長月にダークソウル3を心行くまで堪能してもらう   作:ナガン

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長月とけっこんしますた(10/6)

あ、小説は後回しになりました。

レベリング中に他の睦月型がダクソ3に迷い込んだらどうなるのかを軽く考えてみて、

望月:祭祀場まで行けるでも、面倒臭いとか言って火守女にひざまくらしてもらってのんびり待つ。
三日月:多分長月みたいに祭儀長を殺したりしない。そのまま不死街方面に。ソウルの業とかも祭祀場で知るかも。でもファランの城塞あたりでつまりそう。
菊月:長月と同じになる可能性大。だけど、視野狭窄に陥る可能性はこちらの方が低いかも?
文月:言葉が通じる相手には、砲は向けないはず。故に不死街へGO、しかしそこで動けなくなる(意味深)
皐月:踊り子に殺される。でも祭儀長は殺さずに無理やり登ろうとして踊り子起動のながれ。祭儀長はとばっちりで死ぬ
卯月:ロスリックの高壁の地獄を見て、自棄になってうずくまる。
弥生:怒る
如月:アニメ三話あたりで死ぬ。
睦月:デモシュジンコウサンガ! (オーボーエテーイテー♪)


総括:映画見なきゃ



長月が不死街で灰になる話

敵側が自軍より数が多い時、もっともやってはいけないことの一つは包囲されることである。

包囲殲滅という言葉からわかるとおり、殲滅に向いたこの陣形での受け身側はどの方向を向いても敵、敵、敵。そして全方位からの攻撃を対処しきれる可能性は、ほぼあり得ない。突破の手段はどれもリスクが高く、損害なしで切り抜けるにはよほどの練度と強運が最低条件。故に、それに繋がる行動は禁止されている。

 

長月がこの世界に来たばっかりの時、亡者たちに袋小路に追い込まれた時の場合は、囲まれたと言っても敵は一方向にのみ固まり、蹂躙できる火力があったから、幸運にも無傷で切り抜けることができた。

 

周りが全て敵で、蹂躙できる得物が無い場合など、長月は想像もしたくないだろう。

 

しかし彼女は今まさに上記の状況に追い込まれていた。

 

 

油断はなかった。だが原因は彼女にあった。

 

 

一旦祭祀場に戻り装備を整えた長月は、故郷に帰った王達を追って不死街まで来ていた。

 

しかしその亡者だらけの道中で彼女は亡者たちを極僅かしか殺してこなかったのだ。

 

火器は引き金を引けば後は銃弾が相手の命を絶ってくれる。一瞬でもいいから殺す覚悟を決めれば、後は殺したという事実を銃弾が勝手にもってきてくれる。

だが剣は違う。剣が当たっても勝手に相手は死なない。そこから自分で力を込めて、肉を引き裂かなければならない。自分で意志を込めて殺す事実を作り上げなければならない。

 

殺したくない。何故自分が。まだ死んでない。まだ間に合う。剣を止めろ。そんな甘さ、心の迷いに打ち勝たなくてはならない。

 

それに加えて、見られているのだ。頭の中で司令官が、睦月型達が私の帰るべき場所にいる皆が侮蔑の視線でこちらずっと見続けて、艦娘の魂とも言える部分が体を脱力させる。

その感触は長月にとってたまらなく艦娘として冒涜的で、気持ち悪くて、手を無意識に擦ってしまうほどこびりついていた。

 

彼の後ろ姿に惹かれて、それでトラウマに無理やり蓋をしただけなのだ。それらはいまだに長月の心を深く傷つけていて、こんなふうに簡単に顔を出す。

そして周り全てが敵という孤独感はやはりいかんともしがたく、彼女の精神を余計に疲弊させていた。

 

 

ロスリックの高壁はそれでもなんとかなった。艤装がまだあった時に覚えた地理をフルに活用することで、問題が表面化することも無く、敵をやり過ごせた。

 

 

だがそれも不死街に来てから様相が変わり始める。

 

不死街の住人の武器は、裾や四又鋤などの一般的な農具でその刃すらさびてボロボロになっている。そこ以外もボロボロの木材で、ロングソードでも簡単に切り落とせた。だから高壁の亡者よりも御しやすいと長月は最初は思っていた。

 

不死街は、ありとあらゆる呪いが集まる場所だ。当然、住人達はそれらの対処をせざるを得なかった。

そして回数を重ねるうち、呪いに打ち勝つためその手法は洗練され効率化されていき、住民たちの結束も固くなって行く。そしてその結束は、呪いを排除する意味を失ってしまってなお健在だった。

