此処はホウエン地方がトウカシティ。
今日ここで新たなるポケモントレーナーが生まれた…のだが…
「うわーん! ヤダヤダ~! ハルカもお兄ちゃんと一緒に行くかも~!!」
「だからダメだって…ハルカはまだ5歳だろ?」
「うわ~ん!」
黒いコートを着た少年にしがみ付きながら泣き喚く小さな少女が1人。
困り顔でどうしようかと考える黒衣の少年は助けを求めるような視線を近くにいる大人の男性に向けた。
男性は仕方がないとばかりに苦笑しながら少女の頭を撫でる。
「仕方ないさ。ハルカはまだ5歳だから旅に出るにはまだ早い。もう少し大人になるまで我慢しような」
「ヤダヤダ~! お兄ちゃんと離れたくないかも~!!」
「あと5年だよ。たった5年でハルカもすぐ大人になれるから、我慢しような」
男性が少女を抱きかかえて少年から引き離すと頭を撫でて落ち着かせる。
漸く少女が離れて解放された黒衣の少年は少女の泣き顔を覗き込む。
「じゃあ約束だ。5年経ってハルカが10歳になったら迎えに来るから、そしたら一緒に旅に行こうぜ」
「ぐす…わかったかも…」
「よし、約束だ」
黒衣の少年と少女は指きりをして、約束を硬く交わした。
「よし、行くかミズゴロウ!」
「ゴリョ!」
黒衣の少年は近くにいたぬまうおポケモンのミズゴロウに声をかけると、そのミズゴロウは力強く返事をした。
その返事に満足した黒衣の少年は目を閉じて深呼吸すると、目の前に伸びる街道と広大な森に向けて決意に満ちた瞳を向ける。
「絶対に見つけてやるからな…それじゃセンリさん、ハルカ、行ってきます!」
「ああ、気をつけてな!」
「5年後だよー! 待ってるかもー!」
こうして黒衣の少年は旅立った。
大切な人との約束を果たすため、大切な人を探しに――
~5年後~
時は経ち、ホウエン地方はミシロタウン。
ミシロタウンの港には各地方を行き来する多くの船が存在する。
だがその中で船を使わず、あるポケモンの背に乗ってこの町に近づいている黒いコートを着た青年が居た。コートに付いているフードを目深に被っているせいで青年の顔つきは分からないが、口角が上がり喜んでいるようだ。
「ラグァ!」
青年が乗っていたポケモン、ラグラージは水面から勢い良く飛び出すと水と共に宙を舞ってから港の桟橋に着地した。
「うーっしスイゲツ、帰ってきたな! ホウエンに!」
「ラグラグ!」
スイゲツと呼ばれたラグラージと黒衣の青年は軽くハイタッチをする。
「よし、それじゃまずオダマキ博士の所に行くか。山道だから海の旅はここまでだな。戻れスイゲツ!」
モンスターボールを取り出しラグラージに向けてビームを当て、ボールの中へ戻した青年は意気揚々とミシロタウンの町並みを進んで行った。
そして同時刻、ミシロタウンに到着したある船では…
「頑張れピカチュウ! すぐにポケモンセンターに連れて行ってやるからな!」
「ピ、ピカ…」
熱を出したようにうなされているピカチュウを抱えた赤い帽子を被った少年が、慌てた様子で船を降りてきた。
彼はポケモンマスターを目指す少年、サトシ。
新しい冒険と新しいポケモンとの出会いを求めて此処、ホウエン地方へやって来たのだが…旅の途中で相棒であるピカチュウの体調が悪化したのだった。
「すいません! ポケモンセンターはどこですか!?」
「え? この町にはポケモンセンターは無いんだよ」
「そんな!」
道行く人にポケモンセンターの場所を尋ねるも、残念な返答が帰ってきて焦るサトシ。
だがその間にもピカチュウの体調は悪化していく。
「ど、どうしたらいいんだ…」
「おい、そこのガキンチョ」
焦りのせいで思考が上手く回らないサトシだが、そんな彼の背中に声が掛けられる。
サトシが振り返ると、そこにはアロハシャツの前を全開にして肉体を晒し、短パンを履き、足はサンダルといったまるで南の島から帰ってきたような格好をした中年男性が居た。
