開門/誓約/開幕
2016/8/13
「ここがリョウタの勤め先ですか」
ビルに囲まれた街。東京メトロ日比谷線東銀座駅近くの通りを田中とセイバーは歩いていた。目的の建物の前で立ち止まり、揃って上を見上げる。アスファルトに照り返された熱とこの国の夏独特の湿気により、二人はうっすらと汗を肌ににじませていた。
「ああ、明後日から仕事が始まったらしばらくは本社勤務になる。たぶん今月いっぱいはそうなるかな?」
土曜の銀座はスーツ姿のビジネスマンよりもむしろ私服の一般人で賑わっている。
例に漏れず、二人もまた夏らしく動きやすい服装をしていた。
田中は白のスキニーを履き、ボーダーTシャツの上に紺のシャツ。そしてスポーティで大きめのバックパックを背負っている。
セイバーは黒いレザーのショートパンツにTシャツの上に白と青のラッシュガードと小さなウェストバッグだけの身軽な格好。
「リョウタが仕事の間は先程の図書館で待っていれば良いのですよね」
召喚から二週間が過ぎ、二人はおよそ今できる備えに関してはほとんどのことを済ませていた。
セイバーが外に出てもおかしくない服装、スポーツ用品店で怪しまれないようグローブとボールと一緒に買った持ち運びできる武器としての金属バット、専門の通販ショップで探したスーツの下に着られる防弾チョッキと帰宅前にスマホで自室の様子を確認するための自宅用防犯カメラ、訓練用の竹刀と木刀は自宅から離れたコンビニで受け取りを指定したし、食料の備蓄もばっちりである。
中でも田中の運転免許証を元に偽造したアルトリア名義の原付免許は、学生証などを作る機械を購入し、改造して作った傑作だ。
身分確認のすべてが国の管理する情報と見比べてきちんとされているわけではない。
セイバーは受肉していたとしても英霊であることと聖剣の加護の影響で医療機関の世話になる可能性は低いし、税務処理などが必要になったとしても田中名義の口座ですべてのやり取りを終えていることから問題が起こる可能性は低い。
現代社会では戸籍は必須。しかし、田中のように身代わりになる家主がいて、住居と金銭が保証されれば問題が起きるような場面は極端に減る。
役所で情報を突き合わせて確認しないかぎり偽物だとバレることはないだろう。そして、わざわざそんな機会が訪れるような真似はしない。
本来なら海外に行ってどこか制度的に甘さの残る国で戸籍を買い取り、国際結婚として処理するのが一番確実だが、時間的な制約と、さすがにパスポートの偽造はリスクが高すぎるので却下した。
準備の段になり、エクスカリバーがないという事実は思ったより重くのしかかった。現代の武器は神秘を纏っていない上に耐久性に難がある。その上、一般人では手に入れることも難しい。
ナイフなども買ってみたが英霊相手には役に立たないだろう。もしものとき、レンタカーで都内を脱出し、山か何かに逃げ込んだ時のサバイバル用にしか使えない。
武器として一番役立ちそうなのは海外のサイトで見つけた軍用のスコップだったが届くのにはもう少し時間がかかりそうだった。
色々考えた結果、今セイバーは風王結界で隠されたカーボンスチール製の警棒を腰に下げている。人に接触しても刃物と違って傷付けることはないし、攻撃力も魔力放出を使用する前提なので問題ない。
それでも不足があれば、最悪その辺の細い鉄柱を魔力放出を使った蹴りで叩き折って武器として使うだろう。
「ああ。アルトリアの時間つぶしと調べ物にも都合が良いし。出向先が決まったら、また図書館か近くの大学かネットカフェあたりを探そう」
田中の仕事はSEだったが、海外からヘッドハンティングされた上司の意向でほぼ一人で動く、問題の起こった職場に派遣される火消し役のようなことをしていた。
実は昨年の秋はFGOのサーバー回りの増強にも関わっており、携帯のソシャゲはしていなかった田中がFGOを始めたのもそれがきっかけだ(その甲斐もあって、セイバーを召喚するまでFGOはイベントを含めて非常に軽快な反応を見せていた)。
