ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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前回の話にあった5年前の回想でソラトがルチアに対してどこかぶっきらぼうな態度はまだソラトが精神的に幼い所があったのと、旅が始まったばかりでアラシの手がかりが全く見つかっていないという苛立ちからあんな口調や態度になっていたんです。
遅いですがここで補足しておきます。


カイナを跳ぶ赤い影

人が静まり返った深夜。カイナシティの港町に夜間航行していた船が到着した。

ジョウト地方から荷物を運んできた大きな船であり、これから朝になるまでに荷物を降ろしてそれぞれの配達先に物を運ばなければならない。

この船の乗組員である船乗りの男も自慢の筋肉で荷物を担いで船から降ろしていく。

そして同じく荷物を降ろしている自分の相棒にも声を掛ける。

 

「おいカイリキー、次の荷物を頼むぜ」

 

「リキ! リキリキ!」

 

「おぉ、張り切ってるなカイリキー。仕事が終わったら特製のポケモンフーズを用意してやるから頑張ってくれよ!」

 

「リッキリキ!」

 

彼の相棒はかいりきポケモンのカイリキー。その自慢の4本の腕で荷物を沢山持ち次々に荷物を降ろしていく。

船乗りの男とはワンリキーだった頃からの付き合いであり、大切な、自慢のパートナーである。

それは今しがたのやり取りからも見て取れ、お互いに肩を組んで笑いあっていた。

 

そして、その様子を船に積まれている荷物の上から見下ろす影があった。

 

「……ッ!」

 

影は目にも留まらぬ素早さで荷物を駆け下り、一気に船乗りの男とカイリキーへ向かって奔る。

 

「リキッ!?」

 

「どわっ!? な、何だ!?」

 

鋭い一撃が影からカイリキーに向けて放たれるが、それを察知したカイリキーはトレーナーである船乗りの男を庇い腕でその一撃を防御した。

突然の事に驚く船乗りの男だったが、何者かから攻撃を受けたのは理解できた。

 

「な、何だおめーは!? やる気か!?」

 

影はカイリキーに一撃浴びせると即座に距離を取り2人の様子を伺っていた。

夜の闇に紛れているため正確な姿は分からないがその影は鋭いフォルムをした赤い色をしている。

 

「ッ!」

 

「来るぞカイリキー! からてチョーップ!」

 

「リッキャ!」

 

再び此方に接近してくる赤い影を迎え撃とうとカイリキーはからてチョップを放つ。

射程範囲に入った瞬間に腕を振り下ろしたが、目の前にいた筈の赤い影が消えた。

 

「リキッ!?」

 

からてチョップは空振りし、周囲を見渡して赤い影を探すものの見当たらない。

だが―

 

「うぎゃっ!?」

 

背後にいた筈のパートナーである船乗りの男の悲鳴が聞こえたため振り返れば、そこには赤い影に殴り倒されたのだろう…船乗りの男が頬を腫らして倒れていた。

 

「リキ…! リキャァアアアアアアア!」

 

大切なパートナーを傷つけられた怒りから、カイリキーはあらん限りの力を込めて咆哮する。

きあいだめを行い攻撃を急所に当てやすくすると、全身全霊の力を振り絞りインファイトを放った―筈だった。

技を放つ前に赤い影からの高速の攻撃を受けたのだろう、痛みを感じたカイリキーは膝を折りその場に崩れ落ちた。

パートナーの為に全身全霊を賭けて赤い影に立ち向かったカイリキーを見下ろす赤い影の瞳に侮蔑の感情が篭っていた。

そして赤い影は水面に映る自分の姿を確認すると更に目つきを鋭くさせつつその場から立ち去った…。

 

 

 

 

 

カイナシティで行われるポケモンコンテストカイナ大会に出場するハルカは、ソラトとルチアという頼もしいコーチを得て日々特訓に励んでいた。

今日も街の外れで技を磨き、日が暮れてきたためルチアを彼女が泊まっているホテルまで送っている所だった。

 

「ん~! 今日も疲れたかも…」

 

「でも技は少しずつ仕上がってきてる。これならコンテストまでには例の技の完成が間に合いそうだな」

 

「うんうん。私もうかうかしてられないね。バチバチ☆強敵ライバル参上!って感じかな!」

 

ソラト、ルチア、ハルカは歩調を合わせながらハルカのコンテストへ向けての練習について話し合い、明日以降の練習内容を考えていく。

しかしそうこうしているとすぐにルチアが泊まっている高級リゾートホテルの前へと到着してしまった。

 

「…もう着いちゃったかぁ。残念」

 

「残念って…何でだ? 明日もハルカの練習に付き合ってくれるんなら会えるだろ?」

 

ホテルに到着した事を何故か残念そうにしているルチアにソラトが問いかけるも、ルチアはふうせんポケモンのプリンのように頬を膨らませて不満である事を主張した。

 

「そうじゃなくて…! その、あの…もうっ! 女の子には色々あるんだよソラトくん!」

 

「……?」

 

恋する女の子は少しでも好きな男の子と一緒に居たいのだが、ソラトにはそれが伝わっておらず首を傾げていた。

そんなソラトに更に頬を膨らませてしまうルチア。しかし今はこのままの関係を満喫したいと思い頬を元に戻してニコリと笑った。

 

「まぁ、今はいいや。それじゃあね、ソラトくん、ハルカちゃん! また明日!」

 

「おう、またな」

 

「…はい、ルチアさん」

 

ソラトも笑いながらルチアに手を振るが、ハルカは困ったような笑顔で手を振った。

大好きな兄貴分であるソラトと憧れの先輩であるルチアの関係が、ルチアのソラトに対する気持ちがどんな物なのかというのがハルカには手に取るように分かっていた。

今はコンテストに集中しなければと自分に言い聞かせて複雑な気持ちを押し殺した。

 

