ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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第二話【七駆の初陣】
2-1


「一体何度艦隊を危機に晒せば気が済むのだ!」

 

 その日、曙は提督から、文字通り何度目かの叱責を受けていた。作戦行動中、勝手な行動をした事で僚艦を負傷させてしまったのだ。幸いにも轟沈する程の事では無かったとはいえ、見過ごせない事態だった。

 

「……すいません」

「すいませんと言えば済むとでも思っているのか! 何故勝手な行動をしたのか説明をしろ説明を!!」

「……あの場合は、あたしが前に出た方が確実に沈められると思ったから――」

「その結果が味方の負傷に加え、敵にも逃げられたのだぞ! 随分と自惚れが過ぎるな」

「それは」

「成績は優秀だったらしいが、所詮は自分の事ばかりだな。協調性が無いんじゃないのか!?」

「っ……!」

「残念だがお前は作戦から外させてもらうぞ。これ以上支障をきたす訳には……」

「……外せよ」

「何?」

「そんなに気に入らないなら、外せばいいじゃない! このクソ提督!!」

「何だと!? お前、それが上官に対する口の……おい待てこら!」

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

「……ん」

 

 鎮守府に設けられた自室のベッドで、曙は眼を覚ます。カーテンの隙間から射す光が、今まで自分が夢の中に居た事を思い出させた。

 彼女にとって、厭な夢だった。

 

「……チッ」

 

 軽く舌打ちをした後、パジャマを脱いで着替えを済ませる。

 あの後、結局曙は大本営の学校へと送り返された。その後も何度か、複数の鎮守府を転々としながら同じことの繰り返しだった。曙は、提督――人間を信用出来なかった。

 何故そこまで信用できないのか、彼女自身にも分からなかった。駆逐艦であった頃に色々とあった事は知っている。だがそれだけならば、他の艦娘にも多かれ少なかれ、そう言った事はある筈だ。何故自分だけがそうなのか?

 自分でも分からないその不信感は彼女を余計に苛立たせた。今回の配属も、当の曙は嫌気がさしていたのだ。

 

「何でこんな事になったのよ」

 

 天井を見上げながら悪態をつく。元々、幾度も問題を起こした彼女は鎮守府への配属はされない筈だった。今回の配属には、仕組んだ者が居るのだ。彼女の事を最後まで見捨てなかった少女達――そんなお節介焼きの姿を忌々し気に浮かべながら、曙は自室を後にした。

 そのお節介焼き達と、すぐに再開するとはつゆ知らずに。

 

 

 

 

第二話【七駆の初陣】

 

軽巡級深海棲艦 

   ホ級

 

駆逐級深海棲艦

 ロ級ハ級ニ級

 

   登場

 

 

 

 

「うん? 曙か、おはよう」

 

 執務室へと向かおうとした曙は、浴室から出てきた提督と鉢合わせとなった。

 

「げ」

「……朝から随分とご挨拶だな」

「……ふん、そう言うクソ提督こそ、朝からシャワーとか良いご身分ね」

「はは……ちょっと汗かいちゃってな」

「ふぅん。別に昨日はそんな暑くなかった筈だけど? 怖い夢でも見たんじゃないの」

「……そうだな、うん。怖い夢だった」

 

 やや自嘲気味に提督が言う。その顔は心なしか、やつれている様に見えた。

 

「立ち話も何だし、執務室に入ろうか」

「あたしに命令しないで」

「命令って……まあいいや、入るぞ」

 

 曙の悪態を軽く流し、提督は執務室の扉を開ける。今日もまた一日、艦隊運営が始まるのだ。

 

 

 

 

「お早うございます、ご主人様」

 

 

 

 

 ばたん。と、提督は開けたドアを閉めた。現在、曙は提督の真横に居る。扉の向こうではない。そもそも、今扉の先からは【ご主人様】と聞こえた。曙と言う艦娘がそんな事を死んでも言わないであろう事は昨日のやりとりで身に染みて分かっている。むしろ彼女ならば、そんな事を言うくらいならば喜んで舌を噛むだろう。

 

「ちょっとちょっと、閉めるとか酷すぎね!? 顔出して下さいよ~」

 

 混乱する提督であったが、中からの声に押され改めて扉を開ける。

 執務室の中には、一人の艦娘が居た。曙と同じセーラー服の様な衣装に身を纏い、ピンク色の髪を短めのツインテールで結んだ、ムスッとした顔の曙とは対照的などこか悪戯っぽい笑みを零した少女だった。

 そして更に、部屋にはもう二人――計三人の艦娘と思しき少女が立ち並んでおり……。

 

「増えてる」

 

 提督は、至極真っ当な言葉を発した。ズッコケるピンク髪の少女。

 

「いきなりグ○ムリンか何か扱い!?」

「あ、あぁ……すまん。突然の事で頭が混乱しててな。取り合えず、お前は誰だ?」

 

 冷静に努めながら昨日の出来事を思い出す。本来、この鎮守府には【さざなみ】と言う艦娘が来るはずだったのだが諸事情で来れなくなった。その代わりに曙がやってきたと言う訳だ。詰る所、目の前のこの艦娘が……

 

