ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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すいません、感想覧にもあったと思うのですが体調崩して投稿遅れてしまいました。

あと今回2万字超えました…結構辛かったw


剛と柔! かくとうポケモンの猛攻!

朝一番にムロタウンにあるポケモンセンターの自動ドアが開きそこから元気に飛び出してくる2つの影があった。。

 

「よーし、準備完了だ! いくぜピカチュウ、早速ムロジムに挑戦だ」

 

「ピッカ!」

 

無論、ジム戦に向けてやる気満々のサトシとピカチュウである。

こんな朝早くからここまでテンションとやる気の高い人物はそうはいないだろう。

そしてサトシとピカチュウに続いてマサトとソラトもポケモンセンターから出てくる。

 

「ふわぁ~、サトシったらやる気満々だね」

 

「そうだな、1つ目のバッジをゲットした勢いのまま次のジム戦に臨みたいんだろうな」

 

流石にサトシほどの元気はないが欠伸をしつつも少しずつ目を覚ましていくマサトと、早起きには慣れているのか何時も通りのソラトだった。

そしてハルカはというと…

 

「ふぁ~、こんな朝早くからジム戦だなんて…」

 

「…お姉ちゃん何持ってるの?」

 

「え? あっ、ポケモンセンターの枕、持っていっちゃう所だった…」

 

とまだ半分寝ぼけており枕を抱えたままポケモンセンターから出てきてしまう所だった。

 

「マサトとハルカはサトシを追いかけて先に行っててくれ。俺はちょっと手持ちのポケモンを入れ替えてくるかさ」

 

「分かったわ。じゃあまた後でねお兄ちゃん」

 

「ソラトもジム戦に備えるんだね。頑張ってね!」

 

「ああ!」

 

ホウエンリーグ出場を目指すサトシ達は、2番目のジムがあるムロタウンにやって来た。

目的は勿論ムロジムに挑戦し、2つ目のバッジをゲットすることだ!

 

朝から元気に走り、すぐさまムロジムに到着したサトシ達。

そのムロジムにはアーチ状の看板が構えられており、そこには「格闘ビッグウェーブ!」と書かれていた。

 

「ここがムロジムか」

 

「格闘ビッグウェーブ?」

 

「ジムの看板に格闘って書くなんて、よっぽどかくとう技に自信があるんだろうね」

 

「こっちは今勢いに乗ってるんだ! 一気に2個目のバッジゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ジムの看板から既に戦略は始まっているのだろうか、マサトが分析して予想を立ててみるが勢いに乗った猪突猛進型のサトシは己のペースで突っ走る。

看板の言葉を真に受けることなくすぐさまジムの扉を叩いて自分の来訪を伝える。

 

「たのもーっ! たのもーっ!」

 

「「「イエーイ!」」」

 

「「「ヒャッホーウ!」」」

 

「ぐえー!?」

 

…扉を叩いていたサトシだったが、中から外へと扉が勢い良く開き人が飛び出してくると、扉に顔面激突してしまう。

不意打ちに?に目を回して倒れてしまうサトシだったが痣の1つもできないとは頑丈である。

 

「ぐぬ~、不意打ちなんて卑怯だぞ~」

 

「おや? 何やってるのキミ? そんな所で寝てると危ないよ」

 

「え? いや俺…」

 

倒れていたサトシに気軽に声をかけたのは、水色の髪を逆立てて額にサングラスをかけており、動きやすそうなピッチリした上着と短パンを履いた背の高い男性だった。

そして後ろに数人の美しい女性がついており、全員サーフボードを持っていた。

 

「キミ、もしかしてウチに用?」

 

「ええ、ジムリーダーはどなたですか?」

 

「ああ、それならボクの事だよ! ボクがムロジムのジムリーダーのトウキだ! キミもしかしてチャレンジャー?」

 

「はい、マサラタウンのサトシです! トウキさん、バトルをお願いします!」

 

目の前の逞しそうな男性がジムリーダーだと分かり、すぐさまバトルを申し込むサトシだったが―

 

「ゴメンよ、今日は凄くイイ波が来ててさ! コレを逃すのはあまりにも惜しいからまた明日来てくれ! それじゃ皆行くぞ!」

 

「「「キャー! トウキー!」」」

 

―と、すぐさま断れてしまいトウキと女性達はサーフボードを抱えたまま海のほうへと走り去っていってしまった。

 

「そ、そんなぁ~…せっかく勢いに乗ってた所なのに」

 

「イイ波って…サーフボードを持ってたしサーフィンしに行くのかな?」

 

「でも生活をエンジョイしながらジムリーダーをしてるのもアリかも! ねぇ、私達も泳ぎに行きましょうよ!」

 

ハルカは以前サメハダーの島でそんなに泳げなかった事が少し心残りなのか海で泳ぐことを提案すると海岸の方へと向かってしまう。

そしてジムの前に残されたのはサトシとマサトだけになってしまった。

 

「どうするサトシ? ジムリーダーがいないんじゃ…」

 

「うーん、仕方ないな…」

 

と、そこへ黒いロングコートがトレードマークのソラトが合流してきた。

ポケモンの交換を終えて後を追ってきたのだろうがジム戦をしていると思っていたサトシがジムの前で立っているのを見て疑問符を頭に浮かべる。

更にハルカも先に海岸へ行ってしまい見当たらないので周りを見渡している。

 

「あれサトシ、ジム戦はしないのか? それにハルカは?」

 

「あ、ソラト。それがジムリーダーが波乗りに行っちゃってさ…明日来てくれって」

 

「お姉ちゃんも泳ごうって行って海のほうに行っちゃったんだ」

 

「ああ、ムロ島はリゾート地としても有名だからな。毎年シーズンには多くのサーファーや水ポケモン使いのトレーナーがやって来るらしい」

 

「でもせっかくジム戦しに来たのに」

 

「まぁどうしてもバトルしたいってなら諦めずにジムリーダーに頼んで見たらどうだ? とりあえず俺達も海岸の方へ行こうぜ。その方が俺にとっても好都合だし」

 

「へ? …まぁそうだな」

 

こうしてサトシ達は皆で海岸へ向かう事にしたのだった。

 

 

 

ムロ島のリゾート地として多くの人に利用されている海岸は多くの人々で溢れていた。

海で思い思い泳ぐ人、ポケモン釣りに精を出す人、砂浜で横になり肌を焼く人、サーフィンで大きな波に乗る人など様々な楽しみ方でムロ島をエンジョイしている。

そしてそんな砂浜にある1つの海の家にあるカップルが入店して周囲を見渡すが店員らしき人の姿は見当たらなかった。

 

「すいませーん、誰かいませんかー?」

 

とカップルの男性が声を出すとカウンターの向こう側からスッと現れる人影が2つ。

 

「誰かいませんかー? と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「売り上げ低下を防ぐため」

 

「お店の安泰守るため」

 

「愛と真実の商売を貫く」

 

「ラブリーチャーミーなバイトさん」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「バイトで稼ぐロケット団の2人にはー」

 

「借金返済バラ色の明日が待ってるぜ」

 

そしてカウンターには出てこないが厨房にてフライパンを振るいつつ働くばけねこポケモン1匹。

 

「あニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

そんな謎の名乗りをするバイト中のロケット団にカップルのお客さんは引きつつもとりあえず注文をしてみるが…。

 

「あ、あの…ミックスオレ2つ…」

 

「「毎度アリー!」」

 

