END BLACK   作:ワークス

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遂に始まった昇級演武。
リルカやティムがその実力を発揮し、高位ランクに食い込んだ。
期待と不安を抱えながら、クロウの出番は間近に迫っていた。



episode.5 黒髪の少女

突然だが、クロウは運動が苦手だ。

具体的に言えば通知表で三や二を取るくらい。

リルカは当然満点の五、ティムも四以上は毎回取れているらしい。

 

そんな運動出来ないいかにも現代っ子のようなクロウが、猛者たちの集う昇級演武で好成績を得るには、本当に難題ばかりが積み重なった。

当初は魔法の使用だけでも全く体がついて行かなかった。

だがそこで一つのヒントを得た。

それからの伸びが、ガウストに太鼓判を押させる理由となる。

 

 

 

 

 

 

拳闘士や魔剣士と違い、魔法士には明確な点が二つある。

一つは、属性の相性で試合の優劣がかなりはっきりとついてしまうこと。

一つは、《魔法こそが絶対》という理念が根強くあるということ。

 

そこに、クロウの勝機がある。

 

 

本日何度も吐き出された白煙の中に、クロウはいた。

紺色のジャケットの裾が風圧ではためく。その左襟には深紅の輝きを放つ宝飾があった。

 

『続いて魔法士第二グループ! 喧噪の中を戦い抜くのは一体誰だ――ッ!!』

 

煙の間を縫って十人ほどの魔法士たちが姿を現した。その中にはクロウの姿もある。

決して目立つことが好きではない。むしろこの上なく嫌いなものだ。

それでも己の筋を通したいことだってある。

例えば、心を許した友達を失いたくないという我儘とか。

 

 

「あいつ…大丈夫かよ」

「はっは、心配ねぇさ。俺が太鼓判を押してやったんだからな」

「ぜんっぜん安心できないんだけど」

 

ガウストが快活に笑うが、リルカとティムには未だ不安が残っていた。

それもそうだ、二人と違って自己主張が特に嫌いなクロウが、仲間のいない人だかりの中心に立とうとしているのだ。心配にならないほうがおかしい。

そんな気持ちを知ってか知らずか、ガウストが首を傾げる。

 

「そんなに心配か?」

「だってあいつ目立つことが一番嫌いなんだよ? おまけにネガティブ」

 

リルカが口を尖らせる。

同時に白煙の中央に立つクロウを見下ろしながらティムが続けた。

 

「おまけに一番意地っ張りなんだよ」

「意地っ張り?」

 

ガウストが驚く。彼が見た限りではそんなようには見えなかったのだろう。

だがティムたちは知っている。

 

「まあ、意地っ張りじゃなかったら大会に出る気にもなってないか」

 

 

 

『それでは、試合――開始ッ!』

 

開始のゴングが鳴り響くと同時に、一人の魔法士が全範囲攻撃を放った。突然襲ってきた爆炎に、クロウは冷静に対処する。

 

(大丈夫。この魔法具を、この花を信じれば!)

 

瞬間、爆発に似た衝撃が会場全体を襲った。客席までも震動が伝わり、どよめきと煙が辺りを包む。

そのときには半数が衝撃で水に落ち敗北となっていた。残っている者は何らかの防御を行ったらしく、それでも完全に防ぎきれなかったようで僅かながらにダメージを負っている。

その中で、水色の光が一回、瞬いた。

 

(……いける。この花となら!)

 

煙が晴れるころ、クロウはそこに立っていた。開始時と全く変わらない、無傷の状態だ。

 

「何だと…!?」

 

開幕仕掛けた魔法士が驚愕の声を漏らす。

衝撃(インパクト)が起きた瞬間に何をしていたのか、それを知っているのはクロウと技を教えたガウストのみ。いきなりだったため奥の手を使ってしまったが、どうやらそれは誰にもバレなかったようだ。

想定外のことに敵は動揺を見せたが、すぐに別の詠唱を始めた。面食らっていた他の魔法士たちも立て続けに詠唱を開始する。

それでも慌てずに、クロウも動いた。

 

「――――行けっ!」

 

自分に言い聞かせるように短く放ち、走り出した。

同時に右手を左胸に翳し、魔力を流す。そこにあるブローチが爛々と輝きを放ち、小さな魔方陣を展開した。

自分の体が軽くなるのを感じてから、クロウは全力疾走を開始する。今までなら考えられないほどのスピードで地面を蹴る。風を切る音が微かに耳に届く。

漫画のような動きであっという間に敵の懐に潜り込んだクロウは、ブローチに更に意識を集中させ、力を開放する。

 

