ポケットモンスター-黒衣の先導者-   作:ウォセ

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とりあえずジラーチ編はこれで終わりです。
皆様ご意見あると思いますが、とりあえずこれが私のジラーチの物語となります。

どうかご容赦下さい。

後活動報告にて読者の皆様に少々ご相談があるので、お時間がある方はお目通しして頂けるとありがたいです。

最後に、今回のあとがきは映画で例えるとエンドロールとスタッフクレジットの後にあるオマケ要素のようなものを書きます。


1000年に1度の物語

まどろむ意識の中から、鼻を突くような嫌な臭いと節々に感じる痛みにサトシは目を覚ました。

 

「あれ、俺…どうしたんだっけ…?」

 

確かバトラーに捕まってしまい―と思ったところで勢いよく体を起こした。

 

「そうだ…マサトが叫んだらジラーチのお腹にあった大きな目が開いて…!」

 

「サトシ! 無事か!?」

 

「クー!」

 

何があったのか思い出しながら体を起こしたサトシの元へ、倒れている木を飛び越えてソラトとムゲンがやって来た。

 

「ソラト! 俺は無事だけど…ピカチュウがいないんだ!」

 

「大丈夫だ。ピカチュウもハルカもダイアンさんも向こうにいる。サトシだけ檻が壊れた衝撃で弾き出されたんだ」

 

「そっか、良かった…」

 

相棒であるピカチュウの姿が傍に無く焦るサトシだったがソラトの言葉で落ち着きを取り戻す。

落ち着いて周囲の様子を確認すると、どうやらここはサトシ達がいた森の中らしいが…周囲の木々はなぎ倒されていて少し離れた場所はバトラーの空中要塞が墜落しており、火事になっているらしい。

ゴウゴウと木々が燃える焦げた臭いが、目を覚ます時の嫌な臭いだったのだろう。

 

「ソラト、何が起こったんだ?」

 

「説明は後でする。まずはハルカ達と合流しよう」

 

「ああ、分かった」

 

ソラトの後に続いて薙ぎ倒されている木々を飛び越えて少し離れた場所へ1分ほど走って移動すると、ピカチュウとハルカ、そしてダイアンが待つ場所に到着した。

 

「おーい!」

 

「あっ、サトシ! 無事だったのね!」

 

「ピカッ! ピカピ!」

 

「ピカチュウ! 無事で良かったぜ!」

 

サトシが声を掛けるとハルカとピカチュウが反応し、ピカチュウはサトシの所まで駆け寄り飛びつくとサトシもピカチュウをギュッと抱きしめた。

 

「なんとか皆無事だな…」

 

「でもお兄ちゃん、マサトがまだ…」

 

「ソラト君、確かマサト君が叫んだと思ったらジラーチのお腹に大きな目が開いたと思ったのだけれど、何が起きたの?」

 

「ハルカ、分かってる。ここももう安全じゃない…手短に説明をすると、マサトが皆いなくなればいいと願った事によってジラーチの第3の目が開いた。はめつのねがいという力で大昔もその力で災厄が起きたらしいんだ。その開眼のエネルギーで要塞が破壊されて墜落し、俺達は地上に投げ出されたってとこか」

 

確かにマサトはこの場におらず、仲間全員が揃った訳ではない。

ダイアンも何が起きたのかを全ては把握できておらず、何かを知っているようなソラトへ問い掛ける。

要塞で何が起きたのかはソラトが語った通りである。ついでに言うと、サトシ達が閉じ込められていた檻は吹き飛ばされた時の衝撃で壊れてしまったためサトシ達は外に出ることができたのだ。

そしてソラトが言葉を続ける前に、真っ暗な夜空の筈だというのに上空が明るくなる。

 

「な、何だアレ!?」

 

サトシが指差す先には、燃え上がる巨大な岩が…そう、隕石が落ちてきていた。

それも1つや2つではない。無数の隕石がこの周辺に向けて落ちてこようとしているのだ。

そしてその隕石の1つが少し離れた場所へと落ちると、大きな爆発を起こし空気を引き裂くような音と、大地を砕くような振動を起こした。

 

「きゃああああああああっ!?」

 

「くっ…! 少し離れた場所だってのにこの衝撃か…!」

 

「ソラト君、これは…!?」

 

「…ジラーチのはめつのねがいです。マサトが願った『皆いなくなってしまえばいい』という願いをジラーチが聞き届け、千年彗星のエネルギーを利用してこの周囲に星を落としているんです。ジラーチを止めないと、まだまだ降り注ぎます」

 

「そんな…きゃあっ!?」

 

ソラトが説明している間にも、隕石が1つ2つと地上に落下してくる。

大地を破壊し、森を吹き飛ばし、周囲が炎と共に燃え上がり野生のポケモン達が逃げ惑う。

 

「あの絵画から読み取って見た過去と同じだ…このままじゃ辺り一帯が更地になっても隕石は降り続ける…」

 

「そんな! ソラト、何か止める方法は無いのか!?」

 

「マサトが願った事だからな。ジラーチを止めれるのはマサトしかいない」

 

ソラトが見据えるのは墜落したバトラーの空中要塞の最上部。

先ほどサトシ達が居たあの場所に、マサトとジラーチはまだ取り残されている。

バトラーやロケット団がどこにいるのかは分からないが、今はもう時間が残されていない。

 

「よーし、だったら話は早い! この要塞を登ってマサトを助け出せばいいんだ!」

 

「その通り。ムゲンに乗って上空から一気に行けばすぐだ」

 

隕石が降り注いでいる中では一刻を争う。

ソラトは再びムゲンの背中に乗ると飛ぶように指示を出そうとするが、直前で空からこの場所へ隕石が向かってきている事に気がついた。

 

