ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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 茜色の光がさす船橋、空は既に夕暮……その空の下、ボロボロになりながら艦娘曙は帰還した。顔を上げた曙は、船橋の入り口に立つ提督の姿を発見する。すれ違いざまに提督と目があったが、すぐに曙は視線を逸らした。対する提督は何も言わないが、その場から離れようともしなかった。

 

「おかえり」

 

 立ち去ろうとする曙に、提督はそう優しく呟いた。その言葉を聴き、ピタリと止まる曙。暫くした後に、ギリと歯を喰いしばりながら声を絞り出した。

 

「……何よそれ……! あたしは、あんたの命令を散々無視して、無様にもボロボロになってんのよ。『おかえりなさい』って何よ、あたしの事、なめてんの? 『言わんこっちゃない』とか『ざまあみろ』とか、もっと他に言う事あんでしょ!?」

「お前は、本当にそう言ってもらいたいのか?」

「言いなさいよ! あたしはただの卑怯者で、何の戦果も挙げられない弱い艦だって! 言えよ!!」

 

 胸が張り裂けそうな勢いで曙が叫ぶ。その言葉は、彼女の内面そのものだった。彼女の心の苦しみが、そのまま言葉となっていたのだ。

 提督は、その言葉が終わるまで待ち続けた。

 

「……なあ、曙」

 

 曙の言葉が途切れたタイミングで、提督が切り出した。

 

「お前の事は、大淀さんから聴いた」

「…………」

「正直、俺なんかがお前の事を分かってやれるかどうかは分からないよ。でもな、それでも俺は、お前を放っておけないんだ」

「……何? あたしをこのまま帰したら沽券に関わるとかだったら大丈夫よ。寧ろ同情されるでしょ」

「別に同情とかは要らない。俺はただ、曙と一緒にこれから戦いたい。そう思ったんだ」

「あ、頭可笑しいんじゃないの? こんな口の悪い艦娘と一緒にだなんて、ドMなの?」

「はは、どうだろうな。って言うか、口が悪い事に自覚があったのか……」

 

 優しく語り掛ける提督……ひょっとしたら彼は、曙をかつての自分自身と照らし合わせていたのかもしれない。世の中全てに絶望し、誰にも心を開けなくなっていたあの日の自分。今の曙の様に、自暴自棄になった事もあった。だがそんな自分にも、見捨てずに手を差し伸べてくれた人達が居た。だから彼は今真っ当に生きているのだ。

 今度は自分が、誰かを護り、支え、手を差し伸べたい。可香谷 剛と言う人間が提督を志したのはそうした背景からだった。ここで曙を帰すのは、見捨てる様なものだ。ならば、提督の答えは決まっていた。

 

「さっきの戦いは、確かに褒められたものじゃない。けど、俺は曙が卑怯者だとか戦果を挙げていないなんて思ってない。さっきのイ級との戦いだって圧倒的だったし、ロ級だって、恐怖に屈せずに撃てたじゃないか。俺はそう言うの、凄いと思う」

「……嘘。どうせお世辞で言ってるんでしょ」

「信じれないならそれでもいい。お前が俺の事を、心の底から嫌いになったなら、その時は帰っていいからさ……今は、手を取ってくれないか」

 

 そう言って提督は、曙に手を差し伸べた。かつて様々な者がそうしてくれた様に。

 曙は困惑していた。目の前の男はどういうつもりなのか? 自分は、この人間を信じて良いのだろうか? 実際の所、曙は心の奥底では、人間に認めてもらいたかったのだ。しばらく動きの無かった曙だが、やがて上目遣いながらも恐る恐る提督の手を――。

 

 

 

 

 と、その時提督の持っていた通信端末が音を発する。つい反射的に提督は、いつもの癖でそれに即座に応対……結果、曙の勇気を出して伸ばした手は、空しく宙を切ってしまった。

 