「それじゃ、ポケモンセンターに帰るか。サトシとマサトも待ってるだろ」

 

「うん、一緒に帰ろう」

 

すっかり暗くなってきた道を歩きながら、先にポケモンセンターに帰ったサトシとマサトの元へと足を進めるソラトとハルカであった。

 

 

 

 

 

一方のサトシは次のジム戦に向け、ポケモンセンターの横にあるバトルフィールドを借りてポケモン達を鍛え上げていた。

ソラトに教えて貰った修行法でヘイガニと共に、ピカチュウ、ジュプトル、スバメとバトルを繰り広げている。

 

「ヘイガニ、バブルこうせん!」

 

「ヘーイガッ!」

 

「スバッ! スババッ!」

 

空中を飛ぶスバメに向かって鋏を開いてバブルこうせんを放つ。

しかし素早く三次元的に動くスバメはヘイガニの攻撃を華麗に避けると反撃のために翼に力を込める。

 

「つばさでうつが来るぞ! ヘイガニ、はさむ攻撃!」

 

「ヘーイ!」

 

スバメのつばさでうつのカウンター攻撃を鋏で挟んで受け止めたヘイガニだったがそれを見逃すピカチュウとジュプトルではない。

 

「ピ~カ~ヂュゥウウウウウウウウウ!」

 

「ジュラッ! ジュラァ!」

 

かみなりを放つピカチュウとリーフブレードを構えるジュプトル。

スバメの攻撃を受け止めて防御していたヘイガニはこのままではこうかばつぐんの攻撃を同時に受けてしまう事になってしまう。

だが、そうならないためにサトシが居る。

 

「ヘイガニ! スバメを投げ飛ばして前にダッシュ!」

 

「ヘイ! ヘイヘイヘイ!」

 

「スババ~!?」

 

鋏を振り回してスバメを投げ飛ばして動けるようになったヘイガニはサトシの指示通り前方へダッシュする。

上空からヘイガニを狙っていたかみなりは外れるものの、ヘイガニの眼前にリーフブレードが迫る。

 

「迎え撃てヘイガニ! クラブハンマー!」

 

「ヘイヘイヘーイ…ガッ!」

 

「ジュラァ!」

 

ヘイガニの水の力を纏ったクラブハンマーとジュプトルの草の力を纏ったリーフブレードがぶつかり合う。

ビリビリと周囲に衝撃が広がり、ヘイガニとジュプトルはお互いに弾きあって距離を取った。

 

「よーし、ここまでにしておこう! よくやったぞヘイガニ」

 

「ヘーイ! ヘイヘイ!」

 

サトシと共にうまく戦えたヘイガニは大いに喜びマサトと共にバトルを観戦していたクチートへアピールする。

しかしクチートの視線はジュプトルに固定されており、目が大きなハートマークになっていた。

進化したジュプトルに対して更に惚れ込んでしまったクチートはヘイガニはアウトオブ眼中である。

 

「ヘ…イ……」

 

「ありゃりゃ…フラれちゃった…」

 

ヒュウと冷たい風が吹きぬけてヘイガニは真っ白に燃え尽きてしまう。

マサトが呆れた顔をするものの、いい所を見せたのに全く見て貰えていなかったヘイガニは、今日はもうショックで動けそうになかった。

 

「あはは…とりあえず、皆戻ってゆっくり休んでくれ」

 

サトシはピカチュウ以外のポケモン達をボールに戻すと休ませてやる。このままバトルで負った傷もポケモンセンターで癒せばまた明日もバトルの特訓を続けられるだろう。

 

「ピカチュウ、マサト、そろそろソラト達も戻ってくるだろうし俺達も中に入ってようぜ」

 

「うん! そうだね!」

 

「ピカチャ~」

 

「おっ、どうしたんだピカチュウ」

 

「チャ~」

 

バトルを終えてサトシの元へやって来たピカチュウはサトシの肩に乗ると甘えるように顔を擦り付ける。

最近バトルの修行が多く、甘えられていなかったのだろう。

ピカチュウが甘えてきてくれるのがサトシも嬉しく、頭を撫でたり顎を掻いてやったりするとピカチュウは体を震わせて喜んだ。

 

「ッ!」

 

「え? うわっ!?」

 

「ピカーッ!?」

 

すると突然近くの茂みから影が飛び出してくると、触れ合っているサトシとピカチュウを殴って吹き飛ばす。

突然攻撃を受けたサトシとピカチュウは倒れこんでしまうが、幸い大きな怪我もなく軽傷で済んだようですぐさま立ち上がった。

 

「サトシ! 大丈夫?」

 

「あ、あぁ…でも突然、何なんだ!?」

 

「ピィカ…!」

 

攻撃を受けた事でピカチュウはサトシを守るように前に出るが先ほど攻撃してきた影はすぐさま別の茂みに身を隠した。

 

「マサト、相手が見えたか?」

 

「ううん、突然すぎて何も見えなかったよ」

 

「くっ…次はどこから来る…!?」

 

目を凝らして影が茂みのどこにいるかを探るサトシ。

そして神経を研ぎ澄まして注意してみればガサガサと僅かに茂みの一部が動いたのを確認する。

 

「そこだピカチュウ! アイアンテール!」

 

「ピッカ! ピカピッカ!」

 

鋼の尻尾を振るってサトシの指示通り茂みが僅かに動いた場所に技を叩き込む。

完璧なコンビネーションでこれは避けることはできないだろうとサトシもマサトも思っていた。

しかし影は自分の腕でピカチュウのアイアンテールを受け止めてピカチュウの尻尾を掴むと、バトルフィールドとは反対側にある公道側へ思い切り投げ飛ばした。

 

「ピカーッ!?」

 

