彼方(かなた)、それが僕の名前。
高校に通いながらバイト尽くしの毎日を送っている。
毎日毎日同じ事の繰り返しは、僕の生活から、変化という色を奪っていく。
バイトの帰り道、僕は少しでも変化を見つけようと街を見渡す。
いつの間にか、本屋の隣にあったカフェがなくなっている。
これも一つの変化である。
終電を過ぎた後の街は、どこか静かだった。
人も眠りにつく頃、僕は少し遠回りして夜の公園を歩いた。
秋に吹く少し冷たい風は、僕の疲れきった心と体を癒してくれた。
いつもの道を歩いていると、ベンチの隣の草むらに女の人が倒れていた。
慌てて声を掛けた。
僕と同じくらいの年のようだ。
「大丈夫ですか?」
「…ええ、親切に…ありがとうございます…」
彼女はか細い声でそう答えた。
その格好はまるで、この街を何日もさまよっていたかのようだった。
服は汚れ、靴を履いていなかった。
僕はとっさに
「よかったら家に来ませんか?ここは冷えますし」
「…え?」
当然の反応である。
突然同じくらいの年の男に家に来ないかと言われれば、困惑して当然である。
「ふふっ…連れていって貰えますか?あなたのお家に…」
僕の色が失われた生活に…大きな変化が訪れる_______
僕は都会のマンションに一人で暮らしている。
僕は田舎を飛び出して都会に来た。
別に親が気にくわなくなったとかではなく、ただあそこにいるのが嫌だった、ただそれだけ。
あの女の子はというと、僕のリビングを不思議そうな目で眺めている。
「どうしたの?そんなに僕の部屋が珍しく見える?」
「いえ…落ち着いていい雰囲気の部屋だなぁと思って」
誉められた。
部屋のレイアウトを誉められるのは中々にいい気分だ。
「都会の人はオシャレだなぁ…」
「君はこの近辺の人じゃないの?」
「それが…分からないんです。自分がどこから来たのか、何をしにこの街に来たのか…」
これは予想外な返答だ。
どうやらただの家出少女ではないらしい。
記憶喪失という事だろうか。
「自分の名前は覚えてる?」
「それは覚えてます…紀美子と言います。」
「そういえば名前言ってなかったね…僕は彼方、よろしくね。」
僕達は軽い握手を交わした。
彼女の手はとても冷たかった。
「うちのお風呂、使いなよ」
「え、」
「あっいや変な意味じゃなくてあんな公園にいたら体も冷えきってるだろうと思って」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
よくよく考えてみれば、僕は自分の家に女の子を上げた事がない。
女の子ともろくに付き合った事もない。
なのに何故彼女だけは何ともなかったのか、自分でもよくわからない。
「あのー…」お風呂場から彼女が呼んでいる。
「ん?どうしたのって…!」
しまった、バスタオルを渡すのを忘れていた。
僕は慌ててバスタオルをタンスから取りだし差し出した。
「ありがとう…」彼女はそういって浴室に戻っていった。
「さっきはごめんね、これ昨日の残りなんだけど…よかったら食べて」
「いいの?じゃあ…いただきます!」
彼女は嬉しそうに作っていたハヤシライスを口にはこんだ。
「どう…かな?」
「おいしい!こんなにおいしいのは初めて!」
大満足のようだ、次々と無くなってゆく。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。あっそうだ寝る時僕のベッド使ってよ」
「悪いよそんな…君はどうするの?」
「僕はソファーでいいよ、慣れてるからね」
じゃあ…といって彼女は僕の部屋のベッドに腰掛けた。
「おやすみ。ゆっくり休んでね」
「うんありがとう、おやすみ」
僕は明日の予定を確認してから、ソファーで少し厚めの毛布をかぶって眠りについた___
初投稿です。まだハーメルンの使い方も録に分かってません…この話は寝ている時の夢で思い付きました。乙女(大嘘)のインスピレーションです。これからスローペースで投稿するつもりなので、温かく見守ってくれれば幸いです。