人を襲うハッサムの一件を無事に解決したサトシ達。
そしてあの日から幾日か経過して、ポケモンコンテストカイナ大会開催まであと1日。
ポケモンコンテストカイナ大会の開催を翌日に控え、ハルカはカイナシティにある公園でより練習に励んでいた。
今日もアゲハントと共に技を磨き上げる。
「アゲハント、かぜおこしよ!」
「ハァーン!」
手に持っていたフリスビーを投げ、それをアゲハントが起こす風で受け止めて滞空させる。
以前からの練習もあり、フリスビーは完全に滞空しており技は見事に決まっていた。
「いいわよアゲハント! フィニッシュよ!」
「ハンッ!」
ハルカの合図と共にアゲハントは風を強くするとハルカへフリスビーを戻し、それをハルカが回転しながらキャッチしてフィニッシュである。
技も見事だし、ハルカとの息もバッチリである。
「よーし、決まったわ!」
「ハァ~ン」
練習が一段落した所でハルカの元へ離れた所で見守っていたサトシ、ピカチュウ、ソラト、マサトが駆け寄る。
「いい感じじゃないかハルカ!」
「ああ、技そのものの熟練度も悪くない」
「これなら本当に優勝できるかもしれないね!」
「えへへ…! アゲハントが頑張ってくれてるからよ。でもまだまだ、ルチアさんに勝つためにも!」
日頃の練習の成果が実を結び、コンテストでも十分通用するアゲハントをサトシ達も大絶賛であり思わずハルカの方が照れてしまっていた。
しかしできるだけ練習を積まなければならない。
何と言っても、今回のカイナ大会にはトップコーディネーターであるルチアも参加するのだから。
コンテストを明日に控えているため、今日はルチアもハルカのコーチではなく自分のポケモンと共にコンテストの最終調整を行っていた。
ルチアと言えども、努力をせずに勝てるほどポケモンコンテストは甘くないという事だ。
「よーし、それじゃあもう1度いくわよアゲハント!」
「ハァーン!」
「それっ!」
ハルカが再びフリスビーを投げてアゲハントもかぜおこしの準備をするが、突然強い横風に煽られてフリスビーはあらぬ方向へと飛んでいってしまった。
しかもそのフリスビーの向かう先にには1人の人が居た。このままではぶつかってしまう。
「あっ! いけない!」
まずいと思いハルカはフリスビーが飛ぶ先にいる人物へと駆け寄ろうとするが間に合う筈も無い。
フリスビーがぶつかると思われたその時―
「ロゼリア、はなびらのまい!」
「ロッゼ!」
フリスビーがぶつかりそうになった人物は傍に居たポケモンに指示を出した。
指示を受けたロゼリアはフワリと舞い上がるようにジャンプすると両手の花を降るって桃色の花びらの嵐を巻き起こした。
はなびらのまいによる美しい花びらの嵐は逆にフリスビーを押し返した。
「えっ!? きゃあっ!?」
「ハルカ! 大丈夫か?」
「ハァン!?」
押し返されたフリスビーは跳ね返るような勢いで戻ってきたためハルカの顔に直撃してしまった。
思わぬ衝撃を顔に受けてしまったハルカは尻餅を着くように倒れてしまい、それを心配したソラトとアゲハントは真っ先にハルカへ駆け寄った。
サトシとマサトも続いてハルカの元へやって来る。
「う、うん…大丈夫よ。それより今のは…」
フリスビー自体は軽いためハルカに特に怪我は無さそうである。
それよりも今の美しいはなびらのまいを見たハルカは技を放ったポケモンと、そのトレーナーであろう少年へ目を向けた。
「悪かったね。自衛をしただけで狙った訳ではないから許してくれるかい?」
緑色のウェーブのかかった髪をした少年は優雅な立ち振る舞いでハルカに謝罪をする。
どこか気品を感じさせるような立ち振る舞いに、ハルカは一目で確信した。彼がコーディネーターであると。
「え、えぇ。身を守っただけだものね…あなた、コーディネーター?」
「ああ、僕の名はシュウ。明日のポケモンコンテストカイナ大会に出場する予定さ」
その言葉にハルカはやはりと思い、彼のポケモンへと目を向けた。小さな体だが両手に赤と青の花を携えるいばらポケモンのロゼリアだ。
ロゼリアの先ほど技を思い出したハルカは勢いよく立ち上がって目を輝かせた。
「やっぱり! さっきの技、見事だったものね!」
「フッ、ありがとう」
「私はハルカよ」
「俺はサトシ」
「ピカ、ピカチュウ」
「僕マサト!」
「俺はソラトだ。よろしくな」
一通り挨拶を済ませた一同だが、マサトはシュウがコーディネーターでカイナ大会に出場すると聞いてある事に気がついた。
「でもカイナ大会に参加するならお姉ちゃんのライバルって事になるんじゃないかな?」
「なんだって…?」
ハルカがロゼリアの技を褒めるとシュウも悪い気はしなかったのか微笑んでいたが、マサトの言った一言でシュウは表情を硬くした。
そしてシュウはハルカの横で羽ばたくアゲハントを見るとハルカに問いかけた。
「キミ、そのアゲハントでコンテストに参加するつもりかい?」
「ええ! 明日のカイナ大会がデビュー戦なの!」
「…フッ」
自慢げにしているハルカに対して、シュウは目を伏せると嘲笑するように鼻で笑った。
そんな風に笑われて嬉しい筈もなく、ハルカはムッとした表情で問いたてる。
「ちょっと、どうして鼻で笑うのよ?」
「止めておいたほうがいい。今のキミとアゲハントでは一次審査突破も難しいだろう」