「ピカチュウ! 大丈夫か!?」

 

「ピカ…!」

 

投げ飛ばされたピカチュウを追ってサトシも茂みを飛び越えて公道側までやって来ると再び影と向き合う。

公道は暗く、影が身を晒しているのに赤い色をしているポケモンだということ以外分からなかった。

 

「おいお前! 突然何のつもりなんだ!」

 

「ピカ、ピカピーカチュ!」

 

こんな不意打ちのような真似をして自分たちを襲ってくる赤い影をサトシは強く非難するが、そんな事は関係ないとばかりに赤い影は腕を振るった。

腕の先についているギラリとした刃物が見えたサトシは急ぎピカチュウへ指示をする。

 

「避けろピカチュウ!」

 

「ピカッ!」

 

「ッ! ッ! ッ!」

 

身軽なピカチュウは赤い影からの攻撃を次々にかわしてみせるが、赤い影は連続で攻撃を放ってくる。

 

「今だピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカー…!」

 

「サァッ!」

 

サトシとピカチュウが反撃に出ようとピカチュウが電撃を放つためのパワーを溜めるための一瞬の隙を作ってしまう。

その隙を赤い影は見逃さなかった。

ただし狙うはピカチュウではなくその後ろ。

ブンッと残像を残すような素早さで姿を消した赤い影はピカチュウをすり抜けてサトシの眼前に現れる。

 

「うっ!? うわあっ!?」

 

突然眼前に現れた赤い影の顔をしっかりと見たサトシだが、次の瞬間には脇腹に強い衝撃を受けて吹き飛ばされていた。

鋭い一撃が入ったことでサトシは壁に叩きつけられて意識を失ってしまった。

 

「ピカピ!?」

 

「ああっ、サトシー!」

 

サトシにトドメを刺さんとばかりに赤い影はサトシにゆっくりと歩み寄るが、その間にマサトとピカチュウが割り込んだ。

 

「こ、これ以上はダメだよ!」

 

「ビィガ…!」

 

これ以上は許さないとばかりに電気袋からバチバチと放電しているピカチュウと、怖がりながらもサトシのために身を割り込ませるマサト。

だが赤い影は容赦なくその腕の鋏を開き―

 

「そこの! 待ちなさい!」

 

「ッ!?」

 

と、そこへ白バイに乗ったジュンサーさんがやって来た。

赤い影は驚きに目を見開くと、この場は退散する事を瞬時に選択したためその場からジャンプした。

建物の屋上まで届くその跳躍力を駆使し、次から次へと建物へ飛び移っていく。

 

「くっ…こちらジュンサー! 各員へ連絡! ホシは屋根を跳びながら港方面へと向かったわ! 捜査網をそちらに集中して!」

 

逃走した赤い影を捕らえるためにジュンサーは無線を使い警察の部下へ連絡を入れる。

 

「キミ、大丈夫!?」

 

ジュンサーがサトシに声を掛けるが完全に気を失っている。

だが見た所酷い怪我はしていないようだ。

 

「…怪我は無いみたいね。君たちもあの赤い影に襲われたの?」

 

「赤い…影?」

 

「ピカ…?」

 

「その説明も必要ね。一先ず彼を運びましょう」

 

ジュンサーさんがサトシをポケモンセンターに運ぼうとすると、そこへ丁度ポケモンセンターに戻ってきたソラトとハルカがやって来る。

 

「サトシ!?」

 

「ええっ!? 何でサトシが倒れてるのっ!?」

 

「お姉ちゃん! ソラト!」

 

「マサト、何があった?」

 

「実はボクも何がなんだか分からなくて…」

 

状況が呑み込めないソラトとハルカはマサトに詰め寄るようにこの状況を問い質すが、マサト自身もよく分かっていないため何も説明ができない。

ソラトはジュンサーさんに目を向けると、彼女が任せて欲しいと言う様に頷いたため、とりあえずは落ち着く事にした。

 

「とにかくポケモンセンターに戻ろう。サトシは俺が運ぶ」

 

「う、うん」

 

一先ずはソラトがサトシを担ぎポケモンセンターに戻る事にした。

ロビーの一角にある休憩スペースを使い、ソファにサトシを寝かせてソラト達も座りジュンサーさんから話を聞く事にした。

 

「3日ほど前に、ジョウト地方から来た船に乗っていた船乗りの男性が襲われたのが発端になるわ。あの赤い影は、夜間に活動して仲の良いポケモンとトレーナーを見ると襲い掛かってくるの」

 

「仲の良いポケモンとトレーナーを…だからサトシが襲われたんだ…」

 

「えぇ。しかもポケモンバトルをするのではなく…トレーナーの方を積極的に狙うみたいなの」

 

「「ええっ!?」」

 

まさかポケモン同士のバトルでトレーナーを積極的に狙うポケモンがいるとは思わず、ハルカとマサトは驚きの声を上げる。

ソラトも表情を険しくした。

 

「それは何とも…穏やかじゃないですね」

 

「この3日間で既に10人以上の人が被害に合っているわ。でも一刻も早く捕まえるよう努力するから、安心して。それじゃあ私はこれで」

 

犯人のポケモンを逮捕するためにジュンサーさんは説明も程ほどにポケモンセンターから出て行った。

 

「ど、どうしようお兄ちゃん? ポケモンと仲良くすると襲われるなんて…」

 

「大丈夫だ。ジュンサーさんの話だと夜間にしか活動していないみたいだし…暗くなるまでにポケモンを戻して帰ってくれば安全だろう。だが…まさか人間を狙うポケモンが街に出没するとはな」

 

ソラトもこれまでの旅で人間に対して敵意を持つポケモンには何度か出会ってきたが、あからさまに人間だけを狙って活動する個体に出会うのは初めてだった。

とりあえずはソラトの言うとおり夜間にポケモンと外出しなければ大丈夫であろう。

 

