「きみちゃんのお母さん…どうしてここに?」
「あなたに聞きたい事があって探しに来たのよ。でもこんなところじゃなんだし、さっき歩いてるときにカフェを見つけたからそこで話しましょう」
きみちゃんのお母さんは微笑みながらそう言った。
僕たちはカフェに入り、テーブル席で向かい合って座った。
「好きなもの頼んでいいわよ」
きみちゃんのお母さんは僕にメニューを渡してそう言った。
「じゃあ、コーヒーで…」
コーヒーの中でもシンプルかつ低価格の物を選んだ。
きみちゃんのお母さんの顔はとても穏やかなのだが、顔を見ると緊張して縮こまってしまう。
「あら、コーヒーを飲むなんて彼方くんも随分大人になったのね」
そう言ってきみちゃんのお母さんはコーヒーとカフェモカを注文した。
「あのお母さん、今日はどのような用件で…?」
僕は緊張を隠せないまま話しかける。
「お母さんだなんてなんだか恥ずかしいよ。おばさんでいいよ」
僕はさっき運ばれてきたコーヒーを飲んで一息ついてから再度尋ねる。
「じゃあおばさん、今日は僕に何の用ですか?」
「…そうね。そろそろ本題に入らなくちゃ…」
そう言っておばさんは真剣な顔になって
「彼方くん、あの子の事は覚えているかしら?」
やはりきみちゃんが関係しているようだ。
僕はますます緊張した、コーヒーの味が分からなくなる程に。
「えぇ覚えています、忘れるはずがありません」
2年前のあの日、きみちゃんを抱えて病院に駆け込んだ時のことははっきり覚えている。
僕が田舎を出ていく前日に、病室のベッドで目を瞑っているきみちゃんの顔を見に行ったことも。
「きみちゃんになにかあったんですか…?」
僕は恐る恐る問う。
「きみちゃんか、懐かしい呼び方ね…」
おばさんは少しだけ笑った。
「あの子は、目を覚ましたわ」
「ほんとですか…?」
僕はその言葉を聞いた瞬間涙を流した。
きみちゃんが目を覚ました。
意識を取り戻したのだ。
しかし、おばさんの顔には明るみが無い。
「目を覚ましたのはよかったのだけれど…」
おばさんは俯きながら
「目を覚ました次の日病院から連絡が入ってね、娘さんが病院内どこを探しても見当たりません。と言われたのよ」
「行方不明、ってことですか…?」
「病室には書き置きも何も無くて、目を覚ました日に持っていった新しい洋服などが全部無くなっていたわ。誰かが誘拐したんじゃないかって思うともう落ち着かなくて…」
おばさんは目に涙を浮かべる。
「でももしかしたら彼方くんに会いに行ったんじゃないかって思って探してたの。知らない…?」
「僕もきみちゃんとは会ってません。すみません…」
「もう2ヶ月以上経っているの、どうしたらいいのか分からないわ…」
おばさんはついに、その場で泣き崩れてしまった。
「どこにいるのよ…紀美子ぉ…」
「え、おばさん今なんて…」
僕はその名前に聞き覚えがある。
それは秋の寒い日の公園で出会った少女の名前。
僕の生活に彩りを与えてくれている少女の名前。
そして僕の好きな人の名前。
「おばさん、僕急用が出来たのでこれで失礼します」
「今日は本当にありがとうございました」
おばさんの応対も確認せずカフェを出る。
人混みの中、僕は振り返る。
紀美子ちゃんと出会ったあの日を。
それは今から約2ヶ月前のことだ。
僕は何故今まで気づけないでいたのだろう。
家に招き入れられたのも、どこか一緒にいて落ち着くのも、気のせいではなかった。
昔からずっときみちゃんと呼んでいたので名前をきみだと思い込んでしまっていた。
僕はきみちゃんと等に会っていた。
家の鍵を走りながらバッグから取りだし、慌てぎみにドアを開ける。
「紀美子ちゃん!紀美子ちゃん!?」
今まで出したことがないであろう大声が玄関から響き渡る。
「どうしたの彼方くん!そんなに慌てて…」
僕の声に驚き紀美子ちゃんが走ってきた。
僕はとっさに紀美子ちゃんに抱きついた。
「本当にどうしちゃったの彼方くん…」
紀美子ちゃんも動揺している。
普段の自分なら考えられない行動だからだ。
ここで僕はもう一歩踏み出す。
「紀美子ちゃん…」
「ん?」
「これからも、紀美子ちゃんと一緒にいていいかな…」
紀美子ちゃんが僕の手を取り
「私はもうそのつもりだったよ?」
「彼方くんは料理も出来て優しいし、一緒にいて楽しくて落ち着く。あの時声をかけてくれたのが彼方くんで本当によかったよ」
「それで私思ったんだ」
「記憶が無くなる前の私も、彼方くんに会ってたら、その…」
顔を見ると紀美子ちゃんは頬が赤くなっていた。
「好き、になってたんだろうなぁって…」
僕たちはしばらくそのままでいた。
そして落ち着いた後どうして慌てて帰って来たのか、僕が記憶が無くなる前の紀美子ちゃんと幼なじみだったことも話した。
きみちゃんはそれを聞いてさっきの発言をかなり恥ずかしく思ったようだった。
後日都会まで探しに来ていたきみちゃんのお母さんにも報告し、会ったら記憶が戻るのではないかと思ったが、記憶は戻らなかった。
おばさんはそこで初めてきみちゃんが今記憶を失っていることを知りショックを受けていた。
そこで僕は一つ提案する。
「おばさん、畳み掛けるようで申し訳ないんですがこれからもきみちゃんと一緒に住ませてもらえませんか?近いうちにそちらにも帰りますから」
おばさんは驚いていたがしばらく唸った後に
「今の紀美子にはその方が気が楽かも知れないわね…」
「じゃあ、頼んだよ」
これでおばさんから笑顔で了承を得ることが出来た。
これで帰る場所は判明し、後は記憶を思い出すのみとなった。
おばさんが乗る新幹線を見送りに行き、僕達は家に帰る。
寒いので手を繋いで暖める。
「今日は晩御飯なににしようかなぁ」
「あ、私蕎麦がいい!」
「そうかもう年明けが近いのか、丁度いいね。じゃあ蕎麦にしよう」
「やったー!じゃあ一緒に作ろ!」
今のきみちゃんの帰る場所は田舎の家ではなく
僕達の住んでいる家だ_____
明けましておめでとうございます。
年末に出せなくてすみません…これでこのシリーズは終了です。一年以上で8話というかなりのスローペースでしたが、なんとか終えることが出来ました。
これからも新しいオリジナル作品を投稿していきますのでよろしくお願い致します。