「はい、こちら可香谷提督」

《大淀です。深海棲艦の撃退を此方でも確認しました。周辺の漁船等にも被害は無し……ご苦労様でした。》

「有難うございます。これからもこの調子で頑張ります」

《はい、お願いしますね》

 

 通信を切り、提督は端末を腰へと戻した。そうして、再び曙へと向き直る。

 

「スマン! 急に連絡が来たからさ……と言う訳で、改めて――」

 

 そこまで言いかけ、提督は曙の様子に気付く。曙はワナワナと肩を震わせながら、提督を睨みつけて居た。よく見れば、目じりに涙も溜まっている。

 

「こ……」

「こ?」

「このっ! クソ提督ッッ!!」

 

 提督の顔面に鈍い衝撃。曙の渾身の拳が、提督にクリティカルヒットした。そのまま後方へと吹っ飛ばされ、海へと落下する提督。

 

「ふんっ!!」

 

 完全に機嫌を損ねた曙は、提督を置き去りにしてズカズカと鎮守府の方へと帰っていった。その様子を、ただ茫然と見守る提督だった。

 やがて提督は、曙の怒りの理由が自分の空気を読まない行動にあった事に気付き「あー……」と言いながらバツが悪そうに頬を掻いた。船橋に這い上がり、申し訳程度に服の水を絞ると、提督は再び通信端末を大淀へと繋いだ。

 

「はい、こちら大本営……どうしたんですか? その頬の腫れ。それに服もずぶ濡れじゃないですか」

「あー、その……色々ありましてね。それよりも大淀さん、さっきの話なんですけど」

《……曙の事、ですか》

「はい」

 

一呼吸置く提督。既に答えは決まっていた。

 

「――俺は曙と共に戦いたい。俺なんかがあいつの心を理解できるかは分からないけど、それでも、このままあいつを見限る様な真似はしたくないんです」

「…………」

「それに……何て言うかアイツ、放っておけないんですよね。誰にも頼らずに一人強がって、自分で自分を苦しめている。そんなアイツを、見ていられないって思ったんです」

 

 しばしの沈黙、やがて。

 

《貴方ならそう言ってくれると信じていましたよ……彼女の事、宜しく頼みますね》

「……はい!」

 

 自分に出来るのかどうかは分からない。だが、もしも自分に彼女を救う力があるのなら――出来れば救ってやりたいと、そう思い提督は力強く返事を返した。

 

 

 

 

 これは、一人の提督と一人の艦娘の物語。二人の第一歩は、ここから始まるのだった。

 

 

 

 

 提督との通信を終え、大淀はうーんと背伸びをした。

 

「何とか、なりそうですね。後は明日、あの子達が向かうだけですが……」

 

 窓を眺めながら一人呟く。徐に昇りかけた月が、儚げに輝いていた。

 

「今度こそ、幸せになってね、曙」

 

 

 

 

 

 

                  次回予告

「……増えてる」

 

                          「以上が我ら、【第七駆逐隊】デス!」

 

「皆、お前の事を心配していたぞ」

 

               「あたしは一人の方が好きなの! いいから放っておいて!」

 

「戦闘開始ktkr!! みんな行っくヨー!」

 

 

 

 

 

       次回【七駆の初陣】




世界観設定

【艦娘】

艦魂転生型。外見は人間の少女と全く変わらず食事も普通に取る。
身体能力は人間よりも高く、自身の倍以上ある深海棲艦を投げ飛ばすことも可能。
艤装は任意で虚空より出現させる。出現の際は、電脳的なエフェクトが発生する。
艤装がどこから現れるのかは不明。

不死身ではないが不老の存在で、提督が生まれる前から存在している艦娘もいるらしい……




人物紹介

【提督】

本名は可香谷 剛(かがや ごう)。年齢20歳くらい。
士官学校を卒業の後、提督としてとある鎮守府へと着任した。
深海棲艦を倒すことに、密かな執着を抱いている様だが……?

学校での成績は主席エリートとは程遠く、平凡なものだったらしい

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