田中が一つの職場に留まることはあまりなく、長くても半年、平均して2,3ヶ月程度のことがほとんどだ。
最初の2週間から一ヶ月ほどはほとんど職場に泊まり込みくらいの勢いで仕事をし、その後は事態の推移の確認、引き継ぎや問題再発を防ぐための対策などを、のんびり定時退社でこなすのが通例だった。
上司も色々と便宜を図ってくれ、案件の規模によっては経費でビジネスホテルに泊まれるようにしてくれたり、一つの仕事が終わったら忙しい時期の代休や有給も取りやすかった。
セイバー召喚から2週間ほどの休みが取れたのも、そんな事情からだ。
「井戸の掘り方、作物の実りを豊かにする方法、火薬や帆船の知識、人材の活用方法。この時代には学ぶべきことが星の数ほどもある。時間が与えられるでのあれば、望むところです」
現代で過ごす内、あるいは田中と過ごすことでセイバーの態度は次第に柔らかいものとなり、空き時間には様々なことを勉強するようになっていた。
やり直しを求めるのは個人の問題で、王が云々とかあんまり関係ないよなあ、というのが田中の考えである。
「……金銭的な問題なら私が解決できることがわかったのですから、仕事を止めてしまってもよいのですよ?」
セイバーはキメ顔でそう言った。
貯金はあるが、出て行く金ばかりが増えていくのは問題だ。それが例え聖杯戦争やグランドオーダーのためであっても。
今は一時的に支出の方が多くなってはいるが、セイバーのおかげで今月か来月中にはプラスに転じるだろうことは安心材料の一つだ。
田中が考えついたセイバーの出来る金策。それは競馬だった。元々原作ではA+の幸運を持ち、さらに賭け事に強い設定と騎乗のスキルもある。
セイバーと相談後、馬券の買い方などを調べ、指定の金融機関の口座を持っていたのであとはJRAのサイトで会員登録をするだけだった。そして先週の土日、インターネットの動画配信でパドックを確認した上で都合20回、2万円分ほど馬券を買ったところ12回的中し、8万円ほどが返ってきていた。
今の時期は地方競馬なので直接見に行くことは出来ないが、馬を肉眼で確認したり、この先慣れたとすれば勝率8割も夢ではないとはセイバーの言葉である。
「職歴に穴が開くときついからねえ。まあ、今ならどんな国でも言葉が通じるから選択肢は広がったけど、この力がずっとあるのかどうかも分からないし。安全な期間が半年とか1年あるって保証されてるなら、貯金もあるしフリーランスとか自営業に挑戦してもいいんだけど」
結局のところ、問題は情報がないことだった。
色々と調べてみたが、聖杯戦争やカルデアや時計塔、神秘の面影はいまだ見つからない。
もし自分の置かれている状態の詳細が確認でき、必要であると判断すれば仕事を放り投げるという選択も田中は取っただろう。
仮に彼が冬木の聖杯戦争に巻き込まれたのであれば遠坂凛のように日常を続けたりはしない。一般人と魔術師では条件も違うが、それよりも性格の違いが大きい。
田中なら離脱の選択を取ってもおそらくは話の都合上必ず失敗する衛宮士郎とは異なり、自らを攻撃できないように令呪を使い、空港までサーヴァントに護衛させ、さらにサーヴァントを冬木へ送ることで残りの令呪を使い切ってから国外に脱出するだろう。
今回、そもそも離脱の選択をしていないのは、令呪の使い方がわからないのと、最悪グランドオーダーで世界中すべてが滅ぶ可能性が否定できないからだ。
東京一帯とか日本全土が滅びるくらいなら、平気で田中は自分の命を取る。
しかし、世界そのものが滅びるのであれば話は別だ。本格的な戦いになった場合、マスターの権利を譲れるなら譲るだろうが、現状ではセイバーを従えていたほうが安全性も高い。
そんなわけで出来る範囲で準備や情報収集を続けているわけだ。
今のところ、調べた中で唯一気になるのは昨年の6月から突然理由なく人が失踪する、通称神隠し事件が断続的に起きていることくらいなものである。