「まずいっ! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クーキュゥウウウウッ!」

 

向かってきている隕石はかなり小さめだったためどうにか破壊できないかと、ムゲンにりゅうのはどうで迎撃する。

ムゲンは口を大きく開くとまるで竜のような形をした紫のエネルギーを放った。

強力な竜のエネルギー波は隕石に命中すると粉々に砕いた。どうにか隕石を破壊できたソラトはホッと胸を撫で下ろしたが、破壊した隕石の粉塵の中から何かが飛び出してきた。

そして飛び出してきた何かは、ソラト達の近くに落ちるとその姿を露にした。

 

「な、なんだコレ!?」

 

「これは…!?」

 

それは何か黒い液体のようなものだったが、地面に着くとグネグネと動き人のような姿になった。

 

「オオオォ…!」

 

「っ!? 皆避けろ!」

 

「うわっ!?」

 

人型になった液体は右腕を振り上げると、右手を巨大化させて振り下ろした。

手が大きくなった瞬間に敵意を感じ取ったソラトは皆に警告を出すと飛び退くようにして攻撃をかわした。

サトシ達もどうにか攻撃を避けたが、目の前の謎の生物は再び右手を振り上げた。

 

「ピカチュウ、10万ボルト!」

 

「ピーカーチュゥウウウウウッ!」

 

「オオオオォォォォォ……」

 

サトシがピカチュウの電撃で反撃すると、謎の生物はドロドロに溶けるようにして崩れ落ちてしまった。

 

「何だったんだ…?」

 

「分からない…だが隕石の中から出てきたって事は…!」

 

今この瞬間も隕石は落ち続けている。

もしこの隕石全てにこの謎の物体が入っているのであれば、マサトを救出するのに大きな障害となる。

それを裏付けるかのように、周囲の茂みがガサガサと揺れると先ほどと同じ、黒い人型の謎の生命体が複数体現れた。

更には空も飛べるらしく、フワフワと浮いている個体までいるようで空を飛ぶ選択肢が潰されてしまっていた。

 

「いったい何なの~!?」

 

「分からない…隕石の中にいた宇宙生命体か…? とにかく襲ってくるぞ!」

 

「ソラト、どうするんだ!?」

 

「ともかく、これじゃ空からは近づけない。走って要塞まで行くぞ!」

 

「おう! ピカチュウ、道を切り開くんだ! かみなり!」

 

邪魔は入っているが、早くマサトを助けてジラーチを止めなければ現状は改善されない。

ソラトが空からマサトの元へ飛んで行ければ良かったのだが…謎の生物が飛行もできるとなれば空を飛んでも狙われやすくなるだけだろう。

 

「ピーカーヂュゥウウウウウウウウ!」

 

要塞への道を作るため、ピカチュウの強烈なかみなりで謎の生物達を吹き飛ばす。

 

「今だ!」

 

ピカチュウがこじ開けた道をサトシ達は駆け抜ける。

だが謎の物体も1度サトシ達に狙いを定めたのか空を跳び、地を駆けて後を追いかけてくる。

 

「ムゲン、ミストボール!」

 

「キューッ!」

 

追ってきている謎の物体に、ラティアスの専用技であるミストボールを放つ。

霧状に纏めたラティアスの羽毛のボールを、サイコエネルギーと共に放つ技である。

ミストボールが命中するものの、すぐに隙間を埋めるように新しい謎の生物が現れる。

 

「やっぱり元を断たないとダメか…!」

 

「要塞が墜落した場所はそんなに遠くない! 急げばすぐに到着できるわ!」

 

追っ手としての謎の生命体を振り切る事はできないものの、森を走り抜けていくと暫くすればすぐに要塞の所へと辿り着く事ができた。

だが巨大な要塞はマサトのいる最上部に到達するのには道のりは遠い。

要塞が無事ならエレベーターを使ったりすればそれほど時間はかからないだろうが、墜落した衝撃でそういった設備の使用は期待できないだろう。

 

「ハァ、ハァ…とにかく要塞には着いたな。後は要塞を登ってマサトの所に行くだけだ」

 

「ええ、早くマサトの所まで行きましょう!」

 

弟のマサトが心配なのだろう。ハルカはいの一番に要塞の破れている外壁から中へ入っていこうとする。

だがここまで追ってきていた謎の生物の群れがサトシ達に追いつくと、要塞に乗り込もうとしているハルカへ襲い掛かってくる。

 

「え、きゃあああっ!?」

 

「ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「ピカ、ピカピッカ!」

 

ハルカに襲い掛かろうとした謎の生物達にピカチュウが立ちはだかり、尻尾を硬質化させてアイアンテールを振りぬくと、謎の生物達を纏めて吹き飛ばした。

 

「ソラト、ハルカ、ダイアンさん! ここは俺が食い止める! マサトを助けにいってやってくれ!」

 

「ピカ! ピッカチュゥ!」

 

この場所で追ってきていた謎の物体をサトシとピカチュウで食い止める事になり、サトシとピカチュウは空に浮かぶ謎の生物に向き直る。

 

「…分かった! 無理はするなよ!」

 

「ああ、任せとけ!」

 

そしてサトシとピカチュウをその場に残し、ソラトとハルカとダイアンは崩れ落ちて破れている外壁をから要塞の内部へと侵入した。

 

「よーし、ソラト達がマサトを助けるまで持ちこたえるぞピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「「「オォォォォ…!」」」

 

空から燃える隕石が降り注ぐ中、サトシはピカチュウと共に謎の生物達を相手に足止めをする事になったのであった。

 

 

 