 

不死街の恐怖は単純な武力ではなく、住民間の連携にあった。

 

点では無く、線。単体ではなく、複数。

 

住人一人が大声をあげこっちに切りかかれば、その声に気付いた他の住人が加勢に入る。そしてそれらに手間取っていれば、住人がまたやってきて……。それの繰り返す内、いつの間にか長月は広場で囲まれていた。

 

対多人数相手の戦い方のノウハウがなく、土地勘もなかったことによって生まれた最悪の状況。それが今だった。

囲まれ、逃げ場が無くなった長月をいたぶるように、亡者たちは農具を突き出してくる。その様子は余興を楽しむかのようで、その侮りと侮辱に歯をきしませるほど腹が立ち、殺意が沸く。

 

しかしその殺意に反応してフラッシュバックが始まり、ここまで追い込まれてなお長月は一歩を踏み出せない。

 

その葛藤をあざ笑うようにようにどこかから女のしわがれた嘲笑が聞こえた。

 

 

 

「殺す……殺しかない……」

 

 最早亡者を殺して包囲網を突破するしか後が無くなった。だから

 

「今だけは、消えろ……消えてくれ!!」

 

 

司令官の、姉妹たちの凍てつく瞳を殺意で塗りつぶそうと、長月は自分の視界も黒で塗りつぶす。

 

 

 

 

それは正しく、阿呆がやる事。

 

 

 

視界から情報をシャットアウトした彼女に頭上からの攻撃は防ぎようがなく、黒い何かをもろに受けてしまう。

それは一瞬で形を変え彼女にまとわりつく。亡者たちの声色が喝采を上げるそれに変わった。

 

 

 

それが凄惨な私刑の始まりの合図。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 

 

 虫だ。虫が、体を這いずりまわって食い荒らしている。生きたまま、食われている!!

 

 

余りの激痛に彼女は剣を取り落とす。膝を折り、嫌悪感と痛みに必死に耐えようと腹を押さえてうずくまる。

虫は止まらない、体のあちこちからまるで風船のように血が噴出した。必死に虫を振り払おうと手で叩き落したり転がったりしても、腕さえも中に喰い入られた。だが虫は内部には侵入せず肉の浅い部分をひたすら食いちぎる。

 

 

正しく拷問。命はとらず、狂いそうな痛みだけを与えるその時間は、しかし、唐突に終わった。

 

「……ぁ…?」

 

体内にいた虫も這い回っていた虫も、皆一斉にいなくなった。まるで魔法のように、いきなり。しかし一方で今まで塞がれていた穴から再びおびただしい血が流れおち、長月を中心に血だまりを広げていく。

 

 

 傷を……塞がないと……

 

 

エスト瓶を右手に取り出す。上手く力が入らない。飲めそうにない。そのまま体に掛けようとした。血走った亡者がとり囲んでいるのに。

 

 

「ぎっ!?」

 

 

次の瞬間、彼女の右ひじがに鋤が突き刺さった。それがきっかけとなって、農民たちが思い思いに長月をリンチし始めた。

 

「が…ギ、あぐ、ひぎ」

 

砥いだ農具で切り傷、刺し傷を増やし、あるいは虫の傷をほじくり返し、蹴りで各所の骨にひびを入れ、汚れた足で傷に泥をねじ込み、顔を地面にめり込ませる。そのたびに長月は短い悲鳴をあげ、その声でまた行為はエスカレートしていった。

 

彼女の抵抗も思考も、圧倒的な暴力にたやすく飲まれていく。

 

 

約20人の暴行の限りを一身に受けた長月の四肢はもう本人の言うことを聞かない。うつ伏せの彼女の外見のひどさと血の池の組み合わせは一見すれば死んでいると判断されてもおかしくなかった。

 

長月の前に農民たちが長い木柱と縄を運んでくる。一人の農民がおもむろに彼女の緑髪を掴み持ち上げると、彼女の顔が苦痛にゆがむ。彼女の細い息とうめき声を満足そうに眺めたのち、そのまま木柱の前に引きずる。長月も抵抗するそぶりを見せるが、体が言うことを聞かない状態ではなんら邪魔にもならない。

 

彼らは縄を使いボロボロの彼女の腕をを乱暴に縛りあげる。その手つきは手馴れていて数多くの経験があるように見える。おそらくこの街での"灰"の扱いはマニュアル化されているらしい。その手順がよどみがなく、農民たちはすでに次の手順に進んでいた。