「なっ!?」
ほぼ初対面に近いシュウに突然そんな酷評をされてしまってはハルカも黙ってはいられなかった。
「そんなのやってみなきゃ分からないでしょう!? それに初対面のアナタにどうしてそんな事がわかるのよ!」
「僕は今まで様々なコンテストに参加してきたからね。一目見ればそのポケモンがどれほどコンテストに向いているのかくらいは分かるのさ」
「だ、だからって見ただけで私とアゲハントの事が全部分かるなんてありえないかも!」
「ハンハン!」
確かにハルカはコンテスト初心者であるし、経験豊富なシュウからすれば大した相手ではないかもしれないが勝負とはやってみなければ分からないものである。
ハルカとアゲハントは一緒になって反論をするものの、シュウは涼しい顔で受け流した。
「まあ出場するのならそれでもいいさ。でも、プライドをへし折られて立ち直れないなんて事にはならないようにね。行こうロゼリア」
「ロッゼ」
最後にそう言い残すとシュウはロゼリアと共に別の場所に移動していってしまった。
そんなシュウの背中に噛み付くのではないかと思うほど険しい顔をしているハルカだったが、その場はどうにか堪えてシュウを見送ったのだった…。
その夜。コンテストの最終練習を終えてポケモンセンターに戻ったハルカ達。
だがハルカはポケモンセンターに戻った後、どうにも元気が無い様子だった。
今も明日のポケモンコンテストを特集したテレビ番組が放送されているが、ハルカはそれを見ずに離れた場所で窓からカイナシティの夜景を眺めていた。
「…お姉ちゃんどうしちゃったんだろう」
「明日はコンテストだし、そろそろ休んだほうがいいんじゃないかな?」
元気の無いハルカを心配するマサトとサトシはそう言うが、今無理に休もうとしても中々寝付けず逆効果だろう。
浮かない表情をするハルカをどうにかしてやろうと、ソラトはハルカの横に立つと共にカイナの夜景を眺める事にした。
「…」
「どうした、ハルカ。何か悩み事か?」
「…うん、まぁちょっと」
「昼間会ったシュウって奴に言われた事、気にしてるのか?」
多くを語らずにいたハルカだったが、信頼するソラトに図星を突かれたためか観念したように大きく頷いて顔を伏せた。
「ねえお兄ちゃん、やっぱりコンテストは私にはまだ早いのかな…?」
今出場しても一次審査突破も難しいとシュウに言われたハルカの胸中には大きな不安が渦巻いており、出場を棄権してしまおうかとも考えてしまっている程だった。
それと同時に、シュウが言っていた通り…もし明日失敗して恥を掻くようなことになってしまえば、プライドがへし折られてしまいコンテストへの熱を失ってしまうかもしれないという不安もあった。
「…くく、くくっ!」
だがそんなハルカにソラトは何を言う訳でもなく堪えるように笑っていた。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 私これでも真剣に悩んでるのよ!」
一体何を笑っているのかと不機嫌になるハルカに対して、ソラトは慌てて平謝りする。
「いや、悪い悪い。今のハルカの様子が5年前のルチアにそっくりだったんでな」
「私が…ルチアさんに…?」
「前に話しただろ? 5年前のルチアは今からじゃ想像できないほど引っ込み思案でな。自信なさ気でポケモンも不安そうにしてたんだ」
確かにソラトとルチアの出会いを聞いた限りでは、当時のルチアは今ほど自信も無く、それでポケモンのパフォーマンスに失敗していたと聞いた。
「だから、アドバイスも同じだ。トレーナーが自信を持てずに不安になってたらポケモンにまでそれが伝わって不安になり、パフォーマンスは上手くいかない。自分に自信を持つんだハルカ」
「でも、私なんかじゃ…」
背中を押すようにハルカを諭してやるソラトだったが、ハルカはそれでも自分に自信が持てないようだった。
そんなハルカをソラトは懐かしいものを見るような目で見ると、荷物の中からある物を取り出してハルカに差し出した。
「ほら、ハルカ」
「え? これは…?」
「お前のコンテスト用の衣装だ」
「ええっ!?」
ソラトがハルカに手渡したのはピンクと白の、キラキラでヒラヒラの可愛らしい衣装だった。
広げてみればそれはどことなくルチアの衣装に似た雰囲気のあるものだった。
「いつの間に…」
「カイナに到着してから夜な夜な作ってたんだ。ルチアの事を思い出して、デザインもそれに習うようにしてみたんだが…どうだ?」
「凄く可愛いかも!」
どうやらハルカはこの衣装を気に入ったようで、衣装を胸に抱きながらピョンピョンと飛び跳ねていた。
その反応が嬉しくてソラトも良い笑顔を浮かべる。
「衣装が変われば気分が変わる。気分が変われば不安もすっ飛ぶ。不安が無くなれば…最高のパフォーマンスができる筈だ」
「ありがとうお兄ちゃん! これ、大事に着るわ!」
ソラトの言うとおり、コンテスト用の衣装はハルカの不安を払拭したようで先ほどまでの浮かない表情から一転。
ハルカは幸せそうな笑顔を浮かべてソラトにお礼を言った。
こうしてどうにかハルカは不安を振り払い、明日のポケモンコンテストカイナ大会へと臨む事になる―。
「ところでお兄ちゃん、この衣装私にピッタリみたいだけれど…サイズとかどこで調べたの?」