注文をするとムサシとコジロウはすぐさまミックスオレのジュース缶を差し出す。

即座に品物を用意する辺り、店員としての能力は高そうである。…何故普通に働かないのだろうか。

カップルのお客さんは代金を払って商品を受け取ると逃げるように海の家から飛び出した。

 

「「なんか変なバイトー!」」

 

そして厨房からホールの様子を見ていたニャースがポケモンとしての勘で何かを察知する。

 

「ムッ、来たニャ!」

 

「「いらっしゃいませー!」」

 

「おミャーら! 骨の髄までバイトの店員さんになってるニャー! 客が来たんじゃニャくてあいつ等が来たのニャー!」

 

ニャースが指差した先にはサトシ達が砂浜を歩いていた。

そこには勿論ロケット団のお目当てであるピカチュウもいる。

 

「ジャリボーイ!」

 

「こんな所で出会うとは、俺達サーファーだけに波に乗ってるぜ!」

 

「誰がいつサーファーになったのよ」

 

「つまんニャい事言ってニャいでピカチュウゲットの準備をするのニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

かくして今日も今日とてロケット団によるピカチュウゲットのための作戦が始動するのだが、バイトを放り出してしまったためにこの後ロケット団がバイト代を貰えなかった事は言うまでも無い。

そんな事など露知らず、サトシ達は砂浜に到着したためそれぞれの目的を果たそうとする。

 

「海よ海! 早く泳ぎに行こう!」

 

まずはハルカが早速海で泳ごうと服に手をかけて脱ぎ捨てようとする。

が、ハルカは年頃の女の子だりそれは色々と問題がありすぎる。

 

「だ、駄目だよお姉ちゃん!? こんな所で着替えちゃ…!」

 

慌ててマサトが止めようとするが、止めるまもなくハルカは次々に服を脱いでしまう!

 

「大丈夫! ちゃんと中に水着着てるわよ! どう、似合う?」

 

「「ったく…」」

 

予め服の下には水着を着ていたようであり、サトシとマサトはやれやれといったように俯いた。

一方ソラトはモンスターボールを持って波打ち際までやって来ていた。

 

「さぁ、久しぶりの海だ。出て来いヒョウカ!」

 

モンスターボールを投げると繰り出されたのは青い体に長い首、背中の甲羅が特徴的なのりものポケモン、ラプラスである。

 

「キュー!」

 

「久しぶりの海だから存分に楽しんでくれ」

 

「キュキュー!」

 

ソラトの言葉通りならしばらく海で泳いでいなかったのだろう、嬉しそうに笑顔を浮かべるラプラスのヒョウカ。

ラプラスは海に生息しているポケモンなので、故郷に帰ってきたような気分なのだろう。

そこへサトシと、水着に着替えたハルカとマサトがやってくる。

 

「ラプラスだ! ソラトはラプラスを持ってたんだね!」

 

「ああ、ラプラスのヒョウカだ。皆よろしくな」

 

「クゥー」

 

「ラプラスかぁー、俺も昔持ってたなぁ…元気にしてるかなアイツ」

 

サトシはかつての仲間だったラプラスを思い出す。

オレンジ諸島を旅していた頃にいじめられて人間不信になってしまったラプラスを助けて仲間になったのだが、逸れていた仲間を見つけた時に逃がしたのだ。

サトシにとっては共にオレンジリーグを制覇した大切な仲間なのである。

 

「なんだ、サトシもラプラスを持ってたのか?」

 

「ああ、仲間達とはぐれてたんだけどその仲間達が見つかったからその時に別れたんだ」

 

「そうだったのか。寂しいが、仲間といれるならその方がいいだろうからな」

 

昔を懐かしむサトシにソラトは優しく微笑んだ。

実を言うとソラトもサトシのように理由があって逃がしたり、交換したポケモン達がいるのだ。

サトシを見て、別れた自分のポケモン達を思い出しているのだろう。

 

「ハルカ、マサト、よかったらヒョウカと一緒に遊んでやってくれないか? 久しぶりの海だから目いっぱい遊ばせてやりたいんだ」

 

「分かったわ! よろしくヒョウカ」

 

「クゥ!」

 

「ねぇソラト、背中に乗っていいかな?」

 

「勿論。けどあんまり沖には行くんじゃないぞ」

 

「「はーい!」」

 

「クークゥ!」

 

そしてヒョウカはハルカとマサトを背中に乗せて海へと泳いでいった。

しばらくはああやって遊んでいる事だろう。

サトシはサトシの目的を果たすべくジムリーダーのトウキを探す。

 

「トウキさんはどこにいるんだ…あっ、いた!」

 

波打ち際を注意深く探すと、そこには先ほどのトウキが海パン姿でモンスターボールを構えていた。

 

「よし行くぞ! マクノシタ、テイクオフ!」

 

「ノシタ!」

 

モンスターボールから繰り出されたのはこんじょうポケモンのマクノシタだった。

マクノシタはトウキと共にサーフボードに乗ると大きな波に乗ってバランスを取る。

 

「あのポケモンは…」

 

「マクノシタだな。いいバランス感覚だ」

 

「マクノシタ?」

 

サトシは初めて見るポケモンを図鑑で検索してデータを見る。

 

『マクノシタ こんじょうポケモン

何回倒されても諦めずに立ち上がる。立ち上がるたび進化するためのエネルギーが体の中に蓄えられていく』

 

「…でも俺の挑戦を断ってサーフィンで遊ぶなんて。絶対にジム戦を受けて貰うぞ!」

 

「今日は休暇のつもりだったんじゃないのか? まぁ諦めずにお願いすれば気が変わってバトルしてくれるかも―っと、急に風が強くなってきたな」

 

ソラトがそう言うと、突然風が海のほうから強く吹いてきた。

今日の海の潮風は不安定であり、少々油断すると泳いでいる内に沖に流されてしまうかもしれないほど潮の流れは速かった。

だがサトシはそれがどうしたと言わんばかりにトウキの方へ近づき大声を出す。

 

「おーい! 遊んでいる暇があるなら俺とバトルして下さいよー!」

 

「なんだキミか。今日はすげぇビッグウェーブだから逃したくないんだ。頼むから明日にしてくれよ」

 

「ノ、ノシタノシタ!」

 

突然サトシに声をかけられるが、トウキは慣れた様子でやはり明日にして欲しいと返事をする。

一方トウキの隣でサーフィンをしているマクノシタはサトシに気をとられてしまいバランスを崩しかけてしまう。

 

「マクノシタ、下半身のバランスが崩れてるぞ! 周りの事は気にするな!」

 

「ノシタ!」

 

トウキのアドバイスによりすぐに集中し直してマクノシタはバランスを取り戻した。

そしてトウキとマクノシタはひと波乗り終わるとサトシとちゃんと話をつけにサーフボードから降りて砂浜に上がった。

 

「困ったな、今日はでっけぇ波が来てるってのに…サーファーとしては今日は絶対に逃したくないシチュエーションなんだよ」

 

「でも、俺だってはるばる海を渡ってムロジムに挑戦しに来たんです! トウキさん、バトルをお願いします!」

 

「ピカ、ピカピーカ!」

 

お互いに譲れない主張をぶつけ合うトウキとサトシだったが、ソラトも思う所あるのか口を挟む。

 

「トウキさん、俺もチャレンジャーなんです。2人いるので効率良くジム戦を行うためにも今日…午後からでもいいからサトシのバトルを受けてやってくれませんか?」

 

「えー…こりゃまいったな…。うわっと! 何だ、突然風が速くなったな」

 

ゴウッと音を立てながらまるでポケモンのかぜおこしやふきとばしといった技の如く風が強くなる。

次第に海の波は高くなり始めていた。

 

「うーん、この波だとサーフィンするのは危ないかな…」

 

「じゃあ!」

 

「分かったよ、午後からはキミの挑戦を受けるよ」

 

「やったぁ!」

 

「ピッカチュウ!」

 

トウキからジム戦の承諾をしてもらったサトシとピカチュウはガッツポーズを決めて喜んだ。

と、そこへ突然投網が飛んできてピカチュウを捕らえると一瞬でピカチュウを連れ去ってしまう!

