ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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凄く良いペースで投稿出来ている。このモチベが続く内に、出来るだけ出していきたいね。

と言う訳で第一話ラスト。〆の部分なので短めです。


1-4

 夕焼けの鎮守府。茜色に染まった空が海をオレンジ色に照らす中で、艦娘曙は海岸へと降り立った。迎えに来ていた提督と枕崎が、彼女を支えながらここまで航行してくれた艦娘に感謝を述べて見送り、後に残ったのは気まずい空気だけとなっていた。

 

「…………」

 

 曙は何も語らない。ただ下を向いたまま、両の手で握り拳を作るだけだ。肩に乗る曙妖精はあいも変わらず泣きじゃくっている。

 

「おかえり、曙」

 

 労いの言葉をかける可香谷提督だったが、今の曙にはその言葉さえも屈辱に感じる。それが切っ掛けとなり、曙は勢いよく怒りや悔しさの滲み出る顔を上げた。

 

「『おかえり』? 言うに事欠いて出た言葉が『おかえり』!? もっと言いたい事あるんなら言いなさいよ! 自分勝手に戦って、無様に敵に逃げられたあたしを嗤えよ!!」

「曙、俺はな」

「うっさい! ……どうせ、あたしは……」

 

 そこまで口にして、曙は再び黙り込んだ。夕焼けが映すその顔は、強気な言葉とは裏腹に酷く沈んで見える。泣き止んだ曙妖精が、逃げるように彼女の胸元に潜り込み姿を消した。

 暫しの静寂の後に、曙が落ち着くのを待って黙り込んでいた可香谷提督が、咳払い一つの後に口を開いた。

 

「そうだな。確かに、今回のお前は自分勝手だった。要救助者を蔑ろにし、自身の力を誇示するためだけに深海棲艦に挑んだ。これは恥ずべき事だと俺は思う」

 

「……っ!」

 

 可香谷提督の言葉を聴き、曙が両拳に力を込める。分かっていた事とはいえ、いざ口にされると辛いものだった。

 だが提督は『しかし、だ』と口調を柔らかくしながら言葉を続ける。

 

「駆逐イ級の餌食になりそうだった船員を助けたのもまた事実だ……先程、その船員のご家族から連絡があった。命を救ってくれた事に感謝しますとの事だ」

「……!?」

「お前がこれまでの経験から、意固地になるのもわからないこともない。けどな、そんな事をしなくても、お前は立派に艦娘としてやっている……俺はそう思う」

 

 可香谷提督の言葉を、曙は理解できなかった。彼女の知る提督と言う存在は、艦娘を道具として扱い個人への評価――ましてや、行動を褒め称える様な評価をするもの等いないと思っていたし、それが当たり前だと思っていた。

 ならば、今目の前にいるこの提督は、一体何だと言うのか? 彼女の胸元から曙妖精が恐る恐る顔を出し、可香谷提督をじっと見つめている。

 

「俺は、艦娘の力になりたいと思っているし、お前達の力を貸して欲しいと願っている……俺と一緒に、戦ってくれないか」

 

 顔を上げた曙に、可香谷提督が決意の籠もった笑顔で曙に握手を求める。夕焼けで赤々とした空に照らされた二人は、精巧な影絵の様だ。

 曙は手をゆっくりと開き、恐る恐る可香谷提督の手を取ろうとするが……。

 

「ッ!!」

「お、おい曙!?」

 

 彼女はその手を握ることなく、混乱した顔のまま目を閉じてその場から走り去った。足元に残った曙妖精が、可香谷提督に精一杯のお辞儀をした後ぽんっと姿を消す。

 後には、呆然と立ち尽くす提督と、その横で満足気な笑みを浮かべる枕崎の二人だけが残された。

 

「中々上手くいかないものですね……」

「そう? 私には順調な滑り出しの様に思えたけれど」

「そ、そうでしょうか」

 

 枕崎の言葉に可香谷提督は苦笑する。一体何の辺が順調と言うのだろうか。まだまだ未熟な提督には、それを理解することが出来なかった。

 

「でも、よかったな。提督さんが曙を受け入れてくれて」

「えっ?」

「資料見たでしょ? あの子、これまで人に恵まれなくて他人不信になって、自分から嫌われちゃう様に振る舞ってしまってるから、提督さんも駄目なのかなあ……って」

「ま、まぁ最初は驚きましたが」

「でも、貴方は受け入れてくれた。一体どうして、艦娘にそこまで向き合おうとするのかしら?」

「どうして、ですか」

 