「あー…すまん、ハルカが寝てる間にちょっとな…」
「――っ!?」
好意を抱く相手に、寝ている間に体を採寸されたと知ったハルカは顔を真っ赤にして逃げるように寝室へと駆け出した話は…しなくても良いだろう。
ポケモンコンテストカイナ大会当日。
会場には日頃から鍛えられ、練習を重ねたコーディネーターとポケモンのパフォーマンスを見ようと客席を埋め尽くすほどの観客がやって来ていた。
観客席の最前列にはハルカの活躍を見るためにサトシとマサトとソラトの姿があった。
「お姉ちゃん大丈夫かな?」
「なーに、カイナに着いてからずっと練習してたんだ。きっと行けるさ!」
「ピカピ! ピカピカチュ!」
「ああ、練習は十分。後はハルカ次第だ」
心配しながらも全力で応援する3人は、コンテストが始まるのを今か今かと待ちわびていた。
一方でハルカもソラトから貰った衣装に身を包みコンテストの開始を選手控え室で待っている。
「あ~、緊張する~! 大丈夫よ私、お兄ちゃんにも言われたじゃない、自信を持てって!」
緊張から少々硬くなっていたが、昨晩ソラトから受けたアドバイスを思い出して気合を入れなおしていた。
そんなハルカは控え室のベンチに座っている昨日見た緑色の髪の少年、シュウを発見した。
昨日あんな事を言われたため声を掛けるべきか少々悩んだハルカだったが、一応ライバルとなるため宣戦布告をしておこうと意気込みシュウの前に立った。
「シュウ」
「おや、ハル…カ…」
声を掛けられたシュウはハルカへ目を向けるが、目を大きく見開くと顔を紅潮させた。
無理もない。今のハルカは衣装によっていつもよりも更に可愛らしくなっており、昨日会った時とは大きく違う印象を相手に与える。
シュウも思わずハルカに見とれてしまったのだろう。
「シュウ、どうしたの?」
「…あっ! いや、何でもないよ。それより、どうかしたのかい?」
ベンチから立ち上がったシュウを見れば、彼もまたドレアスアップしており白いタキシードが決まっている。
彼とロゼリアを象徴するかのように挿された胸の赤い薔薇が印象的である。
「昨日アナタにああ言われたけれど、私は全力でコンテストに臨むわ! アナタにも負けない…きっと優勝してみせるわ!」
「フッ、口でならどうとでも言えるさ。コーディネーターなら、演技で示さないとね」
ハルカの宣戦布告に、シュウはいつも通りクールに対応すると前髪を掻き分けるような仕草をしてその場を立ち去った。
シュウの背中を見送ったハルカは再び本番前に集中しようと深呼吸しようとするが―
「えいっ!」
「きゃあああっ!?」
突然背中から抱きつかれて驚きから大声を出してしまった。
ハルカが背中を見ればそこには青い衣装とエメラルドグリーンの髪が印象的なハルカのコーチでありライバルであるルチアが居た。
「ル、ルチアさん!? どうしたんですか!?」
「ウフフ! ハルカちゃんが見えたからちょっとだけ驚かせようと思って。それよりその衣装、もしかして…」
「あ、はい! お兄ちゃんが作ってくれたんです」
「やっぱりソラトくんのお手製だったんだ。私の衣装に似てるからもしかしてって思ったけど」
ハルカにとってもこの衣装は特別な物であるし、ルチアにとってもソラトから受け取った衣装はこの世界に2つととない大切な物だ。
ソラトからすればハルカとルチアを応援するために作っただけの衣装であったとしても、2人にとっては何物にも替えられない大切な宝物だった。
そしてハルカもルチアも…お互いがソラトに抱く感情をもう察していた。
「ハルカちゃん。私、ここ数日あなたをコーチしてきたけれど…コンテストも、恋も絶対に負けないよ!」
「私だって負けません! ルチアさんにだって勝つつもりですから!」
「そうだね! 言うなれば…キラキラ~! くるくる~? 必然の出会い! バチバチ☆ライバルバトルって感じだね!」
「はいっ!」
ルチアとも改めてライバルとして、女の子として互いに宣戦布告すると控え室のモニターが表示された。
いよいよポケモンコンテストカイナ大会の開催である。
モニターの奥、コンテストステージでは司会進行の女性と3人の審査員達が映し出されていた。
「レディースアンドジェントルメーン! お待たせ致しました! ホウエン地方ポケモンコンテスト、カイナ大会の始まりでーす!」
「「「わぁああああああああっ!」」」
司会の女性ことビビアンがコンテストの開催を宣言すれば、満員御礼の観客席は歓声に包まれてコーディネーター達の演技を今か今かと待ちわびていた。
だがその前に審査員の紹介をしなければならない。
ビビアンは審査員席の横へ移動すると各審査員を紹介していく。
「その出場者達を厳しく優しく審査して頂くのはこちら、大会事務局長のコンテス太さん。ホウエンポケモン大好きクラブ会長のスキ蔵さん。そしてカイナシティのジョーイさんです!」
審査員の紹介が終われば、会場にある大きな特設モニターにコンテストリボンが映し出された。
「見事優勝に輝いたコーディネーターとポケモンには、栄誉あるこのカイナリボンを贈呈! 各地で開催されたコンテストを勝ち抜き、リボンを5つ集めたグレイトなアナタにはトップコーディネーターの祭典! ポケモングランドフェスティバルへの参加が認められちゃいますよー!」
