〜自室前〜
「あっち〜⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「まったくだな⋯⋯⋯⋯」
七月某日、夏休みを控えた俺達は1学期最後の土日を怠惰に過していた。海神の『冷房のかかった部屋にずっと居るとあまり健康によくない』という発言を受けてクーラーボックス片手に外に出たは良いが、結局自室前から歩いてない状況がそこにはある。
『全く、御主人も一夏さんもだらしないですよ!私を見てください。こんなに元気なのに』
「そりゃあ、お前は人工知能だからだろう⋯⋯⋯」
『ちなみに今日は最高気温32度、絶好の真夏日ですね!』
「これからもっと暑くなるのか⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯啓吾、もう一本アイス食べて良いか?」
「一日一本まで⋯⋯⋯⋯⋯って聞いてないか⋯⋯⋯」
と、そこへ⋯⋯⋯⋯⋯
「おーい嫁〜!お兄ちゃ〜ん!」
「こんにちは〜⋯⋯⋯」
麦わら帽子に半袖半ズボン、そして釣り竿を抱えたラウラと簪がやって来た。
「いや〜、日本の夏は暑いな!」
「そう言う割には元気そうじゃないかラウラ⋯⋯⋯⋯今日は珍しい組み合わせだな」
「その、 I Sの設計を手伝ってもらってたから⋯⋯」
「そっか⋯⋯⋯いま簪は自分のI Sを造ってるんだったな」
「簪は凄いんだぞ!私も思いつかなかったアイデアを次々と思いつくんだからな!」
「そうかそうか、ラウラもよく頑張ったんだな」
「えへへ////」
頭を撫でてやるとラウラは嬉しそうに顔を赤くする。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「うむ、この間一人で釣りに行ったら魚が跳ねてるのを見てな。山田先生に聞いてみたら『カマス』という魚らしいんだ。今日はそれを釣りに行こうと思うぞ!」
「カマス⋯⋯⋯⋯⋯この時期だと『ヤマトカマス』のことか」
「美味しいの⋯⋯⋯?」
「ちょっと水っぽいけど、美味しいぞ」
そう、ヤマトカマスは元来『ミズカマス』と呼ばれるほど水分が多い魚である。秋に旬を迎える『アカカマス』と比べると味が悪いと言われがちだが、干物にすると旨味が凝縮し、アカカマス以上の味とも言われているぞ。
「よし一夏、竿とメタルジグを持ってこい。俺達も釣りに行くぞ」
「やっぱり学園の中に籠りっぱなしは退屈だからな!じゃあ10分後に校門で!」
「うむ、早く来いよ!」
〜学園埠頭前〜
「今日は餌じゃないの?」
「うん、簪はメタルジグって知ってるか?」
「ゲームでちらっと見た事は⋯⋯⋯⋯⋯でも実際に動かした事はないかな⋯⋯⋯」
「大丈夫だよ、簡単だからやってみよう」
〜カマスのルアー釣り〜
カマスは基本的に潮通しの良い場所ならどこでも釣れる魚だ。アジ⋯サバなどが釣れる場所、漁港などでよく釣れる。歯が鋭く、獰猛な性格のカマスは小魚などのエサを追って泳ぎまわるぞ。
大きめのカマスが釣りたいならショアジギングタックル、シーバスタックルをおすすめする。ただ、小型のカマスが多い時期はブラックバス用のタックルや、トラウト用のタックル、メバルやアジ用のライトタックルが釣りやすいな。
「わ⋯⋯⋯!意外と簡単に釣れるんだね」
「基本はダダ巻きで大丈夫だからな」
「ルアーってもっと難しい物だと思ってた⋯⋯」
「まぁ魚種にもよるけどそこまで難しく考えなくても良いと思うぞ?」
ルアー釣りは敷居が高いと思われがちだが、知識があれば初心者でも簡単に始められる。それにカマスはとても貪欲な魚だ。タナの取り方も比較的アバウトで構わないから初心者向けとも言えるだろう。