 

「ピカッ!?」

 

「なっ、ピカチュウ!?」

 

「何っ!?」

 

「ノシタ!?」

 

ピカチュウは海の上に浮かぶボートへと連れ去られてしまい、そのボートに乗っているのは勿論ロケット団の3人組である。

 

「ニャハハハハ!」

 

「やったわやったわ!」

 

「ついにピカチュウゲットだぜ!」

 

「ソーナンス!」

 

だが黙って捕まっているピカチュウではない。すぐさま10万ボルトを繰り出して脱出を図る。

 

「ピーカ、チュゥウウウウ! ピカァアアッ!?」

 

しかし投網の外へ全く電流が漏れず、逆にピカチュウが痺れてしまう。

 

「この網は電撃を反射するのニャ」

 

「ボスもきっと大喜びよ!」

 

「これでバイト生活ともオサラバだ! がっぼり賞与だボーナスだ!」

 

「幹部昇進支部長就任イイカンジだニャ!」

 

お得意の電撃対策によりピカチュウは抵抗できない事を確信したロケット団は既に勝った気になっており有頂天である。

そんなロケット団にトウキが問いかける。

 

「お前たちはいったい何者なんだ!」

 

「お前たちはいったい何者なんだ! と聞かれたら」

 

「答えてあげるが―」

 

「それはさっきやったのニャー! ピカチュウをゲットできたんだからすぐ逃げるのニャー!」

 

「「そういやそうだ」」

 

さっきやったと言っても聞いていたのはあのカップルのお客さんだけなのだが…とりあえず逃げることにしたロケット団はボートのエンジンを動かしてトンズラする。

 

「「「というワケで帰る!」」」

 

「待てー! ロケット団!」

 

ピカチュウを連れて素早く逃げようとするロケット団だが、海の風は更に強くなり波が高くなる。

そして大きな波が真横からロケット団のボートを直撃するとボートが大きく揺れてバランスを崩してしまう。

 

「「「わたたたたた!?」」」

 

「ああっ、危ない!」

 

「「「どひゃー!?」」」

 

「ピカー!?」

 

「ピカチュウ!」

 

サトシが声を発した直後、更に大きな波がロケット団のボートを襲いボートが転覆してしまい、ロケット団とピカチュウは海に投げ出されてしまう。

更に運の悪い事に海が荒れ、沖のほうからとてつもなく巨大な波が海岸へ迫ってきていた。

 

「あの波! ヤバいくらいのビッグウェーブだ! 皆すぐに陸に上がれ! 海岸から離れるんだ!」

 

「キャー!」

 

「逃げろー!」

 

トウキがそう叫ぶと海で遊んでいた人々はすぐさま陸に上がり、砂浜にいた人々もすぐに海岸から離れた。

海に出ていたヒョウカとそれに乗っていたハルカとマサトもすぐさま砂浜に戻ってくる。

 

「クゥ!」

 

「お兄ちゃん! 早く逃げないと!」

 

「ああ、だがピカチュウが取り残されてる! このままじゃ行けない!」

 

そう、ビッグウェーブがもうすぐそこまでやってきているというのにピカチュウとロケット団はこのままでは逃げることができない。

 

「ピカピー!」

 

「「「あぁああああ! お助け~!」」」

 

「ピカチュウー!」

 

サトシはピカチュウを助けるために単身海に飛び込もうとするがその前にトウキとハルカとマサトに手足を掴まれて引き止められてしまう。

 

「待てってサトシ君!」

 

「そうよサトシ! このまま行ったらサトシも波に飲み込まれちゃうかも!」

 

「他の方法を考えないと~!」

 

「そんな事してたら間に合わないだろ! ピカチュウ~!」

 

もうビッグウェーブはすぐそこまで来ている上に、サトシ達がいる砂浜もこのままでは波に飲み込まれてしまうだろう。

このままではサトシ達も波に巻き込まれてしまうという考えがトウキの頭をよぎったその時、黒い影がヒョウカに飛び乗り風のように海を駆けていった。

 

「急げヒョウカ! 全速力だ!」

 

「クー!」

 

黒い影ことソラトはヒョウカに指示を出すと全速力で海を泳がせてピカチュウの元へ向かう。

そしてピカチュウの元へとたどり着いたソラトとヒョウカはすぐにヒョウカの上へピカチュウを引き上げる。

 

「大丈夫かピカチュウ!?」

 

「ピカ…ピカピーカ!」

 

ピカチュウはヒョウカの上に乗るとホッとした様子を見せると、すぐに大丈夫だ!と言わんばかりに元気をアピールした。

 

「何よ! アタシ達は助けてくれないのー!?」

 

「まぁ何となく予想はしてたけどね…」

 

「ていうか乗せて貰ったとしてもこの波から逃げ切るのはもう無理ニャー!」

 

当然だがロケット団は無視である

波はすぐそこまで来ており、ヒョウカの泳ぎでも最早逃げられない所まで来ていた。

しかも後方の砂浜にはサトシ達がいるため、ソラトはこのまま黙って逃げる訳にはいかなかった。

 

「ピカチュウ! 大丈夫かー!?」

 

「ソラトー! 早くそこから逃げてー!」

 

「お兄ちゃん急いでー!」

 

「仕方ない…海への被害があるからあんまりやりたくなかったが…やるぞ」

 

「クゥ!」

 

ソラトとヒョウカは波から逃げる気配はなく、むしろ立ち向かうように向かい合い目を細めた。

 

「ヒョウカ、ぜったいれいど!」

 

「クゥー! クゥウウウウウウッ!」

 

ヒョウカの体から超低温の寒波が放出され、強烈な冷たい風と白い光が海を埋め尽くす。

あまりの低温と光に陸にいた全ての人々は思わず目を閉じてしまう―

 

「よくやったぞ、ヒョウカ」

 

「キュー、クゥ」

 

―そして目を開けた時、そこには南の島とは思えぬ銀世界が広がっていた。

あるのは完全に凍りついた海とビッグウェーブ、そしてその銀世界の中央にいるソラトとヒョウカ、ピカチュウだけであった。

凍りついた海は日の光を浴びて乱反射した光を放っており、周囲にはダイヤモンドダストが舞っている。

その美しい光景には誰しもが息を呑み、見とれていた。

 

「…すっげぇ」

 

「綺麗…」

 

「ぜったいれいど…当たれば相手を一撃で倒せる技だね…。それでこの辺り一帯を凍らせたんだ…」

 

サトシ達もこの光景を呆然と見ており、思わず見とれていた。

 

「…なるほど、面白い」

 

トウキも普段とは全く違う獰猛な笑みをその顔に浮かべてソラトを見つめていた。

そしてソラトはヒョウカに凍った海の上を滑らせて砂浜に戻らせた。

 