そう、それこそがコンテストの道を進むコーディネーターの夢であり目標。
そのための一歩として参加者全員がこの大会での優勝を狙っている。
コーディネーター達の熱い戦いが、今幕を開けた。
「それではエントリーナンバー1番の方、どうぞ!」
歓声と共にステージの奥からエントリーしたコーディネーターが現れると、パートナーのポケモンを繰り出して演技を開始する。
一次審査は魅せる演技。技を決め、ポケモンを魅せるために、次々とポケモン達の素晴らしい技が繰り広げられる。
観客の歓声と共に演技が進んでいき…。
「では続きましてエントリーナンバー10番、トップコーディネーターにしてアイドル! 前回グランドフェスティバルの覇者! ルチアさんの登場です!」
続いてはルチアの出番だった。
まだ登場しただけで演技すら行われていないというのに、客席は今日1番の大盛り上がりを見せていた。
「うわ、凄い熱量だ…!」
「流石はルチアさんだね」
「…俺もルチアのコンテストの演技を見るのは5年ぶりだな」
周囲のボルテージは最高潮だが、ソラトはそんな声など気にせずに、懐かしむような瞳でルチアを見つめていた。
最前列にいたためルチアからも目についたのだろう。ソラトとルチアの目が合うと、ルチアは少しだけ頬を染めてモンスターボールを構えた。
「お願い、チルルッ!」
「チールーッ!」
繰り出されるは勿論チルル。
ボールから飛び出したチルルはルチアと共にクルリと回ってポーズを決めると空中で静止した。
コーディネーターと共に決めたポーズによって出だしは好調といった所だろうか。
「チルル、りゅうのいぶき!」
「チールー!」
チルルは上空へ向けてドラゴンエネルギーを吐き出すと空中で破裂するようにエネルギーが四散する。
それと共にチルルは一気に飛び上がった。
「そこから、連続でつばめがえし!」
「チルチルチルッ!」
四散しようとするエネルギーの周囲をつばめがえしの凄まじいスピードで飛び回ると、エネルギーは風に煽られて集合する。
まるでチルルの動きに合わせてドラゴンエネルギーが固まり踊るように。
その光景に会場はただただ見とれるばかり。
不定形であるりゅうのいぶきのドラゴンエネルギーをつばめがえしで纏め上げてしまうというのは、相当の技量が無ければできない事だ。
「フィニッシュだよチルル! コットンガード!」
「チルルッ!」
そして翼を羽ばたかせると綿のような羽を周囲に散らして緑色のドラゴンエネルギーとフワフワの綿羽が周囲に飛び散ってフィニッシュを飾った。
幻想的な光景に、最早誰も言葉を発する事ができず会場は静まり返ってしまう。
「…はっ!? そ、それではルチアさんの演技でした! 審査員の皆さん、どうでしたか?」
「とても美しい光景でした。何度でも見たいと思えるほどに」
「いや~、スキですねぇ」
「流石トップコーディネーター。技の美しさだけでなく、チルタリスの美しさを引き立てる演技が素晴らしい」
各審査員からも絶賛であり、審査員達の評価が終われば会場は再び大きな歓声を上げて盛り上がる。
これが全国でも有数のトップコーディネーターの実力だった。
控え室のモニターでルチアの演技を見ていたハルカは息を呑んでそれを見ていた。
いや、ハルカだけではない。シュウも、他のコーディネーター達も瞬きをするのも忘れてモニターに食い入るように目を向けていた。
「ルチアさん…! やっぱり凄い…凄すぎるかも…!」
今までコーチをしてもらい、何度かお手本の演技を見せてもらっていたがそれよりも数段美しく感じたほどだ。
これがコーディネーターとして本気のルチアの力なのだろう。
そしてルチアの演技が終わっても次のコーディネーターの演技も続く。
ルチアに負けないとばかりにかっこよく、たくましく、かしこく、かわいく、うつくしいアピールが繰り広げられる。
次はエントリーナンバー24番―シュウの出番だった。
「ロゼリア、ゴー!」
「ロッ」
「はなびらのまい!」
「ローゼーッ!」
登場と共に桜色の花びらの嵐を生み出して着地する。シュウも出だしは美しく決まった。
「ロゼリア、はなびらのまいで華麗に登場! これはビューティフォー!」
「あいつ、言うだけあって中々やるな…!」
「ピィカ…!」
「うん、昨日練習してたはなびらのまいがバッチリ決まったね」
ビビアンの実況を聞きながらサトシ達は表情を厳しくする。
昨日公園で出会った時の練習風景から只者ではないと分かっていたものの、実際に本番を目にするとまた違って見える。
「続いて、しびれごなからマジカルリーフ!」
「ロゼー…ロッゼリッ! ローゼリャー!」
ロゼリアはまずはしびれごなを周囲に撒き、それを切り裂くようにマジカルリーフを放った。
オレンジ色のキラキラを輝くしびれごなを乗せ周囲を飛ぶマジカルリーフを纏うロゼリアの美しさはかなり際立っていた。
「そろそろフィニッシュといくか…ロゼリア、はなびらのまいだ!」
「ローゼー!」
再び両手の薔薇からはなびらのまいで桜色の花びらを生み出したロゼリアは、花びらに隠れて姿を消してしまう。
観客や他のコーディネーターからもどよめきが起こる。
本来はもっとポケモンをアピールしなければならないのに逆にポケモンを隠してしまったのだ。