 

ある農民が懐から取り出したのは木釘。その先端で長月の頬をつくと、彼女は憎々しげに睨み付ける。それをさらりと受け流し、農民達は先端を長月の手首の交差したところにあてがい、槌を振りかぶった。

 

 

―――結局私は、弱いままなのか

 

 

長月はまた一つ悲鳴を上げた。木釘は両手首の骨の間を完全に貫通し、彼女の両手が痛みにせわしなく痙攣する。

 

ふがいなかった。悔しかった。自分がこの暴力を跳ねのけられないことを。自分の弱さがこの事態を招いたことを。

そしてこれからされるであろうことを阻止できなくなってしまったことを。

 

 篝火の側にいくつも刺さっていた、磔の遺体。あれが私の未来の姿。それをもう止めることができない。

 

それでも心はおりたくなくて、せめてもの抵抗として悲鳴は絶対に上げないと彼女は固く誓う。

 

腕の輪の中に木柱が通される。所定の位置には木釘に合った穴があけられていた。

乱暴に打ち付けられる槌は、故意かはしらないが釘から外れ長月を強かに打ち付ける。彼女は腕が完全に固定され、次は両足。同じように重ねられ釘を打ちつけられる。だが彼女は口を嚙み切ってでも、悲鳴を押し殺した。

 

最後に再度胴体、足、手、そして首に縄を回し柱を立て、張り付け作業の全行程が完了するまで、ずっと。

 

 

          ◆          ◆          ◆

 

磔というのは古今東西誰でも知っている処刑方法である。が、磔にされた人間がどのように死ぬのかは意外と知らない人が多いのではないだろうか? かくいう私も、最近まで磔の刑は餓死させる処刑法だと勘違いしていた。 

ギリシア・ローマ時代のを例に取って簡単に言うと、人間にとって磔にされた状態というのは極めて具合の悪い体勢であり、その体勢を長時間維持し続けると心肺が異常を起こし死に至る。決して餓死などではなく、辛い苦痛があるのだ。

そしてこの不死街の磔もやり方は違うが、苦痛を与えるというコンセプトは共通している。

 

 

 

 首が、締まる

 

 苦しい。痛い。痛い。締まる。苦しい。痛い……

 

 

手首と足首からの断続的な痛みから逃れようと体が自然と重力に従ってずり落ちる。しかし固定されている首の縄に気道が締め付けられ、呼吸困難に追い込まれる。酸素濃度が下がった肉体は生命の危機を感じ本能的に釘に全体重を乗せて手足を伸ばし、それがまた痛みを生む。そして息ができるようになれば、痛みを逃れようとして……。

 

その命を削るポールダンスを、長月は三メートルほどの空中で何回もやらされていた。

 

住人達は、その姿をいくばくか無感情に眺めた後、このくらいは日常茶飯事だと言わんばかりに誰からとなくいつもの持ち場に戻って行った。

 

しかしながら、広場にはまだ10人今日の農民たちと伝道師が大樹の前で燃え盛るナニカをひたすら見つめている。最早彼らたちの眼中に長月はいない。

 

死のうと思えばいつだって死ねる。舌を噛み切ってでも、力をぬいてでも死ぬことはできた。だが死を意識すると途端に、狂犬に生きながらに喰われたトラウマが、髪留めを前にして届かなかったトラウマが脳裏をよぎり、結局は舌は嚙めず、四肢に力を込めてしまう。

 

 

人を殺すのを嫌がるばかりか、自分の命すら満足に絶てない。そんな心の弱い行動の結果が、このみじめな延命行動。笑いすら出ない。

 

 あの人のように、私はなれないのか……?

 

再び体が下がり始める。もう、体力も限界に近かった。視界が、頭がボーっとする。

 

 やっぱり、私には……

 

死が近づき、トラウマがフラッシュバックする。

 

 

 また、届かない。

 

 

(かみどめ)に届かず、力尽きてしまう。

 

 

 

 

  ……それは、ダメだ。

 

 

 

無意識の内に、彼女は体を持ち上げていた。そして荒れた呼吸を整えつつ、顔を上げる。

 

長月の場所からは広場が一望出来た。教導師から住人達の位置まで全てを見渡せた。しかしそれは彼女の求める者ではない。

 

 

―――あった

 

 

亡者たちから離れて、ぽつんとそこにあるそれ。幸運にも一番近いのは彼女であった。

 

(けん)に届かないのは、許されないのだ。

 

 救ってくれた。励ましてくれた。道を示してくれた。そこに届かないのは絶対に許されない!

