END BLACK   作:ワークス

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episode.4 昇級演武開始

――――昇級演武とは、エンド・オールターは西方、ここカイル聖王国における全ての諍いを滅するため、受け継がれしものである。

力を推し量り、それを認め、己が道を決めるが良い。

 

…と受付にあったパンフレットに書いてあった。随分と大袈裟なものだ。

きっとこんなことを言っておきながら、管理する側がやりやすいように仕組みを作っただけだろう。

まあそのお陰で、無茶をするやつが減るのは事実だろう。

現にこうしてクロウも、襲われても反撃出来るほどの実力をつけることが出来たのだから。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

昇級演武。

自らの実力を指し示す《序列》を決定付ける大会だ。いや、催しと言った方がいいかもしれない。

会場に入ってから辺りの熱気がすでに高まっており、まるで名勝負を見た直後のようだった。現実でもこれほどに熱狂するものが果たしてあるだろうか。

 

謎の少女との遭遇からなんやかんやあり、クロウたちは今まさに催しが始まるのを待っていた。

リルカは最初の試合に出ると言うことで既に別れている。

きっと彼女のことだ、こちらを見つけたら手でも振ってくるだろう。クロウは返す気はなかったが。

 

「しっかし、久々に来たがここまで盛況してたとはな」

 

ガウストが懐かしそうに目を細めながら呟いた。

 

「昔は出てたのか?」

「魔法士や拳闘士になりてぇやつらは皆通る場所さ。序列に数えられもしねぇやつを金かけてまで雇う気になるか?」

「……なるほど」

 

ガウストもそうして生きてきたのだろう。

すると何故魔法士を引退したのか気になる。実際に指導を受けた身として、まだまだ活躍出来ると思えた。

だがガウストはそんな気持ちを読んだのか、視線を合わせようとしなかった。どうやらこれ以上は話す気はないらしい。

 

「ンなことよりも、もうすぐ来るんじゃねぇの?」

 

ティムの見る先には円柱を押し広げたかのような巨大な舞台。そしてその周りに大量の水が溜まっていた。

 

「お前らもルールは一緒だからな」

 

ガウストがさらに言葉を続けようとしたとき、

 

『お待たせしましたァ!!』

 

闘技場外にも響きそうな大音量で始まった実況。

 

『ただいまより年に二回の大勝負、《昇級演武》開幕です!!!』

 

ワアアアアッ! と歓声が一気に広まり、あっという間に会場中を包んだ。あまりの音量に思わず耳を塞ぐ。その途中で「喋ってたのに」と聞こえたのは、きっと気のせいだろう。

 

『演武のルールは簡単! 相手をノックアウトするか水に落としてしまえばOK! フィールドに最後の一人となったところで終了だ!』

「なるほど、確かに簡単だ」

「要は全員倒せってことだよな」

「そうだな」

 

ルール説明をきちんと理解し、ティムと頷き合った。もうガウストは放っておいた。

 

「だがそんだけじゃねぇ」

 

いつの間にか復活していた。

 

「どういうことだ?」

「相手を全部倒せりゃ確かにいいだろう。だが、重要なのは審査されてるってことだ。自身の実力を見せつけなけりゃ、最後の不意打ちで勝ったとしてもいいランクにはなれねぇ」

 

つまり、相手も倒しつつ自分のアピールもしなければならないと言うことらしい。

実に苦手な分野である。

主張することはあまり得意ではない。そのせいでああなっていたとも言えるかもしれないが。

 

「まあリルカなら大丈夫だろ」

「うん、何だかんだ言ってこういうの慣れてるだろうからね、一番」

 

三人の中で一番DCをやっていたのも彼女だ。それなりの表現の仕方や、こういうときの攻略法も頭に入っていることだろう。

 

『それではお待ちかね! 最初の試合です! 最初は《拳闘士》! 第一グループの登場です!』

 

高揚を誘う実況に促され、三人の視線はフィールドへと向けられた。

勢いよく噴射された白煙と共に選手たちが姿を現した。いかにもごつそうな男たちの中には小型の選手も混じっている。

リルカはそんな彼らの一番後ろにいた。赤い耳のようなリボンはとても目立ち、すぐに気付くことが出来た。

リルカも気付いたようで案の定大きく手を振ってきた。クロウは返さなかったが、律儀にティムは「おーい!」と手を振り返した。その様子をガウストがニヤニヤして見ていたが無視し、クロウは視線を他の選手に向けた。

筋肉の盛り上がった男たちは勿論のこと、細身の男も目つきが違って見えた。どうやら一筋縄では行かないようだ。

そしてそれは、リルカも感じていた。

 

(完全に舐め切ってるわね)

 

女はリルカのみで、残りは全て男だ。しかも、自身より体格が小さいともあれば簡単に捻り潰せると思うだろう。

だが、

 

(顧問も先輩も言ってた。見た目で判断するなって。さもないと――――)

 

選手たちの目が錯綜する。

 

『では試合、開始ッ!!』

 

高らかに宣言された合図に反応し、二人の男がリルカに向かって腕を振り上げ突進してきた。

眼前にまで拳が迫った瞬間、すれ違うように拳を突き出した。

瞬間的に間合いを詰めて放たれたその攻撃は相手よりも早く敵に届き、鳩尾にめり込んだ。

その体勢のまま左足を地面につけ、全力の回し蹴りを放った。それはもう一人の脇腹にヒットし、相手はくの字に曲がった。

 

「ぐふァッ!?」

 