「でも、そのポケモンっていったいどんなポケモンなんだろう」

 

「……ハッサム、だった」

 

「サトシ!?」

 

「ピカピ!」

 

マサトが人を襲うポケモンがどんなポケモンなのか疑問を口にすると、今目覚めたのかサトシが殴られた脇腹を押さえながら起き上がった。

ピカチュウがすぐさまサトシに飛びついて頬ずりする。

大切なパートナーが無事だったのがよほど嬉しかったのだろう、ピカチュウの目にはじんわりと涙が浮かんでいた。

 

「ピカ~…」

 

「あはは、俺は大丈夫だよ。ありがとなピカチュウ」

 

「チャ~」

 

「サトシ、襲ってきたポケモンはハッサムだったのか?」

 

目を覚ましたソラトは改めてサトシに確認すると、サトシは赤い影に攻撃を受ける直前に間近で見たあの顔を忘れてはいなかった。

 

「あぁ…間違いない。それと、左目に傷があった」

 

「左目に傷か。それが固体を識別する目印になるな」

 

「それと…」

 

「それと?」

 

「なんだろう…アイツの目には、俺みたいな人間に対する明確な敵意があった気がするんだ。憎しみにも似たような…」

 

いつもポケモンと真正面からぶつかり合い、その感情を受け止めてきたサトシにとってそれは確信に近いものがあった。

でもポケモンとトレーナーは分かり合えるとも信じている。

だから、このままハッサムを野放しにしておくことは、サトシにはできなかった。

 

「なぁソラト、ハッサムを止めれないかな?」

 

「サトシ! ここはジュンサーさんに任せた方がいいわよ!」

 

「そうだよ。またサトシが攻撃されちゃうかもしれないんだよ」

 

「でも…」

 

確かにソラトの言うとおり夜間に大人しくしていればこれ以上ハッサムに襲われる事は無いかもしれない。でもこのままハッサムの犠牲者を出し続けるのを見過ごす事もできない。

だが危険が伴う。

ハルカとマサトはサトシの身を案じて止めようとするが、サトシは何とかできないかソラトに知恵を求めた。

 

「…ハッサムがそこまで人間を狙うのには何か理由がある筈だ。それを理解してやらないとハッサムの行動を止めるのは難しいだろうな」

 

そしてソラトの口から出たのは、暗にハッサムを止める方法を探すという言葉だった。

それを聞いたサトシは表情を明るくした。

 

「サンキュー! ソラト!」

 

「もう、お兄ちゃんもサトシも危ない事に首を突っ込みすぎかも」

 

「大丈夫さ。皆で協力すれば、きっと止められる。いいか、作戦はこうだ―」

 

ソラトの口から語られる作戦を実行に移すため、サトシ達は準備を整えるために夜の街に繰り出した。

しかしそれをポケモンセンターの屋根の上から聞き耳を立てていた3人組…いつものロケット団がニンマリと笑顔を浮かべてサトシ達の背中を見ていた。

 

「ほうほう、人を襲うハッサムね…」

 

「積極的に人を襲うハッサムなんて、アタシ達ロケット団にうってつけのポケモンじゃない」

 

「それじゃあそのハッサムをゲットして我らロケット団の一員として働かせれば戦力アップは間違いナシニャ!」

 

「ソ~ナンス!」

 

「それじゃ、ジャリボーイ達の後をつけるのよ!」

 

「「ラジャ!」」

 

ロケット団も動き出しているとは知らずに、サトシ達はそれぞれポケモンをボールから出さないように注意しつつ、それぞれ分かれて目的地へ向かう。

ハルカとマサトはルチアの元へ、ソラトとサトシは人目につきやすいカイナの中央公園へ下準備をしに。

公園で下準備をしているソラトとサトシの元へ、30分もするとルチアを連れたハルカとマサトが大きな荷物を積んだトラックと共に合流した。

その後はルチアやルチアが連れてきた彼女の専属スタッフも準備に加わり舞台を整えた。

 

 

 

静まり返る深夜のカイナの中央公園。

夜の闇と同じ黒衣を纏ったソラトが目立つ広場の中央に立つと、ポケモンセンターで入れ替えておいたポケモンを繰り出した。

 

「ミロッ」

 

「シズク、おいで」

 

「ミロミロ~」

 

仲の良いポケモンとトレーナーを狙うというハッサムに見せ付けるようにソラトの胸に顔を埋めるミロカロスのシズクと、それをわしゃわしゃと撫でてやるソラト。

誰からどう見ても互いを信頼するとても仲の良いポケモンとトレーナーである。

周囲で隠れて見守る者の一部から…と言うかハルカとルチアからジェラシーを感じてしまうほどの仲の良さである。

 

そんなソラトとシズクをビルの上から見つけた赤い影…ハッサムは目つきを鋭くさせるとビルから飛び降りる。

背中の翼を広げて風を受けると滑空して一気にソラト達に接近する。

 

「ッサム!」

 

両手の鋏を硬質化して鋼の拳とし、高速で相手を打ち抜く技、バレットパンチを放ちお互いに身を預けて安らいでいる2人に襲い掛かろうとする。

だが拳が届くより先にソラトとシズクが動いた。

 

「シズク、ドラゴンテール!」

 

「ミロォッ!」

 

「ッ!?」

 

拳を竜の力を纏った尾で受け止めると、しなるムチの如く振るわれた尻尾で弾き返されたハッサムは広場の真ん中で体勢を整える。

誘い出された―ハッサムがそう気がついた時にはもう手遅れだった。

 

「今だよ!」

 

