ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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祝!アニメに7駆勢ぞろい!!(台詞付き)


今回から登場人物がどっと増えます。
扱うのが難しいけれど、その分物語に深みを持たすことも出来る。
今回はそんな彼女達の、日常シーンを頑張ってみました。


2-2(挿絵あり)

「は!? 何よそれ聴いてない!」

 

数秒間のフリーズの後、予想だにしていなかった枕崎の言葉に曙は焦りの言葉を放つ。彼女にとって青天の霹靂であるそれは、日常となりつつあった鎮守府でのローテーションを崩すのに充分であった。

 尤も、この日新しい艦娘が着任する事は数日前から告知されていた事なのだが。

 

「曙が提督さんの言葉を右から左に聴き流していたからでしょう?」

 

 これまで、歯を磨きながらだったりドライヤーで髪を乾かしながらだったりしながら、曙はその事に対して空返事を決め込んでいたのだ。

 

「そっ、それは……って言うか、何時来るのよ!」

「6時過ぎには大本営の車で送迎されて来るとは聴いている」

「もうすぐじゃない!」

 

 両手をバタバタさせながら右往左往する曙妖精を頭に乗せ、わーわーと叫ぶ曙。そうこうしている間に、外から車のエンジン音が近づいてくるのが聴こえた。『噂をすれば来たか』と言いながら可香谷提督はイソイソと玄関へと向かっていく。

 運転手に対しご苦労さまです等の会話が2,3続いた後、複数の少女の声と共に可香谷提督の足音が戻って来た。

 

「へぇ、初めて来たけど良い(トコ)じゃないの」

「何で初っ端から上から目線なのよ」

「あはは……あの、提督。曙ちゃんは」

「ああ、既に中で待機している。案内するよ」

 

「――っ!」

 

 最後に聴こえた少女の声を耳にしたと同時に、曙の表情は不快さを伴う険しいものとなった。

 

 

 

 

「それじゃあ、三人とも自己紹介をしてくれ」

 

 司令室にて。提督と枕崎、そして曙と向かい合う形で三人の艦娘が横一列に並んでいる。

 まず先に、一番向かって左端の黄色いショートヘアーの艦娘が名乗り出す。他の艦娘同様、曙と同年代と思われる背丈のその少女は、見た目通りに溌溂と答えた。

 

「綾波型駆逐艦7番艦、朧です。生まれは佐世保海軍工廠、在りし日の海戦では南方進行作戦などに参加しました。寒いキスカ島は少し苦手ですが、任務とあれば平気です。朧、誰にも負けません!」

 

 右頬に絆創膏が貼られている朧は真っすぐな瞳でそう自己紹介をした。他の艦娘と比べても引き締まった四肢とすらりとした出で立ちは、弛まぬ努力の跡を物語っている。見た目通りの真面目な艦娘なのだろう。

 朧が自己紹介を終え一歩後ろに下がるのと同じタイミングで、今度はその隣に居た桃色の髪を小さなツインテールで纏めた艦娘が、ぴょこんと小さくジャンプして前へと出た。

 

「特型駆逐艦ナンバー19! 綾波型で言うと9番艦の漣だよ。さんずい辺に連と書いて漣。生まれは舞鶴海軍工廠。戦歴は……南雲機動部隊が真珠湾でボコボコやってる時、ミッドウェー島を砲撃したりしたよ。凄くないです? ご主人様(・・・・)

 

 にゅふふと言った笑みを浮かべながら悪戯っぽく微笑む漣。先の朧とは対照的に、どこかふざけた印象を受ける艦娘だった。左右の艦娘は苦笑したり白けた目を向けたり、奇抜な呼び方をされた可香谷提督もまた、乾いた笑いで苦笑するしか無い。

 漣が後ろへと下がり最後の一人へとバトンタッチをすると、黒い艶のあるロングヘア―のその艦娘は、恐る恐る前へと出た。

 

「えっと……綾波型10番艦の潮、です。生まれは浦賀船舶。戦歴は、そのぅ……第七駆逐隊や志摩艦隊の一員として、珊瑚海海戦やレイテ沖海戦などの激戦を潜り抜け、横須賀で役目を終えるまで戦い抜きました……あ、あのぅ。もう下がってもよろしいでしょうか」

 

 曙含む他の三人と同じ様な背丈ながら、彼女らよりも豊満な胸と全体的に柔らかい雰囲気を持った潮は、おずおずしながらそう答えた。非常に自信の無さげな彼女だが、語った戦歴はこの中では一番凄いものである。自分の素質に気付いていないタイプの子なのだろうか。

