「おはようございまーす…」
ファミリーレストランの制服に着替え、出勤予定時間より15分前にやってきた。
「おう!おはよう彼方!」
挨拶を返してきたのは厨房の担当をしている一人、橋本さんだった。
「どうした?元気ないな。何かあったのか?」
「僕はこれで普通ですよ…」
普段でもはっちゃけているわけでもないし、どこにいても周りからは暗い人間だと思われてしまう。
まぁ自分は気にもしていないのでどうということはない。
「接客業なのに?」
何気無い会話で痛い所を突く橋本さん。
「うっ…接客でも暗い人なんていくらでもいますし…」
「まぁそれもそうか。おっ、お客さん来てるぞー」
スタッフ専用エリアから入口を見るとお客さんが並んでいる。
「案内してきます」
それからしばらくすると夜の営業は忙しくなっていった。
家族連れや、外国人観光客などで店は賑わっていた。
そして閉店の作業を終え、挨拶をしてバイト先をあとにした。
駅から家へ歩いて帰る途中、僕はどうしても周りを見渡してしまう癖がある。
街を見て何か変わった所を見つけるのが僕の密かな楽しみでもあった。
しかし、そう簡単に変わるという物でもない。
帰り道で変化を一つでも見つけようと歩いていたら、あっという間に家に着いてしまった。
一息ついて鍵を開け中に入った。
「お帰りなさい、彼方くん!」
帰るまでの最後の最後で、変化を見つけた。
それは彼女の、紀美子ちゃんの存在である。
前までは僕を出迎えてくれる人などいなかった。
「ただいま紀美子ちゃん。もう御飯は食べた?」
そう聞くと紀美子ちゃんは何やらモジモジし始めた。
「…どうかしたの?」
「彼方くん…あのね、お願いがあるんだけど…いいかな?」
お願い?そんなにかしこまってお願いとは何だろうか。
「いいよ。まぁ出来る範囲でだけどね…」
出来るならお願いは何であっても叶えてあげようと思う。
そう思う理由は分からないが、何だか放っておけないのだ。
「その…彼方くんの作った料理が食べたい…何て言ったらわがままかな…」
作って欲しい、という事はその作った人の料理が美味しいという事。
どちらかというと料理を作る方が好きな立場としてはこれ以上に喜ばしいことはない。
「分かった、作ってあげるよ。そんなに凝った料理は出来ないけど…」
「ありがとう!彼方くん」
紀美子ちゃんの笑顔を見ていると何だか疲れが溶け出していくようだ。
こんな可愛い女の子と暮らしているなんて言ったら、学校のヤツらも度肝を抜くことだろう。
時間的には少し遅いが晩御飯を食べた。
御飯を食べている時の紀美子ちゃんの顔は幸せに満ち溢れている。
「可愛いなぁ…」
「えっ」
あ、口を滑らせてしまった。
気持ち悪いと思われてしまっただろうか…恐る恐る紀美子ちゃんの顔を見る。
目が合った。
「彼方くん…私今の言葉…嬉しかったよ。」
紀美子ちゃんは頬を赤らめながらそう言った。
僕は思わぬ言葉にきょとんとしてしまった。
「ご馳走さま。じゃあ…私もう寝るね!お風呂沸いてるからバイトおわりだし入ったらいいと思うよ。じゃ…じゃあおやすみなさい!」
凄い勢いで部屋へ入って行ってしまった。
何だかこっちまで恥ずかしくなってくる。
今後は口を滑らせてしまわないように気をつけなくてはいけないと思った___