ルチアの合図でスタッフがスイッチを入れると、ルチアに頼んで貸してもらい、事前に準備しておいた照明器具に電源が入れられる。

照明器具の光はハッサムを四方八方から照らし出し、隠れていたサトシやハルカ、ルチアとスタッフ達によってハッサムの包囲網が築かれた。

今まで闇夜に紛れて赤い影にしか見えなかったハッサムの全貌が露になる。確かにサトシの言うとおり左目に一本傷のある固体だった。

 

「サムッ!? ハッサ!?」

 

突然照らし出され、驚きに周囲を見渡しながら警戒するハッサム。

そんなハッサムに対してソラトはゆっくりと近づき右手を伸ばす。

 

「落ち着いてくれハッサム。大人しくしてくれれば、俺達は手出しはしない」

 

「ハッサム!」

 

できるだけ柔らかい口調で語りかけるソラトだったが、ハッサムは信用ならないとでも言うように近づいてくるソラトに向けて鋏を開いて威嚇する。

だがここまで近くに来ておいて立ち止まる選択肢は無い。

ソラトはゆっくりと、だが確実にハッサムに歩み寄る。

 

「俺達はお前がどうして人を襲うのか知りたいだけなんだ。警戒せず、俺の手を受け入れてくれ」

 

「ッサァ!」

 

だがハッサムもそう言われて警戒を解く筈も無い。

牽制の意味合いも込め、ソラトの頬スレスレに鋏を振るいれんぞくぎりを放つ。

頬が切れて傷ができるが、ソラトは立ち止まらずに更にハッサムに近づき右手で頬に触れた。

 

意識を集中する。

自分の体の波動を相手の波動に合わせて同調させる。

正式な修行を受けておらず、片手間に独学で学んでいたソラトは波動使いとしては未熟なためぶっつけ本番である。

しかしハッサムの気持ちを知るためにやるしかない。

 

過去最高に集中してハッサムの波動に自分を同化させてハッサムの深層心理を覗き込む。

ハッサムを構築する波動にはこのハッサムにしか無いものがあり、同調する事でハッサムの心理を覗き込む事ができるのだ。

ホウエンに戻る前の旅で出会った波動使いのトレーナーから僅かに手ほどきを受けたソラトは、この手法でハッサムが人を襲う原因を探ろうとしていた。

 

 

 

 

 

「やった! ストライク、ゲットだ!」

 

ジョウト地方出身のとある少年。

バトルの果てに野生のストライクをゲットして嬉しそうにボールを掲げていた。

少年はストライクや他の仲間と共に多くのバトルを経験していく。勝つ事もあれば負ける事もあり、少しずつ成長していた。

だがある転機が訪れる。

ある港町で、ストライクの進化系であるハッサムを求めている男が居たのだ。

男は言った。

 

「ストライクにこのメタルコートを持たせて交換すればハッサムになる。交換してくれれば、大金をあげようじゃないか」

 

最初は少年も断っていた。仲間をお金に変えるなんてとんでもないと。

しかししばらくして状況が変わった。

少年には大金がどうしても必要になってしまったのだ。

どうしても、どうしても必要だったのだ……だから、大切な仲間と引き換えにした。

 

「ごめん…ごめんよストライク」

 

裏切られた―

信じていたのに―

守ってくれると思っていたのに―

なんで―

なんで―

なんで―

 

所詮人間など信用できない。人間は悪い奴らだ。だから復讐する。

ハッサムに進化した彼は裏切られて得た自身の姿を呪いながらも、新たに得た力で檻を破る。

自由の手始めに自身を買った男と、そのポケモンを打ち倒し、どこか知らない場所へ向かうために船に密航した。

去り際に男のポケモンから最後の反撃を受けてしまい、左目に傷を負ったが些細な事だった。

 

仲の良いポケモンと人間を見ると怒りの炎が燃え上がる。

何故お前はそうして笑っていられる。

何故お前は幸せそうなんだ。

何故お前は愛されているんだ。

 

自分はこんなにも惨めなのに―――

 

 

 

 

 

「ッサム!」

 

「ごはっ!?」

 

深層心理を覗き見していたソラトからすればそれなりの時間が経っていたが、現実の時間は一瞬である。

バレットパンチによりソラトを殴り飛ばしたハッサムの顔には汗が滲み、息をゼェゼェと切らしている。

自分の心理を覗き込まれたのを感じているのだ。

 

「ソラト!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「大丈夫!?」

 

「ソラトくん!」

 

「ミロ…!」

 

吹き飛ばされたソラトの元へとサトシ達が駆け寄り、ソラトを庇うようにシズクが前へ出る。

だがソラトの波動による深層心理の把握は成功した。

後はどうやってハッサムを止めてやるかだ。

 

「ごほっ…大丈夫だ。それに、何とか成功した。あのハッサムはお金と引き換えにトレーナーに売られたんだ。それで裏切られたと思っている。仲の良いポケモンとトレーナーを見るとかつての自分のトレーナーを思い出してしまい怒りが抑えられないんだ」

 

「そんな事が…」

 

「ハッ…ハッ……サム!」

 

「ミロッ!」

 

自分の心を知ってしまったソラトにどうしようも無い怒りが湧き出るハッサムはソラトに向けてれんぞくぎりを放つ。

だがソラトを守るシズクのドラゴンテールによってれんぞくぎりを受け止められてしまう。

 

「サァアアアアアアアッ!」

 

邪魔をするなと連続で渾身のバレットパンチを放ちシズクを退かそうとするハッサムだが、冷静な判断で全ての攻撃を尻尾で受け止めたシズクを退かす事ができない。

埒が明かないとばかりに、ハッサムは1度大きく後退して距離を取りシズクの隙を探す。

シズクも油断無く、いつでもハッサムを迎え撃てるように構えている。

だが…。

 

「シズク、そこまででいい」

 

