Gate/Grand Order   作:高木家三男

1 / 7
英霊召喚

2016/7/30

 

 深夜二時。

 既に日付は金曜日から土曜日へと変わっていた。

 七月終わりの湿気を帯びた室内の空気は冷房で十二分に冷やされている。

 グラスに注いだプレミアムモルツの残りを喉に流し込み、テーブルを折りたたんで端に寄せ、部屋の電気を消す。

 窓の外から三日月の光が差し込み、やがて目が慣れると部屋の中をきらきらと照らしだすのが見て取れた。

 カリカリとメタルラック上のPC、都合七台がハードディスクを鳴らし、WEB上から自動でデータを収集し、それらを元に計算された約束の時間がやってきたことを告げた。

 

 

 大きく息を吸い、そして今日のために覚えた言葉を思い出す。

 

 

素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 

 男は静かに口を開き、特殊な塗料で印刷された召喚陣の前に祈るようにひざまずき、その右手を広げる。

 

 

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

 

 

 冷たさに沈み、空気が薄く柔らかい膜になったかのよう。

 さらに息を吐き出して吸い、そして閉じられていたその両眼を見開く。

 

 

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

 元はただの創作で、自分のしていることはオカルトだ。

 このセリフだってただの暗謡に過ぎない。

 だが、ここまで準備をしたのなら、それは既に妄想という域を超えている。

 

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!

 

 

 そう言って男は、スマートフォンの画面を力強くタップした。

 

 

 ――10連召喚――

 

 

 機械的な合成音と共に召喚が開始され、グルグルと画面の中で光珠が回転し、線となってから弾けるとやがてカードとして結果が現れる。

 

 

 一枚目、コードキャスト 星4

 既に持っているが普段使わない限界突破は最大になっていない礼装。

 

 

 二枚目、カムランの戦い 星3

 初ゲットの星3礼装? イベント限定のじゃないな、最近実装されたものか――。

 

 

 三枚目、旅の始まり 星3

 これは、ハロウィンイベントから参加した自分にとっては当たりだ。さすが1周年記念ガチャ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うだけはある。

 

 

 四枚目、三本の光の輪。銀色の剣士の絵柄が稲妻と共に金色に変わる!

 

 アルトリア・ペンドラゴン(オルタ) 星4

 

 もう、持っているが宝具の威力は高いし悪くない。

 

 

 五枚目、時計回りの光球が金色に輝き、金色の暗殺者が現れた!

 

 謎のヒロインX 星5

 

 イベントの時に呼符で当たったから2枚目か。ジャックちゃんの方が使い勝手が良いから来るならあっちか、全体星5の酒呑ちゃんが良かったが悪くない。流れは来てる。

 

 

 六枚目、三本の光の輪が消えた後、金色の槍兵が現れる。

 これは、望んでいたものが来たか――?

 

 アルトリア・ペンドラゴン(槍オルタ) 星4

 

 ……玉藻が欲しかった。星5槍がいない我がカルデアの主戦力の2枚目が来てしまったか……。

 だが、Twitterのガチャ報告統計データから割り出した我がカルデアに最適な乱数テーブルはどうやら合っていたようだ。既に星の排出期待値なんてぶっちぎっている。

 

 

 七枚目、三本の光の輪。銀色の槍兵を見た瞬間、一瞬息をのむ。稲妻と共に槍兵が金色に変わる! 今度こそ――!

 

 アルトリア・ペンドラゴン(槍) 星5

 

 狙っていたピックアップではなかったが大当たりだ。ほとんど引かないストーリーガチャにしか来ない星5。さらに我がカルデア初の槍5。

 あとはもう、星3でイベント礼装が一枚でも良いくらいだ。しかし、こういう時に限って物欲センサーのおかげか良い引きが来るもの。

 

 

 八枚目、一条の光の線から赤いカードが現れる。

 

 足どりは軽やかに 星5

 

 イベント限定の星5礼装か、当たりだ。ここまで来たら目的のもう一枚が来て欲しい! チャンスは残り2枚……!

 

 

 九枚目、光球が炎のように燃えながら虹色に染まり回転、光の輪の収束と同時に金色の弓兵が現れる! 

 

 アルトリア・ペンドラゴン(弓)

 

 心地よい音と共にセパレートの水着に包まれた少女が身体をひねりこちらを向き、その上に英霊召喚の文字が踊る。

 答えは既に得た――。

 

 

 大きく息をはき、天井を仰ぐ。

 だから、画面の中の異常事態に気づくのが遅れてしまった。

 十枚目の召喚。その途中。画面から光が溢れだし、そして部屋を満たす。

 

 もしも雷に撃たれたらこんな感じなのだろうか?