 

「朧、漣、潮。お前達三人は本日より、俺の指揮下に入る……この鎮守府を預かる提督として、お前達を歓迎するよ」

 

 三人の前に立ち、敬礼をしながら可香谷提督は笑顔でそう答えた。それに合わせ、三人もまた敬礼を返す。

 

「ほら、曙も……彼女達は、お前にとっても縁の深い第七駆逐隊に所属していた艦の艦娘だ。お前ともきっと――」

「ふん……もう顔合わせは終わったでしょ? あたし朝練やってくる。枕崎さん、ご飯できたら呼びに来てよ」

 

 可香谷提督が言い終わる前に、曙はそっぽを向いてその場から立ち去ってしまう。止めようとする提督だったが、それより先に曙は扉を力強く閉めた。一体どうしたと言うのか。

 と、新しい艦娘の内、気弱な艦娘――潮が曙の後を追う様に走り出す。

 

「あっ、曙ちゃん!」

「お、おい潮!? ……曙と言い、一体何だって言うんだ」

 

 可香谷提督を始めとした一同は、呆然とそれを見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

「曙ちゃん、待って下さい!」

 

 廊下をスタスタと足早に歩きながら、玄関に向かう曙を潮は追い掛ける。短い距離であるにも関わらず、彼女はゼーゼーと息を切らしていたが、それは虚弱体質と言うわけではない。

 

「えっと、お久しぶりです。曙ちゃ――」

「何しに来たのよ」

 

 潮の言葉を言わせまいと曙が足を止めて言い放つ。潮に背を向けたまま腕を組むその表情には、確かな拒絶の意思が込められていた。

 

「あ、あぅ……潮は、曙ちゃんに会いたくて……」

「あたしは、会いたくなかった。特にあんたとは」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 僅か2、3メートルしか無い二人の距離は、しかし見えない壁となり二人を隔てていた。

 一体、この二人に何があったと言うのか。

 

「ここに配属されるのは勝手だけど、あたしに関わらないで」

 

 そう言って曙は再び歩き出し、玄関口から外へと出ていく。潮はそれを、立ち尽くしながら見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 暗く深い海の底、そこに横たわる一つの影があった。先の戦いで負傷した深海棲艦、駆逐ロ級だ。

 傷を癒やしていたロ級は、眼をオレンジ色に妖しく光らせながら咆哮する。と、周囲の暗闇にポツポツと光る眼が、複数浮かび上がった。

 

 

 

 

 海岸沿いの演習場にて、曙は何時もの様に砲撃訓練を行っていた。演習中は常に不機嫌な曙だが、今日もそれは変わらない。

 その原因は、先程再開を果たした姉妹艦によるものだった。

 

 

 

 

『ここ、空いてる?』

『ふぇっ!? あ、はい。どうぞ……』

 

 二人の出会いは艦娘養成学校の食堂にて、そんな何気ないやり取りから始まった。食堂の端、艦娘達が各々グループを作って固まっている机から少し離れた、いかにも御一人様専用といった位置にある机でボッチ飯を決め込んでいた潮の向かいの椅子に、曙は断りを入れた上でゆっくりと座る。しばらく潮を無言で見つめる曙。視線に気付いた潮は、恐る恐る曙に対し口を開いた。

 

『あ、あのぅ……何か、私に御用でしょうか』

『あんた』

『は、はひっ!?』

『見た所、綾波型の艦娘よね? あたしもなのよ』

『は、はぁ』

『あたし、第七駆逐隊・曙の艦娘よ』

『え……そ、そうなんですか!? 私……潮は、第七駆逐隊の潮、です』

『やっぱり! あんたは駆逐艦潮の艦娘ね。あたし達、あの大戦では一緒に行動することも多かったし、仲良くなれると思うのよ。ね、あたし達友達にならない?』

『あっ……はい! 潮で良ければ、喜んで!』

 

 突然話しかけてきた相手が、自分の記憶にある艦の魂を宿す少女だと分かると、安心したのか潮も警戒心を解いて話し出す。船としての記憶から親近感の湧いた二人はすぐに意気投合し、やがては親友となっていった。

 以来、何をやるにも曙と潮は共に行動するようになった。

 

『ちょっと潮! あんたこのままじゃ、対空戦の試験落ちちゃうわよ』

『うぅ……やっぱり潮には無理なんです。曙ちゃん、潮に構わず課題をクリアして下さい』

『何言ってんの! 一緒にクリアするって約束したじゃない』

『で、でもこのままでは二人共落第です』

『いい? 潮。あんたは自分に自信が無いだけ。本当は凄い奴なのよ』

『そ、そんな事』

『そんな事ある! あんた偶に、物凄く正確に的を撃ち落とす時あるじゃない。あんたには秘められた力があるわ。だから頑張ろう?』

 

