結果、ほぼ一から作り直す感じになりました。
1-1(挿絵あり)
コンテナ地帯の間を一直線に通る車道の先、陸地からせり出す形で作られた人工島がある。数十年前突如として出現した怪物・深海棲艦の侵攻に対し、人類は艦娘を用いた海域奪還作戦の指揮を執る防衛組織を設立。かつての大戦に存在した機関の名を取り【
島後部に鎮座する、軍艦の艦橋を彷彿とさせる建物・軍令部本部を始め、島の中心部に位置する工廠エリアとそれに隣接する入居施設、艦娘達の学び舎に学生寮等の居住区がある他、島の先端には深海棲艦による被害で身寄りを亡くした子供達の孤児院がひっそりと建っている他に、大本営関係者向けに開放された緑豊かな公園が存在する。その全体像は本部の形状も相まって、遠巻きに見れば超巨大な戦艦のシルエットにも見える。
そんな戦艦島の一角、桜の花弁が舞い散る艦娘の学校から少し離れた海沿いの演習場にて軽快な破壊音が響いていた。
「どんどん来なさいよ、蹴散らしてやるわ!」
破壊された的が散らばった、演習場の水辺にて勝ち誇る一人の少女。見た目は中学生~高校生くらいのセーラー服を着た少女で髪の色は優雅さを感じさせる薄紫色、その長く流れるような髪を鈴とピンクの花びらを使った髪留めで右側にサイドテールを作っている。髪の毛と同じく美しい薄紫の瞳は、しかし苛烈さを感じさせる強い意志を宿しており彼女の攻撃的な性格を表していた。
――【
出現した自走式ブイに括り付けられた的を全て撃墜した曙は、得意気に不敵な笑みを見せながらブイを運搬する演習用マシンにおかわりを要求する。だがどうした事か。マシンは突然動作を停止した。故障かと思い怪訝な顔をする曙の背後の陸地で、乾いた拍手が上がる。
「お見事。自信過剰なのは頂けないけれど、腕は確かね」
誰もいないと思っていた中での突然の快活な女性の声。ぎょっとしながら曙は声のする方を見やる。そこには、艶のある黒髪を肩まで伸ばした凛々しくも美しい女性が立っていた。どうやらマシンは彼女が止めたらしい。曙は警戒しつつも、演習を止められた事に対し不愉快さを顔に出しながら女性に近づいた。
「あんた誰よ。見たところ人間みたいだけれど、あたしは今演習中なの。邪魔しないでくれる?」
「あはは。ごめんごめん。でも、私は貴方に用があってここに来たのよ」
「用? あたしに?」
より警戒心を露わにして曙が女性を見る。白のシャツに青のジーンズと言った平凡な出で立ちながら、その佇まいには妙な貫禄があった。彼女の余裕のある態度がそう見せるのだろうか? やがて彼女は、掛けている縁なし眼鏡をくいっと右手で触れながら答えた。
「――駆逐艦曙。貴方を、初期艦として迎えに来ました」
女性のその言葉に、曙は何か思い当たる節があったのかため息を吐きながら警戒を解き陸地へと上がる。上陸と同時に艤装を解除し、服やスカートに付いた煤を払いながらウンザリした顔で女性を見た。初期艦……つまり、新任の提督と共にこれから艦隊運営を行っていく役に選ばれたと言う事。艦娘にとっては名誉な事の筈なのだが、どうも曙の場合そうでは無いらしい。
「また? 大本営にも物好きな奴がいるのね」
「そう言わないの。貴方の事を気に掛けている人も居るって事なんだから」
「ふん、あたしの何を知ってるって言うのよ」
ぶっきらぼうに答える曙に対して、女性は劇の練習でもするかのようにワザとらしく取り出した資料を読み上げた。
駆逐艦艦娘 曙。成績は優秀とは言えないが非常に負けず嫌いの努力家で、他の艦娘より多くの授業や演習を受ける事で並程度の成績を維持している。
「反面、対人関係には非常に難があり――」
「あーっもう! 分かった、分かったから! 行けばいいんでしょ!?」