 悪戯っぽい笑みを作り、枕崎が可香谷提督へと問いかける。可香谷提督は、何か思案する様に少しの間斜め下を向き、やがて決意の籠もった目で顔を上げた。

 

「昔の話です」

「昔の?」

「……俺は、幼い頃にある艦娘に救われた事があります。全てを失い、未来に絶望していたあの頃の俺に、その艦娘は手を差し伸べてくれました」

 

『諦めるな!』

 

「結局、その艦娘とは暫くして会えなくなりましたが、その時があったから俺は生きているんだって……だから俺、決めたんです。今度は自分が、艦娘達を助けたいって」

 

 途中から捲し立てる様に勢い良く、可香谷提督は自身の想いを語る。枕崎はそれを聴き、うんうんと頷いた。

 

「提督さんの決意、私は凄く良いと思うな。これからも彼女を、彼女達を助けてあげて」

「……はい!」

 

 

 

 

 夕焼けに照らされ波が銀色に光る海岸。走り疲れ、息を切らす曙が居た。彼女の頭は未だ混乱し、膝に両手を当ててその場に立ち止まる。

 

「何なのよ! 何なのよもう!!」

 

 今までの常識を覆す提督に曙は、どう接していいか分からなかった。しばらく過呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻すと、曙はゆっくりと顔を上げて空を仰いだ。

 

「――この、クソ提督」

 

 声を振り絞り、やっと出た言葉がそれだった。

 

 

 

 

「襲撃による死傷者は無し。敵の状態はイ級撃沈、ロ級大破撃退。引き続き逃走したロ級の捜索を行われたし……こんな所でしょうか」

 

 大本営のオペレータールーム。薄暗く小さなその部屋で、任務娘大淀は今回の出撃に関しての戦闘詳報を纏め上げていた。パソコンに全ての記述を入力し終わった彼女は、それまでの堅苦しい雰囲気を解いて椅子に座ったまま大きく背伸びをした。

 

「初任務お疲れ様です、駆逐艦曙。でも、貴方のその場所での物語はまだ始まったばかり……今度こそ、上手く行くといいですね」

 

 曙の配属と転属を毎度担当してきた大淀にとっても、曙の動向には感慨深いものがあったらしく、【可香谷剛提督 鎮守府】と書かれたページの情報画面を開きながら、安心したかのように微笑んだ。

 

「それに、止まっていた時間が動き出すのは、きっと貴方だけじゃない」

 

 そう言いながら大淀は、ページを下へとスクロールしていく。【配属予定】と書かれたその一覧には、3人の艦娘の姿。その艦娘達の写真を見ながら、大淀は彼女達へと想いを馳せる。

 

 

 

 

「ふっ、はっ」

 

 夕日に照らされながら、その少女は鍛錬を積んでいた。砲撃、雷撃は勿論の事、座学に体術の訓練も怠る事もなく、全身を眩い汗に濡らしながら一日中己を鍛えている。

 やがて少女は動きを止め、大本営本部の建物を真っ直ぐ見つめた。

 

「絶対に、主力艦隊の専属駆逐艦になってみせる。そして、あの人達と……!」

 

 

 

 

「ごめんなさい、結局力になれなくて」

 

 別の場所には影法師が2つ。離れ離れになる事により別れを惜しんでいた。その表情は、寂しさや哀しさとも違う――どこか歯痒さ、悔しさを含んだものだ。

 

「こっちのことは気にしなくても大丈夫だから! それより、新しい鎮守府では大人しくしなさいよ」

「んもう、私の事を何だと思ってるんデスか……行ってくるよ」

 

 背の小さな艦娘に励まされ、何とか笑顔を見せるもう一人の艦娘。グッと小さくガッツポーズをして見せて、決意を新たにした。

 

 

 

 

 日も沈み、夕闇が空を支配しようとする頃、多くの艦娘同様その少女も寮への帰路に着いていた。不意に吹く風に髪とスカートの裾を抑えながら、彼女は上を向く。

 これまで幾度となくその背中を追いかけ、今またそのチャンスが巡ってきた少女の元へ。同じ空の下にいるであろうその少女の名を、彼女は嬉しそうに呟くのだった。

 

「また会えるね、曙ちゃん」

 

 

 

 

 to be continued...次回【初陣―カルテット―】




ここもリメイク前からあまり展開は変えず、色々な要素を継ぎ足す感じにしてみました。何だかんだで3000字は超えたので、個人的には満足です。

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