「どうだ啓吾!30cmくらいはあるぞ!」
「中々良いサイズじゃないか」
『⋯⋯⋯?一夏さんが使ってるルアーはメタルジグではない様ですけど?』
「あぁ、これはスピンテールジグだな」
スピンテールジグ、金属のボディーとテールに付いたブレードで構成されているのが特徴で、テールについたブレードのフラッシング効果とブレードが起こす波動によって魚が寄ってくる仕組みだ。基本はシーバスフィッシングの定番ルアーだが、今回の様にカマスや黒鯛、根魚にも有効なルアーだぞ。
『なるほど⋯⋯⋯⋯一言で釣りといっても様々な手法が有る訳ですね』
「おお!海神にも分かるか!そう、釣りは良いぞ!とても奥が深いんだ!」
『ら、ラウラさん分かりました!分かりましたから引っ張らないで〜!』
(⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ 思えば初めて一夏と出会った日から沢山友達が出来たな⋯⋯⋯)
I S学園入学から早数ヶ月、この素晴らしい友人達との日々をこれからも過して行くと思うと、俺は不思議と笑みが溢れた。
「⋯⋯⋯⋯?啓吾、どうしたの⋯⋯?」
「なんでも無いよ、さあ続きをしようか」
〜自室前〜
カマス釣りを大いに楽しんだ俺達は学園の寮まで戻って来ていた。
「よしよし、今日も私の腕前が遺憾なく発揮されたな」
『しかし、今日のつりはラウラさんの釣果が一番少なかったですよ?』
「んなぁ!?////」
「あんまり言ってやるなよ海神、今日は皆楽しんだんだから良いじゃないか」
「そ、そうだぞ!言いっこ無しだ!」
「早く部屋に入ろうぜ。暑くて死にそうだよ」
確かに今日は暑い。一夏が部屋に入る様に促してくる。
「いいや、今日は外で食べるぞ」
「外⋯⋯⋯?外食するの?」
「そうじゃなくてだな⋯⋯⋯一夏、裏手にビール瓶の箱が有るから人数分取って来てくれ!そして俺は⋯⋯⋯⋯」
「啓吾、何をするんだ?」
「フフフ⋯⋯⋯⋯⋯今日はコレを使ってバーベキューだ!」
俺は部屋の隅からあるものを取り出す。
「それは⋯⋯⋯⋯七輪か!」
「シチリン⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんだそれは?」
この国に住んでいる人間なら誰もが知っているであろう、日本の心『七輪』、軽量かつコンパクトで移動が容易な調理用の炉である。形状は円筒形、四角形、長方形が主で、大きさも様々で、肉や野菜は勿論、魚や貝類などの魚介の調理も出来る優れものだ。
「今日は七輪でカマスを焼いていくぞ⋯⋯⋯!といっても野菜も少し欲しいな」
「じゃ、じゃあ俺、部屋に何か有るか見てくる!」
「わ、私も⋯⋯⋯⋯!」
〜数分後〜
「まさかのほほんさん がショウジンガニを持って来てくれるとはな」
「えへへ〜、昨日の内に『ひっこくり漁』に行ってきたんだ〜♪」
簪が戻ったときに、運良くのほほんさん がショウジンガニを穫っていたらしい。夕食の献立が一気に豪華になった。
*『ひっこくり漁』については、第8話を参照してください。
「コレだけ有れば十分だ!さて、始めていこうか!」
「「「おぉー!!」」」
やっぱり魚は直火焼き!ヤマトカマスの塩焼き〜
まずは何時もの様に、鱗を包丁背部分か、鱗取りで取り除く。鱗が取れたら水でさっと洗い流し、キッチンペーパー等で水気を拭き取る。次は頭が左にくるように置き、背から骨に沿って刃先を入れていき背開きにしてくれ。背開きにして、内蔵を取り除き、キッチンペーパーで血を拭き取ったら、両面に塩を振りかけ、冷蔵庫で一時間寝かせよう。馴染ませたら、最後に余分な水分を拭き取って七輪にかける!身に脂が浮き始めたら完成だ!
