眼が隠しカメラになった   作:名前を叫んで技を放つ

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一話:こんな日常

 

「っ……はぁ……」

「グルルルル」

 

 状況は絶望的だ。

既に持ってきた道具は底を尽き、息も上がっている。

残された体力の少なさと目の前の敵の状態を見れば、生還は絶望的だ。

 

 武器を構えながらじりじりと後退をしつつ、相手の動きを注意深く観察する。

既に何度も戦っている為、一つの動きで少しなら次にどんな行動に移すか理解出来た。

 

「くるかっ!」

「グォオオオオン!!」

 

 緊張の一瞬、汗が噴出し頬を伝い顎の先から流れ落ちた瞬間。

その一瞬の瞬間に敵が動いた。

 

 大きな巨体を存分に発揮した体当たり、それが相手の取った行動であった。

 

「ちっ!」

 

 相手の動きを見てすぐさま避ける事に専念出来たのは、積み重ねた経験のお蔭だろう。

武器を持ったまま、地面を転がり回避する。

戦っていた場所が小川であった為に体全体が濡れてしまったが、気にしている暇はない。

 

「っ……本当に厄介だよ!」

 

 回避した後、すぐに体制を整えると今度は前に転がった。

前に転がれば、先ほどまで居た場所に大きな腕が振り下ろされる。

油断していれば一撃で肉の塊になっていただろう。

 

 そうならなかった事にほっとしつつも攻撃に転じれず、唇を噛む。

このままではジリ貧だ。

そう思い攻勢に出るために武器を改めて握り、覚悟を決める。

既に時間もなくなり、このままではどちらにしろ終わってしまう。

 

「覚悟を決める……っ!」

 

 ダっと駆け出し、相手の懐へと入り込む。

入り込む際に敵が前足で攻撃をしてくるも、それは運がいいのか経験からくる反応か顔の横をスレスレで横切るだけで終わった。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 懐に入ってしまえば、後はこっちのもの。

相手は大型の竜であり、懐に入った小さな生物を振り払う術を持っていない。

ただただ大きな大剣を左に右にと大きく振り回し、相手の体を傷つける。

傷を付けるといっても相手は頑丈な鱗に覆われている生物。

 

 非力な人間の攻撃など小さなダメージにしかならない。

それを分かっていても勝つ為に生き残るために大剣を振り続ける。

小さな積み重ねを続けて相手を倒すしかないのだ。

 

「っ!」

「グォォォォォォオオオオオン!」

 

 調子も良く懐で切りつけていれば、突如竜が大きな咆哮を放つ。

その声はかなり大きなもので空気を伝い耳の鼓膜を震わす。

鼓膜が限界を超えそうになるのを感じて両手で耳を押さえに走る。

 

「っぁ!!」

 

 それが致命的な隙となった。

両手を耳に宛て、身を竦めていれば竜がその隙に少しだけ後退し、体を捻って尻尾を振り回す。

その光景を目の前にして、何とか避けようと無理矢理体を動かすも遅かった。

武器を構え、大剣を盾に受けようとした瞬間、胴体を尻尾で薙ぎ払われる。

 

 鎧を身に付け、大きな大剣を持っている体が小石のように宙に浮き上がり吹き飛ばされた。

軽く吹き飛ばされ、地面に落下し衝撃を押し殺せず、何度もバウンドし転がり、倒れる。

倒れ伏せながらも諦めず、痛む体を根性で押さえつけ、顔を上げた。

 

「あっ」

 

 諦めなければいつか報われる。

 諦めなければ、奇跡は起こる。

 

 そんな言葉があるが、それを起せるのは、その恩恵を受けれるのは一部の選ばれた人だけだ。

現実はそう簡単に奇跡なんか起きはしない。

顔を上げた瞬間に見えたのは、竜が放った大きな火球であった。

 

 勿論倒れ伏せてる状態で避けれるわけもなく、そのまま火球を受け体を燃やし尽くされ言葉も発せず終わった。

 

 

 

  【クエスト失敗】

 

 

 

「「あぁーーーー!!!」」

 

 画面にその文字が出た瞬間、二人は叫んだ。

 

「おいっ! 何勝手に死んでるんだ!」

「何で責められてるの!? 戦ってたの俺だけじゃん!」

 

 ゲーム機を置いて、二人は顔を合わせるとそのまま喧嘩を始める。

喧嘩を始めた一人は少年だ。

今年高校生になったばかりでまだまだ若い。

日本人らしく髪の毛は黒髪であり、天然パーマのせいで髪があちら此方に跳ねている。

顔はそこそこ整っているものの、何故か目を線のように閉じていた。

 

 この少年の名前は、時次 玲音(ときじ れお)

 

 先ほどまでゲーム機の中で竜と戦っていた少年であった。

 

「知るかっ! せっかく必要な鉱石をゲット出来たのに……」

 

 もう一人は少女だ。

玲音と同じ高校に通うものの背丈は百三十センチと小学低学年並しかない。

顔は人形のように整っており、白い肌と綺麗な長い金髪を備えている。

まさに美少女と言って風貌であるものの、今は人より長い犬歯を剥き出しにして怒っていて美貌が台無しだ。

 

