END BLACK   作:ワークス

7 / 8
順調に進んでゆく《昇級演武》。
その最中で挑戦を申し込まれたクロウ。
水四魔士序列二位のミッシェルが観戦に加わる中、黒髪の少女・シャーロットと一対一の戦いを行おうとしていた。



episode.6 指揮者

二人が一斉に動き出したのと同時に。

 

 

ドゴオオオォォン!! という盛大な爆発音が轟いた。それは会場からではなく、入口の方から聞こえてきた。クロウたちも動きを止め、その方向へ視線を向けた。

 

「何だ!?」

「爆発した!? 爆発したよ今!?」

「っ!?」

 

各々が驚きの声を上げる中、素早く現実に戻ったのはシャロンとミッシェルだった。

 

「この爆発、場外乱闘ってわけでもなさそうね。何者かがここに攻め入ってきた…」

「そうね。でもここからじゃ何も分からないわ。────シャロン」

「勿論」

 

経験の差故か、いち早く冷静になった二人は対処法を考え出す。

ようやく落ち着いてきたクロウはそんな様子の二人に目を見開く。

 

「二人共…何で、そんなに冷静でいられるんだ…?」

 

呆然と呟くその言葉は、平和を維持してきた日本で暮らしていたからこそ出てくるもの。

一世代前では戦争を行っていたかもしれないが、現代の若者であるクロウたちには遥かに縁遠く、想像出来ないものだった。

しかし、

 

「やらなきゃ殺られる。悪いやつが攻めてきてるのよ」

 

今いる世界は自然豊かな世界であっても、戦いの止まない動乱の世界でもある。

 

「戦わないでどうするの」

 

クロウたちが経験したことのない、戦争が続く世界。

それは、恐怖以外の何物でもなかった。

 

 

 

 

「────それだけの力がありながら戦うことを拒むなんてね。買い被り過ぎだったかしら」

 

戦意のない彼らを見てシャロンは呟く。

二人を見ると、既に彼女らはこちらを向いていなかった。

 

と、その時。

 

「いたぞ! 例の奴らだ!」

 

そんな叫び声と共に敵勢と思われる連中が建物の陰から群れを成して現れた。その手には魔法具や剣が握られており、明らかに戦闘態勢に入っていた。

 

「随分と侵攻が早いわね。これは油断してられないわ」

 

だが突然のことにもシャロンたちは毅然としている。堂々たる威厳をその背から放ちながら一歩踏み出して、

 

「待って」

 

不意に発せられたリルカの声に足を止めた。

 

「こいつらは、倒さないとどうなるの?」

「…そうね。きっとタダでは済まないわね」

 

揺るがない視線を向けられたミッシェルが答える。

 

「つまり、敵前逃亡なんて恥ずかしいことは出来ないってことね」

 

ぼそりと呟いた次にはリルカはもう動いていた。

一瞬のうちに踏み出したリルカは、勢いを増しながら右拳を強く握り、今まさに走り出そうとしていた男の懐に潜り込んで。

 

「《一の型・(あぎと)》!」

 

捻りを加えた拳が男の顔面を捉え、後ろにいた者たちを巻き込んで大きく吹き飛んだ。

奇襲返しをされた敵勢は暫し唖然としたが、すぐに魔法を使用しようと構えを取り始めた。

それを視認するより早く、リルカは両の手を伸ばした。ブレスレット状になったそれに意識を向けると、それはすぐに反応した。

途端両手首から魔力の風が発生したかと思えば、そこには彼女の生魔具《逆鱗》があった。

 

「《二の型・滝登(たきのぼり)》!」

 

流れるような動きで敵に接近すると、魔力を帯びたアッパーを繰り出した。周囲に風が起き、一人に向けられた攻撃は周りの敵を巻き込んだ。

そして、空中で姿勢を変え敵が密集した場所を視界に捉えて拳を振り上げる。

 

「《三の型・千鳥(ちどり)》!!」

 

落下の勢いをそのままに拳を振り下ろす。鳥が鳴くような風切り音と共に、拳は大きく地面を穿った。

 

「………すげぇ」

 

一瞬の内に起きたそれらを見たクロウたちは立ち尽くし、唯一ティムの呟きだけが零れた。改めてリルカと喧嘩することの恐怖を感じ取り、二人で身震いする。

 