しかし、これについても失踪前に銀座周辺にいたということ以外被害者の共通点はなく、人数自体が月に1人程度と少なくサーヴァントの魂喰いと考えることは難しかった。
最初の被害者が数年前に退官した元陸自の将官だった以外は、有名人も含まれていない。学生やフリーター、サラリーマンといった普通の人々である。
本当に聖杯戦争関連で見つからない、話題にならないようにするなら、場所はばらけさせるし、不法滞在の外国人や素行不良の若者、徘徊老人や暴力団関係者を狙ったほうが合理的だからだ。
もちろん雨生龍之介のような殺人鬼とか、神秘の隠匿を考えない人間が犯人の可能性はあるが、それなら事件発生から一年以上も経っているのだし、もう聖杯戦争が始まっていて、田中自身も何かの事件に巻き込まれていてもおかしくはない。
情報は足りないが選択肢は無数にある。いずれにせよ、今の状況が長く続けばセイバーがもたらす金銭も多くなる。そうなれば究極的には命に直結する安全性を取るのが田中にとっては妥当に思えた。
年内いっぱいくらいで仕事が片付いたタイミングで退職し、東京を離れて地方都市に引っ越して一軒家でも借りた方が時間的にも訓練のための空間的にも余裕ができるのではないかと最近では考えることも多くなった。
「そろそろ落ち着いてくるだろうし、会場に行こうか」
元々今日は、田中の大学時代の後輩がコミケで本を出すのを見に行く予定だった。
世界は色々と変化していたが、一方で仕事や友人関係などは召喚前と変わっていないあたり、どうにも異世界に来たという感じはしない。
まるで、都合の悪い部分だけが誰かの都合で書き換えられたかのような気さえしてくる。
「三日で五十万人が訪れる催事など、私の知る時代からすれば考えられません。まあ、これも社会勉強ということ、で……?」
そして、運命の時は訪れる。
午前11時50分
空気が一瞬、ぐにゃりと高熱の炉で溶かされた鉄のように変容するのをセイバーは感じた。
波上に広がった魔力が自身の霊核を通り抜けていき、足元がおぼつかなくなるような、不快な感覚。
突然のそれに思わずたたらを踏み、田中が慌てて彼女の華奢な身体を支える。
一体どうしたんだ、そう聞こうとする田中に背を向けた視線の先は南西の方角。
「リョウタは、感じなかったのですか。あの不快な魔力を……!」
その言葉と同時、荷物を満載した10トントラックがブレーキを効かせずにガラス張りのビルに突っ込んだような爆音。
直後に人々の悲鳴がビルの壁面に反響して折り重なる。
そして、銀座六丁目の方角から、十個の黒い影が空中へと踊り出した。
――竜だ。
誰もが口を広げて言葉を失う中、そんなつぶやきが現実感を失ったかのように奇妙に響いた。
青みがかった灰色の鱗が、雲に遮られていない8月の日差しを浴びて鈍く輝く。
爬虫類めいた、ぬめりを感じさせる首筋。揺れる尾の先端には毒々しい棘が見て取れ、手の代わりの鉤爪が付いた翼が広げられると、それを含めた全長は大型のシャチを包み込むほどであった。
ゆったりとした羽ばたきでその巨大な重量は物理法則を無視されながら安々と持ち上げられ、空中を我が物顔で滑空する。
その背にまたがる皮鎧を身にまとった騎士が構えるランスは、人が持つものとしての重量を完全に無視されているとしか思えない。穂先から鍔までで3メートルはある。
その上、この世界で中世に使われた馬上用のものとはまったく違う。太さから見てその重量は100kgを軽く超えているだろう。だというのに作りは粗雑とは正反対だ。その槍の刀身は、まるで現代の科学の粋を持って作られた新幹線の表面のように滑らかだ。
鍛造技術も現世のものを遥かに超えている上に、神秘的な輝きは未知の素材で出来ていることを思わせる。
竜の嘶き(いななき)が響くと、ビルの窓ガラスが割れる。
粘ついた血液のような赤黒い瞳は、その牙と鉤爪の生贄を狂ったように求めてぐるぐるとせわしなくあたりを睨みつけ、騎手が手綱をひくことで辛うじて抑えられていた。
