「⋯⋯⋯⋯⋯私は⋯⋯何をやってるんだろうか⋯⋯」
篠ノ之箒は迷っている。
それは今までI S学園で奇妙な事件が有り、そのすべてを自分が慕う男『織斑一夏』とその友人の釣りバカ『金城啓吾』が解決してきた事だった。勿論彼女にとっても啓吾は素晴らしい友人と呼べる存在だが、自分が持ってない物を持つ彼の存在に、少しジェラシーを感じているのも否定出来なかった。
(啓吾が悪い訳じゃない⋯⋯⋯だけどもっと力があれば私にだってーー)
pipipipi!
箒がそう思った矢先、スマートフォンに一本の連絡が入る。
「いったい誰から⋯⋯⋯⋯⋯⋯もしもし」
「箒ちゃ〜ん!お姉ちゃんだy」ブチッ ツー、ツー
「はぁ⋯⋯⋯⋯⋯」
pipipippi!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯もしもし」
「も〜いきなり切るなんてひどいよ〜!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんの用ですか?」
箒に連絡を入れた相手、それはI Sの開発者にして箒の姉、そして『天災』と呼ばれる人物『篠ノ之束』だった。
「あれれ〜、箒ちゃんおこ?おこなの?」
「用事がないなら切らせてもらいます」
「ちょ、ちょっと待って〜!箒ちゃんにも悪くない話だからさ〜!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」
「そろそろ自分の専用機、欲しいんじゃないの〜?」
「な!?」
まるで自分の心を見透かしたかの様に放たれた言葉に箒は驚く。
「ふっふふ〜ん。やっぱり欲しいんでしょ〜」
「わ、私は別にーー!」
「良いよ〜!作ってあげるー!」
「え⋯⋯⋯⋯えぇ!?」
「あの子も来るんだろうし、今度の臨海学校の時に持って行ってあげるから!じゃね〜!」
「ちょ、ちょっと姉さーー!」
箒が何か言う前に束はそそくさと電話を切ってしまった。
「私の専用機⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯でも姉さんが言ってた『あの子』って⋯⋯⋯?」
篠ノ之箒15歳、彼女の疑問は深まるばかりである⋯⋯⋯⋯⋯。
*
「走り〜出したら〜何か答えが出るだろ〜なんて♪」
「俺もアテにはしてないさ〜、してないさ〜♪」
「ケイケイかっこい〜!」
「うむ、流石は私のお兄ちゃんだな!」
臨海学校当日、俺達1−1はバスに設置されたカラオケで大いに盛り上がっていた。
「でも聞いた事がないですわね。一体何の曲なんですの?」
「日本の古いドラマの曲だよ」
「あら、シャルロットさんはご存知なんですか?」
「お兄ちゃんに勧められてみたら結構面白くて、結局朝になるまでラウラとみてたんだ」
70年代も終わり頃、一斉を風靡した名作ドラマ『俺達は天○だ!』の主題歌と言えば皆分かるかな?
「ほら、次山田先生の番ですよ!」
「わ、私も歌うんですか?」
「勿論、山田先生もこのクラスの一員ですから!」
「金城くん⋯⋯⋯⋯分かりました。この不肖山田真耶、歌います!」
「イイゾー!」 「山田先生カッコいい!」
「貴方の愛が痛いの♪虐められているみたい♪」
(榊原○恵か⋯⋯⋯⋯⋯良い選曲だ山田先生)
(私にはさっぱり分からないぞ⋯⋯⋯)
そうこうしてる内にバスは目的地の民宿までたどり着いた。
「三日間、よろしくお願いいたします」
「「「よろしくおねがいしまーす!!」」」
今回お世話になる旅館に着いた俺達は出迎えに来てくれた従業員と女将に挨拶をし、各々の部屋に通された。
「あの⋯⋯⋯⋯織斑先生」
「どうした金城」
「ここって⋯⋯⋯⋯先生の部屋ですよね?」
「なんだ、女子と一緒に寝たいのか?まぁ金城は先日の事があるからな」
「先日?啓吾、何があったんだ?」
「い、いや!何でも無い!何でも無いんだ一夏!」
(クソ、この飲んだくれめ⋯⋯⋯⋯)
俺は恨めしそうにドヤ顔をしている千冬先生を睨みつけるも効果はなかったようだ。結局諦めて一夏と釣りの準備に入る。
「お前達、海には入らないのか?」
「何言ってんの、この為に釣り竿を持ってきたんじゃない。ね、山田先生」
「全くです!こっちは下調べも済ませて万全の体制で来てるんですから!」
「はぁ⋯⋯⋯⋯あまり遅くなるなよ。それで、魚は何だ?」