一瞬にして吹き飛ばされ水へと落ちたその光景を目撃した者は、一斉にリルカへと顔を向けた。

大勢の注目を浴びながら、リルカは堂々たる姿で言い切ってみせた。

 

「痛い目、みるわよ?」

 

客席にいた二人の友人は暫し全身を震わせていたという。

 

 

 

 

十分もかからずして戦闘は終了した。

結果は、リルカの圧勝である。《逆鱗》を解放した後はもう誰も止められなかった。

床に転がる者、水中に投げ出された者。実にあっけない幕引きだった。

 

『つ、つ、強過ぎる! 何なんだ、この初顔(ニューフェイス)は!?』

「まあ、あいつだし」

「そうだね」

 

会場全体が騒然とする中、クロウとティムは至って平常である。

耐え切れずガウストが口にした。

 

「お前ら…あいつがあんなに凄いやつだって知ってたのか?」

「リルカ、オレらのとこじゃ国一番になれたかもしれない実力者だぜ?」

「リルカには喧嘩しようとするやつもいないよ、結果は見えてるからね」

 

しれっと答えたが、現に全国大会あと一歩というところまで行ったのだ。実力は折り紙つきだ。

そんなことを知る由もないガウストは混乱し出していた。

そこに、追い討ちがかかる。

 

『――――リルカ、ランク《大将》、序列五位』

 

一瞬の静寂が闘技場を支配する。

 

「国、一番、大将…俺らの国は…?」

「ガウスト?」

「待った、なんか勘違いしてる」

「え、おいガウスト! リルカはそういうヤバイことになるまでの力はねぇって!?」

 

その後混乱を極めたガウストは、リルカが戻ってくるまで続いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「全くもう、人が揉みくちゃにされたのを何とか抜け出して来たっていうのに」

「…面目無い」

「こんなガウスト初めて見た」

 

ぷんすかと頬を膨らませながらそっぽを向くリルカ。あれだけ暴れ回ったので相当質問攻めにあっただろう。自分なら耐えられない。

時間は少し過ぎていて、まもなく魔剣士部門の第四試合が終わろうとしていた。

剣を持った七名ほどが対峙している。

 

「ガウスト、大将っていうのはどのくらい凄いランクなんだ?」

 

ガウストを平常に戻すため質問する。すっかり萎れていたガウストは姿勢を直して向き直った。

 

「拳闘士ランクの二番目だ。実質権力者になったとも言える。拳闘士は上下関係が厳しいって聞くからな」

「え、じゃあリルカが命令したら、下位の人達は従うのか?」

「勿論、そこに信頼があってだ」

 

その言葉に胸を撫で下ろす。リルカの命令を絶対遵守などと言われてはほとほと困るところだった。

あの姿を見たあとということもあり、なるべく剃り合いたくない。

試合終了の合図が鳴り響き、すぐにランクの発表が行われた。

ランクを決定する《評議会》とやらは、分厚いマジックミラーに阻まれて視認出来ない。ただ淡々と告げられる結果発表には、どこか無機質さを感じさせた。

その後第五試合が始まった。ティムもようやく出場となり、魔剣を片手に大層暴れ回っている。

その中には、至って普通の剣を持って戦っている者もいた。

 

「魔剣士って、魔剣を持つ者だけを指すんじゃないんだな」

「ああ。魔力を持っていても魔法士ほどの力を出せなかったり、いい魔法具に出会えなかったりで魔剣士になるやつは多い。魔剣持ってるやつの方が少ないさ」

 

ずっと膨れていたリルカは少しこちらに顔を向けた。

 

「じゃあ、ティムってばレアなんだ」

「あいつ自身には魔力もある。まあクロウほどじゃねぇから、必然的に魔剣士になってたろうけどな」

「ふぅん…なるほど」

 

そう言って視線を落とす。

ティムの戦闘スタイルは、弱い相手には素手で、それ以外を剣で対応するという、まさしく二刀流だった。さらに驚いたことは、

 

「抜刀って…」

 

再会したときも気にはなっていたが、ティムは見た限りでは剣を持っているようには見えなかった。丸腰同然である。

しかし、思わぬところから彼の魔剣《十字の崩剣(マークティア)》が現れた。

左腰に手を当てるかの如く、袖口に右手を突っ込むと、そこから美しい銀色の刀身が姿を見せるのだ。

 

「敵を欺くにはいいところじゃねぇか。あの剣自体は普段柄だけの状態だしな」

「…上手く行けば、篭手にもなると?」

「そうだな」

 

そんなことは流石に無いだろう。

クロウが呆れている間に試合が終了し、ランク発表へと移った。

 

『ティムト、ランク《練魔剣士(れんまけんし)》、序列四位』

 

おお、と再び観客がどよめいた。

今回の初顔がいきなり上位に食い込み、その実力を惜しげも無く披露している。常連の出場者たちを出し抜き、ティムが今回の高位者として決定された。

 

「練魔剣士…上の中ぐらいだな」

「ティムも上々じゃないの」

「うん…次は僕か…」

 

よっぽど人数が多いのか、魔法士部門の試合は十以上行われる。クロウは二試合目だ。

 

「いってらっしゃい」

 

リルカが微笑みを向ける。

こうして面と向かって言われるのは久しぶりだ。

何だか少し気恥ずかしくなり、視線を逸らす。だが顔は向けたままで。

 

 

「……いってきます」

 

 

 

クロウの演武が、まもなく始まる。

 

 

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