「ピカピ!」

 

「ピカチュウ! ピカチュウを助けてくれてありがとな、ソラト!」

 

「ああ。その代わり、しばらくビーチは使えなさそうだけどな…」

 

ソラトはそう言って周囲を見渡す。

ムロ島の気候は暖かいため、永久に凍ったままということはないだろうがそれでもこの氷が全て溶けるまでには時間がかかるだろう。

 

「すいませんトウキさん、海カチコチに凍らせてしまって…」

 

「いや、ピカチュウを助けるためには仕方の無い事さ。誰も君を責めはしないよ。まぁこれが溶けるのに1週間はかかっちまいそうだけどな」

 

カチコチに凍った海を見て申し訳無さそうに謝罪するソラトに、トウキは笑顔で返した。

大好きなサーフィンが1週間もできなくなりそうなのには流石に苦笑いだったが…。

 

「まあジュンサーさんには俺から後で報告しておくから心配しないでくれ」

 

「ありがとうございます。しかし派手にやっちまったな…厳重注意くらい受けるかもな」

 

やれやれといった具合で頭を押さえてやり過ぎを反省するソラトに、落ち着いてきたのかサトシ達は笑って答えた。

しかしトウキは顔つきを変えると目を細めてソラトを見据えた。

 

「サトシ君、予定通り君とのバトルは午後にするということでいいかな?」

 

「え、はい! お願いします!」

 

「それじゃあ、この海じゃサーフィンもできないし…ソラト君、これから俺とジム戦をしないかい?」

 

「…俺ですか?」

 

サトシとは午後という風に約束をしていたから予定通りなのだが、まさかソラトの方と先にバトルをするとは思わず皆首を傾げる。

 

「さっきの君とラプラスの連携と信頼関係は凄いと思ったんだ。そしてそんな君達の実力が、1人のジムリーダーとして気になって仕方ないのさ。どうかな、バトルを受けてくれないかい?」

 

「分かりました。元から挑むつもりでしたし、よろしくお願いします」

 

「よしきた! なら早速ジムに行こうか!」

 

こうしてまずはソラトとトウキのムロジムのジム戦が行われる流れとなり、サトシ達も共にムロジムへと向かう事になったのだった。

一方で―

 

「あばばばばば…」

 

「つ、冷たい…」

 

「誰か助けてくれニャ…」

 

「ソ~ナンス…」

 

―ぜったいれいどで凍った海の中で一緒に凍りながらもしぶとく喋っているロケット団なのでしたとさ。

 

 

 

ムロジムのシンプルなバトルフィールドで向かい合うソラトとトウキ。

既にお互いモンスターボールを持って準備は完了しており、審判の合図を待つばかりである。

観客席では先ほどまで海岸にいた人々が、ジムリーダーと海を凍らせた黒衣の青年のバトルを見ようと溢れかえっていた。

その1番前の席にはサトシとハルカとマサトもおり、ソラトのバトルを見守っている。

 

「ソラトー、頑張れよ!」

 

「お兄ちゃんいっけー!」

 

「油断しないでねソラト!」

 

それぞれの応援に、ソラトはトウキから視線を外さすに軽く手を振って答えるといつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「それではこれよりジムリーダートウキとチャンレンジャーソラトのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能となった時点でバトル終了とします!」

 

「ソラト君、君の経歴を見させて貰ったよ。それを見て君とのバトルで使うポケモンは俺が持つポケモンの中でも最強のヤツらを使わせてもらうぜ!」

 

「光栄です。俺も全力で行かせてもらいます!」

 

審判の宣言にバトルのための緊張感が高まっていく2人。

周囲で応援しているサトシ達も思わず息を呑んでしまうほどだった。

 

「それでは、バトル開始!」

 

「サワムラー、テイクオフ!」

 

「サワッ!」

 

「モウキン、バトルの時間だ!」

 

「ヴォー!」

 

トウキが繰り出したのはかくとうタイプ、キックの鬼の異名を持つキックポケモンのサワムラー。

対するソラトが繰り出したのはひこう/ノーマルタイプであるゆうもうポケモンのウォーグルだった。

 

「ソラトのポケモンって…」

 

「初めてみるポケモンだわ」

 

「僕もあのポケモンは見たことないや」

 

ポケモンについて色んな事を知るマサトですらウォーグルの姿を見たことはなかったのか目を見開いてウォーグルを見つめていた。

ハルカはポケモン図鑑を開いて検索してデータを見ようとするが、図鑑には「該当データ無し」の文字が浮かび上がっていた。

 

「え? 図鑑に載って無いポケモンなの?」

 

「きっと遠くの地方に生息してるポケモンなんだよ。それか凄く珍しいポケモンかのどっちかだね」

 

ウォーグルの事は一旦置いておき、2人がポケモンを繰り出したのを確認した審判は両手のフラッグを勢い良く振り下ろした。

 

「それではバトル開始!」

 

「モウキン、まずはおいかぜ!」

 

「ウォー!!」

 

ウォーグルのモウキンは力強く翼で羽ばたくと、室内だというのにモウキンの背中を押すような追い風が吹き始めた。

これでまずは素早さを高めて攻めていくつもりなのだろう。

 

「こっちもまずは軽いジャブからだ。サワムラー、ストーンエッジ!」

 

「サーワッ!」

 

サワムラーは突如自分の周囲に幾つもの石の刃を出現させると、それを空中のモウキンに向けて一斉に発射した。

いわタイプの技であるストーンエッジはひこうタイプを持つモウキンにはこうかはばつぐんである。

苦手なひこうタイプへの対策は万全のようだ。

 

「かわせモウキン!」

 

だが易々と当たるソラトではなく、すぐさま回避の指示を出すと素早さが上がって加速したモウキンはストーンエッジの刃を掻い潜りサワムラーに接近していく。

 

「今だモウキン、ブレイブバード!」

 

「甘いぜソラト君! サワムラー、ふいうちだ!」

 

「ヴォー…!」

 

「サイヤッ!」

 

「ヴォッ!?」

 

回避して突っ込む勢いを利用してそのままブレイブバードを放とうとしたモウキンだったが、サワムラーは相手が攻撃技を使う際に使うと必ず先制攻撃できる技、ふいうちを使った。

結果、ブレイブバードより先にふいうちが決まりサワムラーがモウキンを吹き飛ばした。

 

「モウキン、大丈夫か!?」

 

「ウォー!」

 

「よし、まだ行けるな。距離を取りつつもう1度ブレイブバード!」

 

「ヴォオオオッ!」

 

ダメージがそれほど多くなく、まだ戦闘が十分可能だと確認したソラトは今度はふいうちが決まらない距離である空中から攻撃するように指示を出した。

だがそんな直線的な攻撃を黙って受けるトウキではなかった。

 

「正面から来るならこっちだってやってやる! サワムラー、ストーンエッジ!」

 

「サワラッ!」

 

再びストーンエッジを真正面から来るモウキンに放つサワムラー。

一気に向かってきているだけあってこのタイミングで回避するのはほぼ不可能であり、モウキンにストーンエッジが直撃する。

 

「ヴォッ…ウォオオオオオオッ!」

 

「サワッ!?」

 

直撃の衝撃で砂埃が周囲に広がるが、それを切り裂いてモウキンは勢いを緩めずにブレイブバードをサワムラーに命中させた。

 