「そうですね、磯からだとイシダイ、メジナ、ゴマサバ、ホウボウ⋯⋯⋯」
(ほう、悪くないな⋯⋯⋯⋯)
「じゃ、俺達行ってきます!」
「気をつけて行ってこいよ」
〜磯場〜
俺達は現場についてから持ち物の再確認をしていた。
「ライフジャケットは?」
「オッケーだ!」
「メゴチばさみは持ってる?」
「持ちました!」
「よし、じゃあ始めていこうか!」
〜磯場のウキフカセ釣り〜
まず始めに磯にはどんな危険が待ち構えてるか分からない。必ずライフジャケットを着ていく様に心がけよう。
磯は生き物の宝庫、釣りをしていると様々な魚が出迎えてくれるだろう。磯釣りと言っても様々な種類がある。今回はその中でも比較的簡単な『ウキフカセ釣り』を紹介して行くぞ。
元々仕掛けにウキを使用せずに、エサやハリ、糸の重さだけで仕掛けを海中に漂わせて(フカセて)魚を誘う釣り方が「フカセ釣り」だったが、それにウキを組み合わせたのが『ウキフカセ釣り』だ。
「前に啓吾が黒鯛でフカセ釣りをしてたな」
「基本は自然に餌とコマセを同調させる。これで大丈夫だ」
「それじゃあやって行きましょうか」
基本的に細仕掛けで魚を狙うフカセ釣りでは、タックルのバランスが非常に重要になってくる。タックルバランスが取れていないと仕掛けを投入しにくく、魚を掛けたあとも取り込みに苦労したりバラシしたりするぞ。逆にバランスが取れているとアタリが出やすく、予想外の大物を取り込めたりすることもあるんだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯お!引っぱる引っぱる!」
「ファーストヒットは一夏か」
「ばらさない様に気をつけてくださいね」
「なんだか白黒だぞ⋯⋯⋯⋯⋯ひょっとしてイシダイじゃないか!?」
一夏が釣り上げた魚は確かに白と黒のストライプだった。
「ええとな⋯⋯⋯」
「織斑くんその魚はーー」
「その魚は『サンバソウ』よ」
山田先生の言葉は第三者によって遮られる。俺達が振り向くとそこに居たのは⋯⋯⋯
「ハロー、一夏くん、啓吾くん。久しぶりね」
「す、スーさん!」
「どうして此処に?」
そう、俺達が出会ったのは嘗てイサキ釣りで仲良くなった釣り友達のスーさんだった。
「今日は私も磯釣り中でね。それよりもその魚、イシダイである事には間違いないんだけど、若魚の内はサンバソウって呼ぶのよ」
「はえー、そうなんですか⋯⋯⋯」
ちなみに老成した雄の石鯛は『クチグロ』と呼ぶぞ。
「あのー⋯⋯⋯⋯三人の御関係は⋯⋯⋯?」
「あぁゴメン先生。この人は俺の釣り友達のスーさん」
「よろしくね♪それで彼女は?」
「この人は山田真耶先生、俺達のクラスの副担任で同じく釣り仲間だ」
「じゃあ私たちも今から釣り仲間ね。よろしく真耶!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
ここにまた釣りバカの名の下、心を通わせた仲間が出来た瞬間だった。
「ほら、再開しようぜ。今度も俺が釣るからな!」
「ハハハ⋯⋯⋯そう息巻くなよ」
〜数時間後〜
あの後、ベラやブダイなどのアタリはあったが大物が釣れる事が無く、そろそろ旅館に帰ろうかと言った頃。
「私は納竿するけど、アナタ達はまだいるの?」
「やっぱりキープがサンバソウだけは寂しいですからね、何か釣らないと」
「そうそう、そういうこt⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!?」
突如俺の竿に大きなアタリがある。
「来た!ブダイじゃない強い引きだ!」
「ちょ、一夏くん玉網!」
「は、はい!」
一夏が持ってきてくれた玉網に魚を入れる。釣れた魚はとてもひょうきんな顔つきをしていた。
「えっと⋯⋯⋯⋯カワハギ?」
「これって⋯⋯⋯⋯⋯『ウスバハギ』じゃない!」
「美味しいんですか?」
「シーズンではないけどとても上品で美味しい魚よ」
「流通してるカワハギの大半がコイツだからな」
俺が釣果に満足していると山田先生が話し掛けてくる。
「二人とも、そろそろ戻らないと⋯⋯⋯⋯」
「ああ、もうそんな時間か!じゃあスーさん、また釣りに行こうぜ!」
「えぇ、気をつけて帰るのよ」
納竿をして俺達はスーさんに別れをつげた。
(そういえば啓吾くん達、どこの学校なのかしら⋯⋯⋯?)