ウンザリだと言わんばかりに女性の呪詛詠唱を止めさせる曙。女性はやれやれと言った感じで言葉を止めた。観念したのか曙は、女性の前に立つと苛立ちを見せて髪を搔きむしりながら言葉を続ける。
「さっさと行くわよ、
「初対面の相手にいきなりクソ呼ばわりかぁ。噂通りね。後それから、私は提督じゃないわよ」
「……は?」
呆れたように笑う女性の言葉に曙は驚きの表情を見せる。ラフな格好と口調ではあるものの、妙な貫禄があり凛々しさを秘めた目の前の女性。てっきり彼女が、自分を迎えに来た提督だと思ったようだ。話の流れ的にも、そう考えるのが普通だろう。だがどうも状況が違うらしい。
「自己紹介がまだだったわね。私は【
大本営横須賀支部の正面ゲートを抜け、コンテナ通りを枕崎の運転する白いワンボックスカーが走っていた。助手席には曙が同伴している。
基本的にこの通りの道路は、大本営関係者か運輸業の人間以外使うことの無い道路なのでほぼ貸し切り状態なのだが、車は必要以上にスピードを出すことなく時速60キロを維持していた。運転席の枕崎も、呑気に鼻歌を歌っている。対する曙は、口をへの字に曲げながら相も変わらず不機嫌そうにサイドテールを弄っていた。
「ほら、しかめっ面しない。そんなに人間の下で戦うのが嫌?」
「別に……って言うか、何で提督じゃなくてお手伝いが迎えに来るのよ。マジあり得ないから」
「申し出たのは私なのよ。今回の提督さん、まだ着任したばかりで準備とかに追われていてね。大変そうだから私が迎えに行くって言った訳」
顔を前に見据えたまま、目だけを曙の方に向けて枕崎が言う。半年ほど前に職を失い途方に暮れていた彼女は、知り合いのつてでたまたま提督が着任したての鎮守府で掃除・炊事洗濯等の仕事を紹介してもらったらしい。曙としてはどうでもいい情報だった。
ふと、曙の胸元から何かがひょこっと顔を出し、彼女の手のひらに飛び乗った。曙をそのままデフォルメしたようなその二頭身の謎生物*2の顎を、彼女は退屈そうに撫でてやっている。
「それにしても、養成学校への出戻りをするなんて一体何したの……ああいや、意地悪で言っているんじゃなくてね? 何とかならなかったのかなぁって」
「別にいいよそんなの……どうせ、誰もあたしの事なんて理解しないんだから」
今代の駆逐艦曙がこの世界に建造*3されたのは、今から2年ほど前の事だった。この世に生を受けた彼女は、養成学校にて己の腕を磨いていた。この頃はまだ、曙も艦娘として活躍する事に希望を見出していたのだろう。だが日々を過ごしていく内に、どういう訳か彼女の成績は他の艦娘達と比べ差が目立つようになっていく。
彼女は決して不真面目な艦娘では無かったし、むしろ差を縮めようと必死で努力した。だがそれでも周りとの差が縮まることはなかった。
その後とある提督の指揮する鎮守府へと着任していったのだが、そこで提督との不和によりトラブルを引き起こしてしまい、それが原因で艦娘の養成学校へと送り返されてきたらしい。
そうして迎えた2回目の着任。今度こそ上手く行くだろうか? 枕崎も大丈夫よと気休めのフォローを入れるが、正直なところこのまま行けば今回も駄目だろう。そんな彼女の心配をよそに、曙は妖精の頭を撫でながら不敵に微笑んだ。
「大体、あたしは新人が指揮する鎮守府なんかに興味は無いの。あたしが目指すのは、大本営の連合艦隊なんだから」
「連合艦隊?」
「部外者のあんたは知らないだろうけれど、大本営直轄の水上打撃部隊と空母機動部隊、輸送護衛部隊からなる栄光の艦隊よ。あたしはその、随伴駆逐艦になってやるんだから」