パアアアァァァッ! と光が分散し、凝縮する。ほんの一瞬の後、右手には蕾を付けた木蓮の杖(マグノスタニ)が握られていた。

 

「くそっ! 何なんだこいつ!」

 

悪態をつきながら迫られた魔法士は火球を放った。

かと思えば、その炎は突然掻き消える。

クロウが杖をバトンのように素早く一回転させ、シールドを生み出したのだ。

 

「なっ…!?」

 

魔法士が何度目かの驚愕を見せる。

その姿を視界に入れながら木蓮の杖を敵に向け、一つの魔方陣を展開する。

その魔方陣は傍から見ればまだ魔法を齧ったばかりの初心者が作れる簡素な魔方陣であり、危険度は殆ど感じない。何度か戦闘経験がある者だったら特に対処をすることもないだろう。

それは目の前の敵も同じようで、顔に微かな安堵を浮かべていた。

 

それこそが、クロウが狙っていたことなのだが。

 

「――《水戀(すいれん)》!」

 

瞬間、小規模の爆発が起きる。

簡素な魔方陣にそぐわない高威力の攻撃に意表を突かれた敵は、為す術もなくフィールドの外まで吹き飛ばされた。

続けてクロウは振り向きながら、魔方陣を離れた敵へといくつか飛ばした。

 

「《水戀・練武(すいれん れんぶ)》!」

 

放たれた魔方陣が爆発を起こし、的確に相手を外へと追いやる。

それを横目で確認しながら、クロウは更に動いていた。

 

(まだ六人残ってる。次は…)

 

慣れない運動をしながら、冷静に分析を行う。本来だったら考えられないことだが、今はそれを実現する術を身に着けていた。

修行の折に生み出した魔力の操作技術。ガウストから意識的に魔力の流れを操作するコツを聞き、自身の足りない運動能力を上げるための魔法を独自に編み出したのだ。

それが試合の最初に行使した魔法《強化(エンハンス)》、まだ魔法士たちが完全に会得し切れていない、能力強化の魔法である。

 

強化した脚力で高々と飛翔し、空中に三つの魔方陣を置いてくるように配置した。敵の位置を確認しながら着地し、魔法を放つ。

 

「《白陽驟雨(ミルキーウェル)》!」

 

配置された魔方陣から白い光を纏った雨が降り注ぎ、数名の魔法士をダウンさせた。

何とか攻撃を回避した魔法士がクロウ目掛けて魔法を放つ。今度は雷属性であり、水属性であるクロウには効果的である。

まあ、当たればの話だが。

 

「っ!」

 

クロウは雷に向けて杖を回転させる。

生み出されたシールドにぶつかった雷は、先程の炎と同じように掻き消えてしまった。

もうすっかり見慣れてしまった驚愕の表情に向けて爆発の魔方陣を飛ばし、クロウはようやく立ち止まった。

その時フィールドに立っていたのは、クロウのみ。

 

『…し、終了…! これはまた凄い新人が現れた! 一体、どのランクとなるか…!』

 

クロウの暴れっぷりに黙り込んでしまっていた実況が叫んだ。観客のどよめきが波のように広がっていった。

 

 

 

試合の行く末を黙って観戦していたティムたちは、二人揃ってあんぐりと口を開けていた。いや正確には開けんばかりに驚愕していた。

 

「は? 何あれ? あいつあんなキビキビ動けるような奴じゃないのに。体育とかいっつも成績悪かったのに。垂直飛びとかクロウ絶対無理でしょ」

「と言うかどうやって魔法を防いでんだ? 杖回したら魔法消えるのか? え…何か頭が追い付かねぇ」

 

周りの観客以上に混乱しているのは元のクロウを知っているこの二人だったりする。

ガウストがニカリと笑いながら何故か胸を張った。

 

「あいつの身体能力はあいつの魔法によるもんだ。魔力によって脚力とかを強化してるんだよ。タイク? ってのが何なのかは分かんねぇが、理屈はそういうことだ。あんな芸当すんなり出来る奴は今んとこクロウだけだな。あと、魔法を防いだのは木蓮の杖固有の能力だ。杖を回している間だけ、強固な防御壁を展開する。まあ範囲が杖の長さ分しかないけどな。――どうだ? 俺はあれをずっと使ってたんだぜ? 俺の凄さが分かったか?」

「「クロウ…凄い!」」

 

バッサリと両断され、ガウストが深く項垂れた。どや顔で解説をしていたとは思えないほどに情けない姿である。そしてティムたちは見向きもしない。

 

 

唐突に評議会の無機質な声が会場に響いた。どよめきが一瞬にして消え去り、皆がその声に耳を澄ませる。

 

