ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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《曙、潮、漣、朧。全員一か所に集まれ。曙は潮を、朧は漣を護衛しながら、敵の砲撃を警戒しつつだ。やれるか?》

 

「う、うん……」

「何とかやってみます」

 

 曙と朧がほぼ同時に返事をし、それぞれが僚艦を庇いながら中間地点を目指す。だが、それを敵が見逃すはずもなく、ホ級とニ級がそれぞれに砲を向けた。

 

《来るぞ! 曙はホ級を牽制しつつ、朧は回避に集中しながら合流しろ!》

 

「了解!」

 

 双方放たれる砲撃。曙は潮を庇いながらそれを避け、ホ級に反撃する。

砲撃はホ級に被弾、ホ級がよろめき微かな隙が出来た。「潮、ちょっと揺れるけど我慢して!」曙はその隙を逃さず、最大戦速で一気に合流地点へと進撃した。朧の方は、ニ級の正確な砲撃を避けるので精一杯で、中々前に進めない。

 

「チッ……!」

「朧、そこに居て! あたしの方から合流する!」

「ごめん、お願い!」

 

 曙がホ級を振り切り、一気に朧と漣の元へと向かう。やがて四人の艦娘は、一か所に集まる事が出来た。

 

《よし! よくやったぞ皆。潮、漣、大丈夫か?》

「漣はまだ中破、反撃は可能ですヨ!」

「潮、ちょっと頭がフラフラします……で、でも、平気です!」

《いや、潮はダメージ状況が酷い。防御に専念しろ》

「うぅ……ごめんなさい」

《いいんだ、轟沈してしまう方が問題だからな……総員、陣形変更! 【複縦陣】へと移行しろ!》

 

 提督の言葉を受け、四人は一斉に「了解!」と答える。そして、攻撃重視の単縦陣から回避能力が高い複縦陣へと陣形を変えた。そうしている間にも、ホ級が迫り、ニ級が新たに観察眼を動かそうとする。

 

《敵に体制を立て直させるな、総員、ニ級を集中砲撃!》

 

 提督の合図と共に、潮を省く三人がニ級に砲撃する。動きを読もうとしていたニ級は、突然の砲撃に対応出来ずに全て被弾。

 このニ級は、他の深海棲艦と協力して初めて正確な砲撃を分析、可能にする艦だったが

ホ級は遠方、僚艦の駆逐艦は全滅していた現状において、その戦術は意味を成さない。そのままニ級は、大爆発を起こした。

 

「残り一隻!」

 

 敵の撃沈を確認し、朧が歓声を上げる。残す敵は、軽巡ホ級一隻。僚艦を全て沈められたホ級が怨恨の叫びを上げ、スピードを上げながら向かってくる。今までの司令塔としての動きではなく、相手を沈める覚悟の動きだ。

 

《敵も最後の攻撃に移っている。皆、もう少しだ。油断するなよ!》

 

 提督の激励を聴き、三人がホ級に主砲を発射する。

しかしホ級は速度を全く落とさず、激しいカーブを駆使しながらそれらを全て避けていく。

 

「だーもう! 一発くらい当たってヨ!?」

「流石は敵の旗艦……でも、負けませんから!」

 

 徐々にこちらに接近してくるホ級が主砲を構える。狙いは、大破状態でボロボロの潮だ。本来のホ級ならば、何らかのフェイントを織り交ぜて潮を狙っただろう。だが、今のホ級には敵への強い闘争心しか無い。皮肉にも、先ほど曙を陥れた状態に、今度はホ級自身が陥っているのだ。

 そしてそれが、ホ級に決定的な隙を与えた。砲を構える瞬間――ほんの僅かにホ級の速度が落ちたのを、潮を庇い前へと進み出た曙は逃がさなかった。

 

「させるか!」

 

曙がホ級に主砲を発射。結果、ホ級に砲撃が命中。「今!」と朧がそれに続き、曙と漣と共に主砲を連射する。連続砲撃を受け、背後によろめくホ級。《皆今だ!》と通信端末から提督の声が聞こえ、それに答える様に三人は残った魚雷をセット。「行っけぇー!」と言う曙の叫びと共に、全ての魚雷をホ級に発射した。

 魚雷は、全弾命中し、ホ級は断末魔の叫びを上げ大爆発。その後に海底へと没していった。

 

 

 

 

《やったあ!》

 

 モニター越しに、漣の嬉しそうな声が聞こえる。勝利を確認した提督は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「一時は危なかったが、誰一人轟沈することなく勝利できた……皆よくがんばったな」

 

《えへっ! 言動はふざけてる漣デスが、ちょっと本気は、まぁ凄いでしょ? 初陣にしてほぼ逝きかけましたが、結果オーライって奴でぇ……》

《漣》

 

大破している潮と、それを支える曙に視線を向けながら、朧が漣を窘めた。

 

《あー……ゴメンナサイ》

《…………》

《ん?どしたの、ぼの》

《……何でもない》

《あ、あの……潮の事を気にしてるなら、大丈夫ですよ。皆、無事だったんですから……いいんです》

《敵の心理作戦が一枚上手だった、だから気にしない》

《ホ級に隙を作ったのもぼのなんだし、オーライオーラーイ》

 

 漣のフォローに、曙はバツが悪そうながらも納得した様だった。と……

 

《おーい! 助けてくれー!!》

《おっ?》

 