「ミロッ!?」

 

シズクを押し退けるようにしてソラトが前へ出た。

これにはシズクだけではなく、ソラトの元へ集まっていたサトシ達も、果ては向き合っていたハッサムも驚きを隠せなかった。

 

「ちょ、お兄ちゃん!? どうしたの!?」

 

「コイツの中に燻っている怒りの炎は押さえ込む事はできない。いや、押さえ込んだって根本的な解決にはならない。だから…全部受け止めてやる!」

 

「受け止めるって…!?」

 

「来い、ハッサム。お前の怒りの炎が燃え尽きるまで、俺が付き合ってやる!」

 

「ッサム!?」

 

逃げも隠れもしないというアピールのために、両手を広げて好きにしろとするソラトに対してハッサムは逆に警戒する。

 

「誰も手を出すなよ」

 

だがソラトのその警告と共に、全員ピタリと動かなくなってしまったのを感じたハッサムは試しに踏み込んでみた。

れんぞくぎりを放ってソラトの体を切りつける。

痛みから顔を顰めるソラトだったが、逃げも隠れもせずにそれを受け止めた。

 

―気に食わない。

そう思ったハッサムは本当に自分の怒りが消えるまでソラトが立っていられるか試してやると続けて何度もれんぞくぎりを放った。

れんぞくぎりは名の通り連続で使用するとどんどん威力が上がっていく。

2度目、3度目とソラトを斬りつけるほど威力は増していき、ソラトの体を傷つける。

そして4度目のれんぞくぎりでソラトは膝を着いた。

 

「ぐ…!」

 

「ハァ…ハァ…サム…」

 

感情をぶちまけるような全力のれんぞくぎりを何度も放ったせいでかハッサムも息を切らしていた。

だが次の5度目のれんぞくぎりは最大の威力になる。

次でトドメを刺すとハッサムは鋏を開いた。

 

「ダメ! お兄ちゃん!」

 

「ソラト、それ以上は!」

 

「ミロ!」

 

「誰も動くなッ!」

 

ソラトの傷を心配し駆け寄ろうとするハルカとサトシ、シズクを言葉で制すとソラトは立ち上がってハッサムに向かい合う。

 

「さぁ、どうしたハッサム…! 俺はまだ立っているぞ? お前の怒りの炎はそんなモンなのか!?」

 

「ハッサ…!?」

 

あれほど痛めつけたのに全く折れていない。

不可解な人間を目の前に、ハッサムの方が戸惑ってしまう。

芯の通った力強い瞳に射抜かれて、ハッサムは振り上げた鋏を動かせなくなってしまった。

そのまま数秒、ソラトと目を合わせて両者動かなかった…そして―

 

「ッサム!?」

 

「なっ!?」

 

突如としてハッサムの両手両脚を、空から伸びてきたクレーンアームのようなものが拘束すると空へ連れ去っていってしまった。

空を見上げれば、そこには見慣れたニャース型の気球が飛んでいた。

 

「あの気球は…!」

 

「あの気球は…! と言われたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

 

「ラブリーチャーミーな敵役!」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「なーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

そう、先ほどポケモンセンターでサトシ達の話を盗み聞きしていたロケット団である。

気球で空から隙を伺い、チャンスだと今仕掛けてきたのだ。

 

「ロケット団!」

 

「ピピッカチュ!」

 

「ハッサムは貰っていくわよ~!」

 

「ハッサム、人間が憎いなら俺達と一緒に来い!」

 

「ニャー達と一緒に世界征服するニャ! まぁ嫌って言っても連れて行くけどニャ~」

 

人間を憎むハッサムを捕まえてロケット団の野望である世界征服の役に立てようとするというのは理に適っているが、本人の意思を無視して無理やりという所がいかにもロケット団らしい。

ハッサムもこんなやり方で自分を捕まえようとする相手など願い下げであるため、暴れてアームから逃れようとする。

 

「サム! ハッサ!」

 

「こニャ! 暴れるニャ!」

 

「ハッサムを連れていかせるもんか! ピカチュウ、10万ボルトでハッサムを助けるんだ!」

 

「ピカッ! ピーカーチュゥウウウウウウウッ!」

 

「おっと! そうはいくか!」

 

ハッサムを連れ去るのに手間取っているロケット団を逃がさないようにピカチュウの10万ボルトが放たれて一直線にロケット団の気球へ向かう。

だが寸前の所でコジロウが持っていたリモコンのスイッチを押すと、気球の左右から機械的な翼が現れてボシュッとブーストがかかると素早く左右に動いて電撃を回避した。

 

「何っ!?」

 

「ニャハハハ! 今回は気球に回避システムを導入してみたのニャ!」

 

「いつものようにはいかないわよ!」

 

「それなら、お願いチルル! つばめがえし!」

 

「チルーッ! チルーッ!」

 

ハッサムを助けるためにルチアもチルルを繰り出してつばめがえしを指示した。

1度大きく飛び上がったチルルは上空からロケット団の気球へ向けて急降下してつばめがえしを放つ。

本来ならば相手に必ずと言っていいほど命中する技であるつばめがえしだが…。

 

「おーっと、危ない」

 

再びコジロウがボタンを押すと大きく右へ動いた気球につばめがえしも外れてしまった。

気球の癖にやたらスピーディである。

 

「くっ…このままじゃハッサムが…!」

 

相変わらずハッサムは抵抗を続けているが逃げられそうな気配はしない。

このままではロケット団に逃げられてしまうと誰もが思ったが、ソラトは痛む体を抑えてシズクへ声を掛けた。

 

「ぐ…! シズク、こっちへ来てくれ…!」

 

「ミロ!」

 

「お兄ちゃん、何をするつもりなの?」

 

「ハッサムに手を貸してやれば、多分逃げられる。シズク、ドラゴンテールだ!」

 

「ミロッ!」

 

シズクへドラゴンテールを指示したソラトは、振りかぶったシズクの尻尾へ両脚を乗せて姿勢を整えた。

これはもしや…と誰もが思った次の瞬間…!