少々癖毛の黒髪は所々跳ねており、口と顎にうっすらとした髭が生えている、一見してワイルドに見える男性だ。
「えっと、オレですか…?」
「そうそう、間抜けヅラのお前だ」
「ま、間抜けって…」
唐突に間抜けと言われて戸惑いと苛立を同時に感じるサトシだが、今はそれどころでは無いことを思い出す。
「すいません、オレ急いでるんです!」
「そのピカチュウ、帯電状態になってやがるな」
そう言ってピカチュウを何とかしようとその場を離れようとするサトシだが先ほどの男性からそう言われて走り出そうとした足を止める。
「わ、分かるんですか!?」
「おうよ、俺様は何でも知ってんだ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる男性はサトシとピカチュウに近寄ると、右手を苦しむピカチュウに向けてかざす。
10秒ほどそうしていると、男はかざしていた手を下ろした。そして改めてサトシがピカチュウを見ると既に体調が回復したようで先ほどまで苦しそうにしていた息が落ち着いていた。
体調が良くなったからか、ピカチュウはすぐに目を覚ましてサトシを見ると笑顔になる。
「あぁ…ピカチュウ! 良かった!」
「ちゃぁ~」
「あ、あの! ありがとうございます!」
サトシはピカチュウを回復させてくれた男性にお礼を言うと、男性は再び不敵な笑みを浮かべて踵を返して歩き出した。
「あ、あの…」
「今のは貸しにしといてやるよ。またどっかで返しやがれ」
「…はい! ありがとうございます!」
「ピッカチュー!」
やがて男性は見えなくなり、サトシはピカチュウを肩に乗せ直す。
「不思議な人だったな、ピカチュウ」
「ピカピ」
「でも、あの人お前に何をしたんだろうな? 手をかざしてた様にしか見えなかったけど…」
「ピッカ! ピカピカチュ!」
不思議そうにするサトシだが、ピカチュウはとにかく元気になったことを腕に力を込めてアピールすると、サトシも笑ってとにかく良かったとピカチュウの頭を撫でる。
元来考えるのは得意ではないタイプのサトシは、分からないことはとりあえずスルーするのだ。
「そうだな、とにかくお前が元気になって良かった! それじゃまずはオダマキ博士の所に出発だ!」
「ピッピカチュ!」
こうしてサトシとピカチュウの、ホウエンリーグに向けての旅が始まったのだった。
所変わり、ここはミシロタウンの近くにあるとある山道。赤い自転車を漕いで街道を走る少女が1人いた。
「フンフフーン、初めてのポケモン♪ 初めての冒険♪」
機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら自転車を走らせている少女の名はハルカ。
今年で10歳になり晴れてポケモンが持てるようになり、今は初心者用のポケモンを受け取りに行く道中なのだ。
「なにより、久しぶりにお兄ちゃんに会えるかも! テンション上がってきたかも!」
ハルカは言葉に出しているお兄ちゃんと呼ぶ人物との再会を楽しみにしている様子である。
しかし注意散漫になっている彼女の後ろから迫る黒い影が…
「でもお兄ちゃんももっと帰ってきてくれてもいいかも。結局パパとのジム戦と、他の地方に行く時のお別れの時くらいしか帰ってこなかったもんなー」
「ヨマー…」
「へ?」
おどろおどろしい声に振り返ってみればそこにはガイコツのような顔に小さい黒い体。
おむかえポケモンのヨマワルだ。
普通に見ればある意味愛らしい姿をしたヨマワルだが、突然目の前に出てこられれば驚くのは必然。
つまり…
「ひゃあああああああっ!?」
「イヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
驚きのあまりハルカは自転車の運転が滅茶苦茶になり、急な坂を勢い良く下っていってしまう。
