小説の書き方をイチから修行してまいりました。ダメ押しとしてChatGPT大先生による清書もお願いしたので、見栄えは大分改善出来たと思います。
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コンテナ地帯の隙間を貫くように延びた車道の、その先。
陸地から海へとせり出す形で築かれた人工島が、灰色の海面に浮かんでいる。
数十年前、突如として現れた怪物――深海棲艦。
その侵攻に対抗するため、人類は艦娘を戦力とする防衛組織を設立した。かつて大戦時に存在した機関の名を引き継ぎ、その組織は【
横須賀沖に築かれたこの人工島は、その最前線だった。
島の後部には、軍艦の艦橋を思わせる威容の本部ビルが鎮座し、中央には工廠エリアと居住施設が隣接して広がる。艦娘たちが学ぶ学校と学生寮などの居住区、そのさらに先――島の先端部には、深海棲艦の被害によって身寄りを失った子供たちを保護する孤児院が、ひっそりと佇んでいた。
また、大本営関係者向けに整備された緑豊かな公園もここに隣接する。
それらすべてを含めた島の全景は、本部ビルの形状も相まって、遠目にはまるで一隻の超巨大な戦艦のように見えた。
その一角。
桜の花弁が舞い散る艦娘の学校から少し離れた、海沿いの演習場に、軽快な破壊音が響いていた。
砕け散った的の残骸が水面に浮かぶ演習場の縁で、ひとりの少女が立ち尽くしている。
中学生から高校生ほどに見えるその少女は、白と紺で統一されたセーラー服姿だった。優雅さを帯びた薄紫色の長い髪は、鈴とピンク色の花びらの髪留めによって右側で束ねられ、サイドテールとして流れている。
同じ色合いの瞳は美しい――しかし、その奥には苛烈な意志が宿り、容易に近寄りがたい鋭さを放っていた。
――【
それが彼女の名だ。
艤装を身に纏い、海面に立つその姿は、紛れもなく人類と共に深海棲艦と戦ってきた存在――艦娘だった。
自走式ブイに括り付けられた的をすべて撃墜し終えた曙は、次のブイを運んでくる演習用マシンを待ちながら、どこか憂鬱そうな表情を浮かべていた。
理由は、分かりきっている。
彼女はもう、人類のために戦うことに意欲を見出せなかった。
その結果、大本営の最高責任者――総長の意向により、曙の処分は決定している。
処分。
それは即ち、処刑を意味していた。
前任の総長であれば、黙認という形で見逃してくれたかもしれない。だが、半年前に代替わりした今となっては、それも叶わない。彼女の胸の奥で、乾いた諦観が広がる。
"考え直すんだ、曙!このままではお前は──"
"ありがとうございます、那智さん。でも、もう良いんです"
廊下で交わした、上官の艦娘とのやり取りが脳裏をよぎる。
あの人には心配も迷惑もかけた。
そして――自分の身代わりとなって処分された、あの子の犠牲すら、このままでは無駄になってしまう。
それでも。
曙は、人類のために再び戦う気にはなれなかった。
ヒトの悪意を、浴びすぎたのだ。
だから今やっている訓練に、未来などない。
無意味な行為だと分かっている。
それでも、なぜか手は止まらなかった。
「何やってるんだろ、あたし」
ひとりごちる声は、波音にかき消される。
そのとき、演習場に隣接する公園――来客者に開放されている区画の方が、やけに騒がしいことに気づいた。
無視することもできた。
だが、胸の奥に引っかかるものがあり、曙は演習を中断して様子を見に行く。
視線の先では、新米と思しき艦娘が、大勢の人間に取り囲まれていた。
彼らは艦娘を快く思わない者たちだった。
艦娘は本当に人類に必要なのか。
お前たちがいるから深海棲艦が現れるのではないか。
根拠のない言葉を並べ立て、怒りを艦娘の少女にぶつけている。
艦娘の活躍が民間人に十分伝わっていないこと。
漁師たちの間に広がる、いつまで経っても平和にならない海への不安と不満。
それらが積もり積もった末の、感情の噴出だった。
――勝手だ。
人間の身勝手さに苛立ちを覚え、曙は軽く舌打ちする。
そして群衆へと歩み寄り、新米艦娘の前に立って彼女を逃がすと、そのまま噛みついた。
「あんた達ウザいのよ。わざわざここまで乗り込んできて、煩くて訓練の気が散るわ!」