 

「今だ! やれっ!」

 

「ミーローッ!」

 

強靭な尻尾を振るうと、その勢いでソラトは空中へと投げ飛ばされて凄まじい勢いでロケット団の気球へ迫る。

 

「ニャ!? ヒーローボーイがこっちに飛んでくるニャ!?」

 

「へっ! そうはいくもんか!」

 

飛んでくるソラトに驚くロケット団だが落ち着いた様子で再び気球を緊急回避させるとソラトの飛んでいくコースから逸れる。

これも失敗になると思われたが、ソラトはニッと不敵に笑うと更にモンスターボールを手にした。

 

「出て来いモウキン! 俺を弾いてコース変更だ!」

 

「ヴォッ!」

 

ボールから繰り出したのはモウキン。

空中で羽ばたくモウキンは大きく翼を振りかぶると、そのまま翼を叩きつけてソラトをロケット団の方向へと弾き返した。

誰もが予想しなかった空中方向転換にロケット団も反応できずに、ソラトはハッサムを捕まえているアームにしがみ付いた。

 

「んニャ!? この、離れるニャ!」

 

「そうは…いくかっ!」

 

アームからソラトを引き剥がそうとアームを操作するニャースだったが、ソラトは足でアームを蹴り飛ばすとハッサムを掴む力が弱くなったためハッサムは力を込めてアームから脱出した。

 

「ハッサム!」

 

「「「あー! ハッサムがー!?」」」

 

「よし! 頼むぞモウキン!」

 

「ヴォー!」

 

ハッサムの解放に成功したソラトはし空中でモウキンに掴まって地上まで降りるためにしがみ付いていたアームから離れる。

空中で体勢を整え、手を伸ばしてモウキンの足に掴まろうとする。

 

「痛ッ!」

 

だが先ほどのハッサムとのやり取りが祟り、体に痛みを走ったソラトは体勢を崩してしまいモウキンの足を掴み損ねてしまった。

 

「ウォッ!?」

 

「ヤベ…!?」

 

体制が崩れてモウキンとの距離が離れてしまう。

このまま地面に叩きつけられるように落ちてしまえばソラトの身が危ない。

 

「お兄ちゃん! アゲハント、お兄ちゃんを助けてっ!」

 

「ソラトくん!? チルル、ソラトくんを…!」

 

その様子を見たハルカはアゲハントを出し、ルチアはチルルへ指示を出してソラトを助けようとする。

だが距離的に間に合わない。

ソラトもまずいと理解していたが、どうする事もできない。

 

「万事休すか…!」

 

「ッサム!」

 

「なっ…!?」

 

覚悟を決めたソラトが歯を食い縛り両目を瞑るが、ソラトの近くで滑空していたハッサムがソラトを抱えて見事に着地を決めた。

ハッサムに抱えられたソラトは無事に地上に戻ると、ソラトとハッサムの元へサトシ達が集まってくる。

 

「ソラト、大丈夫か!?」

 

「あぁ、ハッサムが助けてくれたんだ。ありがとな」

 

「…サム」

 

助けてくれたお礼をハッサムにするソラトだが、ハッサムはすぐに目を逸らしてぶっきら棒に返事をした。

彼もまたソラトに助けられたため、気にするなとでも言っているのだろう。

 

「ニャース! もう1度ハッサムを捕まえるのよ!」

 

「ついでにピカチュウもゲットだぜ!」

 

「了解ニャ!」

 

そこへ再びロケット団がハッサムとピカチュウを狙いアームを操作する。

 

「きゃああっ!?」

 

「おっと!」

 

「うわ!? くそ、ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピーカーヂュゥウウウウウウウウウウ!」

 

サトシ達はそれぞれアームを回避するとピカチュウへ再び反撃の指示を行うものの、それに反応してコジロウは再び気球を回避させてかみなりをかわした。

 

「へへ! この緊急回避システムがあればお前らの攻撃なんて怖くないぜ!」

 

「そして空中の安全圏からアームを使っていれば、その内ハッサムもピカチュウもいただきよ! ニャース、やっちゃいなさい!」

 

「ラジャ!」

 

確かにあの回避システムは厄介であり、今のところ1回もまともに攻撃を当てられていなかった。

あの動きについていくのなら先ほどのソラトのように意図せぬタイミングで向きを変えて喰らいつくか、それこそ目にも留まらぬようなスピードでの攻撃をしなければならない。

 

「くそ…どうやって攻撃を当てれば…!」

 

「…そうだ、いい考えがある。サトシ! 下準備をするから、その後でかみなりを撃て!」

 

「え? わ、分かった!」

 

「シズク、あまごいだ!」

 

「ミーローォオオオッ!」

 

シズクが祈るように空へ謡うと、空に黒い雲が生まれて広がっていく。

瞬く間に広がった黒い雲は狭い範囲にポツポツと雨を降らせた。

 

「ピカチュウ、かみなりだ!」

 

「ピカ! ピーカーヂュウウウウウウウッ!」

 

ソラトとシズクが下準備を終えたと判断したサトシはピカチュウに再びかみなりを指示すると、ピカチュウから発せられたかみなりの閃光が、ロケット団を無視して空へと登っていった。

雨を降らせてかみなりを放ったかと思えば掠りもしない軌道で放たれたそれにロケット団は拍子抜けだった。

 

「なーんだ、何をするかと思いきや」

 

「ちゃんと狙わないと当たるものも当たらないわよ~?」

 

「ニャハハハハ! それじゃハッサムとピカチュウを―」

 