「サワアアアアッ!?」

 

「サワムラー! 大丈夫か、しっかりしろ!」

 

「サワ…」

 

ブレイブバードはかくとうタイプであるサワムラーにはこうかはばつぐんでありかなりのダメージを受けたがサワムラーはまだ戦闘はできそうである。

そしてモウキンもブレイブバードを命中させた事による反動を受けてしまい更なるダメージを受ける。

現在の状況はモウキンの方が多くダメージを受けておりトウキのペースに見えるが、今の攻防の間にもソラトは追撃に手を緩めない。

 

「根性見せろよモウキン! 更にばかぢから!」

 

「ウォッ、ウォオオオオアッ!」

 

「サッ!? サワーッ!?」

 

サワムラーが立ち上がる所へ追撃をかけるようにしてモウキンは両足に懇親の力を込めてばかぢからを放つ。

見事サワムラーに命中すると、サワムラーは場外まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「サワムラー!? しっかりしろ!」

 

「サワ…ムラ…」

 

壁に叩きつけられて地面に倒れたたサワムラーだったが、何とか立ち上がり跳躍してフィールド内に戻ると肩で息をしながらも再び構えを取った。

 

「まだやるか…モウキン、気をつけろ!」

 

「ウォッ!」

 

「サワムラーがキックの鬼と呼ばれる所以を見せてやるぜ! サワムラー、メガトンキック!」

 

「サワッ!」

 

「モウキン、上昇しろ!」

 

サワムラーがキックの体制を取るとモウキンはすぐさま上昇してキックが届かないように距離を取る。

だがその動きを見てトウキが口端を上げてニヤリと笑った。

 

「今だサワムラー!」

 

「シャッ!」

 

「なっ!? よけろモウキン!」

 

サワムラーは空中にいるモウキンに目掛けてメガトンキックを繰り出すと、バネのように脚が伸びてキックがモウキンへと接近する。

だが間一髪、おいかぜにより素早さが上がっていたおかげかモウキンはメガトンキックを回避することに成功した。

だが…

 

「君らなら必ず避けると思ったぜ! 今だサワムラー、とびひざげり!」

 

メガトンキックを避けるのは予想通りだったのか、動きを先読みしてサワムラーが空中に飛び上がりその膝をモウキンに叩き込む!

 

「サワッ!」

 

「ウォッ!? ウォオオッ!?」

 

「モウキン! とんぼがえり!」

 

「ウォッ! ヴォオオオッ!」

 

「サワーッ!?」

 

モウキンは吹き飛ばされると地面に叩き落されそうになるが、ソラトの声を聞くとカッと目を見開くとギリギリの所で踏みとどまり体勢を立て直した。

そしてとんぼがえりを繰り出してむしタイプの力を纏いながらサワムラーに体当たりを行いそのままソラトの手元へ光となって帰っていく。

とんぼがえりは発動すると他の手持ちと入れ替わる技であるためソラトの持つモンスターボールへと戻っていったのだ。

そして今のとんぼがえりを受けてサワムラーは地面に倒れ動けなくなってしまった。

 

「サワ~…」

 

「サワムラー戦闘不能! ウォーグルの勝ち!」

 

「よくやったな、戻れサワムラー。ウォーグルもかなり消耗してるし、次のポケモンを抑えれば勝機はある! 続いて行くぞエビワラー、テイクオフ!」

 

「エビャッ!」

 

トウキの2体目のポケモンはサワムラーとはある種対となるポケモン、パンチの鬼ことパンチポケモンのエビワラーだった。

また、ソラトもとんぼがえりで戻ったモウキンに代わりのポケモンを繰り出す。

 

「レイ、バトルの時間だ!」

 

「サナ」

 

出てきたポケモンは以前に見た5年前のポケモンリーグでソラトが使っていたサーナイトのレイだった。

モンスターボールから出てきたレイはふわりとスカートのような体を漂わせながら優雅に着地した。

そしてレイはソラトに向かいあうと両手でスカートの裾を掴むようにしながら頭を下げた。

まるでどこかの令嬢が主人に挨拶するような仕草に気品が溢れ出ている。

 

「レイ、お前ならやれる筈だ。よろしく頼むぜ」

 

「サナッ」

 

ソラトもレイにそう言うとレイはまたしても優雅に振り向きバトルに備えた。

と、そこでエビワラーの様子を見ると視線はレイに釘付け。更には目がハートマークになっていた。

 

「エビー! エビエビ!」

 

「サナ?」

 

「エビビ! エビ!」

 

どこに持っていたのかエビワラーは花束を取り出すとレイに向けて差し出して気を引こうとしている。

完全にメロメロ状態であった。

 

「こらエビワラー! これからジムバトルなんだからしっかりしろ!」

 

「エビャ…エビ…」

 

勝手にメロメロになっていたエビワラーだったが、トウキに怒られるとションボリした様子ながらもバトルをするために花束を捨てて所定の位置に戻り拳を構えた。

 

「えー、それではバトル開始!」

 

「レイ、めいそうだ」

 

「サーナー…」

 

改めてバトルが始まると、レイは目を閉じて両手を合わせると心を落ち着かせるようにして特殊攻撃力と特殊防御力を高めた。

だがこの隙にトウキはエビワラーに攻撃の指示を出す。

 

「エビワラー、とびひざげり!」

 

「エッビ!」

 

強烈な膝蹴りが放たれめいそう中のレイにクリーンヒットするが、レイは数メートル後ずさりしただけで特にダメージを受けた様子は見せなかった。

 

「何っ!? いくらこうかはひまひとつだからってそんな余裕で…」

 

「ご存知ないかもしれませんが、レイにかくとう技はほぼ効きませんよ。なんたってエスパー/フェアリータイプですからね」

 

「フェアリータイプ?」

 

聞き慣れないタイプ名に思わず聞き返したサトシだけではなく、トウキや周囲でバトルを観戦していたほとんどの人が首を傾げていた。

 

「ご存知ないですか? 最近発見された新しいタイプですよ。かくとうタイプやあくタイプ、ドラゴンタイプに有効で、どくタイプ、はがねタイプに弱いタイプなんです」

 

「へぇ…そんなタイプがあったとはな。それじゃバトルの続きといこう!」

 

「はい! レイ、めいそう!」

 

「サナ」

 

バトルが再開されるとレイは目を閉じて精神を集中させ、特殊攻撃力と特殊防御力を高めているのだ。

だがそんな隙を見逃すほどトウキは甘くは無かった。

 

「弱点をバラしたのはマズかったんじゃないかな? エビワラー、バレットパンチ!」

 

「エビャッ!」

 

「サナッ!?」

 

強烈なはがねタイプのパンチがレイに突き刺さり、大きく後退しながらレイは苦痛に顔を歪めた。

こうかはばつぐんだが、レイはすぐに表情を引き締めてソラトの指示を待つ。

 

「さっきのソラトの話ならはがねタイプの技であるバレットパンチはこうかはばつぐんだよ! 得意なエスパー技で反撃しないと!」

 

「頑張れソラトー!」

 

こうかばつぐんの技を受けたレイを見てマサトがソラトにアドバイスをし、サトシが声援を送ると、ソラトは相変わらずの不敵な笑みを浮かべて次の指示を出した。

 

「レイ、めいそう!」

 

「サナ」

 

「ええっ!? 何でめいそう!?」

 

「お兄ちゃん、反撃しないとやられちゃうかも!」

 