 気弱で自信が持てない潮にとって、曙は自分の手を引っ張ってくれる、夜の終わりを照らす明け方の太陽の様な少女だった。そんな彼女に潮も心を開き、少しずつ自分に自信が持てるようになっていった。

 

『やりました曙ちゃん! 潮、試験合格しました!』

『やるじゃない潮! ね、あたしの言った通りだったでしょ?』

『はい。潮がここまでこれたのも、曙ちゃんのおかげです。本当に、本当にありがとう』

 

 夕陽に照らされる養成学校の廊下にて曙と手を取り合い、潮は感謝を込めた心からの言葉を述べた。妖精たちも曙の頭上で抱き合いながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 この頃の二人は、本当に仲の良い艦娘だった。

 

 

 

 

「チッ」

 

 誰にでもなく舌打ちをする曙。今の彼女は、どういう訳か潮に対し激しい嫌悪の感情を抱いていた。その姿に、かつての仲の良かった二人の面影は何処にもない。

 

「演習場は、ストレス発散の場じゃあ無いんだぞ」

 

 感情任せの砲撃に対する後ろからの声。振り返れば可香谷提督がそこに居た。水面に立つ曙に対し、呆れつつも窘めるように言う。

 

「何よ、あたしの訓練に文句あるの?」

「また初日のように、演習場を半壊されても困るからな。結構高かったんだぞ、修理代」

「……まぁ、あれは正直やりすぎたと思う、わ」

「お、素直に謝れるじゃないか……潮とは、何かあったのか」

 

 ほんの少し空気が和らいだのを見計らい、可香谷提督は話題を潮との関係に切り替える。曙が彼女に対し何か複雑な感情を抱いていることは、提督から見ても明らかだ。曙や艦娘達の力になりたいと願う彼にとって、捨て置けないものだった。

 

「別に。アイツのことなんか」

「少なくとも、知っている仲なんだな」

「っ……! 何で構うの!? ウザいなあ!」

 

 カマをかける可香谷提督に対し苛立ちを顕にする曙。これでもまだ、会話が成立しているだけこれまでの提督達よりはマトモな関係を気付けてはいるのだが、まだまだ先が思いやられるばかりである。

 曙の肩に乗る曙妖精も、彼女の首後ろに隠れながら恐る恐るこちらをチラ見していた。と、鎮守府の方から枕崎の元気な声が聴こえてくる。

 

「朝御飯、出来たわよー!」

「……食事にしようか。美味しいものを食べて、気持ちをリフレッシュするといい」

 

 仕方無しに会話を諦めた可香谷提督は、曙を連れて皆が待つ鎮守府の食堂へと戻る事とするのだった。

 

 

 

 

 玄関口から真っすぐ伸びる廊下を進み、突き当りにある扉の先に鎮守府の食堂はあった。洋風の室内を大きな窓から射し込む朝日が、室内に早朝特有の落ち着いた空気を演出している。

 

 部屋の中央、赤い絨毯を下に敷いた長机を囲むように提督達は食卓についた。可香谷提督を中央として、左から曙、潮、向かい合う形で漣、朧が座り、最後に枕崎が座る事で一周回る形となっている。「いただきます」全員が食事に手を合わし、朝食の時間が始まった。

 

「う ま す ぎ る !!」

 

 突然、目玉焼きを一口食べた漣が立ち上がり叫んだ。余程美味しかったのか、気合の入ったシャウトだ。彼女の右肩、デフォルメされた漫画のようなピンクウサギの姿の謎生物が感動の涙を流す。その背中では、漣型の妖精が良い仕事してますねえと言わんばかりにうんうんと頷いていた。

 

「うるさい」

 

 大声に一瞬驚いた朧が、すかさず漣に強烈なチョップを頭にキメた。良いツッコミだ。漣の方も思わず「オスタップ*1!」と叫び、頭を抱える。当然の仕打ちであった。

 

「もう、漣ってば大袈裟ね。ただの目玉焼きよ?」

「なんとおっしゃるウサギさん! 目玉焼きを制する者は全てを制するんですゾ。この絶妙な塩胡椒の味加減、熟し方、思わずお城から手足が出たり車椅子で階段を駆け上がったりしたくなるっつうーーっ、感じっスよお〜〜!」

「だからうるさい」

「オスタップ!」

「ふふ、有り難う。そこまで言ってくれるなら、頑張った甲斐があったかな」

 