「きゃああああああ! あぶっ!」
「イシシシシ! ヨマー!」
ハルカは木に激突することでやっと止まる事ができたが、顔を強打してしまいその場に崩れ落ちた。
彼女が復活したのはそれからしばらく後だった…。
そしてミシロタウンの外れにはある研究所が存在している。
ホウエン地方のポケモン研究の第一人者であるオダマキ博士の研究所である。
「いやぁ、それにしても久しぶりだね。5年ぶりか」
「お久しぶりです、オダマキ博士」
研究所では先ほどラグラージに乗ってミシロタウンに着いた黒衣の青年がオダマキ博士と挨拶をしていた。
青年の傍らには先ほどのラグラージも居る。
「いやしかし、あの時のミズゴロウがこんなに立派なラグラージになるなんてな。やっぱりポケモンの進化素晴らしいな」
「そうですね。そして…それ以上の進化も…」
黒衣の青年は腕に付けているバングルに装着されている石を見つめると、オダマキ博士が目を輝かせる。
「それはまさか、キーストーンかい!?」
「はい、カロス地方へ行った時に手に入れたんです」
「うぉおお! ちょっとよく見せてくれないか!」
「うわったた、ちょっとオダマキ博士! 落ち着いて下さいよ!」
余程興奮しているのかオダマキ博士は青年のバングルを着けている腕を取ると強引に引っ張りバングルに装着してある石をまじまじと見つめる。
「おっと、すまないね。つい興奮してしまった…」
うっかりといった様子でオダマキ博士は謝罪するが、青年はフードの下で苦笑いを返す。
「そうだ、5年も旅してたんだ。そろそろアイツは見つかったのかい?」
「…まだ会えてはいません。でも、ホウエンに帰ってきてるって情報を掴みました。だからまたホウエンで旅しようと思ってます」
「そうか! そういえばもうすぐハルカちゃんが来る予定なんだよ。最初のポケモンを選びにね」
「ハルカか…大きくなってるんでしょうね。約束もありますし、少し待っててもいいですか?」
「ああ勿論さ」
そうして話をしていると研究所の外から「ごめんください」と声が聞こえる。
「おや、噂をすればかな? 悪いけどポケモンを準備してくるから玄関まで出て貰っていいかな?」
「お安い御用です」
その頃外ではピカチュウを連れたサトシが研究所の前まで来ていた。
ジョウトリーグで戦ったトレーナー、ハヅキの紹介により、サトシはまずオダマキ博士の研究所を訪れたのだ。
「ごめんくださーい!」
「ピカチュー!」
「はいはい、お待たせ…ってハルカじゃないな」
黒衣の青年がドアを開けるとそこには予想していた少女ではなくピカチュウを連れた見知らぬ少年、サトシが立っていた。
そしてサトシから見れば黒いコートを着てフードで顔を隠した怪しい男が出てきたのだ。
「あ、怪しい…!」
「ピカピ…!」
「えっと、何か用かな?」
「あっ、えっと、オダマキ博士ですか?」
「いや、俺はオダマキ博士の知り合いだよ。博士は中にいるけど会っていくか?」
「はい! 是非お願いします!」
黒衣の青年に案内されてサトシは研究所の中へ入って行った。
そしてその後姿を見送る3つの視線が…
「ジャリボーイ、あの建物に入っていったわね」
「あそこはオダマキ博士の研究所だな…ホウエン地方のポケモン研究の第一人者だな」
「という事は、ピカチュウの他にも珍しいポケモンがいるハズだニャ!」
カントー地方からサトシとピカチュウをずっと付け狙っているロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人組だ。
「じゃあそのポケモン達をゲットしてボスに送れば!」
「私たちの大手柄ってワケね!」
「「「幹部昇進! 支部長就任! イイカンジー!」」」
「ソーナンス!!」
相変わらずの様子でピカチュウや他のポケモンを狙うズッコケ悪の組織である…。