だが、人々も引き下がらない。
「お前達が漁場を制限して、いつになっても状況が良くならないからだろ!」
「こっちは生きていくのがやっとなんだぞ!」
声を荒げる彼らは、漁業を生業とする家系の若者たちだった。
そうだ、そうだ、と周囲も同調する。
抗議そのものはもっともだ。
だが、その矛先を艦娘に向けるのは明らかに筋違いだった。
買い言葉に売り言葉。
口論は次第に激しさを増し、一触即発の空気が張りつめる。
艦娘が人間に危害を加えることは、固く禁じられている。
――だが。
曙は処分を待つ身だ。
失うものなど、もう何もない。
いっそ最後に、大暴れしてやろうか。
拳に力を込めようとした、その瞬間。
「そこの人たち、何をしているんですか!!」
一斉に視線が声の方へ向けられた。
そこに立っていたのは、二十代ほどの短髪の男だった。
息を切らしている様子から、慌てて駆けつけてきたのだろう。優しげな顔立ちだが、今は眉間に深い皺を刻んでいる。
「あんた誰だ、ここの関係者か!」
若い漁師のひとりが、男に食ってかかる。
引き締まった体つき――明らかに特別な訓練を受けていると分かるが、それでも男は怯まなかった。
「俺は提督の手続きをしにここに来たものです。まだ正式な立場ではありませんが、大本営本部の敷地内で騒ぎを起こすのでしたら、然るべき処置を取らせていただきます」
凜とした表情で、精一杯の凄みを効かせて男が迫る。
だが本来穏やかな気質なのだろう、その威圧には限界があった。
「そんな脅しで引っ込む覚悟でここに来ちゃいねえんだよ!!」
顔面に一撃を受け、男は僅かによろめく。
頭に血が上ったのか、漁師の暴行は続いた。
そのとき、本部建物の方から数名の人間が駆けてくる。
大本営の正規スタッフだ。
「お前達何をしている!!」
怒号に、多勢に無勢を悟ったのか、群衆は慌てて公園を後にした。
「君、大丈夫か」
「まったく、無茶をする」
労いの言葉を受け、男は「ありがとうございます。もう大丈夫です」と答え、曙の方へ歩み寄る。
「大勢に囲まれていたみたいだったけれど、大丈……痛っ!」
言葉が終わる前に、曙の平手打ちが男の頬を打った。
「余計な事しないでよ」
調子を狂わされた苛立ちを隠そうともせず、曙は吐き捨てる。
男はムッとした表情で詰め寄った。
「いきなり何をするんだ!」
「あたしは助けて欲しいだなんて一言も言っていない。勝手にしゃしゃり出てきたくせに、恩着せがましい事言うな。このクソ提督!」
「ク、クソ……!? 何て言葉遣いだ! 礼節を習わなかったのか……あぁいや、俺はまだ提督じゃ無いんだけど」
「あんたみたいなのに向ける礼節は無いってだけよ、ク ソ 提 督」
「お前また……」
言いかけて、男――未来の提督は言葉を詰まらせた。
曙の顔を見つめ、何かを思い出そうとしている。
「……何? 急に黙って。用がないなら行くわよ。あたしも忙しいの」
サイドテールを翻し、踵を返す。
「……ハッ!? ま、待ってくれ」
我に返った提督が慌てて制止する。
曙は鬱陶しげに振り返った。
「何よ」
「お前……名前は?」
妙に真剣な眼差し。そこには焦りと、不安の色が滲んでいる。
「……綾波型8番艦・曙。それが何?」
「……建造されたのは、いつだ?」
「は? ……2年くらい前だけど」
最後の答えを聞き、提督はどこか寂しげな笑みを浮かべた。
「……そうか、そうだよな。第一、性格が違いすぎる」
「喧嘩売ってんの?」
拳を鳴らす曙に、提督は慌てて首を振る。
「人違いだったんだ。知っている人にとても似ていてね、まさかと思ったんだ。どうか許して欲しい」
「それはご愁傷様。もう良いわよね、あたしは人間が嫌いなの」
「人間が嫌いって……艦娘がそんな事を言ってどうするんだ。お前だって、いつかは提督の誰かと共に──」
「うっさい!!提督なんてクソ食らえなのよ!!」
提督という言葉に、曙は露骨な憎しみを浮かべて振り返った。
突然の剣幕に、提督は言葉を失う。
やがて曙は、自分が感情的になったことを悟ったのか、大きくため息をつくと、そのまま背を向けた。
長いサイドテールが揺れ、彼女は再び演習場へと戻っていった。
*
「待ってくれ!!」