そして要塞の中へ再び侵入したソラト達は要塞の傾く回廊を走りながら上を目指していく。

 

「ハァ、ハァ…! 道が分かれば楽なんだがな…!」

 

要塞の間取りが分からないため勘で道を選んで上に続く道を探すソラト達だったが予想以上に複雑な要塞の内部を手探りで進むのは予想上に手間だった。

 

「オォォ…!」

 

「お兄ちゃん! あの生き物、もう中に入ってきてるわ!」

 

回廊の進む先から他の場所から侵入していたのだろう謎の生物の群れが飛んでソラト達の元へ向かってきていた。

 

「くっ…! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クーキューッ!」

 

再びムゲンがりゅうのはどうを放って謎の生物達を吹き飛ばして道を切り開いたものの、この様子ではまだ他にも要塞内に侵入していると考えた方がいいだろう。

 

「このままアテも無く走ってるだけじゃジリ貧だな…!」

 

どうにかして最短距離で最上部へ向かう事ができないかと思うソラトだったが解決策は手元に無い。

だがそんな最中、ダイアンがあるものを発見した。それは…

 

「バトラー…?」

 

要塞の一室に、倒れて機材に押し潰されて気絶しているバトラーがいるのが見えた。

 

「ぐ…ぅ……」

 

「バトラー! 無事なの!?」

 

ダイアンがバトラーを見つけた事で、ソラト達も足を止めてバトラーのいる部屋に入り無事を確認する。

部屋の天井を見れば一部が崩れてしまっており、どうやらバトラーも要塞が墜落した衝撃で天井や床が崩れ落ちてしまいここまで落ちてきてしまったのだろう。

また部屋の隅にはバトラーの手持ちであるサマヨールも倒れており、どうやら戦闘不能状態になっているようだ。

 

「バトラー、しっかりして!」

 

「ダイアンさん、一先ずこの機材を退かしましょう。ハルカ、そっち持ってくれ」

 

「うん! せーのっ!」

 

合図と共に3人でバトラーの上にある機材を動かしバトラーを自由にすると、仰向けの体勢にして容態を確認する。

どうやら軽い擦り傷等はしているようだが大怪我はしていない。手当ても一先ずは必要無いだろう。

 

「う、うぐ…」

 

そして機材を退かしたお陰か、バトラーもうっすらと目を開けて起き上がった。

 

「わ、私は…どうなったんだ…? ジラーチは…」

 

「バトラー!」

 

「ダイ、アン…」

 

バトラーが無事だった事で、ダイアンは安心から涙を流して彼を抱きしめた。

彼がどれだけ闇に落ちようとも、幼い頃から共に在り、そして心根の純粋な願いを知るダイアンだからこそバトラーの事を案じているのだ。

 

「ダイアン…どうなっているんだ…?」

 

「バトラー」

 

「ソラト君…何が起こったんだ?」

 

「マサトがジラーチに願い、はめつのねがいを引き起こしてしまった。このままじゃこの辺り一帯は跡形も無く消え去るだろうし、被害は更に拡大する」

 

「……」

 

「1度自分の目で外を見てみろ。それでもアンタがジラーチの力を望むのなら、その時は相手をしてやる」

 

ソラトに促されて立ち上がったバトラーは部屋の窓を開けて外の様子を見ると目を大きく見開いた。

空から降り注ぐ燃える隕石と、そこから現れる黒い人型の謎の生物。

森を焼き、大地を砕き、空を引き裂き…森に住むポケモン達の悲鳴が響き渡り、正にこの世のものとは思えない災厄だった。

 

「こんな…こんな事が…」

 

バトラーの欲していた支配をするための千年彗星のエネルギー。

だがそれが呼び寄せるのはただの破壊の力だった事を悟ったバトラーは俯き、肩を落とした。

 

「バトラー、ジラーチの千年彗星が引き起こすはめつのねがいは破壊しか呼ばないわ。マサト君を助けて、はめつのねがいを止めないと」

 

「マサトのいる最上部に到達できる最短ルートを知りたいんだ。案内してくれないか?」

 

「…あぁ。案内するからついてきてくれ」

 

バトラーも決意を固めた表情になると、倒れているサマヨールをボールに戻して3人を先導するように駆け出し、その後に続いてソラト達も走り出した。

要塞の内部を知り尽くしているバトラーの案内を得る事ができたソラト達はどんどん上階へと進んでいき、もう後数分もしない内に最上部に辿り着けるだろうと思ったその時だった。

ドカン!と大きな音と共にソラト達の近くの要塞の外壁が爆発して破壊され、隕石が要塞内部へと入り込んできた。

 

「うわっ!?」

 

「きゃああっ!」

 

「くっ…隕石が直撃したのか…!」

 

外壁を破り要塞を破壊した隕石がバキンと音を立てて皹が入ると、やはりそこから黒い液状の物体が現れて人に似たフォルムへと姿を変えてソラト達の前に立ちはだかった。

 

「オォォォォォ…!」

 

「時間が無いってのに…! ムゲン、ミスト―」

 

「行けグラエナ! ほのおのキバ!」

 

「グラゥ!」

 

邪魔をする謎の生物に攻撃をしようとするソラトだったが、そこへバトラーが割り込み、ボールを投げてグラエナを繰り出した。

グラエナは鋭い牙に灼熱の炎を宿して謎の生物の腕に噛み付く。

 

「バトラー?」

 

「最上部へはこのまま真っ直ぐ行けばもうすぐだ。…償いにもならないが、ここは私に任せてくれ」

 

「私も残って手伝うわ」

 