そして中に入ったサトシは黒衣の青年の案内で研究所の奥にあるオダマキ博士の部屋へ連れられた。
「おや、君は…」
「こんにちはオダマキ博士。マサラタウンのサトシです。ハヅキさんに紹介されてお会いしに来ました」
「おお、そうだったのか。ホウエン地方は初めてかい?」
「はい。ホウエンリーグの出場のために、1から再スタートするんです」
「なるほど、ならばコレを持っていくといい」
そう言ってオダマキ博士はサトシに向けてある物を差し出した。
「これは…!」
「新モデルのポケモン図鑑さ。旅で役に立つだろうから持って行くといい」
「ありがとうございます!」
「そうだ、ソラト君にもポケモン図鑑を…」
「いえ、俺は大丈夫です。全国版ポケモン図鑑がありますから」
ソラトと呼ばれた黒衣の青年はサトシが貰ったポケモン図鑑とは別の形をしたポケモン図鑑を持っていた。
中々使い込まれている様で所々汚れが目立つが、大切に使われているのが分かる。
「ぜんこくばん…?」
「ピィカ?」
「この全国版ポケモン図鑑はアップデートを重ねてあるんだ。ホウエン地方だけじゃなくて他の様々な地方特有のポケモンでも検索できるんだ」
「へー、よく分かんないけどスゲー」
よく分かんないと言われて思わず苦笑いをするソラトだが、何となくサトシという少年の性格を察するのだった。
その様子を見ていたオダマキ博士は鞄の中から3つのモンスターボールを取り出した。
「そうだサトシ君。もし良かったらホウエン地方の初心者用のポケモン達を見ていくかい?」
「いいんですか!? お願いします!」
「よーしそれじゃ…」
オダマキ博士がモンスターボールに手をかけようとした瞬間、研究所の壁が爆発して壁が崩れる。
「な、何だ!?」
「な、何だ!? と聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河を駆けるロケット団の2人には」
「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」
「なーんてニャ!」
「ソーナンス!」
お決まりの口上を述べたロケット団の3人組は研究所内に侵入した。
「ロケット団! またお前らか!」
「ハーイ、ジャリボーイ」
「新地方にて俺達も新生ロケット団として活動するのさ」
ロケット団と顔見知りのサトシは至って普通に会話しているが、ロケット団は主にカントー地方、ジョウト地方で活動する組織だ。
ホウエン地方ではメジャーではない彼らの事を知らないソラトとオダマキ博士はポカンとした表情でロケット団の口上とやり取りを見ていた。
「誰だアレ?」
「ロケット団っていう、人のポケモンを奪う悪いヤツらです!」
「ロケット団? 博士ご存知ですか?」
「イヤ、聞いた事ないな」
「とにかく悪い奴らなんです!」
不思議そうにロケット団を見るソラトとオダマキ博士を見かねたサトシが大声で主張している間にロケット団の背後に巨大な影が現れる。
それは電池に手足が生えたかのような巨大なメカだった。
メカが現れると、ロケット団の3人は素早く飛び上がりメカに乗り込んだ。
「な、何だこれは!?」
「ニャーッハッハ! これぞロケット団対電気ポケモン捕獲メカ・デンデン電池くん2号だニャ! そらいくニャ!」
メカの腕が伸びるとあっという間にピカチュウを捕まえてしまう。
「ピカー!」
「あっ! ピカチュウ!」
「そっちも頂いていくニャー!」
もう片方の腕を伸ばすとオダマキ博士が用意したモンスターボールを纏めて掴んで掻っ攫っていっていまう。
「しまった! 初心者用のポケモン達が!」
「ピカチュウ、10万ボルトだ!」
「ピカーチュゥウウウ!!」
ピカチュウから10万ボルトが放たれメカに直撃するが、電撃はすぐに弾かれてしまう。
「そんな!?」