演習場へと戻り、再び訓練を再開しようとした曙の背に、必死な声が投げかけられた。
振り返るまでもなく分かる。――先ほどの男、提督を名乗った人間だ。
やはり後を追ってきていた。
「今度は何!?」
「いや、その……すまなかった」
「は?」
思いもよらない言葉に、曙は思わず怪訝な声を漏らす。
「……お前が何に対して怒りを向けたのかは分からない。けれども、俺の言葉で深く傷ついたんだろう? だから謝る」
「別に。ちょっと嫌なことを思い出しただけ……もう気にしなくていい。どうせあたしは処分されるし」
「いやそういう訳にもだな──ちょっと待て。処分ってなんだ?」
提督の声色が、一瞬にして変わった。
穏やかさは消え、張り詰めた緊張が滲む。
――しまった。
つい零してしまった言葉を、曙は内心で悔やむ。
だがもう遅い。提督の視線は鋭く、曙を逃がさない。
「答えてくれ! 今の話は聞き捨て鳴らない」
「チッ……大本営のお偉いさんの通達よ。人類を護る気のない艦娘に存在価値は無いんだって」
「何だよそれ……!」
吐き捨てるように告げた言葉に、提督は明らかに動揺した。
艦娘は人類を護る存在。
その使命を果たさない者に価値はない――理屈としては、理解できなくもない。
だが、それでも。
この男は、その理屈を受け入れられなかった。
「待っていてくれ。今から抗議してお前の処分を取りやめにしてもらう!」
「は!? やめてよ、余計な事すんな! あんたこれから提督になるんでしょ? あたしなんかの為に自分の未来を閉ざす必要なんか──」
「俺は! お前達の力になりたいから、提督になったんだ」
「は? ……は? なによそれ、意味わかんないだけど」
あまりにも真っ直ぐな言葉。
曙は一瞬、思考が追いつかなかった。
理解できない。
理解したくもない。
目の前の男は、曙の知る「人間」という枠から、明らかにはみ出していた。
――何者なんだ、コイツ。
疑念が胸の奥で渦を巻いた、その瞬間。
施設内に、けたたましい警報音が鳴り響いた。
「何だ!?」
提督が周囲を見回したとき、数人の男がこちらへ走ってくるのが見えた。
その顔には、隠しきれない絶望と焦燥が浮かんでいる。
「お、おいあんた提督だって言ってたよな!? なぁ頼む、親父を助けてくれ!!」
「あなたはさっきの……一体何事ですか?」
「漁に出た親父が魚の化け物に襲われてるって今無線で連絡があって……このままじゃ、このままじゃ親父達が!!」
神に縋るように、漁師のひとりが提督の両腕を掴む。
どうやら、この警報はその知らせによるものらしい。
――随分と勝手な話だ。
つい先ほどまで艦娘を罵っていた相手が、今度は助けを求めている。
だが提督は、嫌な顔ひとつ見せず、その手をそっと外し、落ち着かせるように声をかけた。
「待っていて下さい。既に本部の方も把握しているとは思いますが、俺の方からも──」
そのやり取りを、曙は少し離れた場所から見つめていた。
自分はどうせ処分される身だ。
今さら人間に義理を通す理由など、どこにもない。
ましてや、あの漁師はさっきまで自分たちを蔑んでいた。
曙の瞳の奥に、暗いオレンジ色の炎が灯る。
「…………」
それでも。
曙は、その場から無関心に立ち去ることができなかった。
無礼を働いた相手に対し、真正面から向き合おうとする提督の姿。
その真摯さを見ているうちに、胸の奥で燻っていた何かが、ゆっくりと熱を持ち始めた。
一度、強く目を閉じる。
そして、再び開いたとき――炎は消えていた。
「お、おい曙。どこへ行くんだ!」
「助けるんでしょ? 行ってくる!!」
そう言い残し、曙は演習場を駆け出す。
その背中は、瞬く間に遠ざかっていった。
本来なら、彼女が出るまでもない。
本部に待機している艦娘たちが出撃すれば、事態は沈静化されるだろう。
それでも――
人間を嫌い、終わりを待つだけの彼女が、そこまでする義理はないはずだった。
だが、曙は向かった。
心は荒れ果てていても、腐り落ちてはいなかったのだ。
「曙……!」
提督は、彼女の背を見つめながら、強く思った。
――この艦娘の力になりたい。
だが、どうすればいいのか分からない。
周囲を一度見渡し、提督は漁師を落ち着かせると、踵を返して大本営本部の建物へと走り出した。