案内も必要ない場所までやって来たため、ここから先はバトラーがいなくても大丈夫だと判断したのだろう。

寧ろバトラーがマサトの元に向かってしまえばより拒絶されてしまうかもしれない。だからここでソラトとハルカが進めるように謎の生物の足止めを買って出たのだろう。

ダイアンもバトラーを手伝うために、バトラーからモンスターボールを預かり、キルリアを繰り出して加勢した。

 

「…分かった、行こうハルカ!」

 

「えぇ、バトラーさんとダイアンさんも気をつけて!」

 

その場をバトラーとダイアンの2人に任せ、ソラトとハルカは2人で真っ直ぐの道を突っ切り最上部へ向かった。

 

「…邪な感情で純粋な少年やポケモンを利用する夢など、このような未来しか呼ばないという事か」

 

「バトラー…」

 

バトラーの表情は何かを悟ったような、夢が叶わなかった悲しみを噛み締めているような複雑そうな顔をしていた。

だがこれからやらなければなならない事は分かっていた。

 

「ダイアン、私は間違っていた。だがそれに絶望して歩みを止めてしまえば本当の意味で私は救いようのない人間になってしまう。だから、たとえ許されなくても…私は償いの一歩を歩む」

 

「…今までずっと一緒に居たのだもの。これからも一緒に歩んで行きましょう」

 

「…ありがとう」

 

今までも、そしてこれからも。バトラーは自分を支えてくれるダイアンに心から感謝し、2人は手を繋いで目の前の謎の生物を見据える。

そして謎の生物は両腕を振り上げて攻撃態勢に入った。

 

「ォォォォ!」

 

「グラエナ、たいあたり!」

 

「キルリア、サイコキネシス!」

 

「グラウッ!」

 

「キールッ!」

 

グラエナとキルリアに指示を出し、バトラーとダイアンはこの災厄を終わらせるために、贖罪の道を歩み始めた。

 

 

 

そしてバトラーとダイアンの助けを得て謎の生物の攻撃をすり抜けたソラトとハルカは、上部ハッチを開放して遂に最上部へと辿り着いた。

 

「よし、着いたぞ!」

 

「お兄ちゃん、マサトとジラーチは…!?」

 

「…あそこだ!」

 

ハッチを登り傾いている最上部を見渡してマサトを探すソラトだったが、マサトとジラーチが閉じ込められていた丸いカプセルが眩いばかりに輝いているのを発見した。

恐らくあの光の中にマサトとジラーチがいるのだろう。

マサトとジラーチの中にいるであろう光へ向かって駆け出すソラトとハルカだが…要塞の上部に更に隕石が幾つも落ちてくる。

 

「きゃあああっ!?」

 

「ハルカ! 大丈夫か!?」

 

「う、うん…」

 

ドカンドカン!と要塞を粉砕しながら爆音が辺りに響き渡り、要塞全体が大きく揺れる。

しかも着弾した隕石からは謎の生物が人型へと変化してソラト達を狙いゆっくりと近づいてくる。

 

「お兄ちゃん、どうしよう…!」

 

「ここは俺が抑える。ハルカはマサトの所に行ってくれ」

 

「そんな…お兄ちゃん…私…」

 

ここにソラトが残り謎の生物を足止めすればマサトの所に辿り着くことはできるだろう。

だがハルカの胸中には不安があった。

それも当然だ。この周囲一帯を襲う災厄を止める役目を一身に負う事になるのだから。

自分にできるのだろうか。ソラトに傍に居て欲しい。マサトを、弟を助けたい。

様々な感情を抱えて不安そうに瞳が揺れているハルカの胸中を察したソラトだったが、ハルカの頭を優しく撫でると微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。マサトはお前の弟だろ? だったらお前が一言声をかけてやればすぐに目を覚ますさ」

 

「…そうね、私はマサトのお姉ちゃんなんだから。こんな大変な時に引きこもってる弟には、一言言ってやらなくちゃ!」

 

「その意気だ」

 

ハルカが覚悟を固めた所で、ソラトとハルカの前に謎の生物の群れが立ち塞がる。

 

「オォォォ…!」

 

「道を作るから、一気に駆け抜けろよハルカ! ムゲン、りゅうのはどう!」

 

「クゥウウウウウウウッ!」

 

ムゲンから放たれるりゅうのはどうにより、直線上の謎の生物を纏めて薙ぎ払い出来た道をハルカが全速力で駆け抜けていく。

だがまだ控えていた謎の生物が近くを通ろうとするハルカを狙って攻撃しようとする。

 

「きゃっ⁉︎」

 

「ムゲン、ミストボールだ!」

 

「クーキュゥ!」

 

ハルカを攻撃しようとする固体に狙いを定めてミストボールを命中させて吹き飛ばし、ハルカを守る。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

無事に謎の生物の群れを突破したハルカを見届けたソラトは時間を稼ぐため、ムゲンと共に改めて謎の生物に向き直る。

 

「さぁて…それじゃあいっちょ付き合って貰うぜ! 行くぞムゲン!」

 

「キュゥ!」

 

ソラトがハルカをマサトの元へ送り出した頃、要塞の外で襲い来る謎の生物の群れを迎え撃っていたサトシだったが旗色は良くなかった。

次から次へと現れる謎の生物に、ピカチュウを始めとしたポケモン達は疲労が隠せない。

 

「ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ…! チュゥウウウ…!」

 

ピカチュウから放たれる電撃も、体内に残る電気エネルギーが残っていないのか普段より弱くなっている。

そんな弱々しいピカチュウの電撃を耐えた謎の生物の1体が腕を振り上げる。

 

「ピカチュウが危ない! スバメ、でんこうせっかだ!」

 

「スバーッ!」

 

