やたらと穏便に話が進みますが、大前提としてこのアインズ様が総力上げて絶対殺すって言ってたのはシャルティア洗脳した奴に対してと言う事でどうぞ。
コキュートスも死んでなかったからセーフだって…(裏声
静寂…
あの全てを飲み込んだ闘気の大渦が吹き抜けた後、クロコダインは渾身の獣王激烈掌を放った両腕の激痛という余韻を残しながら、ゆっくりと歩を進める。
「………」
凡そ前方30メートル、その視線の先には天を仰ぐ様、倒れ伏した満身創痍のコキュートスの姿があった。
そして、クロコダイン自身も負けず劣らずその姿は満身創痍であったが、見下ろす者と見上げる者、それは余りにも解りやすく2人の闘いの結果を現していた。
「……勝負ありだな…」
「…見事ダ…獣王…我モ、戦エルダケ戦ッタ…無念デハアレド、悔イハ…無イ…」
コキュートスの言葉に嘘は無い。自慢の外殻はひび割れ、折れていた腕は千切れ飛び、他の腕も歪に曲がりながらもしかし、その全ての腕は最後まで決して手にした武器を放す事は無かった。
敗者であるコキュートスのその姿に勝者となったクロコダインはある種の感動を覚えずにはいられなかった…己が打倒した漢が本当の武人である事が心の底から誇らしかった。
「ありがとう、誉れだ…コキュートスよ。」
2人の間には奇妙な事に、確かに友情の様な物があった…
心地よい沈黙が場を満たす。
しかし…そんな2人の間に介入してきた者達が居た。
何の前触れも無く、まさに突然に気が付けばクロコダインの目の前には2人の少女が武器を構えた戦闘体勢で立ちふさがっている。
「そこまで。」
「で、ありんす。」
赤い鎧を纏い、奇妙な形の槍を手にした吸血鬼、シャルティア。
鞭を握りしめ、身体にフィットした少年用の服を着たダークエルフの少女アウラ。
クロコダインにはこの突然の光景に思い当たる節があった。ユグドラシルの魔法の一つ『時間停止』を使われたのだろう。
クロコダインは同レベル帯のマジックキャスターが使用する時間停止に対して対抗するスキルを持ってはいなかった。その為に時が止まっている間に転移で現れたであろう事は予想でしか無かったが、半ば確信があった。
「大丈夫?コキュートス。」
コキュートスの隣に転移をした少女の恰好をしたダークエルフの少年マーレが、早速コキュートスに対し魔法での治癒を行い始める。
そして、その直ぐ側には、一際存在感を放つ存在、アインズ・ウール・ゴウンが鎧を纏ったアルベドとデミウルゴス、パンドラズアクターを護衛に付ける様な形で倒れ伏したコキュートスを見下ろしていた。
「…ア…インズ様…申シ訳…」
「…よい、良く闘った、今は傷を癒やせ。」
労う様な声色でコキュートスの謝罪を遮り、アインズが合図として軽く手を振るとマーレとパンドラズアクターがコキュートスを担ぎ、ゲートにより転移を行う。
その様子を見送り、ようやくアインズはゆっくりと振り返り、その眼窟に赤い炎を宿らせクロコダインを睨み付ける。
「…さて、先ずは自己紹介と行こうか。初めまして、獣王クロコダイン、私がコキュートスの主、アインズ・ウール・ゴウンだ。……やってくれたな…」
アインズのその言葉にこの場に残っている守護者一同が微かに動く。それは合図一つでいつでも攻撃に移れる体勢に移行したと言う事だ。
双方に緊張が走る…とは言え、既にコキュートスと闘う事を選んだ時点でクロコダインはある意味で完全に開き直っていた。
「一つ聞かせて貰えるか?アインズ・ウール・ゴウン。俺の知るナザリック地下大墳墓とその名、アインズ・ウール・ゴウンは少なくとも特定の個人を指す物では無かった筈だ。それを名乗るお前は一体何者だ?」
クロコダインのその問い掛けに最も大きな反応を見せたのは各守護者達だろう。当然だ、アインズが己のギルドの名を名乗り始めたのはつい最近、この地に転移してから以降である。それを当然の如く一番に問い掛けられると言う事はクロコダインがギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウンのことを本当に知っていると言う事に他ならないのだから。
「フム…その問いかけが出ると言う事は、お前自身プレイヤーで間違いなさそうだな。」
「それがユグドラシルのというのであれば答えはYESだが…俺の質問の答えになっていないぞ、アインズ・ウール・ゴウン。」
言って、クロコダインは軽くフンと鼻で笑う。アインズの問いかけから逆説的にアインズも自分と同じ様な状況なのだと言う事が伝わってきたのだ。それはつまり、目の前のオーバーロードも中身は日本人だと言う事…それを考えれば少々緊張感に欠けるがこの数奇な巡り合わせには奇妙な物だと笑いも溢れるという物だ…
それはどうやらアインズも同じであった。
「それは失礼した、確かにお前の指摘した通り、このアインズ・ウール・ゴウンの名は元々我がギルドの名前だった。私自身はかつて“モモンガ”という名でね…アインズ・ウール・ゴウンのギルド長だったのだが、この世界に転移してから現在、思う所有ってアインズと名乗っている。」
どこか戯ける様にそこまで言って、アインズが片手を上げる所作を行うと同時、クロコダインに対し、各守護者達がいつでも攻撃に移れる様な体勢で包囲する。
「これは一体何の真似だ?」
「そちらの質問には答えた、よって次はこちらの番だろう?先日、我が配下のシャルティアがワールドアイテムによる精神支配を受けた。率直に聞く。獣王クロコダイン、お前もしくはお前の仲間の仕業か?」
