「来週の水曜日、調理実習を行う!」
終礼の時間、千冬先生が開口一番に発した言葉にクラスの生徒全員が唖然とする。
「I Sのパイロットだからと言って、他の事を疎かにしてはいけない。よって諸君らにはグループを作って、己が得意とする料理を作って貰う!」
「あの、千冬ね⋯⋯⋯織斑先生!」
一夏が手を挙げて質問した。
「なんだ?」
「食材は何でも良いんですか?」
「うむ、食材の種類は問わない。己が持てる技量全てを使い調理に取りかかるべし。なお、私と山田先生が最も美味しいと思う料理を振る舞った者にはI S学園で使えるスイーツのフリーパス一週間分を進呈する!」
おそらく前回中止となったクラス対抗戦の埋め合わせであろう。先生の言葉に生徒達のテンションも上がった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯どうする啓吾?何を作ろう?」
「そうだな⋯⋯⋯⋯⋯最近魚ばかりだからな、それ以外で攻めてみよう」
俺の提案に一夏はおろか、魚で来ると思っていたクラス全員が驚く。
「まぁ、釣り好きの啓吾さんが魚に手を出さないなんて!」
「え⋯⋯⋯⋯⋯?それじゃあ、今回は肉で何か作るのか?」
「いや、別に魚介で作らないとは言ってないぜ?ま、来週何か取りに行こうよ」
「〜?ケイケイ、どういう事〜?」
(ほほう、啓吾の奴⋯⋯⋯⋯何か企んでるな?)
(先輩ってば今から楽しみなんでしょうね♪⋯⋯⋯⋯さてと、私も釣りバカコンビのお手並み拝見です!)
こうして各々が献立を考えている内に、あっという間に次の週へと移った。
〜学園埠頭前〜
俺と一夏、そしてもう一人のメンバーである『のほほんさん』は翌日へ迫った調理実習に向けて、とある食材を探していた。
「何時もオリムーとケイケイはここで釣りしてるの〜?」
「そうだけど、良いのか のほほんさん?本当なら仲のいいメンバーと組んだ方が楽しいだろうに」
「うん、スイーツを食べる為には二人と一緒の方が良いかな〜って。それにオリムー達とも仲いいよ?」
のほほんさん は不思議そうな顔をして一夏の質問に答える。
「まぁ良いじゃないか一夏。本人が楽しいって言ってるんだから」
「そうだよ〜!それにせっかくジャンケンで勝ち取ったポジションは大事にしないとね〜♪」
彼女の言う通り、実は誰が俺たちと組むかでジャンケンをしていたらしい。なるほど、それで彼女がこの枠にすっぽりと収まったのか。
「それで今日は何を釣るの〜?」
「魚はダメだって皆の前で言ったからな。今日は魚以外で簡単に穫れる『ショウジンガニ』を捕まえよう!」
「何それ〜?」
「ショウジンガニ⋯⋯⋯?聞いた事無いけど、『イソガニ』の仲間か?」
「まぁ比較的近い種類ではあるな。今回は『ひっこくり漁』に挑戦だ!」
「「ひっこくり漁?」」
〜ショウジンガニのひっこくり漁〜
ひっこくりとは元々、東伊豆発祥のカニを捕まえるための漁法だ。中をくりぬいた竿に糸を通して先端に輪をつくり、竿先につけたエサに誘われ出てきたカニをうまく輪の中に入れ、持ち手の部分の糸を引くことで輪っかに挟んで捕まえるんだ!中々説明が難しい漁法だが、仕掛け自体は簡単に作れるぞ!