本物の幻想種である竜を知るものから見れば、それは程度の低い魔獣、ワイバーンに過ぎなかっただろう。
しかしそのいきものは、この科学が遍くヒトを守護する時代においては、間違いなく力あることが明白な神秘であった。
「この魔力の蠢きは、一つや二つではない! 数百、いやそれ以上!?」
十騎のワイバーンは、一定の距離を保ったまま南西の空で旋回を始めて輪を作る。
明らかに訓練・統制された動きである。
その真下では断続的に轟音と悲鳴が響き渡り、ついには火の手が上がったらしいことが黒煙のたなびきによって確認された。
即座にセイバーは魔力で編んだ鎧を身に纏った。
足元に力を込め、地面を蹴ろうとした瞬間、彼女の腕を田中が掴む。
一体何を。
思わず出そうになる言葉をすんでのところで飲み込む。
お前はそれでいいのか、そう問われている気がした。
田中は合理主義者だ。しかし、切嗣と似て非なる形の。
彼が今、何を問うているのかがわかった。
この国の民を救うのは、私の役目ではない――。
それは王としての責務。ブリテンでなく、日本のために私が戦うのは本来望むところから外れる。
騎士としての私であれば、今ここで戦うことを選んでもおかしくはない。
しかし、彼はそんな近視眼的な発想で物事を考えるな、と言っているのだ。
もちろん、彼自身、自分の命を優先するという意図は少なからずあるだろう。
だが、この二週間ほどの付き合いで、彼がそれだけで動く人間ではないことを私は知っている。
全力を出すには、僅かにも迷わぬために意志や感情を無視してはならない。
もちろんすべてが上手くいくなどという道理はない。
しかし一度そのときに考えられる可能性を省みて、その中から選んだのであれば、後で悔いを残すことはほんの少しだが少なくなるだろう。
そういった意味での全力を尽くせという言葉は、私にとっても受け取りやすいものだった。
もし、今この瞬間に聖杯戦争が開始されたとしたら。
離れたとしてもパスは問題なく繋がっている。
戦闘をすることは問題ないだろう。
しかし、私がワイバーンや魔力の源を打ち倒したところで、彼が襲われたのであればその死は逃れ得ないものとなる。
彼を建物の中に避難させることも、多少の時間がかかってもある程度の距離に置いてから戦ったとしても、その、他のマスターやサーヴァントに狙われるという可能性は否定できない。
どうしようもなく、弱い。戦闘能力から言えばただの一般人。
魔術師どころか、訓練された兵士の二人もいれば決して逃がすことはなく、確実に殺傷することができる。
それが私のマスターだ。
私が聖杯を真に求めるのであれば、今、彼の側を離れてはならない。
影が私達を覆った。
「っ……!」
一瞬の判断で彼を突き飛ばす。
それと同時、竜騎士のランスによる突撃が私の腹部に直撃する。
時間にして、一秒に満たない僅かな間。
その穂先は鎧ごと私を圧し、足元から摩擦力を奪い取って身体を低く持ち上げた。
そして次の瞬間、その突撃は衝撃に変わり、私は空中に投げ出される。
天地が逆転する。
身体は重力に従って自由落下という名の、不自由を強いられる。
ほんの一度の瞬きの間、私はパスを辿り、彼がどこにいるのかを感じ取る。
彼に視線を向ける。
私に突き飛ばされたあと、ようやく――といってもまだ五秒ほども経ってはいないが――起き上がろうとする姿を確認する。
彼の向こう側、大通りから豚鬼(オーク)や子鬼(ゴブリン)といった亜人が溢れ出してくる。
その中の一匹が、身体を丸めて地面を転がり、彼に突進してくるのが見える。
このままいけば、私が地面に着く前に彼の身体は吹き飛ばされ、その衝撃で間違いなく絶命するだろう。
だというのに、私の頭はあまりにもクリアだった。
一瞬が、何倍にも引き伸ばされる。
思い出すのは彼と出会ってからのこと。
この二週間。私たちはたくさんの話をした。
今私達が置かれている状況のこと、些細な日々の生活のこと、私にとってあり得たかもしれない未来、私の歩んできた私の過去と彼の知る私のこと。