だがソラトは反撃には出ずに未だにめいそうをさせ続けた。

これには観客席で見ていたマサトも驚きと焦りで思わず立ち上がってしまい、ハルカも不安そうな視線でバトルを見ていた。

 

「一気に押し切れエビワラー! れいとうパンチ!」

 

「エビエビエビ!」

 

今度は冷気を纏ったパンチを放つエビワラーの動きは直線的だが、レイはめいそうを続けており回避せずにまともに受けてしまう。

またしても後ずさりしてしまいフィールドの端にまで押し切られてしまい追い詰められる。

客観的に見ればソラトはレイにめいそうばかりさせており圧倒的に追い詰められているが、不敵な笑みは崩してはいなかった。

 

「レイ、更にめいそう!」

 

「サナッ」

 

「どうしたんだよソラト!? やられちゃうぞ!」

 

だがそれでもめいそうを続けさせるソラトに観客席のサトシは焦りで叫んでしまう。

そしてトウキは一気に勝負を決めるためにトドメの一撃を指示する。

 

「エビワラー、トドメのバレットパンチ!」

 

「エビャ! エービャ!」

 

「サナッ! サ…ナ…」

 

強烈な鋼のパンチがレイに突き刺さり、今度こそレイは倒れてしまう―

 

「レイ、お前を信じている…!」

 

「サナ…サーナッ!」

 

―と思った瞬間、レイは膝に力を入れなおして持ち直した。

その目には闘志が燃え上がっており、ソラトへの絶対の信頼が現れていた。

 

「なっ、まだ戦えるのか!? だったらエビワラー、バレットパンチ!」

 

「エビッ!」

 

「レイ、フィールド全体にサイコキネシス!」

 

「サー…ナァアアアッ!」

 

今度こそ勝負を決めようとしたトウキはエビワラーにバレットパンチを指示するが、その前にレイはバトルフィールド全体に強力な念力であるサイコキネシスを放つ。

強烈な念力はフィールドを引き裂き、エビワラーの足場を奪い技が不発に終わってしまう。

 

「エビーッ!?」

 

「な、なんてパワーなんだ!?」

 

「今だ! ドレインキッス!」

 

「サナ…ナッ」

 

フィールドを引き裂いて空中に弾かれてしまったエビワラーはドレインキッスを避ける事ができず、まともにレイの投げキッスを受けてしまう。

ドレインキッスを受けたエビワラーからエネルギーが発生すると、レイがそのエネルギーを取り込んで体力を回復させた。

めいそうで高めた特殊攻撃力により、エビワラーへ効果的にダメージを与えつつ体力を回復した。

 

「これで五分…いや、流れを掴んでるのはこっちだ! レイ、サイコキネシス!」

 

「サナッ!」

 

「よけるんだエビワラー!」

 

「エビ…!」

 

素早いフットワークでレイのサイコエネルギーを回避していくエビワラーだが、ドレインキッスのダメージが残っているためにか動きのキレが先ほどよりも悪くなっている。

 

「くっ、エビワラー、れいとうパンチ!」

 

「レイ、ハイパーボイス!」

 

「エビャ…!」

 

「サーナー!」

 

れいとうパンチを放って流れを変えようとするエビワラーだったが、その拳が届く前にレイのハイパーボイスがフィールドを奔りエビワラーは動きを止めてしまう。

 

「しまった! 逃げろエビワラー!」

 

「トドメだレイ! サイコキネシス!」

 

「サナナッ!」

 

「エビャー!」

 

動きが止まった瞬間を見逃さずに強烈なサイコキネシスがエビワラーを捕らえると、そのまま場外の壁へと叩きつけた。

そしてエビワラーは完全に目を回しており、戦闘不能となっていた。

 

「エビワラー戦闘不能! サーナイトの勝ち! よって勝者、チャレンジャーソラト!」

 

ソラトが激闘を制し、見事2つ目のジム戦に勝利したのだった。

 

「レイ、よく耐えてくれたな。ありがとう」

 

「サーナサナ」

 

「戻れエビワラー、お疲れ様。ソラト君、いいバトルだったよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

トウキはエビワラーをボールに戻すと全力で戦ったからだろうか晴れ晴れとした笑顔でソラトに近寄り手を差し出す。

ソラトもそれに応えてその手を掴んで固い握手を交わした。

 

「それじゃバッジは後で渡すとして…次はサトシ君だ準備はいいかい?」

 

「はい! よーし、俺もソラトに負けずにバッジゲットだぜ!」

 

ソラトとの試合が終わるとトウキはサトシに声をかける。

サトシもやる気は元々十分あり、更に今のバトルを見たせいでか何時も以上に燃えあがっていた。

 

レイのサイコキネシスで引き裂かれたフィールドを修復し、トウキとサトシはそれぞれモンスターボールを構える。

 

「それではこれよりジムリーダートウキとチャンレンジャーサトシのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能となった時点でバトル終了とします!」

 

「俺の1体目はコイツだ! 行けスバメ!」

 

「スバー!」

 

「今度は負けないぜ、ワンリキー、テイクオフ!」

 

「リキ!」

 

サトシはセオリー通りかくとうタイプに有効なスバメを繰り出して試合の流れを掴む気だろう。

それに対してトウキが繰り出したのはかいりきポケモンのワンリキー。

かくとうタイプのポケモンとしては基本的でありつつも小さな体に凄まじいパワーを秘めている。

ハルカはワンリキーを初めて見たのかポケモン図鑑を開いて検索をかける。

 

「ワンリキー?」

 

『ワンリキー かいりきポケモン

どんなに運動しても痛くならない特別な筋肉を持つポケモン。大人100人を投げ飛ばすパワーを持つ。』

 

「凄い…サトシ、大丈夫なの!?」

 

「へっ、任せとけって! ソラトにも負けられない! こんな試合あっという間に終わらせてやるぜ!」

 

心配して声をかけるハルカにサトシは自信満々にそう返す。

だがその言葉に、ソラトは僅かに表情を厳しくした。

 

「それでは試合始め!」

 

「スバメ、つばさでうつ攻撃!」

 

「スバー!」

 

試合が始まると同時にサトシは速攻をかけ、スバメのつばさが輝きワンリキーに接近する。

 

「来るぞワンリキー!」

 

「リキ! リキーッ!」

 

つばさでうつは見事にワンリキーに命中するとワンリキーは地面を転がるように大きく吹き飛ばされた。

だがワンリキーは先ほどと変わらぬ表情を見せるとスッと起き上がった。

興奮しているサトシはワンリキーの余裕そうな表情に気づいていないが、トウキは口角を上げて僅かに笑っていた。

 

「いいぞスバメ! もう1発つばさでうつだ!」

 

「スバッ!」

 

「リキーッ!」

 

再びつばさでうつがワンリキーを打ち据え大きく吹き飛ばした。

またしてもゴロゴロ転がるように吹き飛ばされたワンリキーだが、その勢いを利用したかのように再び立ち上がった。

それを見て、ソラトは大きく目を見開いた。

 

「トウキさん、さっきの俺とのバトルと戦法が違う…」

 

「え?」

 

「どういう事ソラト?」

 

「…見ていれば分かる」

 

何かトウキの様子が先ほどと違うと感づいたソラトだが、試合をしているサトシはガンガン押しているこのペースを維持するために連続攻撃を仕掛けていた。

 

「相手が反撃してこない今がチャンスだ! 連続でつばさでうつ!」

 

