「うむ、今日は有意義な買い物だったな!」
「ラウラ、あまりはしゃぐなよ」
トーナメントでひと騒動あった数日後、俺はラウラ、そして鈴に釣り具を買ってやる為に都内まで来ていた。どうやら兄貴分である俺がやっている事を一緒に体感したいんだとか。
「それにしても日本はスゴいな!部隊に居た頃も釣りは多少嗜んでいたが、釣り竿だけであんなに種類が有るとは思ってもなかった!」
「まぁ魚の数だけ釣りも有るからな。本当なら山田先生にも来て欲しかったけど仕事が忙しいらしいからな」
「ホント、山田先生と言いアンタ達、釣りが好きすぎるんじゃないの?」
「そう言いながら付いてくる所を見ると鈴も釣りがしたいんじゃないか?」
「むぅ⋯⋯⋯」
ラウラに図星を突かれたのか鈴は押し黙ってしまう。
「そりゃ、啓吾や一夏があそこまで楽しそうにしてるのを見るとアタシもやってみようかな〜って⋯⋯//」
「良いじゃないかラウラ。こうやって釣りの楽しさを理解してくれる人間がふえたんだかr⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ん、あれは?」
前に二人の女の子が歩いてくる。一人はのほほんさん だと分かった、しかしもう一人の子も俺には見覚えがあった。
「オーイ!のほほんさ〜ん!⋯⋯と、それに君は確か⋯⋯⋯⋯」
「あ⋯⋯⋯!」
「わ〜ケイケイだ〜、どうしたの〜?」
「ちょうど我々の釣り具を選んでもらってた所でな」
「あのときは⋯⋯⋯⋯⋯⋯どうも⋯⋯⋯」
「ん?お兄ちゃんの知り合いか?」
そう言えばラウラが来たのはクラス対抗戦での無人機襲撃事件の後だったな。
「ほら、話してやったろう。クラス対抗戦での事件、その時俺が助けてあげた子だよ⋯⋯⋯⋯えっと、君の名前は?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
あ、あれ?俺はこの子に何か悪い事をしただろうか?そう思っているとラウラが突っかかって来た。
「おい!お兄ちゃんが質問しているんだぞ。答えないか!」
「ヒッ⋯⋯⋯!」
「ちょ、ちょっとラウラ!アンタ言い方がキツいわよ!」
「あ、あ〜ゴメンね〜。カンちゃん、ちょっと人見知りが激しいから」
のほほんさん にカンちゃんと呼ばれた少女は涙目でそのまま俯いてしまう。
「それで、結局アンタの名前は何なのよ?」
「あ⋯⋯⋯その⋯⋯⋯更識⋯⋯⋯⋯⋯簪⋯⋯」
少女はぽつりと呟いた。
「簪か⋯⋯⋯⋯⋯⋯不思議だけど綺麗で良い名前だな⋯⋯」
「そんなこと⋯⋯⋯⋯ない⋯⋯⋯」
「そういえば二人は何しに来てたのだ?」
「私とカンちゃんは新作ゲームを買いに来たんだよね〜」
「ちょっと本音⋯⋯⋯⋯」
「新作ゲーム?」
少し興味を持った俺は二人に尋ねてみる。
「うん、カンちゃんはゲーマーなんだ」
「へぇ、新しいのじゃないけど俺も一応持ってるぞ、ゲーム」
「ほ、本当!?」
得意な分野の話を振られたからだろう、簪の目が輝く。
「お兄ちゃんがゲームを持ってたとは初耳だな」
「そうだな⋯⋯⋯⋯なぁ簪、もし良かったら貸してやろうか?」
「良いの?」
「あぁ、学園に帰ったら渡すよ」
〜本音&簪の部屋〜
「海のぬ○釣り⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ゲームを借り受けた簪は説明書を一通り流し読みしていた。
「聞いた事無い訳じゃないけど⋯⋯⋯やったことはないかな」
知らない人の為に説明しよう!『海のぬ○釣り』とは90年代を筆頭に大ヒットしたフィッシングゲーム、『ぬ○釣りシリーズ』の一作で、釣りにおけるリアル性で大ヒットした作品だぞ!