ミスかとも思われたその時、シュウが動いた。
「マジカルリーフ!」
「ロゼリャー!」
桜色の花びらの奥から七色に輝くマジカルリーフが現れて花びらを切り裂き細切れにしてしまった。
まるで塵に還るかのように消えていく花びらを見送り、シュウとロゼリアは優雅に一礼をしてフィニッシュとした。
「フッ、決まった…」
「素晴らしい演技です! 他の参加者を圧倒するかのパフォーマンスです!」
ルチアほどではないが歓声も大きく、今の演技でシュウも間違いなく優勝候補の一角に名を連ねただろう。
ライバルであるルチアとシュウの活躍をモニター越しで見ていたハルカはプレッシャーを感じ、手のひらに汗を滲ませていた。
「シュウ…やっぱり凄いかも…。それでも、私も負けられない…!」
ハルカもそろそろステージの準備をしなければならない。
自分を落ち着かせるためにも、アゲハントの入ったモンスターボールをギュッと握り締めるとハルカはステージへと向かった。
そして、いよいよ運命の時が訪れる。
「では続きましてエントリーナンバー41番、ハルカさんの登場です!」
「よ、よーし…!」
気合を入れなおしたハルカはステージの上へ移動する。
「ハルカさんは今回が初めてのコンテスト参加となります。では、ポケモンの登場を華麗に決めて頂きましょう!」
ビビアンの紹介と共に観客達は拍手と声援でハルカを出迎える。
観客達は純粋に応援してくれているのだが、こういった舞台が初めてのハルカにとってはそれもプレッシャーとなってしまう。
しかし怯む訳にはいかなかった。
恐らく二次審査に進むであろうライバル達と対等に戦うためにも、そして応援してくれているサトシやマサトのためにも…背中を押してくれたソラトのためにも。
「…すぅーはぁー」
最後に自分を落ち着けるために深呼吸をして、ソラトとルチアに教わった事を思い出す。
そしてカッと目を見開くと、ハルカはモンスターボールを投げた。
「アゲハント! ステージON!」
「ハハァーン!」
見事な羽をアピールするように飛び出したアゲハントは会場のライトを浴びて光り輝いていた。
アゲハントの登場と共に会場の声援は更に大きくなる。ハルカも掴みはOK。ルチアにもシュウにも負けてはいない。
「アゲハント、かぜおこしよ!」
「ハァーン!」
用意していたフリスビーを投げてアゲハントに指示を出すと、アゲハントも落ち着いた様子でかぜおこしを放ちフリスビーを滞空させる。
だがそれに収まらずアゲハントはかぜおこしを強くするとフリスビーを押し返してハルカへと返した。
「いいわよ! もう1度っ!」
「ハハハァーン!」
再びハルカの手からフリスビーが投げられアゲハントがかぜおこしでそれを受け取るというラリーが何度が続きアゲハントの技の練度をアピールする。
フリスビーは完璧にコントロールされており、技のアピールとしては十分だと言える。
「おおっ! これは見事なラリー! アゲハント、完璧なかぜおこしで魅せてくれます!」
ビビアンも、審査員の反応も悪くない。
観客席で見守るサトシ達から見ても、今のところ演技は完璧。問題なかった。
「いいぞハルカーッ!」
「頑張れアゲハントー!」
「ここからだ…! 魅せろハルカ! お前の全部を!」
観客席で見ているだけのサトシ達まで熱くなってしまい、大声でハルカへと声援を送る。
その声はハルカにも届いたのだろう。笑顔でフィニッシュへと持っていく。
「よーし、フィニッシュいくわよ! アゲハント、いとをはく!」
「ハァアアアン!」
空中へ向けていとをはくによりキラキラ輝く糸が放たれ―
「かぜおこし!」
「ハァアアアアンッ!」
―かぜおこしにより糸が細く大きく広がった。
細やかになった糸はライトの光を反射して更に輝きを強くし、舞い降りる糸の中心にいるアゲハントはその光を受けて更に美しく輝き、フィニッシュとなった。
「なんと素晴らしい演技でしょう! とてもコンテスト初出場とは思えません!」
そう、ビビアンの言うとおり初出場とは思えないほどの演技に会場にはスタンディングオベーションが巻き起こっているほどであった。
「えへへ…! うまくいったかも!」
「ハンッ!」
演技を終えたハルカはアゲハントを労わりつつ控え室へと戻っていった。
ハルカの後にも数人が演技を続け、総勢50名のコーディネーターとポケモンの一次審査が終了した。
控え室に戻ったハルカは再び食い入るようにモニターを凝視していた。
ベストを尽くしたが、一次審査が突破できたとは限らない。二次審査へ進む8人が発表されるまでは安心などできないのだ。
そしてそれはこの場にいる全てのコーディネーターも同じ。
祈るような気持ちで結果を持つ。
「はーい、お待たせしました! 一次審査を突破したのは…この8人のコーディネーターさん達です!」
モニターに映し出された8人のコーディネーターの中にはルチアを筆頭にシュウ、そしてハルカも入っており、ライバルが揃って二次審査へ進めた事にハルカは満面の笑みを浮かべた。
隣にいたシュウはハルカが通った事に少々驚いてはいたが、すぐに普段のクールな笑みを浮かべていた。
「やった! ありがとね、アゲハント!」
「ハンハン」
「フッ…思ったよりはやるみたいだね。でも、勝負はここからが本番さ」