「っ…! き、貴様…!」

「こいつ、滅茶苦茶強えぞ!」

 

相手も正気に戻ったらしく、漫画に出てくる取り巻きたちが発するようなセリフを言いながら、リルカを取り囲むように動き出した。

あっ、と声を出す前に隣にいたはずのティムが駆け出し、退路を塞ぎかけた敵を十字の崩剣(マークティア)で横薙ぎに振り払った。出来掛かっていた壁が情けない悲鳴と共に崩れる。

 

「ティム!」

「ここは俺たちに任せろ! それより中の様子を確かめて来い!」

「っ…!」

 

背を向けながら言い放った言葉に思わず口をつぐむ。言い返そうとしたが、続く言葉がそれを遮った。

 

「こうなったら何だってしてやろうぜ! お前だってそのためにそいつを選んだんだろ!」

「クロウ、自身持って! 大丈夫だよ!」

 

振り返らず叫ぶ二人の背中をクロウは見つめた。

二人だってさっきまで恐怖していたはずだ。未知の世界の諍いに巻き込まれて、命を張れなんて言われて。きっと今だって嫌だと思っているはずだ。

それなのに、二人は戦おうとしている。

 

「どうするの。友達は決めたみたいだけど、あんたはこのままでいるの?」

 

隣に歩み寄ったシャロンがじろりと睨み付ける。

反対側には何も言わず、だが真っ直ぐに見つめるミッシェルが。

 

この場にいる全員が心を決めている。決まっていないのはクロウただ一人。

 

(────怖い、けど)

 

クロウが魔法を覚えようと決めたのは、自分自身の我儘のためだ。

守りたい。ただそれだけ。

初めから覚悟は決まっていた。

 

視線に想いを乗せて、敵に囲まれている二人を見る。

顔は、笑っていた。

 

 

 

「──シャロン、ミッシェル。行こう」

 

フッとシャロンが笑った、気がした。

 

「ええ、さっさと片付けて、あんたとの勝負を再開させましょ!」

「えぇ……」

 

一気にやる気が失せるようなことは言わないでくれ。

内心そう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ボツェ・ドゥラスの中は、言うなれば凄惨たるものだった。

観客と参加者でごった返していた中は、逃げ惑う人々と追い立てる者とで混乱を極めていた。シャロンたちのようにすぐに切り替えられる者の方が少ないようだった。

 

「こんだけ派手に暴れてるなら、それなりの目的があるよね。ここは陽動で、本命は別にいるはずよ」

 

シャロンの冷静な分析が、改めて感じた恐怖を少しずつ落ち着かせていく。どうやらシャロンのことを、どこかで信頼出来ると認識しているようだ。でなければ、こんな気持ちにはならない。

 

「本命を探すにしても、ここで襲われている人たちを放っておくのか?」

「そんな訳ないでしょ。全員助けるわよ」

 

きっぱりと言い放ち、懐に仕舞っていた魔法具を取り出す。視線の先では火炎が一人の観客に襲い掛かろうとしていた。

 

「──《円舞曲(ワルツ)》」

 

指揮者のように構え、魔力を放つ。

指揮棒によって伝えられたそれは、火炎に触れると動きを止め別の動きを見せた。ぐにゃりと変形した炎は数体のドレスを纏った女性の姿になり、シャロンの周りを踊り始める。

炎を変形させられた魔法士はその光景に驚き、隙を見せる。シャロンはそれを見逃さず、指揮棒を振るった。

 

「踊れ!」

 

炎の貴婦人は魔法士に向かって突撃し、踊るかのように痛打を打ち込んだ。見た目からは想像出来ないインパクトが発生し、一撃で相手をダウンさせた。纏っている炎によるダメージも付加されているらしく服は焦げ付いている。

 

「ちっ、くそ!」

 

すかさず近くにいた水属性の魔法士が魔法を放とうとするが、その前に貴婦人による攻撃に襲われる。

その光景はさながら、舞踏会のように見えた。

 

「さすが高雷魔士(エレキレス)のシャーロット。聞いていた通り」

「聞いていた、って何を?」

 

クロウの隣で傍観しているミッシェルの言葉に首を傾げた。

 

「シャロンの魔法は、あらゆる魔法を操るの。操作する魔法を持っている人は他にもいるけど、魔力量が多くないと持続できないし高い威力も出せないくて、蚊の鳴くようなものになっちゃうの」