「いつも通り電撃対策はバッチリなのだ! このメカは電撃を吸収するのだ! それも今までより大容量だぜ!」
「さっさとズラかるわよ!」
「あっ! 待てロケット団!」
ロケット団のメカはピカチュウとモンスターボールを奪うとその足でヒョコヒョコと走り去っていく。
無論相棒のピカチュウを放っておくサトシではない。すぐにロケット団の後を追いかけていく。
「サトシ君! 他のポケモンは持っているのかい!?」
「今はピカチュウ以外には持ってません! でも、何とかやってみます!」
そう叫ぶとサトシはロケット団の去っていった方へ走って追いかけて行く。
あたふたしているオダマキ博士を尻目にソラトも壊れた壁から外へ飛び出してサトシとロケット団を追いかけて行く。
「ソ、ソラト君!」
「ポケモン達を取り返してきます! オダマキ博士はジュンサーさんに連絡を!」
「わ、分かった!」
そうしてサトシとソラトはロケット団を追いかけてミシロタウンの外れの森の中へと入って行った。
そして同じ頃、ようやく復活したハルカは自転車を漕ぎながら森の中を再び進んでいた。
「いたたた…もう、最悪かも」
先ほどぶつけた顔を押さえながら森を進むハルカだが、その正面から研究所から逃げてきたロケット団のメカが走って来ていた。
「えぇ!? 何アレ!?」
「どきなさーい!」
「どかないならぶっ飛ばしていくニャ!」
「きゃぁあああああああ!?」
「ニャハハハハ! ってどニャー!?」
ハルカを視認して尚スピードを緩めないメカにハルカはビックリ仰天してパニック状態になっている。
突然ロケット団のメカを避けれる筈もなくハルカはメカの足に激突してしまう。
ハルカは吹き飛ばされて街道の横に弾き出されてしまう。
だがハルカが乗っていた自転車はぶつかった衝撃でメカの足に引っかかり、そのせいでメカは転んでしまう。
そして片方の手に持っていたモンスターボール3つを落としてしまい、ハルカの近くへ転がった。
「いたたた…もう、ホント最悪かも~!」
「最悪かも~、じゃないわよ!」
「よくも邪魔してくれたな!」
「ニャ!? モンスターボールを落としちゃったニャ!」
体制を立て直したロケット団のメカがハルカの前に立ちはだかる。
目の前の怪しいメカと先ほどの衝突により何となくロケット団が悪い奴だと察したハルカは近くにあったモンスターボールを急いで拾って腕の中へ隠した。
「こら! そのモンスターボールは俺達のだぞ!」
「返すニャ!」
「どう見てもそんな風には見えないかも! そっちのポケモンも離してあげなさい!」
「ピカ…」
「ええいやかましい! こうなったらあのジャリガールごと持っていくわよ!」
未だにメカの腕に捕まっているピカチュウを指差してハルカは離すように叫ぶが、それがムサシの怒りに触れたのかハルカ目掛けてメカの腕を伸ばした。
「きゃああああああ!」
だがハルカはモンスターボールを抱えたまま森の中へ逃げ込んで行く。
「逃がすんじゃないわよニャース!」
「待て~! ロケット団!」
「いやサトシ君も待てって!」
「まずい、ジャリボーイだ」
「研究所にいた黒いヤツもいるニャ」
「とにかくあのジャリガールを追いかけるのよ!」
ロケット団を追いかけてきていたサトシとソラトも追いついて来ていた。
そしてロケット団はハルカを追いかけて森の茂みをかき分けて追いかけていく。
「あ~ん、どうしてこうなるの~!」
「待ちなさいそこのジャリガール!」
「モンスターボールを渡すニャ!」
「このままじゃ追いつかれちゃうかも…! きゃあっ!」
森の中を走って進んでいくハルカだが、崖に突き当たって立ち止まってしまう。
そして当然背後からはロケット団のメカが追いついてきてしまう。
「追い詰めたぜ!」
「さぁ、観念なさい!」
「ホウエン地方の初心者ポケモン、ゲットだニャ!」
(もうダメかも…!)