 そんな益体もないことを考えながら、目の前に人の息遣いを感じ取る。

 光が収まった後、そこには、

 

 

「問おう。貴方が私のマスターか?」

 

 

 白と青を基調とし、金色の線が入った足元まですっぽりと覆い隠す優雅なドレス。

 ゲームの開始時からずっと相棒としてきたサーヴァントが、目の前にいた。

 

 

 

 

 

 奇しくも原作と似たような体勢になったな。

 溢れでた光に押され、思わずひっくり返り、尻を床につけた格好から眼前に立つ少女を見上げる。

 身を包んでいた光の粒は名残惜しそうにゆっくりと消えていき、やがて部屋に暗闇が戻る。

 そして長い沈黙に耐えかねたのか口を開こうとした彼女に先んじて言葉を告げる。

 

「とりあえず明かりをつけるから、ちょっとそのまま動かないでもらえるかな?」

 

 少女は何も言わずただこくりと一度うなずき、その場にたたずむ。

 

 電気をつけ、その姿がいよいよ明らかになると、思ったよりも彼女が小柄なことに男は気付いた。

 身長177cmの自分に対し、見下げる形になる。おそらく、150cm台半ばくらいしかない。

 一方でその貫禄というか雰囲気は、年の頃15,6の持つ少女のものとは大きく異なっていた。何か目に見えないオーラのようなものを発しているのが自然に感じ取れる。

 

「……英霊というこの身が珍しいのは分かるが、そろそろ質問に答えてもらいたい。あなたが私のマスターと考えて良いのだろうか?」

 

 すっきりと通った目鼻立ち。意思の強さを感じさせる神秘的な薄緑の瞳。細い眉を僅かにひそめて少女は問いを繰り返す。

 1Kの部屋は二人が立ったまま過ごすには少し手狭に思える。

 

「ああ、事情は良く分からないが、どうやらそのようだ。まずは情報交換、の前に立ったままじゃ落ち着かないな。そこのソファにかけてくれ」

 

「ええ、分かりました――」

 

 その言葉の直後、ペきりという音が部屋に響く。

 彼女が怪訝そうに足元から拾い上げたのは、召喚陣の書かれた紙の上に置かれていたはずの、画面にヒビの入ったスマートフォンだった……。

 

 

 

 

 

 ディスプレイを傷つけた原因、鉄でできた靴を脱ぐように告げ、スマートフォンの電源が入ることを確かめる。

 FGOはタスクキルされており、再度アプリを立ち上げるがサーバーエラーが表示され中身は確認できない。

 まあ、こんなイレギュラーが起きたなら何があったって不思議はないな。そんな風に考えて男はため息をつく。

 

 靴を部屋の端に寄せ、ソファに座ってどこかバツの悪そうにする少女。

 冷蔵庫から炭酸水を、洗い物籠の中からグラスを二つ取り出して注ごうとすると、男は自分の両の手のひらにうっすらと赤く光る模様が描かれているのに気付いた。

 試しに指で擦ってみるが特に痛みはなく、しかしほんのりと熱を帯びているのが分かる。

 

 それは間違いなく、令呪であった。

 

 何か特別な力がそこに込められていることと、少女と自分の間に目に見えない繋がりが確かに存在していることを自然と感じ取ることができた。

 特に問題がないのを確認し、少女に炭酸水を注いだグラスを渡してやる。

 

「僕の名は田中良大(たなかりょうた)。しがない日本のサラリーマンだ。最初に言っておくとなぜ君を呼び出せたのかは分からない。いや、一種の奇跡か何かのようなものだと思っている」

 

 そう言うと、田中は無味の炭酸水で口を湿らせてからさらに言葉を続けた。

 

「わからないことがほとんどだし、とりあえずこれから君と情報交換をするが、その前に大事なことを一つ。君の真名はアルトリア・ペンドラゴン。かつてブリテンに君臨した騎士王アーサーで間違いないのか?」

 

 田中の言葉に少女は少しだけ驚いた。

 アーサー王を召喚するつもりだったとしても、自分が女であることに驚かれるのが普通だと前回の聖杯戦争のことから分かっていたし、その上アルトリアという名前まで知っている。

 この上で、事情が良く分からないだなんていったいどういうつもりなのだろう。

 

「ええ、私はセイバーとして呼ばれたアーサー王で間違いありません。しかし、それはともかく何故私の真名まで知っているのでしょうか」

 

 セイバーは疑問を口にした。それに対し、田中は少し考えた後、リモコンを操作してテレビの電源をつけた。そしてハードディスクに撮りためてあったある番組の一覧を映し出す。

 

「まあ、そのことも含めて、見てもらったほうが早いかな?」

 

 

 

 

 

「……驚きました。とても、よく出来ている」

 

 45分あまりとなるF()a()t()e()/()Z()e()r()o()の1話が終わるとセイバーは若干興奮した様子でそう言った。

 ぐい、とグラスを傾け一気に中身を飲み干すと田中の方に向き直る。

 

「つまり、あなたはこう言いたいわけですか? 私に起きた出来事を知っている、と」

 

 田中は、切嗣が聖杯の破壊の命令以外にほとんど彼女と会話をしなかったと読んだことがあった。

 

「全てとは言わないけれどね。今の話は召喚の前の部分だったから知らないことも多かっただろうし」

 

 田中の言葉にセイバーは頷いた。

 確かに言峰神父と遠坂時臣の同盟やバーサーカーのマスターの詳細などについては彼女自身詳しいことは知らないし、切嗣もまた今の話ほどに詳細な事情を知り得ていたわけではなかったからだ。

 

 しかし――

 

「なるほど、確かにかなり特異な状況のようですね。しかし、気になることがある」

 

 端正な顔を曇らせたセイバーは、戸惑うように口にする。

 

「私と切嗣は聖杯を得られなかったどころか、最後まで残ることすら出来なかった。()()3()()()()()()()()()()。それなのに、なぜ私達の陣営が中心として話が展開しているように見えたのでしょう?」

 

 そんな思いもよらない事実が明かされたのだった――。




なお、主人公は微課金の模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。