「全く知らん話だな。」
即答である。実際クロコダインは無関係の話なのだから当然だ。アインズもクロコダインが件の犯人だとはもう思っていない。だが、その言葉を聞いてアインズは安堵したのも確かであった、ここで「その通りだ。」等と答えられていれば直ぐさま戦闘となっていただろう。
「…だろうな、それでは続けて次の質問だ。見た所今は1人のようだがお前にはPL、もしくはNPCの仲間は居ないのか?」
続けてのアインズの問い掛けこそ現状のアインズにとっての本命だ。
「答えるのは構わんが、次は俺の番だろうに…まぁいい、転移してきたのは俺1人、そもそも俺のギルドは過疎化のせいで最早俺1人だけだったしな。NPCは一匹、魔法の筒に入れて持っていたガルーダだけだ。今は上に居る…来いッ!!」
上空を見上げながら言ったクロコダインに対して、アインズも同様に視線を上空に向けると真っ直ぐにこちらに向かって大型の鳥が滑空してきていた。
周囲が動こうとするのをアインズが停止命令を出すその最中、降下してきたガルーダはそのままクロコダインの頭上に停滞すると『大回復』の魔法でクロコダインに治癒を施したのだった。
「…成る程、私と似た様な境遇という訳か…」
「何?」
それは、この世界に転移したと言う事も、ギルドにて最後のメンバーとして孤独な闘いを続けていたであろう事も両方だった。
クロコダインの疑問の声にアインズはゆっくりと顔を横に数度振るうだけだった。其処は触れてくれるなと言わんばかりに…
「しかし、随分と簡単に信じるな…勝手な印象だが、お前ならもっと疑ってくるかと思っていた。」
「あぁ…それはな、仮にお前の仲間が居たとして、この状況で動かないなどと言う事は有り得まい?こちらとしても最大限の警戒を行っている現状、理屈で考えれば恐らくお前の言葉に嘘は無い、違うか?ついでに言えば、私の予測が外れていたとしても仲間の窮地において隠れたままの存在など、それこそ恐るるに足らん。」
アインズの言葉には仲間に対する己のスタンスがありありと出ていた。それはクロコダインにとっても好ましい考えだ。
「道理だな…それで、アインズ・ウール・ゴウン。約束は守って貰えるのだろうな?」
未だ、緊迫した雰囲気ではあるが互いに幾つか言葉を交わした、クロコダインとアインズの中には既に互いへの一定の理解があった…
「あぁ、私も仲間達の名において誓った約束事を反故にする様な真似はしない。それよりももう一つ聞きたい、こちらの戦力を見ていただろうに…何故、またリザードマン達等の為に我々に敵対した?私がその気になれば確実にお前は死ぬ。それが解らない訳では無いだろう?」
「…一宿一飯の恩義のある者達が、理不尽な暴力に晒されようというのだ…退く訳にはゆくまいよ。」
正直言って、心底クロコダインの行動が理解出来ない、と思っていたアインズであったがあっさりと返ってきたクロコダインのその返答に、かつて仲間であるたっち・みーが語った「困っている人が居たら、助けるのは当たり前!!」という言葉をまたしてもふと思い出していた。
まぁ、それでもやはり自ら死地に飛び込むその感性は、到底理解は出来なかったが…
「……正直に言えば敗北を認めるというのは業腹ではあるのだがね…賠償の件もある、明日の正午、彼等の集落に再び伺おう。それが終わればクロコダイン、一度お前をナザリックに招待したいと思う。同胞として互いにせねばならない話も山とあるだろうしな…」
「そう言えばナザリック地下大墳墓と言えばユグドラシルのプレイヤー間でも難攻不落として名を馳せていたな。了解した。俺としても元々、当初の目的の一つは他のプレイヤーを探す事だったからな。」
話の大筋が纏まった所で双方がゆっくりと手を差し出すが同時にその手を止め、お互いに手を引いた。
何のことは無い…互いに握手を交わすなら、明日の相応しい場であるべきだろうと思い立っただけだ。
「…それではな…帰還するぞ!」
『はっ!!』
アインズの命令にナザリック一同がそろって答えるとゲートによる転移が行われた。
それを見送って、ガルーダを除けば1人になった所でクロコダインはようやく深く溜息を漏らす…
(流石に、肝が冷えたな…)
グレイトアックスを大地に突き立て、力を抜くとドサリと倒れ込む様に腰を落とす。実際、コキュートスとの闘いもギリギリだった…もう二度とあんな闘いはごめんだと思う反面、全ての力を解放して全力で闘う事の喜びを覚えてしまったのもまた確かだ。
度し難いこの性は、果たして自分が生来持っていた物なのだろうか?それとも…
「クロコダイーーーン!!」
「クロコダインッ!!」
「クロコダインーーー!!」
そんな詮無き事をボンヤリ思考していたクロコダインの元に、全ての動けるリザードマン達が駆け寄ってきていた。
全てのリザードマン達のその晴れやかな笑顔を見れば、クロコダインも自分が勝ち取った物の大きさを改めて実感する…
(後は明日、アインズ・ウール・ゴウンがどう出るか…だな…)
“ビーストロード”クロコダイン、その伝説を語る上で、決して外す事の出来ない一戦は、こうして決着と相成ったのである…
ワニ「話してみたら案外普通に話通じたでござる。」
「夜空の星が輝く影で
悪(ワル)の笑いがこだまする。
村から村に泣くトカゲの
涙背負って荒野の始末
“獣王会心クロコダイン”
お呼びとあらば、即参上!」
次話、情け無用のJ9なので9日後位かな。