ピカチュウに続けて繰り出していたスバメとヘイガニにも援護させているが、それでもこのままではジリ貧だろう。

スバメがでんこうせっかでピカチュウに攻撃しようとしていた謎の生物を吹き飛ばすものの、またすぐに別の物体が現れてしまう。

 

「スバ~…」

 

「くっ…ヘイガニ、バブルこうせん!」

 

「ヘーイ、ガッ!」

 

バブルこうせんを薙ぎ払うように放つことで正面の謎の生物を撃ち払うとかなりの数を吹き飛ばして処理できたものの、それでもまだまだ謎の生物は沢山沸いてくる。

 

「ヘイ…ヘイ…」

 

「駄目だ…このままじゃ皆のスタミナが切れてやられる…!」

 

「「「オォォォォ…!」」」

 

「っ!? 皆、来るぞ!」

 

「ピカッ!?」

 

「スバッ!?」

 

「ヘイッ!?」

 

そしてサトシ達が疲労している隙を突いて、謎の物体達が同時に攻撃を仕掛けて来る。

疲れていたせいか反応が遅れてしまい、ピカチュウ達は身動きが取れずに身を強張らせてしまう。

まともに攻撃を受けてしまうと思われたその時―

 

「ハブネーク、ポイズンテール!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ハッブネーク!」

 

「サボサボサボ、サーボネッ!」

 

「「「オォォォォ…!?」」」

 

近くの茂みが揺れると、そこからハブネークとサボネアが現れてピカチュウ達を守るように謎の生物の群れの攻撃を弾き返した。

 

「このハブネークとサボネアは…!?」

 

「苦戦してるようだな、ジャリボーイ」

 

「なんだったら、アタシ達が加勢してやるわよ」

 

ハブネークとサボネアが現れた茂みを見れば、ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースの3人組が現れたのだ。

普段からサトシ達の邪魔ばかりし、今回も先ほどジラーチを奪おうと乱入してきたというのに今度はサトシを助けるような行動をしたため、サトシも面食らう。

 

「ロケット団…どういう事だ!?」

 

「ニャー達もここで一緒に戦ってやるって言ってるニャ」

 

「詳しい事情は知らんが、お前らコレを止めるために戦ってるんだろ? だから協力するって言ってるんだよ」

 

「世界を征服するためには、その世界が無事じゃないと話にならないってコトよ!」

 

「それにこうなったのには、ニャー達にも責任があると思うからニャ」

 

「お前ら…」

 

普段からは考えられないロケット団の言い分だが、今ばかりは彼らが頼もしいと思ったサトシは、ロケット団と協力する事に決めた。

 

「よーし、一気に行くぜ! ピカチュウはアイアンテール! スバメはつばさでうつ! ヘイガニはクラブハンマー!」

 

「ハブネーク、ポイズンテールよ!」

 

「サボネア、ニードルアーム!」

 

「ニャーもみだれひっかきニャ!」

 

力を合わせた一斉攻撃により、一気に謎の生物の群れを押し返す。

普段は相反するチームだったが、今だけは百人力の頼もしいチームになっていた。

そしてサトシは後ろを振り返り、要塞の上を見上げる。

 

「ソラト…ハルカ……頼んだぜ」

 

この災厄を止めるために上に向かった仲間が早くマサトを助けてくれる事を祈り、サトシは再び目の前の戦いに集中する事にした。

 

 

 

 

 

マサトはまどろみの中で眠っていた。

やけに外がうるさい気もするが、それよりもこの心地良いまどろみの中で眠っていたいと身を委ねていた。

 

「―ト…! マサト…! 起き……サト…!」

 

何やら自分を呼ぶ声がする。起きなければと思うマサトだったが、同時に頭に響くような声が聞こえた。

 

『安らかな夢の中にいるといい。醜い現実と向き合う必要など無い』

 

誰だろうか。

いや、誰でもいい。今は頭に響く声の通り、この居心地のいい場所で眠り続けていたい。

 

「マサト…! マサト起きなさい…! 聞こえてるんでしょう!?」

 

次第に自分を呼ぶ声がハッキリとしてくる。

誰だったか、随分と聞き馴染みのある声だが…と眠りながらゆったりと考えるマサトだったが、再び頭に響くような声が語りかけてきた。

 

『まどろみの中で、願いが叶うまで眠るのだ。そうすれば辛く、汝の想いを踏みにじる汚い大人達に悩む必要もない』

 

願いとは何だっただろうか。汚い大人達とは誰の事だっただろうか。

頭の片隅でそう考えているものの、強い眠気に誘われてマサトは目を開ける事ができなかった。

なんだろうか、頭の中に響く声がマサトの思考を奪っているような…。

そこまで考えて、マサトは思考を放棄して眠りに着く事にした。

 

「マサト…! こうなったら奥の手よ…!」

 

欠伸を噛み殺し、自分の両手を合わせて枕代わりにして横になる。

さぁ、もう一眠り―

 

「マサト! またおねしょしたでしょ! だから寝る前にジュースは飲むなって言ったのに!」

 

その言葉に、マサト思わずカッと目を見開いて飛び起きた。

 

「わぁあああああっ!? ご、ごめんなさいお姉ちゃん!?」

 

そうだ、この声は姉であるハルカの声だ。

 

「ごごご、ごめんなさいお姉ちゃん! 最近は全然おねしょしなくなったから油断してて…! だからお願い! ママにだけは言わないでー!」

 

「マサト、しっかりしなさい! こっちを見て!」

 

「え?」

 

言い訳をするマサトだったが、ハルカの声に意識をハッキリとさせて確認するとおねしょなんてしていなかった。

そしてハルカの方を見れば、切羽詰まった表情のハルカが迫っていた。

 