「だけどあの威力、ってことか」

 

それは確かに凄いことだ。

そしてそんな人から挑まれるのはやっぱり嫌だと思ってしまうが、取り敢えずその思考は放棄した。

 

「さて、私たちも援護に入りましょ。一人を消耗させる理由はないわ」

「……了解」

 

苦笑いにならないように注意しつつ、クロウは左胸のブローチに魔力を集中させながらミッシェルとは反対側に走り出した。

元水四魔士と言うくらいだ、きっとかなりの実力者なのだろう。そう思って視線を向ける。

すると、意外なことに魔法具を手に持っていなかった。魔法具を通じて魔法を行使するため、手に持つか身に付けていなければ魔法は使えない。

ではどこに、と魔力を高めつつ視線を動かすと。

 

「始めましょう」

 

左手を頭の後ろ──団子状に纏めた髪に差してある簪に伸ばしていた。鮮やかな緋色の宝飾が輝きながら魔力を湛え、正面に突き出した右手の前で半透明の泡を生み出した。

まるでシャボン玉のように右手から泡を吹き出し、ぽぽぽぽ、とシャロンが戦う場所の上空に飛んでいく。そしてミッシェルはサッと手を振り払いながら叫ぶ。

 

「《雫・氷柱落(しずく ツララオ)トシ》」

 

瞬間泡が破裂と同時に氷結し、無数の氷柱へと変化し敵の頭上に降り注いだ。

突然の攻撃に身を引きかけた敵勢をシャロンが素早く囲い込み、退路を塞ぐ。何の打ち合わせもしていないにも関わらず、見事な連携だ。そして二人の視線が向けられているのを感じながら、自身に《強化(エンハンス)》。

力強さを増した脚力で一気に距離を詰め、敵の周囲に木蓮の杖の魔法石部分をカンッと付ける。木蓮の杖を通じて地面に残されたクロウの魔力は魔法陣へと変換し、展開される。たちまち四つの魔法陣が円のように描かれた。

 

「《水流円蓋(アクアドーム)》!」

 

水の渦がドーム状に膨れ上がり、敵は水中で互いにぶつかり合い弾けた。

ドサッと地面に伸びた敵を横目で確認しつつ、襲われていた観客に駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

助けられた観客の少年は小さく頭を下げると、立ち上がって出口の方に逃げていった。そちらの方では親と思しき女性が手招きしながら少年の名を呼んでいた。

それらを見届ける前に向き直り、小さく被りを振った。

 

「…さっきの二人の攻撃、近くで見てても凄いと思ったよ」

「そう? そう言えばどんな魔法かとか話してなかったわね」

 

共闘するには知るべきと、仕舞いかけていた指揮棒を目の前に出した。

 

「これがあたしの魔法具《指揮する雫(シアンタクト)》。あたしの《指揮者(コンダクター)》にぴったりでしょ」

 

そう言って自慢げに胸を張ってくるが、コンダクターという言葉に首を傾げ聞き返す。

 

「コンダクターって?」

「あたしの魔法。人の魔法を操れるのよ。人自体は操れないし、あたしより強いやつの魔法も操れないんだけど」

「……成程」

 

思ったよりも制限のかかる魔法らしい。だがミッシェルも言っていた、制限を気にしないでも良いほどの実力をシャロンは持っている。

だからこそ高雷魔士たるのだろう。

 

「そういやあんたの魔法のことも聞いてなかったわね」

「見たんじゃないのか」

「見ただけじゃ分からないこともあるのよ。どうせ後で勝負するんだし、あたしも話したんだから言いなさいよ」

「えぇ……」

 

後半についてはそうだね、と頷きたくない。元はと言えばシャロンとガウストが原因で──

 

「あ」

 

唐突に出た大きな声に二人はビクリとした。

 

「そうだ、ガウストのこと忘れてた! 元魔法士って言っても今は魔法使えないから…どうしよう、逃げてるかな…」

 

何ともふしだらな人ではあるが恩人であり師でもある。無事を確認するぐらいはしないと、焦りが募ってきたクロウの気は落ち着きそうになかった。

そのせいで、一瞬だけ違ったミッシェルの様子に気付くことはなかった。

 