少しずつ時間に余裕が出来て、私は自分のことをすっかり彼に知られていることを理解した。
気恥ずかしさもあるが、悪い気持ちはしない。
そして、暇を持て余せば話の矛先が私が聖杯にかける願いに向くこともまた、必然だった。
あなたは言った。
やり直しを求めることは決して恥じるべきことではないと。
生まれる以前に竜の因子を与えられた私は、王となるべき定めを負っていたのだとあなたは言った。
そして、神秘が消える定めであるのであれば、あの時代、国が滅びるのもまた定められた運命であったと。
私は尋ねた。
この身はその未熟さ故に誤ることもあっただろうが、間違いなく全力を持ってあの時を駆け抜けた。
それでも国は滅びた。私で不足であれば納得もできよう。他のものに託すことにも迷いはない。
しかし、私であっても、それ以外でも、国が滅びることが決まっていたのであればその生に意味はなかったのではないのかと。
あなたは言った。
滅びゆくものは美しい。しかしそれに対する悪あがきもまた人の美しさである。
滅びゆく定めのものが、その命をほんの僅かでもながらえたのであれば、間違いなく意味はあったのだと。
私は尋ねた。
では、定められた滅びを知ってなお、やり直したいなどという想いを捨てられぬことは、愚かであろうかと。
あなたは言った。
それは何よりも気高い願いである、と。
あなたは言った。
定められた滅びを知り、それでもなお、あがき続けるのであれば。
それは世界そのものに対する挑戦だと。
自らのためでなく、他者のためにそれに挑み続ける者がいるのであれば。
それは、誰がどう戯言を重ねようと、最高の王であることは明らかだと。
約束された勝利の剣(エクスカリバー)とは、人の手ではなく、星に鍛えられた神造兵装。
人々の「こうあって欲しい」という願いの具現。
――なぜ君が、それを託されたのか、少しだけ分かった気がする。
そう、あなたは微笑んだ。
私の願いは千年もの時(聖杯問答)を経て否定され、
千年もの時(あなたとの出会い)を経て赦された。
もう、迷いはない。
答えは得たのだ。
――誓いは此処に。
これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。
引き伸ばされた時間の中で、器械体操じみた動きでセイバーは体勢を強引に変える。
両足を上空に斜めに伸ばし上げ、頭は大地で待つ男の方を向く。
腰の獲物を握ると、息を吸い込む。
轟!
雄叫びを上げながら息を吐き出すと同時、ほんの一刹那の後、魔力が爆発した。
空中で存在しない足場。落ちていくだけの身体。
それを知ったことかと足の裏からの魔力放出で弾丸さながらに弾き出す。
ぷぎぃ、と情けない声を上げて倒れ伏す豚鬼(オーク)。
弾着の衝撃音と同時に振り上げられていたセイバーの腕は既に地面を向いている。
ただの一太刀でマスターを害そうとする敵の命を刈り取ったのだ。
聖杯は得る。そのために彼と今離れるという選択肢はない。
だが、ここで人々を見捨てるという選択肢もない。
何故ならば、私の思う理想の王がこんな状況で弱者を見捨てるという選択肢を持たないからだ。
私が私であるために、今必要なのはただ一つの言葉。
「リョウタ、あなたは必ず私が守ります。だから、一緒に戦ってほしい」
向き直った先にある彼の顔は、ようやく素直になったかという、どこかやれやれといった風な、しかし優しさを感じさせるものだった。
熱。
炎の中に焚べられた熱さではなく、肉のさらに内側から湧き上がる、どこか気だるさを伴った、快感すら感じさせる熱を感じた。
それによって身体が一度どろどろに溶かされ、そして作り直された新しい容器を持って自分という存在が生み直されたかのよう。
セイバーに向かって倒れ込み、抱きかかえられる中。
男は機械のようで無感情でありながら、しかしどこか幼い子どものような声を聞いた。
LEVEL UP!