同時刻、観客席でもモニターによってハルカが一次審査を通過した事を知ったサトシ達もハルカ本人に負けず劣らず盛り上がっていた。
「凄いぞ! 二次審査に進出だ!」
「ピィカッ!」
「これは優勝狙えるかもね!」
確かにベスト8にまで残り、二次審査のコンテストバトルを勝ち抜けば優勝もあり得るだろう。
しかしソラトには少しだけ懸念事項があった。
「だが次の審査はバトルだからな…ハルカはあまりバトル慣れしてないから、ここからが正念場だろうな」
「「そっか…」」
盛り上がりもそこそこにソラトの懸念事項を受けてサトシとマサトの表情が僅かに曇る。
ここ数日の練習もハルカは一次審査に向けてのアピールの練習ばかりだった。
この先の二次審査ではバトルの腕も試される事になる。
そしてモニターに映る8人の参加者の写真がシャッフルされていく。
「この8人がシャッフルされ、二次審査であるコンテストバトルの対戦カードが…決まりました!」
シャッフルが止まると、トーナメントの表が出来上がる。
ルチアはAブロックに、ハルカとシュウはBブロックに割り振られたが、何よりも…。
「ええっ…!? シュウが、対戦相手…!?」
そう、Bブロック第1試合はハルカ対シュウの対戦カードとなったのだ。
いきなりのライバルとの対決に動揺を隠せないハルカだったが、シュウは冷静だった。
「悪くない組み合わせだね」
「…負けるもんですか」
こうしてコンテストは更に熱を帯びて二次審査へと進んでいく。
先にAブロックでの試合が開始されるが、此方は圧倒的な実力で相手のポイントを奪ったルチアが完勝してしまった。
あっという間にAブロックの試合は終わってしまい、ハルカ達の出番が回ってくる。
先ほどのステージとは違い、明確なバトルフィールドの上で行われるコンテストバトル。
ハルカはシュウと対峙し、モンスターボールを構えた。
「さぁ、二次審査はコンテストバトルです。5分という制限時間の中で如何に技を決め、相手のポイントを削れるかが勝負です! それではBブロックの第1試合、スタート!」
審判でもあるビビアンのバトル開始の合図と共に、ハルカとシュウはモンスターボールを投げてポケモンを繰り出した。
「さぁ、ロゼリア! ゴー!」
「アゲハント! ステージON!」
「ロゼ」
「ハァン」
ロゼリアとアゲハント。相性で言えばアゲハントが圧倒的に有利だが、コーディネーターとしての経験はシュウが上だろう。
ならばこの勝負は、コーディネーターとポケモンのコンビネーションが物を言う。
先に仕掛けたのはシュウだった。
「ロゼリア、マジカルリーフ!」
「ロッゼー!」
七色に輝く草の刃放つロゼリアに対して、ハルカは冷静に対応する。
「アゲハント、かぜおこし!」
「ハァアアア!」
かぜおこしとマジカルリーフがぶつかり合うと、かぜおこしはマジカルリーフを弾き飛ばした。
ロゼリア自身にダメージは入っていないが防御1つで相手のポイントを削れるコンテストバトルならば有効な対応に思えた。
しかし、左右に弾かれたように見えたマジカルリーフは突如軌道を変えるとアゲハントを左右から挟みこむ形で襲い掛かった。
「ハァアアンッ!?」
「そんな…!?」
「甘く見ないで欲しいね。マジカルリーフは相手に必ず命中する技なんだ。あの程度のかぜおこしで弾き返したからって、安心するからいけないのさ」
マジカルリーフの特徴を知っていれば回避行動も取れたかもしれない。そう思うとソラトはハルカにバトルの事をあまり教えてやれなかった事を悔やんでしまう。
モニターに表示されるハルカのポイントバーが減少してしまい試合が進むと、シュウが更なる追撃に出た。
「しびれごな!」
「ローゼリーッ!」
両手からしびれごなを放つロゼリアに対し、今の一連の流れで息が乱れてしまったハルカとアゲハントはそれを避ける事すらできなかった。
アゲハントはまひ状態になってしまい動きが鈍くなり技が出し難くなってしまう。
「アゲハント、いとをはく!」
「シューッ!」
「マジカルリーフ!」
「ロゼッ!」
口先から糸を吐いたアゲハントだが麻痺しているせいか動きが鈍くキレも無い。
そんなハルカ達を軽くあしらうようにシュウとロゼリアは再びマジカルリーフを放つと糸をバラバラに切断してしまった。
「ああっ…!」
ハルカのポイントが更に減少してしまい、観客席のサトシ達も表情を歪めて試合を見守る。
「こりゃまずいぜ…!」
「アゲハントとの息がバラバラだ。ハルカ、立て直せるか…!?」
どうにかしてこの悪い流れを断ち切ろうとハルカは再び反撃に出る。
「アゲハント、ぎんいろのかぜ!」
「ハァーン!」
アゲハントの羽が輝き虫の力が込められた風が放たれロゼリアに迫る。
この攻撃が決まればロゼリアに大ダメージを与えられる上にポイント的に追い上げる事もできるが…シュウとロゼリアは涼しい顔で対応した。
「ロゼリア、はなびらのまい!」
「ローゼリー!」
ロゼリアの両手の薔薇から桜色の嵐が巻き起こりぎんいろのかぜを弾き返し、そのままアゲハントへと攻撃しようとする。
「飛び上がってかわして!」
「ハァン」
「決めるよロゼリア、ソーラービーム!」
「ローリー……!」