ロケット団のメカの腕が構えられ、すぐにでもハルカへと襲い掛かろうとしている。
ハルカは恐怖から目を瞑り、その場に座り込んでしまう。
そしてハルカの脳裏に浮かぶ幼い頃の約束。
ハルカが10歳になりトレーナーになる事ができたら、共に旅をするという兄のような人物と交わしたあの約束を。
「…助けて! お兄ちゃん!」
「ああ、任せな!」
メカの腕がハルカを掴む直前、黒い影がハルカを抱えて腕を避けた。
黒い影―ソラトはハルカを救うと、駆けつけた風でフードが外れてその素顔が露わになった。
目にかかるほどの短めの黒髪は癖毛なのか所々はねており、割と端整な顔立ちをした青年だった。
「ちょっと邪魔しないでよ!」
「お前、何者だ!?」
「別に何者でもねぇよ。バトルの時間だ、スイゲツ!」
「ラグラ!」
ロケット団の問いを軽くスルーすると、ソラトはモンスターボールを投げ、ラグラージのスイゲツが現れる。
「スイゲツ、マッドショットでピカチュウを助けるんだ!」
「ラグァアアア!」
スイゲツは口からマッドショットを放つとメカの腕に直撃すると、その場所から腕がちぎれてピカチュウを解放した。
「ピッカ!」
「ピカチュウ! よかった!」
そこへ丁度サトシが追いつきピカチュウはサトシへと飛びついた。
「ゲーッ! ピカチュウが逃げちゃったニャ!」
「大丈夫だって、このメカに攻撃は効かないんだろ」
「電撃以外の対策はしてないのニャ!」
「「えーっ!?」」
ピカチュウを逃がしてしまいメカの中でロケット団はパニック状態に陥ってしまう。更にラグラージへの対策ができてないと知り驚愕の嵐。
その間にピカチュウは体制を立て直し、ソラトは抱えていたハルカを地面に降ろしていた。
「大丈夫かハルカ?」
「えっと、お兄…ちゃん?」
「おう、5年ぶりだなハルカ。積もる話はあるが今は取り込み中だし、先にこっち片付けるぜ」
「あ、うん! そうかも!」
「ハルカ、その中のモンスターボールを1つ投げてみろ」
「分かったわ! それっ!」
ハルカが抱えていたモンスターボールを1つ選んで投げると、中から出てきたのはオレンジ色の体をした小さなひよこのようなポケモンだった。
ホウエン地方の初心者用ポケモンの1匹であり、ほのおタイプのアチャモである。
「わぁ、可愛いかも!」
「お、アチャモか!」
「あれがアチャモ…!」
サトシは早速先ほど貰ったポケモン図鑑を取り出してアチャモをサーチするとデータが検索される。
『アチャモ ひよこポケモン
トレーナーにくっついてチョコチョコ歩く。口から飛ばす炎は摂氏千℃。相手を黒コゲにする灼熱の弾だ。』
「へぇ、ほのおタイプなのか!」
「ハルカ、同時攻撃するぞ!」
「え、えっと…どうすればいいの?」
「技を指示するんだ! ひのこって言ってみろ」
「アチャモ、ひのこ!」
「よしスイゲツ、マッドショットだ!」
「チャモー!!」
「ラーグラァ!!」
スイゲツとアチャモのマッドショットとひのこが同時に放たれ、ロケット団のメカに直撃すると電撃以外の対策もされていない為、ボカン!と爆発してコックピットがむき出しになる。
これで電撃対策も意味を成さない。
「よし、トドメだピカチュウ! かみなりだ!」
「ピカ~ヂュゥウウウウウウウ!!」
「「「あばばばばばばばばばばばば!?」」」
かみなりによりメカが爆発してロケット団は吹き飛んでいく。
「せっかく上手くいくとこだったのにー!」
「絶対にピカチュウは諦めないわよ!」
「結局ホウエンでもこうなるのかニャ…」
「ソーナンス!」
「「「ヤなカンジ~!!!」」」
「ソーナンス!」
キラン☆
ホウエンの空に輝く星となり吹き飛んでいったロケット団はいつも通りヤなカンジとなって消えていった。
「無事でよかったぜ、ピカチュウ!」
「ピカチュウも初心者用のポケモンも無事で何よりだ。モンスターボールを守ってくれてありがとな、ハルカ」
「え、あ、うん…」
「ピカチュウを助けてくれてありがとうございます! えーっと…」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はソラト、こっちはラグラージのスイゲツだ。よろしくな」
「これがラグラージか!」
『ラグラージ ぬまうおポケモン
ミスゴロウの最終進化系。
重さ1トン以上ある岩の塊を軽々引っ張るパワーを持つポケモン。濁った水中も見通す視力を持つ。』