「あいつ…あたしも忘れてたわ。まあほっといてもいいと思うけど?」

「それは、だめだ。二人はこの辺にいて。僕はちょっと客席を見てくる」

「え、ちょっ、クロウ!」

 

呼び止める前に駆け出したクロウの姿はあっという間に小さくなった。

 

「そんなに心配しなくてもいいと思うけどなぁ…」

「……きっと、色々あるんでしょう」

「? まあそうね。大概の奴らはクロウ一人でも対処出来そうだし、あたしたちはここらの敵を一掃しちゃいましょ」

 

クロウが消えた角や反対側からまた敵の姿がちらほらと見え始めた。

小さくため息をついた後、それぞれの方向へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

一つ目の曲がり角を駆け抜けて、《強化》を発動させた。

階段まで約五十メートルの通路を全速力で走る。

同時に途中にいる敵に魔法陣を放ち、叫ぶ。

 

「《水戀・練武》!」

 

流れるような動きで以上のことをやってのけ、止まることなくクロウは振り返らず直進した。

傍から見れば実力者のそれと何ら遜色ない行為を周囲に見せつけていたが、そんなことはどうでも良く。クロウは客席に続く階段を駆け上がった。

以前ならこの時点で息が上がっているが、《強化》しているためその心配もない。他者に付与出来ないのが難点だが、それでもアドバンテージがあるのは確かだ。

 

薄暗い場内からようやく抜け出し、クロウは目的地に辿り着いた。素早く辺りを見回し状況を確認する。

辺りの様子にクロウは息を飲んだ。

あちこちに抗争した跡が残り、煙が未だ立ち上っている。嫌に媚り付く臭いがどうやっても血を連想させた。

その合間を縫った先に、探し人を見つけた。

 

「ガウスト!」

 

クロウの声にぴくりと反応し、こちらに振り返った。遠目では無傷のように見えるが、近付いてみないと何とも言えない。

 

「おお、クロウ! 無事だったか! ティムたちはどうした!」

 

クロウと同じぐらいの声量で返答が返ってきた。こちらは大丈夫だと言わんばかりに腕をぶんぶんと振り回している。

その様子にようやくほっとし、叫び返した。

 

「襲ってきた人たちと戦ってる! 僕はガウストの様子を見に来た!」

「悪いな、ちょっと立て込んでてよ! こっちまで来てくれ!」

 

そう言って物陰に引っ込んでしまった。

理由を聞く前にいなくなってしまったので、仕方無しとため息をついてから、丈夫そうな場所を選んでひび割れた客席を渡る。

ガウストが引っ込んだ物陰へと警戒をしつつ近付くと、そこには

 

「おお! さっきの水四魔士! 助けに来てくれたのか!」

「助かったー!」

「怖かったよー!」

 

逃げ遅れたと思しき人々が数人、身を寄せ合っていた。大人や子供たちがしきりに感謝を告げてくる中、小さな動物を抱いた少女が目に留まった。

他の人とは違う雰囲気を放っており、その違和感が何だか気になった。

 

「クロウ、中の様子は」

「…あ、シャロンたちがきっと沢山倒してると思う。今なら逃げられるかも知れない」

「よし。オレはこいつらを連れて避難する。お前はシャロンに伝言を頼まれてくれ」

「僕が?」

 

嫌そうな顔を咄嗟に隠し切れず、ガウストが苦笑いする。

 

「今のオレは戦えないからな。シャロンなら任せて大丈夫だ────あと、こいつも連れてってくれ」

 

ガウストは振り返ると、避難者たちに向けて手招きした。

殆どの者がきょとんとしている中、一人が立ち上がってガウストの隣まで歩み出てくる。

それは、先程気になった少女だった。

 

「オレのお墨付きだ。きっと頼りになる──な? エルシャ」

 

ガウストが自信満々に少女、エルシャの背中を叩く。

戸惑う様子を見せる彼女は、クロウに向き直りぺこりとお辞儀をした。

 

「ちょっと怖いけど、頑張ります。よろしくお願いします、クロウタスさん」

 

 

──何だか妙なことになったなぁ……。

急展開の現実と新たに加わった少女を見て、そんなことを思うクロウだった。

 

 




余談。
ネガティブボーイだってちゃんと自分の意思は持ってると思うんです。それが他人から見たら捻くれてたりするだけだと思うんです。

余談の余談。
サボっててすんませんでした!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。