ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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 数日後

 

 提督達は留守を枕崎と霞に任せて総出で大本営の工廠エリアに来ていた。あの後、工廠の人達の懸命の処置により漣は奇跡的に一命を取り留めた。提督は工廠の整備長と思しき人物から一発パンチをお見舞いされ、今後は気を付けなと釘をさされた。提督はその言葉を、強く肝に銘じるのだった。

 

「この部屋だな……」

 

 提督達は、番号のふられた病室の扉をノックした後、開く。

 

「あっ、お久しぶりですご主人様!」

 

 漣はそこに居た。いつものツインテールを解き、セミロングのピンク色の髪に病院服を着た、口を開かなければ彼女だと分からない姿で。しかしいつも通りお茶らけて漣は言う。いつもの日常が戻って来たのだ。

 提督は、漣の前までつかつかと歩いて行き――土下座をした。

 

「えちょ、何やってんスカご主人様!?」

「すまなかったッ!! 俺があんな事を言ったから、罰が当たったんだ……許してくれ!」

「いやいやいやいや!? あれは完全に漣の油断ですヨ!? ご主人様に謝って貰った後だから無関係デスよ!?つか、マジで顔上げて下さい、オモテをあげい!!?」

 

 突然の提督の土下座に慌てて止めようとする漣。提督は至って真剣なのだが、傍から見れば実にシュールな光景である。後ろに居た曙達はただただ苦笑するしかなかった。

 

「でも本当に良かったです。工廠の人達には感謝しないと」

「クソ提督にもキッツイお仕置きをやってもらったしね!」

「あれ、結局整備長さんにグーパン貰ったんデスかご主人様? んもー。死にかけたのは関係ないって言っておいたのに」

 

 やれやれと肩を落とす漣を見て、曙達はクスクスと笑う。と、部屋の中に新たに南波が顔を出した。

 

「どうやら元気そうだね」

「あ、南波さん! この通りピンピンしてマスよ?」

「はは、何よりだ……剛、お前もいい加減顔を上げなさい」

「しかし……」

「誠意は分かるが、相手の厚意を無碍にするのは頂けないぞ」

「……はい」

「ほらほらご主人様、もう良いですっテ」

「う、その……本当にすまん」

 

 なおも申し訳なく振舞う提督に対し、南波はそのまま会話に切り出す。

 

「今回の事で分かったと思うが、提督と艦娘は強い絆で結ばれている。時として想いがすれ違う事もある。だが、それを乗り越え最後まで彼女達を信じてやる事が……提督であるお前の役目だ。分かったな」

「……はい!」

「うんむ、良い返事だ……さて、私はここいらで失礼するとしよう」

「え~折角来たのに、もう帰っちゃうんデスか?」

「はは、私はここの【元】関係者でね。あまりうろつくのは宜しくないのだよ」

「そっか、それは残念デス……」

「そう言ってくれるだけで嬉しいよ……では剛、またな」

「はい、南波さんもお元気で!」

 

 一礼し、南波は病室を去っていった。暫くして、漣もよっと、と言いながらベッドから降り立つ。

 と、そこに朧が近づく。

 

「漣」

「ん? どったのぼーろちゃん」

「……無事で、本当に良かった」

「……ハイ、お陰様で!」

 

 ニッと笑う漣と朧。そこにはシンプルながらも、強い絆があった。

 

「さてさて、じゃあ帰りましょうか」

「そうだな。俺たちの鎮守府へ!」

「はい――あーっと、その前に、ビッキー」

 

 ケンケンパーの様な妙な動きで、漣は響の元へと向かう。響は、「ビッキー」と言う呼び方に一瞬自分の事だと分からずキョトンとするが、やがて漣の方を怪訝な顔で向いた。

 

「……ん? 私かい?」

「うんうん。折角だし、ツッキー……【暁】達に会っていかない? 配属されてからずっと会ってないんでショ?」

「うん、そうだけど……いや、いい」

「へ? どうして」

「どうしてもさ。それより、今晩は私がボルシチをご馳走するよ」

「ボルシチ? 何ですかそれ」

「某国で愛されている料理さ。ここ最近、私は皆に庇ってもらってばかりだからね。礼をさせてほしい」

「そんな、お礼だなんて……でも、響ちゃんの料理は食べてみたいです」

「ふふ、楽しみにしていてくれ……さあ、そうと決まれば帰ろう、司令官」

「あ、あぁ……」

「えちょ、待」

 

 半ば強引に響に背中を押され、提督達は帰っていった。再び深海棲艦と戦う拠点、鎮守府へと――。

 

 

 

 

 大本営内に存在する公園にて、南波老人は物思いに耽っていた。何かを愛おし気に見る様な瞳で、一人天を仰ぐ。

 

「……よ。お前が願った人と艦娘の絆は、確かに芽吹いておる。安心するのだぞ」

「これはこれは、意外な方と出会いましたな」

 

 ふいに聞こえた声に南波は我に返り、その方向を見る。屈強な体躯をした険しい顔の男性……総監の埋田がそこに立っていた。

 

「……お前か」

「困りますな。今の貴方は部外者だ、大本営内をウロウロされては部下に示しがつきません」

「はは、それはすまないね。直に失礼するとしよう」

「いえ、この公園は一般人の方にも開放されていますので問題はありません……私が言っているのは、大本営の工廠等を私用で使われては困ると言う事です」

「うむ、何分急を要したのでな。今回ばかりは、この老いぼれの顔に免じて許してくれ」

「……いかにあなたでも、次はありませんぞ」

 

 そう言うと埋田は、険しい表情を崩さずに南波に背を向け歩き出す。そして、忌々し気に呟いた。

 

 

 

 

「奴と言い大和と言い……何故モノの分際で居なくなった後も人に影響を与えるか……!」

 

 

 

 

                 次回予告

 

「今のあたしには、上手くやれる自信がない」

 

                       「嬢ちゃん、一度最上に会ってみるか」

 

「ボクの事は気軽に【もがみん】で良いよぉ」

 

            「何て言うのかな、少し僕と似ている気がするんだ、君は」

 

「あたしも、連れてって下さい!!」

 

                         「待て、早まんな曙!!」

                  

 

                             次回【再会の海】




人物紹介

【南波 一平】

 柔らかで紳士的な物腰と雰囲気を持つ老齢の男性。幼少の頃、両親を亡くした可香谷提督を救助に当たった比叡達からの紹介で引き取り育てた。提督にとっての父親の様な人物で南波もまた提督を実の子供の様に愛情をもって育てた。
 大本営に何らかの関りを持っている人物らしく、大淀や工廠の人間は勿論、総監である埋田ですら彼には頭が上がらない様ではあるが、理由は現時点では不明。
 名前の由来はJR難波駅+ウルトラQの戸川一平より。

事件

【MG号事件】

 今から二十年ほど前に起こった事件。深海棲艦の勢力が拡大していた時期に、旅行会社が企画した遊覧船【マウンテンガリバー号】のクルーズ中に起こった事件。正体不明の深海棲艦一隻により、MG号は無残に破壊され、乗客乗員は幼い可香谷提督を省き死亡。遺体の状況から、船を破壊した後に逃げ回っていた乗客乗員をピンポイントで虐殺したと考えられる悍ましい事件だった。
 件の深海棲艦は、艦娘達が到着した時には既に姿を消しており、未だに解決していない。
 提督はこの事件のトラウマにより、大きな傷と後遺症を残す事になる。その恐怖の傷跡は、未だに消えていない。

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