連合艦隊に随伴する駆逐艦は、基本は養成学校や各鎮守府に配属されている駆逐艦娘の中から軍令部総長の命により選ばれ任務に同行するのだが、その中でも優秀な戦果を見せた艦娘は正式に主力艦隊の一員として迎えられる仕組みとなっている。曙に限らずそれは多くの駆逐艦娘にとっての憧れの立ち位置で、我こそはと日々己の練度を磨き訓練に励む者達もいる。
「へ、へーそうなんだ。お姉さん全然知らなかったなー……でも、曙にもちゃんと艦娘として頑張りたいって気持ちがあったのね。少し安心しちゃった」
「は? 別にそんな理由で頑張るつもりは無いわよ」
「え……なら、どうして連合艦隊を目指すの?」
「そんなの、決まってるじゃない」
――あたしの実力を、提督達に知らしめてやるのよ。窓の外に視線を向けたまま、曙はそう意気揚々と答えた。紫水晶の様な美しい瞳を、オレンジ色の暗い炎で濁らせながら。目の前の妖精はそんな彼女を、不安げな瞳で見つめていた。枕崎はそんな問題発言を聴くと、やれやれと言わんばかりに小さくため息を吐くのだった。
「なによ」
「別に。ただ貴方の求めているものは、多分そこには無いんじゃないかって思っただけ」
「なにそれ」
意味分かんないと言いたげに再び不機嫌になり、車外に視線を戻す曙。枕崎はそれ以上何も言わず、沈黙が続くまま車は一般車両が行き交う大きな車両へと合流していった。
公共道路を数時間ほど走った後、海沿いの小さな車道に入りそのまま進んでいくとその先には、偽洋風の建物がひっそりと建っていた。一見すると人里離れた民家に見えるこの建物こそ、提督が艦娘を指揮し深海棲艦と戦う最前線【
途中何度か美味しいカレー屋の前を横切り話題を出したり、可愛らしい服が展示されているのを運転しながら見たりしながら時間を潰したが、曙にはどの話題も不評だったようだ。唯一、曙の武勇伝的な話を聴かせて欲しいとの枕崎のリクエストには強く反応してくれたのが救いだろう。
左側に海岸線を臨んだ木々の間を通る道を抜け最後の蛇行する坂を上りきり、漸く停車した車の助手席のドアが開き紫髪の少女は颯爽と降り立った。
「ん~~……全く、とんだ長旅だったわ」
健康的な脇をセーラー服の隙間から見せながら大げさに背伸びをする曙。その頭上で妖精も同じポーズを取っている。長い髪と短めのスカートが、桜の花弁が混じる日中の潮風に揺れていて実に可憐で健康的だ。遅れて枕崎もゆっくりと運転席から降り立った。
「どう? のどかで良い場所でしょ」
「何もなくて、退屈な場所ね」
枕崎の問いに、周囲を見渡しながら曙がヤレヤレのジェスチャーを行う。事実、海岸から続く坂を上った先にあるこの鎮守府の周りには民家すらなく、「のどか」でもあり「退屈」でもある。どちらの意見も正しい感想だった。さて、と言いながら曙が鎮守府へと向かい歩き出した。
「ちゃんと提督さんに挨拶しなさいよ。今は多分、入ってすぐ右の執務室で作業中だと思うわ」
「ふん! お手伝いに迎えを頼むなんて随分ナメた奴みたいだから、このあたしが焼き入れてやるわ!」
ズカズカと鎮守府建物へと入っていく曙。サイドテールを揺らしながら、やや苛立ちを感じさせる足取りで執務室と書かれた扉の前まで一気に向かう。そうして、真新しい扉の前まで辿り着くと、容赦なくそれを蹴り上げた。バンと言う音と共に凄まじい勢いでドアが開け放たれる。
「特型駆逐艦、曙よ! 自分で挨拶に来ないとかいい度胸ねこのクソ提――」
突然の音に驚き動きを止めた部屋の中の男を見た瞬間、曙は固まったように動けなくなった。
プロローグ共々大幅な展開変更はここまで。
以降は既存のストーリーを修正する形でアップしていきます。
真新しい展開はあまり無いかも知れないけれど、キャラの台詞は大幅に増えていく予定なのでその辺を見て頂けると嬉しい(嬉しい)