
めぐみんは不満そうだが、実際に街が消し飛ぶ爆裂魔法をここで使う気は無かったので渋々納得した。
「じゃっ、じゃあ他には何があるんだ?」
「何もありません」
「...は?」
「だから、何もありませんって!私は爆裂魔法一筋です!爆裂魔法こそ、ナンバーワンにしてオンリーワン!爆裂魔法以外の魔法は一切習得していません!」
「ドヤ顔で捲し立てんな!くそっ!!」
「ささっ、スバルもレッツ爆裂道へ!」
「出来るか!」
結局何も始まらないまま、ダクネス&サテラ&パックVSエルザが、開始しようとしていた。
ちなみにカズマとアクアは酸欠で死ぬ寸前だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「銀髪のハーフエルフ...更に大精霊...。...エミリア様とお見受けしますが、間違いないでしょうか!」
「...はい。王選候補が一人、エミリアです」
警戒を緩めないダクネスの言葉に、後ろからと言う形でサテラ―――もとい、エミリアが答える。
ダクネスは、エルザを睨みつつ心の中で安堵の息をついた。
「それは良かった...。エミリア様、後ろの者達を連れてお逃げ下さい。私があそこで彼らを引き留めたのもこの状況の原因の一つでしょう...。責任は取ります!ですからエミリア様達はお逃げ下さい!」
ダクネスは叫ぶ。後ろの者達を守るために。
ダクネスは攻撃を当てられないクルセイダーだ。故に、彼女のクルセイダーとしての能力の高さは防御面に偏っている。エルザとは比べ物にならないが、それでも時間ぐらいは稼げる筈だとダクネスは踏んだのであった。
その提案にエミリアは戸惑う。
しかし、それは過ちであった。
「させる訳、無いでしょう?」
エルザが懐から刃物を取り出しダクネスに一気に肉薄する。
「―――っ!はぁっ!」
ダクネスも何とか咄嗟に反応でき、その刃物を自前の剣で受け、弾き返した。
ダクネスは剣で攻撃は出来ないが、防御は可能だ。そこそこ固い鎧や剣は、白金級冒険者に匹敵する。
エルザも想定内だったのか、薄ら笑いを止める事なく、そして休む暇もなく二撃目が飛ぶ。
「うふふ!楽しませてくれるのかしら!」
「ぐぉぉぉっ!!」
左に大きくステップを踏んでからの攻撃にも対応できたダクネスだったが、二撃目の重さに耐えられず、ダクネスの剣は真ん中で折れてしまった。
「チッ!二本目!!」
剣の破損を即座に判断したダクネスは、予備として持ち歩いていたバスターソードを振るう。
しかしそれは見当違いの方向へと向かって行き、エルザへの隙を作ってしまう。
それを見逃さないエルザは、隙を突くように刃物をダクネスの腹部に滑り込ませていく。
ダクネスに焦りの顔が生まれた瞬間、彼女の耳元に何かが通り過ぎる風の音と、冷気を感じ取った。
「っ!もうちょっとで殺せたのにぃ...邪魔しないでくれないかしらぁ?」
苛立つ雰囲気を体外に発するエルザと対峙するのは―――エミリアだった。
チンピラを前にした時と同じように、手を前方に向けた彼女の目の前には、氷の礫が出現しており、それがダクネスを横切りエルザに向かっていったのだ。
「邪魔しない訳には行かないわ!貴女みたいな酷い人に...この人は殺させない!」
尋常じゃない殺気を放つエルザを前に、エミリアは怯まない。これ程の体験を今まで何回乗り越えて来たらこのような精神を身に付けられるのだろうか。
「発想も口振りも幼稚ね。哀れだわ」
そのエミリアを嘲笑するように、エルザは見やる。
両者が睨み合いつつ、小手調べのようにエミリアから氷の礫が射出される。
「あらあら、中々やるのね?」
そんな事を言う割には余裕の表情を崩さないエルザは、礫を回避しながらエミリアに近付いていく。
「私を忘れてもらっては困るぞ!」
そう言ってバスターソードをエルザとエミリアの間に割り込ませたダクネスは、カズマやスバル達を見る。
どうやら、こちらの闘いに完全に意識を持っていかれたのか呆けていたらしい。出来れば完全に巻き込まれたであろう彼らには、逃げてほしいとより一層強く思っていたのである。
仕方ないと割り切って、エルザの攻撃を尽くバスターソードで受けていくダクネス。
その間にも、エミリアは氷の礫を射出していた。
攻撃も防御も奪われたエルザは、回避を取り続ける。
しかし、それもエミリアの誘導であったとは思わなかったのであろう。エルザが逃げた先には、空飛ぶグレイキャット、パックの姿があった。
「これでチェックメイトさ!」
そう言い、エミリアより一回り大きく速い氷の礫が射出される。
「ふふっ、あははははは!!」
それを笑いながら、いなすエルザを見てパックもさすがに苦笑いが浮かぶ。
「はははっ...君、中々に人間辞めてるね...!」
パックの追撃とエミリアの氷の礫を両方とも対処するエルザの動きは、段々と洗練されていく。
「そろそろ本気を出そうかしらぁ?」
ニタニタ笑うエルザから発せられた言葉の意味が分からないダクネスとエミリア。
即座に危険を予知したパックだが、自身の
(まずい...時間が来てしまった...!)