 

 

 あの時誓ったんだ。艦娘であることも、睦月型であることも止めて、それでも立ち上がったのは

 

 

 "灰"(あのひと)に追いつくため

 

 

駆逐艦の全力を支えきる、上質な縄と木材が、このさびれた村のどこにあるだろうか。

 

手首の釘は真っ先に折れそのまま縄も、乱暴に引きちぎる。首の縄もちぎった所で足に力をいれ自由にする。その時点で支えが無くなり落ち始めるが、それまでには体の自由は完全に取り戻していた。

 

着地と同時に頭上にエスト瓶を体に降りかける。軽く橙の炎が身を包み、次の瞬間には傷はほぼ全快していた。

この時点でようやく亡者たちが事態に気付くが、長月はそれには目もくれずにロングソードの下に疾駆していた。

 

亡者たちにその疾走を阻止するのはもう不可能で遮るものは何もない。

 

しかし極度の精神疲労による幻覚か、これからすることにトラウマが反応して、長月の前を塞ぐように姉妹たちがあの底冷えする表情でこちらを見つめていた。

 

 

 自分でも、私は不器用な性格だと長月は自嘲する。

 

睦月姉さんや卯月姉さんみたいに姉妹を引っ張ることも、

如月姉さんみたいに大人びた対応をすることも出来ないし、

弥生姉さんみたいに人の機微に聡くもない。 

皐月姉さんや水無月姉さんみたいに快活で皆を元気にさせることも、

文月姉さんみたいに天真爛漫でもないし、 

菊月みたいに本心を言える勇気もない。

三日月みたいに礼儀正しくもない。

望月みたいに自分を貫くこともできなかった。

 

 あの時、艦娘であることをやめた筈だった。でも無意識に捨てきれていなかった。すがっていた。

 

 皆の下に帰りたい気持ちは今もある。帰りたくないなんて、大嘘だ。

 

 でも、私を繋ぎ止めてくれたあの手を忘れることもできるわけがない。

 

 

 

 

 だから、すがらせてくれないだろうか。一度途切れても、またつながってくれた姉妹の絆に。都合のいいことだと言うのはわかっている。それでも、二兎を追う、私の我儘を許してくれないだろうか。

 

燃える。一歩踏み出すごとに、『長月』が燃えていく。体が崩れていくような、途方もない喪失感。それでも、"長月"は走った。止まらなかった。

 

未練はある。でも信じた。

 

 

そして彼女(もえのこり)は剣を取る。

 

 

雰囲気が、変わった。いや、無くなったと言うべきか。かすかに残っていた温もりのような正の印象、人ならざる気配が完全に消えた。

 

『灰』は燃え尽きた不死者。無価値故に、『火』を求める。それがどんなに小さくても

 

 

亡者が鋸を振りかぶりながら彼女に突進する。訳の分からない奇声とともに迫るその姿は、十分狂気を感じさせるに値するが、それだけである。

 

 

もっと言えば、隙だらけ

 

 

「殺すぞ。皆」

 

確認ではない。宣言だ。

 

 

 それでも誰もいなかった。

 

 

その姿に対しての迷いなき剣線は正確に鋸を持つ手を切り飛ばし、返す刀で放たれた刺突は完璧に急所を捉えた。亡者は背中から派手に血しぶきをまき散らす。それは正しく、致命の一撃。

 

帝国海軍所属という肩書も、艦娘としての在り方も燃え尽きた。故に冒涜感は消え去り、気持ち悪さは"長月"の恨みつらみに掻き消えた。

 

長月はすぐさま剣を抜き、崩れ落ちている亡者を思いきり蹴飛ばす。およそ少女の力とは到底思えない力で蹴られた亡者の勢いは後方にいた亡者数人をボーリングピンのように巻き込み、さらに吹き飛ばす。

 

道が開ける。長月は一直線にそこに飛び込んだ。元から狙いはこの先にいる教導師ただ一人。

 

狙う理由は二つ。この集団のリーダーであること。そして全身を食い荒らしたあの虫共は、前触れもなく消えた。それこそ魔術みたいに。その魔術を使えそうなのは、こいつだけ。

 

駆逐艦の馬力を反映した脚力の動きに、住人達は長月を捉えることはできず、教導師も動きがない。ゆっくりと、長月を目で追うだけ。

 