図鑑でラグラージを検索するとサトシは目を輝かせてスイゲツを見つめる。
「うわぁ~、さっきのワザもだけどすげぇパワーがあるんだな!」
「ああ、コイツのパワーはピカイチだぜ」
「スッゲェや!」
「褒めてくれてありがとな。さて…」
ソラトはハルカに向き直ると、ハルカは理由もなく気まずくなってしまい顔を逸らしてしまう。
持ち前の明るさで何かを言おうと思うも、何故かちゃんとした言葉にならずに口ごもる。
だがソラトはその様子を嬉しそうに見ていた。
「えっと、あの、その…」
「ハルカ」
「はっ、はい!」
挙動不審のハルカはソラトに声を掛けられるとドキッと心臓が跳ねて体が強張ってしまい動けなくなってしまった。
そんなハルカにソラトはスッと手を差し伸べた。
「約束通り、迎えに来たぜ」
「…! うん! 久しぶりお兄ちゃん!」
ハルカはソラトの言葉を聞くと満面の笑みを浮かべて手を取ってソラトに近づき、抱きついた。
「うおっと! ハハハ、大きくなったなハルカ!」
「ふふふ! ホント、久しぶりかも!」
ロケット団を吹き飛ばしてからしばらく後、サトシ達はオダマキ研究所へ戻ってきていた。
オダマキ博士が呼んだジュンサーさんもやって来ており、オダマキ博士の助手に事情聴取を行っていた。
そしてサトシ、ハルカ、ソラトの3人は研究所の部屋で初心者用ポケモン達のモンスターボールを返していた。
「いやぁ、ピカチュウもポケモン達も…とにかく皆が無事で良かったよ。ハルカちゃん、紹介するよ。今日カントー地方からやってきたサトシ君だ。サトシ君、こっちはトウカシティのハルカちゃんだ」
「俺サトシ、こっちは相棒のピカチュウだ。よろしくな」
「ピカ、ピカチュウ」
「私はハルカ、よろしくね」
サトシとハルカは握手をしてお互いの自己紹介をする。
その横でオダマキ博士が渡されたモンスターボールを確認していると、思い出したという風にソラトが声を掛ける。
「そういやオダマキ博士、ハルカのポケモンの件は?」
「ああ! そうだったね。それじゃハルカちゃん、最初のポケモンを選んでくれ」
「はい、実はさっきのドタバタで決めたんです! 私、アチャモにします!」
「そうか、じゃあこれがアチャモのモンスターボールだよ」
「ありがとうございます!」
先ほどのロケット団との戦いでアチャモを使った事によりアチャモの事が気に入ったハルカは、最初のポケモンをアチャモにしてモンスターボールを受け取った。
「これでハルカもトレーナーデビューだな! 俺達も負けてられないなピカチュウ!」
「ピカピカ!」
新トレーナーの誕生に決意を新たにするサトシとピカチュウも何故か燃えていた。
「それじゃ約束通り俺と一緒にこのホウエン地方の旅をするか、ハルカ」
「うん! よろしくねお兄ちゃん!」
(ウフフ、誰にも邪魔されずにお兄ちゃんと2人旅…! いいかも…!)
ハルカの脳裏にはソラトと2人でホウエン地方を旅している様子が浮かんでいる。
カナズミシティでの観光、ムロタウンでのバカンス、カイナシティでのショッピング、キンセツシティでも観光、フエンタウンでの温泉等々。
それはハルカの脳内で美化され、まるでデートのように…
「ウフ、ウフフフ、ウフ」
「ちょ、どうしたハルカ?」
妄想によりニヤけた顔になり、乙女にあるまじき表情になっていたためソラトを初め、サトシとオダマキ博士も若干引いていた。
「あっ、えっと…アハハ、何でもないかも」
「お、おう…」
と、そこへ先ほどのソラトとハルカの会話を思い出したサトシが会話に割り込むように2人に声を掛ける。
「2人はホウエン地方を旅するのか!? なら、俺と一緒に旅をしないか? 俺、ホウエンリーグの出場を目指してるんだ!」
「ふむ、俺は構わないけど」
「えーっ!?」
「ん? どうしたハルカ?」
サトシの誘いにすぐに了承の意を示したソラトと違い、ハルカは突然大声を出す。
突然の大声にソラトとサトシは不思議そうにハルカを見つめる。
「え、いやその…」
(ここで断ったらお兄ちゃんに変な風に思われちゃう! そしたら私の気持ちバレちゃうかも…!)
「い、いいわよ! 旅は大勢の方が楽しいかも!」
「それじゃ決まりだな」
「よーし、新しい仲間だぜピカチュウ!」
「ピッピカチュウ!」
こうして新たなる仲間を得たサトシとピカチュウ。
ホウエンリーグ出場を目指す彼らの冒険が、今始まったのだった。
to be continued...