マスターレベル 0→1
25/18/10(AP上限/コスト上限/フレンド上限)
汎用マスター技能を開示!
『万能言語』
神秘を必要としないあらゆる言語の解読と会話が可能。記述はサインのみ可能だが、習得にボーナスがつく。サーヴァントにも生前の教育水準に基いて最大で同レベルが与えられる。
汎用マスター技能を取得!
『ステータス閲覧』
聖杯戦争方式のランクに加え、英霊の基準に満たない能力も大まかに数値での評価が可能。他者にも効果があるが、魔術を使える場合は気づかれる上に隠蔽やカウンターの対象となるので注意が必要。
個人技能を開示!
『沈着冷静LV3』
目に見える脅威があったとしても自身の肉体的損傷を伴わない限り、精神と判断力を平静に保つ(テロなどに巻き込まれても自分が怪我しなければ冷静を保つことが出来る)。
絆技能を開示! セイバー絆LV0→1
『瞬間強化(令呪使用)』
令呪を1画使用。サーヴァントの能力を一つ指定して一つの行動を終えるまで強化する。
絆技能を開示! セイバー絆LV1→2
『騎士の誓い』
マスターへの攻撃を代わりに受けるとき、間に合うようにサーヴァントの敏捷値をワンランク上昇させる。純粋な技能で攻撃を受け止めたりスキルの対魔力の発動などは起こるが、無条件のダメージ軽減は行われない。
心配そうに己の顔を覗き込むセイバーに、大丈夫だと頷いて答え、そして男は口を開く。
「――戦おう」
ただ一言だけの簡潔な言葉。
それを皮切りに、今はまだたった二人のグランドオーダーが幕を上げた。
用語解説
汎用マスター技能 資質を抜きにしてマスターとなったものに必ず与えられるスキル。
例:ステータス閲覧、フレンド契約
個人の資質が噛み合っていたとしても成長することはほとんどない。とある理由から既に最高レベルのものを与えられているからである。特殊な事情により初期取得状態で制限がかかっていたとき、それが解除された場合などが数少ない例外である。
個人技能 個人の資質や訓練に基づいて与えられるスキル。
例:騎乗・交渉術・料理・射撃
才能によって上限値は大きく異なる。多くの場合、訓練と実践で人並み(柔道の黒帯、自動車運転を危なげなくこなすレベルの騎乗程度)までは成長する。
剣術など直接的な戦闘系技能は得たとしても人間という枠の中にある限り英霊で補正のあるサーヴァントに及ばない。具体的には、のび太が適切な訓練を数年単位で受け、数多くの経験を得たとして射撃Cに届くか届かないか。
サポート技能や非戦闘系のものであれば天賦の才と偉大な指導者の存在、十分な実践などを経て人の身で英霊を上回ることもありえる。
絆技能 サーヴァントとのコミュでより深い相互理解を得られた時、魂の結びつきが強固になる。
それが一定値に達して絆レベルが上がったときにそのサーヴァントの特性に影響され得られるスキル。FGOの絆礼装システムがバランス調整で強化されて形を変えたもの。
通常取得不能な少数の技能が強くなっていく場合もあれば、幅広い一般的な技能を訓練無しでとりあえず使えるようになる、という場合のどちらもありえる。サーヴァント次第。