 そんな彼女の名前は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 こう見えて信組の吸血鬼であり、悪名高い悪の魔法使いである。

 

 何とも奇妙な二人組みは、寮の一室で互いに罵りあい、取っ組み合う。

互いの頬を引っ張りあい、転がり、喧嘩を続けた。

 

「このクエスト行きたいって言ったのはえーちゃんだよね?!」

「はっ、今の私にアレを倒せるとでも? 未だに猪を倒したばかりだ」

「序盤じゃん!」

「慣れるのに時間がかかった」

 

 暫く続くであろうと思われた喧嘩は意外な終わりを迎える。

取っ組み合っていれば、どちらからかは分からないがお腹から音が聞こえた。

ぐぐーと鳴る腹の虫の音に二人は、互いに口を止めその音が収まるのを聞き続ける。

 

「……はぁ」

「……ふぅ」

 

 音が鳴り止めば、互いに脱力する。

玲音は仰向けのまま四肢の力を抜きぼーと見えているのか分からない細い目で天井を見つめる。

エヴァもまた力を抜くとそのまま玲音の胸元に頭を置いてだらんと脱力した。

 

「お腹すいた」

「そうだな。何か材料は残って……いないか」

「時間的にも食堂はやってないよね」

「……そんな時間か」

 

 空腹には勝てず、二人はお腹を膨らませようと算段を開始する。

最初に考えたのは自分達で作る事、しかし残念ながら冷蔵庫には何も入っていない。

その次に考えたのは外での食事だ。

二人が住んでいる所は男子高等部の学生寮であり、そこには安く食べれる食堂が存在している。

しかし、時計を見れば既に零時を回ったところでやってるわけがなかった。

 

「おかしいな。一時間ほどやって食堂で食事を取る筈がっ!」

「お前が色んなゲームを買ってくるのが悪い」

 

 二人はそのまま動かず、動けず、動く気せず。

ただただ闇雲に時間を食っていく。

 

「……コンビニ行って来る」

「それしかないか」

 

 十分ほどその場で寝ているも何度も催促するように音が鳴るお腹に負けた。

二人は起き上がるとコンビニに行くべく準備を始める。

準備と言っても普段着のままゲームを始めていたため、大したことはない。

財布を持って、エヴァが()()()()()()()()()()()()()を被るだけだ。

 

 エヴァがキャスケットを被れば、地面につきそうなほど長かった髪の毛がショートカットになる。

玲音達が住んでいる場所は男子寮であり、本来女性であるエヴァはここに居てはならない。

様々なことがあり、二人が同居することとなったのだが、今は割合する。

エヴァは名前を変え、エイブラハムと言う偽名を名乗りイギリスからの留学生として男子高に入っている……それだけだ。

 

「慣れんな」

「あー……ズボン?」

「ん、どうにもな」

 

 勿論スカートを履くわけも行かず、指定された男子制服を着込むとなる。

何時もスカートを履いているエヴァはズボンが気に入らないのか、少々眉を顰めた。

それでも穿かない訳にもいかず、結局はこの生活を続ける以上はしょうがないと諦める。

 

「時間が時間だけど、怒られないかな」

「お前の眼で誤魔化せばいいだろう」

「それもそうか」

 

 寮を出て、誰も居ない道を二人並んで歩く。

ここ『麻帆良』は初等部から大学部までのあらゆる学術機関が集まってできた都市である。

故に普通の街と違い、夜となれば出歩く人は皆無となっていた。

コンビニも一応やっているが、深夜のコンビニは先生用だ。

 

「遅いし、簡単な物でいいかな」

「何言ってるんだ。明日は休みだし、まだまだやるからな。しっかりとした物と夜食も買う」

「まじっすか」

「本気だ。作りたい武器があるからな。それにまだまだゲームは他にもあるだろう」

 

 夜遅くということで体に気を使うもエヴァの言葉に顔を引き攣らせる。

どうやら先ほどの件は未だに流れず、この後も続けるつもりだ。

そのことを知り、玲音は大きく溜息を付きながらも頷いた。

 

 エヴァとの付き合いは玲音が初等部からと意外に長い。

その為、エヴァの性格は嫌となるほど知っており、抵抗しても無駄だと知っている。

それ故に抵抗せず、楽しげに隣を歩くエヴァが見れるので良しとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っだ!」

「まだ……!」

「そ……た」

 

「何か騒がしいね」

「あー……面倒だ。玲音、眼を使え」

 

 誰も居ない筈の道を歩いていれば、少し遠くから人の声が聞こえてくる。

いや、人の声だけではない。

先ほどのゲームに現れたような異形の者の声や何かが壊れるような音も同時に聞こえた。

 

「侵入者?」

 

 この学園都市、麻帆良にはもう一つの顔がある。

ここは多くの生徒が集まる学園でありながらも『魔法使い』の拠点でもあるのだ。

昔から日本に存在してた陰陽師と外からやってきて拠点を作り上げた麻帆良の魔法使いは相性が悪い。

陰陽師は麻帆良の土地を奪還しようと麻帆良の魔法使いは防衛を行い、今のように深夜になれば争いは尽きなかった。

 