 

ゴロゴロゴロと、腹の底に響くような雷鳴が轟いた。

そして次の瞬間には空から降り注ぐ雷がロケット団の気球に命中し、機材をショートさせてドカン!と爆発させた。

 

「「「あべべべべべべべべべべ!? うぎゃーっ!?」」」

 

正に本物の落雷。

シズクがあまごいによって用意した雨雲はピカチュウのかみなりのエネルギーを受けて絶対命中の光速の一撃と化したのだ。

これにはロケット団も回避する余裕などない。

気球が爆発したロケット団はそのまま真っ逆さまに地上へ落ちてくる。

 

「サァアアアアッ! ハッサム!」

 

そしてロケット団の着地点を狙い、ハッサムが鋏を開いて右手を振りかぶる。

先ほどのソラトとのやり取りで溜められたれんぞくぎりのパワーが解放され、ロケット団に叩き付けられた。

 

「「「んぎゃああああああああっ!? ヤなカンジーッ!?」」」

 

最大パワーになったれんぞくぎりの攻撃を受けたロケット団は、真っ暗な夜の空へと一筋の星となって消えてってしまったのだった。

 

「よっしゃあ! やったぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「これで一件落着ね!」

 

「ってお姉ちゃん! 最初の目的忘れてるよ!」

 

「え?」

 

「元々はハッサムを止めるのが目的だったじゃないか!」

 

「あ、そういえばそうだったわね。ロケット団とのゴタゴタで忘れちゃってたかも」

 

ロケット団の撃退に成功し、一件落着…とはならない。

横槍が入ったというだけであり、当初のハッサムが人間を狙うのを止めなければならないという目的は有耶無耶になってしまっているのだから。

ハルカはテヘと笑って誤魔化しているがソラトは再びハッサムと向かい合っていた。

 

「サム…」

 

「ハッサム、続きをやるとしよう。お前の復讐の炎が消えるまで、俺が―」

 

「ッサム!」

 

ソラトの言葉を最後まで待たず、ハッサムは再び鋏を広げてソラトに向けてれんぞくぎりを放つ。

だがソラトは決して目を逸らさなかった。

力強い、真っ直ぐな瞳に見抜かれたハッサムはソラトの眼前で鋏を止めた。

 

「……」

 

「……俺が、受け止めてやる」

 

ソラトが最後まで言葉を紡ぐと共に、シズクのあまごいで降っていた雨が止んだ。

そしてハッサムは目を伏せると鋏を閉じてその場に座り込んだ。

 

「ど、どうしたの…?」

 

「…ハッサムの怒りの波動が収まってる」

 

「それじゃあ…!」

 

「ああ、もう人を傷つける気は無いみたいだ」

 

ソラトが身を挺してハッサムの思いを受け止め、そしてハッサムを助けたからだろうか。

ハッサムも憎しみを四散させ、もう1度人間を信じてみようと思えたのかもしれない。

ともかく今度こそ一件落着である。

 

「それじゃあ、この事をジュンサーさんに報告に行かないとな。俺が行ってくるから、サトシ達はこの場の後片付けを頼む。シズク、モウキン、戻ってくれ」

 

「ってお兄ちゃんは休んでないとダメでしょ!」

 

「そうだよソラトくん! 体もボロボロだし…片付けは私とスタッフの皆さんでやっておくからソラトくんはもう休んだ方が…」

 

「この位大丈夫だよ。じゃあ行って―」

 

ハッサムの攻撃を受け止めていたせいでソラトの体は確かにボロボロである。

だがソラトは大丈夫だとアピールするとシズクとモウキンをボールに戻しジュンサーさんがいるであろう警察署へと向かおうとする。

しかしそんなソラトの道を塞ぐようにハッサムが立ち塞がった。

 

「…どうしたんだハッサム? 大丈夫だ、ジュンサーさんに報告はするが悪いようにはしないから」

 

「ハッサム!」

 

立ち塞がっていたハッサムは右手の鋏を自分の胸に当てて何かを訴えていた。

ソラトが波動を感じる限り敵意のようなものはもう持っていない。むしろ何かを願うような、そんな感情を感じる。

 

「…もしかして、連れて行けって言ってるのか?」

 

「サム!」

 

「きっとソラトがハッサムの気持ちを全部受け止めてくれたから…そんなソラトにハッサムもついて行きたいって思ってるんだよ!」

 

「ハッサム!」

 

サトシがハッサムの気持ちを代弁するようにそう言うと、その通りだとばかりにハッサムは力強く頷いた。

 

体を張って自分を受け止めてくれたお前を―

形振り構わず自分を助けてくれた人間を―

―もう1度信じてみようと思えた。

 

「…分かった。なら、いくぞ!」

 

「ハッサ!」

 

ソラトは荷物の中から空のモンスターボールを取り出してハッサムに向けて投げた。

ハッサムに命中したモンスターボールはハッサムを中に収めて地面に落ち、数秒間カタカタと揺れていたが、ポンという音と共にハッサムのゲットを知らせた。

そして動かなくなったモンスターボールを拾い上げたソラトは新しい仲間を歓迎するように笑って月夜が照らす空へとボールを掲げた。

 

「イカした仲間、ハッサムゲットだぜ!」

 

夜の闇に潜んでいたハッサムの憎しみを受け止め、和解し、見事ゲットしてみせたソラト。

平和を取り戻したカイナシティで行われるポケモンコンテストは、もうすぐである!

 

 

 

to be continued...




今回のお話に登場し、ソラトがゲットするに至ったハッサムは天羽々矢さんからのリクエストを採用させて頂きました。
この場を借りて天羽々矢さんにお礼を申し上げます。リクエストありがとうございました。

今後もこういった風に皆さんのリクエストを形にできればいいなと思っております。
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