パックが動転している間には、既にエルザはエミリアの首めがけて刃物を振るっていた。
しかし、それは成功しない。
エルザの前には―――エミリアを突き飛ばしたダクネスの姿があった。
「エミリアさ―――」
ダクネスが最後に何かを言う前に、エミリアとの身長差から心臓辺りを切られたダクネスは、鮮血を撒き散らしながら倒れていった。
「っ―――!」
それを間近に見たエミリアは血の気が引く思いだった。
それがいけなかったのだ。
気付けば、エルザはエミリアの腹部を切り裂き、エミリアはそのまま地に伏した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「う、そ...だろ?」
スバルは、目の前に起こった結果を見て呆然としていた。
先程まで普通に生きて、会話をしていた相手が、血を撒き散らしながら動かなくなっている。
そして、それを作り出した一人の女がこちらを向いているのだ。
「次は...貴方達よねぇ?目撃者は殺さなくちゃ♪」
物騒な事を口走るエルザに、スバルは戦慄する。
この異常な光景が自分の前にあるリアルだと思いたくない。そう言う気持ちが心の中を埋めていた。
それはめぐみんも同じだったのか、足が震えている。
ここは男てして...という考えも出てこない程の恐怖に捕らわれたスバルだったが、隣で彼の肩に手を置く者が居た。
「スバル...だっけか?逃げるぞ、アイツは俺達が勝てる相手じゃない」
その手の主は、酸欠状態から解放されたカズマだった。
同じようにめぐみんを説得しているアクアの姿が目に入った。とは言え、あちらは懇願であるが。
「止めときなさいって!死にたくないわよ私!」
「あ、貴女って人は...」
めぐみんに呆れられても涙目を止める事が出来ないアクアは、今にも逃げ出しそうである。
カズマとスバルは考える。
彼らは非力で平凡な日本男児だ。特別な才能も魔法も、何も持っていない『何処にでもいる高校生』である。
だからこそ逃げなくてはならない。恐らくここの誰よりも強い彼女達が敗れた相手に。
怪物は自分達の前に迫ってきている。
それを考えると足が動かなくなりそうだったが、それでも考えを止める事は出来なかった。
そうして思い付いたのはカズマであった。
「よしっ...思い浮かんだ!これから全力であっちに走れ、スバル。俺は俺のやり方でコイツを止める」
「カ、カズマ...!」
スバルはカズマが自分を逃がすために犠牲になろうとしているのかと思い、止めようか迷う。
しかし、そんな間にもエルザは近付いていた。
「早く行け!死ぬ前に!」
「っ!くそっ!必ず、必ず助けを呼んで帰ってくるから!!」
そう言って走り出したスバルを横目で見たカズマは、更に思考を巡らす。
(考えろ、アレは囮だ。エルザの性格からして、スバルを追わない筈が無い。そして俺達もついでに殺すだろう。そうなると...俺達、いや、俺よりも他の奴らが殺す価値のある奴だと教えなくちゃいけないか...)
自分でもビックリするくらいゲスな考えが出るカズマだが、何も完全にスバルを殺すつもりはない。
要はチャンスを作ろうとしているのだ。
今のエルザに隙は無い。少なくとも自分が突ける程度の隙は無いのである。
そうすると、取れる手段は自分でも突ける事が可能な隙をエルザから生み出す事だ。
短い間でアクアと相談していた間に、アクアが死んだ者を蘇生できる事を聞いている。
だから、まずはスバルに死んでもらう。その隙にエミリアとダクネスを蘇生。そこから総力戦に持ち込んで、再びスバルを蘇生する。
助けが来れば更に良いな...とも思いつつ、カズマは叫ぶ。
「おい!アイツがお前の欲してる物を持ってるぞ!」
勿論嘘だ。だが、取り敢えずのその場しのぎに使えるだろう。
そう踏んで言葉を発してから一瞬の出来事だ。
自分の視界が宙に浮かび、首の無い死体をカズマが目にしたのは。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スバルは走る。
密かに一目惚れしたエミリアとダクネスが死に。
異世界で出来た初めての友達が自分の為に囮になってくれている。
こんな嘗めた運命を作り出した神を、スバルは恨んだ。
「くそっ、くそっ、くそっ!!誰か、誰かー!居ないのかぁぁぁっ!!お願いだ!助けてくれぇぇぇ!!」
情けない言葉を叫ぶスバルは、足元にあった小石に気付かずその場に崩れ落ちる。
そして慌てて立ち上がれば。
そこにはエルザが笑っていた。
「うふふ。貴方で...
その、言葉を聞いた直後、スバルは意識が途切れた。
待っていろ―――。
俺が必ず、君を...アイツ等を...。
救って―――。
世界を静寂が支配する。
そして、世界は再び逆転する。