「今回は仕掛けを作って来たから、三人で早速試してみよう!」
「楽しみ〜!」
「よし、やってみるか!」
〜10分後〜
「わ〜、穫れたよ〜!」
「こっちも穫れたぞ!中々デカいんじゃないか?」
始めてから間もない間に、二人とも立派なショウジンガニを捕まえていた。
「二人とも要領が良いな、中々ひっこくり漁のセンスが有るんじゃないか?」
「とっても楽しいもんね〜♪」
「ハハハ、楽しんでくれてる様子で何より⋯⋯⋯⋯⋯⋯お?」
和気あいあいと話していると俺は岩場に張り付く小さな生物を発見した。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯二人とも蟹取りを続けてくれ。俺はちょっと明日の食材をもう一品穫ってくる」
「もう一品?啓吾、一体何を穫ってくるつもりだ?」
「まぁまぁ、取り合えず30分後ここに集合しよう!」
「分かった〜。ケイケイも頑張ってね〜」
〜30分後〜
「ひぃ、ふぅ、みぃ、⋯⋯⋯⋯沢山穫れたんだな!」
「うん!オリムーと頑張ったの〜♪」
俺達が集合する頃には、二人は結構な数の蟹を捕って来てた。
「啓吾は何を穫って来たんだ?」
「ん、俺はコイツらをな⋯⋯⋯⋯」
「何それ〜?貝?」
「たしか⋯⋯⋯⋯⋯⋯『マツバガイ』だったか?」
そう、一夏の言った通り俺が穫って来たのは、テトラや岩場には必ず張り付いているであろう生物『マツバガイ』だった。
「コレでもう一品作るんだ〜」
「そう言う事!⋯⋯⋯⋯⋯よし、もう良い時間だし蟹を少し逃がして帰るか」
「え⋯⋯⋯⋯⋯⋯せっかく穫ったのに逃がしちゃうの〜?」
俺の言葉に のほほんさんが悲しそうに言った。
「のほほんさん、必要な分だけ穫れば良いんだよ。海は俺たちだけの物じゃないんだから」
「啓吾の言う通りだな。それに逃がした蟹がまた卵を産んで、来年も再来年もひっこくり漁を皆で楽しめたら良いじゃないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん、分かった。二人とも優しいんだね〜」
どうやら納得してくれたみたいだな。今日はもう切り上げて、俺たちは家路に付く事にした。
〜家庭科室〜
「それでは始め!」
調理実習当日、俺達は千冬先生の一言で早速調理に入る。
「それじゃあ二人とも、今回作る料理は覚えているな?」
「うん!『ショウジンガニの味噌汁』と〜」
「『マツバガイの炊き込み御飯』、だろ!」
「よろしい、それじゃ炊き込み御飯から作っていこうか」
〜磯遊びの友が大変身!マツバガイの炊き込み御飯〜
まず穫ってきたマツバガイをたわしで軽く両面こすり洗い、軽く塩茹でにし、すぐザルにあげる。すると貝殻から身がポロッと取れるから、ワタを切って捨てよう。この時、どんなに砂抜きしても内蔵は砂だらけで食べれたもんじゃないぞ。その後、水⋯醤油⋯砂糖で軽く煮て、自然に冷まして味をしみ込ませておこう。ここまでの行程を前日までに仕上げておこう。
最後に炊飯器でお米とマツバガイを煮汁ごと入れ、水を適量入れて炊いたら完成だ!
「じゃあ米が炊き終わるまでは」
「お味噌汁を作っていくね〜」
〜これぞ味噌汁の最終形態!ショウジンガニの味噌汁〜
作り方は簡単だよ〜。まずショウジンガニの甲羅は固いから丈夫な包丁で半分に切ってね。次に水から茹でて行き、丁寧にアクを取ろうね〜。出汁は蟹の身から十分過ぎるぐらい出るから何も入れなくていいよ〜。最後に、お味噌を少々とお好みでネギを入れて完成だよ〜!
磯の良い香りが食欲をそそる一品⋯⋯⋯⋯私も早く食べたいな〜!
「先生、出来ました!」
「炊き込み御飯と味噌汁の⋯⋯⋯⋯⋯」
「簡単漁師飯だよ〜!」
予想以上にシンプルな料理に先生は勿論、クラスメイトの目も丸くなる。
「これはまぁ⋯⋯⋯⋯⋯⋯何とシンプルな⋯⋯⋯」
(なるほど⋯⋯⋯⋯⋯⋯ショウジンガニですか。流石は金城くん達、良い所に目をつけましたね!)
「とりあえず織斑先生、いただきましょうか」
「う、うむ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯では一口」
味噌汁を口の中に入れた瞬間、先生達の目の色が変わる。どうやら悪い結果にはならなさそうだな。
(う⋯⋯⋯美味い!コレが味噌汁か!?)
(確かに美味しい、それに丁寧に灰汁抜きされた何処か上品な味⋯⋯⋯⋯⋯恐れ入りました。まさか調理実習でこんな物が食べれるなんて)
「美味しそう⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「あぁん!良いな〜先生達!」
美味しそうに食べる先生達の様子を見て、クラスメイトの皆が羨ましそうな目で見ているのが分かる。
(この炊き込み御飯も最高じゃないか⋯⋯⋯⋯⋯!クソ、何で此処に酒が無いんだ!?)
(アハハ⋯⋯⋯⋯⋯コレはもう決まりですね⋯⋯⋯⋯⋯)
自分で言うのも何だが、フリーパスは俺たちの物と成った。勿論、皆にも料理を振る舞って、その日のランチは豪華な物になったとさ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯でもどうして先生はセシリアの料理を食べて悶絶していたんだろう⋯⋯⋯?でもまぁ良いか!
「⋯⋯⋯⋯⋯ねえ、ケイケイ」
「うん?どうしたんだ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯また一緒にひっこくり漁、やろうね〜!」
「あぁ、約束だ!」
こうやって海の良さを知ってくれた友人が増えた訳だから!
「今回は番外編みたいだったな」
「たまに魚以外も書かないと自分で読んでて面白くないからね」
「そしていよいよ次回は僕と!」
「私も登場するぞ!」
「「「お楽しみに!」」」