「美味しそ〜!」
「よ、嫁よ!私は早く食べたいぞ!」
「まあ待てよラウラ、カマスは逃げたりしないさ」
「でも、本当に美味しそう⋯⋯⋯!」
「ハハハ、皆待ちきれないみたいだな。それじゃあ今日の大漁を祝って乾杯〜!」
「「「乾杯〜!!」」」
俺達は一斉にカマスを口の中に放り込む。
「美味しい!」
「塩加減が最高!」
「いや〜コレは釣った甲斐があったな!な、啓吾!」
「確かに旨いが干したカマスの塩焼きはもっとうまいぞ!」
「ほんと!?」
「ああ、今度簪達にもお裾分けしよう!」
「やった⋯⋯⋯!」
初めて会った頃の面影はもう残っていない。簪は心から嬉しそうに笑った。
「そういえばショウジンガニはどうしたの〜?」
「気になる?」
「気になるよ〜!」
「のほほんさんの蟹は⋯⋯⋯⋯じゃじゃ〜ん!」
「「おお〜!!」」
「塩ラーメンにしてみました〜!」
作り方は簡単、インスタントのラーメンに茹でた蟹を入れるだけである。しかしそれだけでーー
「かにの風味がきいてて美味しいな!」
「自分でもこんなに旨くいくとは思ってなかった⋯⋯⋯」
「でもなんだか申し訳ないな」
「⋯⋯⋯⋯?何がだ一夏?」
「だってさ俺達だけこんなに旨いもの食べてたら、今頃箒達はどうしてるんだろうな〜って⋯⋯⋯」
「別に気にすることはないと思うぞ?」
「⋯⋯⋯?どうしてーーー」
「一夏ー!!」
一夏が言いかけた時、後ろから声がかかる。それは箒達を始めとする何時ものメンバーの姿であった。
「ちょっと、何アンタ達だけ旨そうなの食べてんのよ!」
「そうだよー!ラウラもお兄ちゃんも居ないんだから心配したんだからね!」
「ほらな?」
「ああ⋯⋯⋯⋯確かに⋯⋯」
「それに七輪まで持ち出して⋯⋯私たちの分は残ってるんだろな?」
箒が嬉しそうに言った。
「ああ、ちゃんと心配しなくてもあるからーーー」
「お〜〜い、貴様ら〜〜〜」
「こ、この声は⋯⋯⋯⋯」
「勝手にバーベキューなんかしおって〜〜〜〜ヒック////」
「織斑先生⋯⋯⋯ってお酒臭いですわ!?」
なんの因果か千鳥足の千冬先生までやってきた。
「山田先生、何があったんですか?」
「あの〜⋯⋯⋯申し上げにくいんですけど」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯姉の不祥事ですのでお話しください」
「昨日、スポンサーの方と接待があって気に食わない事を言われたらしく⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯それで今日は飲み明かしたと⋯⋯⋯」
「なんだ〜〜〜一夏、お姉ちゃんに文句言うのか〜〜〜〜////」
「⋯⋯⋯⋯⋯いろいろとご免なさい///」
「まぁ大丈夫ですよ!私は織斑先生を部屋まで運ぶので⋯⋯⋯⋯お魚、残しておいて下さいね?」
「勿論ですよ⋯⋯⋯⋯ハァ」
「いろいろと苦労してるな一夏」
「なんだか今年に入ってから千冬姉の酒癖が悪くなったのは気のせいかな⋯⋯⋯⋯?」
「気のせい気のせい!⋯⋯⋯⋯じゃないか」
「「ハァ〜⋯⋯⋯」」
恐らく俺達二人の責任が大きいんだろうな⋯⋯⋯⋯。
とはいえ、この後山田先生も参加して、夜遅くまで大いに楽しんだのは言うまでもなく、次の日千冬先生をみかけた人物は誰一人居なかったとさ。
「言え!またお前は魚を釣りに行ってたな!」
「ちょ、ちょっと待て!今回は話を考える為にカマスを釣りに行ってたんだ!」
「そうなの?」
「ほほう、作者にしては中々殊勝な心がけじゃないか。それで何匹釣れたんだ?」
「その・・・・・2匹・・」
「やっぱりダメじゃないか(憤慨)」