「とりあえずゲームスタート⋯⋯⋯⋯⋯⋯まずは何をーーー」
〜1時間後〜
「なんか『クサフグ』っていうのしか釣れない⋯⋯⋯そもそもゴカイとイソメの違いって⋯⋯⋯⋯」
〜2時間後〜
「チヌ?グレ?何が違うの⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」
〜3時間後〜
「クサフグ⋯⋯⋯⋯⋯⋯キタマクラ⋯⋯⋯⋯うぅ⋯⋯頭が⋯⋯」
「カンちゃんもう寝ようよ〜⋯⋯⋯」
結局簪が仕掛けの違いも分からずに悪戦苦闘していたら、夜が空けてしまった。
〜翌日〜
「それで、俺に釣りを教えて欲しいと」
「うん⋯⋯⋯もう針とか餌とか意味分かんない⋯⋯⋯⋯」
眠れなかったらしい。目の下に隈ができた簪がぼそりとつぶやいた。
「なら今日の夕方、皆で釣りに行くけど簪もどうだ?」
「え、良いの?」
「教えて欲しいと言ったのは簪じゃないか。良かったら埠頭前まで来てくれ。道具は此方で準備しとくからさ」
「分かった。でも私初めてだし⋯⋯⋯⋯上手く出来るか分からない⋯⋯」
「大丈夫、ちゃんとレクチャーするから。それじゃあまた!」
「あ、うん。また」
〜学園埠頭前〜
時間はあっという間に過ぎ、皆で釣りをする為に埠頭前まできていた。
「ねぇ啓吾、まだ始めないの?」
「そうだぞ、私も待ちくたびれてる!」
鈴とラウラは今か今かと釣りの開始を待ちわびている。
「そういえば啓吾、もう一人連れてくるって言ってたけど一体誰なんだ?」
「それはな一夏⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯お、来たぞ。おーい簪!」
「ご⋯⋯ゴメン⋯⋯遅くなった」
そう言って小走りで簪が駆け寄って来た。
「む⋯⋯⋯⋯⋯昨日のゲーマー女子か」
「なんだラウラ、知ってるのか?」
「昨日お兄ちゃんと竿を買いにいったらバッタリ出くわしたんだ」
「む⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
すると一体何があったのか、突然一夏を見るなり簪が不機嫌な顔になって黙りこくってしまう。
「か、簪?」
「何でも無い⋯⋯⋯」
何か悪い事をしたのだろうか。少し気まずくなる。
「そ、それで啓吾、今日は何を釣るの?」
「あぁ、ちょうど今シーズンだからな。『シロギス』を釣っていこうと思う」
〜シロギスのチョイ投げ釣り〜
「チョイ投げ釣り」は、本格的な投げ釣りとは一線を画す、ビギナーにオススメの釣り。何が釣れるかわからないワクワク感も、この釣りのおもしろさだ!
チョイ投げというのは、小さなオモリのついた仕掛けを軽く投げて、海底を探りながら釣る方法だ。堤防では近場に食い気満々の魚たちが潜んでいるので、ほんの20~30mほど仕掛けをチョイ投げするだけでも好釣果に結びつくことが多い。
この釣りでは仕掛けを軽く投げるだけでいいので、本格的な投げ釣り専用の竿は無用だ。お勧めなのは、長さ2m程度の軽量なルアーロッド。竿先が軟らかめのものを選ぶのがコツだ。また、コンパクトロッドと呼ばれる振り出し式の竿も良いぞ。
「簪、投げ方は分かるか?」
「ううん、初めてだから何も⋯⋯⋯」
「よし、まずリールのベイルを返して、両手で竿を握って頭上に構える。このときのタラシは⋯⋯⋯⋯⋯⋯そうだな、竿先からオモリまでの長さのことだ。20~30センチほどを目安に出すと良いだろう」
「こ、こう?」
「そうだ、それで良い。周囲の安全をよく確認したら、ゆっくり竿を前方に振り出し、オモリの重さを十分に感じた瞬間にラインを放す。仕掛けの着水後、海底に到達するまで待ってラインの放出が止まったらベイルを戻す。それだけだ」
「分かった⋯⋯⋯⋯⋯え、えい!」
簪の投げた仕掛けはあまり遠くまでは飛ばなかったモノの、正確にまっすぐの方向へ飛んでいった。
「初めてにしては上手じゃないか」
「そ、そうかな///」
投げ釣りでは仕掛けを投入した後、そのポイントでアタリを待つ釣り方(待ち釣り)もあるが、これだとちょっと効率が悪い。チョイ投げでは、仕掛けを手前に引き寄せながら釣るスタイルがオススメだ!