「お、お姉ちゃん!? どうしたの…!? ていうか何があったの!?」

 

「マサトがジラーチにみんないなくなっちゃえって願ったから、ジラーチがその願いを叶えようとしてるのよ!」

 

「えっ? うわぁっ!?」

 

轟音と共に揺れる大地に空を見上げてみれば、上空から落ちてくる無数の燃える隕石が目に入る。

それだけではなく、離れた場所ではソラトが黒い謎の生物の群れと戦っている。

何が起きているのか、マサトには把握しきれないが、ハルカの言葉通りならこの状況を作ってしまったのは恐らく…。

子供ながら頭の回転の速いマサトだからこそ、察してしまった。

 

「そ、そんな…! 僕、僕はそんなつもりじゃ…! ジラーチ!」

 

そんなつもりではなかった。

いなくなっちゃえというのも、勢いで咄嗟に口から出た言葉に過ぎず本気で言ったつもりは無かった。

そして抱きかかえているジラーチに目を移せば、ジラーチは眠るように両目を閉じており、代わりにお腹にある大きな単眼が開かれており、ギョロリとマサトを見つめていた。

 

「ジ、ジラーチ…!? その目は…!?」

 

『第3の瞳が開く時、はめつのねがいは叶えられる。それが定め』

 

普段のジラーチとは違う低く重い声が頭に響くと共に、マサトとジラーチを閉じ込めていたカプセルが割れ、ジラーチはマサトの手から離れてフワリと浮かび上がる。

 

「ジラーチ、ジラーチなの!? 何でこんな事をするの!?」

 

『私はジラーチの中に眠る力そのもの。この光景は、汝の願いを聞き届けただけ』

 

「そんな…違うよ…! 僕が言ったのはそういう意味じゃないんだ!」

 

『何が違う? 全て無に還れば皆いなくなる。汝の願いの通りとなる』

 

マサトが先ほどの言葉と願いを否定するものの、ジラーチは冷たい声で返すのみだった。

そんなつもりで言った訳ではないのだが、言葉にして発してしまったのも間違いではない。だからこそマサトは言葉に詰まってしまった。

どうすればいいのか、分からなくなってしまったマサトは目を瞑り、涙を流しながら俯いてしまった。

 

そんなマサトを見て、ハルカは心を決した。

この災厄を収めるためには、マサトがジラーチを何とかしなければならない。

災厄を止めるためにも、涙を流す弟のためにもハルカはマサトの傍に寄り添った。

 

「マサト、確かに1度は願ってしまったかもしれないわ。でもこのままじゃいけないのは分かるでしょう?」

 

「お姉ちゃん…」

 

「ジラーチだって、このままにはしておけないわ。そして、ジラーチを止められるのはマサトだけなの」

 

「僕が…僕だけが…」

 

ジラーチのパートナーとして、この災厄を止められるのは自分だけだとハルカに告げられて自覚をしたマサトは涙目で宙に浮かぶジラーチを見つめる。

そう、ジラーチにこんな災厄を引き起こさせているだけではいけない。ジラーチにこんな事はさせたくない。

ジラーチを想えばこそ、マサトは涙を拭って立ち上がった。

 

「ジラーチ! お願いだから、こんな事はもうやめて!」

 

『何故だ? この現状はキミが願った事。私はそれを叶えているだけ』

 

「違うんだ! 言ってしまっただけで、望んではいないんだ! だからもう止めて!」

 

開かれている第3の目は不思議そうに瞬きをすると、マサトと目線を合わせるように高度を落とすと改めて問いを投げた。

 

『ならば汝の願いとは? 何を願い、何を望む?』

 

「僕は…! 僕の願いは…! ジラーチにこんな事をして欲しくないんだ! お願いジラーチ! こんな事は、もうやめて! 無かった事にして!」

 

心の底から願う、マサトの本当の願い。

それは災厄の否定。

ジラーチが災厄を引き起こしたという事実を無くして欲しいというものだった。

 

『…承知した』

 

ジラーチはそれを承諾すると空を見上げた。

夜空に輝く消えかけの千年彗星が一瞬だけ強い光を放つと、一条の光が地上へと舞い降りてジラーチに吸収される。

 

(キミ)の願いを届けよう』

 

第3の瞳だけではなく、本来の瞳を開いたジラーチはマサトに向かって笑顔でそう答えると、先ほど吸収したのだろう千年彗星の力を解放した。

ジラーチの体から放射状に広がる光は、周囲一帯を優しく包み込む。

そして光に包まれた場所は、まるで時間が巻き戻るかのようにして修復されていく。

 

隕石が落下して窪んだクレーターは、何も落ちてないように平坦な土地になり。

地面が抉られて倒れてしまった木々は元の場所へと根を張り戻し。

燃えていた森の炎はまるでそこには炎など無かったかのように掻き消えてしまい。

墜落していたバトラーの空中要塞も破損箇所がどんどん修復されて機能を取り戻し、徐々に離陸を始めていた。

 

そして隕石と共にやって来た謎の生物達も、テレポートをするが如く瞬時に掻き消えていく。

無論、サトシ達が戦っていた黒い謎の生物達も次々に姿を消してく。

 

「な、何!? ちょっと、何が起きてんの!?」

 

「いや俺に聞かれても…!」

 

「でも何とニャく、無事に事件が解決したっぽいのニャ!」

 

「きっとソラト達がやったんだ…! マサトとジラーチを助けたんだな!」

 

「ピィカ…ピカピカ」

 

地上にいた謎の生物達が掻き消えていくと、サトシとロケット団は事態の収束を感じて喜んでいた。

各々疲れてはいるものの、どうにか最後まで持たせる事ができたようだった。

そして同時に修復されていく要塞が徐々に地面を離れて浮かび上がっていく。

 