どうにか攻撃を回避できたハルカとアゲハントだったが、ここでシュウはくさタイプ最大の技であるソーラービームを指示。ロゼリアは両手の薔薇に周囲の光を吸収してエネルギーをチャージし始める。
チャージ中は動けないが、これが放たれれば勝負を決める一撃になりかねない。
「おーっとロゼリア、ソーラービームの体勢に入りました! 貴重な残り時間を使ってエネルギー充填を図っているという事は…勝負に出たかーっ!?」
残り時間は後2分と少し。ポイントはシュウは無傷でハルカは残り3分の1程度。
ハルカも追い上げないと勝機が無くなってしまう。
「ハルカ! 攻撃するなら今だぞ!」
「ええ! アゲハント、いとをはく!」
観客席からのサトシの声が届いたハルカはソーラービームで動けないロゼリアに向けて攻撃を放つ! だが…
「アゲハントが攻撃に出たー!」
「ローッ!」
アゲハントの攻撃が届く前に、ロゼリアのエネルギーチャージが終了してしまった。
両腕の先から放たれる虹色にも似た強大なビームが糸を引き裂きアゲハントへと直撃する。
「ハァアアアアアアアン!?」
「ああっ!?」
「「アゲハント!」」
「…ここまでか」
ソーラービームを受けたアゲハントはボロボロになってしまい、羽ばたくのを止めてバサリと地面に落ちて倒れた。
まだハルカのポイントは僅かに残っているが、ソラトはアゲハントの様子から結果を察してしまった。
「くさタイプ最大の技がアゲハントにクリーンヒット! 残り時間は後僅か。バトル続行可能なのでしょうか!?」
ポイントはまだ残っており、残り時間は残り1分半といった所。アゲハントが立ち上がる事ができればまだ勝機は残されていた。
だが、アゲハントの様子からバトル続行が不可能と判断した審査員達は審査パネルに×印を表示させた。
これはつまり…
「アゲハント、バトルオフ!」
ビビアンがバトルオフを宣言すると、会場から歓声が上がった。
聞きなれない言葉に、サトシは困惑するもののバトルの様子と言葉の響きからハルカにとって良いものでないとは察しがついていた。
「バトルオフ?」
「つまり、戦闘不能って事だ」
「そうか…」
タイプの相性ではアゲハントに分があったが、ロゼリアとのレベル、シュウとのコーディネーターとしての技量の差はダメージを蓄積させ、戦闘不能にまで追い込まれてしまったのだ。
「シュウさんとロゼリアが、準決勝へと進出でーす!」
「…フッ」
「……」
勝負が決まったシュウとロゼリアは紳士的に会場と審査員、そして対戦相手のハルカとアゲハントへ一礼をすると、キザったらしく前髪を掻き分けて退場していった。
その様子は、ハルカはアゲハントを抱きしめながら涙目で見送る事しかできなかった…。
「お姉ちゃん…負けちゃった…」
「コンテストバトルもやっぱりバトルなんだ…。途中でもポケモンが負けたら終わりなのか…」
「ああ…今のハルカにはキツい相手だったな。シュウとロゼリアか」
会場の大型モニターにはシュウとロゼリアの写真と、大きなWINNERの文字が表示されておりシュウの勝利を称えていた。
バトルとハルカの様子を見ていたルチアも、どこか残念そうにしていた。
自らコーチを行い、新たなライバルとなったハルカとの直接対決は実現しなかった事が残念だったのだ。
控え室に戻ったハルカはベンチに腰掛けながら涙を流していた。その涙は頬を伝い、悔しさからギュッと握り締めた手の甲に落ちる。
どうにか慰めようとサトシとマサトは言葉を探すが、どう声を掛けたらいいものか分からなかった。
「お姉ちゃん…」
「私、何もできなかった…! アゲハント、あんなに頑張ってくれたのに…私、ぜんぜんダメだった…! 悔しいよ…!」
「ハルカ…」
「私、ポケモンコンテスト、出場するだけで楽しいって思ってた…アゲハントと一緒に出られればって…」
大好きなポケモンと一緒に何かをするというのは、トレーナーにとってこれ以上ないほどの楽しみである事は間違いない。
ハルカだってコンテストを十二分に楽しんでいた。
ただ、知らなかったのだ。
「でも…やっぱり負けるのは悔しい!」
涙を流しながら、更に力強く手を握ってハルカは強い声色でそう言った。
初めて知った苦い敗北の味。
だがそれは次へ進むためのエネルギーになる。
また1つ成長したハルカを見て、ソラトは嬉しそうにハルカの横に腰掛けると、優しく頭を撫でてやった。
「お兄ちゃん…?」
「ハルカ、お前はポケモンコーディネーターだ。俺なんかよりよっぽど立派な」
コーディネーターとしての試合を途中で放り出してアラシを探しにいったソラトよりも、ハルカの方がよっぽど真剣にコーディネーターとして成長しようとしている。
だから、ハルカは将来とても良いコーディネーターになるだろうと、ソラトは確信した。
そうしていると、控え室のモニターから歓声が聞こえる。
現在の試合は決勝戦で、対戦カードはやはりと言うかルチアとシュウの戦いになっていた。
「さぁ決勝戦も既に4分が経過! 準々決勝、準決勝を難なく勝ち進めてきたロゼリアですが、圧倒的な強さのチルタリスに攻めあぐねています!」
「チルル、りゅうのいぶき!」
「チールーッ!」
空を飛び高所から撃ち下ろすようにチルルはドラゴンエネルギーを口から発射すると、ロゼリアに命中する。