誘いの速度は、1mを5〜10秒ほどで引いてくるのが目安。アタリが頻繁にあるなら速め、魚の活性が渋そうなら遅めにサビくのが正解だ。
「わ、来た!来たよ!」
「落ち着いて、ゆっくりリールを巻いていくんだ」
「オ⋯⋯⋯重たい⋯⋯⋯⋯⋯それ!」
簪の釣り上げたソレは20cm位はあろうかという見事なシロギスだった。
「つ⋯⋯⋯釣れた?」
「ちゃんと釣れたぞ、見事な『肘たたき』サイズだ」
「本当に、本当に私が釣ったの?」
「あぁ、簪が釣ったキスだ。良くやったな」
説明しておくと20cm以上のキスはかなり暴れる。その肘を痛めてしまうほどの引きから『肘たたき』と呼ばれているぞ。
「ちょっとビックリしちゃった」
「大丈夫か?疲れたなら少し休憩しても良いんだぞ」
「ううん、大丈夫。まだ出来るから」
「そうか⋯⋯⋯⋯⋯分かった。これじゃぁまだ足りないからな」
「足りない?」
「今晩は皆で夕飯にキスを食べようと約束したからな。もっと釣らないと」
「それって⋯⋯⋯⋯⋯織斑一夏も来るの⋯⋯⋯?」
「あぁ、そりゃ一夏は俺の親友だし来る事になってるけど⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
彼女にとって一夏には並々ならぬ因縁が有るらしい。また不機嫌そうな顔になってしまう。
「⋯⋯⋯⋯⋯なぁ簪、どうしてそんなに一夏を毛嫌いしてるんだ?」
「別に毛嫌いしてるって訳じゃ⋯⋯⋯⋯」
「さっきだって一顔の顔を見るなり嫌そうな感じだったぞ。な、話してみてくれないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯実はーー」
話によると、彼女は日本の代表候補生なのだが、特異ケースである一夏の「白式」の開発が優先されたせいで自身の専用機が用意されておらず後回しになった事から、一夏に良い印象を持っていないらしい。
「言いたい事は分かった。でもそれは決して一夏のせいじゃないだろう」
「それは⋯⋯⋯⋯⋯そうだけど⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯まぁ今すぐ答えを出さなくて良いさ。まだまだ時間はあるんだ。ほら、釣りを続けよう」
「あ⋯⋯⋯⋯うん⋯⋯⋯」
結局暗くなるまで釣りをして、門限ぎりぎりで俺達は学園に帰って来た。
〜自室〜
「うむ、今日は私が一番大きいキスを釣ったな!」
「何言ってんのよ!私のが一番大きかったじゃない!」
「まぁ二人とも、せっかく皆そろって食事なんだから喧嘩しないの」
釣りから帰ってきた俺達はすぐさま箒達を呼んで晩餐会の準備をしていた。
「箒、準備するから手伝ってくれよ」
「それで一夏、結局何を作るんだ?」
「そりゃ、コレだけ良い型のキスがそろったんだ。天ぷらしか無いだろう」
〜原点にして頂点!シロギスの天ぷら〜
まずウロコ落としでしっかりと落としてから、胸ビレから腹ビレにかけて、斜めのラインで頭を切り落としてくれ。次に頭から尻ビレにかけて腹を切り、ハラワタを掻き出し、『松葉おろし』にしたら後は簡単。最後に分量の水で溶いた天ぷら粉をにサッとくぐらせ、180度の油で揚げたら完成だ!お好みで大葉を巻いてみても美味しいぞ!
「さてと、完成したぞ!」
「おぉ!嫁よ、これは美味そうだな!」
「ジャパニーズ天ぷら⋯⋯⋯初めて食しますわ!」
「実を言うとボクも天ぷらは初めてかな⋯⋯」
「美味しそう⋯⋯⋯」
食べる前からみんな口々に感想を述べていく。
「ほら皆、手を合わせて!いただきます!」
「「「「いただきま〜す!!」」」」
パクッ
「美味しい〜!」
「やっぱり釣りたては最高だな!」
「大葉を巻いたヤツも良いぞ!」
どうやら大好評らしい、皆が好評を言ってきた。それは簪も例外ではなかったらしい。
「ほ⋯⋯本当に美味しい⋯⋯!」
「そりゃそうだろう」
「え⋯⋯?」
「今日嫁は新しい友に失礼が無い様にと丹誠込めて作っていた。それがマズい訳がないだろう」
「そ、そうなの?」
「あぁ、一夏は今日新しい友人が出来るとずっと張り切ってたんだ」
「そう、なんだ⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯なぁ簪、決して一夏は悪いヤツじゃないんだ。それだけは分かってやってくれないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯啓吾」
何かを決意した様に簪は俺の方に向き直る。
「どうしたんだ?」
「私⋯⋯⋯⋯もうちょっと彼と話してみる。それに⋯⋯⋯⋯大人げなかったから」
「うん、それで良いと思うぞ。ほらここの連中は皆食いしん坊なんだから、速く取らないと自分の分が無くなっちゃうぞ!」
「食いしん坊だなんてひどいよお兄ちゃん!」
「そうですわ!撤回して下さいまし!」
「そう言っても箸の動きが止まってないのは何処のどなたかな?」
「「な!?///」」
「フフ⋯⋯アハハ⋯⋯!」
(ここに来て初めて笑った。この様子だともう大丈夫だろうな)
この晩餐は夜、消灯時間まで続いた。こうして俺達はまた一人の仲間を得たのだった。
「簪ちゃんが仲間に加わりました」
「キス・・・とっても美味しかった・・」
「次回から夏の合宿編に入るよ!狙うはあの磯の王者だ!」
「お楽しみに!」