「要塞がまた飛ぶ…!? 急いで乗らないと! 戻れ、スバメ、ヘイガニ! 行こうぜピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

地上から離れようとしている要塞を見て、中に居るソラト達と逸れるわけにはいかないサトシはスバメとヘイガニをモンスターボールに戻してピカチュウを抱きかかえるとまだ直りきっていない壊れた外壁から要塞に飛び乗った。

 

「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」

 

「そうだそうだ! 俺達だって頑張ったんだぞ!」

 

「飛び乗るニャー!」

 

自分達だけ仲間外れは嫌だとでも思ったのか、ロケット団も要塞の壊れた外壁から中へ入ろうとする。

しかしそのタイミングでその外壁の修復が始まってしまい、ロケット団は硬い鋼鉄の壁に激突。そのまま要塞は空中へと飛び上がってしまった。

結果としてロケット団は外壁にしがみついたまま空の旅へ。

 

「「「ええぇ~!? ヤなカンジ~!?」」」

 

折角頑張ったというのに最終的にはこんな仕打ちになってしまい、結局いつも通りヤなカンジになってしまうロケット団なのだった…。

 

 

 

そして場所は再びバトラーの空中要塞の最上部。

千年彗星のエネルギーを使い、災厄を無かった事にしたジラーチは第3の瞳を閉じてゆっくりとマサトの元へと戻ってきた。

 

「ジラーチ…」

 

『マサト、悲しい思いをさせちゃってゴメンね。でも、もう全部元通りだから』

 

「ううん、ジラーチは悪くないよ。僕の方こそゴメンね」

 

互いに謝りながらマサトはジラーチを再びその手に取り戻し、ギュッと抱きしめた。

 

「ハルカ、マサト、ジラーチ、皆無事だな」

 

「お兄ちゃん…うん、もう大丈夫かも」

 

「ソラト…えっと、その…」

 

謎の生命体が消えたため、ソラトもハルカとマサトの元へと合流した。

マサトは迷惑をかけてしまったため気まずそうに言葉を探すが、ソラトはフッと微笑んでマサトの頭に手を置いた。

 

「あ…」

 

「無事で良かった」

 

「うん…ありがとうソラト」

 

深くは言わず、ただ身を案じてくれていたと言ってくれるソラトに、マサトもお礼を言った。

そして少し離れた場所でハッチが開くとバトラーとダイアンが登って来て、エレベーターが動いて最上階まで到着すると、サトシとピカチュウが降りてきた。

 

「マサト君、無事だったのね!」

 

「…」

 

「マサト! ジラーチ! 良かったぜ!」

 

「ピカピ! ピカチュウ!」

 

これでサトシ達は全員無事に合流し、バトラーとダイアンも無事だった。

災厄も無かった事にされ、全ては無事に収まったと言えるだろう。

そしてバトラーは一歩前に出ると、マサトとジラーチを始めとして、サトシ達に深々と頭を下げた。

 

「皆、すまなかった」

 

「バトラーさん…」

 

「私が間違っていた。私の歪んだ目的のせいで多くの被害を出す所だった…申し訳ない」

 

あの災厄の光景を見て間違いに気がついたのだろう。

バトラーからは深い反省と後悔の意思が感じられ、本心からの謝罪だとサトシ達からも分かった。

 

「もういいですよ。皆無事だったし、バトラーさんも考えを変えてくれたのなら。ね、ジラーチ?」

 

『うん!』

 

「そうか…ありがとう」

 

マサトとジラーチから許された事でバトラーも気持ちが幾分か楽になったのか、優しい表情になって笑っていた。

 

そして全てが片付き、ハッピーエンドを迎えられた……と思っていたが、まだ1つだけ残っている事があった。

空に輝いていた千年彗星は、もうほとんど見えなくなってしまっている。

それは即ち、ジラーチが目を覚ます事のできる7日間が終わってしまったという事。

 

ジラーチとの、別れの時が来た。

 

「あ…ジラーチ…」

 

『マサト、ゴメン。僕、眠くなってきちゃったみたい…』

 

気がつけば、ジラーチの体がうっすらとした光に包まれていた。

 

「うん…眠るんだね、ジラーチ」

 

『マサト、7日間ありがとう。これから先、また1000年後に目覚めても…マサトと一緒の7日間より楽しい時はきっと来ないよ』

 

「うん…ぼぐも…! ジラーチとい゛っじょの7日間、だのじかっだよ…!」

 

覚悟は決めていた筈なのに、いざその時が来ると感情が抑えきれない。

涙が溢れてしまい、鼻をすすり、しゃくりをあげてしまう。

 

『おやすみ、マサト。おやすみ、皆』

 

「「「「「おやすみ、ジラーチ」」」」」

 

「おやずみ゛…ジラーヂ…!」

 

そして空の千年彗星が完全に見えなくなると、ジラーチを包んでいた光が変化すると硬い石、眠り繭となった。

こうしてジラーチは眠りに着いたのだった…。

永い永い眠りに…。

 

 

 

 

 

翌日の朝。

サトシ達はバトラーの空中要塞から降ろしてもらい、ホウエンリーグを目指す旅を再開する事にした。

だだっ広い草原に要塞を停めたバトラーとダイアンの見送りと共に、サトシ達は次の目的地を目指す事になる。

 

「皆、本当にありがとう」

 

「いえ、此方こそここまで送って貰ってありがとうございます」

 

「それじゃあマサト君、ジラーチの眠り繭は私達が責任を持って預からせてもらうわね」

 