*
「ただいま〜」
「ただいま帰りました〜」
俺達が旅館に戻るともう良い時間なんだろう、生徒達が海から上がっていた。
「嫁よ!釣果はどうだった?」
「とりあえず食うに困らないくらい?」
「それは上々だな!」
「お兄ちゃんもお疲れさま。その魚はどうするの?」
「女将さんに許可は貰ってるからな。何か料理はしてもらうよ。ほら、ラウラもお風呂に入っといで」
「分かったぞ!遅れるなよシャルロット!」
「ああちょっとラウラ!待ってよー!」
「焦って転ぶんじゃないぞ〜」
さてと俺達も夕食まで一息つくか。
〜旅館大広間〜
「「「いただきま〜す!!」」」
夕食時、腐ってもI S学園なのだろう。豪華な料理がズラリと並んでいる。
「あ〜、おりむ〜とケイケイの料理だけなんだか豪華〜」
その通り、俺達の盆にはそれぞれ『サンバソウの塩焼き』と『ウスバハギの刺身』が乗っている。
「中々苦労したからな」
「その分労ってやらなきゃ」
「ほほう、ならば私が労ってやろう」
振り向くと料理を引ったくってご満悦であろう千冬先生の姿があった。
「フフッ、酒の肴ができた」
(不公平があってはダメだからな。これは私が責任を持って食べてやろう)
「おい飲んだくれ、思ってる事と言ってる事が逆になってるぞ」
俺達の説得むなしく強敵(とも)は飲んだくれの胃袋に運ばれていく。
「ハハハ、えらい女傑だな。お前さんの姉さんは」
「あ⋯⋯⋯⋯板長⋯⋯⋯⋯」
「ほれ、可哀想だから造ってやったぞ」
哀れに思ったのか板長が何かの刺身を持ってきた。
「なんの魚か分かるかな?」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯いただきます」」
俺達は同時に刺身を口に入れる。なるほどこれは⋯⋯⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「美味しい。美味しいけど今までに食べた事の無い味だな⋯⋯⋯⋯分からない」
「啓吾くんの方はどうだ?」
「これは⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯『オコゼ』ですか」
(ほう⋯⋯⋯⋯⋯⋯)
「オコゼ?」
「シャルロットさん、オコゼってどんな魚ですの?」
「たしかストーンフィッシュのことだよ」
「え⋯⋯⋯⋯たしか毒のある魚だったような⋯⋯」
セシリアの言う通りだ。確かにオコゼのヒレには猛毒があり、刺されると最悪死に至る。だが醜悪な見た目とは裏腹に甘みが強く上品でとても美味しい魚でもある。
「この
「それに?」
板長が目を細める。
「それにこの醤油、九州で造られてる甘口の醤油です。それが身の旨さをより引き立ててる」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯百点満点だな。ワシの説明する分がなくなってしまったよ」
合格らしい、板長の顔に笑みがこぼれる。
「良い舌をもってるな。ご褒美にお嬢さん方にも造ってやろう」
「やったー!」
「さすが啓吾さんですわ!」
お嬢達が一斉に喜ぶ。そりゃ高級魚だからな、食べないと損だ。
「ほほう、では私にも⋯⋯」
「アンタはハギの造りがあるだろう」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯(´ω`)」
ただ一人を除いてはね。
ともかくこの大宴会は皆満足する結果となった。ただ俺達は、この後待ち受ける大事件と新たな出会いを知る由もなかった。
「ウスバハギ食べたかった・・・」
「わたくしも食べたかったですわ」
「と、とにかくいよいよ箒に専用機が!そしてお兄ちゃんと篠ノ之博士の過去に一体何が!?」
「次回もお楽しみにねー!」