狙うは頭。彼女に鎧の隙間から急所を指すと言う技量はないからこそ、むき出しの急所を狙う。

 

 

自分だけの時間の中、長月は剣を逆手に教導師に跳び掛かった。

 

 

――oh,child……come to me

 

 

次の瞬間、教導師は両手を広げ、炎に包まれた。炎の中に見えるのは、踊り子と全く同じ狂笑。

 

長月の瞳に真っ赤な業火が反射する。

 

 もう跳んだ後。ダメだ、避けられない。

 

踊り子のトラウマが、万人に等しく与えられる死のトラウマが、甦る。内と外からじっくりと焼かれ、やがて何も感じなくなっていったあの感覚が全身を駆け巡る。

 

「ひっ」

 

絶望が、顔をもたげた

 

教導師は飛び込んでくる彼女を優しく抱き留める。母が子をあやす様に柔らかく、しかし絶対落とさないようにがっちりと。だが燃え上がる炎は反対に苛烈に、無慈悲に包みあげる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

あの時と同じように、服が、鎧が、皮膚が、髪が、

 

 

燃えていく。焦げていく。爛れていく。炭化していく。

 

 

舐めるような炎に、逃げ場はない。

 

 

燃えて  燃えて  燃えて  燃えて

 

 

 

 それでも 

 

 

 刺した

 

 

 

口から出るのは断末魔ではない。

 

 

今までの自分を打ち破る、克己の咆哮。

 

 

ロングソードが教導師の首に深く飲み込まれていく。

 

 ひるむな、恐れるな。突撃しろ

 

 

 今までだって、そうしてきただろう!

 

 

体の至る所で水ぶくれができ、破裂して、長い緑髪もあらかた燃え落ちた。全身から危険信号が発せられる。

 

それらを無視してさらに押し込む。

 

 

「甘く、見られたものだな!」

 

 

肉を断つ

 

 

神経を断つ

 

 

骨を断つ

 

 

事の深刻さにようやく気付いた教導師が狂ったように暴れはじめる。しかし長月の腕力には、到底かなわない。

 

 

ついに、刀身が首を貫通した。

 

 

「この長月を殺したければ、この三倍は持って来い!!」

 

 

力任せの一閃。切り口は明らかに素人。しかし必殺の意志を込められた一撃に、教導師の首は高く舞い上がる。

 

リーダーの凄惨な死亡を目の当たりにして、動揺する亡者たち。長月はそれに目もくれず、エストを流し込む。

今だに自分の体が燃えているのも、全く気にしていない。気にする必要がないのだ。体内に入ったエストの効力はそれだけすさまじかった。

 

やけど、水ぶくれを瞬時に治し、焼けた緑髪を時間を巻き戻すかのように修復していく。

 

ようやく、彼女は息を吐いた。

 

『火』を求めることだけを考えそれ以外は些事とする。たとえそれが自身のことであっても、命であっても、差し違えたとしても、あらゆる手を使ってでも『火』が手に入ればそれでいい。より多くの、誰よりも多くの『火』を求めて火継ぎを完遂する。

 

それが『灰』として、正しく求められた在り方なのだろう。

 

 

完全に機を逸した亡者の集団は破れかぶれに長月の無防備な背中に突進する。完全に統制を失った烏合の衆は本能に従って、彼女を狙う。

 

 

 だがそれは私の目指しているものとは違う。

 

 あの人はそんな存在じゃない。あの人はこの世界に生きる人々を救おうとしているんだ。

 

冷静に、冷徹に長月は渾身の右ストレートを先頭の亡者にぶち込む。振り返りの体の動きも合わさった強烈なパンチの結果は、さっきの焼き増しのように他の亡者たちを巻き込んで吹き飛ばす

 

「どけぇ!」

 

吹き飛ばされ、地面に這いつくばる、またはそれを見た亡者たちは思い出す。何故呪いを持つ者たちを処理しなければならなかったのかを。

圧倒的な力の差、それを見せつけた長月の一喝と纏う気迫に反抗するものは誰もいない。

そのまま無傷で、彼女は広場を後にした。

 

足らなかったのは殺気か、それとも相手側の銃火器への理解か。しかしながら、艦娘をやめたら艦娘でやらなければならないことができたのは、皮肉以外の何物でもないだろう。

 

 そうだ、皮肉だ。

 

 

「皮肉と感じて、何が悪い」

 

"長月"はそういう心の持ち主なのだ。

 

 

 




一行でまとまると、
長月のトラウマ克服回(磔もあるよ!)

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