「だろうな。まぁ……あいつ等に任せておけばいいだろ」

 

 玲音は立ち止まって音の鳴るほうへと視線を飛ばす。

気になる玲音とは違いエヴァはまるで興味がなく、むしろ自分のお腹が大事だと服を引っ張った。

玲音は引っ張るエヴァと音の鳴る方向へと視線を何度か往復させるも、結局はコンビニへと急ぐ事にする。

 

 お腹が空いていて戦いなどに集中出来そうになかったのである。

 

 ふぅと一息ついてから、先ほどまで閉じていた目を薄く開けた。

瞼を上げれば、隙間から眼球が見える。

暫く、その状態を保つも次第に眼を開け完全に開眼すれば綺麗な青い眼球が姿を現した。

 

 玲音の眼球は、普通の物とは違う。

全てが青く輝く球体となっており、少々複雑な模様が描かれている。

その模様は次第に形を変え、輝きを増して目の前に魔方陣を作りだした。

 

「相変わらず綺麗だな」

「これ結構疲れるんだけど……」

 

 暫くその状態を保つも準備が済み玲音は目を閉じた。

目を閉じていも作用は続いている。

そのことを玲音自身感じられ、服を引っ張っていたエヴァの手を取り歩みを再開した。

 

「このっ!!」

『ガハハハ! 骨があるなー! 嬢ちゃん!』

「っ!!」

『ぎゃぁー!!』

『おい、一人やられたぞ! すないぱーや! どっかにおるぞ』

 

「カオスだ」

「ふん」

 

 歩いてコンビニへと続く道を行けば、途中で異様な光景を目にする。

玲音達の目先では、赤い肌の身長三メートルぐらいの筋肉隆々の鬼複数。

それに刀を振り回し、戦う女子生徒が一人と先生と思われる男性が一人戦っていた。

どうやら先ほどの戦場とは別のもので、こればかりは避けようがない。

 

 まるでゲームのような光景に玲音とエヴァは暫し足を止めて魅入った。

正確には魅入ってるのは玲音だけであり、エヴァはつまらなそうにしている。

先ほどはエヴァに従い無視する気でいたのだが、やはり気になるものは気になった。

先をせがむエヴァに玲音は、少しだけと……と断りを入れて立ち止まる。

 

「雷鳴剣!!」

「むっ」

 

 暫く眺めていれば、先ほどの刀を振り回していた少女の刀が光輝く。

刃はばちばちと音が鳴り眩いほどの雷を発し、それを少女は戸惑いもなく振り下ろす。

 

「ちっ」

「おわっ!」

 

 振り下ろした瞬間、刀に溜まっていた雷が放出し辺りの鬼を食い散らかすようにうねり動く。

その技は対象を辺りへと指定しているせいか、周りを適当に喰らい尽くす。

のんびりと見ていた玲音もこれには驚く。

放たれた技が意外にも近く、雷の一部が玲音達にも迫ったのだ。

 

「うひーっ!」

 

 向かい来る雷に対して反応をしたのはエヴァだ。

エヴァは前に躍り出ると何もない空間に向かって蹴りを放つ。

放たれた蹴りは綺麗な軌跡を描き、足からは白い冷気が溢れ出した。

 

 エヴァが蹴りを放った瞬間と雷が二人へと殺到したのはほぼ同時であった。

雷はそのまま二人を食らわんと襲い掛かる直前で壁に阻まれる。

 

絶対零度の盾(エスクードデルセロアブソルート)

 

 阻まれた壁は氷で出来ていた。

エヴァの蹴りをなぞるかのように出来た大きな氷の壁が雷を防ぎきったのだ。

 

「ふぅ……まったく、ぼーと見てるからだ。さっさと行くぞ」

「……はい、ごめんなさい」

 

 タンッと華麗に上げた足を戻し、エヴァは戦場に見向きもせず歩き去る。

立ち止まっていた玲音も今度は大人しく従いエヴァに続く。

先ほどの攻撃を玲音自身では防げなかった。

エヴァが居なければ自分の不注意で攻撃を食らっており、今度は文句もない。

 

「?」

『刹那、余所見は危ないぞ』

 

 二人が去った直後、先ほどの刀の少女は二人が居た場所へと視線を向けた。

そこには先ほどの雷を防いだ氷の壁と少し遠くに並んで歩く二人が居る。

 

「悪い、()()()()()()()

『まったく』

 

 しかし、少女は何事もなかったように無線で相棒に謝罪し鬼へと立ち向かう。

別に少女が疎いというわけでもない、これが玲音の眼の力。

『神々の義眼』による効力であり、それに支配された少女達の眼には氷の壁も二人の姿も映さない。

 

 こうして玲音とエヴァは、当たり前のように巻き込まれるイベントを『その眼』で見て転生させた神々を楽しませ続ける。

言い忘れていたが、この物語は転生時に神々の本当の姿を見てしまい神々の眼として選ばれた少年とその少年によって本来歩む筈だった道が歪んでしまった少女の日常物語だ。

 

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