「ふふん、よくぞ聞いて下さいましたご主人様。私は綾波型駆逐艦の――」

「【漣】!! あんた何で此処に居んのよ!? 他の二人まで連れて、一体どういうつもりなの!?」

「どーどーぼの、まずは漣達の自己紹介をデスね」

「うっさい! 大体、元々あんたが此処の初期艦になる筈だったでしょうが。こんな手の込んだ事までして、どう言うつもりよ!?」

 

 ガーっと勢いよく噛みつこうとする曙を、漣と呼ばれた少女はやんわりと躱す。提督はただただその光景に混乱するしか無かった。

 

「曙ちゃん、漣の事は気持ちは分かるけれど、今は提督に状況を説明しないと」

 

 後ろに居た艦娘の一人が落ち着いた声で二人を制する。それで少し冷静になったのか、曙はフンと鼻を鳴らしながら一先ず引き下がった。

 

「ぼーろちゃんサンクス……改めましてご主人様♪ 私は綾波型駆逐艦【漣(さざなみ)】。こう書いて、さざなみと読みます」

 

 漣と名乗った少女が、自身の名を宙に指で書きなぞる。彼女の肩に乗っかっている漫画の兎の様な妙ちくりんな生命体が短い指で同様の動作を行ったが、難解な漢字をジェスチャーで表すには限界があった。

 

「すまん、さんずい辺くらいしか分からん」

「むぅー、それはあなたが字を知らないだけヨ……後ろの二人デスが、こっちの肩にカニっぽいのを乗せてる絆創膏ガールが【朧(おぼろ)】ちゃんで、こっちのおっぱいが【潮(うしお)】ちゃん。共に綾波型駆逐艦デス」

「人をカニが本体みたいに言わない」

「漣ちゃん、潮の紹介だけひどいですっ!?」

「ぼの……曙はもうご存じですよネ? 以上が我ら、【第七駆逐隊】デス!」

「聴いて下さい!?」

「どーどーうっしー。今はそれは置いておいて、はいポーズ!」

 

 朧と潮と呼ばれた艦娘が漣に抗議するが、漣は全く聞いていない。くるりとその場で回転した後に大げさに両手を広げながらポーズを取った。何となく、彼女の背後に昭和映画じみたタイトルロゴで【第七駆逐隊】と見えた気がした。

 

「あ、あぁ……」

 

 曙とはまた違ったベクトルで個性的な艦娘が増えた事で、提督は頭を抱えた。

 

「全く……改めまして、綾波型駆逐艦、朧です。誰にも負けません! ……たぶん。あっ、この蟹は妖精の一種みたいなものと思っていただければ」

 

 礼儀正しく、黄色に近いショートヘア―の艦娘、朧とその肩に乗っかっている蟹(?)がお辞儀をする。頬に張られた絆創膏と、少女にしては引き締まった四肢が、彼女の努力家な性分を垣間見せていた。

 

「え……えぇっと、同じく特型駆逐艦……綾波型の潮です……あのぅ、もう下がってもよろしいでしょうか……」

 

 朧に続き、黒いロングヘア―の艦娘、潮が挨拶をする。朧とは対照的に、全体的にふわりとした柔らかい印象の少女だ。そして、漣が指摘した通り……外見年齢不相応な豊満なモノを持っていた。

 そう言う事に対して初心な提督は、目のやり場に非常に困る。「あ、あぁ……下がっていい、下がっていいぞ」とぎこちなく答えるも却ってそれが不自然さを招き、曙がすかさず噛みついた。

 

「すけべ」

「な、何でそうなるんだよ」

「とぼけんなクソ提督。今潮の胸ガン見してた」

「あ、曙ちゃん。提督にそう言う事を言うのは……」

「いいのよ。コイツは、人の握手より仕事を取る様な奴だし」

「いや、その……昨日はすまない」

「ふんっ!」

 

 曙が此方に鼻を鳴らして悪態をつく……残念ながら、昨日の事はまだ許してくれていない様だった。

 そして、その様を見て朧は糸目で呆れ漣はクスクスと笑っていた。

 

「で? 何であんた達が此処にいんのよ。わざわざあたしを秘書官に仕立て上げて」

「そりゃあ勿論、ぼのと一緒に居るため?」

「答えになってない!」

「あ、あの、曙ちゃん……漣ちゃんも朧ちゃんも、曙ちゃんがどんどん孤立していくのが心配で……勿論、私もです!」

「はあ? 何よそれ、余計な事してほしくないわ」

「おい曙! そんな言い方無いだろう」

「クソ提督は黙って」

「……はい」

「まあまあ。あっ、ちなみにご主人様。漣達がここに居るのは、大淀さんには許可を取ってますから大丈夫ですヨ?」

 

 提督に対して漣がそう述べた。本来、着任したての鎮守府に艦娘が一気に配属されるなどイレギュラーも良い所だが、大本営所属で重要なポジションに居る大淀に許可を取っているのであれば問題は無いのだろう。どう言った経緯でそうなったのかは不明だが、提督は深く考えない事にした。

 

「あー……と、取り敢えず、後の話は朝食を食べながらでもやるか。皆、食堂に集まってくれ」

 

 事態の収拾を図るべく、提督がそう言って執務室から移動する。それに続き、艦娘達も――曙も渋々ながら――執務室を後にした。


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