昨晩、ジラーチが眠った後で眠り繭はバトラーとダイアンが預かるという事になった。

旅をするには重い眠り繭を運ぶのは難しいし、改心したバトラーとダイアンになら眠り繭を任せられるという事でマサトも納得していた。

 

「うん…お願いします」

 

だがやはりマサトはどこか元気が無かった。

頭では分かっていても感情は全くの別物だ。やはりジラーチとの別れは堪えているのだろう。

 

「私の観測所に来てくれれば、眠り繭で眠るジラーチに会える。いつでも来てくれて構わないよ」

 

「ありがとうございます…」

 

バトラーはそう言ってくれるが、マサトはやはり少し落ち込んでいるような声色でそう答えた。

 

「じゃあ、俺達はこれで」

 

「さようなら、バトラーさん、ダイアンさん」

 

「またどこかでお会いしましょう」

 

「……」

 

それぞれが別れの挨拶を済ませると、サトシ達は地平線の先まで続く街道を歩き出した。

マサトも少し俯きながら、サトシ達の背中を追うように歩き出す。

もう2度と会えないであろうパートナーに背を向けて―

 

『またね、マサト』

 

「えっ?」

 

ここ7日で聞き慣れた声がマサトの耳に届く。

まさかと思い振り返ると、そこには変わらずバトラーとダイアン、そしてダイアンが抱えるジラーチの眠り繭があるだけだった。

眠っているジラーチは声を出せない筈なのに、マサトには確かに、ハッキリと聞こえていた。

 

そして、またねと言ってくれた。

また会えるように、願いを込めて。

 

「…うんっ! またね、ジラーチ!」

 

だからマサトも最高の笑顔でそう言った。

またいつか、奇跡を経て最高のパートナーと再会できるように願いを込めて。

そしてマサトは今度こそ振り返る事無く歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

バトラーの空中要塞が着陸した事で、一晩中外壁にしがみついていたロケット団もどうにか腰を落ち着ける事ができた。

ずーっとしがみついていたせいでクタクタのため、3人とも草原に寝そべって青い空を見上げている。

 

「あー、今回もダメだったなぁ…」

 

「でも丸く収まったみたいだし、とりあえずは良しって事にしときましょ」

 

「ソ~ナンス!」

 

「でも流石にクタクタにニャっちゃったし、今日はこのまま休むとするニャ」

 

早朝のためか、まだうっすらと星が見える西の空を見上げてロケット団3人はボーっとする。

今日はこのまま休業だ。

 

そしてそんなロケット団3人の目に、西の空にキラリと走る流れ星が目に入った。

 

「おっ、流れ星だ」

 

「こんニャ朝に見られるニャんて」

 

「なーんかイイ事ありそうじゃない?」

 

「ソーナンス!」

 

気持ちのいい草原に寝転がって見た流れ星1つで何となく機嫌が良くなってきたロケット団は、ニンマリと笑顔を浮かべてこう締めくくる。

 

「「「なんだかとっても、イイカンジー!」」」

 

「ソ~ナンス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が覚めていく。

誰かが呼んでいる。

起きなければ…行かなければ…。

 

目を覚まして前を見ると、そこは狭い部屋の中。

天井の照明が目に眩しくて思わず目を細めてしまう。

そうしていると、視界の真ん中にある少年が入ってきた。

照明の逆行で顔がよく見えないけどれど、幼い少年のようだった。

 

「あ、目が覚めたんだね!」

 

声を聞いて目を見開く。

だって忘れる筈も無い。この声はかつての友達、大親友の彼と同じ―

 

「え、起きたの!?」

 

「おっ! おーい、起きたみたいだぞ!」

 

「ホントか!?」

 

「ピカッ!」

 

少年だけではなく、少年と一緒にいる、少しだけ年上の帽子を被った青い少年と黄色い電気ねずみ、赤い少女。そして黒衣の青年にも見え覚えと聞き覚えがあった。

戸惑っている間に、少年に抱えて持ち上げられると同じ目線の高さになる。

 

「ねぇ、キミの名前は?」

 

『…ジラーチ』

 

そう、1000年の眠りに着いた自分の名。

そして目を覚ましたという事は、1000年の時が経ち再び千年彗星によって呼び起こされたという事。

 

なのに、目の前に彼は居た。

願いを込めて言った、「またね」という言葉が現実になった。

それでもまだ夢かもしれない。

人違いかもしれない。

 

だから、こう尋ねた―

 

『キミの名前は?』

 

「僕? 僕の名前はね―」

 

 

 

それは、1000年に1度の奇跡の物語。

 

 

 

to be continued...




突然の事だったが事態は収束した。
全固体の復活を確認。

記憶を再生。
大いなる光に呼ばれて行ったあの場所で遭遇した生物について分析。

電、水、羽、炎、悪、念、毒、草、竜。その他多数の要素を分析。

解 解 解

言語を分析。

解 解 解

体組織を分析。

解 解 解

あの生物の呼称をポケモン。
有機生命体として優れた生命体であると断定。

分析結果から得られた情報を自身のDNAに書き込み、記録。

エラー

あの有機生命体の体組織再現のための個体数の不足。
解決、固体収束。
結合し、合体。
融合し、1つの生命体と成る。

再度DNAに情報の書き込みを開始。

… … …

成功。
体組織を変更。
肉体構造変更。

警告、個体数急激に減少。
残個体数3。

支障なしと判断。

サイコパワー、発動。

周囲のデブリを収束し結合。
自身を囲み、巨大デブリを構築。

箱舟として使用。
今は遠きあの星を目指す。

体組織変更。スリープモードへ移行。

目的地到達までの予測時間、残り―
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