「スバスバスバー!」

 

「リキリキリキーッ!」

 

3連続で翼をワンリキーに叩きつけるスバメだが、ワンリキーは地面を転がるとすぐに立ち上がり大きなダメージを受けた様子を見せなかった。

流石にこうかばつぐんの技をこれだけ受けても立ち上がるワンリキーを見てサトシも動揺する。

 

「そんな! 何で立ち上がれるんだ!?」

 

「スバメの攻撃は、当たってないんじゃない!?」

 

「いや、当たってはいる。だがワンリキーは攻撃がヒットする直前に後ろに跳んで、衝撃を和らげている。ダメージは最小限になっている筈だ」

 

サトシとマサトの疑問に答えたのは、冷静な観察眼でトウキの戦法とワンリキーの動きを見切ったソラトだった。

ソラトの言うとおり、ワンリキーはスバメの攻撃の全てを受け流していたのだった。

 

「だったら次はスピードで勝負だ! スバメ、でんこうせっか!」

 

「ワンリキー、クロスチョップ!」

 

「スバーッ!」

 

「リキー! リキッ!」

 

「スバッ!?」

 

スバメが高速で下降し、でんこうせっかを繰り出したのを待ち構えて交差したチョップで迎え撃ったワンリキー。

正面からのぶつかり合いならばワンリキーの方に軍配が上がり、スバメは吹き飛ばされて戦闘不能になってしまう。

 

「ああっ、スバメ!」

 

「スバメ、戦闘不能! ワンリキーの勝ち!」

 

「ワンリキー、よくやった!」

 

「リキリキ!」

 

先鋒戦を制したのはトウキのワンリキーだった。

先ほどの自分とのバトル、そして今のバトルを観察したソラトはある1つの結論にたどり着いた。

 

「なるほど、あれがトウキさん本来のバトルスタイルって事か」

 

「えっ、どういう事なのお兄ちゃん?」

 

「さっきの俺とのバトルは力と力のぶつかり合い、云わば剛と剛の戦いだった。だが今のトウキさんはその逆、柔の戦いをしている。相手の力を受け流し、ここぞという時に全てをぶつけるあの動き…サーフィンで培われた足腰が活きているな」

 

「別にさっきの戦いも俺の全力さ。ただ、剛の戦いは俺も熱くなり過ぎちゃうから中々しないんだけどね」

 

「なるほど…サトシにとっては相性の悪い相手だな。さてどう出るサトシ…?」

 

ソラトの分析に対して否定をしないところを見ると、それは概ね当たっているのだろう。

それを確認したソラトはサトシが次にどんな手を取るか目を細めて観戦する。

 

「攻撃をかわす内にいつか疲れが出るはずだ。ここは真正面から連続攻撃だ! キモリ、キミに決めた!」

 

「「ええっ!?」」

 

「…」

 

作戦を変えないと言うサトシはキモリを繰り出して次の戦いに備える。

ハルカとマサトはサトシの作戦続行に驚きの声をあげ、ソラトは無言でフードを目深に被った。

 

「キャモ!」

 

「キモリ、はたく攻撃だ!」

 

「キャーッモ!」

 

「リキー!」

 

サトシはキモリに真正面からはたくで攻撃をさせるが、結果は先ほどと同じように受け流されてしまいほとんどダメージになっていなかった。

それでもキモリのはたく攻撃のキレに何か感じる所があったのかトウキは感心した表情になる。

 

「ほぅ、中々良いはたくだね」

 

「キモリ、攻撃の手を緩めるな! はたくはたくはたくだ!」

 

「キャモキャモキャモ!」

 

「リキ、リキ…リキ…!」

 

「あっ、ワンリキーの動きが!」

 

攻撃を受け流していても全くダメージを受けていない訳ではない。

更にサトシの言うとおり大きく動いていた事による体力の消耗からワンリキーの動きが止まった。

待っていたその隙を、サトシは見逃さない。

 

「キモリ、でんこうせっか!」

 

「かわせワンリキー!」

 

「キャモキャモ!」

 

「リキ!」

 

キモリの素早いでんこうせっかが放たれるが、間一髪でワンリキーは攻撃を避ける。

 

「今だ、はたく攻撃!」

 

「何っ!?」

 

「キャーモッ!」

 

「リッキー!?」

 

だが接近していた状況とスピードが乗っていた事を利用してキモリは大きく体を捻ってはたく攻撃を繰り出すと、ワンリキーを大きく吹き飛ばす。

今度は間違いなくクリーンヒットした。

そしてワンリキーは蓄積していたダメージが祟り、立ち上がる事はできなかった。

 

「ワンリキー戦闘不能! キモリの勝ち!」

 

「戻れワンリキー」

 

「どうだ、俺の言ったとおりだろ! これで1対1だ!」

 

「面白くなってきたな。波は危険で大きなビッグウェーブほど、ライドのし甲斐があるってモンさ」

 

「サトシ挽回してきたわね!」

 

「うん!」

 

ワンリキーを倒し、勢いづくサトシとその勢いに負けず不敵な笑みを浮かべているトウキ。

観客席のハルカとマサトも希望が見えてきた事を喜び、笑顔を浮かべている。

そんな中、ソラトだけはフードの下で目を細めてキモリを見ていた。

 

「マクノシタ、テイクオフ!」

 

「ノシタ! ノシ、ノシ!」

 

「キモリ、はたくで一気に決めてやれ!」

 

「キャーッモ!」

 

キモリは力強くはたく攻撃を繰り出すが、マクノシタは先ほどのワンリキーと同じように転がるように攻撃を受け流してしまう。

身のこなしはワンリキー以上であるため、先ほどよりもダメージや疲れは期待できないだろう。

 

「いいぞ、サーフィン仕込みの身のこなしで受け流せ!」

 

「クソッ! はたくはたくはたくだッ!」

 

「キャモ…! キャ…!」

 

受け流しを続けるマクノシタに対してそれでも真正面から攻撃を繰り出すことにこだわるサトシだったが、キモリのスタミナが切れてしまい、キモリはその場に方膝を着いてしまう。

 

「どうした? その程度かい?」

 

「キモリ、でんこうせっかだ!」

 

「マクノシタ、あてみなげだ!」

 

「キャモ! キャモッ!?」

 

「ノシタ!」

 

でんこうせっかを繰り出すキモリに対してマクノシタは優れた体格でそのスピードを受け止めると、首を掴んでキモリを地面に叩きつけた。

まともに攻撃を受けてしまったキモリに、もう立ち上がる力はないと誰もが思っていた。

 

「どうやらこの勝負、ここまでみたいだね」

 

「キャ…キャモ…!」

 

「何ッ!?」

 

だが、キモリは立ち上がった。

全身ボロボロで、誰が見ても慢心相違でもうほとんど戦えないのは目に見えていた。

それでもサトシはまだ勝負がついていないのが嬉しかったのか闘志を燃やす。

 

「いいぞキモリ! お前の根性は世界一だぜ! …えっ!?」

 

「なっ、マクノシタ!?」

 

キモリが立ち上がった事に気をとられていたが、マクノシタの体が輝きだし、徐々に姿を変え始めた。

これは紛れも無く進化の光だった!