 漣の情熱的なコメントにご機嫌の枕崎。当の漣は二度目のチョップに頭を抱え涙目になっていた。その横で朧は黙々と目玉焼きの他、ソーセージとほうれん草をバランスよく上品に食べていく。口には出さないものの、やや口元を綻ばせながら食べ続ける表情を見るに、やはり彼女も美味しいと感じているのだろう。

 

 そんな漣の様子を、彼女の妖精がウサギ妖精と共に呆れた表情で眺めている。対して朧の妖精は、デフォルメされた蟹の様な生物と共に食器やカップを触ったりして忙しなく動いていた。主人と違い、非常に好奇心旺盛な様子だ。

 見兼ねた朧が朧妖精と蟹妖精を纏めて摘み上げ、自身の膝に座らせる。2体の妖精はむうとしながらも、素直にそれに従った。

 

「ははは、漣は賑やかな奴だな。でも、食事中はもう少し静かに食べないと駄目だぞ。朧を見てみろ、行儀が良いだろう?」

「有り難うございます、提督」

「むぅ……ゴメンナサイ」

「まったく……ほら。そんなに美味しかったのなら、朧の目玉焼き半分あげる」

「マ ヂ デ!? 最高ッスよぼーろちゃん! 一万年と二千年前から愛してオスタップ!?」

「誰がぼーろちゃんよ」

 

 朧から三度のツッコミチョップを喰らい悶絶する漣。正反対の二人だが、大真面目ではあるが何だかんだ言って面倒見が良い朧と、ふざけはするが謝罪は出来たりと根は真面目な漣とは案外良い仲間になりそうだな、そう思う可香谷提督だった。

 一方で――。

 

「…………」

「…………」

 

 あうあうしている潮の隣で、曙は目を閉じながら黙々と箸を進めていた。決して枕崎の朝食を味わっている訳では無い。潮からの会話を受け付けない為の、意思表示だった。

 

「あ、あの。曙ちゃん」

「…………」

「ま、枕崎さんの朝御飯、とっても美味しいですよね」

「…………」

「う、潮も、目玉焼きあげます」

「…………」

「うぅ……」

 

 あの手この手で曙と会話しようとする潮だが、曙は彼女の存在を完全に視界から遠ざけている。それでも何とか話をしようとする潮も、やがて目に涙を浮かばせ始めた。

 

「なあ曙、お前達に何があったのか分からないが、流石に相槌くらい打つものだぞ」

 

 見兼ねた可香谷提督が助言するも、曙はそれも聴こうとせず頑なだった。

 

「曙、いい加減にしなよ。朝の空気が重くなってる。あんた、感じ悪いよ」

「あんたには関係無いでしょ」

「…………!」

 

 曙のその言葉に、流石の朧も頭にきたのか彼女を睨みつける。その非難の眼には、得も言われぬ凄みがあり、彼女の妖精2体でさえ抱き合いながら震え上がる。

 頑なに心を閉ざす曙も、思わずたじろいだ。

 

「う……わ、分かったわよ! ほら潮! 目玉焼きもらうから! これでいいんでしょ!?」

 

 渋々と潮からの目玉焼きを半分に切って自分の皿に移す曙。それを見た潮の表情は、パァァと一気に明るいものとなった。それを見て可香谷提督も安堵の表情を浮かべる。

 

「有り難うな、朧。曙、俺は出来ればお前の事も助けてやりたい。今すぐは難しいかもしれないが、気が向いたら俺にも思っていることを話してくれよ」

「提督さんに話し辛いなら、私もいつでも相談に乗るからね」

 

 可香谷提督と枕崎の言葉に、曙は下を向いて食事を再開する。特に噛み付いてくる事もなく、拒絶とも違う表情を見るに、取り敢えずは受け入れた様であった。お皿の横で、曙妖精が大袈裟な動きで何度も頭を下げていた。

 

 

 

 

 そんなこんなで、新たな仲間を迎えた鎮守府の朝は賑やかに過ぎて行った。その後漣が場の空気を戻そうと再びふざけ出し、朧からツッコミを貰うのはまた別の話である。

 

 

 

*1
ウォッシュダブ。海軍で使用されていた水桶で、主に甲板の掃除等に使われていた




ここまでぼのちゃんには間違いを犯させてもらっているけれど……通しで読んでみると、普通に嫌な奴になってるよね。
キャラクターの成長を描くには最初に間違った行動をさせよとは言うけれど、この辺の匙加減が本当に難しい。一応彼女、本作の主人公兼メインヒロインですぞ。

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