『クロウタス、ランク《水四魔士(フォアクティ)》、序列一位』

 

 

一瞬の静寂が辺りを包んで。

 

ワアアアアッ!! と歓声が一気に広がった。ほかの魔法士たちの発表が聞こえなくなるほどだ。

 

「水四魔士……かなりの高位ランクだ。ティムより上だな」

「マジかよ……」

「凄いよクロウ!」

 

発表の内容に素直に驚きながら、客席からリルカが両手を大きく振った。それに気付いたクロウだが、逡巡したのちぷいっと別の方を向いてしまった。恐らくもう目立つのは御免だ、とでも考えているのだろう。その様子を見てティムは思う。

そしてクロウも思っていた。

 

「あいつ一体誰だ?」

「誰かの弟子とかじゃない? でないとあんな動き出来ないわ」

「んー、あの魔法具どっかで見たような…」

「最初にやってた大将の娘と仲間らしいぜ!」

「これは今後が期待出来るな!」

 

様々な観客の声が上がり、クロウに対するコールが沸き起こる。その中心にいることがもう耐えられず、俯いたまま出場者ゲートへと走っていった。

だが、逃げる中でクロウの頭には別のことが浮かんでいた。

 

(出来た。僕にも出来たんだ。何かを信じてやり遂げることが)

 

それはクロウにとって結果よりも大事なことだ。

自分の我儘を貫くために必要な力。

誰かを守るための、自らを信じてくれた友達を守るための力。

 

誰も見ていない入場者通路で、ひとり拳を握った。

 

 

「これでスタートラインなんだ。クロウタスとして、生きていくための」

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

もう二度と味わいたくない緊張感から一刻も早く離れるべく足早に観客席に向かっていたクロウは、その途中で目的の人々を見つけた。赤いリボンと染めたばかりの銀髪は紛うことなきリルカとティムのものである。どうやら戻ってくるのを先に待っていてくれたようだ。

途端機関銃のように向けられる注目を感じ、止まりかけた足を進めて二人の元へと駆け寄った。

 

「視線が怖い」

「開口一番それかよ」

「まあクロウらしいよね」

 

何気なく始まったその会話も、傍から見れば違ったものになる。

トンデモ無双を披露した大将のリルカ。

抜刀という珍しい戦法を見せた練魔剣士のティム。

そして《強化》と魔方陣による驚きの戦いを行った四水魔士のクロウ。

強者の部類に括られるランクを得た三人が仲睦まじく会話しているその様子は、ある種の驚きを秘めていた。

 

「よくやったぞクロウ! あの短期間でこれだけ強くなるとは思ってなかったがな」

「自分で修行に引っ張っていったのに…。でも、ありがとう。お陰で何とかなったよ」

 

すらりと口に出たお礼の言葉に、リルカとティムが硬直する。

もう何回思い出したか分からない以前のクロウと比較し、その成長ぶりを心から嚙み締める。

 

「ところで、四水魔士ってどのくらい凄いの?」

「ティム以上リルカ以下ってとこだな。普通の魔法士たちと比べたらお前が一番上だよ」

「う……」

 

正直あまり嬉しくない誉め言葉を頂く。目立つことはもうしたくないのだが。

 

「…………ふたりとも?」

 

ふと二人が黙っていることに気付きクロウが声をかける。

 

「「クロウ――――っ!!」」

「へっ、えっ、えぇっ!? 何で二人とも泣きながら抱きつくの? え、僕なんかした?」

「クロウ…いい子に育って…グス」

「リルカの子供じゃないんだけど」

「祝杯だ! こいつのために祝杯上げるぞ!」

「ガウストどうにかしてくれ」

「無理だ」

 

和気あいあいと盛り上がりいつの間にか更に注目を集める中、誰かがガウストの肩をポンと叩いた。

 

「盛り上がっているところ申し訳ないんだけど」

 

錯乱と言ってもいいほど暴走していた彼らの注目が彼の背後に立つ人物に向けられる。

そこに立っていたのは、見覚えのある黒髪の少女。

 

「あっ」

 

クロウが小さく声を上げる。

 

「ああ、何の用だ? ――――シャロン」

 

ガウストの問いに少女はふんと鼻を鳴らす。

 

「ガウストにはもういいわ。用があるのは、あんたよ。クロウタス」

 

初めて会った時のようにびしっと指をさす。自信に満ちたその笑みに、クロウは少したじろぐほかなかった。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

「――――本当にやるの?」

「勿論。あたしはあんたと勝負したい、それだけよ」

 