 

「ハリーテ!」

 

「マクノシタがハリテヤマに進化した!」

 

「ハリテヤマ?」

 

『ハリテヤマ つっぱりポケモン

マクノシタの進化系。

肥った体は全身筋肉の塊。ぐぐっと全身に力を込めると筋肉は岩と同じ硬さになる。』

 

「今のキモリにハリテヤマの相手は無理だ。キミのビッグウェーブはもう去っちまったんだぜ」

 

バトルそのものの流れもトウキが掴んでおり、ポケモンの体力もキモリはもう僅かしか残っていないだろう。

更に進化してパワーアップしたハリテヤマが相手では最早サトシに勝ち目は無い。

ギブアップするのが当然の流れだろう。

だが―

 

「そんなこと無い! キモリ、エナジーボール!」

 

「キャーモ!」

 

「ハリーテッ!」

 

キモリはエナジーボールを撃ち出すが、ハリテヤマはその手の平でエナジーボールを容易く受け止め掻き消してしまう。

そしてトドメの攻撃態勢に入る!

 

「ハリテヤマ、つっぱりだ!」

 

「ハリハリハリ、ハリーテ!」

 

「キャモー!?」

 

4連続のつっぱりが決まり、キモリはフィールド外に叩き出されてしまい壁に激突する。

今度こそ立ち上がる力は残っていなかった。

 

「キモリ戦闘不能! ハリテヤマの勝ち! よって勝者、ジムリーダートウキ!」

 

「キモリ!」

 

「良いバトルだったよ。早くキモリをポケモンセンターに連れて行ってやるんだな」

 

そう言い残すとトウキはジム戦に勝利したソラトに持っていたナックルバッジを差し出す。

 

「ソラト君、これが―」

 

だがソラトはトウキの言葉を手で制するとフードの端から見える口を、僅かに吊り上げてこう返した。

 

「そのバッジは、また後日取りに来ます。…アイツと一緒に」

 

ソラトの言うアイツというのが誰の事なのか、そしてどういう意図があってなのかを察したトウキはフッと微笑むとバッジをしまう。

 

「分かった。それじゃその時までこのバッジは預かっておくよ」

 

「はい」

 

「……くっ」

 

そしてサトシは悔しそうにキモリを抱え上げ、ポケモンセンターに向かうのだった。

 

 

 

日も傾き始めた頃、キモリはポケモンセンターで治療を受けていた。

 

「ジョーイさん、キモリは…」

 

「体に異常はないけど、ポケモンがこんなになるまで試合を続けるなんてどうかと思うわ。しばらくはゆっくりさせてあげてね」

 

一通りの治療を終えたジョーイさんはキモリの病室から出て行くと、傍で控えていたハルカとマサトがサトシを励まそうと声をかける。

 

「ジョーイさんの言うとおりよ」

 

「熱くなりすぎちゃったね。引き際も肝心だよね!」

 

だがまだ熱が抜け切っていないのか、サトシは悔しそうに歯を食いしばりながら顔を上げると大声で反論した。

 

「…皆に何が分かるんだよ! あともうちょっとだったんだぞ! なのに、あんな遊んでばかりのジムリーダーに負けるなんて…!」

 

「サトシ、ちょっと頭を冷やし―」

 

「うるさい!!」

 

「ピカピ!」

 

自分は必死に修行してきて、バトルをしたのにサーフィンで遊び呆けているようなトウキに負けたのがどうしても納得できないのだろう。

ハルカがサトシを落ち着かせようとするが、サトシはそれすらも聞き入れずにポケモンセンターを飛び出していってしまった。

ピカチュウはサトシの後を追うが、ハルカもマサトもあまりの事にその場を動けずにいた。

 

そしてサトシはトボトボと海岸線を歩いて気を紛らわせていた。

サトシだって分かっている。熱くなりすぎてキモリに無茶をさせてしまい、心配して元気付けようとしてくれたハルカとマサトに酷いことを言ってしまったと。

 

「ピカチュウ、俺…キモリに酷いことしちゃったよ。ハルカとマサトにも酷い事言って…」

 

「ピィカ…ピ?」

 

「えっ?」

 

ピカチュウの声に反応してサトシが顔を上げると、そこには砂浜にある大きな岩に座って海風を浴びているソラトが居た。

まるでサトシを待っていたかのように佇んでいたソラトは、サトシが来たのに気がつくとフッと優しく微笑んで被っていたフードを外した。

 

「サトシも座れよ」

 

「え、あ、俺……」

 

「ピッカ」

 

「……」

 

どうすればいいか分からないサトシだったが、ピカチュウがソラトの隣に座ったのを見て戸惑いつつもピカチュウを挟みソラトの隣に腰を降ろす。

 

「…その、俺」

 

「独りよがりだった…だろ?」

 

「え」

 

「バトルはポケモンと一緒にするもので、自分のポケモンの事も相手のポケモンの事も考えなきゃいけないのに、自分の事しか考えてなかった。違うか?」

 

まるでサトシの考えを何もかも見抜いているような、そんな口調で語りかけるソラトはとても優しく笑っていた。

サトシも誰かに話がしたかったのか、そこまで見抜かれているなら仕方ないと思ったのか、ソラトに全部話す事にした。

 

「…うん。俺、仲間たちに酷い事しちゃったし、トウキさんにも失礼な事思ってた…トレーナー失格だよ」

 

「失敗したなら糧にすればいい。間違ったなら正せばいい。ダメだったならまたやればいい」

 

「……」

 

「俺は5年の旅で自分にそう言い聞かせてきた。オヤジを追う上で何度も失敗して、間違って…真っ暗で何も見えないような絶望した事もあった。でも、真っ暗だからこそ小さな光明ですら必ず届くんだ」

 

そこまで言うと、ソラトは岩から立ち上がって波打ち際まで足を進めて振り返った。

綺麗な赤い夕日がソラトを後ろから照らして輝かせる。

だがサトシはそんな夕日とは関係なく、何故かソラトの事をとても眩しく感じた。

 

「…お前は、諦めるにはまだ若すぎるぜサトシ」

 

夕日を背にしてニッと笑いながらソラトがそう言うと、サトシは心の中に何かが芽生えたのを感じた。

何か…というのを言葉で表すことはできないが、とにかく自分の中で、今までになかった何かが生まれたのを感じたのだ。

 

「ソラト…」

 

「ほら、後ろ」

 

「えっ?」

 

サトシが後ろを振り返るとそこにはサトシを追って今ここに来たのか、ハルカとマサトが立っていた。

罪悪感から一瞬居たたまれなくなるサトシだが、そんな想いを振り切ってハルカとマサトに頭を下げる。

 

「ハルカ、マサト、さっきはゴメンな」

 

「「え?」」

 

「俺、皆が許してくれるなら、この島でポケモン修行がしたいんだ」

 

先ほどまでと雰囲気が丸っきり変わり、真剣かつ前向きな表情になったサトシを見て、ハルカもマサトももう吹っ切れたのだと察した。

そして笑顔を浮かべ、こう答えた。

 

「許すも何も、大賛成よ」

 

「うん! この島珍しいポケモンもいそうだしね!」

 

「ありがとう! よーし、俺もトウキさんに負けないように頑張るぞ!」

 

試合に負けて、更なる闘志を燃やすサトシ。

ムロ島での修行の日々が、今始まろうとしていた。

 

そして、己の中に芽生えたある想いに気がつくのは…今はまだ先の話である。

 

 

 

to be continued...




次回はあの方が登場しつつ、アレのお披露目になります。

あの方→結局僕が1番凄くて強いんだよね。

アレ→進化を超えろ!
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