表示されているポイントの残りはルチアが8割ほど、シュウが4割ほどになりルチアが有利だった。
「くっ! ロゼリア、マジカルリーフ!」
「ローゼリーッ!」
反撃のためにマジカルリーフを放つシュウとロゼリアだったが、ルチアにも油断は無い。
「チルル! つばめがえし!」
「チールルーッ!」
絶対命中同士の技のぶつかり合いだが、高所から急速降下するチルルは強烈な気流を纏っておりマジカルリーフを全て弾いてしまっていた。
そしてマジカルリーフを破り、チルルのつばめがえしがロゼリアに命中する。
「ロゼーッ!?」
「ロゼリア!」
シュウのポイントが更に減ると同時に残り時間が0となってタイムアップとなる。
残りポイントの差は歴然、つまり勝ったのは…。
「タイムアーップ! ポケモンコンテストカイナ大会! 優勝したのは…ルチア選手とチルタリスです!」
「やったぁ! やったねチルル!」
「チルッ!」
大いに喜ぶルチアとチルルに対して、普段はクールで冷静沈着なシュウも今は悔しさに手を握り締めていた。
「…ここまでか。お疲れ様、ロゼリア」
「美しさだけではなく、かっこよさ、たくましさも魅せてくれたチルタリス! 流石、コーディネーターとの息もピッタリでした!」
モニターを見ていたサトシ達も驚きを隠せなかった。
ハルカを全く寄せ付けることの無かったシュウも、トップコーディネーターであるルチアには歯が立たずに敗北してしまったのだ。
「あのシュウを相手に…」
「チルタリス、凄かったね…」
「あれがトップコーディネーターだ。コーディネーターの頂点の1つ」
「トップ…コーディネーター…」
そしてポケモンコンテストカイナ大会の全プログラムが終了し、リボンの授与式へと移行する。
サトシ達もハルカの着替えを終えると、皆客席へと向かいルチアへのリボン授与式を見届ける。
「今、優勝したルチアさんとチルタリスに、カイナリボンが授与されました! ポケモンコンテストカイナ大会は、これにて終了です! またお会い致しましょう!」
ビビアンの言葉と共に正式にカイナ大会が終了される。
だが会場は熱気が残っており、まだしばらくこの興奮は続きそうだった。
「…」
「あれ、シュウ…?」
そしてハルカ達は、客席にいたシュウがルチアへのリボン授与を見届けると足早に立ち去っていくのを視界に納めたため、彼の後を追いかけた。
会場の外は夕暮れ時になっており、シュウは次のポケモンコンテストが開催される街へ行くために足を進める。
そんなシュウの背中に、追いついたハルカは声を掛ける。
「シュウ!」
「ん?」
「私、今度は絶対負けないから!」
今度は負けない。
そんなハルカの、次のコンテストに向けての意気込みを聞いたシュウは、先日自分が言った事が間違いであったと認めて笑みを浮かべるとこう言った。
「…ああ、期待しているよ」
それはハルカをライバルとして認めたというシュウなりの敬意だった。
「まぁ、その時には僕ももっと強くなってるだろうけどね」
しかし続く言葉から、シュウも相当な負けず嫌いである事が伺えた。
シュウから認められたと分かったハルカは悔しさと共に嬉しさも同時に胸の奥から湧き出てきた。
そしてシュウは今度こそ立ち去っていった。
「シュウのやつ、更にやる気が出てきたみたいだな」
「えぇ!」
遠ざかっていくシュウの背中を見送ったハルカ達だが、今度はそんなハルカの背中へと声が掛かる。
「ハルカちゃん!」
「あっ、ルチアさん」
後ろにいたのはリボン授与式を終えたルチアと、彼女のマネージャーだった。
ルチアはハルカへと歩み寄ると、その手を取ってキラキラした目で話しかけた。
「ハルカちゃん! 今日のあなた、とってもキラキラしてたよ! 次のコンテスト、頑張ってね!」
「…! はい! 私、いつかルチアさんと直接対決できるように頑張ります!」
「その時を楽しみにしてるね! それじゃあ私、次のお仕事があるからまたどこかで会おうね!」
「はいっ!」
ルチアは売れっ子アイドルでもあり、様々な仕事に引っ張りだこである。
いつまでも一箇所に留まっている訳にもいかないため、一旦ルチアとはここで別れる事になるだろう。
最後にルチアはソラトの元へとやって来る。
「ソラトくん、また会えてよかったよ」
「ああ、俺もだ。ハルカもコンテスト巡りを続けるだろうから、またその内会えるだろうな」
「……あのね、ソラトくん」
赤い夕暮れに照らされて分かり難いが、ルチアは顔を赤くしてモジモジとしている。
「何だ?」
「……ううん! なんでもないよ! ソラトくんもアラシさんを探すの、頑張ってね!」
「あぁ。いつか、必ず見つけ出すさ」
本当に伝えたかった事は、恥ずかしさと久しぶりに会えた想い人との関係を壊したくなくて出てこなかった。
だからせめて、彼が目的を果たせるように応援を―。
「それじゃあ、またね!」
「あぁ、またな」
「ルチアさん、ありがとうございました!」
初めてのコンテストを敗北で終えたハルカ。
だが、良きライバル達にも巡りあえたハルカの挑戦は、まだまだこれからである!
to be continued...
最初のコンテストはやはり敗退で終えましたね。原作通りです。
次回の投稿なのですが、ちょっと間が開くと思います。
恐らく1週間くらいだとは思いますが、どうかご了承下さい。