時は少し経って、クロウたちは会場の中庭に移動していた。

話しかけてきた黒髪の少女がクロウに一対一の模擬戦を申し込んできたのだ。

相手に強打、あるいは強めの魔法がヒットした時点で終了というシンプルな内容だったが、正直クロウは乗り気ではなかった。むしろ断ろうとした。戦ったばかりなのにまた戦わなければならないのかと愚痴を零そうとも思った。

しかし、ガウストの言葉でその考えは無に帰す。

 

『こいつは俺の弟子さ、お前とどれだけやりあえるか見てみたいもんだ』

 

そんなことを言われておいて拒否することは出来そうになかった。弟子ではないと反論すればいいのかとも思ったが、何より相手が好戦的であることが一番問題だった。つまり、師匠であるガウストが望み、片方がやる気満々である以上、断ることは出来なくなっていた。

渋々模擬戦を承諾し、場所を変えるために移動することになった。のだが。

 

『ガウストは試合でも見てたらいいじゃない。久しぶりでしょ? ここに来るの』

 

少女の言葉に従って、ガウストはこの後の試合を観戦するためにクロウたちと別れた。個人的にも他の魔法士たちが気になっていたようなので、そこは特に咎めなかった。

そして人気のないこの場所にやって来て、今に至る。

 

「そう言えば、まだ名乗ってなかったわね。あたしはシャーロット・クランツ。シャロンでいいわ。ランクは高雷魔士(エレキレス)の序列三位よ」

「エレキレス?」

「水属性で言ったらあんたの一つ上よ」

「えぇ…」

 

自分よりも高ランクの人が勝負を吹っかけてきた事実に項垂れたくなる。何故自分なんかに声をかけたのだろう。

顔に出さずに嫌な気持ちを表現する術を割と本気で考えだしたとき、また別の声が聞こえてきた。

 

「――あ、こんなところにいたんだ。噂は本当だったんだ」

 

声の方に向き直ると、フェンス越しに少女が立っていた。

透き通るような金髪に碧色の目。噂に聞く金髪碧眼というやつだ。緑を基調とした服に身を包み、丈の長いブーツを履いている。そして胸の方に目が行き――すぐに視線を逸らした。ばれないように逸らした。

 

「銀髪の君、どこ見てんの?」

「…はっ! あ、なんかつい」

「ティム……」

 

ティムもどうやら同じだったようだ。自分と違ってバレたようだが。

 

「高雷魔士のシャーロットさんでしょ? こんなところで会えるなんて」

「…確か、水四魔士序列一位のミッシェル・ボスコ、だったかしら」

「元一位ね」

「えっ、水四魔士って」

 

二人の会話にクロウが思わず声を上げる。

 

「クロウタスさんだっけ、君が一位になるまでは私が一位だったの。まあ評議会の決定は覆らないから仕方ないんだけど」

 

そう言って少し下を見せて苦笑いする。その様子にシャロンとは対照的な、優しい印象を抱いた。

 

「っていうかシャロンでいいわ。あと、噂って?」

「じゃあ私もミッシェルって呼んで。――水四魔士の一位になった魔法士が勝負を挑まれたって、ちょっとした騒ぎになっててね」

 

ミッシェルの言葉にクロウは更に項垂れる。

 

「もう目立ちたくない」

「クロウ……ドンマイ」

 

ティムが肩に手を置く。何の慰めにもならないが、少しだけ気分が晴れたような気がした。

 

「せっかくだから私も見学させてもらおうっと。二人とも頑張ってね」

 

そう言いながらミッシェルはフェンスの上をひらりと飛び越えリルカの隣に腰かけた。あまりに唐突だったが、その鮮やかな動きにリルカが歓声を上げる。

賑やかになった外野の声を聞きながら、クロウは視線をシャロンへと戻した。

シャロンもまたクロウへ視線を送る。その右手には、彼女の魔法具であるらしい指揮棒が握られていた。

クロウも左胸に手を翳し、木蓮の杖を起動させた。

 

「さぁて、始めましょうか」

 

シャロンの自信に溢れた笑みを静かに見つめ返す。

 

一陣の風が両者の間を吹き抜けて。

 

 

クロウとシャロンは一斉に動き出した。

 

 

 




この世界では序列がすべてを決めます。格差だったり、報酬額だったり。
何気なーく水四魔士とか大将とか取ってるクロウたちですが、実際は物凄く難しいことだったりします。
そういう設定です。

そして、やーっとシャロンとミッシェル出せました! これでクロウの周りには女子が三に…ゲフンゲフン
Twitterとかで容姿公開とか出来たらなーと考えています。そちらも宜しければどうぞ。

P.S. 新しく活動報告にて魔法士たちのランク表を載せました。
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