 声のする方角を見る一同。深海棲艦によって沈められた船の残骸の中から、若者たちが顔を出す。彼らは、船の破壊に巻き込まれ、結果的に追撃を受ける事なく無事生き延びていたのだ。

 その様子を見て、提督は彼らの身勝手に呆れながらも無事を安堵するのだった。

 

「……ゴホン。彼らを救出し、すぐに四人共帰って来るように」

《ホイサッサー》《了解。第七駆逐隊、これより帰還します》

 

画面の向こうの四人が帰路に就くのを見届けた後、提督も彼女たちを迎えるべく司令室を後にした。

 

 

 

 

 夕刻時。潮と漣の傷も【入渠】により癒え、全員が食事の席に集まっていた。

【入渠】と言うのは、艦娘の治癒に効果がある特殊な液体を入れた浴槽で入浴し怪我が酷い場合は、その後に数時間安静にする一連の動作の事である。主に【お風呂】や【お休み】または【修理】と称される。

 艦娘の体は人間のそれよりは頑丈にできており、全身に流血を伴うようなケガも入渠を行う事で数時間~半日程度で治る。特に、まだ錬度も低い駆逐艦娘である彼女達なら、よほどの重傷でも二、三時間あれば完治できるのだ。

 

「カレーktkr!ウマー」

 

 漣が夕食のカレーを一口食べて叫び、スプーンを何かの変身アイテムの様に片手で宙に掲げた。

 

「漣、やめなよ行儀悪い」

「あれ? 大根の方がよかった? ぼーろちゃんってばマニアックにるわにえっ!!?」

「やめなさい」

「……ふぁい」

「あー……まぁ、何だ。漣も言ったが、このカレー本当美味いな! 曙もそう思うだろ?」

「えっ!? ……う、うんそうね。美味しい」

「お、ちゃんと言えるようになったじゃないか」

「ふふっ、有難う」

「何はともあれ、皆今日はお疲れ様! 曙以外は初めての実戦だったが、よく頑張った」

「採点は百点デスね!」

「思いっきりやられてたじゃない」

「でも、何だかんだで勝利出来ました。ねっ、曙ちゃん」

「あ、あたしは……」

「敵の挑発に乗ったのは頂けないが、その後はしっかり潮を守っていたじゃないか。最後のホ級にカウンターを与えたのも、見事だったぞ?」

「…………」

「曙……」

「ごちそうさま」

 

 そう言って曙は席を立ち、食堂から出て行ってしまった。一同はそれをただ見送るしかできない。一度提督が後を追おうとするが、枕崎がそれを制止した。今の彼女には、一人で居る時間が必要だ。

 

 

 

 

 自室に戻った曙は、ベッドに倒れるようにうつ伏せになる。「何なのよもう……!」そう呟き顔を埋めた。

 曙は、激しい自己嫌悪に陥っていた。あれでけ忠告されていたのにロ級に固執してしまった事、そのせいで潮を危険に晒したこと、そして何より……そんな潮や仲間に『ごめんなさい』の一言すら言えなかった自分自身に対して。『……曙ちゃんは無事、ですね……よかった』潮の言葉が曙の脳裏に響き渡る。

 まただ、またやってしまった。それも今度は、自分にとって大切な相手に対して。何度も過ちを繰り返してしまう自身に、彼女は苛立ちを覚えていた。

 彼女が前へと進むためには、もう少し時間が必要だったのだ。

 

 

 

 

              次回予告

 

「お前には、航空母艦【翔鶴】【瑞鶴】らと共に、輸送船の護衛任務にあたってもらう」

 

      「あの子に二人の護衛をやらせる事が何を意味するのか、分かっているの?」

 

「まるであの時と、同じじゃない……」

 

                   「失敗したならまた挑戦すればいいんです」

 

「あたしが苦しんでる横で無傷でいる様な奴が、分かった様な事言うんじゃないわよっ!!    ……あっ」

 

               「どうして……こんな事になってしまったんでしょう」

 

 

 

 

 

 

                           

             次回【泥だらけの少女達】




世界観設定

【鎮守府】

横須賀に存在する大本営を中心として、各地に複数の鎮守府が存在する。
施設は大抵、現在使用されていない古い建物を再利用したものが使われることとなる。

建造や開発を行う所謂【工廠】は大本営にしか存在しせず、各提督が個人で艦娘を増やしたりは出来ない。
艦娘の配属や装備の入手は、大本営から一定の評価を得られなければならず、始めのうちは秘書艦との二人三脚で任務をこなして行く事となる。
着任間もない提督が入れてもらえる艦娘は駆逐艦か軽巡洋艦。
戦艦や航空母艦も不可能ではないが、血の滲む努力が必要だろう。

劇中で漣達が勝手にやって来たのは、当然違反。
彼女は本来初期艦であった立場を利用して、先に曙を代理として送り続けて自分が着任。
そのどさくさに紛れて潮と朧も連れてきたのだった。




人物紹介

【枕崎 美咲(まくらざき みさき)】

提督が来る前から鎮守府を管理していた少女。
見た目は大学生くらいで、黒く艶のある美しいロングヘア―が特徴的。
提督は彼女が、民間人から雇われたと思っていた様だが、本人曰くれっきとしたスタッフらしい。

基本、鎮守府での家事や買い出しは彼女が行ってくれる。
漣達を鎮守府から車で連れてきたのも彼女。

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